著者
柳橋 博之
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.19, pp.27-43, 2003-09-30

後世のハナフィー派はタウリヤを、「信頼売買」の一つとして定義している。同派は、タウリヤにおいては、売主が目的物の取得に要した原価を表示し、それと同額で転売することから、これを商取引に疎い買主を保護することを目的とする売買と解したのである。しかしイスラーム法形成期の8世紀の少なくとも初頭においては、タウリヤが締結される場合、買主が目的物を転売することによって得られる転売益について売主が一定の取り分を留保することが予定されており、従ってタウリヤは一種の組合契約であった。しかし、タウリヤは形式上は売買であって、所有権を移転する機能を有することから、その締結後、ないしは少なくとも目的物の引渡しが完了した後には、その滅失・毀損について売主は危険を負担しなかった。しかし、「危険を負担しない物から利益を得てはならない」という原則が8世紀前半に導入されることによって、このいわば原タウリヤ売買は非合法化され、それに代わるものとして、イシュラークが導入された。
著者
林田 伸一
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、フランス絶対王政の地方行政の末端を担った地方長官補佐(subdelegues des intendants)について検討することによって、近世フランスの権力構造の特質を明らかにすることにあった。フランス西部地方のアンジェの地方長官補佐をケース・スタディとしてとり上げ、従来制度的研究に傾いていたため検討がなされてこなかった地方長官補佐の実際の機能について、主として考察した。国王政府から広範な権限を委ねられながらも任地の事情に不案内であり、きわめて小さな下部組織しか備えていなかった地方長官は、任地の行政において在地の有力者である地方長官補佐の活動に依存するところが大きかった。その地方長官補佐の活動を網羅的に検討してみると、地方長官補佐は、王権の要求の実現のために動くと同時に、地方の必要を王権に伝えていることが明らかになった。すなわち、王権と地方的諸権力の間に立って、両者の利害を媒介する機能を担っていたとみられる。権力というものを近代国家的に、中央政府から発して地方に伝わっていくと考えるならば、地方長官補佐が在地の名望家であることは、マイナス要因として評価される。しかし、王権が地方にかなりの程度浸透して来ているとはいえ、まだ公権力が一元化されていない状況の中では、そして、中世的な代表制度も近代的な代表制度も欠如しているこの時代にあっては、地方長官補佐が名望家として二つの顔を持っていることは、王権の地方行政が動いていくうえで、逆に有効性をもっていたと考えられるのではないだろうか。
著者
武藤 晃
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.43, no.7, pp.604-614, 2000
被引用文献数
1 3

レファレンス・サービスに精通したライブラリアンや情報分析を専門とするスペシャリストは多くの分野の情報を扱い,彼らからみれば特許情報はその一部にすぎない。しかし,科学技術文献に絞ってみれば特許文献のウエイトはきわめて大きい。それにもかかわらず,特許情報は知財部門のパテントサーチャが扱い,情報スペシャリストは一般技術情報を扱うという「棲み分け」ができてしまったかのようである。知財部門と情報部門の連携がうまくいき,パテントサーチャと情報スペシャリストとが互いに協力する構図ができていれば問題ない。現実はそうばかりでない。パテントサーチャは一般技術情報には消極的であり,情報スペシャリストは特許情報に疎い。知財部門からみた場合,一般技術情報を必要とする局面は確かにあり,情報部門から特許情報を必要とする局面もあることは容易に想像つく。両者は互いの専門領域の情報を必要とする局面があるにもかかわらず,その局面への相互乗り入れが低調である。多くの情報スペシャリストにとって特許情報は扱いにくい情報である。法的な側面に加え,特有ないくつもの特許分類,複雑な国際的な対応関係などが横たわっているからである。世界的な規模において重要化している知的財産権を考えると,情報スペシャリストにとって特許情報は扱いにくい情報であってはならない。最近の知的財産権分野の状況をみながら,特許情報の扱いの難しさの周辺を探る。
著者
熊本 忠彦 太田 公子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告自然言語処理(NL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.4, pp.35-40, 2002-01-21
被引用文献数
8

