著者
大原 國俊 茨木 信博
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

老人性白内障の成因として、水晶体に対する自己抗体が水晶体上皮細胞を障害するのではないかという自己免疫機構の関与を解明することを目的とした。平成8年度において、マウスで作成された、水晶体上皮細胞の特異蛋白であるベータ・クリスタリンに対する抗体が、補体の存在下で30%の細胞死をもたらし、水晶体線維細胞への形質転換も阻害すること、また、本抗体が水晶体上皮細胞の細胞表面に結合することを明らかにした。平成9年度は、白内障患者血清中に水晶体上皮細胞に対する自己抗体が存在するか否かを検討するために、白内障患者血清と正常者血清の培養ヒト水晶体上皮細胞に及ぼす影響を調べた。その結果、10倍希釈の患者血清では55%の水晶体上皮細胞死が認められるのに対し、正常者では同希釈濃度でも数%しか細胞死は認められなかった。患者血清が水晶体上皮細胞死に与える影響は、濃度依存性があった。また、血清を熱処理し、補体を不活化させるとその影響は半減し、補体の関与が示唆された。本研究で得られた、水晶体上皮細胞の特異蛋白に対する抗体(ベータ・クリスタリン抗体)が水晶体上皮細胞に結合し種々の障害を与えるという事実と、白内障患者血清そのものが水晶体上皮細胞に障害を与えること、これらの影響は補体の存在が必要であるということから、水晶体に対する自己免疫機構が老人性白内障の成因の一つであることが強く示唆された。
著者
山田 格 和田 志郎
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,台湾,タイ,中国,韓国の54施設に所蔵されている計93個体の中型ナガスクジラ属標本について,形態学的ならびに分子生物学的調査を行い,形態学的には38個体,分子生物学的には24個体のツノシマクジラ(Balaenoptera omurai)を確認した.調査の過程でツノシマクジラとの誤同定の可能性が取りざたされていたいわゆるニタリクジラ(Bryde's whales)に含まれるカツオクジラ(Balaenoptera edeni),ニタリクジラ(Balaenoptera brydei)は,それぞれ35個体(形態),23個体(分子)と形態および分子とも1個体であったが,カツオクジラ(B.edeni)のタイプ標本(カルカッタのインド博物館で展示中)と,当初からタイプ標本が存在しないニタリクジラ(B.brydei)については,タイプロカリティで収集されたBryde's whaleとされる標本の精査を行った.また,国立科学博物館独自の予算で,フィリピンおよびインドネシアで調査した個体で全般的にはB.edeni-B.brydei Complexの特徴をもちながら,頭頂骨の形態が異なっている個体に遭遇したが,これらは南アフリカのニタリクジラ(B.brydei)のタイプロカリティで収集された個体にも見られる特徴であることを確認した.従来,タイプロカリティ(響灘,ソロモン海)のみで知られていたツノシマクジラの分布範囲は北緯40°から南緯40°,東経90°から140°の範囲であることを確認した.また,おそらくツノシマクジラは相対的に沿岸性で,カツオクジラと類似しているが,ニタリクジラはかなり外洋性である可能性が高い.タイ湾では,北緯8°付近を境界に,それより北ではカツオクジラ,南ではツノシマクジラが収集されていることが注目される.
著者
板井 広明
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

英米日の食にまつわる近年の動向を調査し、現代の食糧事情や環境問題、人口問題、それらに関連する倫理的問題に目配りしつつ、持続可能性を考慮した食の倫理とは何かを、ベンサムの古典的功利主義を軸に検討した。苦痛を回避すべしという功利主義的倫理はヴェジタリアンの食と有機農業を推奨するが、有機農業の現状は必ずしも持続可能なものではなく、日々の食生活において単に野菜をとるだけでなく、地域循環型かつ持続可能な有機農産物を食することが倫理的であることを暫定的な結論とした。
著者
小林 直樹 篠原 歩 佐藤 亮介 五十嵐 淳 海野 広志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

