著者
河野 哲也 寺田 俊朗 望月 太郎
出版者
立教大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、日本において哲学実践を確立することを目的とする。哲学実践とは、主に対話という方法を用いて、実社会のさまざまな問題について哲学的に議論し、相互理解や問題解決に至る活動である。成果としては、子どもの哲学では、全国で20箇所をこえる学校や図書館、児童館などで哲学対話を行い、数校で定期的な実践として教育に組み込むことに成功した。この3年間で子ども哲学はかなり全国的に普及した。哲学的カウンセリングは海外から研究者を招聘して導入した。企業内哲学対話はプログラムを開発し、パイロット講座を開くことができた。重要な著作の翻訳と導入書の出版ができた。哲学対話のNPOと哲学プラクティス連絡会を設立した。
著者
加藤 健太郎
出版者
帯広畜産大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

原虫感染における糖鎖の役割について、以下の研究成果を得た。質量解析を用いて、原虫の膜蛋白質に結合するレセプター因子を含む複数の宿主細胞因子を同定した。また、原虫の感染阻止に効果的な物質を作製するため、多糖類に硫酸化等の修飾を付加した物質を作製し、細胞培養系においてその原虫侵入阻害、増殖阻害の効果を解析した。さらに硫酸化等の化学修飾を付加した糖鎖について、原虫感染を阻害する糖鎖分子と実際に結合する原虫蛋白質の同定に成功した。また、同定した原虫分子が実際に宿主細胞に結合することが示された。これにより、原虫感染に関わる糖鎖レセプターの役割を解析することに成功した。
著者
山部 能宜
出版者
九州龍谷短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度の主たる成果は,以下の二点である.(1) 『観仏三昧海経』 (『海経』)の中心的テーマである「観仏」の修行は,仏像を用いた観想行であったと考えられるが,このような行法を明確に説くインド文献が殆ど確認できないことが,従来の観仏経典研究の上での大きなネックであった.ところが,『大宝積経』中に編入されている「弥勤師子吼経」(「師子吼経」)には,『海経』の記述と極めて類似した観仏行が説かれている.ここで,「師子吼経」のインド成立には疑問の余地がなく,かつ本経が『海経』成立段階で漢訳されていないことは重要である.『海経』が疑経であったことを否定するのは難しいので,以上の事実は,恐らくは『海経』が中央アジアで成立したということを示唆するであろうまた,「師子吼経」の背後にはさらに『維摩経』があったものと思われ, 『維摩経』にみられるような極めて哲学的な「仏を見る」思想が,「弥靭師子吼経」を経て『海経』に見られる極めて視覚的な行へと変化していったことが伺われるのである.(2) 『海経』にみられる陰馬蔵相をめぐる四つの説話は,極めて特異なものであり,他の仏典に類例を見ないものである.これらの説話には,明らかにインド・シヴァ派のリンガ崇拝の影響が認められるが,リンガ崇拝が中国では殆ど知られていなかったことは,上述の「師子吼経」の場合と同様の問題をはらむものであり,示唆的である.さらにまた,『海経』における陰馬蔵の記述には,リンガのイメージとナーガのイメージとの混淆が見られること,中央アジアの美術表現からの影響が伺われること,漢訳仏典にみられる要素の不用意な導入が認められること,天山地域に確認される生殖器崇拝が,これらの説話の背景となっていた可能性があることなどを指摘した.これらの諸点は,『海経』が中央アジアの多文化混在状況の中から生み出されてきたものであるとする私の仮説を支持するであろう.
著者
河村 真人
出版者
東北医科薬科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

研究代表者は、消毒薬のクロルヘキシジンに抵抗性を獲得した緑膿菌がキノロン系抗菌薬にも耐性を示すことを見出している。抗菌薬の不適切使用が薬剤耐性菌(AMR)を出現させると考えられてきたが、消毒薬使用による抗菌薬耐性菌出現の可能性も示唆される。本研究の目的は、緑膿菌に対するクロルヘキシジンや塩化ベンザルコニウムなどの消毒薬使用が、抗菌薬の交差耐性獲得に関与するか否か検討し、そのメカニズムを解明することである。抗菌薬の適正使用のみだけではなく、生体や環境中に消毒薬を用いる看護師を中心とした全ての医療スタッフが、耐性菌問題に取り組む必要性がある。
著者
藤江 敬子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

