著者
入子 文子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

19世紀の作家の例に漏れず、ホーソーンが歴史家顔負けの第一史料の読み手であったことは、コラカチオを初めとするニュー・ヒストリシズムの批評家たちも指摘する所である。17世紀アメリカを舞台とする『緋文字』においても歴史的解釈は盛んである。けれども従来の歴史的批評には(1)アメリカ性の強調は顕著だが英国への目配りが欠けている。(2)歴史的観点とはいえ、政治や宗教など理論に偏り、具体的事物である文化表象は等閑視されている。これではテクストの正確な読みはできない。当研究は、「楽しいイングランド」をひきずった「イギリス生まれの」「イギリス人」からなる、『緋文字』第一世代のピューリタンたちの持ち込んだ17世紀英国の豊かな文化表象に焦点を当てた。またアメリカの都市の歴史をヨーロッパの都市とのつながりで見ることにより、『緋文宇』解釈にこれまで気づかなかった一側面を強く意識するに至り、筆者のこれまでの研究を同じ方向へ、さらに深く進展させることとなった。特にルネッサンス人を惹きつけてやまなかった古典的<メランコリー>の図像を主要登場人物に見ることで、従来のピューリタニズム一辺倒では読みとれなかった「黒」に、新しい意味のベクトルをひらいた。従来の研究に当該研究成果を加えて『緋文字』論を世に出すことが残されている。今後は『緋文字』以後のロマンスへと研究対象を広げる。読みの方法も基本的には同じだが、イギリスだけでなくより広範な地域の文化表象に目配りし、ホーソーン言うところの「ロマンス」の本質を明らかにし、ホーソーンの望む読み手となることを目指すことになろう。
著者
川田 敬一
出版者
京都産業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

(1)新たに調査・収集した国立国会図書館・国立公文書館・宮内庁の資料を利用し、日本国憲法の成立過程における皇室経済関係論議から、天皇の地位や皇室と国家との関係を明らかにした。憲法制定過程の日米交渉で、皇室財産の縮小を最大のねらいとした総司令部に対して、日本側は少しでも皇室に財産を残すための法的根拠を必要とした。特に、皇室の世襲財産の法的性格やそこからの収益、皇室財産の透明性について、活発に議論された。結局、私的な世襲財産のことを明文化せずに、全ての皇室財産を国家に帰属させ、天皇に若干の私的財産を残すことにより、将来に向けて私的財産の蓄積を可能にしたのである。(2)皇室経費は、毎年、国家予算に計上したうえで皇室に支弁されている。そこで、皇室経費と国家財政との関係を明らかにする第一歩として、国家財政の在り方について、法的側面から明確にした。財政は、国民の代表である国会のコントロールを受ける(財政民主主義)ことから、また政教分離との関係からも、国家・国民と皇室との関係を究明するために重要な要素である。(3)君主をめぐる政治と制度の観点から、明治維新から戦後の講和独立までの皇室財産について、従来の研究成果および英国で収集した資料・書籍を利用して考察を深めた。明治20年代までは、伊藤博文が中心となって皇室財産の基礎を構築したのであるが、これは、中央集権国家の構築を目指した新政府が、議会や世論に対抗するという側面もあった。ついで、元老、枢密院、宮内省等が皇室財産を充実させ、それを確固たるものにするために制度化し、優良な土地や証券などを皇室財産とした。しかし、戦後、巨大になった皇室財産は凍結・解体され、現在のように再編された。つまり、天皇の好むと好まざるとに関わらず、皇室財産には政治的な力学が働いたのである。なお、英国王室との比較も試みた。
著者
小笠原 道雄 国安 愛子 関谷 融
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、フレーベルの晩年の主著でもあり、極めて独創性の強い家庭育児書でもある『母の歌と愛撫の歌』(1844年)の曲、つまり、ローベルト・コール(Robert Kohl,1813〜81)作曲によるオリジナル(原曲)版「遊戯の歌」50曲の成立を考察し、それとの関係でa)フランス版(1861)b)イギリス版(1895)c)アメリカ版(1906)d)日本版(1934,1981)の比較考察をおこない、本書の特色を明らかにすることにある。その際、作曲者の略歴をみる必要がある。作曲者ローベルト・コールは当時カイルハウ学園の教師としてフレーベルの協力 者であった。彼はアルテンブルクの聖歌隊指揮者の息子として生まれ、1834年神学を学ぶためライプチヒ大学に入学、そのかたわら熱心に音楽を研究した。その後1838年牧師となる試験に合格の後、1839年から45年までカイルハウ学園で宗教教授および音楽の教師として活動し、学園の生徒たちの人望をえた。この略歴からもうかがえるように、コールは専門の作曲家ではなく、『母の歌と愛撫の歌』を「きわめて道楽趣味的(dilettantische)に作曲した」ようである。(参照F・Seidel編『母の歌と愛撫の歌』1883年、5版、S.208)。絵画家のウンゲルと共に学園の教師達が共に協力して本書を作成した点は、高く評価されるが、「曲」そのものについての評価については問題なしとはしない。フレーベルの希望でもあったが、メロディーは子ども達が「歌うための歌」としての性格を堅持している。従って、本書が各国版として普及する際、自由に編曲され(むしろその国独自に、子供の活動をうながすものとして)、コールの原曲とは全く無関係に改編されることになった。換言すれば、コールが専門の作曲家でなかったが故に、本書は各国版において、とりわけ1860〜80年代にかけて、各国の「子どものうた」(Kinderlied)の影響を受け、編曲されることになった。
著者
沢村 一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.216-224, 1981-05-15

