著者
椎野 勇太
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

古生代中期に大繁栄した翼形態型腕足動物スピリファー類は,殻の形態機能によって自動的に殻内外の水を交換できる「ろ過機能体」であった.具体的には,翼形態種の殻正中線上に見られる湾曲部が,自動的な流入・流出を助ける圧力差を殻の開口部に生み出し,殻内側でらせん状渦流を発生させる形態機能を持つ.これによって,翼形態種が殻内側に持っている螺旋状の採餌器官を用いて効果的な採餌を行う適応形態であった.一方,「燕石」の所以でもある側方に伸びた翼様形態については,殻内側で生じる渦流に関与していることが予想されつつも,翼形態まわりに生じる乱流現象によって,具体的な機能や効果は不明であった.この問題を解決するために,翼の発達したCyrtospirifer cf. verneuiliを用いて流水実験および流体解析の比較研究を行い,その上で流体解析のデータを慎重に検討した.その結果,翼を持つスピリファーの受動的採餌水流は,翼形質の開口部付近で流れが剥離し,開口部と殻の下流側に生じる大きな剥離渦が強く影響していることがわかった.そしてこの剥離渦が開口部付近の流れを断続的に引きずるような挙動となり,殻の内側で渦が形成された.これら一連の研究結果を踏まえると,これまでに扱ってきた短翼形のスピリファー類は,水の流入と渦流の形成をサルカスだけで担う一方,長翼形のスピリファー類はサルカスの機能によって水を流入させ,翼様形質の効果によって渦流を形成していたと結論付けられる.つまり,前者は特定の安定した環境で効果を発揮し,後者は形質の持つ機能を役割分担(リスク軽減)をすることで幅広い環境へと適応することができたかもしれない.翼の未発達な種に比べ,様々な環境から長い翼を持つ種が産出することが知られており,形態機能の"ロバストさ"が幅広い適応環境を生み出していたことが強く示唆される.
著者
大矢根 聡 山田 高敬 石田 淳 宮脇 昇 多湖 淳 森 靖夫 西村 邦行
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本の国際関係理論は海外の諸理論の輸入に依存し、独自性に乏しいとされる。本研究は、過去の主要な理論に関して、その輸入の態様を洗い直し、そこに「執拗低音」(丸山真男)のようにみられる独自の問題関心や分析上の傾向を検出した。日本では、先行する歴史・地域研究を背景に、理論研究に必然的に伴う単純化や体系化よりも、現象の両義性・複合性を捉えようとする傾向が強く、また新たな現象と分析方法の中に、平和的変更の手がかりを摸索する場合が顕著にみられた。海外の理論を刺激として、従来からの理念や運動、政策決定に関する関心が、新たな次元と方法を備えたケースも多い。
著者
田中 佐千子
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

平成16年度は,観測された地震データから地球潮汐による地震トリガー作用の特徴およびその発現条件を明らかにすることを目的とし,統計的手法に基づいて以下の3つの研究を行った.1.日本周辺の地震データについて,地震発生時刻における潮汐応力の圧縮軸方位に着目し,地球潮汐と地震発生の関係を調査した.その結果,両者の間に有意な相関が認められる領域が存在することを発見した.それらの領域について,地震発生が集中する潮汐応力の圧縮軸方位の抽出を試みた.抽出した方位を震源メカニズム解から推定されるテクトニック応力の方位と比較・検討し,地球潮汐による応力変化がその領域内で支配的な応力場を増大させる方向に働く際に地震がトリガーされる可能性を示した[Tanaka et al.,2004].2.全世界で発生した浅発逆断層型地震について,地球潮汐によって断層に加わる応力変化の振幅に注目し,地球潮汐と地震発生の関係を調査した.その結果,加わる応力変化の振幅が大きいほど両者の間に強い相関が認められることが明らかとなった.地震発生は地球潮汐による応力変化が断層のすべりを促進する位相付近に集中する.これらの特徴は,地球潮汐による応力変化が地震発生に無視できない影響を与えていることを強く示唆している[Cochran et al.,2004].3.全世界のプレート沈み込み境界で発生した大地震11個について,その震源域近傍における地球潮汐と地震発生の関係を調査した.その結果,調査した11例中6例で,本震の発生に先立つ数年間に顕著な相関が現れていたことが明らかとなった.本震発生後,両者の相関は消滅した.高い相関が認められた本震発生前の期間では,地球潮汐による応力変化が断層のすべりを促進する位相付近に地震発生が集中しており,地球潮汐による地震トリガー作用の観測が大地震に至る応力蓄積過程の監視に有効である可能性が示された[AGU Fall Meeting 2004で発表].
