著者
麦島 文夫
出版者
青少年問題研究会
雑誌
青少年問題 (ISSN:09124632)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.34-39, 1999-07
著者
杉山 登志郎 猪子 香代 小堀 健次
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

黄柳野高校に入学した生徒に対する6年間にわたる調査の集計を行った。その結果、調査が可能であった796名の生徒のうち不登校の既往者は73%、いじめの既往者は48%にのぼった。不登校と相関が認められた要因は、生育歴上の家庭の混乱、いじめ、家庭内暴力、教師との葛藤、などの項目であり、非行行為の既往をもつ62%もまた不登校を伴っていた。早期に集団教育でトラブルが生じたものの方が、不登校の開始年齢が若く、また学力の問題を抱えるものの方が、不登校の開始年齢が優位に早いことが示された。軽度発達障害をもつ生徒は、全体の15%程度であるが、このグループでは多動傾向の既往と非行と、言葉の遅れと学力の問題が高い相関をもつことが示された。また症例検討からは、対人的過敏性や強迫性、低学力を抱える生徒において不登校からの回復が不良となる可能性が高いことが示された。また生徒の20%は精神科的な治療を要する問題を抱えており、不登校への対応に対する医療との連携の必要性が示された。
著者
上地 勝
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

[目的]本研究は、中学生の不登校の予防、あるいはその兆候発見の一助となるよう、不登校傾向と関連する要因を明らかにすることを目的とした。[対象と方法]茨城県内7市町村の公立中学校7校に在籍する生徒3,011人を調査対象とした。回収率は96.6%(2,908人)であった。調査項目は不登校傾向、基本特性(性別、学年)、行動特性(部活動参加、学校以外での勉強、保健室の利用頻度、家族行事への参加)、健康習慣(睡眠、運動、朝食の摂取状況、間食、喫煙経験、飲酒経験)、心理社会的要因(抑うつ症状、日常生活ストレッサー、セルフエスティーム、ソーシャルサポート)であった。不登校傾向の定義は「過去1年間で、学校に行くのが嫌で学校を1日以上休んだ経験あり」とした。統計解析にはロジスティック回帰分析を用い、オッズ比とその95%信頼区間を算出し、不登校傾向と各項目の関連性を検討した。[結果]303人(10.4%)の生徒が不登校傾向にあった。不登校傾向の生徒は男子より女子、1年生より2、3年生に多く見られた。保健室利用頻度、抑うつ症状は不登校傾向と強い関連を示し、抑うつ症状の得点が高くなるにつれて、また、保健室の利用頻度が高くなるにつれてオッズ比が有意に上昇した。睡眠習慣との関連について、不登校傾向群の生徒は一般群と比較して睡眠時間が短く、就床時刻が遅い傾向にあった。睡眠時間が7時間未満の生徒は、7〜9時間の生徒に比べ不登校傾向のリスクが高く、オッズ比は1.67であった。また、就床時刻が午前1時以降の生徒は、午後11時前の生徒に比べてリスクが高く、オッズ比は2.35であった。起床時刻と不登校傾向との関連は見られなかった。本研究で明らかになった要因については、不登校の予防要因、あるいは不登校予備群のスクリーニング項目として今後詳細に検討していく必要があるものと思われる。
著者
氏家 達夫 二宮 克美 五十嵐 敦 井上 裕光
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、愛知県と福島県の中学生を3年間追跡し、問題行動の消長パターンと親や本人の心理的要因との関連を縦断的に明らかにしようとするもめである。調査は、子どもに対しては、平成14年9月から平成16年9月まで、およそ4ヵ月間隔で、合計7回実施した。親については、平成14年9月、平成15年9月、平成16年9月の3回実施した。調査内容は、子どもの非行や抑うつの問題行動、自己価値感、子どもの気質特徴、対処方略、友人の行動、友人との関係、親行動や親の夫婦関係、学校適応、などであった。各回約1000組を超える親子が参加した。縦断データとして分析可能だったのは、212名であった。明らかになったことは、非行については、非行行動の深まりに特定のパターンが認められること、抑うつと非行の問に関連があること、子ども自身の気質特徴が関係していること、親は必ずしも子どもの非行を把握できていないこと、友人の影響が親の影響より大きいことなどである。抑うつについては、抑うつ症状を呈すると判断される子どもはサンプルの20%程度に上ること、しかも継続的に抑うつ症状を報告する子どもが縦断サンプルの10%程度に上ること、抑うつに対する親の影響は限定的で間接的であること、自己概念や友人との関係が強い影響力を持っていること、などである。これらの分析結果は、ベルギー・ゲントで開催された世界行動発達学会(ISSBD)において3件、アトランタで開催された児童発達学会(SRCD)において2件、サンフランシスコで開催された青年発達学会(SRA)で4件の口頭発表でそれぞれ報告された。国内学会で41件の口頭発表で報告された。また、4本の論文を公刊した。
著者
勝野 眞吾 松浦 直己
出版者