本課題では、高階モデル検査の(1)理論的基盤の強化とそれに基づく高階モデル検査アルゴリズムの改良、(2)プログラム検証への応用、(3)高階モデル検査の拡張とそのプログラム検証への応用、(4)データ圧縮への応用、の4つを柱に研究を進めている。以下、それぞれの項目について、平成28年度(およびその繰越として遂行した平成29年度の一部の結果)について述べる。(1)理論的基盤の強化:HORSモデル検査とHFLモデル検査という2種類の高階モデル検査の間に相互変換が存在することを示すとともに、HFLモデル検査問題を型推論問題に帰着できることを示した。後者の結果に基づき、HFLモデル検査器のプロトタイプを作成した。また、高階文法の性質について調べ、語を生成するオーダーnの文法と木文法を生成するオーダーn-1の文法と間の対応関係を示した。さらに、高階モデル検査アルゴリズムの改良を行い、値呼びプログラムに対して直接的に高階モデル検査を適用する手法を考案、実装した。(2)プログラム検証への応用:プログラム検証で扱える対象プログラムや性質の拡充を行い、関数型プログラムの公平非停止性の検証、コード生成プログラムの検証、動的なスレッド生成を伴う高階並列プログラムの検証、などを可能にした。(3)拡張高階モデル検査:HORSに再帰型を加えて拡張したμHORSに対するモデル検査アルゴリズムの改良を行い、その有効性をJavaプログラムの検証を通して示した。(4)データ圧縮への応用:データをそれを生成する関数型プログラムの形に圧縮する方式(高階圧縮)について、圧縮後のプログラムをビット列に変換する部分の改良を行った。また、高階圧縮のための様々な要素技術について研究を進めた。
著者
西田 泰民 宮尾 亨 吉田 邦夫 八田 一 ピーター マシウス
出版者
新潟県立歴史博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

これまで国内では報告例がなかったが、旧石器時代石器・縄文時代遺構埋土・縄文時代石器・縄文時代珪藻土塊・擦文時代遺構埋土・縄文土器炭化付着物いずれからもデンプン粒を検出することができた。これにより日本のような中緯度温暖湿潤地域でも長期間デンプン粒が保存されていることが明らかになった。各考古学資料からのデンプン抽出作業をおこなう一方で、堅果類、根菜類を中心に在来食用植物の対照現生サンプル作成をおこない、240件作成した。遺物からの抽出方法や取り扱い、同定方法については先駆的研究が行われたオーストラリアよりシドニー大学フラガー博士を招聘し教授を受けた。デンプンの分解過程を解明をするため国立民族学博物館および新潟県立歴史博物館で実験石器の埋没・放置実験を半年間実施した。土器からの食性分析の手がかりとなる炭化物のモデル生成実験をおこなった。30種類の異なる食材を縄文土器に見立てた素焼き土器で薪燃料により煮沸し水分がなくなるまで加熱する実験を計60回行った結果、それぞれ性状の異なる付着炭化物が生成した。一部を採取して炭素、窒素安定同位体分析を行い、炭化前後の同位体比の変動を計測した。その結果を実際の出土炭化物と比較した。縄文時代において主たる炭水化物源となっていたと考えられ、旧石器時代も利用されていた可能性がある堅果類の加工法の一端を探るため、あく抜きをしていない堅果類と他の食材の混合比率を変えた材料を用意し石蒸しによる調理実験を行い官能検査によって可食化の可能性を検討した。タンパク質が渋みの軽減に寄与することが明らかとなった。縄文時代中期の石皿類・磨石類の集成から各属性の分析を行い、中期に食物加工用具としての意識の転換が生じた可能性があることが判明した。
著者
北畠 直文
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