対象期間に調剤薬局12店舗で取り扱った処方箋のうち、75歳以上の8080名(39252剤)について患者毎の薬剤数を調査するとともに、高齢者の安全な薬物療法 ガイドライン2015の「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に基づき潜在的不適切処方(PIMs)を抽出した。患者の43.1%が5剤以上の処方を受けているポリファーマシー状態にあり、26.7%は少なくとも1剤以上のPIMsが認められた。PIMsの中では睡眠薬が50.3%と最も多かった。ポリファーマシーと複数の診療科の受診は、PIMs処方の可能性を高めることがわかった。ROC解析においてPIMsのカットオフ値は総薬剤数では5剤と求められた。
著者
柿原 浩明 馬 欣欣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

少子高齢化が進んでいる日本社会で、国民医療費が年々上昇している。1990年代以降、政府は患者負担の軽減や医療保険財政の改善の観点から後発薬の使用を促進している。しかしながら、臨床現場では新薬および先発薬が依然として多く使用されている。本研究では、経済学の視点から、独自な調査を行い、ミクロデータを取集したうえで、新薬・先発薬の使用に関する要因を個人属性、情報要因、代理人要因、個人選好要因の4つに分けて分析し、医師が医薬品の選択行動のメカニズムを考察し、新薬・先発薬・後発薬の棲み分けのあり方に関する政策立案を行う際に、科学的根拠の一つとして提供した。
著者
片山 翔太
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-04-01

緑内障は本邦における中途失明原因第1位の眼疾患である。日本人の緑内障患者の約7割は正常眼圧緑内障であり、眼圧下降以外の有効な治療法の開発が望まれている。ATPはエネルギー代謝の中心的役割を果たす分子で、緑内障で障害される網膜神経節細胞では重要な働きをしている。眼圧非依存因子としての眼循環障害が緑内障病態の一つであることも証明されており、エネルギー代謝の異常によるATP量の減少が考えられる。本研究では、網膜神経節細胞特異的なPDHK遺伝子の破壊を行い、PDHK阻害剤投与による網膜神経節細胞の保護効果が網膜神経節細胞内のPDHK阻害によるものであるかを検証する。
著者
中垣 恒太郎
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

アメリカ大衆文化における「ホーボー」表象の変遷を探る。ホーボーは「渡り労働者」を指す言葉であり、世紀転換期から1930 年代にかけて労働環境の変化などを背景として社会現象と化していたが、1960年代以降の表象においては労働の描写が抹消され理想化された姿で復活を遂げる。19世紀中庸に出現する「放浪者」(tramp)との連関、映画やフォーク・ソングをめぐるメディア横断的視座、ヴァガボンド、ボヘミアン、瘋癲などの概念を参照し、アメリカ大衆文化における放浪者表象を比較文学の見地から展望する。現代の労働者たちの姿、中南米をはじめとする移民の視点にも目を向けることで分断が進むアメリカの現況と課題をも探る。
著者
吉村 征浩 山下 広美 丸田 ひとみ 荒木 彩 荒岡 千尋
出版者
岡山県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

