著者
倉田 毅 高阪 精夫 小島 朝人 佐多 徹太郎 山西 弘一 岩崎 琢也
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1989年にフィリピンから米国へ輸入された非人類霊長類(NHP-Non Human Primates)(カニクイザル)が、検疫中に大量に死亡した。解剖材料よりエボラウイルスに電顕上形態的に酷似し、抗原性が高度に交差するフィロウイルスが分離された。このウイルスは、ヒトに感染性はあるが、現在まで、ヒトに疾患を起こしてはいない。またNHPに全く触れたことのないヒトでも、約2.4%に交差反応があることがわかっている。次の結果を得た。【.encircled1.】1992年9月ザイールにゴリラ見物に出掛け、サル(種不明)と接触し、帰国した45歳の男性が高熱を発し、頭痛、下痢、脱水症状で死亡した。血清抗体検査でエボラウイルス(ザイール株)抗原に対し、IFで1:10の弱い価がみられた。因みに同行者、他の正常人3名では全く上昇はなかった。エボラウイルス感染の疑で、米国防疫センターへ血清等を送付したが、最終的にエボラウイルス感染性と結論された。この例は明らかに交差反応によるものと考えられた。解剖材料からウイルス抗原、ウイルス粒子は検出されなかった。【.encircled2.】インドネシア産の抗体強陽性で長年経過したカニクイザルの各種臓器で、エボラウイルス関連抗原の検出を試み、潜伏持続感染の可能性を検討中である。【.encircled3.】輸入カニクイザルを取扱っているヒトの11名中に1名、抗体陽性がみられてはいるが、病気は起こしてはいない。
著者
金沢 謙一 近藤 康生 神谷 隆宏
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中生代日本産ウニ類はすべて日本固有種からなり、大部分の属がテチス地中海地域と共通で北米との直接関係は疑わしい。白亜紀末へ向けてインド-マダガスカル地域との関連が強くなり、また日本固有の属が出現する。新生代になると始新世-漸新世イベントを経て北西太平洋温帯域に適応した属レベルで他に類を見ないウニ類フォーナが出現した。この独特のフォーナの成立には熱帯域における巻貝による捕食が深く関わっていると考えられる。中新世の温暖化と日本海の出現によってこのフォーナは縮小して一部が日本海に残存し、太平洋側には現世へと続く新たなフォーナが成立した。更新世の気候変動により日本海のフォーナは崩壊し、太平洋側のフォーナに置き換わった。
著者
大庭 喜八郎 荒木 真之 糸賀 黎 大久保 達弘 永野 正造 須藤 昭二 前田 禎三
出版者
筑波大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