我々は、音楽作品に関する知識が乏しい人でも簡便に利用できる「印象に基づく楽曲検索システム」を構築している。楽曲検索には、曲名や作曲家名、演奏家名といった書誌的な情報に基づくものや、(鼻歌)や歌声などの音響情報を用いたもの、歌詞(テキスト)情報に基づくものなどがあるが、これらの検索手段では、知らない曲や内容を忘れてしまったような曲など必要な情報を提示できない曲は検索できない。これに対し、印象に基づく楽曲検索は、楽曲の印象という曖昧な入力でも検索できるので、音楽情報に疎い人でも利用することが可能である。楽曲検索システムへの入力(すなわち印象)は、複数の印象尺度(楽曲印象を表現する形容語の対からなる尺度)とその評価値(7段階評価)の組合せによって表現される。したがって、楽曲検索システムがユーザフレンドリーであるためには、ユーザの検索意図を表現できるような印象尺度を用いる必要がある。本稿では、そのような印象尺度の設計方式を提案する。なお、楽曲のジャンルとしては、いわゆるクラシック(古典的西洋音楽)を対象としている。We are developing a system that will retrieve a music piece based on the user's impressions of it. People who have extensive knowledge of music can easily retrieve a specific music piece from a large music database by inputting concrete information such as the title, the names of the performers, or the name of the composer. However, people who lack such knowledge have difficulty in retrieving a specific music piece because they cannot give concrete information about it. Our music-retrieval system will enable anyone to easily retrieve a specific music piece by inputting expressions that describe their impressions of it. We have defined ten pairs of words the system will accept as input and have designed an impression scale for each one. Each scale has two words representing contrasting impressions, e.g. "sad" and "happy," and seven scale values between the two words. Users select a scale value for one or more scales to represent their impressions of the target music piece.
著者
伊藤 寛 堀内 格 成瀬 博昭 坂上 充志 本多 英邦 長村 洋一 西田 圭志 石黒 伊三雄 山崎 雅彦
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, 1988-08-01

N-acetylneuraminic acid(以下NANA)はαおよびβ-globulin分画の糖蛋白質に含まれ,急性炎症,悪性腫瘍などで上昇するといわれている.その上昇に関与する蛋白質の性状は異なることが推測されることから大腸癌症例における詳細な糖蛋白質の動態の追跡を目的として,糖鎖末端にgalactose(以下GP)およびNANA-galactose(以下NGP)を有する糖蛋白質の定量を試みたので報告する.
著者
藤井 眞理子 大塚 一路 高岡 慎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、短期から長期までを含む金利の期間構造全体の時間変動、すなわち、ある特定の時点における満期方向へのクロスセクションの動きとそれらの時間を通じたダイナミックな変動を3次元空間における一体的変動として把握し、記述するモデルを構築した。特に、近年のマクロ・ファイナンスのアプローチをも参考としてマクロ経済状況と期間構造の3次元的変動の関連を考慮したモデル構築を行った。準備として利付国債のデータからゼロイールドの時系列を求め、はじめにレジームの変化を想定したモデルによる分析を進めた。すなわち、アフィン期間構造モデルにレジームのマルコフスイッチングを考慮したモデルおよびより柔軟なランダム・レベルシフトのモデルを期間構造の時系列に適用した結果、一定の局面転換が統計的に検出され、それらがマクロ経済状況の変化ないし金融政策の転換等に対応していることが観察された。このため、マクロ経済変数との関係を明示的に考慮する期間構造の変動モデルを仮定して実証分析を進めた。まず、イールドカーブをNelson-Siegelモデルと呼ばれる関数で近似し、カーブを特徴付けるレベル、傾き、曲率という3要素の時間変化に影響を与えるマクロ変数について検証した。次に、この分析により適切と考えられるマクロ変数を用いてカーブの3要素と期間構造を状態空間モデルの枠組みを用いて同時にモデル化し、カルマンフィルタによる推定を行ってモデルを特定した。このモデルは、全体としてはイールドの3次元変動をよく近似できるが、過去の個別の局面を分析すると具体的なマクロ変数の選択には改善の余地もあることも分かった。なお、本研究では、仮想ポートフォリオを用いたカリブレーションなどについては十分に研究を進めるに至らず、今後の課題となった。
著者
釜江 廣志 皆木 健男
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