著者
森口 茂樹 福永 浩司
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

申請者らは既存の認知症治療薬であるメマンチンの新しい作用機序として、KATPチャネル抑制作用を発見した。そこで申請者らはKATPチャネル発現細胞を用いて、メマンチンとは異なる構造を持つシーズ化合物(アダマンタン誘導体)をスクリーニングして、メマンチンに比べて強力にKir6.2チャネルを抑制する化合物(本剤)を含む化合物群を創製した。本剤は、マウスによる実験で強力なKir6.2チャネル抑制作用による認知機能改善効果(AD中核症状)に加えてKir6.1チャネル抑制作用によるうつ症状・不安症状・攻撃症状などのAD周辺症状(BPSD)を改善することが確認された。
著者
松野 誠 亀川 徹 松原 隆一郎 森山 威男
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

フリー・スタイルであるのにスイングするという独特の演奏法を編み出し、1974年のヨーロッパ公演では爆発的な反響と評価を勝ち取った「初期山下洋輔トリオ」の技術構成について、ドラマーである森山威男氏のドラミングを撮影することを通じて解明した。フリー・スタイルであるのにスイングする秘訣は、固定したメンバーと演奏を繰り返し、ビートや楽譜ではなく「間」を共有することにある。それを実証するために、森山・山下、森山・坂田のデュオを収録した。本研究の成果は追加画像も含めてヤマハ・ミュージック・エンターテインメント・ホールディングスから今年中に出版される予定で、鋭意編集中である。
著者
田中 英道 松尾 大 野家 啓一 吉田 忠 鈴木 善三 岩田 靖夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

芸術の問題を狭い範囲でとりあつかわれるのを避け、広義な意味での「形象」という概念でとりあげ、そこで他のジヤンルの表現形態との関連をさぐってきた。Formという言葉は哲学、生理学、言語学などでも使われるが、19世紀末から精神科学の領域にも適用されている。それはデイルタイの形象学的解釈学であり、それは世界観に諸々の類型があり、その形成の合法則性を認識しなければならないとするものである。またゲシユタルト心理学においては、目に直接与えられた形象がそれ以上還応できない事実であるとする。さらにフッサールの現象学は、彼が「根本現象」と呼ぶ本質的な現象を把握を目指すものであった。カッシラ-の「象徴形式の哲学」では、カント的な「慣性」や「感性」と区別しその新たなる総合を目指したのであった。又「構造主義」においても、構造を形象学的にとらえている。この流れはプラトンのイデア論のようにまず「神」とか「イデア」といった背景の観念から発し、それが「形相」としてアリストテレスが述べるような4つの因果性(質料、形相、運動、目的)からなるものとする。伝統的な概念と対立するものである。あるいは近代的なプラトン批判の系列に属する。イデアだけが本来実在するものであるとするのに対し、形象だけが本来実在し、そこから観念、が生まれる、というものである。われわれの研究成果はこのように西洋のプラトンから発する観念的な立場と反対の、物象そのものを「形象」としてとらえる立場の中から、さらに実践的に芸術作品そものの分析を通してその実相を明らかにするものである。研究代表者は美術作品を通して、そこから解釈できるさまざまな思想-イデアを抽出した。とくにミケランジエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの芸術作品はまさに「形象学」の対象として深い考察を行なった。又各分担者はそれぞれの分野から以上の方法論的な意識をもって考察を行なっている。
著者
林 香那
