著者
野村 みどり
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.137-141, 2003-06-30 (Released:2011-03-09)
参考文献数
5

1950年代以降, 西欧諸国では, 病院におけるこどものためのあそび支援プログラムの発展と, その担当専門家の活躍によって, 家族中心ケアやプリパレーション (あそび・まなびを導入した診療準備) 等の支援も推進されてきた.1988年「病院のこども憲章」EACH Charterが作成され, 2002年, その現代的注釈が刊行された.本憲章の履行は, 国連こどもの権利条約の履行である.すなわち, 病院において親は, いつでも (夜間, 治療・検査時, 局所麻酔・鎮静中, 麻酔導入時・覚醒時, 昏睡状態, 蘇生処置中) こどもに付き添う権利を有し, 親は全面的にサポートされねばならない.こどもと親が処置すべてを事前に知っていることが意思決定に積極的に関わるための前提条件である.こどもを医療者の対等のパートナーに据えるとともに, 家族中心ケアの実現がもとめられており, わが国におけるその効果的推進のためには, 家族が付き添える病院環境の整備とホスピタルプレイスペシャリストなど, 専門家の養成・導入は緊急課題といえる.
著者
猪本 修 大村 優華
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.5-10, 2020-06-20 (Released:2020-06-17)
参考文献数
6
被引用文献数
2

音の物理的特性は大きさ,高さ,音色の三要素によって特徴づけられる.これらのうち音色は身近のさまざまな楽器や声などの個性や多様性に関わるものであり,音を学ぶ上で欠くことができない重要な要素である.しかしながら中学校理科,高校物理のいずれでも音色についてはほとんど学ぶ機会がないため,音色については分かりやすい教材と指導法が求められる.本研究では,高校物理の教育課程において音色を詳しく扱うにあたって,楽音を構成する倍音成分と波形の関係を述べ,それを効果的に演示するための実験的方法を示した.さらに音色と倍音の関係を調べる対象としてヒトの声に着目した.声の倍音構成を成人116名について調べたところ,第3倍音から第6倍音にかけて性差を反映する特徴が見いだされた.本研究により,音の主要な要素の一つである音色を教材化するには,身近な素材である声を対象とすることが効果的であり,音に対する理解をより豊かなものにできることが示された.
著者
高橋 茂
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1_32-1_35, 2009 (Released:2012-03-27)
参考文献数
9
被引用文献数
3 1
著者
長谷川 眞理子
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.168-178, 1999-06-01 (Released:2008-10-03)
参考文献数
26

Following the major paradigm shift from group selection to gene selection, game theoretical approach came into the study of animal behaviour as a powerful tool. Vast aspects of animal beheaviour are thought to be under one or other kind of game situation, and under those circumstances, evolutionary game theory often predicts the coexistence of more than 2 different strategies in one population. Evolutionarily Stable Strategy is the key concept to understand those situations. Game theoretical approaches have played an important role in the study of animal conflict, communication, cooperation, habitat selection, etc. In traditional game theory which are used in social sciences, strategies are assumed to be adopted by rational choice. In evolutionary game theory, each strategy has a genetic basis and the outcome of the competition among them are determined through natural selection. In the analysis of human behaviour, it is not yet clear what is the basic adaptive architecture of the workings of our brain and how cultural contexts insert influence on them. Nor are we yet successful to give full scientific explanation to the origin and maintenance of different types of cultures. However, evolutionary game theory makes a host of testable predictions about human behavioural diversity. It will be productive both for behavioural ecology and human social sciences to reconsider human behaviour from the evolutionary perspective.
著者
西田 友広
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.127, no.8, pp.35-51, 2018 (Released:2019-08-20)

