著者
亀山 慶晃 工藤 岳
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高山生態系では雪解け時期を反映した連続的な開花現象が認められ、傾度に沿って花粉媒介者や近縁他種との関係が変化する。北海道大雪山系におけるツガザクラ属植物では、雪解け傾度に沿って雑種第一代が優占する広大な交雑帯が形成されており、雑種と親種の間で花粉媒介者を巡る競争が生じていた。親種の受粉成功は開花時期や年によって大きく変動し、繁殖成功(他殖率)に多大な影響を及ぼしていた。
著者
播磨屋 敏生 中井 安末
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.101-115, 1999-02-25
被引用文献数
1

日本の日本海側の山岳地域において、毎年のように豪雪が起る。その降雪の形成に貢献する雲粒捕捉成長過程が、レーダーと微物理解析によって調べられた。観測結果は次のようにまとめられる。レーダー解析によると、日本海上で形成された降雪雲は、海上から陸上に向かって移動するにつれて、発達期から最盛期となる。その後陸上を移動するにつれて消滅期をむかえる。それらの降雪雲が山岳地域に到達する時、地形性上昇流によって再発達するのが観測された。降雪強度の増加につれて付着雲粒量が増加すること、および上方がら降る氷結晶の質量フラックスの影響をとりのぞいた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが示された。そのうえ、風上から移流する雲粒量を差引いた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが風速と雲粒寄与率の関係図から推測された。この観測事実から、風速の強い時には再発達して雲粒の増加した雲内を氷結晶が落下することによって、たくさんの雲粒を捕捉して、結果として高い雲粒寄与率をもち、強い降水強度をもつ降雪となることがわかる。このようにして、雲粒捕捉成長過程が山岳性降雪の形成へ非常に貢献する。観測結果は、昇華と雪片形成成長過程もまた山岳性降雪の形成に貢献することを示した。降雪雲内の雲水量は、地形性上昇流によって形成される雲粒量のみだけでなく、氷結晶の質量フラックスとの兼ね合いで決まることが示された。観測結果は、雲粒量に比べて氷結晶の質量フラックスが少なくなる風速の強い条件下と風速が弱くても発達初期段階の降雪雲である条件下の二つの場合が人工種まき実1験のために可能性が高いことを示した。
著者
千森 督子 谷 直樹
出版者
和歌山信愛女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

目的(1)「主屋の平面構成を通して住生活の特性と変容を明らかにする」は、今まで明確にされていなかった地域独特の平面型も含め、複数の型の分布を把握し、住生活を含めた地域特性、変容を捉えることができた。目的(2)「自然風土条件でも台風や横殴りに降る風.から家屋を守るための建物の特性と変容を明らかにする」では、.除け板や石垣、生垣などの地域独特の防風.対策や屋敷構えと家屋との関係性を掌握し、変容を明らかにした。
著者
掛田 崇寛
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、代表的な甘味物質である蔗糖が誘発する鎮痛効果について探求することを目的に実施した。従来、蔗糖の甘味を利用した痛み抑制効果の検討は新生児領域では多く行われているに対して、それ以外の対象ではほとんど検討されていない。本年度は昨年に引き続き、成人を対象に、実験的疼痛による侵害受容刺激に対する蔗糖溶液の効果を検証した。実験的疼痛には、冷水を用いて痛みを誘発する方法、Cold Pressor Test (CPT)を用いた。被験者は2℃に維持された冷水中に手を浸すことで、痛み(冷痛)を感じた。使用溶液には24%蔗糖溶液と蒸留水(control)を用いて、各溶液による痛み反応の違いを検討した。各溶液はクロスーバーデザインを用いて被験者に無作為に割り付けた。その結果、蒸留水に比べて、蔗糖溶液を口に含んでいる時の方が有意に痛覚潜時(冷水中に手を浸けて痛みとして感じてまでの時間(秒))が延長した。また、蔗糖溶液は蒸留水に比べて、その味が有意に心地よいと評価されていた。よって、蔗糖の甘味刺激による鎮痛効果は新生児同様、成人でも一時的ではあるが得られることが明らかになった。また、この鎮痛機序には甘味による心地良さ、つまり情動への影響が鎮痛に関与している可能性がある。今後は成人を対象に得られた鎮痛効果が、どのような機序によってもたらされるかを検討する。また、甘味以外の味質を用いて、味刺激による痛みへの影響を検証する。以上から、本研究申請時における目標は全て達成された。
