著者
富澤 浩樹 阿部 昭博
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,OPACで管理された震災関連資料(以下,資料)の利用活性を目的としている.具体的には,資料の収集・保存・公開活動とその利活用を一体的に捉えたシステムデザインに基づいて試作システムを研究開発するとともに持続可能なシステムの在り方について検討し,その運用モデルを構築していく.昨年度は,震災学習・スタディツアーの知見整理と現地調査を行った.そして,それらを踏まえて試作システムの機能改善を行い,新たな課題を抽出した.今年度は,これまでの成果を総合的に検討した上で,主に以下の2点を進捗させた.1.試作システムの改善と新資料作成WSの詳細設計昨年度新たに見出された試作システムの主な課題として,(1)現地調査時に撮影された複数画像データのアーカイビング,(2)資料へのタグ付けの効率化,がある.(1)については複数画像をスポット毎にアーカイブ可能とする改善を施し,(2)については行政資料の多くがPDF形式で公開されていることに着目し,PDFを対象としたメタデータの半自動付与機能を研究開発した.そして,新資料作成WSの詳細設計を行った.2.新資料作成WSの試行と評価及び課題抽出関係者及び対象層へのヒアリングを踏まえ,「震災を通して学ぼう!テーマ発掘プロジェクト」と題して市民及び学生参加者を募り,新資料作成WSを実施した.その結果,参加者の調べ学習の成果の他,岩手県山田町と陸前高田市を対象としたスタディツアーのレポート(行程,参加者の意見・感想,画像データ)が試作システムにアーカイブされ,同WSの最終回(振り返り)で用いられた.本試行について,参加者及び関係者からは概ね肯定的な評価を受けたが,システムを効果的に用いるためにより多くの参加者を巻き込む必要があることが明らかとなった.
著者
辻 慶太
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

日本の大学図書館では,学生はWikipediaのページを閲覧し,図書館の蔵書は閲覧せずに退館する傾向がある。Wikipediaは調べ物や学習にとって有用な情報源であるが,図書館の蔵書も利用した方がより深い知識が得られるはずである。もしWikipediaの各ページで,そのページに関連する図書館蔵書が表示されたら,学生はその図書を利用するかもしれない。そのような前提の下,本研究では図書館内のパソコンのブラウザ上でWikipedia閲覧者に図書推薦を行うアドオンを開発している。上記アドオンは,(1)各Wikipediaページの内容を把握し,コンピュータ処理可能な形で表現して,(2)各蔵書の内容とのマッチングを行い,内容の類似などに基づいて,適切な推薦図書を決定する。平成28年度には,このうち(1)に関する研究を行い,国際会議QQML 2017 (9th Qualitative and Quantitative Methods in Libraries International Conference) で発表した。具体的には“Automatic Classification of Wikipedia Articles by Using Convolutional Neural Network”というタイトルで,8ページの国際会議論文を,5月25日にアイルランドのリムリックで発表した。内容としては,Wikipediaの3,985ページに対して日本十進分類法(以下,NDC)の分類コードを付与し,300ページをテスト用,残り3,685ページを学習用とし,深層学習の畳み込みニューラルネットワークを用いて,NDCコードを付与する実験等を行った。結果,87.7%という十分な精度を得た。
著者
古瀬 蔵 相田 満 青田 寿美 鈴木 淳 大内 英範 山田 太造 五島 敏芳 後藤 真
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

