著者
湯浅 三郎 後藤 登 磯田 浩
出版者
東京都立科学技術大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

火星大気主成分のCO_2を酸化剤・作動流体としMgやAlを燃料とする火星用ジェットエンジン燃焼器開発の基礎データを得るために、低圧CO_2雰囲気下でのMgとAlの着火・燃焼過程を調べ、以下の成果を得た。(1)8Kpa程度の低い圧力のCO_2中でもAlやMgは着火・燃焼することが出来る。(2)初期反応膜を有しないAlが自発着火するか否かは、着火初期過程での反応膜形成の有無によって決まる。その形成は表面からのAl蒸気の無次元吹出し速度によって支配され、それが臨界速度を越えたときに着火が起こる。(3)Alの自発着火温度は約1550〜2000℃の範囲にあり、CO_2の雰囲気圧力や淀み流流速が低くなるにつれて低下する。(4)Alの燃焼過程は圧力によって変わらず、凝縮したAl_2O_3とCOとを形成するAl蒸気の一様な拡散火炎を伴って燃焼する。(5)Mgの着火は、反応速度支配の表面反応過程で最初に形成される薄い保護的な表面膜が破れた後、CO_2拡散によって支配される気相反応過程が活発になることによって起こる。(6)Mgの自発着火温度は約800〜900℃の範囲にあるが、雰囲気圧力が下がるとともに低下し、淀み流流速には殆ど影響されない。(7)Mgは、凝縮したMgOとCOとを形成するMg蒸気の拡散火炎によって燃焼する。しかしAlとは異なってCOが液体Mgと反応できるため、MgOと炭素からなる表面膜も同時に生成され、この膜の作用によって燃焼は間欠・局所的に起こる。(8)Mgを火星用ジェットエンジンに使用する場合には、表面反応膜の形成による燃焼速度の低下を防止するため、Mgは極超微粒子か蒸気の形で供給する必要がある。
著者
小針 誠
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究課題は、国立・私立小学校を志望する家族の社会階層、教育意識・志望理由の変容が学校組織や学校経営に与えた影響を、この20年の定点観察を通じて明らかにする。申請者が2000年に実施した国立・私立小学校を志望する保護者対象の質問紙調査に新規の項目を追加した質問紙調査を2020年に追施、両者を時系列的に比較し、小学校受験層の社会階層や教育意識の変化を捉える。この20年の間、学校を取り巻く環境は大きく変容し、学校に対する保護者の教育期待や要望は著しく多様化した。私立小学校のなかには、志願者がほとんど減少しない学校の一方、存亡の危機に直面する学校も少なくない。
著者
Kenney E.R
出版者
関西外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

"針聞書"は大阪地域に住んでいた医師によって作成された1568年の日付の日本の原稿です。 原稿には、それぞれ独自の名前を持つ63個の虫の絵が含まれています。 これらのワームは人体に住んでいて寄生虫のようです。 しかし、ワームの名前は空想的であり、ほとんどの名前は他の医学書には載っていません。 63の虫のそれぞれについて、患者の症状と病気の治療法についての簡単な説明があります。"針聞書"について真剣に研究した外国人研究者は他にいません。 私の研究の第一段階は"針聞書"を翻訳することです。 さらなる研究には、"針聞書"と同様の期間の他の日本の医学書との関係の調査が含まれます。
著者
岡 真理 宮下 遼 山本 薫 石川 清子 藤元 優子 福田 義昭 鵜戸 聡 田浪 亜央江 中村 菜穂 前田 君江 鈴木 珠里 石井 啓一郎 徳原 靖浩 細田 和江 磯部 加代子 岡崎 弘樹 鈴木 克己 栗原 俊秀 竹田 敏之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

アラビア語、ペルシア語、トルコ語、ヘブライ語など中東の諸言語で、中東地域で生産される作品のみならず、中東に歴史的出自を持つ者によって、欧米など地理的中東世界を超えた地域で、英語、仏語、独語、伊語などの西洋の諸言語で生み出される作品をも対象に、文学や映画などさまざまなテクストに現れた「ワタン(祖国)」表象の超域的な分析を通して、「ワタン」を軸に、近現代中東世界の社会的・歴史的ありようとそのダイナミズムの一端と、国民国家や言語文化の境界を越えた共通性および各国・各地域の固有性を明らかにすると同時に、近現代中東の人々の経験を、人間にとって祖国とは何かという普遍的問いに対する一つの応答として提示した。
著者
寶来 正子 大槻 知忠 高橋 渉 小島 定吉 鵜飼 正二 藤井 光昭
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

