著者
胡 振程 内村 圭一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解
巻号頁・発行日
vol.98, no.490, pp.141-148, 1998-12-18
参考文献数
13

時系列道路情景画像による走行道路環境の奥行き推定は, 安定的な車線追跡, 先行車両との距離保持及び障害物の検出などにおける重要な研究課題となっている.従来のステレオ視覚などの方法では, 複数カメラを取りつけ際の相対位置の設定誤差やカメラの振動による計測精度の低下などの欠点が存在している.本研究では, 車載カメラのFOEを用いたカメラの運動パラメータの計測により走行道路環境の奥行きを推定する.理論的に, 3個だけの対応点対で線形的に解けるカメラの運動解析によって, より高速で正確な奥行き推定が可能となる.実際の道路情景画像を用いた実験により提案手法の有効性を検証する.
著者
中山 憲司 中島 美知子 浦口 弘子 山崎 由香 林 三起子 林 玲子 市原 侃 久保 亜希子 加藤 芳伸
出版者
北海道立衛生研究所
巻号頁・発行日
2002-11-29

道央圏の岩見沢・小樽・北広島市3市で実施された3歳児検診時の尿検査検体を用いたウィルソン病(WND)のパイロットスクリーニングに関して報告した。本スクリーニングでは、尿中セルロプラスミン(Cp)濃度を指標とした。平成13年6月27日から平成14年1月18日までに、968名がWNDスクリーニング検査を受診し、受診率は90.4%に達し、WNDスクリーニングの高いニーズが明らかとなった。再検査数は68名、再検率は7.02%となった。要再検査検体では、正常と判定された群と比較し、有意な(p<0.001)Cp濃度の低下が認められた。再検査対象者のうち、12名について再々検査を実施した。現在までに、6名に対して精密検査受診勧奨を行った。2名が精密検査を受診し、1名について病因遺伝子の解析を実施した。
著者
今野 喜和人 田村 充正 南 富鎭 桑島 道夫 花方 寿行 山内 功一郎 トーマス エゲンベルク
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

異文化間に生じる「恋愛」「結婚」を扱った世界各国の近現代文学、および「恋愛」「結婚」を語る諸言語テクストの影響関係や翻訳において発生する文化衝突と誤解を多角的に分析し、現代におけるナショナリティ・文化・エスニックグループ、ジェンダー・世代・ミリュー等々の間の政治的・社会的支配/被支配の構造と歴史観を分析・検証することで、「異文化理解」にまつわる諸問題を明らかにした。
著者
高谷 康太郎
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

冬季東アジアモンスーンの経年変動に伴う偏西風変動には大まかに二つのパターンがあることを明らかにした。これらのパターンは冬季モンスーンの変動を考える際の「基本」となるものである。また、北日本の冬季気候に大きな影響を与える北極振動の時間発展の力学も明らかにした。さらに、熱帯海水温と冬季気候の関係を精密に解析し、今まであまり注目されてこなかった事実を明らかにした。これらの成果により、冬季東アジアモンスーンの経年変動の力学の理解および予測可能性の精度向上に貢献することができたと考えられる。
著者
遠座 昭 飯沼 清 吉田 智治
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.81-87, 1995-04-10

1月17日に発生した兵庫県南部地震は、阪神間の平野部に大きな被害をもたらしたが、被害は周辺の台地、丘陵地にも生じた。筆者らは地震発生の翌日(平成7年1月18日)から平成7年1月25日にかけて、比較的被害の小さかった芦屋市〜宝塚市にかけての六甲山地東南縁の丘陵地において、地震被害の調査を行った。調査範囲には、既往の文献^1)により活断層とされている甲陽断層が北東-南西方向に走り、また台地、丘陵地を開析する谷が発達することから、地形・地盤条件と地震による被害の関連を検討できる資料が得られるものと考えられる。調査地域の全般的な予察踏査を行った後、芦屋から武庫川にかけての地域に甲陽断層に直交する14のルートを選定し(図-1、p.84)、縮尺1:2,500の地形図を用い現地踏査を行い、顕著な地盤変状、家屋ほかの構造物の破壊状況および道路面に見られる顕著なクラックの分布や形状等について調査した。ここでは、上記調査結果のうち、主に地形や地盤条件に大きく影響されて生じたと考えられる地盤の変状について報告する。なお、調査は(株)建設技術研究所大阪支社、東京支社および福岡支社の地質部員によって行われた。
著者
小鹿 一 丸山 正 大場 裕一 吉国 通庸
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