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、17世紀前半のイギリス・カピチュレーションの更新状況とその内容について分析し、さらに前年度までの研究成果と合わせて研究課題についての包括的な成果を論文としてまとめ、発表した。17世紀初頭には、後退した両国関係を回復するべく派遣された大使グローバーが黒海交易への参入を実現し、続く大使ピンダーが1614年カピチュレーション更新しているが、ここからレヴァント交易における絹輸入拡大の傾向を見て取ることができた。同時期に東インド会社による東インド物産輸入が活発化し、さらに1620年代以降には元来東方物産の輸入を目的としていたレヴァント交易が毛織物輸出に重点を移し、後に絹輸入との単品目交換という特徴的な交易形態へと変化していくことを鑑みれば、該カピチュレーションがレヴァント交易の動向を敏速に反映していたとことが分かった。またこの時期までのイギリス大使らは、その経歴からレヴァント・カンパニーの一員としての立場を踏襲していたと見られるが、商人としてレヴァントの事情に精通した経験は大使の資質と不可分であり、地中海域での海賊被害や大使館経営の金銭的困窮からレヴァント交易が危機に陥る中、その資質の高さによってオスマン宮廷内で尊重されていた様子が伺えた。特に大使ローはアルジェリア・チュニスの海賊問題への対策として1622年にカピチュレーションを更新し、交易活動を保護しているが、オスマン宮廷での信頼がその原動力となっていたことが明らかになった。以上を踏まえ作成した論文では、16世紀末から17世紀初頭には、イギリスの対オスマン帝国外交はレヴァント・カンパニーが主導し、イギリス大使らはレヴァント商人の要求を反映したカピチュレーションを獲得しているが、その交渉に際しては、金銭的負担或いは大使個人の資質によるオスマン宮廷中枢との人的紐帯が欠かせなかったと指摘出来た
著者
飯嶋 雅弘 橋本 正則 六車 武史
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、高周波マグネトロンスパッタリング法によりブラケット用アルミナの表面をバイオアクティブガラス改質した試料(BG試料)を試作した。BG試料を人工唾液に浸漬したところ、試料表面には針状およびタブレット状の石灰化物が形成された。これらは、レーザーラマンとエックス線回折よりリン酸カルシウム系の石灰化物と同定された。脱灰エナメル質の再石灰化挙動を調べるナノインデンテーション試験では、BG試料とともに浸漬したエナメル質が、単独で浸漬したエナメル質よりも高い再石灰化挙動を示した。アルミナに対するバイオアクティブガラスを利用した表面改質層は、エナメル質の再石灰化誘導能を発揮することが明らかとなった。
著者
氏原 暉男 森本 昇司 小野 珠乙 南 峰夫 池橋 宏
出版者
信州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1998

ミャンマー東部の山岳国境地帯はケシの栽培地帯として有名で,アヘン生産の原料となるケシ栽培を根絶することが重要課題となっているが,十分な成果が上がっていない.これは現地の自然および社会的条件に合致したケシに代わる換金作物が導入,確立されなかったからである.ケシは現地農民の唯一の収入源であり,ケシと同等以上の収入が得れれる代替作物の開発普及が不可欠である.このような観点から,平成10年8月から9月にかけて約2週間にわたり,シャン州コーカン地域のケシ栽培地帯の拠点の一つであるターシェータン村を中心に農家の経営実態と農作物の栽培状況などを調査した.さらに具体的な換金作物,薬草あるいは動物資源などについて,視察と聞き取り調査を実施した.その結果,シャン州の平地部では中国の雑種イネ品種を導入した先進的な稲作が行われているのに対して,ケシ栽培地帯の山岳地域では焼き畑が行われ,主にトウモロコシが栽培されていた.明らかに地域格差が認められ,ケシ栽培に頼らざるを得ない状況が認められた.そこで具体的に収入源となる可能性が有る代替作物あるいは動物製品について調査した.山岳地域から市場までの道路事情が悪く,特に雨期には通行止めもしばしばである.従って,果樹,野菜など保存がきかず,重量のある生ものは除外された.少量で価格が高く,保存がきくものとして薬草が考えられるが,聞き取り調査では有望な薬草は見つからなかった.一方,この地域は有名な茶の産地で,半発酵のコーカン茶は調製法などの工夫,向上により換金作物として可能性がある.また,山岳地帯の環境に適した作物としてソバについて日本産品種を試作した結果,十分な収量と品質が認められた.現地農民はソバの栽培経験を持っており,日本の需要家との価格交渉,およびヤンゴンまでの輸送法を確保できれば代替作物として可能性があることが明らかとなった.