本研究は下記の目次(分担)によって研究成果のとりまとめをした。1.研究目的:アイソザイムを利用したブナ天然林の集団遺伝学的解析、それらの林分の立地環境の評価を行い、天然下種更新、萌芽更新の実体を明らかにする。ブナ林の体鶴分析を行い、動植物の保護、生態遺伝学の見地から総合的にブナ林の保全と育成管理の条件を論究する。2.日本のブナ林の概況:ブナ属の種数、ブナ・イヌブナの分布、現存ブナ林面積、地史的なブナの分布と伝播の概要についてまとめた。3.ブナ林の既往の生態遺伝学的研究成果:葉の大きさが南から北へ大きくなり、個体の寿命が本州のブナに比べ北海道のブナに比べ北海道のブナの方が短い。4.ブナ天然林なアイソザイムによる遺伝解析1)調査林分の気象環境・土壌環境と現存量2)(1)ブナ天然林集団間の遺伝解析:11酵素種、14推定遺伝子座の総計47対立遺伝子の分析を行い、集団遺伝学的解析をした。ブナ自体のアイソザイム遺伝変異は他の樹種と比べると相対的に大きいが、林分間の差異は小さく、全変異のわずか1.4%で、残りの98.6%は林分内にあった。(2)ブナ林分内小集団内の遺伝解析:アイソザイムによる家系分析(3)ブナ天然林集団内の形態的変異:成葉、幹足部幹形、樹皮型、萌芽性5.ブナ天然林の維持機構1)ブナ天然林の種子による維持機構:植生と更新稚樹、ギヤップ更新2)ブナ林の萌芽による維持:ブナとイヌブナの萌芽更新の実態6.ブナ天然林の景観分析7.ブナ天然林の保全と育成管理の方策の総合検討1)ブナの遺伝資源保存:アイソザイム分析とブナ保護林の実態の検証2)ブナ林景観保存
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ヒトでは音声の産出と知覚に関して大脳の左半球が優位である。申請者のこれまでの研究で、鳴鳥類の一種であるジュウシマツでは、音声の産出において大脳の左半球が優位であることがわかっている。今回申請した研究では、知覚における大脳の優位半球を特定し、それが種に特有な音声に限るのかどうか、生物学的に無意味な音の知覚にも脳の左右差があるのかどうかを検討した。実験にはオスのジュウシマツ4羽を使った。まず、これらの被検体から「地鳴き」と「歌」とを録音し、その後、鳥類大脳における音声産出の最高中枢であるHVCの左右のどちらかを破壊した。この際、被検体を脳定位固定装置で3次元的に定位し、HVCの3次元座標にもとづきラジオ周波数を放射する電極によりHVCとその周辺の組織を熱電気破壊した。回復をまって、オペラント条件付けによりGO/NOGOパラダイムで音声を弁別するように被験体を訓練した。弁別訓練に用いた音声刺激は、3kHz、200ミリ砂の純音と、同じ長さの白色雑音である。これと同時に、定期的に音声を録音し、歌の産出への影響も調べた。歌の産出に関しては、左のHVCを破壊された個体では歌の構成と音声構造が大きく変化し、ノイズ状の歌に変化してしまった。右のHVCを破壊された個体では手術後しばらく歌が変化したが、変化の度合は左の場合に比べ軽微であった。この結果は、申請者の先行研究と一致する。人工音声の弁別に関しては、4個体とも10セッション前後で弁別を学習し、HVCの破壊側による差はなかった。これらの結果と、申請者の先行研究とを総合して考察すると、鳥類のHVCは自種の音声と他種の音声とを弁別する際には左が優位だが、人工的な音刺激を弁別するには左右差がない、または必要がない、と考えられる。このことは、鳥類の左HVDは、人間のブロカ領とウエルニケ領とを総合したような働きを持つことを示唆する。
著者
林 晋 橋本 雄太 加納 靖之 久木田 水生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

古文書のWEBを実現するにおいて、最も重要なことは古文書の翻刻、つまり、古文書のテキストを文字列にすることである。それにより、古文書のテキストの検索、リンクづけなど、WEBと呼ぶにふさわしい文書の集合体を作成することができる。その実現法の一つとして、市民のボランティア参加による翻刻方法、クラウド翻刻(Crowd transcription)が知られており、英国などでの成功例が知られている。しかし、日本の古文書に対しては、成功例がなかったが、地震関係の古文書を対象にして、ボランティアが崩し字の読みを学習できるようにした、「みんなで翻刻」システムを開発し、これを初めて成功させた。
著者
杉田 正道
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

【目的】頚椎症の関連痛型症例に対し鍼治療を行い、その治療成績について検討した。【方法】症例を発症から当治療室での鍼治療開始までの期間別に分け、その治療成績を検討した。症例は43例で、男12例・女31例、平均年齢は51.0歳であった。発症から1ヶ月までと3ヶ月の者は各5例・6ヶ月と1年が各4例・2年5例で、2年以上は20例で、平均63.1ヶ月であった。ジャクソンの過伸展圧迫テスト陽性は43例中33例、スパーリングの椎間孔圧迫テスト陽性は25例であった。また頚椎の骨変形の程度評価基準(I型がその程度が最も軽度で、II・III・IV型と強くなる)に基づく内訳は、43例中I型が13例・II型17例・III型13例であった。鍼治療は頚肩・肩甲間部への単刺・雀啄・置鍼、低周波鍼通電療法、円皮鍼等を適宜行い、治療頻度は週1回、期間は一般的に物理療法の効果判定に必要とされる3ヶ月とし、治療効果の判定は各症例の自覚症状と他覚的所見の改善度をもとに、著効・有効・やや有効・無効の4段階とした。【結果】発症から鍼治療開始までの期間からみた治療成績は発症から1ヶ月が著効1例・有効2例・やや有効1例・無効1例・3ヶ月では5例全て有効・6ヶ月では著効1例・有効2例・やや有効1例であった。発症から1年では著効2例・有効と無効が各1例で、2年では、有効3例・やや有効2例で、2年以上では著効3例・有効9例・やや有効6例・無効2例であった。今回は発症から治療開始までの期間別の症例数にばらつきが高かったこともあり、一定の傾向は得られなかった。やはり本症は頚椎変形がベースとなる疾患であることから、頚椎骨変形の程度が軽度な者の方に治療成績が良い、という傾向がみられた。また全体としての治療成績は、著効は43例中7例(16.3%)・有効22例(51.1%)・やや有効10例(23.3%)・無効4例(9.3%)であったことから、本症に対する鍼治療の有効性や有用性が示唆されたものと考える。
著者
梁 暁虹
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