型理論の研究で明らかにしたい事柄の一つに,与えられた型システムで型付け可能な項全体を適当な同値関係(例えば,β同値,βη同値,またはその他の同値関係)の下で同値類に分類したとき,その全体がどのような数学的構造を成すかを知ることが上げられる.これは本来,意味論の中心的な研究課題であると言えるが,型理論の場合,この問題に対して構文論(または証明論)的なアプローチの可能性が考えられる.本研究では,構文論的アプローチによって,単純型理論における型付き項全体を,同値関係βηで割った商集合を,ある種の文法的手法を用いて表現することに成功した.ここで用いた手法は,文脈自由文法の名で親しまれている概念を,この目的のために拡張したもので,述語論理における項や,これを拡張した種々の型理論の項から成る集合を端的に表現できる一般的な枠組みであり,今後,単純型以外の種々の体系に対しても,有用性を発揮することが期待される.この,新たに導入した文法的方法の一つの応用として,型理論の型付き項を用いて,自由代数構造の上のどのような関数が表現可能かを調べる問題が上げられる.型のないラムダ計算の項を用いて表現可能な自然数関数はちょうど計算可能関数と一致し,単純型理論の場合はそれが拡張多項式と一致することが知られているが,これを一般の自由代数構造上の関数に拡張すると,単純型理論の場合でも議論が非常に複雑になり,その結果,表現可能な関数についてある種の特徴付けがすでに得られているものの,満足のいく結果とは言い難い.この問題に対して,我々の文法的手法を用いて,既存の結果とは異なる見通しの良い新しい特徴付けを得ることができた.この結果を更に単純型以外の型理論に拡張する試みを今後続けたいと計画している.
著者
大森 雅人
出版者
神戸常盤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、「幼児が法則性や一般性に自ら気付く体験」に繋がる環境を構成できる力を持つ保育者を養成するための、教育の在り方の提案を目的としている。以下に、令和2年度に取り組んだ内容と得られた成果について、その概要を記述する。養成教育段階で、「規則性・法則性」に関する実践的な知識や、幼児の遊びが「規則性・法則性」に気付く探究活動になるような環境構成と援助ができる力の育成が必要となる。昨年度まで、そうした力の育成を目指す研究の一環として、幼児が自らの力で気付くことができる「規則性・法則性」に関する検討を行い、養成教育段階での教育内容を決定するための基礎資料として蓄積してきた。そこでの検討対象は、幼稚園教育要領解説(指導書)に例示された「規則性・法則性」の内容や、米国のNGSS(Next Generation Science Standards)に示された領域コア概念であった。令和2年度は新たに、米国で出されている「Science Experiences for the Early Childhood Years」に示された科学概念を対象として検討を行った。その結果、「Science Experiences for the Early Childhood Years」に示された科学概念と、我が国の幼稚園教育要領解説(指導書)に例示された「規則性・法則性」の内容には、共通する部分があることが認められた。内容が共通する部分は、今後、養成教育における教育内容を決定する際に、最も重視すべき内容であると考えることができる。また両者に共通していない内容でも、「Science Experiences for the Early Childhood Years」が示す科学概念には、養成教育の教育内容として活用できる概念が多く見られたので、「教育内容」を導く際の基礎資料となることが認められた。
著者
高橋 英之
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究プロジェクトの目的は,子供のロボットに対する親近的な興味の背後にあるメカニズムに迫り,それを生み出す脳内メカニズムをモデル化することにある.ロボットへの親近的な興味の背後にあるメカニズムを探るために,オキシトシンというホルモンに注目した成人を対象とした人間とロボットの交流実験の解析を行った.その結果,オキシトシンはロボットへの親近的な興味を増大させる機能があること,ただしそのような親近的な興味を生じさせるにはロボットにインタラクティブ性があることが重要なことが分かった.この研究は成人を対象としたものであり,今後,子供で類似の実験を行う予定である.また本研究計画では,子供とロボットのみの関係ではなく,子供と母親の関係性についても考える必要がある.本年度は子供と母親の関係性を記述する力学系のモデルをRNNPBネットワークというニューラルネットワークモデルを用いて構築した.その結果,子どもとロボットの身体的能力の差異が子供と母親の多様な関係性を生み出すことが示唆された.今後はこのモデルに,報酬系に相当するシステムを埋め込み,親近的な興味がどのように生じるのかをシミュレーションで明らかにしていきたいと考えている.以上,本研究プロジェクトではロボットへの親近的な興味の背後にあるメカニズムに多様な観点からアプローチすることができた.その一方で,メインのスコープとしていた子供のロボットに対する興味の計測については現状ではまだ予備実験に留まっており,今後より掘り下げて成果をだしていく必要がある.
著者
真貝 寿明 鳥居 隆 島野 顕継 高橋 弘毅 伊藤 洋介 西口 敏司
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

