著者
丸山 敦 入口 敦志 神松 幸弘
出版者
龍谷大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

ユネスコ無形文化遺産「和食」の起源である江戸から明治初期における日本人の食生活を、書籍に漉き込まれた毛髪の安定同位体分析によって詳らかにする。申請者らが発表したばかりの新規的アプローチを洗練し、地方の出版物に対象を拡張することでより多くの地域の比較を、書籍の選定や素材の化学分析によってより細かな時間スケールで、当時の食物の同位体比を把握することでより定量的に行うことに挑戦する。
著者
丸山 博
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

国際環境法や国際人権法の先住民族文化に関する条項を検討し、北欧のサーミ政策と日本のアイヌ政策との比較研究を行うことによって、「二風谷地域の伝統文化の再生と地域環境の保全にはアイヌ民族のエンパワーメントが不可欠であること」を原理的に明らかにした。具体的にいえば、生物多様性条約8条j項は、先住民族の伝統的知識(TEK)が生物多様性の持続性に寄与することから、その保護を求めるものであるが、日本の生物多様性基本法にはそれに対応する条項がなく、アイヌ・コミュニティの生物多様性の保全が危ぶまれていることを明らかにし、国際人権規約など国際人権法に照らして日本政府は直ちに対応すべきだとした。
著者
本間 清一 頼澤 彩 村田 容常
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

コーヒーの試料として大量に入手でき、保存ができるインスタントコーヒーを選び、コーヒー亜鉛複合体を以下のとおり調製した。pH4.0,10mMのヘキサミン緩衝液(10mM KClを含む)にコーヒーを溶かし、終末濃度20mMになるようZnCl_2を加え、生じた沈殿を集めた。沈殿の1%アンモニア可溶性画分を(Sample AP)した。ApをAmerlite410とAmberlite IR120にかけ、水と1%アンモニアで溶出し、Zn含量の高い画分を塩酸で酸性にして生じた沈殿を遠心分離した。この沈殿物質をセルロースカラムにかけイソプロパノール-1%アンモニア水の系で展開し、混合比3:2で溶出される画分が最もZn-キレート能力の高い(-log kd=8.6×10^<-9>)画分(Ap-V)であった。の分子サイズは48kDで構成成分は30.4%のフェノール、糖とアミノ酸がそれぞれ3%と4%、ケルダール法による窒素含量が10%を越えた。リンが殆ど検出されなかったのでZn-キレート性成分の形成にメイラード反応とフェノール化合物の酸化分解や重合の関与を推定した。高分子のAp-V画分の構成成分を推定するために、アルカリ溶融分解を行い中性と酸性画分に主要な分解物が回収されてくることを確かめた。3D-HPLCとLC-MSによる解析の可能性を見いだした。キレート成分の生成する要因を調べるためコーヒー生豆の熱水抽出液乾燥粉からインスタントコーヒーと同様にキレート成分を精製した。Ap-V全量中の亜鉛含量は生豆よりインスタントコーヒーの方が多かったが、1g当りの亜鉛含量は生豆の方が多く、生豆は多くのZnをキレートすることが示唆された。インスタントコーヒーのAp-Vは、470nm吸光度が高い値を示し、生成に焙煎が関与している可能性が高い。生豆のAp-Vでは280nmの吸収も確認され、また生豆試料をトリプシン処理したもののキレート能を比べるとAp-V全量中の亜鉛含量が極端に減少したことから、生豆の亜鉛キレート性成分は約13,000Dと約10,300Dのタンパク質である可能性が示唆された。コーヒーを飲む時、乳脂肪やタンパク質の多いクリームを加えて飲むことが多い習慣をふまえ、熱いコーヒーにミルクを添加したサンプルからAp画分を調製したところ、コーヒーのみから調製したAp画分より亜鉛含量が低かった。そのため、乳成分はコーヒー成分と複合体をつくることにより、コーヒーのキレート作用を抑制することがあると考えられる。
