著者
寺田 龍男
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

中世ドイツ英雄叙事詩の一ジャンルである「ディートリヒ叙事詩」には,写本が書き継がれる過程で本文が大きく流動する作品群「ディートリヒの冒険叙事詩」(以下「冒険叙事詩」)がある。その流動の原因は従来,唯一の原本を後の写字生が自由に改作した結果であると説明されてきた。しかしこの解釈では,多くの作品に複数ある系統の成立とその後の動態を十分には説明できない。本申請研究は,冒険叙事詩の諸作品において,①書記伝承の初期の段階ですでに内容の異なる複数の「原本」があったこと②異なる系統の本文が混じり合う写本の中には,写字生が先行する複数の写本を校合勘案して書かれたものがあること以上2点の論証を目標とする。
著者
平田 雅之 佐藤 雅昭 依藤 史郎 加藤 天美 神谷 之康
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)MEG、皮質脳波(ECoG)を用いた脳律動計測ECoGとMEGとで同一課題施行し、解析ソフトBESAを用いて時間周波数解析、coherence解析を行った。詳細な脳内処理過程が明らかになるとともに、言語領野に共通の律動帯域と特有の律動帯域があることが明らかなり、現在論文投稿準備中である。(2)脳磁図(MEG)での言語優位半球の評価、言語機能局在の評価単語黙読課題を用いた場合、アミタールテストとの比較で85%一致、電気刺激によるマッピング法との位置の差は6.3±7.1mmであり、非侵襲的検査法として優れた方法であると証明された。アミタールテスト、脳表電気刺激の結果と比較し、成果を論文に投稿した。(3)脳信号解読まず、言語機能解読の基礎となる運動機能についてもsupport vector machineを用いて運動内容解読を試みた。運動内容推定については3種の運動内容弁別が80-90%の正答率でリアルタイムに弁別できることが明らかとなり、英文誌Neuroimageに発表した。言語に関しても時の皮質脳波を計測し、support vector machineを用いた脳信号複号化により発語内容推定を行った。カテゴリー別語想起課題にたいするカテゴリー識別は有意差のある結果が得られなかった。ピ、ポ、ギ、ゴなど単純な発語課題の識別率は運動内容解読には及ばないものの、本方法で言語内容解読がリアルタイムに可能なことが明らかになった。今後さらに性能向上のために計測・解析方法に工夫が必要であると考えられた。
著者
青山 幹雄
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

クラウドコンピューティングを統合する開発技術に関する次の成果を得た.1)Linked Dataを用いたクラウドデータ連携アーキテクチャの提案とプロトタイプによる実証評価.2)構成定義言語TOSCAを用いたクラウド連携の設計方法論の提案とプロトタイプによる実証評価.これらの成果はクラウドコンピューティングに関する国際会議等で論文として発表している.さらに,Linked Dataを用いて複数組織間でデータを連携するためのインタフェース仕様を開発し,実証実験で有効性を示した.これは,国際標準化団体OASIS内にTCを設置し,本研究代表者が議長として国際標準化を進めている.
