著者
曽余田 浩史
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

(1)学校づくり(学校経営)の営みをデザイン行為として捉えるための基礎作業として、デザイン学(方法論)を意識して組織デザインを論じるK.Visscherらの見解を手掛りに、古典的なデザインアプローチと開発的なデザインアプローチの原理や特徴を対比的に考察した。古典的なデザインアプローチは「合理的な問題解決」としてのデザイン観であり、近年の学校経営やスクールリーダー教育の理論と実践に色濃く反映されている。このデザイン観は、デザインする主体とデザインされる客体の分離を前提とし、人々の行動・取組み(組織行動)をコントロールするための「青写真」をつくることをデザイン行為と捉える。デザインの対象は、目に見えるフォーマル構造や計画(青写真)である。デザインのプロセスは、①問題の分析→②解決策のデザイン→③実行→④評価という段階モデルにもとづいており、①の段階において複雑性を排除する。開発的なデザインアプローチは、「状況との省察的な対話」としてのデザイン観である。デザインする主体とデザインされる客体の分離を否定し、両者をトランスアクション(相互形成)的な関係で捉える。デザインの対象は、人々が自分で自身の仕事をデザインしたり変えたりする動きの創造をねらった変化や動きである。デザインのプロセスは集合的な学習であり、状況との省察的な対話である。そして、組織づくりのプロセス全体をデザイン行為と捉える。(2)デザインの視点から斎藤喜博の「学校づくり」論を考察し、そのデザイン的な原理を試論的に考察した。相手が変革することによって自分が変革するというトランスアクション(相互形成)的な関係、「固定しない」という実践の在り方、「典型」創造などがデザイン行為としての学校づくりにおいて重要であることを言及した。
著者
前田 恵一 Barrow John Gibbons Gary Starobinsky Alexei
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

一般相対性理論は多くの実験・観測により十分検証されているが、それにもかかわらずダークエネルギーなどの宇宙論最大の謎やミクロ・スケールでの重力の基本的問題などの解決のため新しい重力理論が次々と提唱されている。どの重力理論が本当に正しいかを判断するには、重力理論を個々に解析するより系統的な方法で検証するのがより適切であると考え、本研究では3つの系統的な手法(有効理論的アプローチ、基礎理論的アプローチ、一般相対論的アプローチ)を提案し、それらを有機的に組み合わせ、 宇宙の加速膨張の説明やインフレーションモデルの適否などの総合的な観点から様々な重力理論の検証を行った。
著者
小林 信一 加藤 毅
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、平成7年6月に実施した大学教員の生活時間調査の再分析により大学教員の置かれている状況を時間資源の観点から多角的に明かにするとともに、研究活動の編成様式との関連の理論的検討を行うものである。1.生活時間分析大学教員の活動の実態をさまざまな属性別に分析し、中でも研究時間の不足感が強い国立有力大学について詳細に分析した。また、大学改革と生活時間の関係に関して分析を行い、会議時間に対する負担感が実態以上に大きいこと、時間の寸断など時間の質の低下などが発生していることを明かにした。さらに管理的職務の実態について分析を行った。これらの分析結果を、大学教員の仕事の質、大学教員の多忙と教育研究の支援体制、時間からみた大学教員の学術研究環境、管理的業務に関する分析の各項目についてとりまとめた。また、大学研究者に関する国際的統計の根本問題であるFTEをめぐる問題についても検討した。2.研究活動の編成様式の理論的検討科学技術のモード論を参照しつつ、科学技術論のレベルで大学教員の多忙の原因について検討を行った。知識生産の様式として、ピアレビュー・システム、インハウス・システム、オ-ディション・システムの3タイプが存在することを明かにした。とくにモード2の出現にともなうオ-ディション・システムの浸透、また多様な研究様式が並存することが、大学教員の多忙の原因になることを示した。3.とりまとめ以上の結果を内外の学会で口頭発表するとともに、論文などにまとめ、さらに報告書にとりまとめた。
著者
鈴木 亮子 遠藤 智子 中山 俊秀 横森 大輔 土屋 智行 柴崎 礼士郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-07-18

