著者
鈴木 裕介
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.115-122, 2021 (Released:2022-04-08)
参考文献数
11

わが国では2017年5月に自転車活用推進法が施行され、国や地方自治体によって、交通体系の1つとして自転車の活用が推進されている。しかし、自転車の活用が進む中で、自転車事故は無視すべきではない問題である。確かに近年の自転車事故は、交通事故全般の発生件数と同様に減少傾向にあるが、自転車事故の社会的費用は2018年で3,444億円と推定され、自転車事故の発生をいかに抑制していくかという課題とともに、自転車事故の被害をいかに減らしていくかという施策も議論しなくてはならない。そこで本稿は、自転車事故の対策として、海外でも導入事例があり、国内でも導入が検討されている自転車用のヘルメットの着用施策に焦点をあて議論を進める。具体的には18歳以下及び75歳以上の自転車運転者に対し、頭部を保護するヘルメットの着用義務化を行った場合の効果を分析する。そしてヘルメット着用に関する施策のあり方について議論する。
著者
冨田 晶子 大竹 孝尚 生津 綾乃 橋田 和樹 大目 祐介 山下 茂樹
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.423-426, 2017-07-15 (Released:2017-08-26)
参考文献数
5

70歳の男性.肝細胞癌に対して,全身麻酔および硬膜外麻酔下に腹腔鏡下肝拡大左葉切除術が施行された.術中,中肝静脈を損傷し圧迫止血操作を行った際に,一時的に収縮期血圧が60mmHgまで低下したが,血管縫合により血行動態は安定し手術を完遂した.手術終了前の体内異物遺残チェックでガーゼの枚数が不足したため胸腹部単純X線撮影を行い,左肺門部にガーゼと思われる線状陰影を認めた.この時点では肺塞栓を疑う症状は認めておらず,カテーテルによる肺動脈内異物除去を行う方針とした.迷入したガーゼは左肺動脈に達していたものの,重篤な転帰に至ることなく,血管内治療と鼠径部小切開手術で摘出し得た.
著者
石川 知弘
出版者
獨協医学会
雑誌
Dokkyo Journal of Medical Sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.303-313, 2021-10-25

2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2年近く経過した今も世界中で公衆衛生上の問題となっており,COVID-19制圧には効果的なワクチンと治療薬の開発が喫緊の課題である.COVID-19の与えた国際社会へのインパクトは大きく,多くの研究者や企業がワクチンや治療薬の開発に尽力し,日本国内でもワクチンや抗体カクテル薬などが既に認可されている.特にワクチンにおいては従来のワクチン種別に無いmRNAワクチン2種とウイルスベクターワクチン1種が先んじて特例承認という形で日本でも認可されている.本稿では,これら日本国内で承認されたワクチンの詳細を中心に新型コロナウイルスに対するワクチン開発状況を解説する.また,日本国内での接種後副反応の出現状況やワクチン接種に係る懸念事項(ワクチンによる感染増強や変異株に対する有効性など)についても論じたい.
著者
Hai-Bo Wang Zi-Mei Mo Guang-Wei Yuan Xiang-Dong Dai Song-Yu Zhou Hock Eng Khoo Changbao Li
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
Journal of Oleo Science (ISSN:13458957)
巻号頁・発行日
pp.ess22354, (Released:2023-03-10)

This study aimed to determine the efficiency of ultraviolet (UV)-LED cold light treatment on the degradation of aflatoxin (AF)B1 in peanut oils. The peanut oil samples obtained from different places in China and abroad were determined for AFB1 degradation efficiency of the UV-LED cold-light irradiation method. The degradation products were analyzed by ultra-high performance liquid chromatography coupled to quadrupole orbitrap high-resolution mass spectrometry (UPLC-Q-Exactive MS). The results indicated that the AFB1 content in all peanut oil samples decreased rapidly after 5 min of irradiation. Four main photodegradation products (C18H16O7, C17H14O7, C17H14O7, and C17H14O8) were identified using the established LC-MS method. Their chemical structures were postulated based on the LC-MS data. Also, the degradation pathways were proposed based on the data obtained. Oxidation and reduction reactions were mainly responsible for AFB1 decomposition. The reactions occurred at the furan and lactone rings. These findings demonstrated that UV-LED cold-light irradiation was an effective method for treating AFB1-contaminated peanut oil.
著者
柿本 敏克 細野 文雄
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.149-159, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
28
被引用文献数
1