日本文学分野およびその隣接領域のデータベースについて、情報連携の仕組みを導入することと、オープンデータ化の環境を整備することである。データベース単位だけでなく、データベースの中の個々のレコード単位で情報を連携させ、異分野を含む様々なデータベースとの相互運用を実現し、日本文学研究者に限らず多くのインターネット利用者に、日本文学の情報を知らせ利用してもらう環境作りを行うために、案内型検索を中心に日本文学関連のデータベースの情報アクセスの研究を行った。今年度は、情報収集型検索での情報アクセス支援の検討を重点的に行っていくために、まず当初の目的の情報に到達することを目指すことに加えて、検索結果が利用者にとって予期しない探しているものとは別の価値ある情報を提供し、気付きや発見へ遭遇する機会となるセレンディピティの発現を重視し、研究活動に於いて、その関連する情報を提示する情報連携により、様々なデータベースでの情報空間で連続的に探索を行え、セレンディピティをもたらし知識を広げていくことの活動の様相を重点的に記録してもらった。また、人間文化研究機構の100以上の人文学データベースを検索対象とする統合検索システムnihuINTでも、歴史学や日本文学の一部のデータベースなどを題材に、データベースの情報をRDF(Resource Description Framework)という知識表現形式で表わして、データベース横断での情報連携を実現する試みが始められ、本研究でも、データベースの情報をRDF化して情報連携の仕組みを構築するための開発をおこなった。
著者
神門 典子 吉岡 真治 山本 岳洋 酒井 哲也 相澤 彰子 大島 裕明
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成28年度の研究実績の概要は下記の通りである。(1)ユーザの状況の捕捉と分析:探索的検索の例として、網羅的な情報探索タスク、探索中のユーザの時間認識、および、モバイル検索と音楽検索における複雑さの異なる検索タスクにおいて、ユーザ実験を行い、ログと、視線・インタビュー・アンケートなどのインタラクションデータを収集し、タスクと状況に応じた傾向を分析した。(2)ユーザの状況に応じて、ユーザを支援する技術: a) 網羅的情報探索のタスクにおいて探索を支援するクエリ推薦インターフェース、b) マルチファセット検索インタフェース、c)検索結果の多様化と多段階要約提示、d)ファセット検索の精緻化に必要な要素技術として 1) Wikipedia、DBPediaなどからのNamed Entityの属性抽出と組織化、2)文書中の非自然言語要素(数式など)へのアクセスについて、研究を進めた。上記a)は、あるクエリに対する未知の適合情報を含む度合いを、観点多様性と既知適合情報のディスカウントを考慮して定式化している。ユーザ実験の結果、既存方式よりも有効なことが示唆された。b)は、広く多様なタスクに適用可能な基盤技術の一つである。c)は、モバイル検索など、画面の小さいデバイスを用いて、探索的な検索において、特に有用である。(3)検索の基礎技術として、検索の多様化について研究を進めた。また、検索実験の規模(とくに、検索課題(topic)数)による実験結果の信頼性・妥当性を検証する方式を提案し、数学・統計学の理論に基づいて考究するとともに、多くの実例に適用して検証をすすめた。
著者
杉本 重雄 永森 光晴 森嶋 厚行 柴山 明寛 三原 鉄也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度の研究から、ポップカルチャや途上国の文化財等の文化的コンテンツの利活用性向上には、よく組織化されたアーカイブデータとWeb上の多様なコミュニティ発信情報を横断的・統合的に扱う必要があるとの知見を得た。そのため、アーカイブ横断的・統合的なメタデータ集約技術研究における重要な対象であると判断し、東日本大震災アーカイブに加えてそれらも本研究の中心的な対象として研究を進めることとした。以下、先述の主要研究課題に基いて述べる。課題1:震災アーカイブに関して、第3者による非高品質なメタデータを基礎としつつ、利活用性を高めるための手法が中心課題である。ここでは主題語の共起関係によるメタデータ集約、メタデータから取り出した地域の組織や施設等を表す語に基づく地域指向のオントロジーや地理的実体のLODデータの作成を行い、一定の成果は出したがこれら全体をまとめることは次年度に残されている。文化的コンテンツについては、それぞれの領域で基本的なメタデータ集約のためのモデルを開発し、かつ国際連携も行っている。課題2:津波ディジタルライブラリ(TDL)の研究グループとの連携を進めた。TDLのテキストと前述の地理的実体LODを利用することで過去の災害とのリンク付けに関する研究を進めることができると考えている。文化的コンテンツについては、これまでの成果が、マンガ等を中心としたWebリソースと文化庁のメディア芸術データベースとの結びつけ、国際連携によるモデルの精緻化と発信につながると考えている。課題3:TDLの利用を進めること、デジタルアーカイブネットワーク(DAN)等を利用した実務者と結びつく活動、メタデータ作成や編集におけるクラウドソーシング技術の利用に関わる研究等をコミュニティ連携に関わる研究として進めたいと考えている。また、国内外の研究者との連携、海外発信については想定以上に進んでいると考えている。