この三年間、主に「三種音義」(『大般若経音義』(石山寺本)、『大般若経字抄』(石山寺本)、『大般若経音義』(無窮会本)の写本仏経音義)を資料として、漢字学、特に異体字比較研究の角度から研究してきた。その成果は、学術雑誌にて出版した論文が13篇、専著一冊、また国際学術会議で発表した論文が15点になる。その意義を特筆するとすれば、「三種音義」の学術的価値を国際的視野の下に仏教音義研究を位置づけつつ、その資料の重要性を広く学界に紹介することでもある。さらに、異体字研究を通して、漢字が東伝し、新羅や日本へ流入、発展、変遷した過程を跡付ける漢字の文化史を明らかにすることも兼ねる。
著者
小柳 義夫 伊藤 守 若林 とも 寺田 英司 田中 勇悦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)は、AIDSの原因ウイルスである。しかし、このレトロウイルスがヒトにしか病気を起こさないために、その発病機構の解明ならびに治療薬の開発が大きく遅れている。我々は近年新しい方法として重篤な免疫不全マウスであるSCIDマウスにヒトの造血組織を移植し、ヒトのリンパ球細胞を構築する方法を用いて以下の結果を得た。SCIDマウスに正常人末梢血単核球を腹腔内に導入し、2週間後に100感染価のHIVを接種し、感染後1、2さらに3週間後いずれの時期にもウイルスの増殖をマウスの腹腔内、血漿中さらにリンパ節あるいは胸腺において確認した。確認の方法はPCR法によるウイルスDNAならびにRNA測定法、あるいはHIV-1p24抗原量を測定するELISA法である。その結果NSI型ウイルスすなわちマクロファージ好性ウイルスが増殖性が強く、その範囲は接種した腹腔内に限られるのではなく、リンパ節あるいは胸腺などのリンパ組織に広がっていることが明らかになった。この事実はNSI型ウイルスが初感染時には、まず生体内で増殖するという今までの知見を考えると、NSI型ウイルスに生体内における何んらかの特有な増殖能が備わっている可能性が考えられる。さらに興味あることに我々の使用したNSI型ウイルスは、このSCIDマウス内において優位に増殖しているにもかかわらず、ヒトCD4陽性細胞の特異的な減少は見られなかった。一方、SI型ウイルスによるCD4陽性細胞は減少した。すなわち、我々が開発したSCIDマウスによるHIV感染モデル動物により、明らかにウイルスの増殖性ならびにCD4陽性細胞を減少させる病原性を評価できることが判明した。さらにウイルス感染はリンパ節あるいは胸腺などのリンパ組織に優位に広がることより、この動物モデルは感染個体内におけるリンパ臓器の役割の解析に有用であると判明した。
著者
小糸 厚 中内 啓光 澤田 新一郎
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

CXCR4を主に用いるT細胞指向性HIVは一般に病態の進行に伴い出現する。この種のHIVが蔓延した感染者体内のCD4陽性下リンパ球がどのような機構により減少していくのか、あるいはCXCR4指向への質的なウイルス変異が免疫不全の進行に先立って必須であるか否かの二点について依然として明確に答えることはできず、個体レベルでの発症機構解析が必要とされている。マウスは、遺伝的な背景が詳しく解析されており、この病原レトロウイルスと宿主免疫系および宿主細胞遺伝子群との相互作用を明らかにするには、優れた小動物モデル系になりうる可能性を持つ。我々は、ヒトCD4およびヒトCXCR4遺伝子をマウスCD4遺伝子の転写制御領域(CD4エンハンサー,プロモーター,およびサイレンサー)に結合させた二種のトランスジーンを作製、両コンストラクトをマウス受精卵の核内に注入し、それらが同じ染色体に組み込まれたマウスを作製した。このヒトCD4/CXCR4を発現したマウスの胸腺、牌臓および末梢血よりリンパ球を調整し、そのHIV感受性をヒト末梢血単核細胞(peripheral bloodmononuclear cells;PBMC)と比較、検討したところ少なくともin vitroにおいてはCXCR4指向性HIV-1が感染することが確認された。しかしながら、マウスのprimaryのlymphoid系細胞でのHIVの複製は依然として制限されたものであり、CD4とCXCR4のみでは実用的なHIV感染モデルにはなりがたく、さらなるヒト特異的遺伝子の導入が必要であることを明らかにした。
著者
横井川 久己男
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

