著者
岩間 義孝
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.278-287, 2007-06

睡眠時無呼吸が頻繁におこると,睡眠が分断され日中に過度の眠気を伴い生活の質を低下させる.また,いびきをかくことも多く,ベッドパートナーに迷惑をかける.しかし,この睡眠時無呼吸症候群が臨床的に注目されている理由は,高血圧,糖尿病,心臓病,脳血管疾患などと密接に関連するからである.睡眠時無呼吸を有する患者は,一般人口と比較して,高血圧が約2倍,虚血性心疾患が約3倍,脳血管疾患が3〜5倍の頻度で合併すると報告されている.米国のデータでは,睡眠1時間あたり20回以上無呼吸がある患者をそのまま放置すると, 9年後には10人のうち4人は心臓病・脳血管障害などで亡くなっていたという衝撃的な報告がある.睡眠時無呼吸症候群が心血管疾患に影響を及ぼす理由は,繰り返す低酸素状態,交感神経の活性化による悪影響,肥満に伴う冠危険因子(高血圧・高脂血症・糖尿病など)の増加などが考えられている.また,睡眠時無呼吸症候群の治療が心血管疾患自体の予防・治療につながる.なかでも生活習慣の改善は睡眠時無呼吸症候群および心血管疾患自体の予防・治療にとって重要である.睡眠時無呼吸症候群の患者の中には,食事・運動をはじめとした生活習慣の改善をはかり減量に成功した結栄,睡眠時無呼吸が改善しCPAP治療(睡眠時無呼吸の治療機器)をやめられる方もある.眠りには,質の良い眠りと悪い眠りがある.良く眠れたときは,目覚めが良く頭がすっきりしている.活動的な質の良い生活を送るためには,良い睡眠は欠かせない.睡眠時無呼吸症候群の予防・治療を行うことにより,"健康に生きること"が約束されることになる.
著者
末次 晃 竹中 毅 喜多 伸一 松嶋 隆二
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.613, pp.61-68, 2001-01-27

本研究では, 前庭刺激が身体座標系に及ぼす影響を検討した.実験では, 等速回転(72deg/s)を急停止する方法で前庭刺激を与え, 停止目を閉じた被験者に主観的正面をポインティングする課題を行わせた.結果, 前庭刺激による系統的なポインティング誤差が観察された.誤差の方向は, 回転停止時に加わる角加速度と同じ方向であった.誤差の時間的変化は, 回転停止直後では誤差は小さく, 約20〜24秒にわたり誤差が増加した.その後, 徐々に誤差は減少していった.この時間的変化の特徴は, 視対象定位における誤差の時間的変化とよく類似したものであった.しかしながら, 定位した主観的正中面が偏位する方向は, 視覚的に定位した主観的正面と逆方向であった.これらの結果から, 視覚的定位に用いられる座標系と視覚を用いない身体座標系とが異なる可能性が示唆された.
著者
小野口 昌久 斎藤 京子 上野 孝志
出版者
公益社団法人日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術學會雜誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, 1990-08-01

1. TL、^<123>I-MIBGのDual mode収集において、それぞれのCROSSTALKの補正を試みた。2. ファントム実験では、前壁、下壁欠損とも補正ありの方が画像、定量ともに優れていた。特に、前壁欠損においては、I-123のCROSSTALKの影響がTLに、下壁欠損では、TL及びI-123のCROSSTALKが互いに影響を及ぼすものと考えられた。3. 臨床例でもファントム実験と同様の結果が得られた。
著者
中村 哲
出版者
日本観光ホスピタリティ教育学会
雑誌
観光ホスピタリティ教育 (ISSN:18803059)
巻号頁・発行日
no.1, pp.32-49, 2006-03-11