兵庫教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、少年院在院者に対して、いくつかの精神医学的尺度および心理学的質問紙を使用した調査を実施した。世界的にも女子における深刻な非行化群の研究例は少ない。本研究の目的は、女子少年院在院生を対象として、自尊感情や攻撃性、児童期のAD/HD徴候及び逆境的児童期体験における特性や明らかにすることである。またそれぞれの因子の関係性を解析し因果モデルを構築することである。その際、年齢と性別をマッチングさせた対照群を設定した。対象群はA女子少年院在院生41名で平均年齢は16.9(標準偏差1.7)歳。2005年12月から2007年5月までに入院した全少年を対象とした。両群にRosemberg版自尊感情尺度、日本版攻撃性質問紙、ACE(Adverse Childhood Experiences)質問紙、AD/HD-YSR(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder-Youth Self Report)を実施した。対象群のみWISC-IIIを実施した。自尊感情尺度の結果、対象群の自尊感情は有意に低かった一方、攻撃性に有意差は認められなかった。ACE質問紙の結果両群には著明な差が検出され、対象群の深刻度が明らかとなった。AD/HD-YSRの結果、対象群は学童期から不注意や多動衝動性等の行動の問題が顕著であることが示唆された。またWISC-IIIの結果、対象群のFIQの平均値は79.4(SD=11.1)点であり、認知面の遅れが示唆された。相関分析では、攻撃性得点と自尊感情には有意な負の関係が認められ、攻撃性とACE score及びAD/HD-YSR得点には有意な正の相関が検出された。すなわちこれらの因子が攻撃性に影響を与えていることが示唆された。このような傾向は青年期のみならず、成人期以降も対象者(少年院在院者)に深刻な影響を与えると思われた。
著者
野村 恭彦 片山 貴嗣 斉藤研一郎 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌データベース(TOD) (ISSN:18827799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.72-81, 2005-06-15
被引用文献数
1

知識の共有・活用は企業の重要課題となっており,そのための情報の蓄積・検索のメカニズムや,掲示板を活用したQ&A メカニズムが提案されてきた.しかし,多くのナレッジ・マネジメントの実践を通して,知識を必要とする人と,その知識を持つ人の間の相互理解や信頼関係がなければ,知識がうまく流れないことが明らかになってきた.本論文では,今は知らない相手でも,出会ったときに「持ちつ持たれつ」あるいは「尊敬しあえる関係」になれる人同士の関係を「潜在ソシアルネットワーク」と呼び,その探索手法の提案を行う.提案手法は,各ユーザの回答可能な知識領域と,各ユーザの持つ知識ニーズを管理し,状況に応じて互恵関係を検索・提示する.プロトタイプを構築し,「私はあなたを助けられるし,あなたは私を助けられる」という関係を提示することが,パブリックに質問を投げて回答を期待する手法に比べ,回答獲得可能性が高く,質問に回答する人の多様性が増すことを示す.Sharing and utilization of knowledge is an important issue among companies. Mechanisms of information retrieval and Q&A by utilizing bulletin board were proposed for such issue. However, it was discovered through number of knowledge management practices, that successful flow of knowledge is difficult if there are no mutual understanding and relationship of trust between those who need the knowledge and those who have such knowledge. In this report, we call "potential social network" which describes the situation where strangers meet each other for the first time and can have relationship of "give and take" or "mutual trust" and will propose its method to search. This method is to manage each user's possible response of knowledge domain and their knowledge needs and search reciprocal relationship according to the condition. Compared to the method that questions the public and wait for their answers, the method that creates prototype and presents the relationship of "I can help you and you can help me," will i crease the possibility of obtaining the response as well as the diversity of the respondents.
著者
八槙 博史 マイケル P. ウェルマン 石田 亨
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-コンピュータ (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.540-547, 1998-05-25
被引用文献数
17