大腸菌O157に対する電子レンジのマイクロ波の影響を調べた。本病原体の電子レンジ処理により、生細胞数と酸耐性は共に低下した。また、電子レンジ処理後に新たに増殖した本菌のベロ毒素生産性も低下した。種々の食品に接種した本病原体に対しても電子レンジのマイクロ波は、同様の作用を示した。電子レンジの二次的な加熱作用を排除して、37℃で本菌にマイクロ波を照射した場合にも,病原性は低下した。マイクロ波の作用は、細胞密度の増加に伴って作動するクオラムセンシング機構(特にSdiAタンパク質)に影響を与え、病原性を低下させることが判明した。大腸菌O157による食中毒の防止にマイクロ波は有用であると思われた。
著者
清水 信宏
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究の目的は、Belle実験においてe+e-→τ+τ-過程を通じて生成されたタウ粒子の放射性レプトニック崩壊τ→lννγ(l=e or μ)と,その対となるτ→ρν→ππ0ν崩壊を観測,解析し、素粒子の基本的な性質の一つである異常磁気能率を測定することである。タウ粒子異常磁気能率は、実験的難しさから未だ測定されていない。最終年度は,より測定の容易であるミシェルパラメータ,ηbarとξκの測定を終了させた。ミシェルパラメータも異常磁気能率と同様、電子より重いレプトンの基本的な性質をあらわす変数であり、異常磁気能率の測定とほぼ同等な手法をもって解析がされる。ミシェルパラメータの測定に必要となる様々な背景事象の確率密度関数の記述は,異常磁気能率の測定の事前準備として不可欠なものとなる。得られたpreliminaryな結果は,9月に中国の北京で行われた国際会議,Tau2016で発表した。また,その発表と同時に,conference paperとしてpreprint serverに挙げている。τ→μννγモードを用いて得られたηbarとξκ同時フィットにより得られた値は(ηbar)μ=-1.3±1.5±0.8,(ξκ)μ=0.8±0.5±0.3である。一方,電子モードでは,ηbarを標準理論の予測する値0に固定し,(ξκ)e=-0.4±0.8±0.9という測定値を得た。これら最初の不定性は統計誤差,最後のものは系統誤差を示している。得られた測定値は,標準理論の予測と不定性の範囲の中で無矛盾である。タウ粒子の異常磁気能率の測定を三年間の期間内に終えることは出来なかったが,本研究で得た背景事象の記述に関する手法,新たな知見は,その測定を現実化するために広く応用が可能なものであるといえる。
著者
小林 敏雄 高木 清 大島 まり
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

低温体療法は脳の一部に血液が流れなくなる虚血性血管障害型の脳卒中に有効であり、1980年代より試みられている。虚血性血管障害が起きると欠血により脳内温度が40度近くに上昇し、このため神経障害が起こり、最悪の場合には死に至る。低温体療法を用いて体を冷やすことで脳の温度を2度から3度下げることにより、発病後の回復経過が良好である症例が報告されている。しかし、現在行われている低温療法は全身を長時間にわたって冷やすため、患者の体力負担が増大し、かえって危険になる場合が起こり得る。そこで、頭と頸部だけを冷やすことにより効果的かつ患者の負担が軽減できるような選択的脳冷却療法が模索されている。本研究では脳内温度の調節のメカニズムを把握すると同時に効率的な選択的脳冷却療法の指針を構築するため、脳内の熱輸送のモデリングおよび数値解析を行った。以上より、本研究では以下の3つのテーマに重点を置いて研究を行った。(1)脳内熱輸送のモデリング(2)数値解析システムの開発(3)医用画像および臨床データとの比較・検証(1)では脳血管網において熱交換を行っていると考えられている、内頸動脈の海綿静脈洞を模擬した同軸円管における対向流型熱交換について、直円管モデルと屈曲管モデルでの数値解析を行った。(2)数値解析にはFIDAPを用い、動脈・静脈の入口に50mmの導入部を設けて安定化を図っている。それぞれの密度・比熱は血液および血管壁で等しく、伝熱方程式に熱拡散係数を与えることで温度の計算を行う。(3)実際の脳冷却を行う際には0.2℃から0.3℃の温度低下が必要とされ、今回の解析でその条件を満たすことが確認された。屈曲管は2次流れの影響により直円管よりも伝熱量が増加し、また拍動流入を与えることで温度境界層が壁面近傍だけでなくなり、より動脈の冷却が促進されることが分かった。
著者
西野 厚志
出版者
京都精華大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2015年、谷崎潤一郎(1886~1965)は没後50年を迎え、決定版谷崎潤一郎全集(全26巻、2015~2017)が刊行されるなど、国内外を問わず関心が高まっている。その約半世紀にもわたった執筆活動は言論統制との衝突の連続でもあった。本研究では、自筆原稿や書簡といった肉筆資料の調査に基づいて、検閲制度との関わりを明らかにし、谷崎の文学的営為の意義について考察した。
著者
児玉 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では「進化論は倫理に対してどのような含意を持つのか」というテーマについて、規範理論の一つである功利主義を擁護する論者のこのテーマへの取り組みという観点から検討を行った。具体的には、J.S.ミルやシジウィックといった19世紀イギリスの古典的功利主義者たちが進化論を受け入れなかった理由に関する歴史的、理論的な研究を行うと同時に、現代の功利主義者であるP.シンガーが進化論をどれだけ正確に理解し、自らの規範理論に組み込んでいるかを検討した。以上の研究成果について国内外の研究者と意見交換、討議を繰り返し行った。また進化倫理学の概要を日本語の読者に伝えるため入門書の日本語訳を出版した。
著者
田村 哲樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