著者
降籏 大介 松尾 宇泰
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

離散関数解析,変分理論の構成についてわれわれは研究を行い、微積分作用素間関係の離散的対応と差分作用素のなす空間における差分変換行列の概念を提唱、数学的評価を行うとともに、これらの結果を用いて一定の微積分不等式の離散版を統一的に証明するとともに、それらを成立させる数学的条件などについて研究を進めた.証明技法に関する議論により数学的制約の理解を深め、本議論がより広い関数空間で成り立つ強い示唆を得た.また、変分理論で用いる主要な概念の離散定義を拡張する研究も推進した.これにより、グリーン定理などの基本関係式の離散版に基づき離散変分理論概念を拡張し、差分法のさらなる数学的基盤を定義した
著者
松原 和純
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度までの研究成果として、FISH法によって29の遺伝子がZ染色体にマッピングされ、そのうち5つがW染色体にもマッピングされている。そして、W染色体にもマッピングされた5つの遺伝子のうちCTNNB1とWACについて10科のヘビ種においてZとWホモログの塩基配列を解読し、分子系統樹を作製した。今年度は、SEPT7について同様に系統解析を行った。その系統樹の分岐パターンから、SEPT7のZとWホモログ間の分化はヘビ亜目の系統分化の初期に起きたと推定された。3つの遺伝子の分岐パターンを比較した結果、ヘビにおけるZとW染色体間の分化は動原体領域から始まったと推定された。また、ヘビの進化過程において比較的短時間で性染色体間の分化領域が拡大したと推定された。哺乳類や鳥類では性染色体の分化は染色体の末端から始まり、段階的に分化領域が拡大したと推定されている。ヘビにおける分化過程はそれらと異なり、性染色体の進化について新たな知見をもたらすと思われる。現在、この成果について論文を執筆中である。シマヘビの産卵後0日と4日の胚から生殖腺を摘出し、cDNAライブラリーを作製した。DMRT1、SOX、CYP19A、FOXL2などの性分化関連遺伝子の発現量をRT-PCRによって雌雄間で比較した結果、生殖腺の性分化は産卵後0日から4日の間に始まることが推定された。そこで、次世代シーケンサーを用いて産卵後4日杯の生殖腺におけるトランスクリプトーム解析を行い、発現遺伝子の種類やその発現量を雌雄間で比較した。ZとW染色体の両方に位置する遺伝子の一つであるCTNNB1が性分化初期の雌の生殖腺で強く発現していた。マウスにおいてこの遺伝子は未分化生殖腺が卵巣へ分化する際に必須であることが実験的に証明されている。これらのことから、現時点において、CTNNB1がヘビにおける性決定遺伝子の最有力候補と考えられた。
著者
重松 峻夫 金 勇一 金 丁竜 安 允玉 神代 正道 日山 與彦 AHN Yoon-Ok KIM Chung Yong MASAMICHI Kojiro KIM Yong Il
出版者
福岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

在日韓国人の肝がん死亡率は日本人に比べ男で約3倍、女で約2倍ほど高率である。在日韓国人における肝がん死亡率の高まりの原因を明らかにすることは肝がん発生要因の解明につながるものであり、日本人、在日韓国人及び韓国の韓国人の肝がんについて、疫学的ならびに病理学的見地より3集団間の比較研究を実施し次のような成果を得た。1.記述疫学的比較研究。1)韓国の肝がんり患率の推定。韓国の死亡診断書の約65%は医師以外の者が交付しており、死亡統計にもとづくがん死亡の解析は韓国では不可能である。韓国の肝がん発生状況を明らかにするため、政府職員・教員を対象とした医療保険制度の資料を活用した。この保険の加入者は全人口の10%におよび、性別年齢別人口も全国人口のそれと大差ない。