「言語の定型性」という、従来の言語研究では殆ど顧みられてこなかった側面が、実際の言語使用では広汎に見られることが近年指摘されてきている。定型性の理解に向けて、実際の人々の言語使用を記録したデータをもとに観察・分析・記述を蓄積しつつ、言語の定型性を中軸に据えた文法理論の構築を試みることが、私たちのもつ言語知識の全体像の理解に不可欠であると考え、本研究では日中英3言語の会話をはじめとするデータの分析に取り組んでいる。定型性の分析に向けての情報収集を行った初年度に続き、2018年度はデータと向き合い個々のメンバーの専門性を生かした研究活動を進めることができた(業績参照)。2018年5月に年間活動予定を定め二通りのデータセッションを行った。まず同じ動画データ(大学生の会話)を見ながらメンバーそれぞれの定型性と言語使用に関する気付きを共有し合った後、個々のメンバーが日・中・英語のデータから短いセグメントを持ち寄り議論をした。定型性を分析する上でポイントになるリサーチクエスチョンのリストを作成した。これらが研究をまとめる際の糸口になる。9月には国際学会(Referentiality Workshop)などに複数のメンバーが研究発表を行い海外の学者との研究交流を深めた。2018年12月に海外研究協力者のHongyin Tao氏(UCLA)と大野剛氏(U of Alberta)を招聘し東京外国語大学で国際ワークショップを開催し、言語の定型性を中心に据えた理論化を見据えた発表を聞くことができた。2019年3月6日から7日にかけて九州大学で行った第3回目の会合ではこれまでの研究会合を振り返り今後の方向性を議論した。相互行為分析からは少し離れた立場の方々を招いて言語の定型性に関する議論を深める案などが出された。2020年3月には定型性研究の先鞭をつけたAlison Wray氏をイギリスから招いて国際ワークショップを開催する方向で動き出している。
著者
永井 涼子
出版者
山口大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、場面や状況がある程度固定されている医療系談話を対象に、談話の持つ定型表現について明らかにする。その上で談話における定型表現とは何かについて考察を行い、専門日本語教育に応用する形について検討する。具体的には、各談話の定型表現をもとに「定型談話」を作成する。そして「定型談話」と実際の談話を比較し、それが専門日本語教育に応用できるのかを検証する。
著者
西田 光一
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度は次の2本の論文を発表した。(1) An anaphora-based review of the grammar/pragmatics division of labor. BLS44, 213-227.(2)「談話内のことわざの代用機能とグライスの協調の原理の再評価」『語用論研究』20, 41-61.(1)は、英語の定名詞句の同一指示用法を題材に、文法と語用論の分業の在り方を議論し、Ariel 2010, 2017の言う意味で、文法は記号化の規則であり、語用論は推論の導き方であるという区分を発展させたものである。特に記述内容の豊かな定名詞句が前方照応的に使われる条件を明らかにし、そのような名詞句とことわざの談話機能の共通点を指摘した。ことわざは、先行文脈の主題の指示対象に類似の意味の名詞句を導入する機能があり、それを照応の観点から分析することを提案した。さらに、文法と語用論はともに文法的な慣習に作用するが、文法の関与が不完全なところに語用論が関与するという一般化を導いた。(2)は、日本語のことわざを題材に、文字通りの意味では語用論的説明に合致しない定型表現が談話で生産的に使われる理由を解明した。ことわざは先行文脈を評価し要約する機能を担うが、これはことわざが代名詞に類した代用表現であり、先行文脈から内容を受け取ることに由来する。代名詞が名詞句の代わりとして代-名詞であるように、ことわざは先行文脈の代わりとして代-談話表現と言えることを示した。この議論を英語の例に応用し、2019年11月にアメリカのAMPRA 4で、"Proverbs as proforms of evaluative utterances"と題し、研究発表した。これまでの私の照応研究は指示の同一性が中心だったが、意味の同一性の観点から、文法と語用論における照応の役割がより深く理解できてきた。
著者
木島 章文 樋口 貴広 島 弘幸 奥村 基生 鈴木 聡
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

