著者
上野 圭吾
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

病原性真菌<i>Cryptococcus gattii</i>は、健常人に感染し予後不良なクリプトコックス症を引き起こす。申請者は、本感染症の予後を改善する樹状細胞 (DC)ワクチンを開発し、その作用機構を解析している。昨年度は、DCワクチンが肺常在性記憶型Th17細胞 (lung TRM17)を誘導することや、lung TRM17の分化維持機構に必要な因子について、国際誌に報告した (Ueno et al., Mucosal Immunol, 2019)。lung TRM17の誘導前期 (ワクチン後2週目) と誘導後期 (ワクチン後15週目)について、IL-17A欠損マウスでの挙動を評価したところ、IL-17A欠損マウスではどちらの時期もlung TRM17の数は有意に少なかった。特に、誘導後期のIL-17A欠損マウスでは、lung TRM17に発現するCD127の発現量が有意に低下し、lung TRM17の数はワクチン非投与群の場合と同等であった。このことは、IL-17Aがlung TRM17の発達や維持に関与することを示唆している。その他、DCワクチンを事前にMHC-II阻害抗体で処理するとlung TRM17の発達が阻害されたことから、DCワクチンによる抗原提示活性がlung TRM17の発達に必要であることも明らかになった。上記の論文では、lung TRM17が好中球の活性化を介して本感染症を制御するモデルを示した。その後の研究では好中球の殺菌機構や分化制御機構についても国際誌に報告した (Ueno et al., Med Mycol, 2019: Sci Rep, 2018)。初年度で開発した新規経鼻 (IN) ワクチンについて、DCワクチン同様に感染予後を改善することが明らかになった (上野ら, 第62回 日本医真菌学会総会, 2018年)。
著者
秋吉 英雄 吉田 真明 川向 誠
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-07-18

一般的に藻食性魚類と記載されている魚種を網羅的に調べ,そのほとんどが雑食性魚で,藻食性に特化した魚類は非常に少数であると考えられた.雑食性魚類の特徴である無胃魚および長い腸は必須の構造であるが,胃腺を認めない胃様の腸膨大部がほとんどの海水魚種に存在していた.この膨大部の働きとして魚体の浸透圧調整機構に関与(海水飲)していると推察された.ゲノムインフォマティクス解析によって,腸管内微生物の遺伝子配列を解読.その系統的多様性と機能遺伝子の同定を行った.イソギンポ科の藻食性魚類であるヨダレカケ,藻食性+雑食性魚のホシギンポ,雑食性で藻食性でないヘビギンポ科のヘビギンポの腸内容物からDNAを抽出,16S rDNA V4-V5領域を増幅して次世代シーケンス(Illumina Miseq) により網羅的に配列を大量決定し,3種の腸内微生物叢を比較した.ホシギンポは,複数の微生物叢,ヘビギンポは単一の微生物叢であった.一方,藻食性魚類のヨダレカケは,多数の微生物叢を構成しており,Proteobacteria門,Spirochaetes門,Bacteroidetes門,Deferribacteres門,Verrucomicrobia門が見出され,特徴的な菌種ではTenericutes門等,反芻胃や無酸素の深海中などから発見される系統を認めた.これらの結果より,雑食性魚と藻食性魚の腸内微生物叢は明らかに異なっていた.ヨダレカケの腸内微生物の培養では,単離した各株の16S rDNA領域を増幅しDNA配列を決定し,Vibrio属,Shewanella属,Pseudomonas属の細菌と推定した.嫌気条件より得られたアガロースゲル分解細菌は,Vibrio alginolyticusと高い相同性を示し,珪藻分解性細菌を一群に持つPseudoalteromonas属,Bacillus sp.Vibrio sp.Shewanella sp.と高い相同性を示す株を得た.好気条件より得られた未知菌株はVibrio sp.V859,Vibrio sp.V639,Vibrio harveyi,Pseudoalteromonas sp.JL-S1と高い相同性を示した.
著者
山口 絢
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、高齢者の法的支援においてインフォーマルネットワークが担っている役割、およびフォーマル・インフォーマルネットワークの連携による高齢者の法的支援の課題を明らかにすることを目的としている。平成30年度は、(1)地域包括支援センターへのインタビュー調査、(2)ケアマネージャーへのインターネット調査を行った。(1)地域包括支援センターへのインタビュー調査自治体Aの複数の地域包括支援センターの職員を対象に、高齢者のニーズを把握するプロセス、法専門家を含む専門機関につなぐ判断基準等についてのインタビュー調査を行った。その結果、とくに成年後見の問題に関しては、民生委員や家族から相談を受けて高齢者の支援を開始し、職員が高齢者本人や家族を訪問する等、インフォーマルネットワークと連携した地道な支援を続ける中で、一つの可能性として成年後見というアプローチを提案するという支援プロセスが明らかになった。(2)ケアマネージャーへの成年後見制度に関するインターネット調査本年度までの調査から、ケアマネージャーが、インフォーマルネットワークを通して発見された高齢者のニーズを整理し、必要に応じ成年後見のニーズとして再定式化する重要な役割を担っていることが示唆された。そこで、ケアマネージャーによる成年後見ニーズの発見経緯、対応、インフォーマルネットワークとの連携、成年後見制度への意識等を明らかにするために、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務するケアマネージャーを対象として、調査会社に委託したインターネット調査を実施した(回答数492名)。分析の結果、多くの回答者が成年後見のニーズがありそうな高齢者に対応しているものの、家族の同意を得る難しさ、手続の複雑さ等から、必ずしも成年後見制度を活用できていない状況が明らかとなった。このほか、成果をまとめた論文の執筆を進めた。
著者
藤田 彰典
出版者
京都文化短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

