著者
淺野 敏久 金 枓哲 平井 幸弘 香川 雄一 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.223-241, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本稿では,韓国で2番目にラムサール登録されたウポ沼について,登録までの経緯とその後の取り組みをまとめ,沼周辺住民がそうした状況をどのように受け止めているのかを明らかにした.ラムサール登録されるまでの過程や,その後のトキの保護増殖事業の受け入れなどの過程において,ウポ沼の保全は,基本的にトップダウンで進められている.また,湿地管理の姿勢として,「共生」志向というよりは「棲み分け」型の空間管理を志向し,生態学的な価値観や方法論が優先されている.このような状況に対して,住民は不満を感じている.湿地の重要さや保護の必要性への理解はあるものの,ラムサール登録されて観光客が年間80万人も訪れるようになっているにも関わらず,利益が住民に還元されていないという不満がある.ウポ沼の自然は景観としても美しく,わずか231 haほどの沼に年間80万人もの観光客が訪れ,観光ポテンシャルは高い.湿地の環境をどう利用するかが考慮され,地元住民を意識した利益還元や利益配分の仕組みをつくっていくことが課題であろう.
著者
山本 宣之
出版者
京都産業大学法学会
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3/4, pp.613-636, 2017-01

1 本稿の機縁2 過去の学説・判例3 違法性の認識可能性の実質4 違法性の認識可能性の存続5 違法性の認識可能性の位置づけ

3 0 0 0 OA NKT細胞と疾患

著者
三宅 幸子
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.154-160, 2010-06-30 (Released:2016-02-26)
参考文献数
12

NKT細胞は,NKマーカーを発現するT細胞の総称だが,特にT細胞受容体(TCR)アルファ鎖に可変性のないinvariant鎖を発現するiNKT細胞が注目されている.iNKT細胞は,多型性のないCD1d分子により提示された糖脂質を抗原として認識し,TCRを介した刺激により様々なサイトカインを短時間で大量に産生する能力を持つ.抗原受容体の半可変性,クローン性の増殖を必要とせず組織に多数存在し,すぐに反応を開始でき,自然免疫系と獲得免疫系の中間的存在として様々な免疫応答の調節に関与する.また,α-ガラクトシルセラミドやその誘導体であるOCH などの合成糖脂質抗原で特異的に刺激できることから,疾患治療の標的としても注目されている.iNKT細胞は,その多彩なサイトカイン産生能から,感染,悪性腫瘍サーベランス,自己免疫,喘息などの免疫疾患以外にも,動脈硬化症など様々な病態に関与する.
著者
高田 利夫
出版者
Japan Society of Powder and Powder Metallurgy
雑誌
粉体および粉末冶金 (ISSN:05328799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.160-168, 1958-04-05 (Released:2009-05-22)
参考文献数
8
被引用文献数
11 21

Ferric oxide powders prepared by calcining iron salts exhibit a variety of colours, i. e. pure red, yellowish red, dark red, and black, according to the condition of calcination. Morphological studies revealed that the colour of powders is dependent upon the size and shape of the unit particles and their aggregates. The powders change in colour from yellowish red or dark red to black as the size of unit particles or of their aggregates increases. On the basis of this result explanations were given to the nature of colour of glaze containing iron red and, also, of water containing Fe2O3 in colloidal subdivision.
著者
Shigeki Nabeshima Kenichiro Kashiwagi Kazuhiko Ajisaka Ken Kitajima Shinta Masui Hideyuki Ikematsu Seizaburo Kashiwagi
出版者
Medical and Pharmaceutical Society for WAKAN-YAKU
雑誌
Journal of Traditional Medicines (ISSN:18801447)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.148-156, 2010 (Released:2010-09-15)
参考文献数
36