小学校2, 4, 6年生を対象とした実験を完了し,以下の結果を得た(現状も分析を続行している).1) 三者跳躍課題の遂行に伴うミスの回数を学年間で比較した結果,第2学年以上になるとミスの回数が多くなる傾向が見られた.2年生においては一方向のみあるいは定型的に跳躍方向を切り替える組(例えば,左右1回ずつ交互に,あるいは2回ずつ交互になど)が7割がたを占め,第4学年以上になると不規則に跳躍方向を切り返す組が7割がたを占めていた.また第6学年では成人と同じく,反時計回り方向へ跳躍するケースが顕著に多くなった(平均で成功回数の7割).2)先導跳躍者に対する他二者の遅れに関して学年間に有意差はなかったが,全ての学年における遅れ時間が,成人より有意に大きかった.また先導・追従性に差がない等質群においては,成人と同じく,正方形条件における遅れが正三角形条件における遅れより大きい傾向があった.また先導性に差がある異質群においては,成人とは逆に,正方形条件において先導児童が早期に跳躍することを示す二者先導(一者追従)型の協応パタンを示す傾向が強かった.3)等質群では,三者の配置が対称な正三角形条件において三者それぞれが他を先導する確率が等しく(約33%),正方形条件では跳躍方向に空き地を持つ一者が先導する確率が抜きん出て高く,他の二者が先導することはほとんどなかった.これら協応パタンは成人のパタンと同じ性質であり,それぞれの地形における跳躍者の配置の対称性から群論に基づいて予測したパタンと一致する.一方で異質群においては先導児童が場の制約に反して先導する傾向が高かった.そこで現れるパタンの時空間対称性は地形から予測される対称性より低い.現在,跳躍者の個性が地形の幾何学対称性から予測される協応パタンの対称性が,そこに配置される跳躍者の個性によって崩れることを説明する数理モデルを検討している.
著者
中村 將 北野 健 野津 了 加賀谷 玲夢
出版者
一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

高水温飼育により不妊化したナイルティラピアの性行動を調べた。30日齢の幼魚を高水温飼育(37℃,50日間)した後25カ月齢まで飼育し供試魚とした。高水温飼育オス3尾と正常なメス5尾を一群として大型水槽に入れ、5日にわたって性行動を観察した。その結果、同じ実験を8回行なったうち6回で繁殖行動が観察された。正常オスを用いた対照実験においても同様な結果が得られた。実験に用いた高水温飼育した全てのオスの精巣は透明色で、組織学的な観察においても精子は認められなかった。以上のことから、高水温飼育オスは、処理後少なくとも25カ月にわたって不妊化が維持され、メスに対して正常な性行動を行なうことが明らかとなった。高水温飼育により不妊化したモザンビークティラピアのメスの長期飼育による生殖特性について調べた。ふ化後10日の幼魚を高水温飼育(37℃、56日間)した後約21カ月齢まで成長させた。高水温飼育メスは婚姻色を示さず、泌尿生殖突起も未発達で外見的に明らかに正常成熟メスと異なっていた。卵巣は著しく小さく糸状で卵は確認出来なかった。組織観察でも生殖細胞は全くみとめられなかったが、卵巣の特徴である卵巣腔が認められた。ステロイド代謝酵素の抗体による免疫染色では強い陽性反応を示す少数の細胞が確認された。血中の性ホルモンも正常成熟メスと比べても著しく低かった。このことから、不妊化メスはオスと異なり長期に渡り性的成熟が起こらないことが明らかとなった。メダカの生殖細胞増殖におけるHSPの役割を明らかにするため、hsp70.1過剰発現メダカ系統を作製して生殖細胞の増殖状況を調べた。その結果、孵化時期におけるこの系統の生殖細胞数は、野生型個体と比較して、雌雄ともに有意差は認められなかった。
著者
大場 真 戸川 卓哉 藤井 実 安田 肇 中村 省吾 村上 高広
出版者
国立研究開発法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本課題にて設定した以下サブテーマ(1)-(5)について、以下のような研究を実施した。(1)福島県三島町との連携研究を推進し、三島町内の住宅における地域ICTシステムの導入数を10件追加して17件とし、家庭における時間別のエネルギー消費量や太陽光パネルによる発電量等に関する基礎的データを取得した。(2)統合木質バイオマス利用モデルBaIMにおける、木質バイオマスコストにかかるパラメーターの検討を行った。(5)と関連して素材収集範囲や林業機械に対する習熟度などの新しい変数に関する検討を行った。(3)研究分担者らがこれまで開発してきたバイオマスガス化実験施設を拡張し、ガス化に供する原料の水分調整を実施した場合や未利用材の利用がガス化反応挙動に与える影響を明らかにする研究を継続した。(4)これまで開発した地域特性に応じた分散型エネルギーシステム設計プロセスのモデルのフレームワークによって、中山間地域での評価が可能な木質バイオマス資源に関連するシステムの拡張に引き続き着手した。地域ICTシステムで得られたデータも活用し、町内18集落におけるエネルギーの利用状況や望ましい地域エネルギーシステムに関する分析をとりまとめた「集落カルテ」のプロトタイプを検討した。(5)地域の木質バイオマス資源の利用促進が地域の産業連関構造に与える影響を定量的に計測するため、関連する統計資料を収集した。また、町が実施した山形県内を対象とした視察に同行し、木の駅や森林組合等の先進的な事例の現地調査を行った。森林組合には事後調査も実施し、三島町の森林を利活用した地域循環システムの構築に向けた基礎情報を収集した。三島町の産業連関表の精度を高めるとともに、奥会津地域における広域的な木質バイオマス資源の利用促進が地域循環・経済圏へ与える波及効果の検討を行った。
著者
金澤 伸雄
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

