著者
市川 隆 高遠 徳尚
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

国立極地研究所を中心として日本が開発を進めている南極の氷床「ドームふじ」は標高が高く(3810m)、大気の透過率も高いと予想される。しかしシーイング等の天文学的条件に関するデータがない。そこで、ドームふじの天文学的気象条件(シーイング、測光夜数、背景光の明るさ)の調査を行うために、口径40cmの極地用望遠鏡を開発した。-80度で正常に動作するためには、できる限り同じ材質で熱膨張などの影響をさける必要がある。特にドームふじはきわめて厳しい環境にあるので、現地での調整はできる限り少なくしなければならない。そこで常温で調整した後、冷却化でも性能を維持する軸受けなどを開発した。また運搬と現地での組み上げを容易にするために、総量200kg余りある望遠鏡は5分割できる構造とし、最低2人での組み上げができることを確認した。本装置の極寒環境での性能を評価するために、平成20年2月に日本で一番寒い場所といわれる北海道陸別町に分解した望遠鏡を運搬し、現地で組み上げ実験観測を行った。最低気温は-23℃だったが、この極寒環境においても、望遠鏡、制御システムなど必要な観測装置は暖める必要もなく、正常に動作し、当初の性能が出ていることを確認した。その他、極寒で動作する機械部品、電気・電子回路の技術的検討、大型望遠鏡の雪上設置法の検討、シーイング測定装置DIMMの開発、SODAR乱流強度の微小熱擾乱への較正を行った。
著者
本田 明治 山根 省三 高谷 康太郎 中村 尚
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

:「冷える海洋-暖まる大陸」パターン、いわゆるCOWLパターンの空間構造の特徴やその力学的メカニズムの解明に取り組んだ。再解析データを用いた解析でCOWLは対流圏循環場ではアリューシャン・アイスランド低気圧シーソーに続いて2番目に卓越するモードとして抽出され、長期的なユーラシア及び北米大陸上の昇温傾向に伴って近年の両低気圧の強化傾向を伴っていることが確認された。一方近年の北半球雪氷圏の急変に伴ってCOWLの変動特性にも影響が現れていることが分かった。
著者
吉田 安規良 呉我 実香 Yoshida Akira Goga Mika
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.51-70, 2008-08

沖縄県教育庁八重山教育事務所管内の2つの小学校の変則的な複式学級設置校での授業実践から、変則的な複式学級での教育実践に何が必要かを考察した。(1)2つの小学校とも、教育課程や校内人事を工夫し、授業運営を可能な限り単式化していた。(2)国語の複式授業では、変則的な複式学級特有といえるような特別な工夫は見あたらず、「わたり」や「ずらし」といった複式学級一般で用いられる手法が利用されていた。少人数のため徹底的に個に応じた指導が行われており、「変則的な複式学級だから必要とされる資質・能力」というより、「目の前の子どもに寄り添った指導」ができることが重要である。正誤表追加 : 2009年2月10日
著者
高木 健太郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

積雪寒冷地域における冬季の大気一土壌間の二酸化炭素輸送メカニズムを明らかにするために,雪面下の二酸化炭素濃度・温度プロファイルを測定するシステムを小型二酸化炭素濃度計と熱電対温度計,データロガー,タイマ,リレーにより構築し,北海道大学天塩研究林林内の森林伐採跡地に設置した.雪面からの二酸化炭素放出量を評価するために,三次元超音波風向風速計とオープンパス型CO_2/H_2O分析計を用いた二酸化炭素フラツクス観測システムを積雪内濃度プロファイル測定地点に隣接する場所に設置した.近接した場所において,融雪量,積雪深,地温の観測を行った.積雪による地温低下緩和によって冬季も土中の微生物による呼吸が行われ,土壌から積雪内部に二酸化炭素が供給されることが明らかになった。二酸化炭素は積雪内で下層ほど濃度が高くなる濃度勾配をもって分布し,弱風速時には雪面上の大気との濃度差が3000ppmに達した。一方,強風時には空気塊が積雪内部に進入し大気との濃度差が大きく減少した。以上の観測結果に基づいて,積雪を介した二酸化炭素の挙動について検討した結果,以下の関係を考慮することにより再現できることが明らかになった。1.指数関数的に地温に依存する地面からの二酸化炭素発生2.拡散則に従う積雪内部の二酸化炭素の雪面への移動(弱風速時:摩擦速度0.1ms-1以下)3.摩擦速度に比例する空気塊の移動による二酸化炭素の雪面への移動(強風速時:摩擦速度0.1ms-1以上)
著者
圓山 憲一 久保 守 米田 祐介 田村 匡宏 村本 健一郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MVE, マルチメディア・仮想環境基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.158, pp.5-10, 2006-07-07