日本において,インターンシップは1990年代後半以降に急速に定着し,2004年度には全国の418大学が実施し,4万人近くの大学生が参加している.同時に,インターンシップに関するさまざまな研究・調査が行われるようになったが,その多くは参加した学生の意識を分析したものであり,参加していない学生層を対象としたものは少ない.大学が学生の就職支援を行ううえで,インターンシップに参加していない学生層の意識を把握し,フォローしていくことが必要となる.そこで本研究は,インターンシップ経験のない学生を対象とした意識調査を実施し,インターンシップを認知していたか否か,参加意向の強弱によってどのような意識の相違があるかを明らかにすることを目的としている.分析の結果,(1)大学主催型のインターンシップを実施していない大学では,インターンシップの認知度は必ずしも高くはない,(2)インターンシップを認知していた学生はインターンシップに対して楽観的なイメージを抱いている,(3)参加意向が強い学生をみてもインターンシップに対して正しいとは言えないイメージや多大な期待を持っている,(4)インターンシップへの参加意向の強い学生と弱い学生を比べると,意向の弱い学生のほうがさまざまな不安を示しており消極的な態度につながっている,(5)参加意向を示さない学生は不安を持つと同時にアルバイトを第一に考える傾向がある,といったことが明らかになった.
著者
前田 辰昭 高橋 豊美 上野 元一
出版者
日本水産學會
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.741-746, 1981
被引用文献数
2 7 7

Once a month from February 1974 to February 1975, adult Alaska pollack <i>Theragra chalcogramma</i> (PALLAS) were caught by bottom gill nets at four definite stations in the adjacent waters of the Funka Bay, Hokkaido. The authors examined several biological factors of the Alaska pollack, density of the fish shoal, and distribution fo the eggs. As a result, the annual life cycle of the adult Alaska pollack from February 1974 to February 1975 was diveided into four periods as follows.<br> 1) Spawning period, judging from the value of gonad index and the maturation stage of the adult Alaska pollack, was from December to March, and the peak in the period was from December to February.<br> 2) Feeding period, judging from the value of feeding index, percentage of empty stomach and the value of liver index, was from May to October, and the peak was during July and August.<br> 3) As the transitional periods, the terms from the end of spawning period to the beginning of feeding period and from the end of feeding period to the beginnign of spawning period were assigned. The former was from the last of March to the last of April, and the latter was from the last of October to the last of November.
著者
佐々木 芳宏 正木 忠良 小林 俊央 鷲谷 貴洋 西田 眞 中村 雅英
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.72, pp.61-66, 2008-07-17
被引用文献数
2

情報漏洩対策やソフトウェア資産の集中管理,運用メンテナンスの容易さ等の特徴をもつシンクライアントシステムを平成 19 年度に本学の情報教育用端末約 210 台に導入した。本システムは,ミドルウェアとして "Ardence" を適用し,ローカルディスクキャッシュ方式を採用することで,端末の起動時間の改善を図った。本研究では授業による一斉アクセス時におけるシンクライアント構築の手法に着目し,キャッシュ方式の違いによる影響やネットワークブート時のトラフィックについて検証した。The thin client computer with the features, such as a measure against a leak of information, central control of software property, and ease of employment maintenance, was introduced into about 210 units in 2007. This system applied "Ardence" as middleware, and attempted the improvement of computers at start-up time by adopting the local disk cash form. This research verified the influence by the difference of the each cash form and the traffic when the computers does boot over a network.
著者
住 明正 中島 映至 久保田 雅久 小池 俊雄 木本 昌秀 高木 幹雄
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

3年計画の最終年度であるので、今までの研究成果の取りまとめを中心に研究活動が行われた。まず、陸域班では、顕熱・潜熱フラックス、アルベド、土壌水分などの物理量の推定が第2年度に引き続き行われた。海洋班では、ほとんどの月平均フラックス求められたので、それらを用いて、海洋内部の熱輸送などが解析された。その結果、西太平洋暖水域の維持機構について、中部太平洋で暖められた水が西に移流される、という関係が明らかになった。大気班では、大気中のエアロゾルや、雲の微物理量の推定が行われ、世界で初めて、広域・長期にわたるデータが得られた。植生班では、NOAAのGACデータを再処理することにより、新しく、土地利用分布を解析した。モデル班では、衛星データのモデルへの取り込みについて研究を深め、マイクロ波による水蒸気データの影響が大きいこと、高度計のデータが非常に重要であることなどが得られた。又、衛星データとモデルを用いた大陸規模の熱輸送・水輸送の推定が行われた。最近の衛星データを用いることにより、この推定が改善されることが示された。成果報告会も2回開催し、又、成果報告書も年度末に刊行する予定である。
著者
杉山 和稔 高尾 肇 大内 仁 松原 望
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.45, pp.1-9, 2002-11-30