稀少遺伝性自己炎症疾患の解析によって遺伝子変異に基づく炎症制御シグナル異常を同定し、難治性慢性炎症疾患における異常シグナルの関与を検知し病態解明やテーラーメード治療につなげることを目指し、PSMB8変異が同定された中條-西村症候群、新規IL36RN変異が同定された汎発性膿疱性乾癬、新規LIG4変異が同定された遅発型原発性免疫不全症などについて細胞機能異常の検索を行い、さらに新規遺伝性自己炎症疾患が疑われる症例についてエキソーム解析を行い予想されるシグナル異常の確認を進めた。当初の目標達成には至っていないが、遺伝性炎症疾患における炎症制御シグナル異常の解明が進み、今後の更なる展開が期待できる。
著者
勝田 忠広
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では国内の原子力規制の課題と解決策を求めた。原子力規制委員会が行う六ヶ所再処理工場への安全審査の分析の結果、運転経験のない事業者と再処理施設の規制経験のない規制者が及ぼす具体的な危険性を示した。続いてNRAによる原子力発電への安全審査を分析した結果、米国のように厳格な安全目標と費用便益分析が必要であることを明らかにし、さらにエネルギー・原子力政策を扱う専門的で独立した立場の第三者機関の必要性を示した。最後にNRAによる新検査制度の分析を行った。その結果、事業者だけでなく国民に対しての実行可能性、行動規範及び説明責任の重要性を指摘した。
著者
庄司 洋子 菅沼 隆 河野 哲也 河東田 博 野呂 芳明 湯澤 直美 田中 聡一郎 百瀬 優 深田 耕一郎 酒本 知美
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

