著者
岩田 修二 松山 洋 篠田 雅人 中山 大地 上田 豊 青木 賢人
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.空中写真・衛星画像・地図などを利用して衛星画像の判読,マッピングなどの作業を行った.モンゴルアルタイ・インドヒマラヤ・カラコラム.天山山脈などで情報収集を行った.2.それらを総合して氷河変動・氷河湖変動・気候変動を解明した.3.モンスーンアジア地域:ブータンでは,最近50年間の氷河縮小・氷河湖拡大などの変化をまとめ,災害の危険を警告した.インドヒマラヤ地域については,Lahul Himalayaで現地調査をおこない,近年は継続的に氷河末端が後退傾向にあることを確認した.4.乾燥アジア地域:パキスタン北部では,小規模氷河の最近の縮小と,対照的に大きな氷河が拡大傾向にあることが明らかになった.モンゴルモンゴル西部地域(モンゴル・アルタイ)では,1950年前後撮影の航空写真を基にした地形図と2000年前後取得された衛星画像(Landsat7ETM+)の画像を用いて氷河面積変化を明らかにした。氷河面積は1940年代から2000年までに10〜30%減少し,この縮小は遅くとも1980年代後半までに起こり,それ以降2000年まで氷河形状に目立った変化は認められないことが明らかになった.5.気候変化:最近1960〜2001年のモンゴルにおける気温・降水量・積雪変動を解析した結果,1960,70年代は寒冷多雪であるのに対して,90年代は温暖化に伴って温暖多雪が出現したことが明らかになった.天山山脈周辺の中央アジアでは,既存の地点降水量データ(Global Historical Climatology Network, GHCN Ver.2)に関する基本的な情報をまとめた.GHCNVer.2には,生データと不均質性を補正したデータの2種類あり,中央アジア(特に旧ソ連の国々)の場合,これら2種類のデータが利用可能なため,まず,両者を比較してデータの品質管理を行なう必要があることが分かった.6.まとめ:以上の結果,モンスーンアジアと乾燥アジアでの氷河変動の様相が異なっており,それと対応する気候変化が存在することが明らかになった.
著者
王 道洪 渡邉 貞司 高木 伸之 王 道洪
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

石川県内灘町の大型風車を対象に平成17年度から19年度にかけて雷総合観測実験を行った。観測したデータ総合的に解析し、以下の研究成果を得ることができた。1.風車・鉄塔への落雷はトリガー形態別に二つの種類に分け、タイプ別の特徴をいくつか発見した。タイプ別の発生割合はタイプ1が4割、タイプ2は6割となった。鉄塔と比較した場合、風車がタイプ1の雷を発生しやい。この結果から、風車の防雷対策の一つとして、雷雲が風車上空に来たときに風車を停止したほうが良いと分かった。ビデオカメラの映像から落雷の持続時間にはタイプ別で大きな違いが確認でき、タイプ1は平均約452ミリ秒と長いのに対し、タイプ2は299ミリ秒と短かった。また、落雷の進展角度を調べた結果、風車の避雷鉄塔側には防雷効果が確認できた。しかし、3割の雷は風車に落ちているのでまだその効果は十分とは言えない。それぞれのタイプの落雷について別々の対策を取るべきであることも分かった。2.発電施設への落雷直前の地上電界は全て±4.5[kV/m]あったことから、発電施設への雷撃開始条件を地上電界値のしきい値によって設定した結果、±5.0kV/m以下に設定した場合には、発電施設への落雷時、落雷前に必ずしきい値を超えていることが分かった。一方、しきい値を超えた場合において、発電施設へ落雷する確率は、設定値を下げれば減少していくが、±5.0kV/mで90%程度である。雷撃開始条件を地上電界値で設定し、何らかの防雷対策を行う場合、雷撃をなるべく避けつつも、成功率もある程度高くなければならない。よって、雷撃開始条件のしきい値は、±5.0kV/mが一番望ましいと思われる。3.風車に対する落雷電流に、落雷時前数秒前から、数十Aレベルの電流上昇を確認した。このような報告例は現在まで一例もない。一方、20m離れて隣接する避雷鉄塔に対する落雷電流には、このような現象がないことを確認した。
著者
横串 算敏 成田 寛志 山越 憲一 内山 英一
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,車輪内臓型モータと水素イオン電池を使った軽量・コンパクトで車載可能かつ高機能な6輪構造電動車椅子(6W-NProto)を設計・製作した.この試作モデルのベースとなったYamahaJW3との比較走行試験を行った結果,6W-NProtoは良好な雪路走破性をしめした.[新型電動車いす(6W-NProto)の仕様]重量:48.5[kg].駆動方式:前輪フリーキャスター,センター駆動輪に内蔵モータ[90W×2],後輪に内蔵補助モータ[70W×2]を採用.タイヤサイズ:[直径]は前輪150,センター輪350,後輸200[mm].座席:障害者の安定した座位環境を可能にする調節可能なシート構造.フレーム:路面の変化に対応するフレキシブルなフレーム構造.通常走行はセンター輸駆動による2輪走行であり,後輪の補助モータは段差を乗り越えるとか雪道などの悪路でセンター駆動輪のパワーをアシストをするいわゆるパートタイム4輸駆動である[比較走行試験結果]平坦路(乾燥)では両機種とも良好な走行性能を示した.平坦路(雪)ではYamahaJW3は走行可能,6W-NProtoは良好なそう高性能を示した.4.1°の軽スロープでは6W-NProtoは良好な走行性能を示し,YamahaJW3も走行可能であった.6.6°のスロープでは6W-NPrtoは良好な走行性能を示し,YamahaJW3は左右に振られ不安定であったがなんとか走行可能であった.120mmの段差(乾燥)は6W-NProtoはクリアーしたが,YamahaJW3は走行不能であった.120mmの段差(雪)は6W-Nprotoは不安定であったがクリアーした.YamahaJW3はクリアーできなかった.雪の状態はアイスバーンに30mmのシャーべット状雪路である.電動車いすにとって、最も条件の悪いシャーベット状雪路{平坦路,スロープ,段差}で、制御しやすかったのは荷重が駆動輪に集中するパートタイム4輪駆動6輪構造の6W-NProtoであった.パワーウェイトレシオ,駆動輪への荷重割合で不利なYamahaJW3は平坦路,軽スロープ以外では走行困難または不能であった.
著者
杉万 俊夫 米谷 淳 佐古 秀一 三隅 二不二
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