インフルエンザに対する麻黄湯の効果を検討するため,2008年冬期に季節性インフルエンザAに罹患した成人に対し,麻黄湯またはオセルタミビルを投与した。20人(男13 例,平均年齢28.4歳)のうち,12 例に麻黄湯を,8 例にオセルタミビルを5日間投与し,症例スコアと体温を1日に3回記入してもらった。そこで発熱持続期間,症状持続時間,毎日の症状スコア,体温,アセトアミノフェンの頓用回数を検討した。麻黄湯群の平均発熱持続時間(21.4時間)と症状持続時間(80.8時間)は,オセルタミビル群のそれ(20.0時間と84.4時間)と有意差は認められなかった。治療第1日夜における麻黄湯群の平均体温(37.6℃)は,オセルタミビル群(38.4℃)より有意に低下していた。また,麻黄湯群では,アセトアミノフェンの平均頓用回数(0.6回)はオセルタミビル群(2.4回)より少ない傾向が認められた。麻黄湯群では,1 日目から 3 日目まで「頭痛」スコアがオセルタミビル群より有意に低かった。以上よりインフルエンザにおいて,麻黄湯はオセルタミビルと同等の発熱および症状改善作用をもち,特に治療初期にその効果が顕著であることが解った。
著者
井崎 義治
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.115-126, 1981-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

都市内部のある特定の社会的人口集団,すなわち,少数民族や宗教的人口集団等の空間的分布形態を取り扱った研究が,英語圏の国々の都市地理学や社会地理学の分野で,相当の蓄積を見るようになって久しい.一方,各種の人口集団を総合的に取り扱った研究,たとえば,各民族間における空間的分布パターンの相応関係についての研究などは,現在のところ,著しく少ない.また,ある特定の少数民族について,あるいは,少数民族と多数民族など2, 3の人口集団の比較について検討したものは多いが,調査地域におけるほぼ全人口の空間的パターンを考慮した調査はほぼ皆無である,これは,資料の入手が困難であることと,対象の複雑性に起因すると推察される. そこで筆者は,アメリカ合衆国本土で,最も長い歴史を持つ日本人街の形成をみ,多くの民族集団が居住し,さらに,それらの民族について比較的詳細な資料の整っているサンフランシスコ市を調査対象地域とし,本稿の前半で,各民族集団の居住に関する集中度の測定とその比較,後半で,スペアマン(Spearman)の順位相関係数を用いて,各民族集団間の居住相応関係の解明を試みた. 居住に関する集中度の測定については,立地係数(Location Quotient),ローレンツ曲線比較,および集中指数(Index of Concentration)を用いた.最初の2指標は,各民族集団の居住パターンの概観的な情報を提供するが,民族間の厳密な比較において困難があった.そこで,集中指数を用いて,日系人を含めた7民族について,居住の集中性を判定した,緒果として,黒人,中国系アメリカ人が最も集中した分布パターンを示していること,市内の最大人口集団である白人のそれは,当然のことながら,市人口全体の分布パターンに最も近似していること,その他の少数民族は,この両グループの中間に位置しているが,日系人,アメリカン・インディアン,ラテン系,フィリピン系アメリカ人の順に,居住の集中度が高いことなどが判明した. この研究の主要目的である居住パターンの相応関係については,次のような,三つの関係が指摘される. 1) 日系と中国系アメリカ人の居住パターンは,他の民族の居住パターンの影響を比較的受けていないのに対し,白人,黒人,ラテン系,フィリピン系アメリカ人,およびアメリカン・インディアンの居住パターンは,他の民族の居住パターンに強く影響されている. 2) アメリカン・インディアン,ラテン系,フィリピン系アメリカ人の居往パターンは,相互に非常に強い正の相関関係を示し,これに黒人を含めて,正の居住相応関係を相互に示すグループを形成している.一方,日系人と白人,日系人と中国系アメリカ人の間にも正の相関関係が見られ,結果として,日系,中国系アメリカ人,白人の3民族が,もう一つの正の居住相応関係を示すグループを形成している.なお,白人と正の居住相応関係を示すのは,日系人だけである. 3) 上記の二つのグループの間には,強い負の居住相応関係が存在している.すなわち,アメリカン・インディアン,ラテン系,フィリピン系アメリカ人および黒人は,白人,中国系アメリカ人とは,一緒に居住しない傾向が認められる.ただし,日系人の居住パターンは,他めどのグループとも,統計的に有意な水準での負の相応関係を示さない.
著者
有本 真由
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24350303)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.20-30, 2021-11-25 (Released:2021-12-02)