肝がんの診断確認のために、全国各地の医療施設での検査デ-タの収集も実施した。1986年7月ー1987年6月の期間の35ー64歳に限った年齢訂正肝がんり患率(年10万人対)は男で74.8、女で15.6と推定された。1984年の日本の肝がん推定り患率に比べて男で1.6倍、女1.7倍高率であった。2)在日韓国人の肝がん死亡率とB型肝炎ウイルスに関する研究。文献調査の結果、在日韓国人の血清HBsーAg陽性率は男で約10%、女で約5%と推定され、韓国における陽性率と大差ないと考えられた。大阪府在日韓国人の肝がん死亡率をHBsーAg陽性肝がんと陰性の肝がんに分けて、日本人との比較を行ったところ、在日韓国人の肝がん死亡率はHBsーAg陽性及び陰性肝がんの両者で同様に高まっていると推論された。3)記述疫学研究のまとめ。在日韓国人の肝がんリスクの高まりは、一部本国における高いり患率を反映しているものと考えられる。しかし、在日韓国人男性では、本国よりさらに高い肝がんのリスクを有していると考えられる。さらにこの高まりは本集団におけるB型肝炎ウイルスの高い感染率では十分に説明されるものでない。福岡県の在日韓国人を対象として、飲酒、喫煙、輸血歴など肝がんの危険因子と考えられる生活習慣要因の状況を現在調査中である。2.肝がんの症例対照研究。日本人、在日韓国人及び韓国韓国人の3集団で、肝細胞がんの発生要因の関与度合いを比較検討するため病院内症例対照研究を実施した。B型肝炎ウイルス及び飲酒は、3つの研究で一致して、肝細胞がんの発生と関連していることが認められたが、関与の度合い(人口寄与危険)は3集団間で著しく違っていた。日本人及び在日韓国人の肝細胞がんの20%前後はB型肝炎ウイルス感染によるものと推定されたが、韓国の肝細胞がんでは約70%と推定された。一方、過度の飲酒は日本人、在日韓国人の肝細胞がんのそれぞれ約30%と40%を説明すると考えられたが、韓国の場合、10%程度であった。日本人の研究では喫煙との関連を示唆する結果が得られたが、量・反応関係は認められず今後の検討課題として残される。日本人、韓国内韓国人の研究では他の要因についても調査したが、両研究で輸血歴との強い関連を認め、また韓国人の研究で肝疫患の既往歴との関連が観察された。現在問題になっているC型肝炎ウイルスが3集団の肝細胞がんにどの程度関与しているかは非常に興味あるところであり、今後検討する予定である。3.肝がんの病理学的比較検討。日本人、在日韓国人及び在韓韓国人の肝細胞がんの病理組織標本にもとづく比較検討を行ったが、3集団間で肉眼的ならびに組織学的に特異な差を認めなかった。3者とも結節型肝がんが主体を占め、肝硬変合併率も50〜60%と大差なかった。また合併肝硬変も乙型が大多数であった。しかしHBs-Ag陽性率は日韓で大きな違いが認められた。日本人、在日韓国人では20%前後の陽性率であったが、韓国の症例では75%がHBs-Ag陽性例であった。
著者
山本 正雅 兼田 瑞穂 前田 美穂
出版者
奥羽大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

フュージョンパートナー細胞SPYMEGを用いてヒトのモノクローナル抗体が作製できるか否かを検討した。健常人の末梢血よりリンパ球を得てSPYMEGとPEG法を用いて融合させ、HAT存在下にてハイブリドーマ細胞を培養した。融合細胞を768ウエルに播種したところ、コロニー形成率は平均28%(2回の融合)であった。IgG産生能をサンドイッチELISAにて測定した結果、コロニーが形成されたウエル中27%で陽性であった。これは既報のパートナー細胞Karpasを用いた成績に極めて近い値であった。ヒトのIgGを産生している細胞を限界希釈し単クローンにし、IgGを精製したところ、H-鎖、L-鎖ともに発現しており、完全なIgGが合成されていることが分った。抗体産生能はハイブリドーマに依存するがよく産生するクローンで2〜10μg/ml程度であった。ハイブリドーマはセルバンカーを用いて1ヶ月凍結保存し、その後再び培養を再開しても抗体産生能は凍結前に比べ変化はなかった。