R.Montagueは自然言語(英語)に現れるさまざまな種類の内包的な語法を一つの形式的体系の中に取り入れるために一種の高階の様相論理である内包論理を展開した.この内包論理はまた言語としてのプログラミング言語に現れる内包性の問題をも解決することができる.これまで様相論理に含まれるが概念とプログラムについて議論するさいに起る概念との間には意味論的および統語論的な両方の観点から密接な対応が存在するという理由で様相論理がプログラムの論証に対して適用されてきたが この能力のゆえに内包論理の一般的枠組はプログラムの論理を考えるさいに様相論理よりもより十分な表現能力を提供している.本文ではプログラミング言語の内包性にのみ注目して最初に 内包性の問題を解くために必要な言語要素を付加された内包論理について述べ 次にこの論理を基礎として Hoare論理の関数的変形となっている内包的Hoare論理(IHL)を形式化する.内包的Hoare論理は単にHoare論理の表現力に富んだ別形としてだけではなく これまで提案されてきたいろいろな算法論理とさらにはプログラミング言語と自然言語の双方に対する統一的な論理体系の可能な一つの形体であると考えられる.
著者
山本 成生
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究は、北フランスのカンブレー大聖堂の聖歌隊を素材として取り上げ、音楽史上「ルネサンス」期と称される15、16世紀の西欧世界における、音楽家の社会的身分のあり方とその組織構造の解明を目的とするものである。昨年度、私は特別研究員奨励費を使用して、上記の教会関連の史料が保存されているフランスのノール県立文書館ならびにカンブレー市立図書館で約一ヶ月間、調査を行った。本年度は、その際デジタル・カメラにて複製した史料の分析を行いつつ、そこで得られた成果を学術論文として発表することに専念した。その結果、計三本の研究成果を得た(以下の記述は裏面の「11.研究発表」に基づく)。最初の論文は、「少年聖歌隊教師」というカンブレー大聖堂の音楽生活において重要な役割を担っていた職務について論じたものであり、在職した人物の活動や就任過程を検討することで、同教会の雇用戦略は15世紀末にひとつの転換を迎えることを明らかにした。二つ目は、研究史上カンブレー大聖堂との密接な関係が指摘されるローマ教皇庁の聖歌隊との人的交流を扱ったものである。そこでは、先行研究によってやや誇張されていた両者の関係に修正を加えつつ、この二つの機関を往来していた音楽家に関して類型化が行われ、前述の研究課題に対する寄与がなされている。そして最後の論文は、こうした研究を行う上での基本的な史料であるものの、それ自体としては看過されてきた聖歌隊の会計記録を財政史的側面より再検討し、聖歌隊の財務構造の変容を追ったものである。前年度ならびに以上の成果から、私はカンブレー大聖堂の聖歌隊の組織構造と当時の音楽家一般の社会的身分に関して、従来の研究ににない新しい見解を提示しつつある。むろん、他の音楽機関の比較検討など、なお課題は多い。今回の特別研究員としての研究期間は本年度をもって終了するが、今後もこの課題に取り組んでゆくつもりである。
著者
安永 一典
出版者
宝塚造形芸術大学
雑誌
Artes : bulletin of Takarazuka University of Art and Design : 宝塚造形芸術大学紀要 (ISSN:09147543)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.59-77, 1999-03-31

