著者
大木 康 尾崎 文昭 丘山 新 長澤 榮治 永ノ尾 信悟 鎌田 繁
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、具体的成果として二つの部門からなる「アジア古籍電子図書館」が実現された。1)「漢籍電子図書館」の構築に関しては、本研究所が所蔵する漢籍約8万点の中から、資料自体の価値と希少性、他機関の所蔵状況、見込まれる需要などを多面的に考慮し、貴重漢籍約500点が選定され、約15万コマからなる画像データが作成され、全文画像データベースとして、国内外に先駆けて大量の画像が公開された。これは、既に完成している漢籍目録データベース(これも国内外に先駆けて構築されたもの)と連動するものであり、両データベースの価値を相互に高め合うことになった。この成果は、漢籍に関する総合データベースのパイロット・スタディとなるものであり、その意義は国際的なものである。なお、作成に際しては、国際的な汎用性と将来性を考慮し、古籍電子図書館の標準フォーマットを提示し、台湾国家図書館と中国国家図書館の実務担当者と、国際共同研究の可能性について討議した。2)「西・南アジア古籍電子図書館」の構築に関しては、西アジア研究の資料である「ダイバー・コレクション」目録の全文テキスト入力(アラビア文字・ローマ字転写表記)を行うとともに、画像データ入力も完成した。この他にも「エジプト議会議事録」「エジプト新編地誌」「トルコ語官報」(いずれもアラビア文字資料)について、テキスト情報と画像情報を連係したデータベースの作成を進めた。南アジア古籍資料としては、東京大学総合図書館所蔵の「サンスクリット写本コレクション」の画像データベース化を実現した。上記の諸資料は、当該地域を含めて世界的に希少な資料であり、電子図書館によって世界の各地から利用することが可能となり、世界の学界に貢献するところ大である。
著者
安藤 友張
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.115-119, 2004-03-01
被引用文献数
1

学術情報流通メディアとしてのレビューの意義と機能を考察するために,英米と比較しながら,日本における図書館情報学及び教育学分野のレビュー誌をめぐる現状をあきらかにした。 日本の当該分野において,レビューが低調である要因や背景として,以下の点を指摘した。(1)学界のコミュニティの規模が小さい。(2)研究業績としてのレビューに対する評価が低い。(3)レビューの機能と概念に対する研究者の捉え方が狭い。
著者
今田 絵里香
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

(1)戦前日本の「少年」「少女」というジェンダーの解明 近代日本の都市新中間層の子どもイメージを「少年」「少女」という表象を手掛かりに解明するため、昨年度まで「少女」、今年度は「少年」という表象の解明に取り組んだ。方法として少年雑誌『日本少年』を分析した。その結果、1920年代は勉強・文芸というホワイトカラー的なイメージを都市新中間層の「少年」にふさわしいものとして示し、他の階層の男子と差異化していた。より文芸に力を入れる都市新中間層の「少女」とも差異化していた。しかし、1930年代、下層や地方在住の子どもを読者として取り込み、軍事・スポーツを示して成功を収めた『少年倶楽部』の勃興により、『日本少年』はホワイトカラー的なイメージを捨て去ろうとし、「センチメンタリズム」として「少女」に押しつけていく。このようなことがわかった。(2)少年少女雑誌の読者への聞き取り調査 かつての読者たちは高齢であるため、難航した。しかし、数人の読者に手紙のやりとり・電話でのインタビューなどの方法によって、当時のことを尋ねることができた。(3)戦後の「少年」「少女」というジェンダーの解明 戦後日本の「少女」という表象を解明するため、戦後の少女文化をリードした『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』を分析した。その結果、男女共学化の影響によって、男子禁制であった少女雑誌に男子が出てくることがわかった。「少女」にとっては「少年」とどう関係を築くかということが重要なものとなり、そのような男女交際のできる青春時代を「ジュニアの時代」と表象され、輝かしいものとして称揚されるようになったことがわかった。(4)西欧の「少年」「少女」文化との比較 PISAで高得点を取ったフィンランドは少年少女文化を支援するためのセンターが充実している。このようなフィンランドの取り組みについて調査をおこなった。
著者
中生 勝美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.265-283, 1991-12-30

華北村落では,異なる宗族でも,あたかも同一宗族であるような擬制的世代関係を形成している。本稿ではこれを「世代ランク」と称するが,近隣者間の擬制的世代関係である。世代ランクの社会的機能は,挨拶・年始回り・擬制的親族関係・席順・村民資格の取得・社会的威信がある。世代ランクは,宗族の世代関係と,姻戚の世代関係の組み合わせによって形成され,親族としての交際が消滅した後でも,世代関係が近隣者の間に残存したのだろうと考えられる。中国全体で,近勝者への親族名称を拡張することは普遍的である。しかし親族名称の拡張原理に年齢が関与しない世代ランクの習俗は,村落の成員権と強く結びついている。これらの特徴は,華北村落のみに観察される。その社会的要因は,華北村落の共同体的規制の強さと,村落内の統合性の高さにあるのだろう。世代ランクは,社会集団ではなく,社会的カテゴリーである。
著者
廣瀬 千晃
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