これまでの研究において,茶の渋味については、茶抽出液ならびにタンニン酸とヒト耳下腺から採取した唾液について、その沈殿形成と渋 味発現の関係、ならびに沈殿形成にかかわる唾液中のタンパク質の同定等について検討、渋味抑制方法の開発等の研究を行ってきた。さらに、茶の成分であるカテキン類を用いて、カテキンと唾液たんぱく質との相互作用を調べた。また、先の研究においてゼラチンが唾液たんぱく質と渋味成分であるタンニン酸との相互作用を阻害し、結果として渋味の発現を抑 制することを見出していたが、用いるゼラチン素材の種類によって差異があり、抑制効果とゼラチン分子との関連について検討を進めた。続いて、タンニン酸以外の渋味成分について検討を進めた。ヒト耳下腺唾液、顎下・舌下腺唾液を別々に採取し, それぞれについて渋味を呈する①タンニン酸,②ミョウバン,③塩酸を用いて,唾液と混合した場合の沈殿の生成について検討した。 ①のタンニン酸については、耳下腺唾液と顎下・舌下腺唾液では沈殿形成に顕著な差異が見いだされ、反応する唾液成分が異なり、またその挙動(沈殿形成時間や混合比)にも違いを認めた。当該年度においては、上記の①タンニン酸,②ミョウバン,③塩酸の渋味についてさらに検討を加え、あわせてこれまでに顎下腺唾液に含まれるたんぱく質が渋味発現に重大な役割をもっていることを示唆する結果を得ていたので、これについてさらに検討を進めた。しかしながら、大学の管理運営業務等のため研究は遅れ、研究論文作成も遅延している。よって、これらを完遂すべく、昨年度末に期間延長を申請し、承認を受けたところである。
著者
高島 郁夫 苅和 宏明 森田 公一 只野 昌之 竹上 勉 江下 優樹 水谷 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究において、日本に存在しているかまたは侵入の可能性のあるフラビウイルス感染症の流行予防のための診断法の開発、病原性の解明および蚊の調査に関する研究を実施して以下の成果を得た。1.診断法の開発1)ウエストナイル熱について、RT-PCR RFLP法、リアルタイムPCR法およびRT-LAMP法による遣伝子診断法を開発した。この方法によると簡便な設備により、ウエストナイルウイルスと日本脳炎ウイルスおよびウエストナイルウイルス株間の簡別診断が可能となった。2)ダニ媒介性脳炎の迅速な血清診断法として、ウイルス株粒子を用いたヒト用のIgGおよびIgM-ELISA法を開発した。2.病原性の解明1)ウエストナイルウイルスの神経侵襲性毒力がウイルスエンベロープ蛋白への糖鎖付加により決定されることを明らかにした。2)ダニ媒介性脳炎ウイルスの神経侵襲性毒力は、ウイルスエンベロープ蛋白の1個のアミノ酸の置換により電荷が陽性に変化することにより低下することが示された。3)ダニ媒介性脳炎ウイルスの感染性cDNAクローンを用いた解析により、NS5とエンベロープ蛋白における各々一ヶ所のアミノ酸変異が神経毒力の低下に相乗的に作用していることが示唆された。3.蚊の調査1)ウエストナイルウイルスに対する、日本産蚊4種アカイエカ、イナトミシオカ、ヒトスジシマカの感受性、およびアカイエカの媒介能を証明した。2)ウエストナイルウイルス・デングウイルス媒介蚊ヒトスジシマカのJNKタンパクの機能を解析した。
著者
長谷 洋一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

既刊の報告書や論文、古記録などに掲載された約7000件の近世仏師の事績をもとに仏師ごとのデータベースを構築し、公開した。本研究は構築したデータベースを利用して、近世京都仏師、大坂・江戸仏師、在地仏師の盛衰と三者間での交流を明らかにすることができた。京都での仏像製作需要が減少すると、京都仏師、大坂・江戸仏師が修復や開帳などで地方へ進出すると、在地仏師との技術的交流が生まれ、また京都仏師に繋がる肩書を得ることとなり、在地仏師での造像活動が活発になることを明らかにした。
著者
谷口 真人
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