大黒屋杉浦は, 三郎兵衛を襲名し, 貞享年代(1684〜87)近江国高島郡から京都に出て呉服の仕入店を, 江戸には営業店をそれぞれ開店し, 江戸では「十組諸問屋」仲間に, 京都は「呉服店廿軒組」に所属するなど, 京都店・江戸店とも営業の発展をみて, 有数の呉服店(豪商)に成長していった.明治以降も, 呉服商大黒屋三郎兵衛店の営業は発展していくが, 大正12年(1923)には資本金20万円の株式会社杉浦商店を設立する. そして東京を本店に, 京都を出張所に変更したことから, 京都店は休業状態となって昭和31年(1956)に処分されたが, 東京店は大三株式会社の社名をもって今日に続いている.その大黒屋杉浦は, 4代の杉浦三郎兵衛利喬が, 石田梅岩の門に入って「心学」をきわめ, 石門心学を経営理念とした特色ある商家として注目される. 研究の成果としては, 1.大黒屋杉浦は江州の琵琶湖西岸を出身地とする武家に系譜を持つ近江商人であった. 2.杉浦家は代々子供に恵まれなかったことから, 分家による同族の拡大はみなかったものの, 同郷の坂江家一族との血縁的関係をもって同族団の成立をみた特徴がみられる. 3.そのためか, 店員のほとんどは江州高島郡の出身者でしめられ, 別家制度が充実をみていた. 4.ことに大正7年(1918)の店員規定は, 現代雇用制度の先駆的内容をうかがわせる. 5.それも, 大黒屋杉浦三郎兵衛店が, 江戸時代から石門心学を店の経営理念としてきたことによるものであって, 鴻池や小野組の豪商, 三井や住友などの財閥の経営とは趣を異にするものがある.以上, 大黒屋杉浦は, わが国商家経営の一つの特色を示しているが, 家憲及び石門心学の実践, 別家制度等については, 今後引続いて検討を深めていく必要がある.
著者
土肥 敏博 森田 克也 森岡 徳光 仲田 義啓 北山 滋雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