「自立とソーシャルワークの学際的研究」と題し、自立についての規範的意味とソーシャルワークという実践との関連を包括的に検討した。その中で、社会福祉の領域で、中心的な議論であった経済的自立だけではなく、様々なフィールドで展開されている社会的な自立とソーシャルワークの重要性について明らかにした。
著者
小助川 元太
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の主たる目的は、中世後期における政治や文化を支えた知の問題を、百科全書的なテキスト群の生成と享受という視点から解明することである。『アイ嚢鈔』『後素集』『源平盛衰記』を中心に、『塵荊鈔』『筆結物語』『帝鑑図説』『八幡愚童訓』なども研究対象に加え研究を進めた。その結果、多くが持つ問答形式は、応仁の乱前後から安土桃山時代にかけての学問のスタイルを反映したものである可能性が高いこと、禅林での最先端の学問が、それらに平易な形で入り込んでくる傾向にあること、そして、百科事典的傾向を持つ作品の多くが、武家の子弟を対象として書かれた可能性があることなどがわかってきた。
著者
中村 亮介 岡本 美孝 秋山 晴代 岡本 好海
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アレルゲン舌下免疫療法(SLIT)は、スギ花粉症等のアレルギー疾患の根治が期待できる非常に有望な治療法であるが、治療が長期に渡る一方、必ずしも全例が奏効するとは限らないことが問題となっている。そこで本研究では、SLITのメカニズムの解明に取り組むとともに、患者血清中からSLITによる治療の奏効性を早期に予測するバイオマーカーを探索することを目的としている。申請者は近年、培養細胞を用いる独自のアレルギー試験法「EXiLE法」を開発した。この手法は、特異的アレルゲンに対する血清中IgEの架橋活性だけでなく、血清中の中和活性を評価することも可能である。そこで今年度では、2シーズン以上に渡ってスギ花粉症のSLITを実施した患者38名における、血清中特異的IgE抗体価、血清中IgEによるEXiLE応答性および中和活性を経時的に評価し、患者の治療スコア(TNSMS)と比較することで、SLITの奏効性と相関するバイオマーカーを探索した。その結果、SLIT実施患者の血清中中和活性は治療開始2シーズン後に顕著に増加した。TNSMSの差(ΔTNSMS)をSLITの奏効性と定義すると、治療開始前のEXiLE応答性及びスギ花粉特異的IgE抗体価で患者群を層別化したときに、奏効性はカットオフの上下群間で有意に異なることが分かった。カットオフはそれぞれ2.0倍と10 UA/mLで、P値はそれぞれ0.00048と0.0021であった。この結果は、SLIT開始時の特異的IgE抗体価およびその架橋能はSLIT奏効性を予測するよいバイオマーカー候補であることを示唆している。症状発現へのIgEの寄与率が低い症例ほどSLITが効きにくい、というメカニズムが想定される。
著者
北 圭介 中田 研 前 達雄 樋口 周久 中村 憲正 名井 陽 吉川 秀樹
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

関節構成成分である半月の治療において、近年、人工材料や、生体由来材料の有用性が報告がされてきたが、免疫拒絶反応、感染制御等、克服すべき問題が存在する。これらの問題の最も効率的な解決策は、自己由来の材料を用いることである。フィブリンクロットは、静脈血より簡単に作成される網状構造をもつ構造体であり、自己由来であるため安全性が高い材料である。本研究では、このフィブリンクロットを用いた半月再生治療技術について検討した。
著者
蕪城 俊克 澤村 裕正 馬淵 昭彦 田中 理恵 徳永 勝士 寺尾 安生 花島 律子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

眼瞼痙攣患者584人からDNAサンプルを収集した。臨床データの解析が終了した331症例(男性:95例、女性:236例、63.0±12.9歳)の臨床病型の内訳は、本態性眼瞼痙攣238例、薬剤性眼瞼痙攣90例、症候性3例であった。そのうちの191サンプルを用いて、正常人コントロール419例を対象としてDNAマイクロアレイ(Axiom Genome-Wide ASI 1 Array Plate)によるゲノムワイド関連解析を施行した。眼瞼痙攣患者と正常人の間のアレル頻度の比較で、差が大きかった(P<10^-6)疾患感受性の候補領域が数十箇所絞り込まれた。残ったサンプルについても解析を継続する。
著者
宮田 久嗣 室田 尚哉 吉田 拓真 太田 純平
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、覚醒剤などの薬物と、ギャンブルなどの行動(薬物によらない)のアディクション(依存)が、疾病として同じものであるのかを、病態学的、神経学的、治療薬の観点から検討する。まず、アディクションの中核症状である欲求が、①一次性強化効果、②離脱症状の不快感、③環境刺激の二次性強化効果獲得の三要素から考えた場合、②の離脱症状、③の環境刺激の二次性強化獲得、さらには、欲求にともなう衝動性では、病態、神経学的機序、治療薬の観点で共通点がみられた。しかし、欲求の基本要素である一次性強化効果では、薬物に比較して行動では、それ自体独立して検出しにくく、生体側の影響を受けやすい点で違いがみられた。
著者
若林 久嗣
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