地下温暖化が桜の開花にどのような影響を与えるかを明らかにするために、開花の変化トレンドと、地温の経年変化トレンドを明らかにした。桜の開花は日本の103箇所の平均で過去50年に5日開花が早まっており、特に大都市の東京、大阪、名古屋でその開花早期化の傾向は強く、都市化によるヒートアイランド現象が大きな要因であることが明らかになった。桜の開花変化トレンドに最も相関性が高いのは、深度50cmの地温であることが明らかになった。またその開花の違いにおよぼす土壌水分および土壌水質の違いについても調査した。
著者
竹谷 悦子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は1930年代のアフリカ系アメリカ文学を、環太平洋という新しい文学の地政学のなかに布置し、グローバルな視座からその再考を試みるものである。とりわけ、真珠湾攻撃までの約十年間に、アフリカ系アメリカ人たちが思い描いたアジア/日本との超国家的連帯を掘り起こし、「ブラック・オリエンタリズム」の系譜を体系的に分析することを試みた。エドワード・サイードが西洋のコロニアル言説として定義したオリエンタリズムを、(西洋の)黒人とアジアとのあいだの複雑で、様々なねじれを伴う関係性をあぶりだすために援用し、アフリカ系アメリカ文学と植民地・帝国主義言説とのかかわりを多角的に考察した。この二年間に主な分析対象とした作家はジェイムズ・ウェルドン・ジョンソンおよびジョージ・サミュエル・スカイラーである。環太平洋というトポスは、アジアと短絡的に同一視されてはならず、むしろ様々な文化の接触・折衝がおきるコンタクト・ゾーンとして捉える必要がある。ジョンソンは、米国の「裏庭」とされるカリブ海を環太平洋地域として再布置し、米国のニカラグア占領と日本の満州占領とのあいだの歴史的共鳴のなかに、アフリカ系アメリカ人と植民地・帝国主義の共犯性と対抗言説への可能性を見いだしていった。またスカイラー分析では宗教の領域を横断しつつ、人種戦争ファンタジーに焦点をあて調査を行なった。スカイラーの近未来小説『黒人帝国』執筆の動機となったムッソリー二のエチオピア侵攻-第二次イタリア・エチオピア戦争-が与えた歴史的インパクトを、スカイラーが編集主幹を務めた『ピッツバーグ・クーリエ』を含む主要黒人紙から明らかにし、作品や報道に表出された人種戦争ファンタジーの源泉となっていた「日本」の象徴的/政治的機能を解明した。
著者
佐藤 武義
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

すでに収集した、崎門派の新発田藩儒臣渡辺予斎の資料を分析するとともに、本年度も予斎関係の資料の収集に努めた。新発田市立図書館には、新発田藩校の資料が纒めて収められているため、館長に依頼して予斎関係資料の他の情報を得られるようにした。その結果、予斎についての情報を持っている当地の郷土史家を知ることができ、『国書総目録』掲載以外の資料が他にあることを確かめることができた。氏所蔵のコピー(以下、コピー本と略称)とこれまで収集した同じ資料を比較すると、筆跡が同一であることが判明した。東北大学本には「速水義行録」と記されているため、いずれも速水義行の書写と考えられる。重複本として『予斎先生鞭策録会読箚記』の例を見ると、コピー本は、丁寧な書体で書写されている点から、清書本と考えられ、東北大学本は、草稿本に当たる。一方、『予斎先生訓門人会読箚記』もコピー本は、丁寧な書体で書写されて、清書体の体裁をとっているが、それは、途中までで、後は下書きの形態になって完成を見ていない。この点でコピー本だけでは不安が残るので、原本によって調査しなければならないが、原本所蔵者との連絡が取れていないので、この比較は今後に回すしかない。同一本が二本ある場合、正本と副本との関係で後に遺されたのではなかろうかと考えられる。『予斎先生鞭策録会読箚記』をコピー本と東北大学本とで比較すると、いずれにも脱文、脱字、清濁の有無等があって方言資料としての優劣は、いまだ決めかねている。資料調査の過程で、講義録は講義者の出身地の言葉で纒められているため、当時の講義録の調査が大々的に行なわれるべきことを痛感した。
著者
松元 弘巳 薗田 徳幸 岡林 巧 持原 稔 平田 登基男 斉藤 利一郎
出版者
鹿児島工業高等専門学校
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1989