著者
三木 雅道 高田 潤 鈴木 道隆 菊池 丈幸
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ウッドセラミックス(WCS)は,廃木材を原料とし,フェノール樹脂と複合化して低酸素中での熱処理によって得られる炭素系新素材であり,木質由来の易黒鉛化炭素(多くのマクロ孔を有する)とフェノール樹脂由来の難黒鉛化炭素(ミクロ孔の生成に有効)から構成される複合炭素材料である.ウッドセラミックスの製法には2種類あり,中密度繊維板(MDF)に液状フェノール樹脂を含浸させて後,焼成する「MDF法」と,木粉とフェノール樹脂粉を混合後,室温プレスして後焼成する「粉末法」とがある.本研究は,このウッドセラミックスを有害ガスや水分の吸着材として活用することを目指して,その吸着量の指標となる比表面積を上昇させるには,MDF法がよいのか?木粉法がよいのか?さらに,フェノール樹脂の量は比表面積にどのような影響をおよぼすのか?また,原料に用いる木材の種類はどのようなものがよいのか?を調べるために行なった.得られた成果を列挙すると,以下のようになる.(1)同じフェノール樹脂量の場合,粉末法の方がより高い比表面積を得られることがわかった.すなわち,700℃焼成の場合,フェノール樹脂量を30%と一定にした場合,MDF法では,280m^2・g^<-1>,木粉法では,380m^2^<-1>であった.(2)粉末怯の場合,フェノール樹脂粉の量を増加させるにつれて,比表面積も増大した.ただ,100%フェノール樹脂粉にすると,かえって比表面積は低下した.700℃焼成試料の最高の比表面積は,70%フェノーノレ量の場合で450m^2・g^<-1>であった.(3)原料木材の種類が比表面積におよぼす影響を調べた結果,嵩密度の大きいうばめ樫は比較的低温の600℃ですでに330m^2・g^<-1>を示したが,その後800℃まで昇温してもその値はほとんど変わらなかった.一方,嵩密度の小さい針葉樹(松,杉)や竹,広葉樹のアオダモは,600℃で焼成では200-280m^2^<-1>とうばめ樫より低い値を示すが,700℃焼成では330m^2^<-1>とほぼ同じ値に追いつき,800℃焼成ではうばめ樫を追い越して330-450m^2^<-1>となった.このことから,600℃のような比較的低温焼成で大きな比表面積を得るためには,うばめ樫粉末とフェノール樹脂粉末を用いるのがよく,800℃での焼成ではアオダモや杉,松の粉末とフェノール樹脂の粉末を用いれば,高い比表面積を得ることが出来ると考えられる.