アロディニアは,本来痛みを伝えない触角,冷覚など非侵害性の刺激によって痛みを生じる現象であり,神経因性疼痛neuropathic painの主症状として知られている.その発症機構は十分に解明されていない.血小板活性化因子(PAF)は炎症のメディエーターとして,とくに強力な浮腫誘発物質として知られる.しかし,痛覚伝導における役割は知られていない.本件研究は脊髄での痛覚伝導におけるPAFの役割について検討し,以下の結果を得た.1.PAFのマウス脊髄腔内投与は10fg〜1pgにおいてアロディニアを誘発した.PAF誘発アロディニアはPAF受容体拮抗薬TCV-309,WEB2086,BN50739およびATP P2X受容体拮抗薬pyridoxalphosphate-6-azophenyl-2,4-disulfonic acid(PPADS),NMDA受容体MK801および7-NI,morphine,QYNAD,minocyclineにより抑制された.2.PAF, NO donors, glutamate誘発アロディニアはNOスカベンジャー,guanylate cyclase inhibitor,G kinase inhibitorにより抑制され,cGMP誘導体によるアロディニアはG kinase inhibitorのみによって抑制された.3.PAFは培養後根神経節細胞からATPの遊離を引き起こした。PAF受容体mRNAはDRG,脊髄,ミクログリアにRT-PCRにより発現が確認された.4.PAFの脊髄腔内投与により脊髄背側表層にOX-42陽性ミクログリアが観察された.5.アモザピンの静脈内投与はPAF並びにcGMP誘発アロディニアを用量依存的に抑制した.これらの結果よりPAFは強いアロディニアを誘発し,その機序にATP P2X受容体,NMDA受容体,NOならびcyclic GMP/G-cyclaseカスケードが関与することが示唆された.この過程にミクログリアが関与することが示唆された.また,グリシントランスポーター遮断薬の抗アロディニア薬としての有用性が示唆された.また,Interleukin-1は疼痛伝達に係わりの深いP/Q type Ca2+ channelの発現を抑制すること,NSAIDsの一部はMDRを抑制して神経毒性を高める作用を有する事を認めた.以上,本研究で得られた知見より,PAF誘発アロディニアは神経因性疼痛の発症機序および新規治療薬開発のための有益なモデルとなることが示唆されその応用が期待される.
著者
安藤 馨
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

第一に、当為言明一般について、認知主義に基盤を置く型の混合的表出主義としての実在論的表出主義の説得性を擁護した。第二に、法的言明の意味論について、命令法の意味論的内容としての命法規範についての言明とする、実在論的表出主義による説明を与えた。第三に、ロナルド・ドゥウォーキンが法実証主義に対して提出してきた「理論的不同意問題」が、ハートの法実証主義の非認知主義に基盤を置く型の混合的表出主義の意味論的問題そのものであることを明らかにし、実在論的表出主義がこの問題を回避するための有力な理論的選択肢であることを明らかにした。
著者
安藤 馨
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

第一に、法的言明について真理性を発話者・評価者へと二重に相対化する型の意味論的相対主義の適用可能性を検討した。その結果、法実証主義的な規約主義と適合的な外見にもかかわらず、不同意の存在が説明できないという古典的難点が必ずしも克服されないことから、固有の理論的長所が意外に乏しいことが明らかとなった。第二に、法的判断と判断主体の行為者性(agency)の問題を検討した。行為者の単位については、方法論的個人主義の再検討を通じて団体の実在を認めつつ、その構成員と全体の間の義務の相克について明らかにした。また、命令説から制裁説までの法モデルのスペクトラムと法的主体の行為者性の内在的連関を明らかにした。
著者
森田 栄伸
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