著者
安藤 友張 高鷲 忠美 根本 彰
出版者
九州国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-10-20

本研究は,文部官僚などが遺した一次資料に基づき,戦後日本における学校図書館法の法案作成過程の要諦を明らかにすることを目的とした。先行研究で使用されなかった新資料に依拠し,国会に上程されるまでの法案の変遷について,主な3つの諸案の特徴を摘出し,それらを比較検討した。法案上程までの過程において,文部省,全国学校図書館協議会,政党間には対立があり,紆余曲折していた。法案の作成過程において,司書教諭の免許制度が任用資格制に変更された背景には,当時の文部省の教員養成政策や高等教育政策が大きく影響していた。さらに,同省は,学校図書館法の立法化に関して,代案として「学校図書館振興法案要綱」を作成していた。
著者
根本 彰 白石 さや 高橋 亜希子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

探究型学習は学習指導要領上はきわめて重要な位置づけになっているが,現実的にそれを実施する方法はきわめて多様である。本研究では,東京大学教育学部附属中等教育学校で行われている卒業研究に焦点をあてて,探究型学習の進め方について,研究のテーマ設定,研究の方法の選別と実施,研究の執筆と口頭発表の3つのプロセスを解明することを行い,そのなかでとくに,テーマ選定と図書館を利用した研究支援を中心とした。3年間の研究期間中の毎年度終わりに,執筆者への質問紙調査を行い,これらの支援がなかったときと支援が行われたときとを比較して,執筆者に一定の効果があったことを明らかにしている。
著者
荒木 陽子
出版者
北海道情報大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究により英語多読学習用の書籍群へYA文学やクロスオーヴァー文学を組み込み、その翻訳や関連書籍を日本語で読むことを奨励し、読書量の増加しようとする試みは容易ではないことがわかった。ただ2年間にわたり学生の読書傾向を追跡することにより、英語圏で人気のYA文学よりも、むしろなじみ深い「名作」や映画の原作の方が、学生の読書を増加させる傾向、さらには、1年次に多読専用図書以外に手が伸びた学生の多くが、大学入学以前より読書習慣を持っていること、さらには読書が好きでも「忙しさ」を理由に2年目には読書をしていないことなど、大学入学以前の読書習慣を生涯教育へとつなげていくために重要な情報を得ることができた。
著者
川原 亜希世 松﨑 博子 三浦 太郎 根本 彰
出版者
近畿大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

東京大学大学院の図書館情報学研究室には初代教授であった裏田武夫が残した戦後の図書館職員養成教育の成立に関わる資料が残されていたが、劣化が進み、利用及び保存が難しい状況にあった。科研費によってこの資料を保存するための処理と、電子データ化を進め、資料の利用及び分析を可能とした。この資料に含まれていた、初期の司書講習に関する記録を用い、戦後公共図書館員の現職者教育として始まった司書講習について調査を行った。当時5年間で講習によって現職者の再教育と資格付与を行う計画が完了しなかった原因を分析し、今後学校司書資格が設けられた場合必要となる、学校図書館職員の現職者教育に対する提言をまとめた。
著者
青柳 英治 長谷川 昭子
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、専門図書館職員のキャリア形成のあり方を検討するため、聞き取り調査と質問紙調査を行い、専門図書館職員の知識・技術の習得状況、親機関の人材育成に対する方針を考察した。その結果、聞き取り調査から、専門図書館職員のキャリア形成のプロセスと、キャリア形成のプロセスに影響を及ぼす要素を明らかにできた。質問紙調査から、管理者を通して人材育成の実態と問題点などを明らかにできた。
著者
中井 孝幸
出版者
愛知工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