著者
林 正治 高田 良宏 堀井 洋 山下 俊介
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、研究データリポジトリにおけるメタデータの版管理手法およびバージョン管理された研究データ引用手法を提案し、プロトタイプシステムによる機能検証を実施した。版管理手法では、コンテンツおよびメタデータの双方の版を管理することとした。永続識別子はランディングページ毎に付与し、Memento Frameworkによる版管理情報の提供を実施した。研究データ引用手法では、Citation Style Languageによる引用情報の提供手法についての検討を実施した。
著者
渡部 有隆
出版者
会津大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

プログラミング学習支援システムにおいて、ピクチャによる表現手法を用いたビジュアルプログラミング言語を対応させることを検討した。研究期間において、本ビジュアルプログラミング言語の拡張、レガシィシステムのサービス指向アーキテクチャに基づく再構築、ハイブリッドビジュアルプログラミング言語開発のためのアーキテクチャの開発を行った。昨今のWEB技術における言語やフレームワークの急速な技術移行等により、研究期間内に安定したサービスの一般公開には至らなかったが、研究成果により、プログラミング教育やソフトウェア開発に応用できる新しいビジュアルプログラミング言語及びその環境の開発がより円滑に行えるようになった。
著者
福長 将仁 高橋 幸江
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

地理的隔離により生物が適応進化することが知られている。本研究ではライム病ボレリアと媒介マダニが隔離状態において共進化していることを明らかにした。すなわち、北海道と長野の2地点で捕獲したマダニについてリボソームRNA遺伝子間配列(ITS2)領域とミトコンドリアリボソームRNA遺伝子塩基配列を比較、寄生ボレリアでは鞭毛蛋白遺伝子ならびに菌体表層蛋白遺伝子の塩基配列をそれぞれ比較して、2地点間における両生物種の遺伝的変化について定量的に検討した。その結果、ボレリアの鞭毛蛋白遺伝子ならびに菌体表層蛋白遺伝子の塩基配列についてそれぞれ両地域に特徴的な遺伝グループが認められ、あわせて媒介マダニのミトコンドリア遺伝子についても地域特異的な遺伝グループが存在し、両生物がそれぞれの地域に適応進化していることが裏付けられた。さらに遺伝子の変異率は、マダニのそれに比較してボレリア細菌で高く、高い変異率を持つボレリア細菌がマダニの変異進化に適応しながら変化していることが推察された。ボレリア細菌はマダニの吸血行動にともなって小型脊椎動物とマダニ体内を行き来しながら生活する生物である。このうち小型脊椎動物は種類を問わず保菌動物となることが出来るので、ボレリアの感染はマダニの性質に深く関わっていると考えられ、ボレリアの生存はマダニへの適応が必須条件となる。本研究で明らかにした事実はボレリアが変異多様化することは、地理的隔離により地域に適応進化していくマダニに適応するためであることを証明している。
著者
福本 景太
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションおよび相互関係における障害と、限定的な反復行動等の行動異常を有する神経発達障害である。我々は以前、ASD様行動を示すモデルマウスに共通して、大脳皮質のスパイン動態に異常があることを明らかにした。しかしこれまで、ASDにおいてスパイン動態の異常を誘引する分子メカニズムは明らかになっていない。そこで我々はASD患者において頻繁にみられるヒト染色体15q11-13領域の重複を模したモデルマウス、patDp/+マウスを用いてスパイン動態へ影響する分子の探索を行った。本重複領域には4種類の父性染色体由来発現遺伝子、Mkrn3、Ndn、Magel2、Snrpnが存在するが、これらがスパインへ及ぼす影響は不明であった。最初に、大脳皮質第II/III層の錐体細胞へ4つの標的遺伝子を各々過剰発現し、生後3週齢でスパイン動態の計測を行った。その結果、Ndn過剰発現群ではスパイン形成が促進され、逆にNdn KOマウスではスパイン形成が阻害されていた。次にスパインを形態的に分類した結果、Ndn過剰発現群では未成熟なスパインが増加しており、Ndn KOでは逆の影響がみられた。さらに電気生理学的解析から、Ndn過剰発現群ではmEPSPの振幅と頻度の減少がみられた。次にpatDp/+マウスの大脳皮質を用い、シナプトソームのプロテオミクス解析を行った。その結果、patDp/+マウスにおいて数十種類の蛋白質が変動しており、その中でもStau1とTom1に関しては、 Ndn KOマウスの大脳皮質において、遺伝子発現量が変動していた。以上の結果から、NdnはStau1やTom1などの分子を制御し、未成熟なスパインを増加することで正常なシナプス形成を阻害すること、その結果、神経の電気活動に影響を及ぼすことで、ASD発症に関与している可能性が示唆された。
