著者
青木 愛子 石井 里子 大倉 一晃 髙橋 真帆 酒泉 裕
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.446-451, 2023-07-25 (Released:2023-07-25)
参考文献数
15

症例は100歳女性。心窩部痛を主訴に当院を受診した。受診時,意識清明だったが,顔面蒼白で血圧低下を認めたため輸液が開始された。血液検査のために提出された採血検体は強い溶血を呈しており,再採血を含め3回の採血を行ったが,いずれも著明な溶血が認められた。また,尿定性で潜血3+,尿沈渣でRBC 1個未満/HPFと溶血の存在が示唆された。その後,症状の改善がみられず,意識レベルの低下,頻呼吸を認め,敗血症性ショックの疑いで緊急入院となった。入院時に血液培養2セットを採取し,meropenem(MEPM)にて治療が開始されたが,急速に全身状態は悪化し,入院12時間後に永眠された。採取された血液培養の2セット全てからClostridium perfringensが検出され,死亡時画像診断で肝臓に不整なガス像が認められた。
著者
見上 公一 河村 賢
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.15-27, 2023-09

本稿では,2022年3月に実施されたオンライン座談会「分子ロボットの未来」について報告し,それが責任ある研究とイノベーションなどの議論で目指されている「共創」を実現する上でどのような意義を持ちうるのかを検討する.オンライン座談会を実施したことで,萌芽的な科学研究領域である分子ロボティクスの第一線で活躍する研究者の描く未来についての考えが言説化され,各研究者がおかれている環境についての理解を深めることができたと同時に,研究者間の微妙なニュアンスの違いも捉えることができた.座談会は,自然科学と人文・社会科学の研究者の連携により実現したものであり,それ自体は特定の専門家に閉じた活動でしかないものの,その実施記録を資料として公開し,誰でも容易に手に取ることができるようにすることで,今後なされるであろう多様なステークホルダーを交えたインタラクションの質を向上させる可能性を秘めている.「共創」の実現のためには,実現しうる未来の可能性を広げ,社会として望ましい意思決定を行うための基盤を形成する必要があるが,今回のオンライン座談会という試みはそれに貢献する取り組みの一つとして評価できるのではないだろうか.
著者
金山 英莉花 内山 伊知郎
出版者
日本応用心理学会
雑誌
応用心理学研究 (ISSN:03874605)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.34-40, 2023-07-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
29

This study investigated the relationship between singing ability and spatial ability in preschoolers between the ages of 4 and 6 years old. The purpose was to examine cognitive ability associated with singing ability, in considering how to support singing in the field of early childhood education. We measured verbal ability and age as a control variable. Singing ability was measured using the "AIRS Test Battery of Singing Skills (ATBSS) for Children-Revised" (Ogura & Adachi, 2018). Spatial ability and verbal ability were measured using the WPPSI-III Block Design and Vocabulary. The results of multiple regression analysis showed that preschoolers with higher spatial ability had higher singing ability. No association between singing ability against verbal ability and age was identified. We concluded that the relationship of spatial and singing abilities was confirmed because both abilities were associated with perception and motor integration. Future intervention studies should be conducted in early childhood education settings.
著者
楠 貴光 早田 荘 大沼 俊博 渡邊 裕文 野口 克己 宮本 達也 鈴木 俊明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.77-81, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
11
被引用文献数
3

〔目的〕電気刺激による上腕三頭筋長頭の筋収縮が肩甲骨肢位に及ぼす影響を検討した.〔対象と方法〕健常人の20肢を対象に,上肢を肩関節水平屈曲60°位にて治療台上に保持させた.上腕三頭筋長頭に電気刺激を加え,X線を撮影し,安静時と電気刺激時の肩甲棘内側端と肩甲骨下角の脊椎間距離,肩甲骨上方回旋角を比較した.X撮影には放射線技師および医師の協力を得た.〔結果〕電気刺激時にて肩甲骨下角と脊椎間距離の中央値は7.9 mm,肩甲骨上方回旋角の中央値は9°増大し,有意差を認めた.〔結語〕肩関節水平屈曲60°位にて保持させた際の電気刺激による上腕三頭筋長頭の筋収縮は,肩甲骨外転および上方回旋に作用したと考える.
著者
柳沢 英輔 Eisuke Yanagisawa
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.421-453, 2014-03-25

本稿は,ベトナムにおけるキン族のゴング製作方法について,中部沿岸部のホイアン近郊にあるフッキウ村を事例に報告するものである。フッキウ村では,ゴング製作の知識や技術を代々受け継いだ職人がゴングを生産し,少数民族に販売してきた。ゴング製作の工程は,1 日目に原型の製作を,2 日目に鋳込み,研磨,調音などの作業を行う。鋳造によるゴング製作では原型の製作が最も重要であり,特に高度な技術を要する。また職人は少数民族の需要に合うように,鋳込みの材料に使用する金属の種類やその配合割合を変えている。村で最も優れたゴング製作職人の一人,ユン・ゴック・サン氏は,鋳造したゴングを少数民族ごとに異なる音色,音階に調律することができる。このようにゴング製作職人は,少数民族の需要に合わせてゴングを製作することで,ベトナムのゴング文化を支えてきた。
著者
和久井 秀樹 平田 豊
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.20-31, 2014-03-05 (Released:2014-05-16)
参考文献数
34
被引用文献数
8 5