雪片の衝突成長による成長メカニズムの解明には,雪片の形状や落下運動についての定量的な解析が必要である.複数台のビデオカメラを用いて,鉛直,水平の2方向から雪片の降雪運動を連続的に撮影し,得られた2次元映像を画像処理して,雪片の形状と落下パターンの解析及び分類を行った.また,雪片の大きさ,形状,落下パターンについて,相互の相関関係を調べた.
著者
當島 茂登
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

養護学校等では車椅子は単なる移動手段として用いられている場合が多い。養護学校等で使用している車椅子の種類は、介助者が操作する介助型車椅子、本人自身が操作する自走型車椅子、電動車椅子である。特に肢体不自由養護学校においては、重複障害学級の在籍者が75%を占めているため介助型の車椅子を使用している児童生徒の割合が多い。このような実態を踏まえ、学校では車椅子を使用している児童生徒の抱えている様々な課題の検討が必要となってきている。本研究の第一の目的は、車椅子を活用している児童生徒の学習活動(自立活動を含む)に関連した調査及び健康的側面から姿勢、呼吸、疲労状態に関した調査を行い、学校生活での車椅子活用の実態を明らかにすることである。第二の目的は、調査により明らかになった課題に関し、Psychomotorik(精神運動:ドイツで行なわれている運動を用いた発達支援活動領域の一つ)の考え方を基本に据え、車椅子を活用した活動支援プログラムを開発・評価することである。第三の目的は、活動支援プログラムをビデオ・冊子として公表し、普及を図ることである。研究目的の1に関連して、車椅子活用に関するアンケート調査を作成し、北海道、神奈川県、鹿児島県内の肢体不自由養護学校及び本研究所の短期・長期研修員を対象に調査を実施した。質問項目の一部は以下の通りである。「体育、自立活動、特別活動等で車椅子を用いた活動プログラムとしてどのようなことを実施していますか。車椅子を使用している子どもの疲労に関する対応は十分であると思いますか。車椅子や車椅子を用いた活動プログラムに関して要望、質問等がありましたらご自由にお書き下さい」等である。この調査の結果は特殊教育学会及び研究報告書にまとめた。研究目的2に関連して、肢体不自由養護学校に在籍している児童と保護者に対して車椅子活用支援プログラムを試行してVTRに集録して検討した。また、小学校肢体不自由特殊学級に在籍している脳性まひの児童について車椅子活動支援プログラムをビデオに収録し、海外共同研究者のDr.Strohkendlと実践について検討した。19種類の車椅子活動支援プログラムを開発した。これらの研究成果を「研究成果報告書」としてまとめた。今後は関係機関の了解を得ながら、CDDVDを作成し、普及に努めたい。
著者
那須 裕 楊箸 隆哉 岩月 和彦 北山 秋雄 本田 智子 坂口 けさみ 大平 雅美 堀内 美和 木村 貞治 藤原 孝之
出版者
長野県看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

施設入居高齢者や一人暮らし高齢者は外界との接触が減り、生活環境も画一になりがちで、また一方この人たちに継続的な刺激を与える周囲の余裕も中々持てないのが現状である。そのような高齢者のADLを維持しQOLを高めるために実施出来る可能性のあることについて検討を加え、また高齢者の運動機能及び高次脳機能を簡便に測定・評価する方法を開発するための基礎データ集積を行った。1 高次脳機能評価:予備調査として有料老人ホームにおいてADLがほぼ自立している高齢者10名に対して事象関連電位(P300)の測定を行い、平均潜時、平均振幅等の数値を得た。より多くの対象者を求め、指標としての有効性を示してゆくことが今後の課題である。2 睡眠に関する検討:若年者を対象に睡眠実験を実施した。P300及び反応時間を用いた寝起きのテスト、主観評価による寝起きのテストを行い、かつレム睡眠とノンレム睡眠との顕れ方のパターンについて検討しつつある。ここで得られた結果を施設内高齢者の快適な睡眠環境形成のために如何に役立てるかが今後の課題である。3 マッサージが筋肉の凝りに与える身体の主観的評価及び生理反応への影響:肩凝りを持つ若年者を対象にマッサージの効果について検討した。マッサージは肩凝り症状を軽減し血流を増加させることが示された。高齢者に対する効果については現在検討を継続中である。4 高齢者水中運動継続による運動機能及び高次脳機能の変化:水中運動継続が高齢者の運動機能、血圧、心拍数等に及ぼす影響につき、継続的に観察中である。
著者
原田 真由美
出版者
日本新生児看護学会
雑誌
日本新生児看護学会誌 (ISSN:13439111)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.20-31, 2001-03