酢酸摂取はメタボリックシンドローム予防に効果的であり、ラットにおいて運動持久力を増加させ、骨格筋におけるミトコンドリア生合成の増加、筋線維の遅筋化を引き起こす。本研究ではL6筋管細胞を用い、骨格筋における酢酸の作用機序を明らかにすることを目的とした。酢酸添加による作用には、酢酸代謝に伴うAMP/ATP比の上昇を介したAMPK活性化と、短鎖脂肪酸受容体GPR43およびカルシウムシグナル伝達を介したAMPK活性化が関与することが本研究において明らかとなった。酢酸摂取は、運動と同様の効果(AMPK遅筋線維の増加)を骨格筋にもたらし、新たなサルコぺニアの予防・治療法に繋がる可能性がある。
著者
布川 清彦 井野 秀一 関 喜一 酒向 慎司
出版者
東京国際大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究の目的は,視覚障害者の環境認知における白杖を用いて能動的に作られた音の効果を実験的に検証することである.目的を達成するために次の4つの研究を計画した.研究1:白杖によって作られる音情報(反響音の物理的効果)の分析,研究2:白杖 によって作られる音情報における人の効果検証,研究3:白杖によって作られた音情報の効果検証,研究4:総合考察.本年度は,研究1と2を実施した.研究1と2の両方で,推定する対象を硬さにした.硬さを推定する対象としては,一辺の長さが300mmの正方形で,その厚さが12mmであるゴム板を用いた.また,使用する白杖には,視覚障害者に広く用いられているアルミニウムの主体とペンシルチップ(石突き)を用いた.研究1では,人を介在させずに機械的に一定の高さから白杖の先端を自動的に落とす装置を作成した.この装置を用いて,機械的に対象を打った時の音を録音した.ゴムの硬さは,20度から10度刻みで90度までの8種類を用意した.そして,周波数分析を行うプロトコルを作成して,周波数分析を行い,硬さに対する基本的な白杖の打撃音の特性を検証した.研究2では,白杖ユーザが利用する代表的な3種類の握り方を条件として,視覚障害白杖ユーザと晴眼大学生を実験参加者として,白杖で対象となるゴム板を叩き,触覚情報と音情報の両方を利用して主観的な「硬さ感覚」と「空間の広さ感覚」をマグニチュード推定法を用いて硬さを推定する実験を行った.研究1の一部について,国内学会で発表し,そのプロシーディングを出版した.
著者
永瀬 晃正 岩屋 啓一 座古 保 桂 善也
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-10-21

インスリン由来アミロイドーシスは,インスリン療法の皮膚合併症であり,注射されたインスリンがアミロイド蛋白となり注射部位に沈着する.本研究では,インスリン由来アミロイドーシスの臨床的特徴と長期予後を明らかにした.また,インスリン治療中の糖尿病患者のインスリンン注射部位をMRIによってスクリーニングしてインスリン由来アミロイドーシスの頻度を調べた.さらに,インスリン由来アミロイドーシスの構造と毒性について研究した.本研究によりインスリン由来アミロイドーシスの病態がより明らかとなり,インスリン療法の向上に貢献した.
著者
五神 真
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、インクジェット印刷技術を用いて作製した多層人工構造によってテラヘルツ電磁波領域における三次元メタマテリアルを実現し、新たな機能光学素子の開拓を行うことを目的とする。初年度においては、インクジェットプリンティング技術を用いて作製した金属メタマテリアルが、確かに三次元的な効果を有する人工光学素子として旋光性を有することを実験的に示した。本年度においては、等方的な光学応答を実現するための、面内異方性の除去についての検討を進めた。インクジェット印刷技術の場合、ユニットセル内のパターンの書き順と、パターン全体の書く順番の両方が異方性に寄与してしまうことを見出し、その影響を最小化するためのインクジェット描画のプロシージャを検討した。これにしたがって実際に試料を作製し、THz偏光回転測定を行うことによって、確かに異方性の除去に効果的であることを実験的に示した。しかしながら、多層化した場合の位置ずれから生じる異方性は除去できておらず、これは今後の検討課題である。また、本年度は、このような三次元メタマテリアルの特性を、回路制御技術を用いて能動的に制御する手法についての検討、及び設計を行った。実際に産業利用されているシリコンプロセスを用いて、単位構造毎にトランジスタを組み込んだ多層金属メタマテリアル構造を設計し、試作を進めている。この試作の結果をふまえ、本研究で検討した有機トランジスタを用いたインクジェットプリンティング技術との融合について検討を進め、三次元アクティブメタマテリアルの実現に関しても検討を進めている。
著者
浦川 智和
出版者
生理学研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