著者
芦名 定道
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、拡張された自然神学を、科学技術と東アジアという二つの文脈で具体化するという研究目的にむけて進められてきた。まず、科学技術の文脈。特に、原子力、脳科学、AI、遺伝子工学といった現代において問題化しつつある諸問題について、宗教思想(特にキリスト教思想)との接点が人間理解(人格概念)にある点が明らかになった。科学技術の神学においては倫理学から文明論までがその射程に入れられねばならない。次に、東アジアの文脈。その成果は、『東アジア・キリスト教研究とその射程』としてまとめられた。無教会キリスト教、特に矢内原忠雄の原子力論において、科学技術と東アジアの二つの文脈を結びつける可能性が示された。
著者
芦名 定道 TRONU MONTANE CARLA
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-11-07

トロヌ・カルラ外国人特別研究員との共同研究では、2018年度も外国人特別研究員によって日本国内と海外において活発な研究発表がなされたが、受入研究者の側の研究を含めるならば、次の4点に、研究成果をまとめることができる。(1)キリシタン時代のキリスト教を担ったイエズス会について、その宣教方針である「適応主義」を、キリスト教思想における「適応の原理」として取り出すことができ、また諸修道会における日本人殉教者の顕彰の在り方についてもその実態の比較検討がなされた。(2)キリシタン研究を東アジアのキリスト教研究へと方法論的に関連付けること、また、その中に東アジアにおけるカトリック諸修道会の動向を結びつけることが試みられた。これは重要な成果である。(3)キリシタン殉教を、江戸幕府の宗教政策を経て、明治から現代までのキリスト教思想史につなぐことがなされた。これは、以下に述べるパネル発表で論じられ、論文化された。(4)現代の記憶論・証言論を参照しつつ、現代キリスト教思想における殉教論の可能性を考察した。これについても、次に述べるパネル発表で論じられ、論文化された。共同研究はさまざまな成果を生みだしたが、最大の成果は、次のパネル発表とその論文化である。パネル発表は、日本宗教学会・第77回学術大会(大谷大学、9月9日)において、「日本におけるキリシタン殉教者の歴史的記憶」として実施された。このパネルは、外国人特別研究員と受入研究者のほかに、淺野淳博氏(新約聖書学者)と狭間芳樹氏(キリシタン研究者)を加え、4名の発表者によって、構成された。このパネルでは、新約聖書研究者を加えることによって、日本のキリシタン殉教がキリスト教史(特に古代の殉教史)に実証的に関連付けられることができたが、今後の研究では、こうした時代を越えた比較研究の実施が重要であることが明らかになった。
著者
岡田 正則 友岡 史仁 杉原 丈史 田村 達久
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は、国際・国家・地域の各レベルにおける人々や団体の連携を通じた新たな公共的制御のあり方を、経済行政法の面から構想することである。そして本研究は、(1)グローバル化した経済活動に対する主権国家による制御と多元的に構成された国際的な組織や手続による制御との関係および両者の功罪に関し、主要国の理論的到達点を明らかにし、(2)その調査結果に基づき、個別行政領域について日本法との比較検討を行い、(3)E・オストロムの集合的行動領域の規範理論に着目して、“市場でも国家でもない”領域に対応する経済行政法理論の提示を試みる。
著者
宇野 重規 谷澤 正嗣 森川 輝一 片山 文雄 石川 敬史 乙部 延剛 小田川 大典 仁井田 崇 前川 真行 山岡 龍一 井上 弘貴 小野田 喜美雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究の二年目にあたる平成30年度は定例の研究会を続け、通史的な視点の確立と全体的枠組みの決定を目指した。その目的は、共和主義、立憲主義、リベラリズムを貫く座標軸を見定めることにあった。この目的に向けて、まずは18世紀における共和主義と立憲主義の関係について集中的に検討を行った。その成果は、社会思想史学会において分科会「アメリカ政治思想史研究の最前線」を企画し、石川敬史が「初期アメリカ共和国における主権問題」報告することにつながった。この報告は主権論に即して、初期アメリカにおける思想対立をヨーロッパの思想との連続性において捉えるものであった。第二にプラグマティズムとリベラリズムの関係についても考察を進めた。具体的には研究会を開催し、研究代表者である宇野重規が「プラグマティズムは反知性主義か」と題して報告を行なった。これはプラグマティズムをアメリカ思想史を貫く反知性主義との関係において考察するものであり、プラグマティズムの20世紀的展開を検討することにもつながった。