本研究は,極低出生体重児を出産した母親の愛着の形成過程を明らかにし,それに関連する要因を検討し,母親の愛着を促進させる看護援助を考えることを目的とした.在胎週数26w~35w,体重886g、1484gで出生した極低出生体重児5名の母親に対して,子どもとの初回,2回目,3回目の面会,以降1週間毎に退院時までの期間で,面会場面を観察し,その後にMullerにより開発されたThe Maternal Attachment Inventory(1994)を参考にして作成した愛着感情質問票と関連要因に関する質問紙調査を行なった.加えてSTAIによる不安の調査と半構成面接を実施し,以下の結論を得た.1.母親の愛着の情動面は初期から比較的高く.望んだ出産であったことが関連していると考えられた.さらに面会の中で子どもの反応に感動したことや,夫や看護者などから得た心理的サポートにより危機的心理状態が立ち直っていったことなどが関連して早期に上昇した.2.母親の愛着の母親役割の認識面は情動面より低く,変動しやすかった.特に子どもの反応の認知が低かった.関連する主な要因としては,子どもの反応への感軌母乳,育児行動の実施があった.3.早期より育児行動にかかわった母親は,不安や母子分離感が軽減し,満足して退院を迎えていた.ただし早期に育児行動を促す時は,未熟な子どもの反応の読み取り方と対応に関する教育が不可欠であった.4.家族,特に夫からのサポートや第一子の状態が母親の精神状態の安定に影響して,愛着形成に間接的にかかわっていた.5.以上より,子どもの反応に感動できる機会や,早期の面会と育児行動の保証,母乳への援助,家族関係の調整などを通して主に母親役割の認識面を促す看護援助が重要であることが示唆された.The purposes of this study were: a ) to clarify the maternal attachment process in mothers of the very low birth weight infant, b) to clarify the influence factors for the process, and C) to examine the nursing interventions to promote the maternal attachment process.The subjects were the mothers of five very low birth weight infants who were born between the 26weeks and the 35weeks of gestational age and between 886g and 1484g birth weight. The data were collected in the first, second and third visit to their babies and also every other week till the baby's discharge. The data was included the maternal Attachment questionnaire that was made from MAI (Maternal Attachment Inventory, Muller 1994), the questionnaire of relational factors, STAI (State-Trait Anxiety Inventory), and the interview.Results were as follows;1 . Emotional aspects of maternal attachment were high point, because a l l mothers hoped to give birth. Ascending factors were the baby's reactions and the her crisis reduction through the support from her husband and the nurses.2 . Aspects of maternal roll cognition were lower than the emotional aspects, and easily changed. Especially the cognition of baby's reaction was low. Ascending factors were the deep impression to the baby's reaction, breastfeeding, and the caring of her baby.3 . The mother that took care of her baby from an early stage decreased her anxiety, and she was satisfied with baby's hospitalization. But, when nurses make the mother takes care of very premature baby, the nurses have to teach the premature baby's reactions and the ways to cope with them.4 . The support from her husband and the condition of the elder child had indirect influence on the maternal attachment.5. Nursing interventions to promote maternal attachment were : a) the assurance of chances t h a t mothers can be impressed by her baby's reactions, b) the assurance of early visits and taking care of her baby, c) the support for the breastfeeding, d) the adjustment of the relationship in their family members. The aspects of maternal roll cognition were promoted mainly through these nursing interventions, which are very important.
著者
細川 敦之 宮本 勉 松野 慎介 川崎 幸子 玉井 豊理 田辺 正忠
出版者
岡山医学会
雑誌
岡山医学会雑誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.100, no.9, pp.921-926, 1988