古代日本の雅楽奏舞と儀式の関連や展開を研究の目的とし、雅楽の儀式での奏舞の実態や、どのように日本化し日本雅楽となっていったのかを史料的な根拠に基づいて検討した。この研究を進めるための史料収集の一環として「古代日本雅楽年表」を作成した。本研究成果の一端として、「真言密教と芸能」を執筆し、また宮廷儀式(相撲節会)での舞楽「抜頭」について全体的に改訂分析した「古代の抜頭」を藝能史研究会大会にて発表する。
著者
大戸 安弘
巻号頁・発行日
2010 (Released:2013-12-25)

課題番号:18330161
著者
岡部 貴博 吉川 大弘 古橋 武
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.689-700, 2006-10-15
被引用文献数
3 5

現在,多くの病院では,医療従事者が勤務中に遭遇したヒヤリとしたこと,ハッとしたことをレポート形式で報告する制度が採用されている.このレポートはインシデントレポートと呼ばれており,事故の種類や発生場所などのメタデータと,大部分は自由記述の文章で記されている.インシデントレポートには,ヒューマンエラーを起こしやすい状況や,病院のシステムの改善点,事故の要因などの様々な重要な情報を含んでいることが多いため,インシデントレポートを解析することは医療事故を防止するための対策を発見するのに有用である.しかしこれまでは,定量化しやすいメタデータ部分を用いて,事故の発生件数の推移や,業務別の報告件数の割合を分析したり,病棟や部署での報告件数を比較するだけにとどまっている.そのため,事例の大まかな傾向をつかむことはできても,各事例の中に含まれている重要な情報の解析はできていない.一方で近年,自由記述の文章から有益な情報を抽出する,テキストマイニングに関する研究が盛んに行われている.本論文では,メタデータと語句の共起情報を利用したテキストマイニング手法を提案し,インシデントレポート解析への適用を行う.提案手法は,メタデータを最上位とする階層構造で表現されたキーワードグラフを作成する.また,解析者が能動的に解析したい項目を掘り下げていけるという特徴を持つ.実際のインシデントレポートを対象とした評価実験により,提案手法の有用性を検証する.
著者
内村 直尚 森田 喜一郎 橋爪 祐二 土生川 光成 小鳥居 望 山本 克康
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

昼休みに15分間午睡をすることによってそれ以後の眠気が減少し、午後の授業だけでなく、帰宅後の学習にも集中できた。また、週3回以上実施した者は昼夜のメリハリのある規則正しい生活リズムが確立し、夜の睡眠も深くなった。午睡導入前の3年間と導入後の3年間の大学入試センターの試験成績を比較すると明らかに導入後の試験成績は上昇していた。保健室利用者および1人当たりの平均利用回数を午睡導入前後の3年間で比較すると導入後の3年間で減少していた。
著者
小林 敏孝 篠沢 隆雄
出版者
足利工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

H16年度において、睡眠の数学モデルによって、睡眠時間が昼間の行動と密接な関係にあることを推定した。H16年度〜17年度にかけて、15名の被験者に睡眠日誌と行動量計(アクチグラフ)を約2週間記録してもらい、彼らの自覚的な睡眠覚醒リズム(SWR)と活動休止リズムを測定した結果、睡眠時間が6時間以下のshort sleeper (SS)では、昼間の活動量が常に高かかった。これに反して9時間を超えるlong sleeper (LS)の昼間の活動量は変動が大きく、SSに比べて低かった。17年度〜18年度にかけて、企業の中高年(38才〜59才)の会社員に対して、睡眠時間が比較的短い6名を選び、彼らに睡眠ポリソムノグラフ(PSG)等を3夜連続で記録した。その結果、平均睡眠時間が5時間半以下の者はREM睡眠の持続が悪く、精神的なストレスが過多であった。また、性格傾向を質問法(YGテスト)で検討した結果、SS群とLS群の間には大きな差異は認められなかった。しかし、面談による被験者の性格傾向としてSS群は快活、多弁の被験者が多く、LS群は物静かな印象を強く受けた。性格傾向に関しては詳細な検討が必要と考えている。以上の3年間の結果から、short sleeperの行動上特徴として、昼間の活動量が常に高いこと、さらに中高年では精神的なストレス過多にある可能性が高いことが明らかになった。これは、昼間の活動を高める性格に関与する性格遺伝子が睡眠時間を決定している遺伝子の有力な候補の可能性が高いことを意味する。3年間の研究期間においてshort sleeperの精神生理的な特徴の同定に多くの時間を要したために、遺伝子の同定に着手できなった。今後、平均睡眠時間が5時間前後でしかも昼間の活動量が高く昼寝の習慣がない群を選び、昼間の活動が高い性格に関与する遺伝子の同定を試みる。
著者
山本 文彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、近世ドイツにおける帝国郵便と領邦郵便の制度的発展およびその両者の協力関係を明らかにするとともに、郵便がこの当時の最も重要なコミュニケーションツールであり、郵便の発展は、舗装道路を始め、郵便路線図や郵便時刻表の普及をもたらしたことを明らかにした。また郵便の発展は、時間意識と空間意識の変化に大きく貢献し、中世的な時間・空間意識から近代的な時間・空間意識へと変化をもたらす重要なきっかけとなった。
著者
松葉 祥一
出版者
神戸市看護大学
雑誌
神戸市看護大学紀要 (ISSN:13429027)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-9, 2005-03