著者
大野 和子 遠藤 啓吾 竹宮 惠子
出版者
京都医療科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

放射線の人体影響を正確に国民が知ることは、福島原発事故災害後の風評被害や漠然とした不安な気持ちを改善するための至急の課題です。妊娠と放射線検査をテーマとした機能マンガを作成しました。京都医療科学大学のHPから自由にダウンロードできます。英語版も作成しています。また、単元毎に新人看護師を主人公としたショートマンガを掲載した、看護師向けの放射線科教科書を作成しました。現在は、多くの看護師が放射線診療に関わりますが、系統的に教育する平易な教科書はありません。完成した教科書は既に福島県の看護学校で採用されています。 さらに、放射線について気軽に人々が手に取れるパンフレット形式の配布資料も作成しました。
著者
松本 芳郎 相馬 邦道 割田 博之 久野 昌隆 村本 健
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

罹患同胞対連鎖解析およびSNPs関連解析のため、本学歯学部附属病院に来院し、過剰歯・歯の先天欠如などの歯数異常を伴う患者、特に罹患同胞対(同じ親を持つ兄弟姉妹がともに過剰歯または歯の先天欠如を伴う)およびその近親者、および正常対照者の選定・診断およびインフォームド・コンセントを行った。集まった末梢血サンプルを元に、蛍光標識した遺伝子マーカーセット用いて、染色体についての遺伝子タイピングを行い、罹患同胞対を中心に連鎖解析を行った。しかし、連鎖の認められる遺伝子領域を絞り込めず、過剰歯または歯の先天欠如に関わる疾患感受性遺伝子の同定はできなかった。そこで、本研究の遺伝的因子と一対をなす環境因子のうち機械的刺激を取り上げ、機械的刺激に対する生体の反応を明らかにすることを目的として、in vivoおよびin vitroにおける分子生物学的検討を行った。まず、咬合刺激を抑制させたラットにおいて、RT-PCR法によりIL-1 mRNAの発現が上昇し、その後、歯に機械的刺激を加えるとさらにIL-1 mRNAの発現が増加した。また、ウシ培養歯根膜細胞に弱い牽引力を加えた場合は、アルカリフォスファターゼ活性を変化させることなくI型コラーゲンおよびデコリンmRNAの発現が上昇した。さらに、骨芽細胞様細胞(ST-2)に対する機械的伸展刺激は、I型コラーゲンmRNAの発現には変化を与えなかったが、Cbfa1/Rtmx2 mRNAの発現を上昇させた。以上の結果のみから歯の発生時期の環境要因の影響を考察するのは困難であるが、歯の発生期に加わる機械的刺激のような環境要因が歯数異常を引き起こす可能性も考慮する必要が示唆された。
著者
大久保 明美
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

多分化能を持つ胚性腫瘍P19細胞を、1nMレチノイン酸存在下で浮遊培養すると、約10%の細胞塊に搏動を伴った心筋が出現する。これを長期培養後、細胞をクローン化し、通常培地では増殖し、1%ジメチルスルホン酸(DMSO)存在下で高頻度で搏動細胞に分化する細胞を選択し諸性質を検討した。CL6細胞と名付けたサブクローンは、親株のP19細胞と異なり坑SSEA-1抗体とほとんど反応しない。さらに分化は接着状態のままで誘導され、シートを形成し分化誘導後10日目に搏動が始まり、14日頃にはシート全体が搏動した。またDMSO添加後2日毎に全RNAを抽出しノーザンブロット分析を行なったところ、CL6細胞では胚性の心筋型ミオシン-α及び-βの発現が10日目から見られ、一方骨格筋特異的な分化制御因子であるMyoDやマイオジェニンの発現は検出されなかった。ウエスタンブロット分析でもミオシンの発現が10日目に始まり、これは搏動が観察される時期と一致した。この条件下ではほとんど搏動の見られないP19細胞では14日目にかすかなミオシンバンドが検出された。また搏動細胞を固定し、蛍光標識したMF20抗体、ファロイジン、坑デスミン抗体そして坑心筋型c-蛋白抗体で細胞が染色され、横紋構造が確認できた。リズミカルに搏動している細胞へのアセチルコリン及びアトロピンの添加実験では、分化細胞の搏動がムスカリン性アセチルコリン受容体によって影響を受けることを示した。また親株p19細胞の神経分化条件では、低頻度の神経分化能がみられたので、CL6細胞は心筋細胞分化にコミットメントはしていないが、p19細胞より心筋分化しやすいところに位置する細胞と考えられる。従ってCL6細胞は、心筋細胞へのコミットメントや分化のin vitroでの研究に有効と考えられ実験を進めている。