近年、サイバーセキュリティの実践にあたりサイバー脅威インテリジェンスの活用・共有が普及しているところ、その収集方法の一つとしてダークマーケットにおいて情報収集又はデータ購入する動きがみられる。また、ダークマーケットで盗まれた情報を買い戻すという企業も存在する。米国司法省は、ダークウェブにおいてそうした活動をする場合の法的留意点についてガイドラインを公表した。本稿では、この内容を紹介するとともに、我が国で同様の収集を行う場合について考察を加え、実際にサイバー脅威インテリジェンスを提供、入手をする場合の注意点についての考察を試みた1。
著者
梅崎 さゆり 吉田 雅行 吉田 康成
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 第4部門 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.227-240, 2009-02

本研究は,ゲーム中のスパイク動作における移動や助走,踏み切り局面の接地パターンを明らかにすることを目的とした。2006年世界選手権男子ブラジル対イタリア戦で実際のゲーム中に攻撃に参加した選手のスパイク動作65試技を対象として両足接地時間を記録し接地パターンの分析を行った。その結果,ブラジル,イタリアの両チームの攻撃に参加した選手の接地パターンには,接地時間のばらつきが少ない助走とばらつきが多い移動という2つの接地の仕方があることが明らかとなった。ブラジルチームでは37試技中32ケースについて4歩助走,残り5ケースは3歩助走を行っていた。一方,イタリアチームでは,28試技中全てのケースについて3歩助走を行っていた。これらの結果は,ゲーム中にスパイク技術を発揮するためにはそれぞれの選手が一定した助走技術を獲得していること,助走まではゲーム状況に応じた移動のステップを用いていることを示唆している。The purpose of this study was to make clear the grounding pattern of foot movement on spiking motion (movement, approach and jump phase, respectively) in volleyball game. We analyzed that grounding pattern in 65 spiking motion of attacking players in the match of Brazil versus Italy in 2006 Men's World Championships. The results that grounding pattern (1.movement phase, 2.approach phase) were found by analyzing about grounding time of each step. Most of all Brazilian spiker performed 4 steps approach 32 of 37 cases and 3steps in remaining 5 cases. In Italian spiker, all cases performed 3steps approach. These results suggested that each player had regular technique of approach and used the optimum step of movement to perform the spiking skill in game situation.
著者
中尾 寛子 志村 正子 青山 英康 三浦 悌二
出版者
The Japanese Society of Health and Human Ecology
雑誌
民族衛生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.159-168, 1989 (Released:2010-06-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

The relationships between the eruption order of the first permanent teeth on children in a kindergarten, way of feeding at infancy, and taste at the present time were examined. The aim of this study was to investigate the effects of their daily consuming foods including at their infancy on the changes in the eruption order of the first permanent teeth from the first permanent molar (M1) to the central permanent incisor (I1). One hundred and fourty-nine children (82 boys and 67 girls) whose first permanent tooth was mandibular I1 (I-type children) were compared with 111 children (48 boys and 63 girls) whose first permanent tooth was mandibular M1(M-type children) on their ways of feeding at infancy and their taste at the present time. Results were as follows: 1) In both sexes, the evident relationship was observed between the eruption order of the first permanent teeth and the ways of feeding in infancy. M-type children were breast fed for longer time than I-type children. In the discriminant analysis, breast feeding was related to the M-type eruption, and bottle feeding was related to the I-type eruption. 2) Weaning was started earlier in M-type children than in I-type children. The rate of the children who began weaning earlier than 4-months old was significantly higher in M-type children than in I-type children. 3) The M-type children liked fruits and fish more than I-type children. 4) These results suggest that elevated sucking and chewing frequency by breast feeding and early start of weaning at infancy influenced the eruption order of the first permanent teeth as well as the growth of the mandible.
著者
牛来 千穂子 水落 文夫 内山 治樹
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.961-981, 2022 (Released:2022-11-18)
参考文献数
43