この結果から、かなり安定したヒトのモノクローナル抗体が作製できることが明らかになった。そこで、ヒトの特異的モノクローナル抗体を作製するために、ヒトに投与できる抗原としてインフルエンザワクチンを用いた。インフルエンザワクチン投与した場合、投与後1ヶ月以内に末梢血リンパ球を得てSPYMEGと融合させ、HAT存在下にてハイブリドーマ細胞を培養した。またインフルエンザに自然感染した健常人についても検討した。融合細胞を384ウエルに播種し、インフルエンザワクチン抗原AとBの混合液ををELISAプレートにコートし、スクリーニングを行なった。その結果、自然感染の健常人からのリンパ球を用いたときインフルエンザ抗原に陽性に反応するモノクローナル抗体が14クローンが陽性であり、最終的に2クローンが得られた。インフルエンザワクチンを投与したとき、121クローンが陽性であった。このうち最終的に12クローンが得られた。同手法を用いて、血小板のGPIIb/IIIa複合体に対する抗体を産生している自己免疫疾患患者から抗体の作製を行なった。その結果、2クローンが健常人の血小板に反応しIIb/IIIaを免疫沈降してくることがわかった。これらの結果から、SPYMEGはヒトのモノクローナル抗体の作製が可能でり、臨床と基礎医学研究に役立つと考えられた。
著者
高橋 寛人
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

教刷委で教員養成をめぐってアカデミシャンとエデュケーショニストの論争が展開されたことが知られている。しかし、本研究によって、教刷委での議論の前に、CIEの指示に基づいて、東京第一師範学校での新カリキュラムの開発と師範学校用の新教科書の編纂が精力的に進められていたことが明らかになった。すなわち、CIEと文部省は、教員養成を目的とする学校の存続を前提として改革に着手しており、そこでは当初から教職教育を重視していた。
著者
伊藤 順一郎 福井 里江 坂田 増弘 山口 創生 種田 綾乃 相川 章子 伊佐 猛 市川 亮 伊藤 明美 大島 真弓 岡本 和子 黒木 紀子 坂本 麻依 佐竹 直子 佐藤 由美子 澤田 優美子 関根 理絵 富沢 明美 友保 快児 二宮 史織 久永 文恵 藤田 英親 松長 麻美 松谷 光太郎 村木 美香
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、共同意志決定 (SDM)を促進するツール(SHARE)を用いた包括的なSDMシステムの構築とその効果検証であった。SHAREは利用者のリカバリーゴール(希望する生活の実現に向けた目標)や自身の精神的健康にとって大切なこと、自身の状態を適切に医師に伝えることに焦点を当てたPCソフトウェアである。利用者は診察前にピアスタッフのサポートを受けながら自身の情報をSHAREに入力した。医師はSHAREの情報をもとに診察を進め、診察の最後にSDMを実施する。このSDMシステムは、臨床的なアウトカムに影響を及ぼすことはなかったが、患者と医師のコミュニケーションや関係性の向上に効果を示した。
著者
吉田 成仁
出版者
帝京平成大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

前十字靭帯(ACL)損傷の予防方法を開発することを目的として、筋活動とACL損傷リスクとの関連性を検討した。接地直前50msにおいてつま先接地(FFS)は踵接地(RFS)に比べて腓腹筋(GL)、半腱様筋(ST)、大腿二頭筋(BF)の筋活動量が有意に大きかった。また、接地直後50msではFFSはRFSに比べてBFとGLの筋活動量が大きく、前脛骨筋の活動量が小さかった。このことからFFSによる動作では、接地前後のハムストリングスの筋活動が高く働くことが示唆され、FFSによるカッティング動作はRFSによるカッティング動作に比べ、ACL損傷リスクの低いカッティング動作であることが明らかとなった。