まず、単著の研究書『熟議民主主義の困難――その乗り越え方の政治理論的考察』(ナカニシヤ出版、2017年5月)を刊行した。本書は、熟議システム概念の世界的な研究動向を踏まえつつ、その「システム」理解について、「入れ子型熟議システム」の概念の提起および自由民主主義と熟議システムとの関係の再検討を通じて、新たな問題提起を行うものである。また、海外の研究者2名との共著による論文「Deliberative Democracy in East Asia」を脱稿した。本論文も含むThe Oxford Handbook of Deliberative Democracyは、2018年度中に刊行予定である。また、9月には、ブラジル・ミネスジェライス連邦大学(UFMG)からの招待で熟議システムと自由民主主義の再検討に関する2つの報告・講演などを行った。この渡航費は招待者である同大学からの支出であるが、招待責任者の一人である同大学のリカルド・F・メンドンサ助教授との研究ネットワークは、本研究課題での活動を通じて深められたものであるため、ここに記しておきたい。さらに、熟議民主主義と政治概念の再検討に関する内容を含む、二冊の政治学教科書を、いずれも3名の研究者との共著で出版した。『ここから始める政治理論』(有斐閣ストゥディア、2017年)は、熟議民主主義を含む政治理論の現在の到達点を可能な限り平易な文体で伝えるものである。『政治学』(有斐閣、2017年)には、熟議民主主義を含む、「近代政治」の乗り越えをめぐる政治理論の研究動向や、経験的政治学と規範的政治学との関係についての説明も盛り込まれている。その他、熟議民主主義と政治の再検討に関するいくつかの学会報告や論文執筆を行った。特に日本比較政治学会の共通論題では、熟議システム論の再解釈を通じて分断社会への新たな政治理論的アプローチを提示した。
著者
前田 佳一 山本 潤 江口 大輔 桂 元嗣 木戸 繭子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本プロジェクトは文学作品において固有名が有する機能について、中世から現代までのドイツ語圏文学における人名、地名を対象に、個々の作品のケーススタディを通じて検証した。その際には、とりわけ<神話化>ならびに<錯覚形成>という機能に着目した。結論として、文学的固有名には<産出性>、<虚構性>、<否定性>という三つの契機が認められることが明らかとなった。
著者
大塚 正人 和田 健太 佐藤 正宏 三浦 浩美
出版者
東海大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

従来のゲノム編集マウス作製法では、(1)受精卵の回収、(2)CRISPR関連試薬の顕微注入、(3)注入卵の偽妊娠マウスへの移植、という熟練した技術と高価な設備を要する3つのステップが必須であった。今回、受精卵を有する妊娠メス卵管へのCRISPR関連試薬の注入、続く卵管全体へのin vivo電気穿孔を行うことで、上述した3つのステップ全てを省いてゲノム編集マウスが作製できる新手法「GONAD」の開発とその応用を進めた。
著者
宮岡 徹
出版者
静岡理工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