本稿では、日本の中世社会の特徴をよく示す法諺として知られる、「獄前死人、無レ訴者、無二検断一」(獄前の死人、訴え無くば、検断無し)という言葉の意味を再検討し、この法諺を、中世社会の検断の実態の中で、整合的に理解し、位置づけることを試みた。 この法諺はこれまで、日本中世の検断(刑事訴訟)における弾劾主義・当事者主義の原則の存在を、またさらに広く、中世社会が自力救済を原則としていたことを象徴的に示すものと理解されてきた。そして、「獄の前に死体があったとしても、訴えがなければ、検断は行われない」、さらには「行ってもらえない」という意味で理解されてきた。 しかし、一方で、訴えが無いにもかかわらず検断が行われ、それが不当であると訴えられたり、鎌倉幕府や朝廷などによって禁止されたりするという実例も多く存在する。 この法諺の「訴えが無ければ、検断は行われない/行ってもらえない」という通説的理解と、訴え無しに検断が行われ、それが非難されるという実例の存在は、どのように整合的に理解することができるのか、この点の解明が本稿の目的である。 まず第一章では、この法諺に関する先行研究にさかのぼり、「訴えが無ければ、検断は行われない/行ってもらえない」という通説的理解の成立過程とその問題点を確認した。その結果、通説的理解の形成過程とともに、一方で、当時の検断のあり方との間に矛盾も指摘されていたことを明らかにした。また、先行研究における史料解釈にも問題点が存在するものがあることが明らかになった。 次に第二章では、中世の検断の実態を確認し、訴えと検断との関係について、史料に即して検討し以下の事を明らかにした。まず、中世にあっては、様々な権力主体が、権利・利権として検断を行っており、それゆえに不当・過酷な検断が横行していた。これに対し、鎌倉時代中期以降、検断の執行を訴えがあった場合に制限しようとする動きが生じてくる。この動きは、撫民法として幕府や荘園領主にも採用され、地域社会レベルでの検断に規制が加えられていった。一方、悪党問題の発生にともない、特に幕府では、一定の形式と手続きの下、訴え無き検断の正当化が進められた。地域社会レベルでは訴え無き検断の制限が行われる一方、幕府や荘園領主レベルでは訴え無き検断の正当化が進められていったのである。 そして第三章では、「獄前死人、無レ訴者、無二検断一」という言葉が記された訴訟の経緯を確認し、この言葉が発せられた意図と、その意味内容を明らかにした。この言葉は、東寺の執行職をめぐる至徳二年の訴訟の中で発せられた。それは、訴訟の争点となった殺害について、検断の結果、その犯人は明らかになったという主張を否定するために発せられた言葉であった。よって、この言葉は「訴えが無ければ、検断は行われてはならない」と、訴え無き検断を否定・拒否する意味と解釈すべきである。 中世にあっては、様々な権力主体が、権利・利権として検断を行っていたため、不当・過酷な検断が横行していた。これに対し、鎌倉時代中期以降、検断を訴えがあった場合のみに制限しようとする動きが生じ、地域社会レベルでは訴え無き検断の制限が行われる一方、幕府や荘園領主レベルでは訴え無き検断の正当化が進められていった。訴えと検断をめぐるこのような状況と、「獄前死人、無レ訴者、無二検断一」という言葉が発せられた経緯を踏まえるならば、この法諺は「訴えが無ければ、検断は行われてはならない」と、訴え無き検断を否定・拒否する意味で解釈するべきである。そして、このように解釈することによって、この法諺は中世社会の検断の実態の中で、整合的に理解し、位置づけることができる。
著者
Aya Hirata Tomonori Okamura Takumi Hirata Daisuke Sugiyama Takayoshi Ohkubo Nagako Okuda Yoshikuni Kita Takehito Hayakawa Aya Kadota Keiko Kondo Katsuyuki Miura Akira Okayama Hirotsugu Ueshima
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
pp.JE20200399, (Released:2021-01-16)
参考文献数
31
被引用文献数
9