さらに小田川大典が「アメリカ政治思想史における反知性主義」と題して報告を行い、アメリカ思想史の文脈における反知性主義について包括的に検討した。さらに上記の社会思想史学会においては、谷澤正嗣が「A・J・シモンズの哲学的アナーキズム」と題して報告を行っている。これは現代アメリカのリベラリズム研究におけるポイントの一つである政治的責務論において重要な役割を果たしたシモンズの研究を再検討するものである。人はなぜ自らの政治的共同体に対して責務を負うのか。この問題を哲学的に検討するシモンズの議論は、アメリカ思想におけるリベラリズムと共和主義の関係を考える上でも重要な意味を持つ。シモンズを再検討することも、本年度の課題である通史的な視点の確立に向けて大きな貢献となった。
著者
野口 舞子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、ムラービト朝とムワッヒド朝という共にマグリブに興り、アンダルス(イスラーム治世下のイベリア半島)支配を行った外来政権を対象に比較分析を行い、両王朝のアンダルス支配と在地社会におけるその受容の実態を明らかにすることである。その結果、アンダルス史における外来政権の支配の性格やイスラーム世界におけるアンダルスの位置づけについて、一つの展望を示すことを目的としている。平成21年度は、ムラービト朝期のアンダルスのウラマー(イスラーム知識人)の実態と、彼らと王朝の支配の関係を明らかにするため、文献調査と現地調査を中心に行った。文献調査では、史料としてアラビア語年代記、伝記集を用いて研究を進めた。本年度は特に、マグリブ地域の記述に特化した史料を加えて用いることで検討対象地域を広げ、両地域の比較作業を通じてムラービト朝のアンダルス支配の実態解明を目指した。これらの成果としては、邦語、英語で研究会報告を3回行った。他方、文献調査と並行して、スペインのマドリードおよびモロッコのラバトの図書館、文書館において現地調査を行った。これは日本では入手することが出来ない史資料を収集するためや、対象地域における最新の研究動向を把握するために本研究に必要不可欠のものである。また、本研究で対象としているように、ムラービト朝の支配領域は現在のスペイン、モロッコ地域にまたがっていたため、両地域での現地調査が必要である。こうした現地調査では、文献を収集するだけでなく、現地研究者とも直接議論を交わすことで研究の精度を高めると共に、新たな知見を得ることに努め、本研究に大きな進行が見られた。
著者
大久保 史郎 徐 勝 上田 寛 赤澤 史朗 松本 克美 中島 茂樹 松宮 孝明
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、民主化以降の現代韓国の法・政治構造の転換を主題とし、日本との比較の中で、韓国側の新進気鋭の法学者を網羅し、3年間の研究を進めてきた。韓国の民主化の転換点を1987年の「6月民主化大抗争」に置いて、盧泰愚政権以降の韓国政治の民主化過程に対応する憲法・刑事法・労働法・行政法・経済法等の変動に関する分析を行い、その過程と到達点、限界などを明らかにした。そこでは、憲法裁判所の役割や国家人権委員会設立過程などで見られるように、司法の権力統制と人権保障機能の段階的強化、司法権の独立および司法制度改革への模索、市民運動の興隆と市民の政治・司法への参加の増大などが認められた。しかし、反面、分断体制からくる制約や権威主義体制の遺産などもあり、国家保安法を存置させている問題も指摘された。3年間の共同研究の経過を下に示す。第1回共同研究(99年4月・ソウル)では、日本側から2本、韓国側から5本の報告がなされた。第2回共同研究(99年10月・京都)では、日本側から3本、韓国側から4本の報告と、園部逸夫氏の記念講演がなされた。第3回共同研究(2000年6月・韓国慶州)では、日本側から4本、韓国側から4本の報告がなされた。第4回共同研究(2000年12月・京都)日本側から1本、韓国側から3本の報告がなされた。第5回共同研究(01年5月・釜山)では、韓国側から3本の報告と、全体の総合討論がなされた。3年間で30本の報告がなされたことになるが、以上の報告のうち、9論文は『立命館大学法学』に翻訳掲載され、全体のなかから選んで、『現代韓国の法・政治構造の転換』として、2002年度に公刊される。
著者
川田 哲也
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