沖縄産シャコ貝(ヒメジャコ、Tridacna crocea)の外套膜に共生する渦鞭毛藻(Symbiodinium属)の種類を明らかにするために、まず株化された渦鞭毛藻を用いて分子系統解析法の確立を行なった。藻体よりゲノムDNAを抽出後、5.8SrRNAのITS領域および18SrRNAのV1領域をPCRにより増幅し、ダイレクト・シークエンス法により配列を決定した。続いて、分子系統解析ソフトPhylipを使用して、近隣接合法(NJ)により渦鞭毛藻の系統関係を解析した。その結果、これまで未知であった株の系統が明かとなった。この方法を用いて、つぎに実際のシャコ貝にどのような種類の渦鞭毛藻が共生しているのかを調べた。これまで、シャコ貝には複数種の渦鞭毛藻が共生していることはわかっていたが、どのような種がどのくらいの割合で共生しているのかは不明であった。そこで、ヒメジャコの外套膜より取り出した藻体を用いてDNAを抽出し、PCRを行なった。続いて、このPCR産物をプラスミドベクターに組み込み、大腸菌にトランスフォーメーションした。現在は、得られてきたコロニーに対しコロニーPCRを行ない、ひとつひとつのコロニーがどの種類の渦鞭毛藻に由来したDNAを持っているかを制限酵素とシークエンスを併用して決定する方法を確立している。また、渦鞭毛藻の系統に対応して興味深い低分子化合物がさまざま産生されていることが明らかになってきた。その中には、新規化合物であるzooxanthellamide類やzooxanthellactoneなども含まれる。これらの化合物が共生過鞭毛藻に特異的であることから、何らかの共生現象に関わっている可能性が期待される。
著者
橋本 遼 高田 善規 新熊 亮一 田仲 理恵 板谷 聡子 土井 伸一 山田 敬嗣 高橋 達郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MoMuC, モバイルマルチメディア通信 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.40, pp.81-86, 2010-05-13
被引用文献数
1

情報発信者が人々に情報を受信させるための手法として,人をノード,友人関係のつながりをリンクとしたソーシャルグラフを経路とするクチコミ情報伝播が注目されている.クチコミ情報伝播では,人に必要な情報や信頼できる情報が届きやすいことが報告されている.しかし,人の送信行動に関わる心理的負担(コスト)が問題となり,情報の伝播が止まったり,情報の広がりが遅くなることがある.この問題を解決するために,送信行動に伴うコストを補償するためのインセンティブ報酬付与が提案されている.本稿では,送信者に対して付与する報酬に条件を与え,受信者が情報に対して反応行動を起こしたときのみ報酬付与を行う方式を提案する.この方式は,支払う報酬の総和を増やすことなく,受信者の反応行動を促進させることができる.これを示すために行った社会実験について報告する.
著者
アルモアリム フセイン 秋葉 泰弘 金田 重郎
出版者
社団法人人工知能学会
雑誌
人工知能学会誌 (ISSN:09128085)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.421-429, 1997-05-01
被引用文献数
7

This paper studies the problem of learning decision trees when the attributes of the domain are tree-structured. Quinlan suggests a pre-processing approach to this problem. When the size of the hierarchies used is huge, Quinlan's approach is not efficient and effective. We introduce our own approach which handles tree-structured attributes directly without the need for pre-processing. We present experiments on natural and artificial data that suggest that our direct approach leads to better generalization performance than the Quinlan-encoding approach and runs roughly two to four times faster.
著者
三瓶 良和
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

白亜系~新第三系の日本の代表的な付加体(四国南部・長野県南部・静岡県・千葉県房総半島)において,泥岩有機物の濃度・起源,最大古地温および堆積環境等の復元・検討を行った.その結果,有機炭素濃度が最大11%までの泥岩層が確認され,最大古地温は全域で60~270℃と推定され,100km幅で1000年間に約1ギガトンの炭化水素が発生していることが分かった.この値は,世界最大のガワール油田(サウジアラビア)の約10分の1弱の規模に相当する.付加体が「大規模な長期継続型炭化水素生成システム」として成り立つことが示唆された.
著者
白尾 智明 関野 祐子 安田 浩樹
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