状況の現実感尺度(柿本,2004)の妥当性を,仮想世界ゲーム(広瀬,1997)を用いて構成された集団間状況において検討した。研究1では従来型の仮想世界ゲームを用いた実験が行われ,研究2では今回新たに開発されたその電子試作版を用いた実験が実施された。研究1では参加者がゲームのルールを学習しその状況を想像しただけのシナリオ条件と,実際のゲームに携わったゲーム実施条件の間で,状況の現実感尺度の各下位尺度得点と全体尺度得点を比較した。予想通り,ゲーム実施条件でシナリオ条件でよりも状況の現実感尺度の諸得点が大きいという傾向がみられた。研究2では電子試作版のゲーム場面と,研究1の従来型のゲーム場面からの結果を比較した。電子試作版では,その特徴を反映して参加者の現実感が従来型よりも小さかった。下位尺度の得点パターンとともに,全体としてこの尺度が状況の現実感を比較的良好に捉えていると解釈できた。いくつかの研究方法上および理論上の問題が議論された。
著者
山崎 晴雄
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.322-325, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
7

東京西郊の主要な活断層である立川断層の調査では,人工物を断層が繰り返しずれた跡である断層破砕帯と見誤るという事態が生じた。その原因について検討し,大地震の際,地表に現れる地表地震断層の活動様式などに誤解と思いこみがあったことを指摘した。そして,誤解を防ぐために,地表地震断層やその繰り返しの結果である活断層についての解説を行った。活断層は将来,大地震を引き起こす可能性があり,それを防災に利用するためには,地表地震断層の挙動を予測しなければならないが,そこには知識等の不足により誤解や思いこみが入る余地が大きくなる。このことを理解して冷静に活断層等に対応する必要がある。
著者
川地 亜弥子
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-12, 2005-03-31 (Released:2017-04-22)

本稿では,1930年代の生活綴方の教育評価論について,形成過程を明らかにすると同時に,作品批評の実際として集団的合評作業に注目し,その構造を明らかにする。綴方教師は子どもの生活把握を契機として,学校における既存の価値基準を問い直した。その上で,作品批評に関する議論において,子どもの認識と表現のリアリズムとともに,全人的な評価の重要性が自覚された。同時に,子どもの内面に手をのばし,子どもたちが文化を生み出すための技術として,基礎的な表現技術の獲得が目指された。このような作品批評の規準の転換が行われる中で,教科の体系からではなく,民衆の生活と子どもの発達要求からの綴方指導の体系の構築,すなわち「生活学」とそれに基づく「教育学」の構築が目指された。また,その体系は教師の「教養」によって鍛え直されるべきとされた。集団的合評作業の分析からは,以下のことが明らかになった。綴方教師たちは,子どもたちの自由な表現を大切にし,教師も協働者として位置づけた。また,集団的合評作業を通じて生活の改善と文化の創造が目指された。その中で,直接的に生活に役立つ行動のみでなく,悩みや問題を共有し,相手の立場で考える過程も「協働」と捉えるような,新たな作品批評規準が誕生していた。生活綴方における教育評価論は,子どもたちの議論を通じて文化を生み出させていく作品批評の中で構築されたのである。
著者
川上 清文
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.3-7, 2014 (Released:2018-10-05)
参考文献数
14

本論文の目的は、子どもたちの保護者・教師・多くの分野の研究者に村井実の“ よさ理論” を紹介することである。村井による教育の定義は「子どもは“ よく” 生きようとしている。大人は、子どもたちのその働きを助けようとする。大人のこの活動を“ 教育” と呼ぶ」というものである。村井理論の重要な点は「子どもは“ よく” 生きようとしている。しかし、私たちは“ よさ” とは何か決めることができない。これが教育のパラドックスである」ということである。この論文では、“ よさ” に関するいくつかの例を呈示する。
著者
道堯 浩二郎 平岡 淳 鶴田 美帆 相引 利彦 奥平 知成 山子 泰加 寺尾 美紗 岩﨑 竜一朗 壷内 栄治 渡辺 崇夫 吉田 理 阿部 雅則 二宮 朋之 日浅 陽一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.14-22, 2019-01-18 (Released:2019-01-23)
参考文献数
28

肝疾患におけるカルニチン,亜鉛低下例の頻度と他の肝代謝マーカーとの関連を明らかにすることを目的とした.慢性肝炎(CH)41例,肝硬変(LC)88例(肝細胞癌非合併群60例,合併群28例)を対象に,カルニチン,亜鉛,アンモニア,BTR(BCAA/Tyr),アルブミン(Alb)を測定し,低下例の頻度と互いの関連を検討した.カルニチン高度低下例はなく,軽度低下例はLCの23.9%にみられ,うち42.9%はアシルカルニチン/遊離カルニチン比>0.4での基準合致例であった.亜鉛高度低下例はCH 0%,LC 30.7%,軽度低下例はCH 31.7%,LC 40.9%にみられた.アシルカルニチンと亜鉛はアンモニア,BTR,BCAAと相関があったが,遊離カルニチンはこれらと相関はなかった.以上よりカルニチンと亜鉛は慢性肝疾患例の一部で低下し,両者の動態と肝代謝マーカーとの関連には差異がみられた.
著者
藤井 達哉 一井 啓介 谷口 航太郎 谷口 守
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.I_259-I_268, 2019 (Released:2019-12-26)
参考文献数
28