著者
原武 哲
出版者
福岡女学院短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

野田宇太郎文学資料館に所蔵されている野田宇太郎宛の諸家の書簡は二千通以上に及んでいるが、その写真撮影と複写の作業は終了し、目下その解読と注解を作業しているところである。野田宇太郎が「文芸」「芸林間歩」「文学散歩」などの高踏的な雑誌編集にたずさわっていたので、文学者からの雑誌の原稿執筆に対する応答、著書贈呈に対する返事、出版社紹介の依頼、文学碑建立の打ち合わせ、文学散歩に関するものなど、当時の出版事情や作品制作の過程が知られて、大層興味深い。特に今年度は昭和23年8月5日付から37年9月2日付までの9通の注解作業を終了し、「福岡女学院短期大学紀要」第30号に発表したところである。森茉莉は鴎外の長女として、文豪から溺愛を受け、童女のまま大人になった天衣無縫さを持っていた。野田宛の九通の茉莉書簡は彼女が文壇で注目を浴びる以前の鴎外の遺子としてのみ存在が認められていた頃のもので茉莉の素顔が垣間見られて面白い。「芸林間歩」に原稿執筆を依頼され、鴎外の回想を執筆した時の経緯が綴られている。弟類が「世界」(岩波書店)昭和28年2月号に「森家の兄弟」を発表したために、茉莉・杏奴と絶交状態になったことも伺われる。茉莉が処女出版「父の帽子」(筑紫書房、昭和32年2月)を刊行した時の事情なども伺える書簡もある。「父の死と母、その周囲」(「父の帽子」所収)を書いた時、「父の死にます時のようすや、母と祖母や伯父達との間のことを公平に」書いたと述べつつ、「どうしても母の方に同情が深くはなりますが」と心の揺れを見せている。「兄弟に友に」では弟の類と不律とのことを書いたと言いながら、雑誌「日本」創刊号の「兄弟に友に」には二人の弟のことは全く触れていない。類との不和を公表することへのためらいが感じられる。第二随筆集「靴の音」の「凱旋」の題のことや「文芸」に掲載された「或殺人」のことなど、茉莉の小説制作にかかわる裏面が表わされている。野田宇太郎宛書簡の解読作業はまだ一部しか進んでいないので逐次、解読・注解・解説をほどこし、野田と当時の文壇との関係や大きく昭和文学史の潮流を見きわめたい。今後も書簡の調査を続けていくつもりである。
著者
奥山 雄大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近年の分類学において、DNA塩基配列に基づく効率的な種認識の方法論の進展は目覚ましいが、一方で特定の遺伝マーカーに基づく被子植物の種分類あるいは種同定の試みは乏しい。これはおそらく被子植物において一般に、形態に基づく分類システムの信頼性が高いこと、また種が遺伝的に単系統群にまとまらないことが多いと信じられていることに起因すると考えられる。しかしながら被子植物の種を簡便に、そして効率的に定義できるような遺伝マーカーを見つけ出すことは、ある植物の個体を十分な形態情報無しに、正確に既記載種に位置づけたり(DNAバーコーディング)、あるいはある系統群の中に隠蔽的な種の多様性を見出したりする(DNAタクソノミー)道を開くため、極めて価値が高い。そこで昨年度に引き続き、核リボゾーム遺伝子のETS及びITS領域を用いて、日本産チャルメルソウ類の種の多様性の再評価を行った。その結果、現在10種が知られているチャルメルソヴ節において少なくとも13の明確な種を認識することができた。これは、被子植物の隠蔽種探索にETSおよびITS領域が有用であることと同時に、極めて最近に種分化を遂げた種群への適用には限界があることも示唆している。また同所的に生育するチャルメルソウ節の種間がいかにして生殖隔離を達成し、種の独自性を保って共存しているかを調査した。200通りにも及ぶ網羅的な人工交配実験の結果、チャルメルソウ節においては種間交雑が稔性を著しく低下させ有害であるにも関わらず、他種花粉を排除する仕組みはあまり発達していないことを明らかにした。一方で野外調査の結果からは、同所的に生育する種間では開花フェノロジーの違い、あるいは送粉様式の違いによって生殖隔離が達成されていることが明らかとなった。