地域再生の視点から「島まるごと図書館構想」など住民に読書習慣を根付かせている海士町の中央図書館と各分館で調査を行い、中央館と分館を図書だけでなくセルフカフェなどで使い分ける充実利用など多様な利用が見られた。図書館を含む複合施設を対象に、図書館や他の施設、共用部の利用状況から利用者属性別に施設内での居場所や利用行動を調査し、属性別で図書館と共用部で行為に差が生じ、機能や空間のつながりによって各属性で居場所を使い分けていた。大学図書館では、個室やラーニングコモンズ、グループ室といった学習環境の座席選択利用から、学習環境としての場として6段階程度に分けて認識して利用していると整理した。
著者
森 新之介
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は研究成果を論文2本と研究ノート1本、訳註1本、そして学会発表1回として公表した。また、来年刊行予定の事典の項目2つを担当した。研究計画における個別研究c)「慈円『愚管抄』と虞世南『帝王略論』」としては、初年度に学会発表した内容を発展させて論文「虞世南『帝王略論』の聖人窮機論と九条兼実」を刊行した。本稿では、九条兼実が後白河院への申状に記した「聖人之道、察機応時」という文は、その数箇月前に読み合わされた虞世南『帝王略論』の聖人窮機論に由来することを論証した。また、その研究過程で得られた知見を研究ノート「慈円『愚管抄』の冥顕論と道理史観」と訳注「慈円『愚管抄』巻第七今訳浅註稿」として刊行した。前者では、「冥とは目視できない世界のことであり、仏神と権者、怨霊、邪鬼の四つが冥衆だ」という通説を批判し、『愚管抄』に17例ある「冥」は、すべて仏神の意か、道理や作為、作用の冥然として知り難いことの意だと論証した。後者の訳註は、『愚管抄』の先行訳註にあった幾つかの問題を克服し、学界に便を供するために作成した。また、a)「新儒学中心史観の形成過程」として、学会発表「江戸前期における道統論と儒家神道」を行い、初年度の学会発表と合わせて論文「江戸前期における道統と華夷、神儒――神代上古の叙述に着目して――」を刊行した。本稿では神代上古の叙述に着目し、江戸前期における華夷論や神儒論の多くは、自国意識を脅かす外来思想への自衛反応でもあったと見るべきであろうことを指摘した。
著者
高田 宗平
出版者
大阪府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度も資料の蒐集・調査・分析に注力した。①清原家以外の公家・官人層、顕密僧の漢学実態を解明するため、京都大学総合博物館所蔵勧修寺家文書、国立歴史民俗博物館所蔵の廣橋家旧蔵記録文書典籍類並びにその同館所蔵資料、国立公文書館内閣文庫所蔵資料を調査・分析し、データ集積を図った。その成果の一端を上海師範大学で開催された国際学術会議「古寫本經典的整理與研究國際學術研討会」にて発表した。②日本中世に於ける漢学の実態を解明するため、日本古代中世に於ける類書利用について調査・分析した。③日本中世に於ける『論語義疏』の受容の実態を解明するため、精力的に日本古典籍所引『論語義疏』を蒐集し、それらと旧鈔本『論語義疏』等とを比較検討した。その成果の一端は国際学術雑誌『域外漢籍研究集刊』に投稿し、掲載された。また、台北へ出張し、台北故宮博物院図書文献館にて旧鈔本『論語義疏』を調査し、国家図書館にて関連資料を蒐集した。①の成果を中国哲学、経学、敦煌本・吐魯番学、中国古典文献学、仏教文献学などを専門とする日中学者が出席した上記国際学術会議にて発表し、また同国際学術会議の「總合討論」にて、日本伝存漢籍旧鈔本・古鈔本、日本古典籍所引漢籍の特徴・意義について提起し、討議できたことは大きな成果である。席上、上海師範大学哲学与法政学院教授 石立善氏、浙江大学古籍研究所教授 許建平氏、南京師範大学文学院副教授 蘇ホン(艸+凡,peng)氏、等と情報交換し学術交流した。③に関して、同上国際学術会議にて『論語義疏』についての発表のコメンテーターを務めた。また台北故宮博物院図書文献館にて、同館の諸氏と情報交換し学術交流した。上記のように、上海の国際学術会議にて研究発表と討議し、海外に発信でき、上海と台北にて海外の研究者と情報交換し、学術交流できた。この成果は学術ネットワークの基礎を築く一歩を踏み出すことになると言える。
著者
Slater David FULCO FLAVIA
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-11-09