我々の脳には絶え間なく曖昧な視覚情報が入力されている。この曖昧な情報を先行する非曖昧刺激情報を手がかりとして補完し安定した知覚を形成することは、脳内視覚情報処理に課せられた重要な課題である。しかしながら、この曖昧情報の補完メカニズムについての研究は少なく、とりわけこの脳内視覚情報処理の初期段階での動態については明確になっていない。視覚ミスマッチ反応振幅は刺激提示後150ミリ秒付近に後頭側頭領域において観察される脳反応で、先行刺激と入力されてくる刺激情報間の逸脱度の大きさがその反応振幅の大きさとして反映されている。したがって曖昧刺激情報知覚が先行する非曖昧刺激知覚になる場合(先行刺激により曖昧刺激情報が補完される場合)はそうでない場合に比べて曖昧刺激情報の先行刺激情報に対する逸脱度は小さくなると考えられる。このことから、曖昧刺激に対するミスマッチ反応振幅は、曖昧刺激が先行する非曖昧刺激により補完される場合はそうでない場合に比べて小さくなると予想した。このことを検討するために本課題では曖昧図形としてnecker cube図形、非曖昧図形としてcube図形を用い、刺激提示には視覚ミスマッチ反応を誘発させるオドボール課題を用いた。脳活動は、時間分解能にすぐれかつ空間的に限局した活動が計測可能な脳磁図で計測した。被験者は、necker cube提示後200ミリ秒後に提示されるcue刺激が提示された時にnecker cubeが左向きか右向きかを判断した。実験の結果、予想とは逆で曖昧刺激知覚が非曖昧刺激知覚になりやすい被験者ほど、曖昧刺激に対するミスマッチ反応は大きくなった。現在は得られた脳活動データについて多信号源解析法を用いることでより詳細に検討している。
著者
及川 恒之 小林 健史 太田 亨
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

FOXP2遺伝子は転写因子をコードしており、その機能は言語に関わる非常に興味深い遺伝子である。FOXP2の標的遺伝子を単離するため、FOXP2 transgene細胞を作成しマイクロアレイ法で検出した。この網羅的スクリーニングにより、多数抽出された。今回は、2way ANOVA解析により、ヒトFOXP2で2個、FOXP2 isoformで31個、chimp FOXP2で6個の遺伝子が変化したところまで、候補を絞った。次に神経芽細胞腫由来Tg FOXP2の細胞を作製し、再現性を解析した。両者の細胞で発現促進された遺伝子群が数個が認められ、グリア細胞由来やマトリックス形成に関するものであった。
著者
清水 新二 金 東洙 川野 健治 関井 友子 服部 範子 廣田 真理
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.アルコール関連問題の一つとして位置づけられたドメスティック・バイオレンス(DV)に関する研究は、わが国で初めての試みである。それに加え、全国データが収集されたことは今後の研究のベースラインを設定するものであり、研究成果の集合的蓄積上大きな貢献と考えられる。2.実践的な実態調査が中心であったこれまでのDV研究に対して、今回の調査研究は学術的、研究的視点から実施された。その結果、(1)特にDVと過剰飲酒の相関性が明らかになったこと、ならびに(2)全国一般住民のDVの経験率はこれまでの行政を中心にしたどの全国調査よりも低い事実が判明したこと、などは大いに論争的なものであり、今後さらに展開するDV研究の第二段階開始を刺激するインパクトをもつ。3.上記の研究上のみならず、現実の問題解決に向けた対策上の示唆が明らかな形で導き出されたことも、確実な成果といえる。具体的には、(1)DVの世代連鎖に関する分析からは、16歳前の家族暴力の目撃経験、被害経験は本人のDV被害とは無関連だが、DV加害に最も強く関与していることが判明した。DVの世代的再生産を抑止する上で、現在のDV予防、介入の重要性が示唆された。また(2)臨床調査の結果からは、アルコール依存症の場合断酒が成功するとDV行為も劇的に減少する事が確認され、DVと過剰な飲酒の関連性が浮き彫りにされたのみならず、今後アルコール臨床がDVの防止、介入に有効であることが示唆された。4.国際比較の点では、日本は米国、英国などとともに行動的というよりも言葉による暴力が比較的に多く観察された。身体的暴力の自己申告ではアフリカ諸国が目立つが、アメリカは相当に高い経験率が観察されている。日本は英国、チェコ、などとともに中位の上位国に位置づけられる。アフリカ諸国では性的虐待を含めて、多くの被害体験が報告されている。また国際共同調査の観点からは20数カ国もの多国間の共同性の確保の難しさと問題点も整理された。
著者
逢見 憲一
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