著者
角井 誠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究は、フランスの映画監督ジャン・ルノワールの演技指導のあり方を明らかにすることによって、フランス映画を演技論の観点から再考し、映画における演技の独自性を解明することを目的としている。本年度も昨年度に引き続き、パリの映画図書館(BIFI)などにおいて作品の製作資料や映画雑誌の調査を進め、ルノワールの演技論や演技指導のあり方を同時代の演技をめぐる言説や実践のなかに置き直すことを試みた。本年度はとりわけ、昨年度に行ったサイレント時代におけるルノワールの演技論についての研究を踏まえたうえで、トーキー以降の演技論について検討した。具体的には、トーキー移行期のルノワールが、一方で台詞を警戒する前衛的な立場から距離を取りつつ、他方で当時主流となった、台詞を中心とする演劇的な映画とも一線を画しつつ、人物の個性に即した独自の声の演出、演技指導のあり方を模索していった過程を当時の資料に基づき考察した。また、その過程で確立されていった、テクストの朗読による「イタリア式本読み」と呼ばれるリハーサル方法についても、同様の方法を用いていた舞台演出家ルイ・ジュヴェとの関係性という観点から検討を行った。以上の作業を通じて、同時代の映画および演劇における言説を背景に、ルノワールの演技論の輪郭を浮かび上がらせる手がかりを得ることができたと考えている。これら研究の成果は、早稲田大学演劇博物館グローバルCOE「演劇・映像の国際的研究拠点」の紀要および国際シンポジウム「ACTING-演じるということ」において発表した。
著者
永嶋 正春
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

全国的な視野の元で、遺跡から出土した数多くのベンガラ系赤色顔料資料の調査を実施し、またベンガラ質岩石の所在や自然露頭に関する情報収集にも努めた。以上の作業を継続して実施したことで、日本におけるベンガラ系赤色顔料の実態を概ね明らかにすることができた。パイプ状ベンガラ顔料のあり方が概括できたわけである。1 パイプ状ベンガラ顔料の存在が、北海道から九州に至るまで全国的に確認され、また時代も縄文時代早期から古墳時代に至るまでの非常に長い期間に渡って使われていたことを、出土資料に即してより具体的かつ綿密に捉えることができたのは、予め想定されていたことではあるものの大きな成果であった。2 これらの作業の中で、長野県下の資料に縄文時代前期初頭の漆資料を検出できたことは、日本の初期漆文化を考える上できわめて重要な知見となる。3 同じく作業中の成果として、熊本県玉名市柳町遺跡出土の木製短甲に、4世紀初頭の文字の存在を確認できた。パイプ状ベンガラ顔料の研究は、単に赤色顔料の研究にとどまるものではないことを実証した事例として重要である。4 自然露頭におけるパイプ状ベンガラの産地は未だ発見されておらず、その追求はこれからの大きな課題として残ったままである。しかしながら、パイプ状ベンガラの元形態がペレット状である事実が確認できたことは今後に向けた大きな情報と言うことができる。
著者
羽山 伸一
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウム濃度を測定し、その経時的変化や季節変化を明らかにした。セシウムは、2011年4月に25,000Bq/kgと高濃度を示した後、同年6月には1,000Bq/kg程度にまでいったん減衰したが、冬季に2,000 から3,000 Bq/kgに達する個体が見られた。こうした冬季にセシウム濃度が上昇する現象は、これ以降も本研究最終年度である2015年度まで毎年観測された。また、サルの繁殖パラメータへの被ばく影響を明らかにするため、妊娠率を2008年度から継続して推定した。その結果、50%程度であった妊娠率が、2014年度(2015年出産)には20%に低下していた。