Dr. Fulco’s research was meaningful for the progress of the project“Voices of Tohoku”. Her interdisciplinary approach between humanities and social sciences was particularly successful in emphasizing the importance of individual and collective memory to build more resilient communities.She established her fieldwork in Minamisanriku (Miyagi) to follow the activities of a group of kataribe (storytellers of the disaster), and analyze the connection that they have with their community. She conducted one-to-one interviews with kataribe practitioners and other people involved in the recovery process to collect background data.Through participant observation and interviews, she attempted a classification of who they are, how they assume this role in their community and which are their preferred audiences. Analyzing the practice of kataribe identified which and whose are the stories they tell during the tours. To diffuse the partial results of her research during the fellowship she participated in several international conferences both abroad and in Japan. She was invited to conduct three lectures in Japan. She is currently working on three journal articles and one book chapter that will be soon ready for peer-review. She also started a project to explore and promote cultural practices in post-disaster areas involving photography. As part of this project she organized an exhibition at the Italian Institute of Culture in Osaka.
著者
塚原 伸治
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

(商店街の展開期に関する研究) おもに、昭和戦前期までの時期について、千葉県香取市と福岡県柳川市の中心市街地における商業がどのような事情にあったのかについて分析をおこなった。『柳川新報』(明治36(1903)年発刊)、『さはらタイムス』(明治41(1908)年発刊)という2つの地元紙を中心に、適宜各商家の所有する史料を参照しながら、商店街の「展開」期における具体的な経緯や、背景などを理解した。国が戦争へと向かう時期における商店街の対応や反応について理解が進んだが、反面、戦時中という事情から、公刊された資料のみで状況を理解することの困難さが浮き彫りとなった。また、戦中戦後期においては、旧藩主家が大きな変化を被り、市内の実業家として定着していった時期でもあるため、立花家の動向についてもより注視して理解していく必要があることが明らかになった。(商店街の現在に関する研究) 予定通りに長期調査を実施することができなかったが、インフォーマントが関東に来訪するタイミング等を利用して調査を進めた。フィールドの外部でおこなわれる商人たちの活動に予定外に立ち会うことになったことで、「シャッター商店街」言説の裏で必ずしもローカルな文脈にとらわれない商売が展開されていることが明らかになった。(成果公開) 前年度の研究成果である論文が、「商店街前夜―買い物空間の創出と商店主たちの連帯―」として、『江戸-明治連続する歴史(別冊環23)』(藤原書店、2018)に掲載された。