Ga-67-scintigraphy was performed on 3 patients with malignant lymphoma of the thyroid. Ga-67-accumulation was noted in the primary lesions of two patients. Ga-67-accumulation was seen in an inflammatory lesion, which was not the primary lesion, in the other patient. One of the patients, who was a 48 year-old woman with primary malignant lymphoma of the thyroid, had metastases in the mediastinum, neck and axillar region. The metastases were clearly detected by T1-201 imaging, but Ga-67 did not accumulate in the metastatic foci. It seems that T1-201 is superior to Ga-67 in defining a primary malignant lymphoma of the thyroid.甲状腺原発の悪性リンパ腫は比較的稀な疾患であるが,甲状腺に腫瘤を触知する時には常に鑑別を要する疾患である.私共は3例の甲状腺原発の悪性リンパ腫を経験し,治療前の3例すべてに(67)Ga-citrate似下(67)Gaと略す)シンチグラフィーを施行し,そのうち1例には(201)Tl-chloride(以下(201)Tlと略す)シンチグラフィーを合せ行ない,病巣の進展の描出に(201)Tlが(67)Gaに比べて優れていたので若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
大下 誠一 牧野 義雄 川越 義則
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

水中にマイクロ・ナノバブル(MNB)を発生させ、ナノバブルに注目して0.6nm〜6μmの範囲にある粒子径を評価した。さらに、バブルの存在が期待される水の動的特性をNMR緩和時間T_1から検討した。水は超純水製造器(Direct-Q,日本ミリポア(株))で調製し、MNBの生成にはマイクロバブル発生システム((株)ニクニ製を改良)とマイクロバブル発生装置OM4-MDG-020((株)オーラテック)を用いた。バブル径測定にはゼータサイザーNano-ZS(シスメックス(株))を用いた。前者のシステム稼備後1時間まではデータが安定せず、バブルのピーク粒径は340nm、分布範囲は120nm〜6μmであった。稼働後1.5時間には、ピーク粒径(190nm)は小粒径側にシフトした。2時間後にバブルの発生を停止した時点で、分布範囲は50nm〜1μm、ピーク粒径は120nm付近であり、これは1日後まで安定して観測されたが、2日後に165nm付近になった。また、後者のバブル発生装置を45分稼働させた場合、酸素MNBの生成後15日間は、ナノサイズのバブルが安定に存在した。一方、酸素MNBにより溶存酸素濃度が上昇し、40mg/L程度の高濃度になった。水中に微細なバブルが存在すると、水分子のネットワークに影響してT_1の変化が期待される。しかし、酸素が常磁性を有するため、単純にはT_1からバブルの影響を抽出できない。そこで、常磁性のMn2+を添加して酸素の常磁性をマスクした。10mM のMn2+溶液を調製し、これに酸素MNBを生成させた水を準備した。その結果、溶存酸素濃度(DO)が7.6mg/LのMn2+溶液に対して、この溶液に酸素MNBを生成させた水(DO=33.6mg/L)のT_1が顕著に増大した。この結果は、水中におけるナノバブルの存在を支持するものであると判断された。
著者
服部 篤 岡田 昌志 Kang Chaedong
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.67, no.662, pp.2533-2540, 2001-10-25
参考文献数
8
被引用文献数
1

A water fine particle suspension with a uniform initial temperature and various initial concentration distributions in a rectangular vessel was heated from a vertical wall and cooled from the opposing vertical wall. The particle made of SiO_2 had a narrow size distribution (mean diameter of 2.96μm, standard deviation of 0.023μm). In order to observe phenomena of the natural convection, the temperature distribution, local particle concentration of the suspension and position of first interface were measured under various temperature differences between the opposing vertical walls. To make the influence of initial particle concentration on the phenomena clear, natural convection of suspension with three patterns of concentration, i.e. a naturally or artificially formed gradient, or non-gradient, was investigated. The pattern of formation of layers was classified by Grashof number. Moreover, to make the influence of initial depth of suspension clear, the suspensions with three initial depths, 50,100 or 160mm, were examined.
著者
松田 清 鳥井 祐美子 井口 靖 河崎 靖 クレインス フレデリック
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