災害時の避難誘導方法として, 指差誘導法, 吸着誘導法という2つの対照的な誘導法をとりあげ, それらの誘導法によって引き起こされる群集全体の行動パターンを解析した. 指差誘導法とは, 誘導者が, 大きな声と動作で避難方向を指示して誘導する方法で, 従来, 避難訓練の場で最も広く用いられてきた代表的誘導法である. 一方, 吸着誘導法とは, 各誘導者が, 自分のすぐ近辺にいる1名ないし2名の少数の避難者に対し, 自分についてくるよう働きかけ, それら少数の避難者を実際に引きつれて避難するという方法である. したがって, 吸着誘導法においては, 誘導者が出口の方向を具体的に指示したり, 多数の避難者に対して大声で働きかけるようなことはしない. 第1に, 現場実験により, 吸着誘導法の方が, より迅速な避難誘導を達成できる場合があることが見いだされた. しかし, いかなる場合にも, 吸着誘導法が有効であるわけではない. 特に, 誘導者と避難者の人数比を操作した実験を行なったところ, 誘導者対避難者の人数比が比較的小さいときには, 吸着誘導法がきわめて有効であるが, 人数比が大きくなりすぎると, 吸着誘導法では十分な避難誘導を実現できなくなり, むしろ, 指差誘導法の方が有効であった. 第2に, 2つの誘導法を比べると, 誘導によって生起する群集全体の行動パターンに著しい違いが見いだされた. すなわち, 吸着誘導法が成功する場合には, まず, 誘導者, および, その直接的働きかけを受けた1名ないし2名の避難者から成る即時的小集団が形成され, その即時的小集団が「雪だるま式」に周辺の避難者を巻き込むことによって, 出口に向かう一本の群集流が形成された. 一方, 指差誘導法においては, 吸着誘導法の即時的小集団に相当するような特定の核が形成されることなく, 個々の避難者が, ばらばらのまま, 均質的に出口方向に移動した.
著者
斉藤 日出治
出版者
大阪産業大学
雑誌
大阪産業大学経済論集 (ISSN:13451448)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.21-35, 2005-06-30