This study aimed to develop a “Scale for Teamwork in Sport” (STS) and examine its reliability and validity. We conducted a questionnaire survey of 432 athletes from 45 university sports teams across Japan. Based on exploratory factor analysis, 4 upper factors, 10 lower factors, and 40 items were extracted. The 4 upper factors, “team orientation”, “team leadership”, “team process”, and “communication” corresponded to Dickinson and McIntyre's (1997) conceptual model. The following results were obtained regarding the reliability and validity of the STS: 1) Its reliability was confirmed via sufficient internal consistency and temporal stability of Cronbach's alpha and retest reliability coefficients. 2) A significant correlation was found between the STS and factors of an existing scale. The average score for each STS factor of the team with high competition level was significantly high. Therefore, the criterion-related validity of the scale was supported. 3) As a result of confirmatory factor analysis, the goodness-of-fit of the model found in all 4 scales corresponded to the upper factors. In addition, covariance structure analysis was conducted on the validation model, and its goodness-of-fit was acceptable. Furthermore, significant path coefficients were confirmed among the elements, which excluded the path from “monitoring” to “coordination”. These results support the construct validity of the STS. These findings indicate that the STS has high reliability and validity and can evaluate teamwork in sports from a comprehensive and process perspective. Hence, a new simplified scale was developed that conformed to Dickinson and McIntyre's (1997) teamwork model and could be used in sports. These results provide new insight on team building.
著者
平井 利明 黒岩 義之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.283-289, 2021 (Released:2021-12-27)
参考文献数
44

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は2019年12月に中国の武漢から原因不明の肺炎として同定され,ヒト宿主細胞への侵入は重症急性呼吸器症候群(SARS-COV)と同様にアンジオテンシン変換酵素(ACE)2を介する.本稿ではCOVID-19(以下,本症)におけるウイルス浸潤のメカニズム,呼吸不全を伴う本症のGWAS解析におけるACE2の重要性,さらに近年報告された嗅覚・味覚障害の頻度,頭部MRI所見,末梢神経障害,脳症についてレビューする.また,持続する本症の症状は脳脊髄液減少症や筋痛性脳脊髄炎に類似するが,この仮説はSARS-CoV-2の感染実験により,ACE2を発現する脈絡叢上皮細胞への障害と,血液-脳脊髄液関門の破壊に伴う免疫異常という所見により支持される.
著者
丸山 信之 里見 龍太 岩崎 俊司 中山 宏
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.958-962, 1994-11-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
12

長期(8年間)にわたって周期性同期性放電(PSD)を呈したAlzheimer病の神経病理学的所見について報告した. 大脳のび慢性萎縮が高度で脳室の拡大も著しい. 大脳皮質の神経細胞脱落が高度で神経原線維変化や老人斑が多発し, 神経原線維変化は大脳皮質ばかりでなく, Meynert核, 視床, 被殻, Luys体, 海馬, 中脳網様体, 黒質, 橋網様体, 青斑核, 中心上核, 背側縫線核, 延髄網様体など中枢神経系の各所にみられた. Alzheimer病の病的過程の進行とともにPSDの発生機序が大脳皮質のみならず視床・脳幹網様体を含めた広汎な障害によるものと考えた
著者
三宅 芙沙 増田 公明 箱崎 真隆 中村 俊夫 門叶 冬樹 加藤 和浩 木村 勝彦 光谷 拓実 Miyake Fusa Masuda Kimiaki Hakozaki Masataka Nakamura Toshio Tokanai Fuyuki Kato Kazuhiro Kimura Katsuhiko Mitsutani Takumi
出版者
名古屋大学年代測定資料研究センター
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
no.25, pp.137-143, 2014-03

Although some candidates for the cause of the mysterious cosmic ray event in AD 774-775 have been reported we were not able to specify. In order to investigate the occurrence rate of the 14C increase event like the AD 775 one, we measured 14C content in Japanese tree-rings during an extended periods. As a result,we detected the second 14C increase by significant amount from AD 993 to AD 994. From the occurrence rate (one 14C event/800 years),it was revealed that a large-scale SPE is the most plausible explanation for the 14C event. 775年の宇宙線イベントの原因について、いくつかの候補が挙がっていたが特定するのは難しい状況であった。本研究の年代を拡張した14C濃度測定により、993-994年にかけても似たような14C急増を発見した。また、994年イベントは日本産の2個体の樹木から存在を確認した。14Cイベントの発生頻度から、その原因として大規模SPEが妥当であると考えられる。見つかった14Cイベントの14C増加量は、観測史上最大のSPEの1O~数10倍に相当する。このような規模のSPEが仮に今日発生した場合、現代社会へ深刻な被害を及ぼすと想定される。今回の発見はこうした大SPEが将来において発生する可能性を示したものである。名古屋大学年代測定総合研究センターシンポジウム報告
著者
中島 健一
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-40, 1981-02-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