著者
三浦 敦 寺戸 淳子
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度に引き続き、海外共同研究者の協力を得て、次の調査を行った。・カンボジアに海外ボランティアに行った学生について、ボランティア期間中およびボランティア期間終了後のその学生のSNS利用(特にLINE)と、彼らがとってLINEに載せた写真、およびLINE上の文字や画像による会話について、データ収集を行った(三浦)。そのデータについては現在、解析中である。・介護ボランティア活動を行う北海道の施設において、その活動の状況について参与観察調査を行った(寺戸)。この研究では、まだ彼らのSNS利用についての調査までには至っていないが、基礎的なデータはほぼ集まりつつある。・介護実習を行う大学生に関して、その学生の介護実習への関わりとSNS(LINE、インスタグラム、フェイスブックなど)利用の状況について、参与観察及びインタビュー調査を行った(デュテイユ=緒方)。また、埼玉大学および早稲田大学において、運動部(ダンス部および柔道部)に所属する学生たち、およびスポーツ実習に参加する学生を対象に、スポーツ活動とSNS利用およびSNS上の写真投稿の関連性について、参与観察調査およびインタビュー調査を行った(デュテイユ=緒方)。あわせて、早稲田大学スポーツ科学部のスポーツ人類学研究室において意見交換を行った。以上の諸研究については、現在、データをまとめているところであり、理論的考察も含めて、次年度においてその成果を、国際会議および国際ジャーナル上において公表する予定である。
著者
吉田 早悠里
出版者
南山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、2017年8月6日~9月5日にかけての約1ヶ月間、エチオピア・オロミア州ジンマ県ゲラ郡に位置するムスリム聖者が暮らす一集落で現地調査を実施した。具体的には、主に以下の3点について調査を実施した。(1) 集落内外の個人・集団間関係:2016年度に調査を行った対象集落の住民74世帯に加えて、近隣集落に居住するムスリムとキリスト教徒、およびオロモ、アムハラ、カファといった民族にも調査対象拡大して世帯調査を実施した。これにより、調査対象集落の住民74世帯が、集落内外でどのような個人・集団間関係を構築し、生活しているのかを具体的に明らかにすることができた。(2) 集落における研究代表者の立場:研究代表者が同集落における重要なアクターとして位置づけられるようになった要因を明らかにするべく、研究代表者の存在がどのように集落の住民にとらえられているのかについて聞き取り、観察を行った。また、集落を拓いた聖者アルファキー・アフマド・ウマルはさまざまな予言を残しており、そのなかには「外国人」に関する予言もある。集落の住民がこうした予言をどのように解釈し、「外国人」と研究代表者をどのように関連づけているのかについても検討した。(3) 集落が置かれた現代的状況:調査対象の集落は、1940年代に宗教的実践を重視する集落として形成、維持されてきたが、特に1991年以降のEPRDF政権のもとで、さまざまな変化を経験している。そのひとつとして、外国政府やNGOによる援助がある。同集落が位置する郡では、JICAが2003年から参加型森林管理計画プロジェクトを実施してきた。こうしたプロジェクトが、集落にどのような影響を与えたのかについても検討し、コラムとして発表した。
著者
磯本 宏紀
出版者
徳島県立博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、近現代の移住漁民集団の移動と定住について、アワ船団、遠洋カツオ・マグロ船団,潜水器漁民集団、一本釣り漁民集団の4つの漁民集団に属する漁民に着目して、その実態を明らかにし、それぞれの漁民集団の比較研究を行うことを目的としている。平成29年度には、次のとおり現地調査及びアンケート調査を行い、調査データを得た。①4月から6月にかけて、以西底曳網漁業の船員経験者に対するアンケート調査を長崎市及び福岡市において実施した。28年度に計画していたものであるが、29年度に実施することができた。あわせて、データの集計、分析についても行った。②5月には福岡市において以西底曳網漁業(アワ船団)の経験者を対象に聞き取り調査を実施した。また、以西底曳網漁船の漁労長による漁撈日誌に関する調査も行った。③12月には以西底曳網漁業を行っていた福岡市の水産加工会社において、社史編さん事業等に使用された以西底曳網漁業に関する文献調査を行った。④12月には以西底曳網漁業の関係者が同郷者集団として実施している長崎市における阿波踊りに関する聞き取り調査を実施した。唐津市では一本釣り漁民等として鳴門市堂浦から移住した漁民を対象として聞き取り調査を実施した。なお、本研究の成果について、『生活文化研究』(大韓民国国立民俗学博物館)『徳島地域文化研究』(徳島地域文化研究会)誌上に論文等2本を執筆し、9月にソウル市で、10月に徳島市で、3月に佐倉市で口頭発表等3回行った。