イギリスの18世紀,特にジョージアン期は,王室の権威は失墜し,その結果立憲政治が確立された。その時期貴族,紳士階級が力を持ち,住宅やインテリア,家具に贅をつくすようになる。家具の様式も,王の名を付したものから,デザイナーの名の様式へと変化してゆく。チッペンデール,アダム,ヘップルホワイト,シェラトン達が当時活躍したが,今回取り上げるヘップルホワイトは,出生も不明な地味な存在ではあったが,彼の作品は近代デザインにも通じる,簡易ながらも品格の高いものであり,現在も尚,イギリスでは愛好者が多い。彼が世に訴えたかったものは何なのか,その作品を通して考えてみることとしたい。
著者
清水 洋平 舟橋 智哉
出版者
大谷大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

今まで調査が手薄であったタイ国中部地域の王室寺院が所蔵する貝葉写本について、従前の科研プロジェクトから継続的に調査を行い、第一級王室寺院をはじめとする5ヶ寺の所蔵貝葉写本集成を軸とした約1, 700套(一套の中に複数の文献が所収されることが多い)を超える写本文献の情報を取りまとめ、所在目録を作成した。加えて、まだ貝葉や折本紙写本でしか存在しない東南アジア撰述の仏教説話文献に関わるテクストの多くを、デジタル画像資料として入手することに成功した。これにより、現在まで殆ど実態が不明であったタイ国中部地域の王室寺院が所蔵する収蔵文献について、その特徴を明らかにした。
著者
小野 新平
出版者
(財)電力中央研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

イオン液体の電気二重層を利用した新しい電界効果トランジスタを作製した。電気二重層の作り出す強電界を利用することで、様々な材料に高密度キャリア注入を行う事に成功した。有機半導体では、低電圧駆動が可能で高速応答を実現する有機電界効果トランジスタの作製に成功した。また遷移金属酸化物薄膜では、高密度キャリア注入を行う事で、金属-絶縁体転移の観測に成功した。
著者
島田 和則
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.159-167, 1999
参考文献数
31
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;1.1992年9月に神津島天上山の低木林で発生した林野火災跡地において,5年間の群落動態を継続調査し,その特性,特に地表攪乱の影響について考察した. <BR>&nbsp;&nbsp;2.被災地域の植被率は5年を経過しても平均40%ほどで,平均90%を超える無被害地と比べて低い状態にとどまっていた.被災後萌芽再生した木本個体は,その後の枯死率は低く5年間順調に生育を続けていた.萌芽再生した前生個体の間には十分裸地空間があったが,実生や地下部からの徒長による木本の新規加入は少なく,毎年少数の個体が侵入・定着するにとどまった. <BR>&nbsp;&nbsp;3.天上山の地表は,多孔質流紋岩が厚く一様に風化した砂状の表層基質に被われており,植被を失った被災地において,この砂状の表土の侵食が顕著であることが観察された.侵食による表土の移動は,実生の定着に影響していると予想されたので,実生を想定した2種類のサイズの木製ピンを設置して2年間追跡調査を行った.その結果,叢生株・露岩等の有無,ピンのサイズの大小により被害に差が認められた.これらより,実生の定着初期段階で,表土の移動による攪乱圧が強く働いていることが予測され,上方に何かシェルターになるものがあるか,または個体サイズが大きければ表土の移動による死亡率が低いことが示唆された. <BR>&nbsp;&nbsp;4.もともと表土が侵食を受けやすく,しかも台風の常襲地帯である本調査地においては,一度植被を失うと表土の安定を失い植生の回復が困難になると思われる.被災により裸地化した空間への木本種の定着は細々と進行するにとどまり,回復には長期間を要すると考えられる.
著者
上久保 晶子 柿木 昇治
出版者
広島修道大学
雑誌
広島修大論集. 人文編 (ISSN:03875873)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.209-224, 1997-09-30