日常生活においては,覚醒度の変化が,事故につながることや健康状態を把握するための指標になることがある.そのため,安全·安心な社会を実現するための取り組みとして,ヒトの覚醒度を把握する方法が検討されている.近年では,映像·画像処理技術の進歩により,瞳孔·眼球運動に覚醒度低下状態が感度良く反映されることが明らかになってきた.しかも,本人がまだ眠気を自覚する前からそのような変化は現れる.本稿では,覚醒状態と瞳孔運動および各種眼球運動(サッカード運動,前庭動眼反射,輻輳性眼球運動)との関係についてまとめ,それらに関与する神経機構について考察する.
著者
千葉 桂子 長谷川 加奈子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 60回大会(2008年)
巻号頁・発行日
pp.85, 2008 (Released:2008-11-10)

目的 今日,日本の女子スポーツ選手の実力が国際的にも高く評価されるようになってきている。なかでも陸上競技については注目度が高まっている。女子選手にとって運動時の乳房のサポートは,心身の安全性・快適性という観点からも重要であり,メーカーもブラジャーの運動機能性向上のために多様な製品展開を行っている。本研究ではその陸上競技に着目し,大学生および高校生選手のブラジャーの着用実態の把握を行う。それにより競技生活への支援のための基礎的情報を得ることを目的とする。 方法 ブラジャーの着用実態について,留置・郵送法による質問紙調査を行った。調査概要は以下の通りである。調査期間:2007年11~12月,調査対象:福島県内大学・高校の陸上競技部に所属する女子部員,回収率:77.0%(配布数287部,回収数221部),主な質問内容:回答者の属性(専門種目,競技歴,練習の状況等含む),日常時・練習時・競技時に着用するブラジャーについて,問題点の有無,購入時に重視することなど。得られた回答結果に基づいて単純集計およびクロス集計等により分析を行った。 結果 練習の実施日数については,平均すると高校生が週6日,大学生が週5日であり,練習時間は全体の平均で2.5時間であった。練習時において着用するブラジャーについては「いつも一般的なタイプ(ホックあり,1/2・3/4・フルカップ)」(78.7%)が多く,「時々スポーツブラジャー」は13.1%,「いつもスポーツブラジャー」は6.9%とかなり少なかった。また全体の68.3%が一般的なタイプでも「特に問題を感じていない」と回答していたが,「問題を感じる」と回答した者では肩ひもに関する指摘が最も多かった。
著者
吉岡 俊人 日下部 智香
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.44-53, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
20

ヒメムカシヨモギは明治初期、オオアレチノギクは大正末期に帰化が確認されたキク科Erigeron属の外来雑草である。ヒメムカシヨモギにはゴイシング,デンシングサ,テツドーグサなどの方言があって、開発に伴って分布拡大した様相が呼称から読み取れる。よく似た両種の識別点は、舌状花が明瞭か否かあるいは茎葉の毛が粗か密かである。どちらも自殖性,多産性,長距離風散布性,易発芽性,短生活期間など放浪種としての性質を有するが、オオアレチノギクに比べてヒメムカシヨモギではいずれの性質もより顕著だと言える。また、オオアレチノギクが越年草であるのに対してヒメムカシヨモギは一越年草である。これらの生存戦略上の差異は、両種の地理的分布や雑草特性、あるいは優占化する植生遷移段階の違いとなって現われている。
著者
獅々見 真由香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.73-88, 2016 (Released:2018-12-26)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,オノマトペの会話教材の提案を目標に,前段階として不可欠である,会話におけるオノマトペの基本語彙選定を行った。基本語彙の選定方法としては,出現頻度調査に加えて親密度調査を行い,両方のデータを統合させる手法を採った。出現頻度調査の結果,オノマトペの出現頻度に偏りがあったが,出現頻度データに親密度データを加味することで基本度の順位を決定することができた。親密度調査にあたっては,幅広い年代の新しいデータを収集するため,独自の調査を行い,成人458名(男性218名,女性240名)のデータを得た。その上で,主成分分析を行い,その得点により273語のオノマトペの基本度の順位を決定した。そのうち,主成分得点の低い21語を除外した252語を,本研究における基本語彙としてのオノマトペとした。
著者
黒崎 龍悟 Ryugo Kurosaki
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.271-313, 2014-11-28