Karl Marx discovered the social individuality, as opposed to the private individual, at the end of the development of bourgeois society in the 19th century. Nowadays, in 21th century, capitalism has attained production post-fordism. The production system of post-fordism is composed of the corporation of workers. It accelerates communication, dialogue and language activity between workers. Japanese Economist, Kiyoaki HIRATA, pointed out the appearence of social individuality as the result of the transition of the labour process into the scientific proces in the age of post-fordism. Almost the same period, before or after 1980, Antonio Negri and Paolo Virno in Italy focused their attention on the same transformation of labour process in post-fordism. They indicated the importance of politics of labour in organizing the collective force of workers as productive force of capital. They reffered to this type of politics as bio-politic power.
著者
山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

マーシャル・マクルーハンのメディア論をもとに,スポーツがメディア・コンテンツとしてだけでなくメディアそのものとして機能している可能性の検討を行った.具体的には,「メディアとしてのスポーツ」が我々の社会,人間関係,感性などに及ぼす影響を検討するために,解釈学的な研究方法から「Jリーグ公式戦」,「ゴールデンゲームズ in のべおか」,「第53回西日本各県対抗九州一周駅伝競走大会」,それに「第87回全国高等学校野球選手権福岡県大会」の観察と記録を行った.その結果,以下のことが明らかとなった。高度情報環境の出現は,あらゆる物事に対する人々の信頼感や現実感を希薄化させ,現代人のアイデンティティを寄る辺ないものとし,人とひととの直接的なコミュニケーションの崩壊を引き起こしていると問題視されている.このように社会全体が仕組みとして身体性の脱落を加速化させる中,スポーツが「メンバーシップ」,「相互のつながり」,「社会参加」,「確信や信念」,「他者への影響力」を介して人々の関心を引きつけていると解釈できる現象が,サッカーや陸上競技,そして野球の試合観戦を行っている人々の観察から明らかとなった.これらのことから現代社会におけるスポーツは,新聞,テレビ,インターネットといった一般にいわれるメディアの内容であるばかりでなく,それ自体人とひととを媒介し結びつける「コミュニケーション・メディア」として機能していると解釈された.現代社会においてスポーツが重要なのは,スポーツが「する,極める,見る,支える」といった多様な参与形態により人とひととを瞬時に結びつけ,交流を促し,彼らの住まう地域の活性化に貢献し得るからである.つまりスポーツは,「情動的なコミュニケーション」を介して集団のメンバー間に多様な関係を生み出すことで,彼らに「実存の感覚」をもたらすよう機能していると考えることができる.
著者
岡尾 恵市
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

3年間を通じての研究成果は、別紙『報告書』に掲載した論文および諸資(史)料・翻訳を通じて示したが、以下の様に要約される。(1) 近年の女性の陸上競技選手たちの樹立する記録の水準の高さには驚かされる.1998年段階での女性選手の成就している世界記録は、一部の例外を除けば、1936年の「オリンピック・ベルリン大会」当時から戦後の1950年代に出された男性の世界記録に匹敵するとともに、日本記録と比較すれば、1964年の「オリンピック・東京大会」当時の男性の出した記録をも凌駕しているものさえある。(2) こうした世界レベルの女性競技者による記録の飛躍的進展は、女性の身体的特性の研究に立脚した科学的トレーニング方法の急速な進歩とともに、今日世界に普及・発展した「陸上競技」を実践する数千万人という女性競技人口があるからに他ならない。(3) しかし、世界の陸上競技界にとって「女性の陸上競技」が組織として公然と活動を開始するのには幾多の「茨の道」を歩んできた.男性の近代陸上競技は、1850年代の英国に萌芽が見られ、1860年代の後半に「規則」が整備され、組織が確立して、今日の基礎になる姿を示すが、女性の競技は、米国の女性プロ選手による「賭け」競技として一部行なわれていた形跡が見られるものの、19世紀末までその出発を待たねばならなかった。(4) しかも、当初は「女性が競技をする」事に対し、男性の側からの蔑視や非難・妨害が多々あり、第一次大戦以降、当時の先駆的な女性たちが「女権獲得・選挙権獲得」等の運動と連動させながら、組織を創って立ち向かう中から今日の活動の基礎を築いてきたを忘れてはならない。(5) しかしその競技内容は1920年代以降、今日に至るまで約80年間にわたって、男性に「追いつけ追い越せ!」の思想の下で、用器具の軽量化・短小化・距離の短縮化等を行なうことによって男性種目の女性種目への転用をはかった、いわば「男性種目のミニコピー化」であったことが明かとなった。(6) 今後、「女性陸上競技」が、21世紀に入ってもその路線を継承・発展させていくべきか、それとも「女性独自」の種目や内容の陸上競技を創出していくべきかについては、競技スポーツの本質を決定づける問題であろうが、筆者はこの研究を通じて、女性の身体特性に合致した「女性独自の競技種目」をこそ新たに創出・誕生させなければならないとの確信を持つに至った。
著者
伊藤 孝 鈴川 一宏 木村 直人 熊江 隆
出版者
日本体育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