The present study was to determine whether the EEG biofeedback training could affect the behavioral measures of finger tapping interval and pressure. In Experiment 1 the alpha bidrectional controls of increase and decrease were given to 18 college sutdents to observe the following behavioral modification of tapping. Each subject was undertaken 5 biofeedback training trials of 3 min., tapping being measured in the periods of preceding and following biofeedback training. The results showed that the tapping pressure decreased sigificantly with no difference in training condition, while no marked biofeedback training effect for both directions was appeared. Twenty six subjects were participated in Experiment 2 in order to enhance the effect of alpha biofeedback training using a prolonged period of training. The alpha increase training was given to 16 experimental subjects and to 10 control subjects for 3 days each. The evident effect of alpha increase training was observed in the experimental group with the significant decrease of tapping pressure, while no significant changes in EEG and behavioral measure were obtained for control group. Taken these experiments together, it can be concluded that the EEG biofeedback training can modify the following behavioral measure of tapping pressure, which would imply the useful technique in the clinical field.
著者
青井 利哉 川辺 浩史 上久保 晶子 柿木 昇治
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.60-64, 2000-03-31

これまでの脳波バイオフィードバック研究は, α波出現に伴う主観的状態の変化や, その制御方略に関するものが主であり, 訓練による行動指標の変化を検討した研究は見られない.脳波バイオフィードバックの効果の検討として, 計量可能な行動指標の変化を観察することは, 訓練効果の評価の妥当性を向上させる.本実験においてはα波増強訓練, およびβ波増強訓練が時間評価に及ぼす影響について検討することが目的である.時間評価は15秒, 30秒, 60秒を設定して, 被験者にバイオフィードバック訓練前後で計測させた.α波バイオフィードバック訓練により主観的時間評価は長く評価され, β波バイオフィードバック訓練により短く評価されることが明らかになった.これは脳波周波数の増加は時間評価の過小評価をもたらすとしたWerboff(1962)の知見を支持するものである.本実験において, 脳波バイオフィードバック訓練と時問評価との対応関係が見られた.
著者
塚本 智博 片桐 孝洋 吉瀬 謙二 弓場 敏嗣
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告計算機アーキテクチャ(ARC) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.17, pp.55-60, 2007-03-01
被引用文献数
1