花粉に感作され、果物、野菜を摂取時に口腔アレルギー症候群を示すことは花粉-食物アレルギー症候群として知られている。研究者は、オオアワガエリやカモガヤなどのイネ科花粉に感作され、小麦製品の摂取によりアレルギー症状をきたす患者6名から血清を収集して、小麦抗原に対する免疫ブロットを行い、小麦水溶性分画に反応するIgEを保有していることを見出した。患者血清をあらかじめオオアワガエリ花粉抗原と混合処理をした後免疫ブロットを行ったところ、オオアワガエリ花粉抗原の濃度に依存して、小麦水溶性分画に反応するIgE量は減少したことから、患者IgEが認識する小麦アレルゲンはイネ科花粉との交差反応することが確認された。電気泳動による免疫ブロットを行い、患者IgEが認識する25kDaと35kDaのタンパク質を同定した。質量分析によりそれぞれチオールレダクターゼとペルオキシダーゼIと確認した。精製ペルオキシダーゼIを用いてCAP-FEIAを作成し、イネ科花粉による小麦アレルギー患者6名、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー患者18名、加水分解コムギアレルギー患者11名、イネ科花粉症患者11名、牛肉あるいは甲殻類アレルギー患者22名の反応を検討した結果、ペルオキシダーゼI特異的CAP-FEIAのイネ科花粉小麦アレルギー患者の検出感度50%、特異度100%であった。このことから、ペルオキシダーゼI特異的CAP-FEIAはイネ科花粉による小麦アレルギーの診断に有用であると結論した。
著者
伊藤 和行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,17世紀科学革命の核心とも言える力学の誕生過程に焦点を定め,基本的物理概念-「重さ」,「物質量」,「速さ」,「加速」,「力」,「モーメント」-に関して,ガリレイから,カヴァリエリ,トリチェッリ,デカルト,ホイヘンス,ニュートンらにおける,それらの概念の変遷を検討した.とくに数学的運動論の提唱者であるガリレイに関しては,速度概念とその数学的表現に関して大きな問題を抱えていたことが明らかになった.ガリレイは加速運動の考察において瞬間的速度を表すために「速さの度合」という中世的概念を用い,それを「不可分者」という数学的概念によって扱おうとしたが,それが含む理論的問題点のために彼の落下法則の証明は不完全なものとなっていた.ガリレイの直面したのは無限小量をどのように理解し,数学的に処理するかという問題だった.ガリレイの落下法則はホイヘンスやニュートンにおいても,一定力下の加速運動の法則として,一般的な加速運動の考察の出発点となっていたが,無限小量の導入によりガリレイの証明はまったく過去のものとなった.ニュートンの最大の功績は重量と質量の概念的区別をし,運動法則を定式化したことであるが,彼の第二運動法則が解析化され,力学体系の核心となるにはまだ半世紀を要するのであり,18世紀の解析力学の発展過程に関するさらなる研究が必要である.本研究ではガリレイの主要著作,および他の科学者の力学関係著作に関して,コンコーダンスを作成した.報告書ではとくに約2,000語を選び,各人ごとにまとめてある.このコンコーダンスは後日Webサイトにおいて公開する予定である.また約20,000語に及ぶ全体のコンコーダンスもWebサイトにおいて公開することを計画している.
著者
溝口 勝 荒木 徹也 山路 永司 木村 園子ドロテア 登尾 浩助
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)間断灌漑周期とイネ収量の関係の定量的解明日本で初めてSRI農法を導入した愛知県新城市の農家の水田にモニタリング機器を設置し、平成21年6月から10月までのイネの生長と気象、土壌水分量の変化をリモートで観測した。その結果、間断灌漑の周期に応じて5cm深さの土壌水分量が応答すること、梅雨時には排水条件にするのが難しいことが確認された。(2)現地農民の水管理方法に関する聞き取り調査上記の農家に、SRI導入に至った経緯や慣行法との違いについて聞き取り調査を行った。また、インドネシアで学会に参加し、その現地見学の際にSRI普及指導員からSRIのノウハウを教えてもらった。日本の農家から、排水時に有機物(藻や水生生物)が田面水と共に水田の外に除去されてしまうことが指摘されたが、インドネシアでは灌漑時の湛水深をほぼゼロにすることで有機物を有効に土に還元していることがわかった。(3)局所的な排水の違いによるイネ収量調査千葉県柏市の水田でSRI実験を実施し、局所的な排水がイネ収量に及ぼす影響を明らかにした。(4)メタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定昨年度実施したSRI方式の水田および慣行水田からのメタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定結果を解析し、栽培方式の違いが温室効果ガス放出量に与える影響について考察した。(5)SRI実施水田と慣行栽培水田における水収支・エネルギー収支観測結果に基づき、水田における水収支・エネルギー収支を気象データから計算する方法を提案した。その他、J-SRI研究会を年6回開催し、SRIに関心を持つ研究者との意見交換を行った。こうした議論はホームページに公開されている。特に、最終年度の今年度は「SRI用語集」のWikiページを開設した。
著者
上村 博司 窪田 吉信
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