競技能力の向上を図る目的として、運動選手は一週間から一ヶ月にわたる強化合宿を実施している。本研究では、選手の健康管理および傷害発症の予防から、強化合宿時およびその後の回復時における生体の免疫機能の変化、特に好中球の活性酸素種産生能(ROM産生能)について、調査(1);男子長距離選手(n=11)を対象とし、夏季における4回の強化合宿期間中(約40日間)の変化、調査(2);女子長距離選手(n=7)を用い夏季強化合宿中および合宿後の回復時における変化について、それぞれ調査・検討を行った。採血は、早朝空腹時、安静状態にて正中皮静脈より11ml採取した。好中球のROM産生能は、ルシゲニンおよびルミノール依存性化学発光法におけるpeak height(PT;photon/sec)を用いて評価した。調査期間中における血清CPKはいずれも経日的に増加を示し、合宿後には両調査において有意な上昇が見られた。一方、調査(1)における好中球のROM産生能は、経日的に僅かに減少を示したものの、合宿後には逆にルミノール依存性化学発光によるPHは約2.3倍の上昇を示していた。したがって、調査(1)では、合宿中の運動ストレスに対して生体は適応を示していたと考えられる。それに対して調査(2)における好中球のROM産生能は合宿直後においていずれも有意に低下した。この結果から、調査(2)では、運動ストレスによる生体負担が高まり、免疫機能を抑制したと思われる。しかしながら、終了3日後には反対に著しく上昇し、さらに終了20日目においてもこれらの上昇は継続していた。この原因の一つとして生体内における恒常性の保持に、その後の代償的反応が相加的に加わったことがよりいっそう免疫機能を亢進させたものと推察した。
著者
長尾 誠也 山本 正伸 藤嶽 暢英 入野 智久 児玉 宏樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は。重要ではあるがデータの蓄積に乏しく、季節や地域によりその変動幅が大きく、沿岸域での炭素の吸収と放出量の見積もりを行う上で不確定要素の1つと考えられている河川から海洋への有機体炭素の移行量と移行動態を検討するものである。そのために、寒冷、温帯、および熱帯域の河川を対象に、河川流域の特性、植生、気候による土壌での有機物の分解と生成機構・時間スケールと河川により供給される有機物の特性、移行量との関係を難分解性有機物である腐植物質に着目して調べた。泥炭地を有する十勝川、湿原を流れる別寒辺牛川、褐色森林土の久慈川、スコットランド、ウクライナ、インドネシアの河川水中の溶存腐植物質を非イオン性の多孔質樹脂XAD-8を用いた分離法により分離生成し、いくつかの特性について分析を行った。また、河川水中の有機物の起源と移行動態推定のために、放射性炭素(Δ^<14>C)および炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定し、両者を組み合わせた新しいトレーサー手法を検討した。その結果、放射性炭素(Δ^<14>C)は-214〜+180‰の範囲で変動し、土壌での溶存腐植物質の滞留時間が流域環境により大きく異なることが考えられる。上記の検討と平行して、連続高速遠心機により河川水20〜100Lから懸濁粒子を分離し、放射性炭素および炭素安定同位体比を測定した。その結果、久慈川では年間を通してΔ^<14>Cは-19〜-94‰、炭素同位体比(δ^<13>C)は-24.0〜-31.1‰の範囲で変動し、石狩川ではΔ^<14>Cは-103〜-364‰、δ^<13>Cは-25.9〜-34.2‰、十勝川ではΔ^<14>Cは-111〜-286‰、δ^<13>Cは-25.0〜-31.6‰であった。これらの結果は、流域の環境条件および雪解けや降雨による河川流量の変動等がこれら炭素同位体比の変動を支配している可能性が考えられる。以上の結果から、放射性炭素および炭素安定同位対比を組み合わせる新しいトレーサー手法は、河川の流域環境の違いを反映し、移行動態および起源推定のために活用できることが示唆された。また、現時点では、大部分の地域では核実験以前に陸域に蓄積された有機物が河川を通じて移行していることが明らかとなった。
著者
國崎 彩
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