江戸時代舶載蘭書目録の作成と関連資料の書誌的研究を第一の目的とする本研究は、前年度に引き続き内外各地で書誌調査を行い、とりわけ佐賀藩および小城藩関係資料の研究を重点的に進めた。また、鳥井裕美子は松田清と共に、総括班による武雄鍋島家「長崎方控」の校訂注釈作業に中心メンバーとして参加した。その成果として、松田は佐賀大学小城文庫所蔵の蘭文写本「人工体普録」がオズー製1857年型人体解剖模型「キュンストレーキ」の仏文解説書の蘭訳筆写本であることを突き止め、筆者を小藩の相良柳逸、訳者をマンスフェルトと推定した。また、幕末佐賀蘭学の根本資料である佐賀鍋島家「洋書目録」(文久2年まで洋書の出納簿を兼ねた)について、目録本文の翻刻、記載洋書の原書同定、長崎奉行所に提出された輸入蘭書「銘書帳」との照合結果、さらにオランダ王立兵学校用教科書目録との関連を盛り込んだ復元目録を編集刊行した。クレインスは江戸時代舶載蘭書の内、解剖・生理学書の書誌的、翻訳論的研究をまとめ、17〜18世紀のヨーロッパで主流となった機械論的身体観の受容が東洋の伝統的身体観の枠内で行われたことを指摘した。松田、クレインスは幕末萩藩旧蔵蘭書や蘭学の背景となった西洋本草医科学書を多数収蔵する杏雨書屋の洋書について数年来の詳細な書誌調査をまとめ、その成果を目録として刊行した。前年度までに刊行した『宮城県図書館伊達文庫蘭書目録』『佐賀藩旧蔵洋書目録』と合わせて、江戸時代舶載蘭書目録の基礎作業はほぼ達成できた。初年度(平成14年度)に着手したハルマ辞書訳語集成についてはハルマ蘭仏辞書の電子版作成にとどまった。
著者
大薮 加奈
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度は主にパンジャブ系移民が主導権を持って広げていったバングラ音楽と文学の関係について研究したが、今年度はその他のインド系移民作家の作中に現れる音楽について研究した。一昨年度の歌詞中心、昨年度のリズム中心の精読から一歩すすめ、今年度は主題としての音楽を取り上げた。その過程で、Asian Dub FoundationやFun>Da>Mentalなど、イギリスで活躍するインド系ラップバンドを中心に、「怒れる移民2,3世」の政治的メッセージと、文学テキストの政治的メッセージの表現方法について比較した。ダンス・ミュージックの形をとるアジア系バンドの音楽は、その挑発的メッセージとはうらはらに白人ユースを取り込む明るく乗りやすいサウンドになっている。それは、ミドルクラスが読者である文学テキストの持つ言葉の魅力に近い。ただ、コミュニティーに根ざした音楽バンドのメッセージに比べて、若者が主題のクレイシの文学テキストでさえ意識的には中流階級(ミドルクラス)でありながら差別の対象となっている自分の外見や存在と距離を置こうとする作家のスタンスが見え隠れしており、メッセージは直接的でないことがわかった。今年度は昨年度に引き続き、移民の子供たちのコミュニティー音楽活動について、エジンバラ市を中心に調査した。コミュニティー音楽活動は、Asian Dub Foundation等のバンドを輩出しており、英国の移民文化にとって特に大切であるといえる。そこでは、自分たちの文化に根ざした音楽を伝えようという動きと、それを現在のイギリスにいる自分たちの音表現に変えていこうとする綱引きが常に存在していることが確認された。
著者
綾田 雅子
出版者
共立女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

ニット地の衣服について、設計の段階で素材の物性的要因を考慮したパターンを得ることを目的とし平成3年度に引き続きニット地の物性と着用シルエットとの関係を検討した。平成4年度は特に平編布の糸の太さと編目密度がニット地の物性に及ぼす影響について詳細に検討した。試料作製に用いた糸は、手編みおよび機械編み用として市販されている中からできるだけ一般的な糸を選択し、羊毛糸2種と木綿糸2種、さらに太さの異なる計8種の糸で家庭用編み機シルバーam・amSK581型を用いて編目密度4段階に変化させた20cm×20cmの正方形試料を編製した。これら29種の試料についてKES-FB計測システムのニット条件に従い、引っ張り、曲げ、せん断、圧縮特性および単位面積当たりの重量の14項目について力学量の測定し、糸の太さ、ループ長および編目密度との関係を検討した。さらに編布の基本力学特性を記述するための式を得るため重回帰分析を行った。得られた結果は次の通りである。1.本実験に用いた編み機では、糸の太さにかかわらず、編目ダイヤルの設定によってほぼ一定の編目密度が得られることがわかった。2.平編地は編目密度が小さくなるほど、また細い糸ほど伸び易く、せん断しやすく、曲げ軟らかくなり、せん断、曲げ特性共にヒステリシス幅は小さくなった。3.本実験に用いた試料の範囲内で糸の太さ、ループ長およwaleとcourseの編目密度をパラメータとしてかなりの精度で平編布の力学量を予測できることが示された。これまでの研究からニット地衣服の設計には風合いが大きな要因として関わっていることが分かってきた。今後は表面特性の計測を加え、川端、丹羽による風合いの変換式を用いて基本風合い値を求め、官能検査による主観評価値との関係を検討していく予定である。
著者
松下 恭之 水田 有彦
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