1) 北アフリカにおける農耕および家畜の起源については正確な資料がととのっていない。サハラ南部・東部の周辺地方では,旧石器時代晩期(c. 10500 B.C.)に,野草の種実の栽培をはじめたが,新石器時代への連続性については明らかでない。K.W.ブッツェルをはじめ,さいきんの研究によると,エジプトの農耕起源は,近中東地方からの影響のもとに,それらの諸地方から2000±500年ほどおくれて,下エジプトのメリムダやファイユームに始まり,上エジプト・ヌービア地方へ発展していったことを指摘している。エジプトの農業起源を明らかにしようとするとき,新石器時代の資料は,たしかに,ヌービア以北のナイル河谷地帯やデルタ地方に多く,近中東地方からの伝播を裏づけているようである。M.N.コーエンは,その伝播説に反論して,アフリカ固有の農業起源を示唆しているが,なお実証性に乏しい。後氷期の北半球にはいくたびかの気候変動があった。それらの気候変動は,動植物の生態・分布をきびしく制約し,採集=狩猟・なかば家畜飼養の遊牧民たちの生存形態や移動様式,さらに,ナイル河谷のエジプト人たちの歴史形成に顕著な影響をおよぼした。とくに,北半球の中緯度地帯における「亜降雨期」(c. 5500-2350 B.C.)の介在は,農耕および家畜の起源に決定的な影響をあたえた。北アフリカでは,この時期の降雨量はやや多く(100±50mm),冬季にも降雨があった。「亜降雨期」への移行にともなって,エジプトの新石器時代は,さいきんの研究によると,デルタやファイユーム低地から始まっているが,冬季の降雨にめぐまれた丘陵斜面や山麓,ワディの谷口地帯でも,いっせいに“石器革命”をむかえていた。2) サハラ南部・周辺地方やヌービア・上エジプト東部の丘陵地帯に残る多くの岩刻画からみて,それらの諸地方における動物群集はきわめて多種であり,豊富であった。野生動物の馴化にかんするかぎり,農耕発展の径路とは逆に,サハラ南部・東部・周辺地方から,ヌービァ・上エジプトへ拡延していったようである。K.W.ブッツェルによると,その主役は,サハラの採集=狩猟民となかば家畜飼養をともなう東部ハミートの遊牧民たちであった。F.E.ツォイナーは,初期農耕時代に家畜化された哺乳動物として牛や水牛をあげている。東部ハミートの遊牧民たちは,エジプト人が牛を知る1000年も前から,牛を飼育していたのである。3) やや温暖・湿潤な「亜降雨期」は,紀元前4千年紀のなかころから変動し,北アフリカの気象条件は乾燥化しはじめた。そのころ,サハラやその周辺地帯・スーダン・ヌービア・上エジプト地方では,あきらかに,動物群集の最初の断絶がおこっている。ヌービア・上エジプトのナイル河谷の周辺地方から,サバナ景観が荒廃し,象・さい・きりんなどをはじめ,やがて,かもしか類などのサバナの動物群集が消滅しはじめた。そのころ,それらの諸地方の採集=狩猟民やなかば家畜飼養の遊牧民たちはさかんに移動している。4) ナイル川の放水量は,紀元前4千年紀末以降,「亜降雨期」の終息とともに,減少しはじめた。季節的氾濫の水位は,「亜降雨期」のピークに比較して,ヌービアでは8-9m,ルクソール(テーベ)では4-5mほども低下した。河谷のエジプト人たちは,サバナ景観の荒廃と野生動物の減少,あまつさえ,いちじるしい人口増加による食糧危機に対面して,その不安と緊張・心理的圧迫から逃れるために,食糧の新しい生産方法について,その選択をせまられたにちがいない。エジプト人たちは,オアシスやワディの谷口地帯から,さいわい,放水量の減少によって干上ってきたナイル氾濫原へ進出し,まったく新しい食糧生産の方法-すなわち,それまでの旱地農法に比較して,土地生産性のたかい灌漑農法への道を選択し,ひらいていく。その過渡期はナカーダ第II期から王朝初期(c. 3300-3050 B.C.)であった。また,この時期には家畜飼養をも積極的にすすめた。王朝初期に,ナイル河谷の灌漑耕地は氾濫原の2/3にひろがり,c. 2000 B.C.の資料によると,農耕地と牧草地との面積が等しくなっている。「亜降雨期」への移行は“新石器革命”-すなわち,原始農耕および野生動物の馴化の端緒をなした。その終末・乾燥気候への転移(Wende)は,エジプトのナイル河谷では第2の農業革命-すなわち,貯留式の灌排水農法と家畜飼養とのいっそうの結合をとおして,エジプト古王国(Pyramid Age)への道をひらいたのである。
著者
吉田 真美 後藤 潔 田名部 尚子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.255-265, 2003-08-20 (Released:2013-04-26)
参考文献数
24
被引用文献数
4