著者
菱田 慶文 中嶋 哲也 細谷 洋子
出版者
四日市看護医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度の調査は、8月にタイで行われたアマチュアムエタイの世界ユース大会と12月末ブラジルのリオデジャネイロにある4つのブラジリアン柔術の道場に調査に行くことができた。タイ国のアマチュアムエタイ世界大会では、ブラジルチームにインタビューした結果、選手は、自ら渡航費を捻出するほどの金銭を所持しておらず、チームは、寄付金や企業にスポンサーとなってもらい世界大会に参加している状況であることが分かった。大会事務局発行のアマチュアムエタイの機関誌において、リオデジャネイロやサンゴンサロなどの都市では、ムエタイの普及が、教会や公民館などを借り,ボランティアて行われていることが分かった。ファベイラ(スラム街)では、特に、犯罪組織や麻薬の密売者に関わらせないためにも活動が重要であると記されている。ムエタイのボランティア指導は、週に2、3回行われており、参加者の中には、いじめ被害者や不登校児の報告もあった。12月に行ったブラジル、リオデジャネイロでの調査は、観光客でにぎわうコパカーナビーチにあるブラジリアン柔術道場やカンタガーロのファベイラにある柔術場の調査に成功した。コパカーナビーチの柔術道場は、ミドルクラス以上の白人が多く、フィットネスでもブラジリアン柔術は、行われていた。これらの道場の教育観は、少年少女に礼儀作法や身体訓練など健全育成のために、ブラジリアン柔術を教えるという理念のもと行われている。一方、ファベイラのジムでは、健全育成の側面に加えて、前述のムエタイと同様に、犯罪組織や麻薬の密売から遠ざけたい、という目的が第一であり、柔術をやっていれば、将来にファベイラ以外での生活ができるように、目標を持たせたい、等という、教育観を垣間見ることができた。これらの道場もボランティアでムエタイやブラジリアン柔術を教える人々の教育観や格闘技観を知ることができた。
著者
小島 望
出版者
川口短期大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は,森・川・海と人と暮らしのかかわりのなかで,地域で長く受け継がれてきた「伝統 知」の掘り起しを行ない,同時に,自然環境が開発等人為的影響によってどのように変化してきたかについて,①現地での聞き取りやアンケート調査,②文献検索によって明らかにすることが目的である.調査地はおもに,熊本県人吉市(球磨川流域),徳島県那賀町の2ヵ所を中心とするが, 隣接する周辺地域や,特徴的な伝統的農林水産業を営んでいる場所についてはこの2ヵ所に限らず調査を行なっている.①現場での聞き取りから,例えば球磨川流域では,かつての人々の暮らしが詳細にみえてきた.かつてこの地には「水害」という言 葉はなく,台風や集中豪雨の際には,川と上手くつき合ってきた歴史や知恵が集積されている.数々の「伝統知」を集めることができた.しかし,科学的な災害対策,特に河川工学的治水対策が中心となった特に戦後以降は,それら「伝統知」は通用しなくなり,姿を 消していった.球磨川に幾つものダムができて以来,同時に,地域住民と川との関係が変化していったのは当然であろう.このような 背景があったからこそ,川辺川ダム計画は中止されたといえる.那賀町(旧木頭村)においては,山や川と深く関りをもった伝統的な暮らしを探ることによって,戦後の経済成長政策が中山間地を犠牲に成り立っていたかを考察するための材料を得ることができた.また,拡大造林や下流域のダムの影響など近代化によって「伝統知」が失われつつあったが,ダム建設反対運動を通して,かつての人と自然のつき合い方が問われたという事実が見い出すことができた.②収集した様々な資料によって,日本各地での伝統的な川や山と人の暮らしの比較検証を行なうことで,今後の農林水産業のあり方 や,ダムを中心とする河川構築物が水産業へいかに大打撃を与えたのかについての様々な情報を得ることができた.
