著者
酒井 啓子 飯塚 正人 保坂 修司 松本 弘 井上 あえか 河野 毅 末近 浩太 廣瀬 陽子 横田 貴之 松永 泰行 青山 弘之 落合 雄彦 廣瀬 陽子 横田 貴之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

9-11事件以降、(1) 米国の中東支配に対する反米意識の高まり、(2) イスラエルのパレスチナ攻撃に対するアラブ、イスラーム社会での連帯意識、(3) 国家機能の破綻に伴う代替的社会サービス提供母体の必要性、を背景として、トランスナショナルなイスラーム運動が出現した。それはインターネット、衛星放送の大衆的普及によりヴァーチャルな領域意識を生んだ。また国家と社会運動の相互暴力化の結果、運動が地場社会から遊離し、トランスナショナルな暴力的運動に化す場合がある。
著者
富田 広士
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

この研究プロジェクトは、研究計画調書および交付申請書提出段階では、民主化・経済自由化を軸に、1.スーダン・アフリカの角(エチオピア、エリトリア、ソマリア、ジブーティ)と2.エジプトの比較を行おうとした。研究分担として、1.を英国レッディング大学政治学科教授、ピーター・ウッドワード氏、2.を私が担当することになっていた。しかし、研究を開始して1年後の平成10年度交付申請書提出段階において、本務校の事務担当者より、研究組織上外国人を含めることはできず、また実際研究代表者1名による個人研究であるので、そのような形で研究を遂行してほしいとの指摘を受けた。そこで、日本学術振興会担当課に、交付申諸書記載事項の変更を届け出るべきか照会したが、その必要はないとの返答を得た。こうした経緯を踏まえ、平成10、11年度には、エジプトの民主化と経済自由化の研究に集中した。分担地域1.については、ウッドワード教授との研究レビューに止めた。研究成果報告書第1部は、エジプト革命以降サーダート政権までを中心に、従来発表した研究に加筆修正を施した。また第1部、「終りに」において、新たに、7月23日革命以後1990年代半ばに至るエジプトの政治過程を概観している。第2部は、研究計画調書で問題提起した、1960年代エジプトにおける経済自由化の萌芽に関する研究である。第8章を除く全ての論稿は、このプロジェクト期間中に調査あるいは執筆を行ったものである。第11章では、60年代前半のソ連・東欧における経済改革の影響がエジプトに及んだ経緯をある程度分析することができた。今後、エジプトにおける経済自由化の萌芽の問題を軸に、1960年代後半の出来事を追跡して、日本におけるエジプト研究の中で、一つのまとまりとオリジナリティを持った研究に仕上げるつもりである。
著者
花辺 充広 尾辻 泰一 メチアニ ヤーヤ・ムバラク 佐野 栄一 浅野 種正
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SDM, シリコン材料・デバイス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.138, pp.291-295, 2006-06-26