令和元年度は,人口動態統計毎月概数,大日本私立衛生會雜誌,日本公衆保健協会雑誌,公衆衛生,等の資料の発掘と収集,分析を行った。また,上記発掘資料を用いて,わが国の平均寿命延長に医療・公衆衛生の果たした役割を定量的に検討した学術論文「わが国の平均寿命延長の年齢構造と医療・公衆衛生の役割―第4回から第22回生命表より―」を執筆投稿し,受理掲載された。また,上記発掘資料を用いて,内務省保健衛生調査会設置から日中戦争・第二次大戦下での公衆衛生活動等について検討した。さらに,パンデミック対策の一助とすべく,わが国の“スペインかぜ”を含むインフルエンザパンデミックによる健康被害を定量的に把握し,あわせてわが国における公衆衛生行政の置かれていた状況を検討した。令和2年度は,新型コロナウイルスパンデミック対策の一助とすべく,上記大日本私立衛生會雜誌の1918(大正7)年から1920(大正9)年の “スペインかぜ”に関する記事・論文を検討し,(1) スペインかぜ流行期の対策の大枠は現代に劣らないものであったこと,(2) ただし,「明治19年の蹉跌」により,地方の衛生行政は警察の所管となって取締行政の性格が強くなり,住民との乖離が大きくなっていたこと,(3) また,スペインかぜの当時,公衆衛生を取り巻く状況は必ずしも恵まれたものではなかったこと,などの仮説を検討する。また,第二次大戦前に京城帝国大学教授として生命表研究に携わった水島治夫を中心とした旧植民地の生命表や乳児死亡に関する一連の研究を概観し,第二次大戦前の植民地医学・衛生学の到達点を確認する。さらに,近年の年齢調整死亡率低下の年齢・死因構造から,指標としての有用性や活用方法を検討することを目的とし,2000年から2015年の全国について,死因別年齢調整死亡率を算出し分析する。なお適宜,研究順序やテーマの入れ替え・変更を行う予定である。
著者
松田 尚久 角川 康夫 大野 康寛
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

333例の大腸腫瘍性病変の集積とFIT測定を実施した。FIT2日法による診断感度は、10mm以上の腺腫:45.6%、粘膜内癌:48.1%、粘膜下層浸潤癌:77.1%、進行癌:91.5%であり、深達度毎の部位別感度は以下の通りであった。10mm以上の腺腫;近位結腸/遠位結腸:34.8%/60.4%、粘膜内癌;近位結腸/遠位結腸:42.3%/53.6%、粘膜下層浸潤癌;近位結腸/遠位結腸:66.7%/83.3%、進行癌;近位結腸/遠位結腸:81.3%/95.3%。FITはスクリーニング法として良好な感度を示すものの、進行度および部位により差があり早期の近位結腸病変に対する診断感度の低下が示された。
著者
垣生 園子 守内 哲也 勝木 元也 玉置 憲一
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