高レベル放射性廃棄物の地層処分においては、倫理的側面からの配慮の重要性が近年議論されており、そのひとつのオプションとして、将来世代に向け地層処分に関する情報を保存・伝達する方策を検討した。廃棄物の有する放射能が一定のレベルまで低減する期間の考察から、将来千年後程度までは地層処分の詳細な情報を文書で残すことを考えた。さらに約千年後を過ぎても引き続き放射能は残ることから、地下の処分場の存在をマーカーやモニュメント等によって伝えることを考えた。文書記録を長期間保存するために、より耐久性があり、かつ保存環境への依存性が低い記録保存媒体を検討した結果、ファインセラミクスのうち耐食性及び耐磨耗性に優れた炭化ケイ素が、記録の長期保存媒体として有望な材料であることが示された。
著者
桃谷 政順 松本 幸雄
出版者
社団法人日本材料学会
雑誌
材料試験 : journal of the Japan Society for Testing Materials (ISSN:03727971)
巻号頁・発行日
vol.10, no.92, pp.319-321, 1961-05-15

Experiments have been made with two kinds of O/W type emulsions. Compositions of the emulsions are shown in Table 1. The flow properties of these emulsions and their dispersion mediums have been studied in the range of low rates of shear. Effect of the flow properties due to addition of salts or lower alcohols are also observed. The two kinds of emulsions stated above, reveal different behaviours under shearing stress. One of them (emulsion I) reveals the Newtonian flow in the range of low dispersion concentrations. The other (emulsion II) behaves as the non-Newtonian fluid over all the range of concentrations. In the former, the dispersed particles may retain the dispersion state comparatively similar to that in the case of the static condition and this structure may be destroyed under shearing stress. This difference may be caused by the difference in the thickness and character of the hydration layer of the particles. These results may be well explained by assuming that the thickness and the character of hydration layer depend on the kind of the hydrophilic group of the emulsifying agent.
著者
宮本 昌子 石倉 康子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学健康科学研究 (ISSN:18827047)
巻号頁・発行日
no.1, pp.37-47, 2008

要求を表現する1語文での機能的発話を獲得したが、コミュニケーションに問題を持つ6歳の自閉症の男児1名を対象とし自分の感情や行動についての発話獲得を目標とした相互交渉型言語指導を行った。出来るだけ自然な文脈で、対象児の遊びや発話に沿ったことばのモデルと象徴遊びのモデルを提示するモデリングを用いた指導の結果、ことばのモデル導入直後に、未来の行動に対する発話の模倣率と発話頻度が増し、遊びのモデルを加えた後に、現在の行動に対する発話頻度の上昇が認められた。未来の行動についての発話は対象児にとって模倣と発話の獲得がより容易であったことが推測される。また、自分の感情や行動についての発語数の増加に伴い、指導室、保育園、家庭の3場面で乱暴な行動の頻度の低下が認められた。本事例においては、非構造的な場面でのモデリングによる感情や行動についての発話の獲得が可能であり、相互交渉型言語指導の有妨性が示唆された。
著者
遠藤 秀紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-25, 2009-03
被引用文献数
2

動物園が研究の責任を果たし続けなくてはならいないことを再確認する。動物園は,日本独自の教育と学問の歴史のなかで,学術研究から一定の距離を取らされてきた。戦前は富国強兵政策,戦後は経済発展主導の陰に押しやられ,純粋基礎科学の研究の場としての位置づけを確立できないまま推移した。戦後についていえば,敗戦を契機に自由で民主的な社会教育が法整備されてきたにもかかわらず,動物園・博物館は,冷戦を要因に理念的発展の途が閉ざされてしまった。結果的に,動物園と社会教育は往々にして土木行政や利益誘導の場にとどまり,科学的研究を進めることのできない組織となった。そしてまた大学を中心とした学術も,動物学の偏向や純粋基礎科学の貧困を黙認し,動物園を大学とは関係のない組織ととらえ,社会教育に無関心であり続けた。そしていまの行革時代に,動物園は真の研究も教育も二の次に,サービスと遊興を尺度にした乱暴な合理化の対象となっている。公務員と公教育を軽視することでリーダーシップを演出する政治によって,社会教育と動物園は理念から隔離され,営業行為・サービス業の末端部分として破壊されつつあるといえよう。他方,短期的経営追い込まれた大学・アカデミズムは,無関心から掌を返したように動物園と社会教育に表面上接近し,それを業績増殖のための都合のよい植民地として弄ぶようになっている。いま私たちには,こうした愚昧と不幸の歴史を断ち,動物園を学問と教育の中心地として繁栄させていく責任がある。