初代培養神経細胞系と遺伝子変異動物を用いて、神経細胞樹状突起スパイン内のアクチン結合タンパクの変化はシナプス機能変化に直接結びつくことを明らかとした。次いで、アクチン結合タンパクのスパイン内集積動態を測定することにより、グルタミン酸作動精神系繊維は、グルタミン酸受容体の二つのサブタイプを使って、両方向性にアクチン結合タンパクのスパイン内集積を制御していることが明らかとなった。
著者
金兼 弘和
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中国上海市の復旦大学小児科学のDr. Xiaochuan Wangと韓国太田市の忠南大学微生物学のDr. Eun-Kyeong Joを研究協力者として、本研究を行った。以前に復旦大学においてフローサイトメトリーならびに遺伝子解析によるX連鎖無γグロブリン血症(XLA)の診断の技術指導を行い、すでにXLAの遺伝子解析については報告済みであるが、その後診断された症例数も増えている。またJeffery Modell Foundationからの基金も得て、中国における先天性免疫不全症(PID)のレファランスラボとして整備されつつある。また以前に私たちが同定したXLAの責任遺伝子BTKの非翻訳領域であるイントロン1の点変異例(IVS1-5G→T)の解析を忠南大学で以前に同定された同様の症例と比較検討して、レポーターアッセイを行い、活性が低下していることを報告した(Pediatr Int, in press)。PIDは疾患によっては多様な臨床表現型を有したり、非典型的表現型を有したりするものが少なからず存在することもあれば、複数の原因遺伝子により同様な臨床表現型をとることもあり、遺伝子診断による確定診断の重要性が増している。しかしPIDの原因遺伝子は100以上が知られ、網羅的遺伝子解析が必要と思われるが、大変な労力を要する。そこで理化学研究所免疫アレルギーセンター(RCAT)とかずさDNA研究所の協力で、PIDの既知遺伝子を網羅的に遺伝子解析するシステムを立ち上げた。これまでのわが国のPIDのデータベースは紙媒体によるものであったが、RCAI内にWeb入力にヨルデータベース(PIDJ)を立ち上げた。さらにPIDの責任遺伝子と他の分子との相互作用ならびにPIDの候補遺伝子検索に有用なデータベース(RAPID)についても立ち上げた。今後はこれらのデータベースをアジア全体の患者を対象となるものに広げ、欧米のデータベースとリンクさせ、アジアはもちろんのこと世界に発信できるものとしたい。
著者
柿崎 正樹
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.19, pp.175-205, 2003-09-30

本稿では、トルコ共和国における共和人民党の社会民主主義政党への変容とそれに伴う党理念の変遷を、第三代党首ビュレント・エヂェヴイットの著作や発言を中心に分析することを試みる。共和人民党は共和国初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクによって1923年に結党され、一党支配体制の下、共和国の近代化を進めるべく様々な改革を断行した。1931年には「六本の矢」として知られるケマル主義六原則を党大会で採択し、共和主義・世俗主義・民族主義・人民主義・国家資本主義・革命主義を党の行動理念とした。37年にはこれらは共和国憲法にも取り入れられ国是となる。トルコは第二次世界大戦後、その政治体制を一党支配体制から複数政党制へと移行させる。1950年総選挙では、共和人民党の非民主的かつ官僚主義的な政権運営に反対し、より自由主義的経済政策を追求する民主党が圧勝した。一方、共和人民党は1960年クーデターで軍部が民主党政権を崩壊に追い込むまでの10年間野党の座に甘んじ、選挙での敗北を重ねていく。しかし、この野党時代、特に民主党政権が独裁的傾向を強めていく50年代後半、共和人民党には改革志向の強い若手党員が加わり、新たな党のアイデンティティーの模索が始められる。その中から党首イスメット・イノニュの支持を背景に頭角を現し、共和人民党の「左回旋」の中心的人物となったのがビュレント・エデェヴィットであった。1965年にイノニュが共和人民党は「中道左派」であると宣言したが、エヂェヴィットはそれをアタテュルク革命の延長線上にあり、アタテュルク革命を補完する行動理念と位置づけた。さらに、イノニュに代わって第三代党首となったエデェヴイットは、「中道左派」を「民主左派」に改め、党綱領を一新する。そこではケマル主義と共に民主左派主義が併記され、エヂェヴィットの下で共和人民党が社会民主主義政党にむけてケマル主義の大幅な再解釈を行ったことが伺える。結論を先取りして言えば、共和人民党の社会民主主義政党化の狙いは、それまで大衆から隔絶された中央エリートの政党というイメージを払拭し、大衆利益を代表する政党への転換であった。そのために、共和人民党は大衆に対する従来の否定的な見解を肯定的なものへと逆転させ、さらに大衆を「経済的に搾取され、政治的に抑圧された人々」とした。そしてその大衆は労働者と農民からなる集団であるとしたのである。こうして共和人民党は労働者と農民の支持を取り付け、彼らの政治的経済的権益の拡大を求めて、「人民セクター」・「農業組合」・「農村都市計画」などの政策を掲げた。70年代にはその多分にケマル主義の要素を含んだ社会民主主義は、トルコの主要な政治潮流の一つとなっていったのである。
著者
小田 尚也
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は米国同時テロ事件以降大きく変化した海外からパキスタンへの送金パターンを分析し、その要因と送金の経済的役割を分析した。特に米国からの送金に焦点を当てた。米国からの送金が急増した要因として、インフォーマルな送金への規制、米国に資産を持ち続けることへの不安、パキスタン経済の成長などを指摘した。中東からの送金が受け取り家計の日々の消費ニーズに使用される一方、米国からの送金は経済的な利益を追求する目的として利用されていることを議論した。
著者
小嶋 章吾 嶌末 憲子
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の主目的は、2001-2003年度科学研究費補助金基盤研究C(2)による在宅の高齢者分野の「生活場面面接技法の体系化(試案)」をもとに、生活場面面接技法の検証及び教育訓練プログラムを開発することである。そのため、第1に、社会福祉実践・教育・研究における生活場面面接の意義と活用の方向性をまとめた。第2に、民生委員・児童委員、地域福祉権利擁護事業・生活支援員、ホームヘルパー、社会福祉士を対象とする生活場面面接研修を実施し、その評価を得た。生活場面面接ワークシートを用いることにより、生活場面面接を意図的に活用する意義の理解について高い教育効果を得た。第3に、「生活場面面接技法の体系(試案)」にもとづき、46項目にわたる生活場面面接技法を抽出・整理しアンケート調査を実施した。調査対象は、東京都及び栃木県の在宅介護支援センター438カ所全数に所属するそれぞれ2名ずつのソーシャルワーカーと、全国ホームヘルパー協議会の会員が所属する訪問介護事業所2500カ所の十分の1にあたる249カ所をランダムサンプリングし、それぞれ3名ずつのホームヘルパーを対象とし、前者で308票(回収率35.2%)、後者で307票(回収率41.1%)の回収を得た。調査内容は、まず「うまくいった事例」と「悔いの残った事例」のそれぞれについて46項目の実施頻度をたずねた。その結果、生活場面面接技法は後者よりも前者で多く使用されており、生活場面面接技法の有効性を示唆している。
著者
中西 正治
出版者
公益社団法人日本数学教育学会
雑誌
数学教育論文発表会論文集
巻号頁・発行日
vol.39, pp.655-660, 2006-10-07