桜島は活発な火山活動を続け、火山灰は周辺地域の生活環境や生産活動に大きな影響を与えている。この火山灰の処理については、各自治体は苦慮しているのが現状である。本研究は、この無用の廃物として処理に因っている火山灰を材料面に有効的に利用することを目的とするものであり、その研究成果の概要は次のとおりである。1、火山灰中の水に可溶性フッ素イオン、塩化物イオンおよび硫酸イオンなどの陰イオンを浮選法により分離除去した。除去率はF^ー:89%,Cl^ー:87%,SO^<2ー>_4:60%を示した。2.コンクリ-ト中の鉄筋の電位差を測定し、腐食状況と電位差との相関を検索した。その結果、腐食の経時変化とともに電位の変動が認められた。3.火山灰は海砂に比べ、比重が大きく、摩耗抵抗性もよい性質を有している。したがって、コンクリ-ト用細骨材として用いた場合、高強度コンクリ-トおよび摩耗特性を求める構造物への利用が十分可能である。4.火山灰の陶磁器素地への利用は、火山灰60〜70%、粘土30〜40%を配合することにより、従来の黒薩摩焼の焼成温度より160℃も低い温度で焼成することができ、省エネルギ-化が画られた。また、陶磁器釉薬への利用は、火山灰325メッシュ通過粒分を単独で用い、良好な釉薬が得られた。5.火山灰80%、粘土20%の配合割合の50mm×50mm×5mmのテストピ-スを作り、焼成温度1160℃で、1〜2時間焼成することにより、陶磁器質タイルを試作することができた。これは日本工業規格の試験法に適合し実用化できることがわかった。
著者
金関 猛
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フロイトが「精神分析」という術語をはじめて用いたのは40歳のときである。それまでフロイトは医学者としておもに神経学の研究に携わっていた。フロイトがウィーン大学生であったときに専攻したのも医学である。それまでの専門と精神分析とは隔たりがあるように見える。しかし、本研究においては、精神分析の基盤がすでにフロイトの学生時代に形成されていたことを明らかにした。ウィーン大学医学部における、徹底した実証主義研究が精神分析の根幹をなすのである。
著者
淵澤 定克 白寄 篤
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

チューブハイドロフォーミングで加工される管材の加工硬化特性を解明するために,アルミニウム合金管,銅管,鋼管,チタン管を供試材として,一軸引張試験および液圧バルジ試験による材料試験を行った.これらの試験から明らかになったことおよび再確認したことの概略は,次の3点である.(1).アルミニウム合金管,銅管,鋼管,チタン管はn乗硬化則で加工硬化特性を表現することができる.(2).ひずみが小さい範囲と大きい範囲とで,加工硬化特性は異なる.(3).アルミニウム合金管,銅管,鋼管には,加工硬化特性の応力比依存性はほとんどないようだが,チタン管については,応力比の影響が見られる.チューブハイドロフォーミングでは,管材に内圧と押込みを負荷するが,押込みに比べて内圧の割合が高い場合,管材は破裂する.逆に,内圧の割合が低い場合,管材は座屈してつぶれてしまう.実験による検討からすると,(1).内圧と軸押込みを一定の比率で管材に負荷する直線負荷経路,または,(2).管材に,まず,内圧のみを負荷して張り出させ,内圧の大きさが設定した内圧(保持内圧)に達したら,その内圧を保持しながら押込みを負荷する折線負荷経路の2種類の負荷経路の中で最適な負荷経路を検討することが適当であることが分かった.実験結果を踏まえて型バルジ加工のFEMシミュレーションモデルを作成した.また,成形型を作製し,実験を行い,FEMシミュレーションの結果と比較した.成形後の管材の肉厚分布に及ぼす成形金型と管材との間の潤滑の影響について,FEMシミュレーションで良く再現できることが分かった.FEMシミュレーションによる検討では,今後,(1).管材の変形挙動を十分に再現することのできる適切な入力データ設定方法の確立,(2).管材の不整変形(座屈,めり込み)発生条件と破裂条件の解明が必要であることを確認した.
著者
柿沼 志津子 尚 奕 森岡 孝満 臺野 和広 島田 義也 西村 まゆみ 甘崎 佳子 今岡 達彦 ブライス ベンジャミン
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島原発事故以降、放射線への関心が高まり発がんが懸念されている。一方、小児がん患者のプロトンや重粒子線治療が始まり、中性子線や炭素線による2次発がんも心配される。こども被ばくのリスクとその低減化のため発がん機構の解明が急務である。本研究では、マウスやラットの発がん実験で得られたがんの病理解析やゲノム変異解析で、被ばく時年齢、線質、臓器依存性を示す発がんメカニズを調べた。その結果、血液がんでは子供期被ばく特異的な原因遺伝子と変異メカニズムが認められた。固形がんでは、高LET放射線で発がんの早期化や悪性化が示されたが、ゲノム変異に差はなかった。今後、エピジェネティック異常について検討が必要である。
著者
久保田 紀久枝
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