著者
會田 理人
出版者
北海道博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、明治期から昭和戦前期の北海道利尻島・礼文島、松前小島における海女の活動に焦点を当てて、海女出稼ぎ漁の歴史、および海女の道具・技術、さらには海女が採取した海産物の流通・利用、資源保全の実態などを、歴史学・民俗学の双方向から調査・分析を行う。その上で、北海道における海女出稼ぎ漁の歴史を明らかにするとともに、磯まわり資源の保全を取り巻く様々な環境の変化と、こうした状況への対応を考察することを目的としている。平成29年度は、研究代表者が勤務する北海道博物館において、同館所蔵の磯まわり漁具の再調査を実施して、それぞれの資料が有する特徴などの整理を行った。また、明治期から大正期の『小樽新聞』、『樺太日々新聞』掲載のコンブやアワビ、テングサなどの磯まわり資源に関する記事を収集・整理するとともに、記事内容のデータベース化を行った。新聞資料調査から、明治期から大正期の北海道日本海沿岸地域、樺太亜庭湾沿岸地域における採取物の種類・採取期ごとの漁況や、採取物の加工商品の流通・販売、道内外の商況など、海女出稼ぎ漁を取り巻く環境を再検討する作業を進めることができた。『小樽新聞』の調査は、主に小樽・積丹半島を中心とする地域の磯まわり漁や海産物の加工・販売、商況、北海道利尻島・礼文島の海女出稼ぎ漁に関する情報を収集するためのものである。『樺太日々新聞』の調査は、樺太亜庭湾沿岸地域の磯まわり漁などに関する情報を収集するためのものである。今後も引き続き新聞資料調査を継続して、海女出稼ぎ漁に関する記事の収集を続ける必要がある。
著者
高木 史人 矢野 敬一 立石 展大 蔦尾 和宏 伊藤 利明 生野 金三 浮田 真弓
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は当該研究の2年目として、平成28年度に行ったシンポジウムの成果を活かして、さらなる研究の深化を期した。具体的には国語科の文部科学省検定済教科用図書及びその教師用指導書に徴して、「伝統文化」教材の扱われ方と指導書における指導法への言及の分析を進めた。なお、平成29年告示の『小学校学習指導要領』では、従来の学習指導要領における国語科の「3領域及び1事項」という区分が見直された。従来の1事項が〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕であったものが、今次の学習指導要領では大きく〔知識及び技能〕〔思考力、判断力、表現力等〕〔学びに向かう力、人間性等〕の3本の柱が立てられ、その中の〔知識及び技能〕が「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」「(2)情報の扱い方に関する事項」「(3)我が国の言語文化に関する事項」に分かたれ、その(3)が従来の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の前半「伝統的な言語文化」部分に相当するものと見られる。この間の学習指導要領の推移、変化の分析に多くの努力を行った。これらは生野金三・香田健児・湯川雅紀・高木史人編『幼稚園・小学校教育の理論と指導法』(平成30年2月、鼎書房刊、206ページ)にまとめられた。また、高木は「社会的・共=競演的でひろい悟り」へのアプローチ―小学校教育史、国語科教育史との係わりから―」(『口承文芸研究』第41号、平成30年3月、日本口承文芸学会刊)において平成29年12月に行った科研費メンバーによるシンポジウムの概略を紹介しつつ、現行の伝統文化教育の根拠となっている平成18年改教育基本法第2条第5項の淵源が、昭和16年3月改正の小学校令第1条第3項にあることに触れて、日本の長い教育史の中ではこれは伝統的でなったことと結論づけた。伝統という語じたいが昭和初期の流行りであった。