本研究では,プロセッサの省電力化を目的として,DVFS制御を利用したプロファイル情報に基づく最適化コンパイラを開発した.プログラムの稼動条件による時間的制約と電力的制約のそれぞれに対応する最適化方として,(1)実行時間の増加を許容範囲内に抑えて消費電力量を削減する,(2)消費電力量を許容範囲内に抑えてできるだけ高い性能を達成する,という2つを設定した.また,x86プロセッサが持つタイムスタンプカウンタをプロファイル情報として利用することで,オーバヘッドを低く抑えてプロファイルできることを示した.本最適化コンパイラにより,ユーザが指定する実行時間の許容範囲に対して,平均で5%程度の誤差に抑えて,プロセッサの消費電力量を削減できることを確認した.また,消費電力量の許容範囲に対しては,平均で5%程度の誤差に抑えられることを確認した.We developed an optimization compiler based on the profile information that uses DVFS control for power-saving of CPU. We set two optimization policies, to this optimization compiler :(1)optimization based on the threshold of execution time; (2)optimization based on the threshold of energy consumed. In addition, we implemented a profile option with a low overhead using the x86 processor's Time Stamp Counter into this optimization compiler. We conclude that our optimization compiler is acceptable, since it has only 5% error on average to a specified parameter threshold from users.
著者
酒井 寿郎 田中 十志也 浅場 浩
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体δ(PPARδ)はリガンド依存的に転写を制御する核内受容体の一つである.我々はPPARδが骨格筋の脂肪酸代謝を調節する因子の一つであることを報告した(PNAS,100,229-234,2003).選択的PPARδアゴニストGW501516(GW)の投与により,ミトコンドリアの増生,脂肪酸β酸化および代謝速度の亢進,骨格筋における顕著な脂肪滴蓄積の減少が認められ,高脂肪食(HFD)負荷によって惹起される肥満およびインスリン抵抗性を改善することを明らかにした.GWは骨格筋および肝臓において脂肪酸輸送,脂肪酸β酸化および呼吸鎖に関与する遺伝子群を誘導した.一方,普通食負荷したマウスのWATの遺伝子発現には影響を及ぼさないが,GWはHFDによって惹起されるTNFαおよびPAI-1の遺伝子発現増加を抑制した.さらに,HFD負荷したマウスの肝,骨格筋およびWATではインスリンによるPI-3キナーゼの活性化が顕著に低下していたが,GW投与群では有意な改善が認められた.以上のことより,GWは長期投与において持続的な抗肥満および抗糖尿病活性を有することが示唆された. PPARδアゴニストのインスリン感受性改善効果の一部は,肝や骨格筋での脂質蓄積抑制や脂肪細胞の肥大化を抑制し,PI-3キナーゼ介在性の糖取り込みやアディポサイトカイン産生を改善することによって発揮されていると考えられた.Oikeらとの共同研究で血管新生液性因子angiopoietin-related growth factorが抗肥満効果としてPPARδを介することを示した。また、私たちは転写因子Kruppel-like factor KLF15が絶食時に誘導されATPを合成するアセチル-CoA合成酵素プロモーター活性を調節することを明らかにした。KLF15は脂肪細胞の分化に関与する転写因子としても知られている。
著者
須藤 祐司
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、全年度の知見を基に、Cu-Al-Mn系超弾性合金の高強度化およびその応用を目指し、本合金の低温時効硬化現象を詳細に調査し以下の知見を得た。[1.超弾性特性] Cu-Al-Mn-Ni合金において、集合組織および粒径ならびにベイナイト変態を適切に制御することにより、1000MPaの超弾性プラトー応力かつ4%程度の超弾性歪みを示す高強度超弾性合金のが得られる事が分かった。時効処理によりベイナイト変態した超弾性合金のマルテンサイト変態誘起応力の温度依存性dσ/dTは、焼入れまま材のそれよりも小さく、その値はクラジウス-クラペイロンの関係より予測される値と一致する。本合金のdσ/dTはTi-Niのそれに比べ、約1/3程度であり、温度が変化する環境にておいてもほぼ一定の超弾性回復応力が得られる。[2.疲労特性] 時効処理により高強度化したCu-Al-Mn系超弾性合金の疲労特性を引張サイクル試験により評価した所、従来合金に比し、疲労強度が極めて高く優れた疲労特性を示すことが分かった。これは、ベイナイト変態による析出硬化により母相が強化され転位が動きにくくなったためと考えられる。集合組織、粒径、析出硬化を適切に制御することによりTi-Niに匹敵する疲労特性を示す。[3.応用] 上記の知見を基に、加工熱処理による組織制御を駆使し、剛性傾斜型のガイドワイヤー(GW)の試作を試みた。本剛性傾斜型GWは、従来Ti-Ni超弾性GWに比し、優れた突き出し性、トルク伝達性を示し、操作性に優れる。また、高強度・高超弾性歪みを有する合金を用いた制震部材の開発を検討し特許出願を行った。
著者
寺田 松昭
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、2アドレス方式により移動端末の制御を抜本的に変えた新しいモバイルネットワークを目標に、2アドレス方式による移動端末制御方式の確立、2つのアドレスを用いて移動端末に通信チャネルを設定するための技術、新モバイルネットワークとインターネットとの相互接続技術の開発を進め、以下の成果を得た。1.端末識別のための「ユニークID」とパケットを目的の端末に届けるアドレス「経路制御アドレス」を分けた"アドレス方式"を開発した。モバイルエッジルータ(MER)は新しい移動端末が現れていないかどうかを絶えず監視し、新しい移動端末を発見すると、そのユニークIDを取得し、経路制御アドレスと対にして、位置管理ノード(LMN)に登録するようにした。この方式によって、移動端末の位置とそこへの経路制御を可能にした。アドレスを階層的に付与することによって、高速なルーティングを可能にする方式を開発した。モバイルコアルータ(MCR)用ソフトウェアを試作し、動作を確認した。2.端末位置の発見方法を考案し、実装した。端末の移動に伴うパケット転送ルートの迅速な設定/切替え制御を実現した。モバイルエッジルータ(MER)用ソフトウェアを試作し、動作を確認した。3.複数の新モバイルネットワークをインターネヅトにより接続した実験システムを構築した。モバイル端末を無線LANリンクで接続した状態でアクセスポイントからアクセスポイントへと移動しても通信が滞りなく行えるかを検証した。実験システムを用いて、主に新モバイルネットワーク間での端末移動制御を検証した。4.インターネットと新モバイルネットワークとの通信を可能にするためにプロトコルの変換を行うゲートウェイを開発した。