近年の国債先物の取引市場の効率性については、ボラティリティの非対称性の検証をすることも併せて、頻度の高いデータによって分析を行うと、取引に関する新たな情報として取引量とスプレッドが国債先物価格に影響を与えている。またボラティリティが高い状況や低い状況がそれぞれしばらく持続する。これらのことから市場の非効率性が存在していると判定することができた。
著者
中江 次郎
出版者
奥羽大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

研究目的:通常支配神経が絶たれる大胸筋皮弁や広背筋皮弁に神経移植を行った場合にも、従来行われてきた神経縫合や神経移植術と同様に、筋機能が回復するか否かを組織学的、組織化学的に検索する事を目的に研究を行った。実験方法:実験動物には日本白色ウサギを用い、大胸筋皮弁と広背筋皮弁を形成した後、その皮弁内に残存する神経支配をおよび筋線維の分化や萎縮、筋線維のタイプ変化を検索した。検索方法:大胸筋皮弁、広背筋皮弁部および皮弁周囲組織をそれぞれ摘出し、皮弁の外側部、中央部、血管側部の3つに分け、神経支配がどのようになっているかどうかH-E染色、Gomoriトリクローム染色、ATPase染色およびアセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色を行い検鏡し、大胸筋皮弁、広背筋皮弁の筋線維タイプ構成比率について検索した。また、移植部周囲の筋組織についても同様に検索を行った。結果:実験において、大胸筋皮弁、広背筋皮弁ともに、中央部、血管側部については筋肉の萎縮や異常な所見はなく、外側部には筋線維の萎縮が確認できた。また、移植部周囲の筋組織については、筋線維の萎縮が確認できた。ATPase染色においてタイプ2C線維の出現と筋線維の萎縮が確認できた。術後4週頃よりタイプ2C線維の減少とともにタイプ1線維や2線維が増加し、さらにAChE染色では神経筋接合部の活性が確認できた。
著者
水野 進 寺井 弘文
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.235-240, 1979

現在, 果実の鮮度保持剤(エチレン吸収剤)として市販されている, GP, NGP, AP-1,V-2について, そのエチレン吸収能力を検討した結果, 普通の包装状態(湿大気状態)では, NGPおよびAP-1のみが, エチレン吸収剤としての効力をあらわし, AP-1が, エチレン吸収能力(吸収速度と許容量)で最もすぐれていた。また, エチレン吸収剤を, ポリエチレン密封と併用することにより, 袋内がCA状態にあると共に, 袋内エチレン除去が可能であり, 単なるポリエチレン密封よりも, 果肉軟化の抑制, 内容成分の保持, すなわち, 鮮度保持に効果が期待出来るのは明らかである。
著者
小田垣 孝 松井 淳
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、ガラス形成過程で見られる動的性質を統一的に理解し、ガラス化過程の本質を解明することにある。トラッピング拡散模型を発展させ、動的性質の総合的な理解、またそのモデルの基礎付けを行うこと、分子動力学シミュレーションによって、ガラス化過程における動的性質の変化を調べて、ガラス化過程の物理的理解を行うことを目指した。まずトラップされた運動およびジャンプ運動を考慮したトラッピング拡散模型の解析を行い、動的構造因子、一般化された感受率の温度依存性を求めた。主緩和時間が、Vogel-Fulcher則に従うことを示した。また、ノンガウシアニティーの温度依存性を求め、実験と定性的に一致する結果を得た。また、感受率の実部の対数に対してその虚部の対数をプロットするlog-コール・コールプロット法を開発した。二成分のソフトコア系の分子動力学シミュレーションを行い、動的構造因子、感受率の振動数依存性が、トラッピング拡散模型でよく再現されることを示すとともに、α-緩和の緩和時間がVogel-Fulcher則に従うこと、β-ピークはボソンピークと考えられること、速い過程が存在することを示した。格子点sを中心にした調和振動子を考え、さらに平衡位置sが二種類のストキャスティックな運動を行う理想3モードモデルを提案し、これらの運動が過冷却状態で見られる動的性質の特徴を再現することを示した。トラッピング拡散モデルの基礎付けを行い、活性化エネルギーが分布した活性化過程による緩和が、一般にトラッピングモデルで表されることを示し、持ち時間分布の各モーメントの発散から様々な特異温度を統一的に理解できることを示した。また、温度とエクセスエントロピーの積のガラス転移点における値からのずれが、適切なパラメーターであることを示した。
著者
釜江 廣志 秋森 弘 皆木 健男
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