アインシュタインが一般相対性理論で予言した重力波は,100年の時を経て実際に観測できる技術が確立した.2019年末からは日本のKAGRAプロジェクトも実観測に入ることから,重力波観測は,物理学から天文学へと学問の域を広げていく.本研究では,未知の重力波を捉える方法開発・効率のよい波源天体のパラメータ推定法の開発を行うとともに,分散型コンピューティングを利用して科学のアウトリーチ活動も推進する.
著者
岩室 史英 舞原 俊憲 太田 耕司 戸谷 友則 岩室 史英
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題では、広視野の主焦点を有するすばる望遠鏡に、多天体ファイバー分光器を開発して搭載すること、およびそれを用いて、本研究題目にかかげた「初期銀河と原始クェーサーの形成過程の研究」を行っていくことを目標にして、FMOSと呼ばれる新しい機能を備えた分光器システムの開発的研究を進めてきた。この分光観測装置は、可視域の0.9ミクロン帯から1.8ミクロンまでの近赤外線スペクトルを、約400本の光ファイバーを用いて大型分光器に導入するもので、研究計画では、赤方偏移の値が2〜5以上の比較的宇宙のはじめに存在している銀河とクェーサーなどを、観測目標にしながら、予定されていた試験観測期間にそれらの形成過程の糸口を得ることを想定していた。実際にFMOSを搭載する補正光学系や姿勢制御機構を用いた試験観測を2度実施したが、主焦点制御機構の不具合や、複雑な分光器システムの調整に予想以上の時間が必要となったため、銀河やクェーサーをターゲットにした試験観測自体は少し実施時期が遅れてきている。しかし、広視野かつ多天体分光機能をもつFMOSに対する今後の研究全般に対する期待は大きく、この装置をつかった色々な研究課題の検討もまた、予想以上に進んできた。したがってこの研究成果報告では、FMOS装置の開発的研究の進捗に関する詳しい報告と、その装置を大型望遠鏡の主焦点に搭載して行うことのできる非常に先進的な観測の計画内容についての報告を主に行う。具体的には、開発的研究面では、冷却分光器の低温性能、光学系全体としての結像性能、検出器の特性とデータ取得制御、アーカイブシステムとのインターフェースなど、また観測計画の検討の面では、初期銀河の形成過程の系統的研究、ダークエネルギー探査プロジェクトの検討、などがあり、平成19年度からの本格的な観測的研究が期待できる。
著者
濱沖 敢太郎 内田 康弘 神崎 真実 土岐 玲奈
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の目的は、通信制高校のカリキュラムやその運用方法の特徴を明らかにすることである。具体的には、「教育課程表を用いた体系的なカリキュラムデータの構築と分析」及び「私立通信制におけるカリキュラム運用の実態検証」を実施する。この研究の特色は「通信制高校と同様、多様な生徒が学ぶ場づくりを進めてきた学校群との比較」そして「1990年代以降の拡充期に起きた通信制内部の変化」に着目する点であり、1990年代以降の高校教育に関するカリキュラム研究を批判的に継承し、その意義や可能性を再構築することにも寄与するものである。
著者
堺 正之
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