本稿は、『カズノホン』『初等科算數』における関数教育の変容や特質について考察したものである。考察の結果、次の4点が明らかとなった。1点目は、関数教育を比例関係と反比例関係だけの学習とするのではなく、統計資料や図形の事象においても、静的ではなく動的に見みることによって、関数的な見方や考え方をしていること、2点目は、関数関係としての比例・反比例は6年生で学習しているが、その素地および段階的な指導は1年生から始められていること、3点目は、グラフを変化の全体の趨勢を考察するための有効的な手段としていること、4点目は、6年生を中心に力学的な事例が多く盛り込まれ、実験を通してその事象における各々の関係の理解を図っており、その力学的関係の理解には比例関係と反比例関係を基盤としていることである。
著者
三橋 弘宗 内藤 和明 江崎 保男 大迫 義人 池田 啓 池田 啓
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、国内で最後のコウノトリ生息地となった豊岡盆地の生態系の特性を明らかにするため、生態学的方法と博物館学的方法を用いて、データ解析と分析を行った。生態学的な方法として、円山川の河川高水敷きにおける湿地の再創造に関する操作実験や、行動追跡および冬季における利用実態について市民からの情報を集積して解析を行った。その結果、ワンドを再創造した場所では、魚類個体数は2~5倍に増加するほか、円山川流域全体の約40%の種が生息できることが確認できた。また、野外での詳細な行動追跡データの解析結果では、1)水深15cm以下で畦近くの湿田に集中すること、2)季節によってホームレンジが変化し、夏場が最も広く、冬場が狭いこと、3)河川本流では、潮位の変動によって水深が約40cm以下になると集団利用し、絶対的な水深ではなく、潮位の低下に呼応する傾向があった。博物館学的方法では、全国のコウノトリ標本の把握と分布記録の集積を行い、412地点(721記録)を収集し、生息適地モデルによる解析を行った。その結果、海岸近くの低地および河口干潟の存在が立地の好適性に寄与することが分かった。次に、コウノトリ標本の安定同位体による海起源寄与についての分析を行うために、豊岡市河口域および内陸部においてアオサギ類の羽の炭素・窒素・硫黄の安定同位体分析を行った。しかし、これらの結果では、データ分散があまりに大きく、残念ながら評価には至っていない。これらのアプローチを統合する形で、コウノトリが頻繁に利用する地区において、地域住民の参加による小規模な自然再生を実施した結果、簡便な方法でも両生類の生息密度を回復できることを示し、ツーリズムとしての自然再生への参画可能性について検討した。最後に、こうした取り組みについて、人と自然の博物館において、企画展「コウノトリがいる風景」を開催し、市民から提供を受けた写真資料や収集資料の公開、研究成果の発信を行った。