著者
山本 一良 津島 悟 榎田 洋一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

超臨界流体中での大きな同位体効果が観測されたクリプタンド(2B,2,1)を固定相とし,超臨界二酸化炭素にメタノールを添加して塩化チウムを溶解させた流体を移動相とする系について,ブレークスルー方式によるクロマトグラフィー実験を行うことにより減圧して得られる溶出液中のLiの同位体比を誘導結合プラズマ質量分析計で測定した.溶出曲線におけるLi濃度とLi同位体比より,平衡分離係数と理論段相当高さを解析により算出し,圧力によって変化する溶媒和効果との相関を試みた.得られた平衡分離係数は,一例としては,10MPaの場合に1.025±0.009であり,理論段相当高さは約10mmであった.平衡分離係数については,超臨界二酸化炭素を用いずメタノール溶媒だけを用いた実験結果は1.040であったので,溶媒和効果の影響があり,圧力を変えることで平衡分離,係数を制御できることがわかった.圧力を高めた場合には,樹脂に対する吸着量が大きくなる傾向があり,理論段相当高さを小さくできることがわかった.溶出曲線におけるLi濃度とLi同位体比より,平衡分離係数理論段相当高さおよび吸着容量を解析により算出し,二酸化炭素モル分率によって変化する溶媒和効果との相関を試みた.この結果,二酸化炭素モル分率が小さくなると溶媒和の効果が大きくなり平衡分離係数を大きくできるが,吸着容量は小さくなることから,工学的な同位体分離においては,二酸化炭素モル分率すなわち溶媒和の大きさに最適値が存在することがわかった、さらに,超臨界二酸化炭素中の溶媒和の効果を理論的に解析するために,クラウンエーテルやポリエチレングリコールのように超臨界二酸化炭素に親和性を有する分子をモデル分子として,Gaussian 98による量子化学計算を実施し,実験結果を定性的に説明する結果を得た.
著者
間 陽子 竹嶋 伸之輔 小沼 操 竹嶋 伸之輔 小沼 操
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

我々は以前に、ウシ主要組織適合遺伝子(BoLA)-DRB3遺伝子のタイピング法(PCR-SBT)を開発して牛白血病ウイルス(BLV)誘発性牛白血病の発症に対して感受性および抵抗性を示すアリルを同定した。本研究では、南米に生育するウシ品種に適応した新規タイピング法を開発し、日本のウシを用いて同定した感受性・抵抗性アリルのアメリカ大陸(米国、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ、ペルー、チリ)における分布調査とBLV感染の有無を調査した。
著者
田村 実 スタンレー ジョージ・デ STANLEY George D.Jr. ジェームズダブルシアーズ 渡辺 一徳 ジョージ・ディー・スタン
出版者
熊本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

研究成果報告書日本の三宝山帯とはアルプス等テチス海域に特徴的なメガロドン石灰岩をはじめとする二枚貝及び造礁性サンゴ化石が報告されている。日本はアルプスを含むテチスプロパ-地域とテチスフォーナを含む米国太平洋岸地域の中間的位置を示している。勿論日本及び北米のテチスフォーナを産する地域はExotic terranesではあるが,テチス域の当時の古地理をしらべる上で重要な資料を提供しうるという点でこの度の共同研究となった。1993年に田村はWallowa産地を訪れ,又スタンレーは1993年9月より1994年8月はじめまで日本に滞在し,球磨川流域,熊本県の八代郡水上越,奈良県のアザミ谷,沖縄の今帰仁層の資料に基き,専門は異なるが夫々の資料を提供し,日本とアメリカの三畳紀(特に後期三畳紀)テチス化石群の対比を二枚貝とサンゴに基づいて行い,更にテチス域全体についてにも対比を広めた。現在入手しうる最大の資料(化石)を用いて検討したが資料の不足はなお残る。