著者
奥谷 文徳
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本提案では、折紙工学を用いて今までの材料では不可能な「動き」を可能とする。上述したように折紙の技術は工学の分野に応用されてきたが、折紙構造の静的な状態、つまり展開状態と折られた状態の2つの状態のそれぞれの活用に留まっている。折紙はそれらの状態以外に、折り畳まれつつある状態を持つ。この折り畳まれつつある状態こそ、弾性変形や局所的な幾何学的な制約を利用した折紙の真髄である。折り紙構造の動きを最大限に活用した円筒形状ロボットを実現し、「動き」を活用した折紙構造の実用化により、紙から折るだけで作れる構造により「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」製造できる技術を実現する。
著者
佐川 享平
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

【研究目的】本研究は、日本炭鉱労働史の民衆史的検討を目的とする。より具体的には、記録作家である上野英信が残した「筑豊文庫資料」の調査・整理・分析を通じて、戦前から戦後に至る時期の炭鉱(労働)史を、民衆史的・社会史的視座から把握すべく構想されたものである。【研究実施計画】本研究では、(1)直方市が所蔵する「筑豊文庫資料」の調査・整理作業、ならびに、(1)の成果に基づく、(2)日本炭鉱労働史の民衆史的視座からの再構成、(3)資料論的アプローチに基づく上野英信の再評価、という3つの課題を設定し、課題(1)・(2)を〈基幹的研究〉として、課題(3)を〈発展的研究〉に位置づけている。本年度はこのうち、〈基幹的研究〉の課題(1)を継続的に実施した。【研究成果】本年度は、直方市と継続的に協議する場を設け、「筑豊文庫資料」の整理方法や方針について検討を行い、作業の手順や方針についての覚書を取り交わすとともに、資料整理の準備作業を進めた。また、課題(1)の一環として、「筑豊文庫資料」に含まれる音声テープ資料(主として炭鉱関係者に対するインタビュー)について、オープンリールから媒体変換された音声データの提供を受け、その一部の文字起こしを行い、資料の内容把握を行った。加えて、上野英信と「筑豊文庫資料」の関係者・関係機関への調査も行い、「筑豊文庫資料」の性格や来歴の確認に努めたが、これは次年度以降に取り組む課題(2)・(3)の前提ともなる作業である。
著者
田島 木綿子 和田 敏裕
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2008年から2016年にかけて科博が収集した約1600個体のうち、約150個体を本研究用解析として選別し福島大学にて、当該筋肉サンプルの放射性セシウムと骨内放射性ストロンチウムSr90の蓄積量解析をゲルマニウム半導体検出器を用いて実施した。その場合、コントロールとして九州地区の漂着鯨類を用いた。その結果、風評被害もあるので詳細はまだ控えるが、原発事故直後に茨城県および千葉県で発見された数個体の漂着個体(鯨種も数種)の筋肉から高濃度のセシウムCr-134とCr-137が検出された。この成果は慎重に扱いつつ、解析サンプルを増やし、成果の信憑性を検証する。やはり九州地区の個体からは基準値以下の結果しか得られていない。さらに、実質的な病理学的変化はこれらの個体からはまだ得られていないが、脳を含めた各臓器の所見を引き続き比較・検討する。高濃度セシウムCr-134とCr-137が検出された鯨種の食性結果も別課題で共同研究している北海道大学から得られたため、生物濃縮を検証するための基盤ができた。また、福島原発近くにあたる、茨城県、千葉県、宮城県において、新たな漂着個体を約20件調査することができた。その中には、沿岸性個体と外洋性個体が含まれており、さらには浅瀬で棲息する個体と深海で棲息する個体もいる。海洋の場合は横の広がりだけでなく、縦の広がり(深いー浅い)もこうしたことを考えていく上で重要となる上、継時的変化をみるためには、本年度調査した標本も本研究に追加していく予定とする。さらに、アジア保全医学会(ボルネオ、マレーシア)、日本セトロジー研究会(函館、北海道)、日本野生動物医学会(武蔵野市、東京)、つくみイルカ島シンポジウム(津久見市、大分県)の学会・シンポジウムに参加し、本研究への共同研究の可能性ならびにサンプル提供の依頼を精力的に行った。