2重入れ子型回折格子ゲートを有するInGaP/InGaAs/GaAs高電子移動度トランジスタを対象に、光励起2次元プラズマ不安定性を発振源とするテラヘルツ(THz)電磁波放射を室温観測した。低電子濃度プラズモン領域で励起された光電子群は、近傍の高電子濃度プラズモン領域に注入されプラズマ不安定性を誘発する。結果、生じたプラズマ共鳴振動を源とするTHz波放射が得られる。プラズモン領域と素子裏面のITOミラー間に形成される縦型共振器構造の効用により、放射THz波には利得が与えられる。レーザ2光波励起を行なった場合、直流光励起電子により励起された4.5THz近傍の共鳴振動成分が、差周波励起された5.0THzの共鳴振動成分により増強される効果が確認された。THz帯における注入同期発振の可能性を示唆する結果である。
著者
速水 正憲 井戸 栄治 三浦 智行 ZEKENG Leopo MUBARAK Osei ALLAN Dixon ROBERT Chegg
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.エイズ関連ウイルスについては、これまでにHIV-1及びHIV-2がヒトから、SIVがアフリカの数種のサルから分離され、また、遺伝子解析からそれらの相互関係が明らかにされてきた。現在では、エイズウイルスがアフリカに由来することは、ほぼ定説となっている。従って、エイズウイルスの起源と進化を理解する上で、アフリカにおける調査は不可欠である。特に、この3年間は、中央アフリカのカメルーンにおける調査を開始、展開することができた。特にこの地域では、非常に変異したHIV-1のO型を初めとして、種々のHIVが混在していることから、重感染とリコンビネーションの存在を確認することをも目的とした。2.カメルーンの首都にある、ヤウンデ大学附属病院を中心に、西部のドゥアラなど都市部にある血液センターでスクリーニングによりHIV陽性となった検体や、東南部や北東部の地方都市において症状からHIV感染が疑われる患者から、また、南東部のピグミー人から、約300検体の血液を採取した。約300検体の血清についてPA法によるスクリーニングの後、WB法、IFA法による確認試験およびHIV1型・2型の鑑別を行った。血清学的にHIV感染が疑われた血液中のリンパ球を用いて、ウイルスのpol遺伝子インテグラーゼ領域とenv遺伝子V3領域をnested PCRで増幅し、それらの塩基配列の分子系統解析を行った。3.pol遺伝子とenv遺伝子による分子系統解析の結果、カメルーンには、HIV-1groupMのcladeA(70%)を初めとして、B、C、D、E、Fの各cladeとO型も少なからず存在(7%)した。またHIV-2も1例であるが検出した。特に、同一患者から2種類のsubtypeのウイルスゲノムが見つかる重感染は、47例中4例(それぞれHIV-2aとHIV-1cladeA、HIV-1groupOとcladeA、HIV-1clodeAとcladeC、HIV-1cladeCとHIV-1cladeF)でみられた。また、pol遺伝子とenv遺伝子の解析結果から、属するsubtypeが互いに異なる、リコンビネーションと考えられる症例が2例みられた。4.カルメーンのように種々のHIV分子種の存在する地域において、HIVにおける重感染が、HIV-2とHIV-1間、HIV-1groupOとHIV-1groupM間、HIV-1groupMの各subtype間を問わず起こりうることが示された。おそらく、同一のclade内での重感染も容易に起こりうるものと考えられる。このことは、ほぼ単一のcladeBを中心とする、我が国における重感染を考えて行く上での新しい知見となりうる。また、重感染あるいはその結果としてのリコンビネーションは、調査した全検体中10%前後(6/47例)という少なからぬ頻度で起こっていることが示された。HIVの分子進化については、従来容易に起こりうる変異の積み重ねによるものと考えられていたが、加えて、リコンビネーションがウイルスの生き残り戦略の一つとして果たしてきた役割も考える必要がある。以上の結果は、HIVの起源と進化を解析するうえでの、新しいアプローチになりうる。また、このことは、HIV感染と免疫に関して、従来の理解を改める必要性を提起するものであり、今後、ワクチン開発を始めとしてHIV対策を考えて行く上で、重要な基礎情報となるものである。
著者
黒田 龍二
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

主要な調査は厳島神社及び宮島の門前町の調査とし、比較対象として愛媛県大三島の大山祇神社とその周辺を調査した。近世においては厳島神社周辺には門前町が発達し、非常に栄えていた。その様子は、いくつかの厳島図屏風によって具体的に知ることができる。厳島図屏風の検討を通じて、建築的な描写から信頼性が高いのは、松本山雪筆の厳島図屏風(東京国立博物館蔵)で、17世紀の作である。町は神社の東側に発達し、町屋ほ平入、板葺でウダツをもつ町屋形式である。厳島においては社殿、町の構成、寺院、社家の居住地と屋敷がいずれも江戸時代の形態をよく残し、町の地割に関しても中世末期の地割が残る可能性が高い。一方、大三島は中世から三島水軍の拠点として栄え、門前町も形成されている。しかし、中心社殿は中世の物が残っているが、その他は厳島のように江戸時代以前の景観を残していない。まず町並みは近代以降の建物がほとんどである。社家、社僧の居住地は伝承があるのみで、実体としてはなくなっている。この差異の生じた原因としては、江戸時代に厳島は大三島よりも庶民の観光の地として発達したことが大きく関係していると考えられる。今後は、このような庶民信仰の観光地として発達する要因は神社の性格と関係があるのか。大三島の社僧と厳島の神官、社僧は異なる性格のものなのか。厳島神社と大山祇神社の本殿形態は大きく異なるが、その原因は何か。厳島神社の建築史的研究は多いが、大山祇神社の研究はほとんど行われておらず、このような地方における大型本殿の研究を、社会のあり方などと関連させて深化させる必要があることが分かった。
著者
窪田 健太郎 佐野 栄一 メチアニ ヤーヤ ムバラク 尾辻 泰一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ED, 電子デバイス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.313, pp.41-46, 2009-11-22