近年、放射線治療の適応は徐々に拡大され、放射線治療単独で根治する腫瘍も明らかになってきた。放射線治療法の問題点の1つに晩期障害がある。最近は子宮頸癌等で骨盤部に放射線治療を行うと、治療後数ヶ月経過して腰痛や骨盤骨折も多く報告されている。腰痛症は高齢者では癌が治癒しても日常生活に著しい制限を与え、癌患者のquality of life上極めて重大な問題の一つである。本研究は子宮癌の骨盤部放射線治療前後にdual photon法により骨塩定量を行ない、放射線による骨粗鬆症と腰痛症の関係を、臨床的に客観的評価を行なうとともに、骨芽細胞由来の培養細胞と動物実験により骨塩減少の機序を検討し、放射線による腰痛症発生の予防法と治療法を開発することを目的とした。まず、臨床的に放射線照射前後における腰椎の骨塩が低下するか否かを検討した。子宮癌等骨盤領域に放射線治療を行う患者は、照射前、30Gy、50Gy照射時および照射3、6、9、12ケ月後にdual photonにより骨盤部と腰椎の骨塩定量の行なった。放射線治療前後の腰椎照射部位と非照射部位の比較で、照射部位の骨塩量の低下している患者と、ほとんど変化しない患者が混在した。骨塩量の変化と放射線の照射線量の間にも有意の関連は認めなかった。しかし、照射後骨塩量の低下する患者があることから、その機序の解明のため、マウスの骨組織より作成した骨芽培養細胞3種に放射線照射を行ない、照射線量と細胞の生存率の関係を求めた。さらに、培養細胞に50%、10%、1%の細胞生存率が得られる線量を照射し、照射直後、12、24、48、96時間後に、細胞中のATP活性を定量した。骨芽細胞由来の培養細胞は、通常の線維芽細胞と同様の放射線感受性を示した。これらの細胞の細胞中のATP活性を測定したが、放射線照射による変化は認められなかった。
著者
国枝 悦夫 斉藤 秀敏 川口 修
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本補助金により、M.Cristyらの楕円による人体数式ファントム(成人男性胸部を単純化し、肺内中央部に直径2.0cmの球体を孤立性肺癌(GTV)として挿入したモデル)に基づいて、胸部の人体構造を模したファントムを作成した。X線をコリメータにより直径3cm程度に絞り、細ビームとし、このファントムに照射するというEGS4モンテカルロコードを使用した解析をおこなったところ比較的低いエネルギーの場合、ビーム軸に垂直方向、水平方向とも平坦性がよかった。一方、不均一部分の影響から、これまでの放射線治療で使われている、高エネルギーX線では、腫瘍と肺組織の境界面でなだらかな勾配が生じ、標的体積内での均一性が損なわれる傾向にあった。標的体積の中心点の線量で正規化した場合、エネルギーが小さいほどGTV内の均一性は高く、平均線量は100%に近くなる。さらに、CTV内の肺組織(sub-clinicalな浸潤)に対しても均等な照射が可能である。14年度は既存のヘリカル式高速CT撮影装置を改良した。実際に企業との共同研究で設置した実験用CT装置で、X線をコリメータにより細ビームとし照射が可能となった。実測で、線量計および測定用フィルムで基礎データを取得した。また、呼吸移動を模擬するため、前年度に作成した人体型ファントムを3軸方向に周期的に移動させる装置を作成し通常の呼吸状態での照射した場合のデータも取得した。前年の線量分布、コンピュータ・シミュレーションのデータを総合的に解析し、さらに実際の治療条件に近い形で基礎データ測定と、動物実験などを進めた。なお、コンピュータ・シミュレーションと線量計算に関しては、当初の計画の予定外ではあるが、さらに進んで将来の研究計画に必要な、ネットワークを介したスパーコンピュータ利用を計画し、基礎的な検討をおこなった。これらの成果の一部はすでに発表し、論文としており、さらに投稿中である。
著者
中本 高道
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本年度はまず匂いセンサにおける遅延時間の改善を行った。匂いをチューブで吸引してセンサセルに導くのではなく、セミクローズ型のセンサセルを製作して、センサの位置を応答速度の観点から最適化した。その結果、チューブ方式に比べて応答速度が改善した。また、瞬間瞬間で変動する匂いセンサの応答パターンを認識するにはロバストな匂い識別アルゴリズムが必要であるが、本研究では従来用いていたLVQ(Learning Vector Quantization)法に代わってSVM(Support Vector Machine)を導入した。SVMはマージン最大化を行いながら判別境界を決定するために、環境変動に対するロバスト性が期待できる。判別境界の検討を行った後、長時間にわたってセンサ応答を測定しながら匂い識別を行い、LVQより優れた判別率をSVMは維持できることを確かめた。さらに匂いセンサと画像を同期させながら伝送する手法を改善した。以前の手法では匂いと映像を同期させるためには画像の更新速度を毎秒1フレーム程度に落とす必要があり、十分な動画像の画質は得られていなかった。本研究では、専用のデータ伝送フォーマットを作成しパケットに分割しUDPプロトコルにより伝送する。受信する側ではパケットを受信する毎にタイムスタンプ及びデータ種類を読み出し同一のデータ種類ごとにデータの連結を行った上で嗅覚ディスプレイまたはコンピュータスクリーンへ転送するようにした。その結果、毎秒10フレーム程度の伝送が可能になり滑らかに映像を表示できるようになった。この装置を用いて大学祭では344名に体験してもらい、匂いと映像の一致や匂いによる臨場感の向上に関して9割以上の体験者より肯定的な回答を得た。さらに大学と日本科学未来館をインターネットで結んで遠隔地から匂い発生源の場所を探索するゲームを行った。数十名の方にゲームを楽しんでもらい好評であったが、デモの途中で震災にあい途中で中止をよぎなくされた。