特に日本のサンゴ化石は保存が悪く又産出は礫からに限られているため充分な研究ができたとはいいがたい。今後更に資料の蓄積に努力してより確度の高い結果をえたい。全体的な結論として二枚貝・サンゴ共,テチス要素を含みテチスフォーナに属するが夫々がEndemicな要素の含有率が高く,又日米双方間についても二枚貝では共通種がなく,サンゴでは北米産60種のうち1種が共通するだけで,分布を容易にする環境ではなかったと考えられる。以下に研究により判明したことを箇条書に示す。二枚貝の研究(1)ニュートン他は北米ワラワ山地の二枚貝化石群をテチス域のものとしたが,この中に日本ではテチス域(三宝山帯)に全く産せずより内側の河内ケ谷フォーナの要素の産出を報じたが検討の結果ワラワ山地で河内ヶ谷フォーナの種に同定又は類似種とされたもののいづれもが異なることが以下の如く明かになった。(2)テチスフォーナ中の三角貝類を検討した結果,次のことが明らかになった。a.日本産の上部三畳系の三角貝はGruenewaldia decussata,Gruenewaldia vokhlmanni,Kyushutrigonia hachibarensis new genss and next species,Prorotrigonia(?)sp.でこれらはテチス域から中国西部にかけての
著者
石川 統 NORMARK Benj MORAN Nancy BAUMANN Paul 佐藤 恵春 森岡 瑞枝 青木 重幸 NORMARK Benjamin 深津 武馬 佐々木 哲彦
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.本国際学術研究を通じて,社会性アブラムシ類の生態を詳細に検討することが可能になった.アメリカ合衆国コロラド州およびアリゾナ州で行った.Thecabius populimonilisの調査の結果,従来,非移住性の生活環をもつと考えられていたこの種が,アリゾナでは移住性の生活環を,コロラドでは移住性と非移住性の生活環を併せもつことが明らかになった.また,ゴール内のアブラムシを分析した結果,本種の非移住性生活環は移住性生活環から,有翅虫のゴール内産仔と,それに有翅虫の無翅化を経て二次的に進化したという,いわゆるGP仮説を支持する証拠が得られた.アイダホ州北部で行ったClydesmithia canadensisの調査からは,ミトコンドリアDNAの塩基配列の比較などから,この種はゴール内で産仔された第3世代1齢幼虫が(有翅虫の替わりに)寄主植物の根に自力で移住する生活環をもつことが判明した.2.アブラムシ類は一部の特殊なグループを除けば,すべてが菌細胞内に原核性の細胞内共生微生物(共生体)を保有している.これまでの研究によって,アブラムシは窒素老廃物を他の多くの昆虫類のように尿酸ではなく,グルタミンおよびアスパラギンに換える能力をもち,共生体がこれらのアミノ酸から不可欠アミノ酸を合成するという窒素再循環系をもつことを明らかにした.これは有機窒素に乏しい植物師管液を食物とする吸汁性昆虫に共生体が普遍的に存在することの説明になる.しかし,今回,同じ同翅目の吸汁性昆虫であるドビイロウンカを調べた結果,共生体を利用した窒素再循環のしくみが必ずしも一様ではないことが明らかになった.ウンカは窒素老廃物を一般の昆虫と同じく尿酸へ転換するが,それを排泄することなく組織内に蓄積し,酵母様共生体のもつウリカーゼを利用し,必要に応じてそれを利用可能な有機窒素へ変えていることがわかったからである.これはむしろ,系統学的には縁の遠いゴキブリの場合に似ている.アブラムシとウンカのこのようなストラテジーの違いは,2つの間の増殖性の違い,および移住に伴う飢餓にさられる期間の違いを反映するものであろう.3.アブラムシの共生体は進化的には大腸菌と近縁のプロテオバクテリアγ3亜族に属するバクテリアである.共生体は菌細胞内にあるとき,ある種のストレスタンパク質であるシンビオニンを選択的,かつ多量に合成している.シンビオニンは大腸菌GroELのホモログで,後者と共通に分子シャペロンの活性をもっているが,それに加えて,後者にはみられない特異的機能として,エネルギー共役性に基づくリン酸基転移活性をもっている.