1.中国,朝鮮,日本料理中のショウガ利用を,25冊の料理書を調査することにより,様式別に比較研究した.2,629品のレシピから,ショウガ使用の有無,主材料,調理法,切り方,併用香味野菜・香辛料の面から調べた.2.中国料理では48%のショウガ使用率であり,特に肉類や魚介類を,煮る料理や蒸す料理において高率であった.主に消臭を中心として,香り付けや味付けの目的で使用されていた.3.朝鮮料理では,ショウガは小形状で使われ,多種類の香味野菜・香辛料と共に複合的な食味形成のために用いられていた.特にキムチ料理に高頻度で使用されていた.4.日本料理においては,ショウガは料理の唯一の香味野菜として使用される場合が多かった.料理表面に盛り付けられ,生の芳香や辛味を直接賞味できる使用法が多く,また装飾的役割もはたしていることが特徴的だった.
著者
Gertraud Maskarinec Phyllis Raquinio Bruce S. Kristal Adrian A. Franke Steven D. Buchthal Thomas M. Ernst Kristine R. Monroe John A. Shepherd Yurii B. Shvetsov Loïc Le Marchand Unhee Lim
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.314-322, 2022-07-05 (Released:2022-07-05)
参考文献数
39
被引用文献数
1 7

Background: As the proportion of visceral (VAT) to subcutaneous adipose tissue (SAT) may contribute to type 2 diabetes (T2D) development, we examined this relation in a cross-sectional design within the Multiethnic Cohort that includes Japanese Americans known to have high VAT. The aim was to understand how ectopic fat accumulation differs by glycemic status across ethnic groups with disparate rates of obesity, T2D, and propensity to accumulate VAT.Methods: In 2013–2016, 1,746 participants aged 69.2 (standard deviation, 2.7) years from five ethnic groups completed questionnaires, blood collections, and whole-body dual X-ray absorptiometry and abdominal magnetic resonance imaging scans. Participants with self-reported T2D and/or medication were classified as T2D, those with fasting glucose >125 and 100–125 mg/dL as undiagnosed cases (UT2D) and prediabetes (PT2D), respectively. Using linear regression, we estimated adjusted means of adiposity measures by T2D status.Results: Overall, 315 (18%) participants were classified as T2D, 158 (9%) as UT2D, 518 (30%) as PT2D, and 755 (43%) as normoglycemic (NG), with significant ethnic differences (P < 0.0001). In fully adjusted models, VAT, VAT/SAT, and percent liver fat increased significantly from NG, PT2D, UT2D, to T2D (P < 0.001). Across ethnic groups, the VAT/SAT ratio was lowest for NG participants and highest for T2D cases. Positive trends were observed in all groups except African Americans, with highest VAT/SAT in Japanese Americans.Conclusion: These findings indicate that VAT plays an important role in T2D etiology, in particular among Japanese Americans with high levels of ectopic adipose tissue, which drives the development of T2D to a greater degree than in other ethnic groups.