近年、ショウガの機能性について多くの研究がなされ、ジンゲロールなどのような不揮発性成分だけでなく、ショウガの爽やかな風味に寄与する香気成分のゲラニアールとネラール(シトラールと総称)についても抗菌、抗腫瘍活性や解毒酵素誘導活性などが認められている。一方、香気成分組成において、ショウガの品種や貯蔵期間によりシトラール量の割合が変化することが知られているが、その生成機構については不明である。本研究では、未成熟のいわゆる新ショウガと成熟ショウガ貯蔵中におけるシトラール絶対量の経時的変化を調べるとともに、その生合成機構について検討し、ショウガ根茎中にプロテアーゼ以外の新たな酵素系の存在を確認した。ショウガより調製した粗酵素系において、グルコースおよびガラクトース配糖体に特異性を有するグリコシダーゼの存在を確認した。また、NADP依存性のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の存在も確認し、その至適pHが9.0であること、ゲラニオールおよびネロールに基質特異性をもつことを確認した。ゲラニオールについては、その配糖体よりグルコシダーゼの働きで生成されることも確認され、配糖体よりゲラニオール、さらにシトラールへの生成経路が示唆された。また、2種類の栽培種の根茎を用いて、収穫70日前、成熟後貯蔵0、14、30〜90日の試料について、グルコシダーゼおよびADH活性とシトラール量を測定した結果、貯蔵2週間において両酵素活性ともに極大となり、それとともにシトラール量が顕著に増加する傾向を確認した。以上のことより、両酵素系が機能性成分であるシトラール生成に関与していることが強く示唆された。両酵素とも、本研究によってショウガ中ではじめて存在が確認された。現在ADHの精製を進めているが、今後さらに精製酵素を用いて機能性成分の生成メカニズムを解明し、機能性に優れたショウガの開発または利用法に資するデータを提供したい。
著者
田中 浩朗
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は,第二次世界大戦中に化学工業統制会会長を務めた石川一郎(1885-1970)の個人文書『石川一郎文書』(東京大学 経済学部図書館所蔵,マイクロフィルム版,全279リール)を中心史料として用い,「産業界からみた科学技術動員」の実態を解明することである。平成29年度は,本年度購入した5リールを含め,本研究に必要と判断した156リールについて一応のサーベイを完了し,昨年度と同様に科学技術動員に関連する資料の探索と目録作成を進めながら,化学工業統制会が科学技術動員にとって果たした役割について検討した。本年度の調査では,科学技術動員史の観点からの石川文書の全体像がおぼろげながら明らかになった。まず,全279リールという膨大な資料のうち,戦時中の資料を含むものは意外に少なく,全体の約半分程度であるということである。また,化学工業統制会の活動において,技術的隘路を克服することの重要性は相対的に低く,むしろ資材不足などが生産増強の重要な隘路と考えられており,統制会の技術関係の活動に関する資料は当初期待したほどには見出せなかった。特に,民間企業と軍・学・官との協力関係に関する資料は,断片的には存在するものの,まとまった資料はほとんど見出せなかった。当初の予定よりも購入リールの本数は少なくて済んだため,科学工業統制会の監督官庁である軍需省の資料(『軍需省関係資料』全8巻,復刻版;通産政策史資料オンライン版)を購入し,化学工業統制会をとりまく産業関係組織との関連を考察し始めた。
著者
新井 彩
出版者
武庫川女子大学短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,運動の修正や結果の誤差修正の積極性が高まることを期待して意図的に調節した教示を与えることを,複数の運動様式を採用して行い,その効果を定量化することを目指した.本研究では,リバウンドジャンプトレーニング中にリズムをガイドラインとして教示をする方法で,接地時間やスティフネスの改善等の一定の効果が認められた.次に,歩行,ジャンプ等を用い,距離のターゲットに対し運動を調節した結果にて意図的に甘い判定と厳しい判定を返すことによる誤差修正の変化を検証した.この結果,パワー発揮特性に応じて誤差修正パターンに一定の傾向があることが認められた.
著者
山口 亮介
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