当科でおこなった骨結合型インプラントと天然歯との連結症例で破折したものを走査電顕にて観察を行ない、いずれも金属疲労が主因であることが明らかとなった。そこで未使用のインプラント体について繰り返し疲労試験を行ない、単体使用では疲労はおきない程度の強度を有していると考えられた。しかしながら天然歯と連結した場合には、天然歯への荷重がインプラントネック部での最大引張応力値の増加に関与していることが示唆された。またことにその支台となる天然歯の周囲骨レベルが減少することがインプラントネック部で引張応力の集中をまねき、破折することが示唆された。次に三次元有限要素法解析により、1-インプラントシステム(天然支台歯1本とインプラント1本からなる3ユニットブリッジ)では、天然歯とインプラントとはリジッドな連結をするのが最も骨内応力を緩和できることが示唆された。半固定性の連結ではアタッチメントの位置が近心でも遠心でも、またメール・フィメールの位置関係が変化しても、骨内応力に大きな違いはみられなかった。さらに2-インプラントシステム(天然支台歯2本とインプラント2本のブリッジ)ではインプラント同志を連結して、天然歯とはつながない、フリースタンディングの状態とすることが骨内応力の緩和、上部構造の長期安定にもっとも効果のあることが示唆された。
著者
加藤 恵子 近藤 章子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.91-97, 1976-03-15

以上をまとめると, 1.入学式に着用した衣服は,スーツとブラウスの組み合せ,ついでワンピースが多くみられ,衿の型はブラウスは白衿つきカラー,ワンピースはショール・カラー,スーツ,ブレザーはテーラー・カラーが多く,袖口の型はブラウス,ワンピースはカフスつき,スーツ,ジャケットは普通袖が高率であった.またスカートの型はフレアー・スカート,オール・プリーツの裾幅が広く,丈は膝下10cmが好まれていた.2.アクセサリー類は「つけなかった」が約半数であり,主調色は茶,ベージュ,黒,緑が多く,柄についてみると無地が半数以上を占めていた。3.購入する場合のポイントは63.5%の人がデザイン,外観について重視していた.調製方法は既製服が約3/4を占め,専門店と百貨店で97%が購入していた.購入価格についでみると, 38,000円が最高で注文服であった. JIS規格による取り扱い絵表示を見たのは57.5%であった.4.1ヵ月間の着用状況についてみると,1人平均着用枚数は最高ブラウスの6.0枚,着用率はブラウス,スカートの94.7%であった.また日常の組み合せ衣服は三服種が51.6%であった.5.式服着用頻度は0回が27.4%みられ,そのうち「着用しなかった服種」はワンピースの69.2%と高率であった.以上の結果,ライフサイクル,すなわち「モードの寿命」が短くなりつつある中で,被服設計上,合理的,経済的な衣生活をすることが増々重視されなければならない.そのような点について今後深く研究を進めていきたい.本調査に御協力下さった学生諸氏に深く感謝の意を表します.
著者
阿部 照男 横川 伸 〓 仁平 針生 清人 飯塚 勝重 続 三義 今東 博文 羅 歓鎮
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

2003年から3カ年間取り組んだ「中国『西部大開発』と地域社会の変容」という研究プロジェクトで、現代中国社会が抱える枢要な問題は貧富の格差とくに貧困対策であることが明らかになった。それを受けて2006年から本研究プロジェクト「中国内陸部における貧困対策に関する研究-「移民新村」政策を中心にして-」が開始された。陝西省延安市農村部における現地調査(2006-07年)、西北大学陝西経済発展研究センター委託による農家個別訪問アンケート調査(2006-07年)、甘粛省農村部現地調査(2007年)、山西省農村部現地調査(2008年)、内モンゴル自治区赤峰市農村部現地調査(2009年)、2度にわたる日中国際シンポジウム(2008年延安市、2009年東洋大学)などの研究成果として明らかになったのは、中国社会にとって単なる貧困対策を中心とする段階は終わり、今後特に求められているのは、農村全体の底上げ、農民の生活改善、農業の構造改革ということである。それを象徴するのが「新農村建設」というキーワードである。