光波と電波の中間周波数領域であるサブミリ波領域、いわゆるテラヘルツ波領域は、医療やセキュリティー検出器としての応用が期待されている。その際にコンパクト、チューナブル且つコヒーレントな固体テラヘルツデバイスが必要とされている。この要求を満たすために、半導体デバイスのテラヘルツギャップを克服するプラズモン共鳴を用いたテラヘルツエミッターが提案されている。実験による検証とともに、テラヘルツエミッターの物理的原理を解析するための方法も必要となってくる。ここでは、光パルス照射に伴うプラズモン共鳴を用いたデバイスの応答を、モンテカルロ法を用いて解析したので報告する。
著者
樋口 重和
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

冬季に日照量の少ない東北地方の積雪は光の反射や拡散機能を持っており,それによる光曝露量の増加は,冬季の生体リズムの遅れを改善する効果が期待できる.本研究は冬季の積雪の前後で,朝の光曝露量と生体リズムの位相の変化を調べることを目的とした.実験は日照量が少ないことで知られる秋田県で実施し,被験者はインフォームドコンセントを得た大学生13名(22.3±1.3歳)であった.積雪前の実験は平成16年12月に実施した.被験者は連続する17日間,光曝露量を含むアクチグラフの記録を行い,10日目と17日目に人工気象室で生体リズムの位相を調べるための実験に参加した.生体リズムの指標には,暗条件下でメラトニンの分泌が始まる時刻とした.実験期間中,被験者は普段の睡眠覚醒習慣に従って規則的な生活をおくり,午前9時までに通学するように指示が与えられた.積雪後の実験は平成17年1月に実施し,積雪前と同じ実験手順で行った.目に入ってくる明るさ(目の位置での鉛直面照度)が積雪によってどの程度違うかを同じ天候状態で比較したところ,積雪無しに比べて積雪有りでは約2倍の明るさになることが分かった.被験者が実際に早朝に曝露された明るさも積雪前よりも積雪後に有意に高かった.しかし,生体リズムの指標であるメラトニンの分泌開始時刻には積雪の前後で有意な差は認められなかった.本研究より,積雪後は光の反射や拡散によって光曝露量が増加することが明らかとなったが,今回用いた実験条件では,積雪による光曝露量の増加は生体リズムに影響を及ぼさなかった.この原因として,被験者が自然光に曝露される時間が通学時に限られており,曝露時間が短かったことがあげられる.今後,長い時間を屋外で過ごすような条件を想定して検討する必要があると思われる.
著者
Sud Y.C. Mocko D.M.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.335-348, 1999-03-26

ISLSCP Initiative-Iデータを用いた全球土壌水分プロジェクトでの評価で、SSiBモデルによるロシア小麦地帯(RWB)での融雪が観測と比べて非常に遅れ融雪水の浸透が極端に少ないことが示された。さらに、融雪水の多くが土壌水分増加ではなく流出となった。この欠点はSSiBの雪モデルと土壌層のモデル化の不十分のためであった。本研究では独立の雪層を考慮した新雪モデルを採用している。雪は入射太陽フラックスを吸収・射出し冬と融雪期を通じて雪温・地温に影響する。ISLSCP Initiative-Iデータによる評価で、新雪モデルはRWB域での融雪が2〜3週間早くなり、融雪期の初期に土壌が融け、より多くの融雪水が土壌に浸透する。このように新モデルは土壌水分やボルガ河流出をより現実的に再現する。融雪の遅れ(1〜4週間)の理由として、(1)密な森林での衛星による雪観測の不正確さ、(2)モデリングの仮定、例えば雪の年齢の影響を無視していることや雪による太陽放射吸収の簡単化のために雪面温度と平均気温の区別が不適切になること、(3)ISLSCP気温データの低温バイアスの可能性、が考えられる。
著者
笹 賀一郎 佐藤 冬樹 藤原 滉一郎
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.22-29, 1993-06-30