近年の分散マルチメディアシステムならびにネットワークに関する研究において, QoS(Quality of Service : サービス品質)の割当ては主要な課題の一つとなっている.本論文では, QoSの割当てを動的な市場機構によって行う分散化アプローチについて論ずる.このアプローチでは, 各エージェントは自己のもつ居所知識および利益に基づいて行動を決定し, 各資源の価格は各々の市場における需給が均衡する点として決定される.エージェントによる需要とネットワーク状況は動的に変化するため, 各エージェントの決定は断続的に繰り返し変更される.市場価格は系全体での価値を反映しており, これに従うことで, 各エージェントが生産あるいは消費する資源の量は適切に割り当てられる.本論文では, 実際のネットワーク会合システムFreeWalkにおける帯域割当てのための市場モデルについて述べる.実験の結果, マルチメディアネットワークアプリケーションに対するQoSの割当てにおける動的な状況変化に対して, 市場に基づくアプローチが適切に動作することを示した.
著者
垂水 公男 萩原 明人 森本 兼曩
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.269-276, 1993-07-20
被引用文献数
9 4

都市部の企業に勤務する21〜60歳のホワイトカラー(男子)を対象に,労働に起因する精神心理的負担と血圧との関連性についての横断調査を行った.高血圧を招来しうる可能性がある疾患を有するものを除外した570名について検討した.このうち,健康診断時の血圧値の変動が大きい109名を除いた461名を対象に,血圧区分を目的変数(正常血圧群: 386名,高血圧群: 75名)に,従来から指摘されている血圧変動要因である年齢,肥満,飲酒,喫煙,運動習慣,客観的な労働負担要因として労働時間,通勤時間,年次有給休暇取得,家族との同居,また主観的な労働負担要因としてKarasekのjob strainの10変数を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った.その結果,job strainは,従来からの血圧の変動要因や客観的な労働負担要因を調整した上で,統計的に有意なodds比を示した.しかし,その関連性は,job strainが低い場合に高血圧の頻度が高くなる方向で関連していた.その理由として,高血圧の家族歴に代表される個人特性が介在していることが推測された.一般的な理解とは逆に,Theorellは,高血圧の家族歴を有するものでは,外界の刺激に対する反応性が低い傾向があることを指摘しており,こうした個人特性が今回の結果にも関連していると考えられた.労働に起因する精神心理的負担は,最近問題になっている作業関連疾患の概念とも関連して重要であり,さらにこうした個人特性や客観的な労働負担を勘案した追跡調査によってその影響が検討される必要がある.
著者
長尾 博
出版者
活水女子大学
雑誌
活水論文集. 音楽学部・共通教養・一般教育編 (ISSN:13426923)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.49-57, 1995-03