前立腺癌の発生および進展には、男性ホルモンであるアンドロゲンとアンドロゲン受容体が大きく関わっている。初期治療としてのホルモン療法は、完全に癌細胞を死滅させることはできず、治療を開始して数年後には多くの症例がホルモン非依存性を示し、再燃癌へと進んでいく。このメカニズムとして、ホルモン非依存性癌細胞からのパラクリンあるいはオートクリン作用として分泌される増殖因子やサイトカインが再燃への進展機序に関与していることが挙げられる。我々は、高血圧に関わるペプチドであるアンジオテンシンIIが前立腺癌細胞の増殖効果を持ち、降圧剤であるアンジオテンシンII受容体ブロッカー(ARB)が癌細胞の増殖抑制および抗腫瘍効果を持つことを解明し発表した。興味あることに、前立腺癌細胞や間質細胞はアンジオテンシンII受容体(AT1レセプター)を発現していることも、我々は確認している。このことは、ARBが前立腺癌細胞や間質細胞にも作用することを意味しており、ARBが前立腺癌に効果があることを示唆している。この研究では、前立腺癌細胞と間質細胞に対して増殖作用のあるアンジオテンシンIIに焦点をあてた。前立腺癌組織においてレニン-アンジオテンシン系(前立腺RAS)が存在するかどうかを、real time RT-PCRを使って調べた。結果は、正常前立腺や未治療前立腺癌に比べ、再燃前立腺癌で、AT1レセプターやアンジオテンシノーゲン、ACEなどが有意に強く発現していた。また、前立腺癌細胞であるLNCaP細胞をアンドロゲン、エストロゲン、デキサメタゾンや抗アンドロゲン剤で刺激すると、AT1レセプターが強く発現していることが分かった。以上の結果より、再燃癌はエストロゲン剤やデキサメタゾンなど各種治療が行われており、その結果、癌細胞でのAT1レセプターが強く発現し、ARBの効果が得やすいと推測された。
著者
塩澤 彩香
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、新規抗リウマチ薬イグラチモドによるワルファリン代謝阻害の機構を明らかにすることを目的とし、解析を行った。プールドヒト肝ミクロゾーム(HLMs)および組換えCYP2C9(rCYP2C9)を酵素源として用い、S-ワルファリン7-水酸化酵素活性に対するイグラチモドの影響を検討した。イグラチモドはHLMsおよびrCYP2C9の活性を濃度依存的に阻害し、IC_<50>値はそれぞれ14.1μMおよび10.8μMであった。阻害の速度論的解析を行った結果、イグラチモドは両酵素源に対して競合型の阻害様式を示した。HLMsおよびrCYP2C9に対するK_i値はそれぞれ6.74μMおよび4.23μMであった。イグラチモドによる阻害が代謝依存性を示すか否かを明らかにするため、プレインキュベーションの影響について検討したところ、NADPH存在下で各酵素源とイグラチモドを20分間プレインキュベートしても、IC_<50>値の低下は認められなかった。Obach RSら(J. Pharmacol. Exp. Ther., 316, 336-348, 2006)の方法およびコルベット錠25mg(イグラチモド製剤)のインタビューフォームに記載された方法を用いて、本研究で得られたHLMsのK_i値と肝臓中の非結合形薬物濃度(約0.8μM)から、臨床での薬物間相互作用の可能性について推察を試みた。その結果、S-ワルファリンのAUCはイグラチモドと併用することによって約2.3倍の上昇が見込まれた。カペシタビンを併用したときのワルファリンの体内動態および薬効の変動を解析した臨床研究では、S-ワルファリンのAUCが1.57倍増加したとき、PT-INRが1.91倍上昇したことが報告されている(Camidge R et al., J. Clin. Oncol., 23, 4719-4725, 2005)。これらのことから、イグラチモドとワルファリンを併用したとき、イグラチモドがワルファリンの代謝を阻害し、プロトロンビン時間を延長する可能性が示唆された。以上の結果から、イグラチモドはそれ自体がワルファリンの代謝を阻害することが明らかとなった。臨床で報告されたイグラチモドとワルファリンの相互作用の機序の1つとして、イグラチモドによるCYP2C9活性の阻害が考えられた。
著者
岩田 奈織子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