主として3点を挙げることができる。第1に、1958年以降の日本の小中学校における道徳教育の特徴をその内容の観点から明らかにした。第2に、道徳の時間の諸方法について、その特質を明らかにするとともに、いじめ問題への対応に貢献するための相互補完の可能性を示した。第3に、今後の教員養成教育における道徳の指導法に関する科目改善について提言を行った。
著者
松原 隆彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

宇宙の大規模構造を理論的に記述し、大規模な観測データから精密に宇宙論モデルを制限するためには、ゆらぎの観測量に関する非線形性の理論的理解が不可欠である。これまでの宇宙論的摂動論を大幅に拡張して一般化し、単なる密度ゆらぎの非線形性だけでなく、実際の観測量に現れる非線形性を系統的に理解する実際的な方法を基礎づけることができた。
著者
戸谷 友則 太田 耕司 岩室 史英 秋山 正幸 田村 直之
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

現在の最新宇宙論における重要問題はいくつかあるが、その最大のものは「宇宙のダークサイド(暗黒面)」という言葉で以下の三つにまとめることができる。すなわち、(1)宇宙を加速膨張させる「ダークエネルギー」、(2)宇宙の重力を支配する「ダークマター(暗黒物質)」、そして(3)宇宙の晴れ上がりから最初の天体形成と宇宙再電離をつなぐ「ダークエイジ(暗黒時代)」である。その中でも、ダークエネルギーは現代物理学の根源的な改訂につながる可能性すら秘めた、とくに重大な問題として認識されている。すばる望遠鏡の新観測装置FMOSを用いたバリオン振動探査計画により、このダークエネルギーに迫る事ができると期待されている。本研究の目的は、このバリオン振動探査計画のサーベイデザインを検討し、FMOS完成の際にすみやかに観測提案書を作成する準備を進める事にある。この目的のため、戸谷を中心に分光ターゲット銀河選定の手法や実現性を詳細にしらべた。「すばるディープフィールド」や、「すばるXMM-Newtonディープフィールド」と呼ばれる領域のすばる望遠鏡を中心とする膨大なデータをもとに、バリオン振動探査に使用できる銀河が十分に存在するかどうかを精査した。その結果、バリオン振動探査に十分な数の銀河があり、また、イメージングサーベイデータから測光的赤方偏移計算の手法により効率よく選択できる事も判明した。また、メンバーがハワイに集まってミーティングを開催し、FMOS装置に対する理解を深めるとともに、今後の問題点を洗い出して計画の推進に役立てた。国際的な注目も高く、国際会議で進捗状況を報告した。
著者
松本 悠貴
出版者
アニコム先進医療研究所株式会社(研究開発課)
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

近交弱勢は遺伝的に近い個体から生まれた子の死亡リスクが上昇したり、生殖能力が低下する現象である。この現象の遺伝的な理解は、ウシやブタなどの畜産分野での生産性の向上や、個体数が減少した希少動物の保護に有用であるが、その機構については遺伝子のレベルではほとんどわかっていない。本研究では、弊社グループ企業であるアニコム損害保険株式会社が独自にもつ2,000万件を超えるイヌの医療情報データと、数百個体規模のゲノム解析を用いることで、近交弱勢に関わる遺伝子を探索する。
著者
鶴見 太郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

組織面から見た時、柳田国男の民俗学はしばしば、地方の郷土史家を従属的に扱い、そこから民俗資料を吸収して、独占的にそれらを分析する構造を持っていたと指摘を受けることが多い。しかしながら、同時代の資料、特に『郷土研究』並びに「橋浦泰雄関係文書」などを子細に、かつ長期的な視野のもとで検証すれば、柳田の研究体制とは、その土地々々に自生する郷土研究会の特質を尊重し、全国組織という体裁をとったとしても、それは在来の研究者・研究会を横から繋ぐ、という様式を旨とするものであり、必ずしもトップダウン型の組織運営が目指されたとは言えない。また、大正中期に『郷土研究』に投稿し、柳田と接触を持った郷土史家は、その後、継続的に柳田の主催する郷土・民俗学に関わる雑誌に投稿しており、すすんで長期にわたって柳田と交流を保とうとしたことが分かる。『郷土研究』とほぼ並行して運営された民俗談話会「郷土会」のメンバーが共通して国家主導のもとで郷土を捉えようとする地方改良運動に強い批判を抱いていたことを確認すれば、実証と経験的思考を徹底する柳田民俗学は、その特色を組織の域にまで拡大して援用し、その効果を挙げたといえよう。
著者
上阪 直史
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