著者
新妻 実保子
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ロボットの愛着行動モデルの堅牢性に課題があり,長時間安定してロボットを動作させることが困難であることが実験の準備を通じて明らかになった。また,「なつき度」としてモデル化している人とロボットの関係性を,人とロボットのインタラクションの履歴から更新する処理が適切に計算されていないことがわかった。そのため,今年度は,長時間の実験実施に向けた愛着行動モデルの改良を行った。その結果,長時間安定して動作できることを確認し,愛着行動の有無によるロボットとのコミュニケーション実験を通じて,新しく改良した行動モデルによって,適切に愛着行動が示され,さらにロボットやロボットの振る舞いについて事前知識のない被験者であっても,ロボットが誰に対して懐いているかといった愛着行動の特徴を適切に理解していることを確認した。なつき度の適切な変化に関しては引き続き取り組んでいく。また,生活空間でのロボットの利用を考え,ロボットの愛着行動に加え,見守り機能を実装した。3次元測域センサによる人の位置,姿勢の計測,及びカメラとの統合による人の視野推定を新たに実現し,環境の構成と人,ものなどの動物体の移動履歴を表した環境地図を生成し,不審者,不審物,人の危険などを検出し,ロボットが人へ伝達する。この機能は,生活空間でのロボットの長期利用を想定しやすくするものと位置付けられる。さらに,不審物の存在などを非言語情報で伝達できることを確認し,また愛着行動をベースとして見守り行動を導入した際も被験者はロボットの愛着行動を理解していることを確認した。
著者
緒方 秀教
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、科学技術計算におけるポテンシャル問題の数値解法である代用電荷法および双極子法の理論・実験的研究を目的とする。代用電荷法は仮想点電荷のポテンシャルの重ね合わせで解を近似する方法であり、点電荷の代わりに仮想電気双極子のポテンシャルを用いると双極子法を得る。双極子法について双極子配置の仕方に特に研究の重点を置き、円周の等分点を等角写像で写した点に双極子を置く方法がよいことを数値実験により示した。また、代用電荷法・双極子法の複素解析関数近似の応用も行い、理論・実験両面からこの解析関数近似が良い精度を達成することを示した。さらに、関連研究として、佐藤超函数論に基づく数値積分の研究も行った。
著者
乾 亨
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年多くの自治体が取り組みつつある「制度化された地域自治組織」の仕組みや実践事例の調査研究を通して、地域自治組織が自由に使える「拠点」と、地域組織の運営を下支えする「事務局機能」の存在が、コミュニティ自治力の向上(コミュニティ活動の活性化・地域運営力の向上)のために重要であることを明らかにした。調査対象事例は主に、神戸市の真野地区まちづくり推進会、福岡県下の自治協議会組織、京都市本能学区のまちづくり活動である。
著者
佐々木 郁子
出版者
龍谷大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

Wordsworthの自然観がエコロジーの先駆であることは、1990年代以降多くのエコクリティックにより論じられてきたが、そうした議論で農業や農地の描写はほとんど取り上げられることはない。産業革命下で環境悪化を経験したイギリス・ロマン主義の時代には、農業革命も推進されていたが、その農業は自然の喪失に拍車をかけるものでしかなかったのか、それとも持続可能な農業を予感させるものでもあったのか。本研究では、Wordsworthらロマン派の作品からそれを読み解き、農地といった人工的環境を研究対象とするための理論的枠組みを構築する。文学と農学をエコクリティシズムを用いて接続する、文理融合型研究を目指す。