明治から昭和戦前期までの国債・地方債・社債の各市場を取り上げ、とりわけ引受シ団(引受シンジケート)との関わりを中心にこれらの市場がどのように変遷してきたか、また、特に国債のうち戦前の甲号 5 分利債などの主要銘柄と戦後の国債の取引において市場の効率性が実現していたかを検証し、効率性が認められないことを示した。併せて、マクロ経済の動向と国債現存額がイールド・カーブの形状に与える影響を分析し、最近のイールド・カーブのスティープ化を引き起こした要因を考察するとともに、東京証券取引所の長期国債先物市場における流動性と取引コスト,取引リスクの関係について分析した。
著者
薄井 宏
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.332-342, 1958-08-25
被引用文献数
4

1. この報告は奥日光森林植生調査の第二報で男体山を除く全域についての調査をとりまとめた。2. 奥日光は夏雨型の太平洋型気候と冬雨型の日本海型気候とが共に支配する境界域であつて, その境界線はミヤコザサとチマキザサの分布境界と一致する。即ち刈込湖, 湯元, 小田代ガ原, 千手ガ原を結ぶ線である。3. ミヤマハンノキ=オノエガリヤス林は高山帯の崩壊地に発達する二次林で, そのススキ=スゲ型林床は男体山大薙崩壊地の二次林, ヤシヤブシ=トウヒレン群集と同一の植生類型を示す。4. ウラジロモミ林は奥日光においては, 噴出の比較的新しい男体山にのみみられる群落である。第三紀地質の山では, コメツガ林とブナ林とは直接に接続して, その中間にウラジロモミ林はみられない。これは第三紀地質の山では侵蝕作用がすすみ, 地形が急なためにツガ型森林が下降してブナ林と接続することによる。5. 太平洋側に発達するブナ林は, ブナ=スズタケ群集と呼ばれる如く, スズタケを林床にもつ場合が多い。しかし今回の調査によつて太平洋岸内陸部山地のブナ林では, ミヤコザサの勢力が圧倒的に強いことが明らかにされた。その原因は, 雪の少ない寒さのきびしい冬の気候がスズタケの生育地を局所的に積雪の多い山足地あるいは谷すじに限定し, 代つてミヤコザサがその半地中植物的な寒さに有利な形質をもつ故に, 殆んど全域にわたる程の広い分布領域を穫得できたからであろう。なぜならばミヤコザサはその上半部の稈節に芽を欠如しており, この形質が地上冬芽の生活形から半地中植物的な生活形への変化を表示するからである。6. 植生調査の結果は次の如き群集にまとめられる。高山帯 : 1. ハイマツ=コケモモ群集のダケカンバ亜群集 2. ミヤマハンノキ林 亜高山帯 : 3. コメツガ群集 A.アスナロ亜群集 4. ヒメコマツ=シヤクナゲ群集(新称) 5. ウラジロモミ林 山地帯 : 6. ブナ=スズタケ群集のミヤコザサ, フアシース 7. ハルニレ群集 8. オオバヤナギ林 9. カラマツ=シラカンバ林
著者
薬袋 契子
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.186-186, 1966-04-25