T細胞はMHCと共に抗原を認識する。このMHC拘束性T細胞レパートリー形成は胸腺内分化過程で選択的に生ずると推測されている。しかしヌードマウスにもThy-1+細胞が少数検出され、胸腺非依存的に分化するT細胞の存在を示唆する。本研究ではT細胞分化における胸腺の役割を明確にするために、胸腺欠如ヌードマウスのT細胞系リンパ球の性状、分化段階を検討した。細胞表面分子を指標にして調べると、6週令マウスではThy-1+細胞は正常マウスの1/10以下で、多くはasialo GM1(GA1)をも発現していたが、成熟T細胞と異なりCD4、CD8、CD3、等は検出されなかった。即ち、幼若ヌードマウスには未熟型T細胞しか存在しないことが示唆された。しかし、加令と共にThy-1+細胞は増加し、その1/2以上はCD3+と同時にCD4あるいはCD8を発現していた。この結果は、緩慢ではあるが胸腺外でT細胞が成熟型に分化することを示している。また、CD3はT細胞における抗原認識レセプター(TCR)と常に共存して発現しているので、ヌードマウスThy-1+細胞はTCRを発現していることを意味する。実際、ヌードマウスのCD3+細胞上にはTCRVβ8が検出され、かつTCRβ鎖遺伝子再構成も証明されたので、抗原を認識し活性化され得る成熟型T細胞のヌードマウスでの分化が明らかになった。16週令ヌードマウスではアロ抗原と反応するT細胞や抗原特異的キラーT細胞は誘導され、ヌードマウスの成熟型表現型のT細胞は機能的に分化が完了していると考えられる。胸腺内ではT細胞はCD4+CD8+(DP)細胞を経て分化するが、ヌードマウスではそれら細胞を介さないで分化することが示唆された。DP細胞は胸腺内の自己反応性T細胞の選択的除去の候補であるので、それら細胞がないヌードマウスはトレランスを考える上で良いモデルとなる。
著者
宮野 真生子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度、私は、日常を生きるうえで、いかにして「偶然」とかかわるかという観点から、九鬼周造の倫理的可能性を問う作業をおこなった。その作業は具体的には、二つの方向からおこなわれた。(1)和辻哲郎が提示する「間柄」に基づく必然性重視の倫理観との比較。(2)田辺元が晩年の『マラルメ覚書』で提示した「行為の偶然性」というアイデアを媒介として、九鬼の偶然性概念を発展させること。(1)和辻の『倫理学』において、分析の基礎となるのは、「日常の事実」である。間柄を分析し、倫理を析出する和辻は、徹底して「日常の事実」に立つ。だが、日常がつねに私たちとともにあるからと言って、それを即座に「自明の前提」として無批判に受け入れることができるのだろうか。その前に私たちはまず、なぜ日常を当たり前の事実、自明の前提として受け入れてしまうのかを問い、この自明性を成立させる「日常性」のメカニズムについて考えることが必要ではないのか。「日常の事実」に立つ思索は、そのときはじめて広い射程を有することができる。以上のような問題意識を出発点として、和辻と九鬼の「日常」観の相違を分析した。(2)九鬼哲学では、「偶然性」は「存在」の問題として扱われてきたが、これに対し、田辺元は『マラルメ覚書』において「行為における偶然性」について論じている。九鬼周造の哲学を「倫理」として展開するためには、「行為」の次元を考えることが不可欠であり、その部分を補うのが、田辺の『マラルメ覚書』である。彼はここで、行為の当否は常に偶然に委ねられており、その偶然を生きることこそが「倫理」であると論じている。つまり、一般に「倫理」とは「必然」を説くものと考えられがちだが、それにたいし、田辺は「偶然」にこそ「倫理」を見た。それは、必然によって自己と他者、あるいは未来を縛る固定的な倫理ではなく、より自由な倫理的関係を可能にするものであると言える。
著者
平林 敏行
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は、マカクザルにおいて遺伝学的手法による神経活動操作と脳機能イメージングを組み合わせ、局所的な神経活動操作による大域ネットワークの機能変容を評価した。まず、片側脳半球の第一次体性感覚野(SI)足領域に抑制性DREADDを遺伝子導入したサルにDREADDの特異的アゴニストであるCNOを静脈投与し、機能的MRIを用いて体性感覚刺激による賦活を調べた結果、DREADDを遺伝子導入したSI足領域における局所的な抑制に加えて、SIから解剖学的投射を受ける同側の5野や第二次体性感覚野においても遠隔的な抑制が認められ、さらにこれらの遠隔抑制領域は、いずれもDREADDを遺伝子導入したSI足領域との間に機能的結合を持つ事が示された。また、呈示された視覚図形を短時間記憶する課題を訓練したマカクザルを用いて、PETによる課題中の局所脳血流量計測を行い、非空間的視覚短期記憶を支える前頭葉―側頭葉ネットワークを同定した。その中で、特に眼窩前頭皮質の活動部位に対して両側性に抑制性DREADDを遺伝子導入し、CNOによる機能抑制を行った。その結果、前述の記憶課題において、記憶負荷が高い場合のみ選択的に課題成績が低下する事が明らかになった。また、CNO投与下にて課題中の局所脳血流量計測を行った結果、DREADDを遺伝子導入した眼窩前頭皮質の活動部位における局所的な抑制に加えて、抑制前にこの領域と機能的結合を示していた下側頭皮質の活動部位においても、遠隔的な抑制が認められた。これらの事から、眼窩前頭皮質の局所的な抑制によって、視覚短期記憶に関わる前頭葉―側頭葉ネットワークの大域的な機能変容が生じ、それが記憶課題成績の低下に繋がったと考えられる。以上により、遺伝学的手法を用いた局所的な神経活動操作が大域ネットワークの機能に及ぼす影響を、脳機能イメージングによって評価する系が確立された。