特発性大腿骨頭壊死症の病態および修復に関して、動物モデル及び疫学調査等を用いて、基礎的、臨床的研究を行った。基礎的研究として、ステロイド性骨壊死家兎モデルを用いて、ステロイドの投与経路によって薬物体内動態およびステロイド性骨壊死の発生頻度がどのように変化するについて検討を行った。臨床におけるステロイド投与法と、モデルにおける投与法は相違点があるものの、その詳細や薬物動態についてはこれまで検討されていなかった。雄日本白色家兎に対して、経静脈、経口、経筋肉内の3種の経路でステロイド剤を投与し、骨壊死発生率および血中薬物動態、血液学的変化を検討した結果、ステロイド性骨壊死発生の危険因子として、ごく短期間の高ステロイド濃度を引き起こす投与法より、一定期間一定濃度を維持する投与法がより強く関与している可能性が示唆された。臨床的研究として、記述疫学調査によって特発性大腿骨頭壊死症の詳細な記述疫学調査を行った。福岡県では過去3年間に新規認定患者は339人であり、発生率は年間10万人あたり2.26人であった。誘因はステロイドあり31%、アルコールあり37%、両方あり6%、両方なし25%であった。治療法では約半数で手術が行われており、人工関節手術が最も多かった。ステロイド性骨壊死では平均41mgの投与量、4.6年の投与期間であった。アルコール性壊死では1日あたり平均2.7合、約25年の飲酒歴であった。記述疫学結果をまとめ特発性大腿骨頭壊死症調査研究班会議にて報告した。さらに平成25年8月からは、米国テキサス州に渡航し、Texas Scottish Rite Hospital for Childrenにて、大腿骨頭壊死の病態に関する基礎的な研究を開始した。小児における大腿骨頭壊死疾患としてPerthes病が知られているが、当施設では未成熟豚を使用したPerthes病モデルを用いて、骨壊死のどのような組織変化が滑膜炎、関節炎を引き起こすかにかについて分子生物学的な検討を行っている。
著者
征矢 英昭 朝田 隆
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

海馬神経新生を促進するためには、運動ストレスを伴わない低強度運動が有効である一方、運動ストレスが生じる高強度運動ではその効果が消失した。さらに、低強度運動により海馬で増加する神経新生に対しコルチコステロン(CORT)がその受容体であるGR、MRを介して促進的に作用(栄養効果)し、高強度運動ではGRを介した抑制作用が優位となることが明らかとなった。CORTは運動強度特異的に生じる海馬可塑性の決定因子として重要な役割を担うことが示唆された。