重症肺炎を引き起こす重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV) 及び中東呼吸器症候群コロナウイルス (MERS-CoV) に対する新規ワクチン開発のため、平成29年度は平成28年度に引き続き免疫原とするSARS-CoVのスパイク (S) タンパク質を作製し、その中和抗体誘導能をマウスで確認した。平成28年度に作製したSARS-CoV S タンパク質は精製度が低かったため中和抗体誘導能が低かったため、平成29年度は精製度の高いSARS-CoV S タンパク質を作製し直した。このタンパク質を抗原としてマウスに 1 匹あたり 1 回、1, 0.5, 0.1, 0.05 μg をそれぞれ皮下免疫したところ、2回の免疫で S タンパク質に対する IgG の産生が見られた。IgG 抗体の産生は免疫した抗原濃度に依存して見られ、1 μg, 0.5 μgでは免疫した全てのマウスで高い IgG 抗体産生があった。中和抗体に関しても 1, 0.5, 0.1 μg では産生が見られたが、0.05 μg の免疫群では検出限界以下だった。また、各抗原量に金ナノ粒子を添加して同様に免疫をした場合、1 μg, 0.5 μgを免疫した群では抗原のみを投与した群と比較して中和抗体の産生に違いはなかったが、0.1 μg を投与した群では金ナノ粒子を添加した場合の方が IgG 抗体および中和抗体の産生はわずかに高かった。しかし、これらの免疫マウスを用いてウイルス攻撃実験を行なった結果、金ナノ粒子を添加した免疫群はどの抗原量においても感染後の体重の回復が悪く、さらに金ナノ粒子添加 0.1 μg、0.05 μg を免疫した群では、生存率が抗原のみの群よりも悪かった。この結果に基き次年度は、金ナノ粒子を添加したことによる副反応の影響を追求する。
著者
小山 聡子 大江 篤 近藤 瑞木 斎藤 英喜 水口 幹記 竹下 悦子 山田 雄司 北條 勝貴 赤澤 春彦 佐々木 聡
出版者
二松學舍大學
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-10-21

本研究では、前近代日本の病気治療と呪術の変遷について、各自の専門とする時代を中心に史料調査などを行なった。1年に2回から3回の研究会を開き、各自の調査および研究成果を報告し、議論してきた。本研究では、日本についても、東アジア全体で考えていくべきであるとする認識を持ち、海外の研究者とも連絡を密にしてきました。2018年8月には、中国の浙江工商大学を会場に、国際シンポジウム「東アジアの歴史における病気治療と呪術」を主催した。本研究の成果は、前近代日本の病気治療と呪術に関して、各自の専門分野から論じた論集を2019年度末までに出版する予定となっており、現在、準備中である。
著者
馬 剛
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ノビレチンはポリメトキシフラボノイドの一種であり、シークヮーサーやポンカンなどカンキツのごく一部の品種に含まれる。本研究課題では、ノビレチンを多く蓄積する ‘太田ポンカン’とほとんど蓄積しない‘宮川早生’の果皮を用いてマイクロアレイ解析を行うことにより、ノビレチン生合成を調節する転写因子を単離する。単離した転写因子をアグロインフィルトレーション法を用いてカンキツ果実またはカルスに導入し、機能解析を行う。本研究では、カンキツ果実におけるノビレチン生合成に関わる遺伝子の発現調節機構の解明を目的とする。
著者
小林 浩 吉田 昭三 春田 祥司 重富 洋志 吉澤 順子 野口 武俊
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