北海道北部地域を対象に,厳冬期における渓流流出と森林の影響に関する観測を行っている。本報告では,強風寒冷地の典型とされる宗谷丘陵での観測結果(1989-1990年・1990-1991年・1991-1992年の3冬期中心)をもとに,森林の流域的規模での堆雪効果と厳冬期流出に与える影響について報告した。観測流域は,草地70%・ササ地30%のサンナイ川と,針広混交林が70%/草地30%のオテンナイ川の源頭域である観測流域の面積は,サンナイ川10.4haとオテンナイ川11.6haである。流域の方向も同じようになるように選定し,この観測流域ではほぼ北西向きになっている。また,丘陵地帯であるため,流域の源頭部は標高85mから90mと,両流域は同じ高さにある。地質は,両流域とも第三紀層である。寒冷・強風地における積雪は,再移動もともない,沢などの地形的な低地に集中的に堆積する。したがって,尾根部の積雪は極端に少なくなる。このような堆雪傾向においても,森林は積雪を貯留する効果をもち,尾根部の森林内でも沢底と同じかそれ以上の積雪を蓄えている状況が観察された。このような状態は流域的規模においても同様であり,森林の多いオテンナイ川流域では草地化されたサンナイ川流域より,平均積雪深で2倍,積雪推量では4倍以上の積雪を蓄えていた。また,サンナイ川のように積雪の少ない流域では,60%以上の面積の表土が凍結していた。オテンナイ川のように,林内や窪地(沢底)に積雪が多く貯留される流域においては,表土の凍結が防止されていた。表土の凍結の発生域は,源頭尾根部の草地化された部分だけであり,最大でも流域の16%ほどであった。表土凍結の発生が防止されるためには,積雪移動の多発する地域においては,約50cmの積雪深が必要と判断された。50cm以上の積雪深があり,表土凍結の発生していない地域においては,積雪下面での融雪現象も観察された。また,オテンナイ川のように表土凍結面積の少ない流域の厳冬期流出量は,表土凍結面積の多いサンナイ川流域の1.5倍から3倍をこえる値になっていた。表土凍結面積の多い流域では,それだけ地表への水分供給量が少なくなることから,流出量の差は表土の凍結に影響されていると判断された。したがって,強風寒冷地における森林は,堆雪効果を発揮し,表土凍結を防止することで,厳冬期の渓流流出にも大きな影響をあたえていると考えられた。
著者
平沢 尚彦 藤田 耕史
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.159-169, 2008-06-30

第44次南極地域観測隊のドームふじ基地におけるシーロメータ観測の結果から,雲及び降雪粒子の鉛直プロファイルの季節変化の概要をまとめ,特徴的な鉛直プロファイルを示した.夏季の2003年2月,12月,及び2004年1月には高度1000m以下に明瞭な雲底が検出される場合が比較的多かった.4月から10月には高度3000mから5000m(標高約7000-9000m)層で夏季より高頻度に雲が観測された.極夜期には高度1500m以下の層でストリーク状の降雪が観測され,これまでの研究と比較し議論した.このストリーク状の降雪は地上に近いほど後方散乱係数が大きくなる特徴を示した.
著者
鈴木 啓助
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.175-182, 2008
被引用文献数
2