自然植生が大きく後退したアフリカ農村における植林の普及は重要な現代的課題である。アフリカ農村での植林の実態については,人々の植林する動機に焦点を当てた研究が蓄積されてきた。しかし,植林技術が地域社会でどのように受容され継承されてきたかについての詳細な研究はほとんどない。本論文では,植民地期から植林の歴史をもつタンザニア南部の農村を対象にして,植林のような多年にわたる取り組みを必要とする外来技術が,地域社会にどのように根づいていくのかについて考察することを目的とした。同村ではイギリス委任統治時代に植林技術が持ち込まれ,村人は徐々に植林を受容していき,1950年代頃から積極的に植林を始める村人が現れ,2000 年以降には植林に取り組む人数が目に見えて増加していた。本論文では,関連政策や開発プロジェクトなどの動向を考慮しつつ,個々人の植林行動を長期的に追うことで,村人がどのような動機で,またどのような条件の下で植林を試み/繰り返しているのかを明らかにする。そして,植林技術の伝わる複数の経路について着目し,植林技術が地域社会内で広がり,世代を越えて継承されていく様子を動態的に把握する。
著者
三好 正太 大西 亘 古関 隆章 佐藤 基
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌D(産業応用部門誌) (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.242-255, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2

Boost converters are key components of DC power conversion used for electric mobility and renewable energy applications. In addition to constant voltage control of the output, variable voltage control has been attracting attention in recent years for high-efficiency drive of loads. However, the dynamic characteristics of boost converters exhibit nonlinear and nonminimum phase characteristics. Therefore, the inverse model for feedforward control is unstable, making high-precision voltage trajectory tracking control challenging. This study aims to present a noncausal and nonlinear feedforward controller to compensate for the nonlinear and nonminimum phase characteristics of the boost converter and to achieve perfect tracking control with respect to the output voltage trajectory. This study also establishes a method for identifying circuit parameters and deriving the time length of noncausal control input for practical implementation. The effectiveness of this control method is demonstrated by experiments using a boost converter.

3 0 0 0 OA 中篇

出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.10, pp.656-659, 2001-10-25 (Released:2009-05-25)
被引用文献数
1
著者
岡田 涼 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-11, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
25 4

本研究の目的は, 自己決定理論において概念化されている複数の動機づけから個人を動機づけスタイルとして表し, その動機づけスタイルによって, 実際の課題解決場面において課題に対する興味にどのような相違が見られるかを検討することであった。研究1では, 大学生の学習活動に対する動機づけを尋ねる質問紙を作成し, それらの得点から, 4つの動機づけスタイル (高動機づけ, 自律, 取り入れ・外的, 低動機づけ) を見出した。研究2では, 従来の自己決定理論研究において用いられることの少なかった実験的な手法を用いて, 動機づけスタイルが課題への興味に及ぼす影響を検討した。その結果, 非統制的な教示条件下において, 取り入れ・外的スタイルは高動機づけスタイルよりも課題に対する事後の興味得点が低くなっていた。また, 高動機づけスタイルと取り入れ・外的スタイルは, ともに低動機づけスタイルよりも課題遂行中の不安・強制感が高かった。以上のように, 動機づけスタイルによって課題への興味のあり方や課題遂行中の不安が異なるという結果は, 個人の動機づけを動機づけスタイルとして多面的に捉える枠組みの有用性を示すものであると考えられる。
著者
増田 亮一 山下 市二 金子 勝芳
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.186-191, 1997-03-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

スイートコーン顆粒(sh2導入種)の呈味を支配する成分の糖,遊離アミノ酸および有機酸含量に,収穫時刻による差異があるのかを成分分析値および糖代謝酵素活性から検討した.1) スイートコーン顆粒の乾物重量は,日没時が多く,夜間に減少し,日出時に最低となり,再び増加する日変動を示した.食味に最も寄与するスクロース含量は午後に,デンプン含量は日没時に多い傾向は認められたが有意な差ではなかった.2) 一方,糖代謝酵素の活性から糖類の集積を検討したところ,スクロース蓄積と関連が深いADPグルコースーピロボスホリラーゼ活性は日没時に増加した.これはデンプン合成が促進され,スクロース含量が日没時に減少したことと一致している.また,日出時のスクロース合成酵素活性の低下は,夜間における顆粒へのスクロース転流量の低下を示唆していた.3) スイートコーンの食味に最も寄与するスクロースの収穫時刻による含量の変化率は約5.6%(0.5g/100g新鮮重)であり,食味に及ぼす影響は検知し難いと推定される.しかし,日没時のアラーンやリンゴ酸含量は,午後や日出時に比べて多く,収穫時刻によって食味に何らかの影響があるものと考えられた.4) スイートコーンの早朝収穫には収穫時点の成分含有量からみる限り必然性があるとはいえなかった.しかし,顆粒の品温は気温から30~40分程遅れて追随する日変動を示し,午後1時に最高,日出30分後に最低値となった.気温の低い早朝に収穫すると予冷に要する時間が短縮される効果があり,市場出荷を前提とした場合に妥当と考えられた.