BackgroundNon-fasting triglycerides (TG) are considered a better predictor of cardiovascular disease (CVD) than fasting TG. However, the effect of non-fasting TG on fatal CVD events remains unclear. In the present study, we aimed to explore the relationship between non-fasting TG and CVD mortality in a Japanese general population.MethodsA total of 6,831 participants without a history of CVD, in which those who had a blood sampling over 8 hours or more after a meal were excluded, were followed for 18.0 years. We divided participants into seven groups according to non-fasting TG levels: ≤59 mg/dL, 60-89 mg/dL, 90-119 mg/dL, 120-149 mg/dL, 150-179 mg/dL, 180-209 mg/dL, and ≥210 mg/dL, and estimated the multivariable-adjusted hazard ratios (HRs) of each TG group for CVD mortality after adjusting for potential confounders, including high density lipoprotein cholesterol. Additionally, we performed analysis stratified by age <65 and ≥65 years.ResultsDuring the follow-up period, 433 deaths due to CVD were detected. Compared with a non-fasting TG of 150-179 mg/dL, non-fasting TG ≥210 mg/dL was significantly associated with increased risk for CVD mortality (HR=1.56, 95% CI, 1.01-2.41). Additionally, lower levels of non-fasting TG were also significantly associated with increased risk for fatal CVD. In participants aged ≥65 years, lower levels of non-fasting TG had a stronger impact on increased risk for CVD mortality, while higher levels of non-fasting TG had a stronger impact in those aged <65 years.ConclusionIn a general Japanese population, we observed a U-shaped association between non-fasting TG and fatal CVD events.
著者
渡邊 健一 神尾 友信 大河原 大次 馬場 俊吉 八木 聰明
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.46-51, 1998-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
19

バンドノイズマスカーによる耳鳴抑制治療を行い, マスカー装用前後でSOAEを測定した。SOAE検出例のマスカーによる耳鳴抑制効果とSOAEの変化について検討を行った。耳鳴周波数およびラウドネスとSOAEの周波数および大きさには有意な相関関係は認められず, 非耳鳴耳でもSOAEが検出された。また, マスカー装用前後でSOAEの周波数および大きさに有意な変化は認められなかった。これらの結果より耳鳴とSOAEの関連性は低いと考えられた。
著者
赤坂 亮太
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第32回 (2018) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.1F2OS5a03, 2018 (Released:2018-07-30)

自律的なAIの発展にともない、AIが原因となる何らかの問題が生じた際に関係する個人に結果について予見可能性を観念することが困難になってきており、またその行動のアルゴリズムが人間には理解できずブラックボックス化している。そのような状況において、今日の法制度では関係する個人に責任を観念することが難しく、被害者が救済されないなどの問題がある。その解決策の一つとして、AIに法的責任を観念できる法的主体性をもたせて、直接責任を負わせようという考え方がある。 本報告においては、我が国の不法行為法と不法行為責任に焦点を絞り、上記のアイデアが不法行為法の目的や機能を満足させることができるか検討した。検討の結果、十分に満足させることは難しく、むしろ既存の無過失責任制度や無過失補償制度を応用することが問題解決としては適しているとの考えに至った。
著者
細見 彰洋 三輪 由佳 真野 隆司
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.215-221, 2013 (Released:2013-10-12)
参考文献数
20
被引用文献数
4 8

果実品質向上,凍害や獣害防止など,複合的な機能を期待して考案したイチジクの主枝高設樹形で,地上 180 cm の主枝から結果枝を垂下させる新樹形を考案し,栽植密度を変えた異なる樹勢条件で,‘桝井ドーフィン’樹の生育と果実生産への影響を調査した.新樹形樹では,従来の一文字整枝樹(対照樹)に比べて展葉日が 2~3 日早くなった.また,新樹形樹では新梢先端部の肥大生長(先口径,比葉重)が抑制されたが,新梢の伸長生長は対照樹と差がなかった.結果枝上の副梢や結果枝以外の新梢は,栽植密度が高まるほど多発し,特に前者は,従来樹形樹に比べ新樹形樹で秋季に多発した.強勢な新梢の基部に発生し易い不着果は,新樹形樹の方が抑制された.果実の着色は,新梢の先端付近では新樹形樹の方が抑制されたが,基部付近では向上した.また,果実肥大は,全般に新樹形樹の方が抑制される傾向にあった.果実着色や果実肥大におけるこれらの特徴には,新梢の垂下による採光条件の変化が作用している可能性が考えられた.以上,考案した新樹形については,えき芽の多発や果実の肥大不足を避けるための,より適切な新梢誘引法の検討が必要なものの,新梢下位節の果実の着生や着色を促進する利点が明らかとなった.
著者
吉原 克則 一林 亮 伊藤 博 坪田 貴也 濱田 聡 本多 満 奥田 優子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.93-98, 2009-02-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
15