フランスの心理学者トビ・ナタンが提唱する民族精神医学(ethnopsyhiatrie)とは何かを明らかにし,日本への適用の可能性を考察する。移住者は言語や生活習慣の違いなどからストレス状況におかれることが多く,心の病いを訴えることが多い。しかし,言語,および精神疾患の原因とその治療に対する考え方の違いのせいで,治療は困難なものになりがちである。そこで,トビ・ナタンは,移民の精神疾患を,患者の出身文化の枠組みの中でとらえること,西欧医学とは異なる治療法も導入することが必要だと主張し,30年以上にわたって実践している。本稿では,まず第1にこのトビ・ナタンの民族精神医学が生まれた社会的状況を明らかにし,第2にその理論的背景を分析する。第3にナタンの実践を概観し,第4に主著の一つである『他者の狂気』に従ってその理論的枠組みを検討する。その上で,この民族精神医学に対する批判を考察し,その問題点を指摘する。日本では,今後移民が増加することが予想されている以上,民族精神医学を批判的に導入する必要があると結論する。
著者
實吉 純一
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.4, no.12, pp.1-7, 1944-02-08
被引用文献数
3

音波又は超音波の反射を考察するに當つて反射面の大さが波長に比して相當大きくなければ幾何光學的の反射を考へ得ない事は常識であるが、その限界の条件を明確にするため、本研究では點音源からの球面波が有限の剛平面に反射する場合の音源位置の反射波の強さの計算式を導いた。又種々の曲面からの反射波の計算式も求めた。實驗は93kcの水中超音波を用ひて圓板及び正方形板の反射を實測し、理論結果を定性的に確かめた。
著者
西澤 岳夫
出版者
釧路工業高等専門学校
雑誌
釧路工業高等専門学校紀要 (ISSN:0455017X)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.61-66, 2000-12-15

This timber framed brick building, which has been familiar to Kushiro citizens as '16 ban-souko', and used as the cultural facilities, was built as a storehouse for the use of Mikami Sadaharu who managed a transportation business. This report is a result of an investigaton depending on its history, formation, structure and a survey of the buildding.
著者
畠山 温子 菊池 紀彦 平野 幹雄
出版者
東北文化学園大学
雑誌
保健福祉学研究 (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.215-227, 2008

本研究では、社会技能訓練における重症心身障害児(者)への応用の可能性について検討するために、発達障害児(者)に対し実施されてきた社会技能訓練及び社会技能訓練に関連した先行研究を整理した。特に、交通機関利用スキル及び買い物スキルに焦点を当て各々の活動内容を整理した上で、発達障害児(者)に対してスキル獲得訓練を実施する意義について議論することを目的とした。はじめに、社会技能訓練が目指したものについて注目したところ、社会技能訓練は社会参加あるいは社会的自立を目指した活動、生活空間の拡大を目指した活動の二点に大別された。次に、交通機関利用スキル及び買い物スキル獲得を目指した社会技能訓練に注目したところ、両者ともシミュレーション場面と実際場面を組み合わせた訓練がスキル獲得に有効であったこと、買い物スキルの獲得には環境側の要因が大きくかかわってくることが示された。以上より、発達障害児(者)にスキル獲得訓練を実施したことは発達障害児(者)が社会に参加する機会を提供することとなり、重症心身障害児(者)へも同様のことが当てはまる可能性が示唆された。今後は、個々人に必要とされるスキルを見極めることの必要性や先行研究を応用した新たな支援法略の検討が課題としてあげられた。