本研究の結果は、以下のとおりに要約される。(1) 危機状態尺度の信頼性について、再検査法からこの尺度の安定性が、折半法からこの尺度の内的一貫性が、また項目分析の結果から「親からの独立と依存のアンビバレンス」下位項目尺度を除く下位項目尺度の識別性が明らかにされた。(2) 社会的望ましさ尺度の結果から、高校生の場合の危機状態尺度に対する社会的規範の反映が、また虚構尺度の結果から、中学男子の場合の危機状態尺度に対する歪められた回答傾向がとらえられた。(3) 危機状態尺度総得点の得点分布は、正規性はないものの、A水準得点(問題内省水準得点)とB水準得点(問題自覚水準得点)とでそれぞれ正規性の得点分布が示された。(4) 危機状態についての自己評価と他者評価の比較に関して、A水準尺度のほうがB水準尺度よりも自己評価と他者評価の一致度が高く、生徒の状態を評価する教師側の要因が評価に大きく影響していることや「精神衰弱」下位項目尺度以外の各下位項目尺度は自己評価と他者評価の一致度が低いことが明らかにされた。
著者
岩井 千尋
出版者
近畿大学
雑誌
商経学叢 (ISSN:04502825)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.315-337, 2008-03

コーポレート・ガバナンスをどのような形にするかということは,一国の資本主義をどのような形にするかということに繋がるが,その中心に位置する問題が株主重視型ガバナンスか従業員重視型ガバナンスかということである。従来から米国が株主重視であるのに対し日本は従業員重視であったが,法人企業統計から,わが国の大企業は2003年頃から急速に株主重視に舵を切り始めたことが分かる。「失われた15年」を経て,いまや企業は収益力を回復した。しかし,株主重視に寄ったせいで従業員の所得が増えなくなり消費不振を招くなどの悪影響が出始めた。日本がこれ以上株主重視に向かうのは好ましくない。株主のみを重視すべきという主張はさしたる根拠があるものでもなく,日本の終身雇用にマッチしないし,人々の幸せに繋がらない。
著者
松原 望 北村 喜宣 繁枡 算男 小宮山 宏 細野 豊樹 佐藤 仁 石 弘之
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

(松原)最終年度のとりまとめを行った。アジア・太平洋地域の環境問題は、開発と高い経済成長にともなう環境破壊、資源開発と相関する環境破壊、「環境保護」の名のもとの環境破壊、所得格差と不平等増大の進行、などの各論的問題が次第に総論化し、政策の統合と協調が政治経済学的に「集合行為」(オルソン問題)としての課題となっている。その中でアメリカの環境政策での立場が、ブッシュ政権のもとで従来との一貫性を欠く等の局面が現出していることに焦点をあてた総括を行った.(小宮山)中国を含む東アジアおよび東南アジア諸国における資源とエネルギーについて20世紀後半50年間分のデータを収集し、農業生産量、エネルギー資源等の天然資源の生産量、工業生産量の経年変化から現状を分析した。(繁桝)構造方程式モデル(SEM)のパラメータを推定するためのベイズ的な解析方法を理論的に精緻化し、ギブスサンプリングを用いて実用化した。SEMは,リスク認知における因果関係を検証するために有用な方法である。(佐藤)今年度は、日本における資源概念の形成にかかわる文献を集中的に収集し、とくに南洋地域における資源確保の政策背景について研究した。タイでは関連する現地調査も行った。(北村)環境保護のためにきわめて厳格な法執行制度を整備している米国環境法を概観し、日本環境法の導入可能性をさぐった。非刑事的制裁の有効性などが示唆されたが、日本の行政システムのなかで機能させるには、組織文化的な課題があることがわかった。(細野)アメリカ合衆国2000年大統領選挙で明らかになった投票集計機材の誤差問題に対応すべく策定された、2002年10月の連邦政府の対策法がなぜ不十分なものに終わったかを、自治体の新技術への対応能力の格差にからめて、キングダンの政策モデルで分析。
著者
茅 陽一 手塚 哲央 森 俊介 辻 毅一郎 小宮山 宏 鈴木 胖
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