我が国の日本海側地域のような多雪地域では、降雨にもまして降雪によってもたらされる多量の降水が水資源として極めて重要になる。また、雪は冬期間流域内に堆積することにより天然のダムとしての役割も果たしている。山岳地域では低地よりも多くの降雪があることは定性的には推定されているが、量的に議論することは様々な困難を伴う。さらに、風の強い山岳地域では、降雪粒子の捕捉率が低下するため正確な降水量の測定もできない。山岳地域の降雪を含めた降水量を定量的に把握し水収支を明らかにすることは、水資源の観点からも重要である。また、我が国における降雪量が、地球温暖化とともに減少するとの予測結果も報告されている。しかしながら、これらは標高の低い地点のデータを用いて行った研究であり、標高の高い山岳域でも同様なことが言えるかどうかは疑問である。標高の高い山岳地域では、降雪量が増加するとも考えられるのである。なぜなら、気温の上昇によって大気中の飽和水蒸気圧も増加するから、可降水量は増加し、気温は氷点下のため降雪粒子が融けて雨になることもないからである。
著者
秋田谷 英次 石井 吉之 成田 英器 石川 信敬 小林 俊一 鈴木 哲 早川 典生 対馬 勝年 石坂 雅昭 楽 鵬飛 張 森
出版者
北海道大学
雑誌
低温科学. 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.35-50, 1995-02

1994年3月上旬,中国黒竜江省の 1500km を車で走破し積雪と道路状況を調査し,道路雪害の実態を明らかにした。北海道と比べて寒冷ではあるが雪は極端に少なく,吹雪と吹溜の発生頻度と規模は小さい。しかし,除雪作業や車の冬期用装備がされていないため,交通量が増加すれば深刻な道路雪害となることが予想される。平地の農耕地内の道路は農地からの土砂で著しく汚れた圧雪た氷板からなり,そのため滑りの危険は小さいが,凹凸がはげしい。山地森林内の道路は汚れのすくない圧雪と氷板からなり,滑りの危険が大きい。この地方の特徴である道路に沿った並木は配置が不適当なため,吹雪の面から見ると,むしろマイナスの効果が大きい。吹雪対策としては側溝と盛り土された道路,および効果的な並木の配置がある。さらに,簡単な除雪機による吹雪直後の除雪が効果的である。山地の坂道やカーブでは滑り止めの土砂散布も必要である。
著者
伊佐 智子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.154-160, 2006-09-25

夫の死後、その凍結保存精子を用いて生殖補助医療を受けることは許されるのか。従来、法的規制は存在せず、死後生殖は道徳に反するとして十分には議論されてこなかった。本稿では、1.凍結保存精子を用いた死後生殖の方法が従来の生殖補助医療技術を認める前提である「法律婚の夫婦」であるという条件を満たさないこと、2.夫の生前同意は、死後には撤回不可能であり、また、それは真実の同意ではないこと、3.仮にこの技術を認めるとしても、法的条件付けが困難であること、という主として三つの理由から、凍結精子を用いた死後の生殖は認められるべきではないと主張する。
著者
大串 和雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、1973年9月11日のクーデターに至るチリの民軍関係を、軍の側に焦点を当てて考察したものである。本研究の一つの焦点は、アジェンデ政権(1970~73年)に先立つフレイ政権期(1964~70年)に現れた、軍の規律逸脱行動である。チリの伝統的民軍関係では、立憲秩序の尊重(文民統制)と、軍内での規律の厳守(上官の命令への絶対服従)という二重の規律が機能していた。しかしフレイ政権の後半に、主として低給与と装備・補給品不足の不満を原因として、中堅・下級将校の抗議行動が現れた。この抗議行動はこれまで充分に研究されてこなかったが、非常に大きな拡がりを持っていたことが確認された。フレイ期の抗議行動の動機は非政治的で利益集団的なものであったが、いったん、二重の規律が破られると、それが政治的規律逸脱行動に発展するのも容易になった。また、抗議行動によって軍人と文民の双方が軍が持っている力を再認識することになり、文民から軍への働きかけも増加した。フレイ政権後半から始まるチリ政治の両極化と暴力の増大はアジェンデ政権期に加速化し、軍を政治化させるとともに、もともと軍が持っていた反共意識を先鋭化させた。人民連合の革命を支援する軍内秘密組織も結成されたが、圧倒的多数の将校は反政府感情に煮えたぎった。クーデター派が海・空軍で優位を確立した後も、陸軍総司令官がクーデターに反対であるため、なかなかクーデターには踏み切れなかった。上官への服従の伝統がまだ強く残っていたため、クーデターを強行すれば少なからぬ陸軍の部隊が総司令官の命令に従い、クーデター派と政府派の軍の間で内戦になる恐れがあったからである。結局、1973年8月下旬に陸軍総司令官が辞任し、クーデターに道が開かれた。
著者
森永 長壹郎
出版者
同志社大学
雑誌
新島研究 (ISSN:02875020)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.82-98, 2008-02