「大正期の寶塚少女歌劇團の舞踊活動の考察」(研究ノート);秦豊吉とも関連が深い、昭和期のレヴュー・ブームに先鞭をつけた寶塚少女歌劇團(以下「宝塚」と略称)の大正期に焦点を当て、当時展開していた舞踊思潮を、機関誌『歌劇』の舞踊記事調査・分析をおこなうことにより検証した。結果、宝塚では、独自の形式「歌劇」を模索する中で、小林一三、久松一聲、楳茂都陸平、坪内士行、岸田辰彌、ルイジンスキー等の舞踊作家達が、それぞれ、実際の上演/『歌劇』誌の両面において舞踊について模索していた。宝塚を現在から振り返って捉えなおしてみると、新舞踊、バレエ、モダン・ダンス、同時代の浅草オペラで上演されていたような舞踊など、あらゆる新しい舞踊の流れを柔軟に受容していた、一つの舞踊の拠点であったと再評価できた。また、こうした大正期の宝塚における充実した舞踊の展開は、宝塚において、昭和期以降のレヴュー・ブームを可能にした要因の一つとなったのではないかと推測できる。「秦豊吉の近代化意識と舞踊観について」(第58回舞踊学会大会発表);秦豊吉が企画した日劇ダンシング・チーム(以下、NDTと略称)の戦前・戦中期についての考察をさらに進める目的において、まず、一次資料であるプログラム、チラシの調査・収集、当時の出演者への聴き取り調査を積極的におこない、舞踊上演の実際を検証した。そして、秦豊吉がMITに結実させた「近代化」とはどのようなものだったのか、そこに「舞踊」はどのように関わり、どのように表象されていたのかということを論考した。NDTでは、「近代的」な「大衆娯楽」としての「ショウ」形式のなかで、国内外のあらゆる舞踊が受容され、戦中期には「日本民族舞踊」として、秦の「近代化」が複雑な形で表象されることとなっており、興味深い。今後、楽譜、音源、台本などの一次資料のさらなる調査を経て、さらに深化させた論考を改めておこないたい。
著者
波多野 純 野口 憲治
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

町家形式は、気候風土のみによって決定されるのではなく、より広い視点から、総合的に検討する必要がある。本研究は、いずれも雪国でありながら、町家の形式が大きく異なる金沢と仙台をとりあげ、町家形式の形成要因を明らかにすることを目的とする。まず、統一したルールで全国の宿場が描かれている『五街道分間延絵図』について、建築上の描写精度を検討し、その信頼性を明らかにした。その上で、「東海道分間延絵図」に描かれた各宿の屋根葺材に注目し、瓦葺の普及と人口の関連などを明らかにした。つぎに、金沢の町家について、元禄期には板葺と石置板葺屋根が混在し、卯建も一部に存在したことを示した。その様相は『洛中洛外図』に描かれた京町家に近い形式であり、他に農家風の建築があったことを示した。その後、天保期になると大半の町家が石置板葺屋根となった。仙台の町家については、芭蕉の辻に面して建つ城郭風町家およびその他の土蔵造町家について、検討した。城郭風町家の外観意匠は城郭建築の意匠を受け継ぎ、塗籠真壁風である。いっぽう、周辺の土蔵造町家は大壁である。初期江戸における城郭風町家には、三階建と二階建があり、当初は真壁風の外観意匠であったが、やがて大壁がふえる。仙台では、江戸中期まで、板葺、茅葺の町家が建ち並んでいたが、享保の大火後、芭蕉の辻付近には土蔵造町家が建ち並んだ。その意匠は土蔵からの大壁の系譜であった。その後、芭蕉の辻には城郭風(真壁風)町家が建てられた。つまり、仙台では江戸とは逆の系譜をたどり、城郭風真壁が遅れて登場した。以上の結果、金沢と仙台の町家は、屋根葺材や土蔵造町家などさまざまな点で形式が異なることを示した。つまり、同じ雪国でありながら町家の形式が大きく異なることから、気候風土は、町家形式を決定する要因でないことは明らかである。むしろ、藩の都市政策や文化的伝搬経路が重要な要因であると考えられる。
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度はブロック雪崩の力学的特性に関する研究として、平成13年度に設置した実験用シュート(高さ9.4m、幅0.9m、勾配32.6°)を使った雪塊の衝撃力測定実験と、雪渓上での雪塊の落下実験を行った。それぞれの実験から得られた結果は以下の通りである。1.雪塊の衝撃力測定実験・人工雪塊を用いた実験では、密度250kg/m^3では最大衝撃力値に衝突速度がほとんど反映されないが、密度450kg/m^3では最大衝撃力値が衝突速度によって変化することがわかった。・天然雪塊を用いた実験では、密度560kg/m^3の雪塊では最大衝撃力値が速度と質量に比例することがわかった。2.雪渓上における雪塊の落下実験・雪塊はある程度の落下速度となるまでは転がり運動によって落下すること、その後、落下速度の増加や、表面の起伏が大きい場所や傾斜が急激に変化する場所を通過するために回転を伴った跳躍運動に遷移することがわかった。・転がり運動による落下では斜面方向の線速度エネルギーに対する回転エネルギーの割合はおよそ20%程度か、それ以下であったのに対し、運動形態が跳躍運動に遷移することで、回転エネルギーの割合が約40%まで増加することが明らかになった。・雪塊の大きさが大きくなるにつれて、より短い落下距離で最大速度に達するという傾向や、雪塊が大きくなるほど回転エネルギーの最大値が出現するまでの時間が短くなる傾向が観測から得られた。
著者
中山 寛 曽根 光男 高木 幹雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.91-100, 1989-01-15
被引用文献数
24