滑走細菌群のFlexibacter columnarisは、種々の淡水魚類の皮膚、鰭、鰓などの体表面に感染病巣を形成し、病害をもたらす。本研究では、環境水中あるいは魚体表面に存在する他種の細菌との水中あるいは体表での競合関係について検討した。1. F.columnarisの生存性のすぐれた「調合水」は、蒸留水にNaCl、KCl、CaCl_2・2H_2O、MgCl_2・6H_2Oをそれぞれ、0.03%、0.01%、0.002%、0.004%溶かしたものであった。2. 調合水にF.columnarisを約10^6CFU/mlとA.hydrophilaまたはC.freundiiを約10^6、10^7、10^8CFU/ml加え、この中にドジョウを入れて一定時間毎に実験魚の一部をとりあげ、体表粘液をサンプリングし、間接蛍光抗体法でF.columnarisの菌数を、またDAPIで総菌数を測定した。競合菌濃度が10^8CFU/ml、すなわちF.columnarisの100倍存在する場合には、F.columnaris菌数が増加せず発病しなかった。3.競合菌を混入する時期と感染妨害との関係について検討した。C.freundiiをF.columnarisと同時に加えた区と30分後に加えた区では発病も斃死も見られなかったが、1時間以後に加えた区では、発病・斃死が認められた。また、C.freundiiをF.columnarisと同時に加えた区と30分後に加えた区における体表粘液中のF.columnaris菌数は、前者で8時間後まで若干増加したほかは増加せず、やがて減少して行った。一方、1時間以後に加えた区での体表粘液中の菌数は、24時間後まではC.freundiiも増加したもののF.columnarisの増加に及ばず、48時間後にはF.columnarisがさらに増加したのに対し、C.freundiiは減少した。これらのことから、競合菌C.freundiiによるF.columnaris感染妨害は、ドジョウ体表面への付着時ないしは付着直後の増殖開始時に起こることが推察された。
著者
藤本 忠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

カントの『純粋理性批判』における「超越論的論理学」を批判の論理学として把握するとともに、カント以前の論理思想、及び、18世紀のドイツ学校哲学の論理学、学校哲学の形而上学を射程に入れつつ、文献学的な解明を行なってきた。本年度は、ライプニッツ、マイヤー、ヘーゲルといったカントと関係のあるドイツ近世思想全般へ研究を広げ、また、現代の意味論や論理学、科学論との関係を探ることを研究の目的とした。ライプニッツはカント哲学に通じる論理学の内包的視点を構築しており、認識論的な概念枠組みを多く用意したことが理解できた。但し、ライプニッツにおいては、概念の結合法的要素が多分に含まれており、概念の外延的視点も無視できない。また、カントと比べて、統覚や意識といったタームが、より広い存在論的脈絡の中で使われており、カントとの単純な比較ができない場合もある。マイヤーは、カントの論理思想に直接影響を与えており、カントは、マイヤーが用意した体系論に従って、とりわけ『理性論綱要』に従って、『純粋理性批判』を作り上げていったことが、研究の成果として明確に理解できる。特に、カントが『純粋理性批判』の中で論じた「分析論」と「弁証論」との区別が、すでにマイヤーの『理性論綱要』の中に見られる。ヘーゲルの論理思想はカントやライプニッツなど、ドイツ近世の論理思想における論理と概念の内包思想を極限まで推し進めた論理思想であると推察できる。したがって、ヘーゲルの論理学を正しく評価するには、ライプニッツのモナドにおける意識や表象の階層理論やカントのカテゴリー論における意味論的な理解が必要不可欠である。以上、カントを中心とした近世ドイツの論理思想(ライプニッツ〜ヘーゲルの論理思想)にながれる思想的軸を考察し得た。
著者
清水 靖久
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

戦後日本を代表する政治学者・思想史家の丸山真男(1914~1996年)の政治思想の全体像を解明するために、その厖大な著作をデジタル化してコンピューターで網羅的に分析することを本研究は試みた。日本社会の民主化を第一の目標とした戦争直後、市民による多様な結社形成を説いた1960 年前後、自由な人格形成を阻む日本思想の古層を専ら研究した1970 年代以後を通じて、丸山がリベラルであろうとしたことの意味を明らかにした。