生殖細胞である精子形成のメカニズムに関して不明な点が多く残されている。本研究では、カルシウムが精子形成を制御する可能性を検討するために、イメージングや光遺伝学などの細胞活動操作技術を応用し、脳活動を操作したときの精巣細胞のカルシウム活動をリアルタイムで観察・操作できるin vivo実験系の開発を目指した。成果として、マウス精巣においてin vivoカルシウムイメージング法を新規に開発し、in vivoで細胞のカルシウム活動を1細胞レベルかつ多色でイメージングすることが可能となった。また精巣においてカルシウム活動を駆動しうる分子を見出し、カルシウム活動が精子形成に関与する可能性を見出した。
著者
佐藤 健太郎
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、教科書の編纂や検定とそれを規定した政治状況に注目し、1930年代から1950年代における学校教育での政治教育の展開を、日本政治外交史的手法により実証的に解明することを目的とする。主として、①この間の政治教育をめぐる過程を、政治教育の発展・変質・再興の過程として長期的視野から分析すること ② 検定教科書を、知識人の言論と、国家の規制との対立が集約されるものと位置づけ、教科書の内容や検定の状況を分析すること、等を通して、55年体制下における「教育と政治」の淵源を明らかにし、戦後民主主義の基盤を問いたい。
著者
小林 美和 冨安 郁子
出版者
帝塚山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近時、食育の問題が重要視され、あらためて日本の伝統的食文化見直しの必要性が認識されはじめている。本研究は、そうした社会的要請を背景として、日本食文化の淵源として位置づけられている室町時代の食文化を、当時盛んに作成された室町時代物語を主たる素材として追究した。室町時代物語の多くは、絵巻や奈良絵本等といった形態で流布しており、それらは視覚的資料としても、当時の食文化・生活文化の実態を知る上で、有益である。本研究では、「東勝寺鼠物語」、「六条葵上物語」「月林草」「精進魚類物語」等の作品を素材として、当時の食文化および生活文化の実態を究明した。
著者
岸本 朗 井上 雄一 松永 慎次郎 中村 準一
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

現在、精神科臨床においては、複数の抗うつ薬に抵抗してうつ状態が持続するいわゆる難治性うつ病者の存在が問題となっている。難治性うつ病者にみられる臨床的特徴は急性期にみられるような高コルチゾール(COR)血症がしばしば観察されるところにある。そこで本研究は平成7-8年にかけて、難治性うつ病者に対して、COR合成阻害薬であるmetyraponeを投与するとともに、corticotropin-releasing hormone(CRH)を健常者や通常(非難治性)のうつ病者を対照として、難治性うつ病者に対して負荷し、それに対するadrenocorticotropic hormone(ACTH)やcortisol(COR)の反応を観察したものである。その結果、計9名の難治性うつ病者に対して1日量2,000mgまでのmetyraponeを、計16回にわたって使用したところ、双極性障害のみにおいて寛解が観察されたが、大うつ病では寛解が観察されなかった。また高COR血症が消失してもうつ状態の持続をみるものがあった。次に合計68名の対象について、100μgのCRHを静脈内に注射投与して得られたACTHやCOR反応を健常者や各うつ病者群と比較すると、難治性うつ病者においてはCRHに対するACTH反応,COR反応が服薬治療を受けている非難治性うつ病者、あるいは未治療者などにおけるそれらより有意に不良となっていた。以上の研究結果から、難治性うつ病者にみられる高COR血症は状態依存性ではあるが、必ずしもうつ病の原因とはなりえないこと、CRHに対するACTH,COR反応の不良性は長期間続く高COR血症のために下垂体や副腎皮質の反応性が不良となったものと考えられた。またCRH負荷試験は真の難治性うつ病から、不十分な抗うつ薬療法が行われているために、臨床効果が得られないうつ病者(すなわち偽難治性うつ病者)を区別する極めて有用な指標となるものと考えられた。