このときのシンビオニンのリン酸化部位はHis-133で,これに対応するアミノ酸残基はGroELではAlaである.2つのタンパク質のアミノ酸配列(550残基)には86%の同一性があり,大部分のアミノ酸置換が類似的置換であるなかで,ほとんどコドン-133だけが3連続塩基の置換による非類似的アミノ酸置換をうけており,その結果としてシンビオニンの新たな機能が創出されている.今回の研究ではこの点をさらに確かめる目的で,系統的にきわめて近縁な3種のアブラムシのもつ共生体のシンビオニン(遺伝子)の構造を比較した.この結果,3者間のアミノ酸配列の同一性は99%以上で,550残基のうちコンセンサスでない部位はわずか5箇所のみであった.この1つが部位133で,1つの種ではHisなのに対し,他の2種ではAsnであり,しかも他の4部位は何れも類似的置換であった.これらの結果は,シンビオニンのコドン-133は分子進化的にみたとき一種のホットスポットであり,共生体はこの部位におこる突然変異をポジティブに選択することを通じて,シンビオニンに新たな機能を創出し,細胞内環境に適応しつつあることをうかがわせる.4.この他に,例外的に原核性共生体の替わりにアブラムシに保有されている酵母様共生体の分子系統学的位置の検討,アブラムシ腸内細菌類の同定とその進化的起源等についても多くのデータを得た.
著者
岡田 将彦 安形 麻理 小島 浩之
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.64, pp.33-53, 2010

原著論文【目的】図書館における資料保存では, 紙の長期保存が端緒となってさまざまな取り組みがなされてきた。近年, 製本形態も扱った図書の状態調査が始まったが, 無線綴じや接着剤の状態に焦点を当てた調査はほとんどない。しかし, 戦略的な資料保存のためには状態調査が不可欠である。本研究では, 現代の図書の主流である無線綴じの状態を把握するため, (1)専門書を中心に所蔵する大学図書館における無線綴じ図書の割合を明らかにする, (2)損傷状況を明らかにする, (3)損傷の原因を検討する, の3点を目的に調査を行った。【方法】調査票は, 国立国会図書館による状態調査の調査票を基に, 無線綴じに特化した項目を追加して作成した。調査対象は, 大規模開架図書館である慶應義塾大学三田メディアセンターの蔵書のうち, 1962年以降に受入した図書とした。1960年代から2000年代までの10年ごとの資料群から, ドロットのランダムサンプリング法を用いて, 和書(日本語・中国語・朝鮮語)・洋書400点ずつ, 合計4, 000点を抽出した。6名の調査者が, 調査票にしたがい, 標本を調査した。【結果】調査の結果からは, 和書・洋書ともに, ソフトカバー・ハードカバーにかかわらず無線綴じの割合が一貫して増加していること, 洋書の方が無線綴じの採用時期は早かったが, その後の増加率は緩やかであること, 現在では和書の方が無線綴じの割合が高く, 2000年代には全体の75.3%(ソフトカバーでは94.8%)に達すること, などが明らかになった。無線綴じに特徴的な損傷である背割れの割合は和書の方が高かったが, 和書・洋書ともに出版後間もない2000年代の図書でも生じているという全体的な傾向は共通していた。分析の結果, 貸出回数が背割れの大きな要因であることが明らかとなった。
著者
上寺 康司
出版者
東亜大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は,1970年代アメリカ合衆国公立学校財政の州集権化を,同年代に公立学校財政の財源負担割合を増大させた全米50州の中でも,10パーセントポイント以上の増大を示した19州について,実証的に解明することを目的として実施した。これらの19州の具体的に言えば,アラスカ州,カリフォルニア州,コロラド州,アイダホ州,インディアナ州,アイオワ州,カンサス州,ケンタッキー州,メイン州,マサチューセッツ州,ミネソタ州,モンタナ州,ネバダ州,ニュージャージー州,ノースダコダ州,オハイオ州,オレゴン州,ワシントン州,ウエストバージニア州である。これら19州の中で,ニュージャージー州,マサチューセッツ州,オハイオ州,オレゴン州,ワシントン州,カリフォルニア州,インディアナ州,モンタナ州について,特に詳しく分析した。公立学校財政における州集権化については,公立学校財政訴訟にもとづく裁判所の命令を受けた州公立学校財政関係法の制定に基づき,公立学校財政改革が実施され,その結果として公立学校に対する州の財政負担割合が増大したことを明らかにした。特に,州の公立学校財政の中心は,州が地方学区に対して配分する基礎教育補助金であり,この基礎教育補助金配分方式の改革が,州の公立学校財政改革の中心,ひいては公立学校財政の州集権化の鍵を握ることを明らかにした。加えて,その基礎教育補助金配分方式の改革にともなう,州と地方学区との基礎教育補助金の配分をめぐる政府間財政関係の変容についても明らかにした。