小崎が社長に選ばれた時、彼は「宣教師たちからも完全な承認を得たのに何故、アメリカン・ボードと手を切らねばならなかったのか。「古い関係」を切って「新しい関係」を築きたかったからである。アメリカン・ボードの代表団が来日し、話し合いがあったが、分裂に終わった。同志社は外国人の管理から独立と自由を獲得し、宣教師は正統主義キリスト教の道から逸脱したと思われる学校と完全に手を切った。困難な経営と聖書削除の問題で小崎は辞任した。When Kozaki was elected, missionaries "heartily welcome" him as principal. They, however, could not have good relationships. American Board sent deligation to Japan to talk about three items. One of them was religion of Doshisha. The deligation asked Kozaki to make declaration of faith but he rejected it. The talk was not successful and separation came. Doshisha was independent of American Board but the management was hard and Kozaki resigned.
著者
鄭 仁星 工藤 雅之
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

オンライン協働学習は、議論を展開させ複雑で認知的にも活発な議論を行うことが判っており、対面式の協働に比べ、高い学習効果があることも判っている。しかし、この利点を活かすためには、綿密に設計され円滑に進行、サポートされなければならない。本研究では、4つのストレス要因が同定され、オンライン協働環境における教授方略として、異質グループの利用、学習者の相互理解を促す機会の提供、特に課題に対して自己効力の低いものには認知負荷量を増大させない課題の設定、ワークトエグザンプルの使用した課題の構成・難易度の調整が提案された。
著者
青木 輝夫 青木 忠生 深堀 正志 内山 明博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.595-614, 1999-04-25
被引用文献数
12

雪面及び大気上端(TOA)における波長別及び波長積分した積雪アルベドに対する大気の効果を調べた。そこでは空気分子、吸収気体、エアロゾル、雲による吸収と散乱の効果を、doubling and adding法とMie理論に基づいた大気 - 積雪系の多重散乱放射伝達モデルによって見積もった。波長別雪面アルベドは太陽天頂角が大きいとき、大気中の吸収気体によって大気がないときに比べて減少することが示された。その太陽天頂角依存性は波長0.5μm以下でレイリー散乱によって弱められ、ほとんどの波長でエアロゾル及び雲によって弱められた。水蒸気の豊富な大気は、太陽天頂角が大きいとき、水蒸気の吸収帯で波長別アルベドを減少させた。ところが近赤外域の下向きフラックスが水蒸気の吸収によって減少するため、波長積分したアルベドは数パーセント高くなった。エアロゾルは太陽天頂角が小さいとき波長積分した雪面アルベドを増加させ、太陽天頂角が大きいときには減少させた。しかし、エアロゾルは太陽天頂角が大きいときを除き、波長積分したプラネタリーアルベドを減少させた。光学的に厚い雲は太陽天頂角に依らず波長積分した雪面及びプラネタリーアルベドの両者を増加させた。太陽天頂角が小さいとき可視域では、雪面上における曇天時の下向きフラックスが晴天時のそれを上回り、また両者はさらに大気外日射フラックスを上回り得ることがわかった。この現象は雪面と大気(雲)の間の多重反射によって説明できる。しかし、雪面上における曇天時の全天日射量は、晴天時及びTOAにおけるそれらを上回ることはなかった。
著者
横山 泰 生方 俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