気象衛星画像では 雲頂高度の低い雲と積雪とが同程度の輝度温度になるので 輝度温度のみを用いて雲と積雪とを分類することは難しい.そこで 本文では気象衛星NOAAの赤外画像を対象とし 雲と積雪との分類 雲の種類の分類をフラクタル次元と低次統計量とを用いて階層的に行う手法を提案する.なお フラクタル次元とは 形状の複雑さを表す非整数次元であり 本文では 画像濃度面の起伏の複雑さを表す特徴量とする.本手法の有意性をグランドトルースを用いて検証する.また 従来の統計的なテクスチャー特徴量を用いる手法と本手法とを認識率 処理時間で比較して 本手法の有効性を示す.
著者
防災科学技術研究所 長岡雪氷防災実験研究所
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
防災科学技術研究所研究資料 (ISSN:0917057X)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.1-249, 1995-02-09

本資料は, 1964/65冬季から1993/94冬季までの過去30冬季間に長岡雪氷防災実験研究所で行った毎日の積雪観測記録を編纂したものである. 観測要素は, 積雪深, 積雪相当水量, 新積雪深, 積算新積雪深, 新積雪の相当水量, 新積雪の密度および天気である. 本資料には, これらの観測要素の日毎のデータを掲載したほか, 積雪深, 新積雪深などの積雪量や初雪, 長期積雪などの積雪現象の30冬季間の年毎・月毎・日毎の時系列, 極値ならびに平均値を掲載した. ちなみに, 既往30年間の観測史上の積雪深の最大値は1981年1月22日に観測された282cmであり, 新積雪深の最大値は1986年1月9日の111cmであった. また, 過去8年間は, 顕著な寡雪の冬が続いている.
著者
浅山 英一
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-9, 1958-12-30

ストック初雪外13品種を用いて,花色,草丈,開花の早晩,八重率等についてそれぞれの組合せを行い,F_1にあらわれる特性を調査し次のような傾向を見出した.(1)花色 同一系統の白色品種間のF_1は白色に,異系統の白色品種間のF_1は淡紫色又は紫色に咲く.白色花と紅色花とのF_1は紫色花となり,紅色系品種間のF_1は紅色系の花色にあらわれる.(2)草丈 F_1は概ね両親品種の何れかより草丈が高くなり,矮性種相互の組合せでは両親品種よりはるかに高性となるものが見出される.(3)開花の早晩 概してF_1植物は早咲となる傾向があり,早生種相互のF_1には両親品種よりも1カ月以上早咲するものが見出された.(4)八重率 F_1にあらわれる八重率は,両親とした固定品種の八重率よりも高いものが各組合せの70〜80%程度あらわれる.(5)花色に関する成績を除いては,逆交配の結果は必ずしも正交配の結果と同一であるとは限らない.
著者
相澤 一美 山崎 朝子 野呂 忠司 望月 正道 細川 博文 河内山 晶子 杉森 直樹 飯野 厚 清水 真紀 藤井 哲郎 磯 達夫
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