著者
若林 泰央
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

当該年度の研究は主に二種類へ大別される。一つ目は、p進タイヒミュラー理論のシンプレクティック幾何学的観点についての研究である。複素数体上のタイヒミュラー理論において、射影構造のモジュライ空間上に構成される様々なシンプレクティック構造の比較は、基本的な主題の一つである。特に(様々な意味での)一意化により標準的に構成されるシンプレクティック構造とGoldmanによる構成との比較は、S. Kawai、P. Ares-Gastesi、I. Biswas、 B Loustauらによってなされている。当該年度の研究では、通常べき零固有束のp進持ち上げによる一意化において、同様の比較定理が成り立つこと証明した。これにより、p進タイヒミュラー理論の新たな側面を見出し、解析的な一意化の議論をp進版において実現する技術が拡張された。当該成果は論文「Symplectic geometry of p-adic Teichmuller uniformization for ordinary nilpotent indigenous bundles」としてまとめ、プレプリントを近日公開する予定である。二つ目は、正標数におけるベーテ仮説方程式に関する研究を行った。E. Frenkelによって示された「ベーテ仮説方程式の解と然るべきMiura operとの対応」の正標数(およびdormant operにおける)類似を証明した。その応用として、小平消滅定理などの反例を与える正標数の代数多様体の具体例を構成した(これは正標数の代数幾何学において基本的な主題の一つである)。これらの成果は論文「Dormant Miura opers, Tango structures, and the Bethe ansatz equations modulo p」としてまとめ、プレプリントを近日公開する予定である。
著者
三浦 洋四郎 長井 辰男
出版者
帝京大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

わが国では覚醒剤取締法によりその使用や所持が禁止されているが、現在でも不法な密輸があとを絶たない。現在の覚醒剤の事犯は、粉末または粒状の形で密輸されているのがほとんどである。われわれは、覚醒剤の密輸・密売ルートの科学的解明を企図した。1.覚醒剤の光学異性体に着目し、獨協医科大学法医学教室の長井敏明と共同でHPLC分析条件を検討した。acethyl化した被検試料を内部標準物質N-n-Propylanilineとともにセルロース誘導体カラム(40℃に加温)にチャージした。溶媒系はHexane/Isopropanol(19.1)を用いた。これによって、methamphetamineのd体とl体を再現性よく分離出来た。2.韓国ルートの密輸覚醒剤はmethamphetamineの塩酸塩で、融点170〜175℃,光学純度は100%のd-methamphetamineであるが、黄色結晶が混入していた点で薬物移動の追跡指標として利用出来る。われわれが厚生大臣の許可を得,合成し分割したmethamphetamineはl体を除く目的で精製をくり返すごとにd/l比は未精製のもの1.08から3回精製したものは、 d-methamphetamineの標準品に近ずいた。その融点は133℃であった。このd/l比および夾雑物は当該覚醒剤の薬物指紋として犯罪捜査時に個人識別のため使用する指紋と同様の利用価値がある。この薬物指紋を集績することによって、覚醒剤の密輸・密売ルートの科学的解明に利用することが出来る。3.methamphetamineの生体内動態を実験動物を用いて研究した。その結果、d体がl体より強い薬理作用を示し、骨・歯牙・毛髪などの硬組織から当該薬物を検出出来ること及びWaterhouse-Friderichsen Syndromeを誘発することが可能であることを初めて明らかにした。methamphetamine中毒患者および中毒動物の尿は、薬物依存の有無を確認出来るが、当該研究のような密輸・密売ルートの解析には不適である。
著者
松下 芳之
出版者