代表的な熱不可逆フォトクロミック化合物であるジアリールエテンは、ヘキサトリエン部位が光環化する際に二つの不斉炭素を生じる。ヘキサトリエン部位の周辺に不斉炭素を導入すると、環化で生じる不斉炭素の絶対立体配置が片方に偏って、ジアステレオ選択的なフォトクロミズムを生じる。我々は、ヘキサトリエンの末端に不斉炭素を導入した化合物1を合成し、不斉炭素の周辺に働くアリリックストレインを立体配座のパイロットとして用いて、88%から94%deと、高いジアステレオ選択的フォトクロミック閉環反応を実現してきた。しかし、用いる複素芳香環の接続位置を3位から2位に変えた化合物2では、比旋光度変化は13000と大きいものの、ジアステレオ選択性は47%deと大きく低下した。そこで、電子反発を有効に働かせることができるために高い選択性を示すであろう分子3を設計し、合成を行った。その結果、3の光環化におけるジアステレオ選択性は90%deまで向上した。それに伴って、光反応に伴う比旋光度変化は9530の変化を示した。この結果は、J.Org.Chem.に掲載された。さらに、アリリックストレインを働かせるパイロット置換基を両側のベンゾチエニルエテンにつけた化合物を合成したところ、ビスベンゾチエニルヘキサフルオロシクロペンテンの化合物4ではジアステレオ選択性は98%de、比旋光度変化は142goを示した。残念なことに、同じ置換基をつけたビスナフトチエニルエテン5、ベンゾチエニル基とナフトチエニル基をもつもの6、については、光反応性が極端に低下し、紫外光照射によってわずかな着色体を与えるのみであった。
著者
中挟 知延子 島田 静雄
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.41-42, 1995-09-20

本論文では、我々の作成した電子化日本語動詞辞書の構成内容を述べ、その辞書を利用して行った字面のみによる、日本語文章からの動詞の抽出実験の結果を示す。日本語文章において動詞を代表とする用言は文章を理解する上で重要な役割を担っている。そのため、文章中から動詞を正確に抽出できれば、文章の要点をつかむことができ、機械翻訳をする場合にも役に立つ。我々のねらいは、日本語文章から動詞を抽出して、そのまま機械翻訳処理にかけるのではなく、むしろ機械翻訳処理が効率良く行われるように、オリジナルの日本語文章を前もって校正しておくことにある。日本語動詞には複合動詞や語尾に「する」の付いたものがあり、これらに対応する訳語は、英語だと1つの単語ではなく2語以上の動詞句の形である場合が多く、対応する訳語として前置詞も登録しなければならない。また、「書く」・「書ける」・「書かせる」のように同じ語幹でも、語尾の活用が違っていると、対応する訳語は異なる。いずれの場合にも翻訳のための辞書はかなり大きくなってしまう。そこで、前もって日本語文章を校正して、同義のものや冗長な言い回しを簡潔な表現に統一しておけば、機械翻訳の際に辞書を参照する回数が減り、処理効率が増すと考えられる。たとえば「書き留める」の英訳は,"write down"であるが、「記録する」にも同じ英訳があてはまる。もしも文中にこれら2つの動詞が出てきたら、どちらかの動詞に統一しておけば適切であろう。しかも、そのために必要な動詞の抽出を、形態素解析をせずに字面のみでできれば、抽出のための処理の時間や処理システムの規模も少なくて済み、機械翻訳処理の前処理としてシステム全体に対して占める負荷の割合は大きくならないであろう。我々は、自家製の動詞辞書を利用するために、「動詞抽出ツール」を作成し、文章中から複合動詞・「する」動詞を含めた動詞の抽出を試みた。抽出は字面のみで行い、辞書を含めたツールの大きさも、フロッピーディスク1枚に収まる程度にしてパソコン上で実現している。今回述べる動詞辞書は漢字で始まる動詞を中心に作成し、抽出も漢字を用いる動詞にしぼっている。動詞辞書には、ひらがなで始まる動詞も含まれているが、ひらがなのものについては次回の発表で行う。以下、2章で動詞辞書の構成について述べ、3章で「動詞抽出ツール」について述べたあと、実際にツールを用いて文中から動詞を抽出した結果を示す。4章では、3章の抽出結果を考察し、5章にまとめを述べる。