我が国では,若年者の地方から都市への人口流出が,量の観点から問題視されているが,質に関して議論が行われていない.海外への頭脳流出は問題視されても,それより身近な国内における地方からの頭脳流出は看過されているのである.本稿では,大学入試偏差値を用いて地方からの頭脳流出の実態を分析し,その累積的影響を推計する方法を提案した.まず,大学進学者と大卒就職者を都道府県間移動の有無で集計し,地方別に各偏差値の学生が占める割合を分析した.次に,地方別・偏差値別の大卒残留者数を推計した.分析から,高偏差値の大卒者が地方から首都圏へ流出する構造を定量的に明らかにした.また,現在の大学進学者と大卒就職者の人口移動が将来にわたり続いた場合,地方から高偏差値の大卒残留者が累積的に減少していくことを示した.
著者
窪田 亜矢
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.715-720, 2009-10-25
参考文献数
20
被引用文献数
1

東京都は新たな路上生活者支援策として、「地域生活移行支援事業」を2004年より四年間行った。移行事業は、就労支援を主目的とした段階的な支援という従来の方法ではなく、路上から借り上げアパートすなわち地域生活への移行を行うもので、アメリカで広まったハウジング・ファーストの考え方だといえる。これまでの日本の住宅政策の経緯と、近年の急激な社会構造の変化、経済的状況の悪化をふまえれば、日本でもハウジング・ファーストの考え方を導入する必要がある。そのために、1)低家賃住戸賃貸事業における公共性への社会的合意、2)都市計画における安定した住環境の確保、3)当事者支援を専門とする民間組織の支援、4)ホームレスという認識の社会的共有、について議論を深め社会的な認識を共有することが、本格的な導入につながる。
著者
村上 克尚
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.34-43, 2010-06-10 (Released:2017-08-01)

本稿は、大江健三郎の「飼育」を、動物として殺される黒人兵の側から読み直す試みである。江藤淳は、近代主義の立場から、主体になれないものの排除を正当化し、三島由紀夫は、反近代主義の立場から、動物の死の瞬間に存在の連続性の開示を見て取ろうとした。しかし、「飼育」の内在的な読解から導出される反復と境界攬乱の主題は、共通の言葉を持たないもの、不在のものとの関係の重要性を提起する。この主題の捉え損ねは、六〇年代の江藤・三島の言説への批判的視座を提供するものである。
著者
菊間 晴子
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.93-107, 2017-05-15 (Released:2018-05-15)

大江健三郎は、一九九九年以降、自ら「後期の仕事(レイト・ワーク)」と呼称する小説群を執筆してきた。老作家・長江古義人を主人公とした大江の「後期の仕事(レイト・ワーク)」は、エドワード・W・サイードによる「レイト・スタイル」研究から深く影響を受けながらも、サイードの定義からは離れた独自の指針を有している。本稿は、サイードによる「レイト・スタイル」の定義を大江がいかに解釈し、再定義したのかを精査した上で、大江の「後期の仕事(レイト・ワーク)」が、彼の過去作品から連続する「二人組」構造の「書き直し」のプロセスであることを明らかにした。その上で、『取り替え子(チェンジリング)』、『さようなら、私の本よ!』、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』に描かれる、生者と死者とのコミュニケーションのあり方の変遷を追い、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』において提示される「集まり(コンミユニオン)」、そして「私ら」という存在様式―生者と死者の区別なき共同性―こそ、大江が「後期の仕事(レイト・ワーク)」の実践の先に見出そうとした「希望」である可能性を指摘した。
著者
北原 白秋[作詞]
出版者
ニッポノホン
巻号頁・発行日
1926-11
著者
杉原 肇
出版者
関西医科大学医学会
雑誌
関西医科大学雑誌 (ISSN:00228400)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.72-88, 1974-03-20 (Released:2013-02-19)
参考文献数
55
被引用文献数
2 3

The effects of the semisynthetic diets containing a refined coconut oil upon the growth of DMBA-induced mammary cancers were investigated in 87 young adult female Sprague-Dawley rats. Eighty young female rats were maintained on a commercial pellets, CMF type of Oriental Yeast Company, and injected to a caudal vein with 3 mg of DMBA at the age of 55 and 58 days. In the ages of 85 to 145 days for promotion stage of the tumor growth, the experimental animals were distributed to 4 groups (Table 2) and fed on 4 different semisynthetic diets, respectively. The diets (Table 1) were isocaloric (395 Ca1/100g), although they Contained a refined oil (coconut oil or corn oil) at either 8(ordinary) or 20 (high) percentage. The rats were observed in 3 months after the first injection of the carcinogen. The time of appearance of the first palpable mammary cancer was dated from the first injection of DMBA (Incubation Time). All rats were sacrificed at the age of 145 days. Mammary cancers in a rat were counted in the gross at necropsy (Active Center). Total mammary cancers per an animal were weighed on a balance (Tumor Weight). All detectable mammary tumors were observed histologically, and the above-mentiond mammary cancers were verified by the histological examinations.