有機リン中毒治療に際し,医療者の二次被害と考えられた事例を経験した。中毒症状の強い 1 名は,先天性コリンエステラーゼ(ChE)欠損と診断され,有機リン中毒患者治療により症状を呈した特異な事例である。有機リン中毒患者の脱衣,清拭,気管挿管,胃洗浄などの初療に関係した医療者 5 名と救急室で他患者に対応していた3名に処置中から頭痛・頭重感(8/8),全身倦怠感・目の違和感(5/8),喉の痛み(3/8),四肢の脱力感・歩行障害(1/8)が2-3日, 1 名は 5 日間継続した。暴露後の採血で軽症 7 名のChEは正常であったが,直接関与していないが脱力感・歩行障害も訴えた 1 名はChE 27 IU/lで,その後も40IU/l以下であった。他の血液,生化学的検査に異常は認められず,先天性ChE欠損を疑い,簡易的遺伝子検索を実施し遺伝子変異(DNA塩基置換:G365R変異)のヘテロ接合であることを確認した。しかし,この変異単独例と比較すると表現型が異なるため,他の変異合併を疑わせた。ChE活性低下のため有機リンに対する血中での結合が低下し神経筋接合部により多くの有機リンが作用したと考えられ,正常活性では軽い症状ですむ程度の暴露量でも,先天性ChE欠損では過敏な感受性のため看過できない症状が出現したと考えられた。先天性を含め二次的にもChE活性低下は,しばしば遭遇する病態である。ChE阻害薬中毒患者治療に際しては医療者や来院患者の二次被害防止を徹底すべきである。
著者
Kota Katanoda Megumi Hori Eiko Saito Akiko Shibata Yuri Ito Tetsuji Minami Sayaka Ikeda Tatsuya Suzuki Tomohiro Matsuda
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.426-450, 2021-07-05 (Released:2021-07-05)
参考文献数
91
被引用文献数
76

Background: Unlike many North American and European countries, Japan has observed a continuous increase in cancer incidence over the last few decades. We examined the most recent trends in population-based cancer incidence and mortality in Japan.Methods: National cancer mortality data between 1958 and 2018 were obtained from published vital statistics. Cancer incidence data between 1985 and 2015 were obtained from high-quality population-based cancer registries maintained by three prefectures (Yamagata, Fukui, and Nagasaki). Trends in age-standardized rates (ASR) were examined using Joinpoint regression analysis.Results: For males, all-cancer incidence increased between 1985 and 1996 (annual percent change [APC] +1.1%; 95% confidence interval [CI], 0.7–1.5%), increased again in 2000–2010 (+1.3%; 95% CI, 0.9–1.8%), and then decreased until 2015 (−1.4%; 95% CI, −2.5 to −0.3%). For females, all-cancer incidence increased until 2010 (+0.8%; 95% CI, 0.6–0.9% in 1985–2004 and +2.4%; 95% CI, 1.3–3.4% in 2004–2010), and stabilized thereafter until 2015. The post-2000 increase was mainly attributable to prostate in males and breast in females, which slowed or levelled during the first decade of the 2000s. After a sustained increase, all-cancer mortality for males decreased in 1996–2013 (−1.6%; 95% CI, −1.6 to −1.5%) and accelerated thereafter until 2018 (−2.5%; 95% CI, −2.9 to −2.0%). All-cancer mortality for females decreased intermittently throughout the observation period, with the most recent APC of −1.0% (95% CI, −1.1 to −0.9%) in 2003–2018. The recent decreases in mortality in both sexes, and in incidence in males, were mainly attributable to stomach, liver, and male lung cancers.Conclusion: The ASR of all-cancer incidence began decreasing significantly in males and levelled off in females in 2010.