I.統合型エネルギーシステム(IES)1)システム構成の分析と効果の評価:3種の統合概念を提案した。第一は供給面での統合で供給の量・価格変動に対処し、第二は需要面の統合で需要の変動に容易に対応し、第三は規模の統合で同一システム内で異なる規模の設備を包括、両者の欠陥を補完する。これらの利点を数値的に示し、更にこの柔構造を有するシステムがCO_2削減にも効果的に対応出来ることを示した。2)CO_2の海洋循環と回集技術:地球温暖化対策の基礎として海洋での炭素循環を検討し有機炭素の役割の重要性を数値的に示した。また、産業から排出されるCO_2回収と海洋への廃棄の基礎的検討をした。3)高温核熱によるCO_2排出削減:IESの一つの方式は原子力の拡大利用で、高温核熱がエネルギー変換に有効に利用出来、結果的にCO_2削減に有効であると示した。4)規模の経済性の検討:電力システムを対象に検討し、設備建設コストの規模の経済性が認められる一方で、稼動率やシステムの周辺コストで規模のデメリットが認められることを示した。II.広義のロードマネージメントの研究1)分散型エネルギーシステム導入のポテンシアル:近畿地方を対象に、地域的需要分布を詳細に調査・モデル化し、太陽光及び燃料電池の導入のポテンシアルを検討し、かなり高い可能性があることを示した。2)民生部門におけるロードマネージメント:近畿地域対象の詳細民生需要モデルを作り、その調整可能性を検討した。電力のロードマネージメントの有効化にはガス冷房の普及が鍵となること等興味ある知見を数多く得た。3)コージェネレーションの民生利用評価:民生建築物を対象に運用モデルを作成、特に需要パターンがシステム選択に及ぼす影響を検討し、システム評価手法を提案した。4)産業用の共同火力運用プログラムの開発:産業での自家発電設備やコージェネレーションの運用に多大の示唆を与える知見が得られた。
著者
小宮山 宏 中田 礼嘉 山田 興一 角張 嘉孝 松田 智 小島 紀徳
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度には大規模スケールでの降雨量分布を予測するためのシミュレータの開発を行った。本シミュレータを地球レベルのグローバルモデルから与えられる境界条件、初期条件等のもとで利用し、オーストラリアでの地表条件と降雨量の関係についての検討を開始した。乾燥条件下における、樹木および毛管力作用による地下水、特に塩水の上方への移動、地上部での塩分蓄積を模擬土壌を用いて検討した。その結果、太陽光を想定した赤外線照射条件下で水分移動が促進され、表層への塩の蓄積を抑制しうることが分かった。また、砂漠に降雨をもたらすためには湿潤な空気と上昇気流が必要であり、人工山の設置する方法と、熱対流により上昇気流を起こす方法とがリストアップされ、検討を進めている。湿潤空気の発生については、人工の浅瀬による蒸発促進を考え、浅瀬での湿潤空気の生成過程を定量化するため、浅い水面上での熱収支モデルを構築し、任意の条件下で平衡水温と水の蒸発速度を推算できるようにした。さらに、砂漠緑化の水収支のうち、モデル実験により蒸散量・土壌水分・地表面蒸発の総合依存関係を調べた。植物の蒸散による水の持ち去りは土壌水分量の豊かさに比例するが、土壌がある程度乾燥すると蒸散量はむしろ抑制されることが明らかになった。平成7年度は前年度に引き続いて砂漠気象シミュレーションのプログラム開発、および要素技術のモデル化を進めるとともに緑化シナリオの策定および評価を行った。西オーストラリア砂漠内に海岸を含む600km×600kmの領域を設定し、物質収支、エネルギー収支に基づくプログラム計算を行い、大気中の水蒸気量や降雨量の変化を求めた。その結果、アルベド、表面の起伏、含水率を変化させることにより、大気中の水蒸気量や降雨量を増加させることができた。さらに砂漠緑化シナリオの具体性を高めるには、緑化により固定された炭素のコストを計算するとともに、他の対策技術と比較を行うことが必要であり、そのための評価手法および一時的評価の具体例を検討した。二酸化炭素問題は地球温暖化問題、エネルギー問題とも重なる部分が多く、これらへの副次的効果についても検討を進めた。