東京女子医科大学学会第135回例会 昭和41年1月28日(金) 東京女子医科大学本部講堂
著者
目黒 紀夫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度はケニアにおいて約3ヶ月の現地調査を行い、それと前後して3件の学会発表と2本の研究成果を発表した。現地調査では、利害関係者間の合意形成のあり方を集中的に調査した。第一に、新たに野生動物保護区を建設しようとする国際NGOと地域住民が結成する土地所有者グループのあいだの集会の様子を参与観察した。国際NGOは保護区がもたらす便益について曖昧さを残した説明を続けながら住民とのあいだに建設の契約を取り交わすことに成功したが、その後に契約内容を正確に理解していない住民とのあいだに軋轢を持つようになった。住民は土地所有権が契約によってどのように制限されるかを理解しておらず、相互に不信感を持つ住民と外部者のあいだでいかに協働体制を構築するかは大きな課題であることが判明した。また、共有地上に建設された野生動物サンクチュアリを経営する観光会社の契約更改が近づき、新しく契約する会社をどこにするかをめぐり地域コミュニティのリーダー間で対立が生じた。結果として、好条件を提示していた会社との契約が不可能となっていた。これまでリーダー表立って相互に敵対することはなく、土地の私有化にともないコミュニティ内の紐帯に変化が生じており、それがコミュニティ全体の利益を阻害する可能性があることが確認できた。地域コミュニティを主体とした野生生物保全の可能性を、これまで外部者が持ち込むプロジェクトの成果から検討してきたが、本年度の調査からはプロジェクトが一定の成果を上げたとしてもコミュニティ内および地域内外の人間関係が良好でない時には、保全に向けたイニシアチブが地域において生まれにくいことが明らかとなった。
著者
海部 宣男
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.245-251, 1999-04-05
被引用文献数
1

国立天文台がハワイ島のマウナケア山頂に建設を進めてきた口径8.2m光学赤外線望遠鏡「すばる」が, ファーストライトを迎えた. 1991年の建設開始から約8年である. 総合調整・試験観測に今後一年余をかけ, 2000年度には共同利用を開始する. 本稿は編集部のご要望に応じ, 1月29日(ハワイ時間1月28日)に発表したファーストライトの結果を中心に, 試験観測のスタートラインに立ったすばる望遠鏡の現状と展望を速報的にご報告するものである.
著者
樋渡 保秋 高須 昌子
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.ガラス転移点近傍のダイナミックスの異常性 液体の密度の揺らぎの緩和時間はガラス転移点に近づくにつれて非常に長くなる。このような緩和時間の異常性(dynamical slowing down)にともなって、転移点近傍で動的な物性に異常が現れる。我々は簡単な二元合金モデルを用いて長時間分子動力学シミュレ-ションを行う事から過冷液体のslow dynamicsや動的構造およびガラス転移のミクロな機構について考察した。主な結果は、(1)高過冷液体では密度緩和(自己相関関数)がいわゆる引き延ばされた指数関数となる。(2)原子の自己拡散は主としてジャンプ運動による。これらは主に、単原子のジャンプ運動によるものではなく数個ないしは数十個の近傍の原子が連なって協力的に起こる。(3)ノンガウシアンパラメ-タの極大値が通常の液体のそれに比して異常に大きく大きくなる。このことからも原子拡散が単純なブラン運動から予測されるものと大きく異なることが分かる。(4)ノンガウシアンパラメ-タの極大値とその時の時間の値の積とからガラス転移点を見積もる事が出来る。この方法の最大の長所は転移点が中間時間領域の情報から求められることにある。従って、従来の拡散係数などの温度依存性から求める方法では避けられない困難な問題(拡散係数を求めるには長時間の情報を必要とする)が回避できる。(5)(1)で述べた指数の値は温度(密度)の値によって単調に変化する。従って、これはモ-ド結合理論の結果と異なる。2.ガラス転移点近傍のslow dynamicsの理論 トラッピング拡散モデルを用いて過冷液体中の原子拡散の理論的考察を行った。3.過冷液体の2体分布関数の理論 2体分布関数の積分方程式の近似精度をあげることから、液体はもとより過冷液体、ガラス状態の熱力学的諸性質が従来の近似理供よりもはるかに高い精度での計算が可能となった。これを用いて近距離相互作用(斥力)の型と二成分系の相分離傾向の関係について興味ある結果を得た。
著者
西沢 理 菅谷 公男 能登 宏光
出版者
秋田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