子宮内膜症からの癌化機序として遺伝子不安定性等を検討した。繰り返す月経血の逆流による酸化ストレスにより、子宮内膜症自体に遺伝子変異が生じており、脱落膜化機能に関連した遺伝子群がメチル化され発現低下していた。これはすでに子宮内膜症患者の正所子宮内膜においてもその発現変化を確認できた。毎月おこる月経血に含まれるヘモグロビンによるヘムや鉄により酸化ストレスによりG→T変異を起こし遺伝子変異が惹起された。元来胎児期から子宮内膜に遺伝子変異を有していると推定された女性が、生後に繰り返す出血により広範囲な遺伝子変異が発生し、鉄による酸化ストレスの影響を受けて子宮内膜症から発がんする機序を検討した。
著者
末岡 榮三朗
出版者
埼玉県立がんセンター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ヒト特発性間質性肺炎の中心的メディエーターは、THF-αと考えられている。肺にTNF-αを特異的に高発現するSPC-TNF-αトランスジェニックマウスを用い、TNF-αによって誘導されるサイトカインネットワークの活性化と、特発性間質性肺炎発症との関連を、分子生物学的に解明することを目的とした。更に、このマウスモデルを用いて、ヒト特発性間質性肺炎の予防及び治療法の検討を行った。本年は最終年度であるので2年間の研究成果について記述する。1) SPC-TNF-αトランスジェニックマウスは、生後一ヶ月がら、進行性の間質性肺炎を発症した。肺の組織学的変化を経時的に解析すると、(1)リンパ球が間質へ浸潤する第1期、(2)マクロファージの浸潤が加わる第2期、(3)肺胞上皮細胞の増殖と肺胞腔内へのマクロファージの浸潤を伴う第3期、の3つの病期に分類することができた。2) 上記3つのステージを、サイトカインネットワークの活性化について解析した。第1期では、TNF-αの恒常的高発現に続いて、IL-6及びIL-lβの発現が亢進し、第2期から第3期にかけてはIL-6の発現亢進が著しかった。したがって、間質性肺炎の進展には、TNF-αとIL-6が深く関与していると考えられる。3) 緑茶はTNF-αの遺伝子発現とTNF-αの遊離を抑制することを見いだしている。間質性肺炎の予防を目的として、SPC-TNF-αトランスジェニックマウスに緑茶抽出物を投与した。0.1%緑茶抽出物を4ヶ月間マウスに投与すると、肺でのTNF-αの産生は約30%抑制された。現在、緑茶による間質性肺炎の抑制機構を解明するため、組織学的解析を行っている。発症の予測が難しいヒト間質性肺炎に対して、緑茶のようにTNF-αの産生抑制作用を持ちながら毒性のない化合物を投与することは、ヒト間質性肺炎の新しい予防法にな杢と考える。
著者
田口 哲也 阪口 晃一
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

カペシタビン(CAP)誘発の手足症候群(HFS)を予防可能な皮膚外用剤の開発を試みた。HFSの主原因であるCAP代謝産物の5FUと5FU代謝産物の産生をブロック可能なウラシル3%含有の軟膏(UO)を作製し、第I相試験でその安全性と血中移行性の無いことを確認した。次に3%ウラシル軟膏の第II相試験を実施し、結果、グレード2以上のHFSが起こる頻度は第2コースと第3コースでそれぞれ35.3%と50%とCAPの国内開発治験における75.3%より低頻度であった。このようにUO塗布によりCAP誘発HFSの発現を予防できる可能性が示唆されたが、今後第Ⅲ相比較試験により証明することが必要である。
著者
黒沼 幸治 高橋 弘毅
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

肺炎球菌感染症は重症化しやすく、侵襲性肺炎球菌感染症は致死率も高い。肺炎球菌感染症の莢膜血清型による重症度の違いが疫学研究により報告されており、 我々のサーベイランスにおいても肺炎球菌ワクチンの普及に伴い、北海道における侵襲性肺炎球菌感染症の血清型にも変化がみられている。肺コレクチンが肺炎球菌成分と特異的に結合し、また、マクロファージを活性化させて 菌の貪食に必要な受容体を増加させることで抗菌活性を発揮することを確認した。肺炎球菌の病態としてワクチン効果、宿主の免疫状態、肺コレクチンなどの制御因子との関連が重要であることが明らかとなった。
著者
硯川 潤 井上 剛伸 中村 隆 高嶋 淳
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,近年生産技術としての応用が期待されている3次元積層造形技術を福祉機器部品の製造に適用するための,基礎的な設計手法を提案することを目的とした.積層造形で製作された造形物には,積層方向に依存した異方的な強度特性が存在することが知られており,安全利用の妨げとなっている.そこで,引張・曲げ強度試験により強度特性を系統的に把握し,さらに,既存の表面改質処理が強度特性を部分的に改善する効果を有することを確認した.また,これらの実験的に得られた知見が,実際の義手部品の強度予測に適用可能であることを確認できた.