著者
岸 雄介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

転写因子であるSox2は、大脳を構成する神経系前駆細胞において発現しており、その未分化性の維持に重要な役割を果たしていると考えられている。このため、神経系前駆細胞の未分化性の制御機構を理解するためには、Sox2の制御機構の解明が必要だが、これについては未だほとんど知見がない。本研究では、Sox2のタンパク質量の制御や転写活性の制御を明らかにすることを目的とする。本科研費を申請した時点で、i)Sox2が神経系前駆細胞だけでなく分化した細胞でも発現していること、ii)分化に伴って細胞内局在を核内から核外へと変化させる可能性を示唆する結果を得ていた。しかしながら、マウス胎児大脳新皮質の組織免疫染色によってii)がin vivoでも存在するかどうかを検討したところ、残念ながらin vivoにおいてSox2が核外に存在することは確認できなかった。一方、咋年度にSox2の制御をin vivoにおいて検討する過程で、遺伝子の転写制御に重要である事が知られているヒストン修飾を免疫染色によって検討していたところ、その染色強度がニューロンの成熟過程で大きく変化している事を見いだした。ヒストン修飾については、これまで個々の遺伝子座において変化することは知られているが、ここで観察されたように核全体で変化しているという報告は少ない。21年度はこのヒストン修飾の核全体での変化からヒントを得て、核全体でのクロマチンの凝集状態が、ニューロンの成熟過程で大きく変化していることを見いだした。また、この変化がニューロンの成熟に重要な役割を果たしていること、この変化にクロマチンリモデリング因子複合体が重要な役割を果たしていることを見いだした。現在この研究成果についての論文を投稿すべく準備中である。
著者
森田 茂 平野 正己 西埜 進
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理研究会誌 (ISSN:09166505)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.75-81, 1991-02-25

反すう家畜の採食行動に及ぼす飼料給与順序の影響を明らかにするため、各飼料給与時に観察された採食期(採食開始から終了まで)を採食期継続時間により分類し、採食を継続する確率および採食期回数から検討した。供試動物にはホルスタイン種去勢牛8頭を用いた。給与した飼料は、ペレット状配合飼料と細切2番刈乾草である。これら2種類の飼料の給与順序を変え、先に給与した場合(先給与)と後に給与した場合(後給与)の各飼料の採食量、採食時間、採食期回数および採食を継続する確率を比較した。1日当り採食量および採食時間は乾草において先給与の方が後給与より有意(P<0.05)に多かった。しかし、配合飼料では差は認められなかった。両飼料の採食期とも採食継続時間の分布から、採食を継続する確率の異なる4分以下の採食期(タイプA)と4分を超える採食期(タイプB)に分類された。タイプAの採食を継続する確率は、乾草での先給与の方が、配合飼料では後給与の方が高かった(P<0.05)。これに対し、タイプBの採食を継続する確率は、いずれの飼料においても先給与の方が後給与より有意(P<0.05)に高かった。各タイプの採食期回数は、乾草のタイプBでのみ有意差(P<0.05)がみられた。また、各採食期より求めた採食時間においても、乾草のタイプBのみで給与順序による差が認められた(P<0.05)。 日本家畜管理研究会誌、26(3) : 75-81.1991 1990年2月10日受理