東京海洋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

多くの海産養殖魚種はDHA合成に関わる脂肪酸不飽和化酵素の活性を欠損しており、健全な成長に必要なDHAを自ら合成できない。しかし、淡水に進出した一部のカレイ目魚類は特殊化した当該酵素を有しており、DHAを自ら合成できることが明らかになっている。本研究では淡水産カレイに倣い、海産カレイの当該酵素をゲノム編集により僅かに改変することで特殊化させ、個体にDHA合成能を付与することを目的とする。これにより、DHAを自ら合成できる海産養殖魚を作出する技術基盤を構築し、餌料のDHA源として魚油を必須とする従来の「魚から魚をつくる」海産魚養殖からの脱却を目指す。
著者
吉崎 悟朗
出版者
東京海洋大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

植物油に含まれるα-リノレン酸(ALA)からドコサヘキサエン酸(DHA)を作るには2段階の炭素鎖数の延長と3か所に二重結合の導入(不飽和化)が必要である。一般に海産魚はこれら何れかの反応を司る酵素を欠損しているため、DHAを合成できない。申請者は、熱帯域に生息する小型シタビラメ類が、ALAからDHAを合成する際に必須な全ての不飽和化活性を持つFADSを持つことを発見した。本研究では、日本産の食用シタビラメ類と本熱帯産種を交雑することで、食用種の特徴を具備しDHAも合成可能な新品種を作出する。
著者
甲能 直樹
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本年度の研究では、仙台の中新統から産した最古のセイウチ科鰭脚類、Prototaria Planicephala Kohno,1994(以下化石セイウチ)のタイプ標本の頭蓋腔を完全に剖出した上で、脳の印象模型(エンドキャスト)を作製し、各部位の比較神経解剖学的な記載を行なった。この過程で、化石セイウチの大脳表面の各機能単位を決定するため、現生鰭脚類および陸生食肉類との解剖学的特徴を比較検討し、とくに現生食肉類との相同関係に基づいて各大脳溝および大脳回(いわゆる脳の皺)を同定した。さらに、電気神経生理学によって明らかにされている現生食肉類の脳の機能分布との比較から、化石セイウチの脳の機能分布地図の復元を試みた。化石セイウチの脳神経は、現生鰭脚類と異なり嗅神経(嗅球)の発達が比較的よく、嗅感覚は海洋生活への依存度がより強い現生鰭脚類に比べて鋭かったことがわかった。また、三叉神経第2枝(上顎神経)が極めてよく発達しており、上唇部を中心とした上顎神経支配領域の感覚がすでに現生鰭脚類と同程度に発達していたことがわかった。大脳形態については、全体に側方への拡大が目立ち、とくに冠状脳回(前側頭部)が目立って拡大していることから、吻部の触覚機能の強化(洞毛の発達)が推定認された。また、後S字状脳回(最前側頭部)も拡大の傾向が認められることから、顔面の運動機能と感覚を司る領域全体が著しく発達していることが改めて確認できた。しかしながら、初期のセイウチ科鰭脚類が、まず最初に魚食適応したのか、あるいは沿岸域の雑食性であったのかを明かにするために、更に詳しい大脳表面の解析が今後の課題となる。
著者
濱田 麻友子 BOSCH C. G. Thomas
出版者
沖縄科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究ではクロレラを体内に共生させているグリーンヒドラをモデルとして、動物―藻類共生システムにおける相互作用の実態とその共生ゲノム進化を明らかにした。共生クロレラが光合成によって糖を分泌すると、ヒドラでは窒素代謝やリン酸輸送に関わる遺伝子が発現上昇することから、ヒドラ―クロレラ間の協調的な相互作用によって、栄養供給が遺伝子レベルで調節されていることが示唆された。また、共生クロレラのゲノム解読を行ったところ、硝酸同化遺伝子群の一部とそのクラスター構造がゲノムから失われていた。このことから、共生クロレラは窒素源をヒドラに依存した結果、ゲノムからは硝酸同化システムが失われたと考えられる。
著者
山村 高淑
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、日本のアニメ作品が海外の観光地形成に影響を与える場合には大きく二つのパターンがあることを明らかにした。すなわち、第一に、クリエイターが実在の場所をモデル地として設定したり、実際にロケハンを実施したりすることが、結果として観光地形成につながる場合。第二に、作品とは全く関連しない場所において、作品関連のイベントが開催されたり、ファン自身が作品との結び付けを行ったりすることが、観光地形成につながる場合、である。そのうえで、これら2つのタイプの典型事例の実地調査を行うことで、アニメイメージや物語世界の受容実態、国際観光地化の経緯と実態を具体的に明らかにした。