脊髄損傷群での膀胱重量と体重の変動についてみると,24頭の対象として,生後10週に胸腰椎移行部での脊髄損傷を作成し,その後1週毎に,4週間の生後14週までの11,12,13,14週で,各々,5,6,9,4頭において測定した膀胱重量と体重は,それぞれ153.7±51.7,241.2±112.7,176.6±136.6,544.0±213.3mgと133.3±7.5,140.0±8.2,158.9±16.6,125.0±16.6gであり,膀胱重量の増加は著明であった。コントロ-ル群での膀胱重量と体重の変動についてみると,50頭を対象として,10週から,1週毎に,4週間の14週まで各10頭において測定した膀胱重量と体重はそれぞれ,60.6±5.6,43.9±6.2,42.2±6.0,41.5±6.5,40.5±5.9mgと160.0±4.5,162.0±7.5,166.0±8.0,161.0±9.4,171.0±7.0gであり,膀胱重量には変化がなかった。膀胱NGFの変動についてみると,コントロ-ル群では生後11,12,13,14週で,それぞれ,326.9,478.5,85.5,65.7ng/g組織重量であり,脊髄損傷群では脊髄損傷作成後1,2,3,4週で,それぞれ,292.5,392.4,280.3,708.2ng/g組織重量であった。脊損後には脊髄ショックに続発した尿閉となるが,排尿が自立する1週間後以降から膀胱からのNGFが増加することを予期したが,コントロ-ル群と比較して,脊損群のNGF値に変化が生じたと断定することはできなかった。膀胱重量は尿道閉塞ラットと同様に脊損後に増加したが,膀胱NGFには変化がないことから,脊損と尿道閉塞とでは異なる機序で,膀胱重量の増加が起こるものと思われた。脊損時には,損傷部位のレベルにより,仙髄排尿反射中枢の活動が亢進する場合と低下する場合があり,胸腰椎移行部での脊髄横断では仙髄排尿中枢自体が損傷を受け,その活動性が低下していた可能性も高い。
著者
中江 次郎
出版者
奥羽大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究目的:通常支配神経が絶たれる大胸筋皮弁や広背筋皮弁に神経移植を行った場合にも、従来行われてきた神経縫合や神経移植術と同様に、筋機能が回復するか否かを組織学的、組織化学的に検索する事を目的に研究を行った。実験方法:実験動物には日本白色ウサギを用い、大胸筋皮弁と広背筋皮弁を形成した後、その皮弁内に残存する神経支配をおよび筋線維の分化や萎縮、筋線維のタイプ変化を検索した。検索方法:大胸筋皮弁、広背筋皮弁部および皮弁周囲組織をそれぞれ摘出し、皮弁の外側部、中央部、血管側部の3つに分け、神経支配がどのようになっているかどうかH-E染色、Gomoriトリクローム染色、ATPase染色およびアセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色を行い検鏡し、大胸筋皮弁、広背筋皮弁の筋線維タイプ構成比率について検索した。また、移植部周囲の筋組織についても同様に検索した。結果:実験において、大胸筋皮弁、広背筋皮弁ともに、中央部、血管側部については筋肉の萎縮や異常な所見はなく、外側部には筋線維の萎縮が確認できた。また、移植部周囲の筋組織については、筋線維の萎縮が確認できた。今後の展望:大胸筋皮弁・広背筋皮弁を形成した後、皮弁内に残存している神経支配、筋線維等を観察を行った。今後、これらの検索を継続するとともに、アセチルコリン活性や免疫組織学的(NGP、PGP、Brdu)な検索と電気性理学的(筋電図)な検索を加え、筋線維の分化や萎縮、筋線維のタイプ変化を観察していく予定である。