テキストのカバー率を95%にするための語彙レベルと,読解テストで十分な得点を取るための語彙サイズの間にはギャップがあることが明らかになった。例えば,大学入試センター試験の読解問題で,約3000語を学習することになっており,テキストも3000語の語彙知識があれば,95%をほぼカバーできるが,実際に理解度を試す問題に正答するには,5000語の語彙知識が必要であった。同様に,アカデミックテキストは,約5000語でほぼ95%をカバーできるが,十分な得点を取るためには,6500語が必要なことがわかった。
著者
黒川 顕
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

代表者は前年度に特徴的な病原性に関するデータベースは作成完了したが,今年度は病原性という曖昧な表現型にこだわるのではなく,病原遺伝子に着目し,その遺伝子群をターゲットとして比較ゲノム解析をすることで,病原遺伝子の分布や構造を明らかにしようとした.初めとして,病原性大腸菌や腸炎ビブリオ,さらには植物病原菌において代表的な病原因子として注目されている3型分泌装置(TTSS)に着目した.TTSSでは装置を構成する遺伝子群のみならず,宿主細胞に送り込まれる分泌蛋白(エフェクター)こそが病原性として重要であるが,これら分泌蛋白は遺伝子配列レベルでの相同性がほとんどなく,それら遺伝子を予測することは非常に困難であり,世界中で精力的に予測が試みられている.代表者は既知の分泌蛋白遺伝子のN末端50残基のアミノ酸頻度パターンに着目し,ゲノム全遺伝子から多次元尺度構成法(MDS)および自己組織化地図法(SOM)によりクラスタリングすることで,分泌蛋白遺伝子の予測をおこなった.病原性大腸菌O157に本方法を適用し,60個の遺伝子を分泌蛋白遺伝子候補として予測した.これら予測した遺伝子には,既知の分泌蛋白遺伝子だけでなく,共同研究者により実験的に明らかとなった分泌蛋白遺伝子がすべて含まれていることから,本予測法が極めて高いレベルにあることを示唆しており,それら以外の候補も分泌蛋白遺伝子としての可能性が高いと考えられる.このような高い精度をもった予測法は世界的にも例がない.今後は,本方法で予測した遺伝子の抗体を作成し,共同研究者により実際に分泌されているか否かの検証をすると同時に,実験で確認された分泌蛋白遺伝子情報を本方法に取り入れることにより予測精度を向上させ,他の菌種にも応用していく予定である.
著者
城 仁士 二宮 厚美 青木 務 白杉 直子 井上 真理 近藤 徳彦
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

3年間を通じて、以下の4つのアプローチを行った。1.生活環境心理学的アプローチ:集団ケアからユニットケアへの転換を試みた施設での移行研修プログラムの具体的な展開例を検討し、ケアスタッフの意識の転換を図るプログラムの検証を行った。2.社会システム論的アプローチ:「改正介護保険下の介護問題とユニットケア」をテーマに、2005年改正された介護保険のもとで、在宅ケアだけではなく、施設介護でもさまざまな問題が起こっている。それらを現段階で整理しつつ、ユニットケアに提起されている課題をコミュニケーション論から理論的に考察した。3.生活環境論的アプローチ:以下の3つの分野において実施した。衣環境:ケアを必要とする高齢者の日常生活に浸透しつつある様々なスマートテキスタイルの機能を紹介するとともに、開発現状の問題点を踏まえながらも、より豊かな生活のための利用方法についてまとめた。食環境:食の情報が氾濫する中で、健康や食の安全をどのように考え。食生活を楽しめば良いのかという観点から、緑茶、おやつの楽しみ、お漬け物、お味噌汁などを題材にして、高齢期の食生活の楽しみ方をまとめた。住環境:高齢者にとって住宅内がバリアフリーであればそれだけでいいのかという問題意識により、デンマークやスウェーデンで視察した住環境の資料を参考にしながら生活意欲を高める住まいの工夫を整理した。4.環境生理学的アプローチ:高齢期の温度環境への適応問題を取り上げ、寒さ・暑さへの備えと心がまえについての提言をまとめた。また高齢者の転倒について運動生理学的に検討し、転倒予防について具体的に提言した。