宮岡は,対象表面の粗さ・滑らかさを触ることによって知る触微細テクスチヤー知覚について研究し,「振幅情報仮説」を提唱した.この仮説が正しいなら,触覚系はローパスフィルタ特性を示すはずである.本研究は,このローパスフィルタ特性を調べることを研究目的とした.1.数理モデルの作成:触覚系がローパスフィルタ特性を持つなら,どのような結果が導出されるかについて,その特性を記述する数理モデルを作成した.このモデルによれば,触覚系がローパスフィルタ特性を示す場合,心理測定関数に特定のパターンが観察されるはずであった.2.能動触による実験:本実験では,回折格子を刺激として用いた。回折格子に指で触れ,溝に対し直角方向に一定速度で動かせば皮膚には三角波状の振動が与えられる。この振動は,基本周波数がはっきり決まっており,それより低い周波数成分を含まない。従って,基本周波数成分が皮膚及び神経系のフィルタを通過できた場合にはじめて,その回折格子表面に何らかのテクスチャーが感じられるはずである。本実験では,刺激に触れている指を20mm/sの速度で能動的に動かし,2つ1組の刺激のどちらを粗く感じるかを,二肢強制選択法により判断した。その結果,触覚系フィルタの通過限界周波数は400〜600Hzの間にあることが明らかとなった。また,この能動触実験の結果得られた心理測定関数は,ローパスフィルタのモデルで予測された心理測定関数と一致した.3.運動制御装置の作成と受動触による実験:ローパスフィルタ特性測定実験をさらに正確に実施するために,刺激移動速度を機械的に制御して,固定した指に受動触の状態で刺激を呈示する装置を作成した.この装置により実験を行なった結果,能動触実験と一致する結果が得られた.受動触実験で得られた心理測定関数も,数理モデルの予測に合致した.本研究の結果,触覚系の微細表面テクスチャー知覚における「振幅情報仮説」は基本的に正しいことが明らかとなった.
著者
安永 麻里絵
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

採用第三年目にあたる平成28年度には、前期にはオランダのアムステルダム大学人文学部美術史学科においてとくに19世紀以降のオランダにおけるインドネシア美術研究と植民地政策の関連について調査研究を行った。これを踏まえ、後期にはこれまでの研究を博士学位請求論文「『展示不可能なもの』の展示 カール・ヴィートのアジア美術研究における美術史学と人類学」にまとめ、東京大学総合文化研究科に提出した。本論文はドイツの美術史家カール・ヴィート(Karl With, 1891-1980)が1910年代から1920年代初頭にかけて取り組んだアジア美術研究を対象とし、その美術史学的方法論と美術館展示における実践の特質を分析するものである。1913(大正2)年にヴィートが日本で行った仏教彫刻研究を手がかりに、美術様式論や仏像写真を介した東西美術史学の学術交差を明らかにするとともに、オランダにおける調査を踏まえ、ヴィートのインドネシア美術研究において人類学や考古学などの隣接諸領域の視点から美術史学的方法論の再構築が試みられていく過程を明らかにした。とくに、1930年代にインドネシアが欧米の観光地化が進む過程でイメージ伝播装置として機能したことが1970年代以降の文化人類学の立場から指摘されてきたグレゴール・クラウゼによるバリ写真については、その初版本編集者としてのヴィートの役割を再考しつつ、異文化の美術研究と観光産業、あるいは植民地の文化保護政策と芸術研究が孕む矛盾がどのように生成されたかを明らかにした。これらの矛盾を踏まえてヴィートが、岡倉天心らによるボストン美術館の仏像展示のヨーロッパへの影響を相対化しつつ、アジアの仏教美術という本質的に西洋美術と異なる美術を西欧観衆に向けて提示するための実験的試みとして、文化人類学的視点と美術史学的視点を融合させた美術館展示を試みていたことを明らかにした。
著者
押山 美知子
出版者
専修大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は少女マンガ誌に掲載されたスポーツする少女を主人公とする作品(以下、スポーツ少女マンガ)の盛衰を明らかにすることを目的に、六〇年代から八〇年代までのスポーツ少女マンガを取り上げ、ヒロインの表象をジェンダー批評の観点から分析し、その歴史的変遷を検証したものである。国会図書館所蔵の主要少女マンガ誌12誌を調査し、六〇年代の80作、七〇年代の374作、八〇年代の231作の計685作について分析した結果は以下の通り。1.七〇年代まではスポーツと人生が一体化したヒロインが多く描かれ、身体描写にもリアリティが求められた。2.八〇年代はヒロインにとってのスポーツの重要度が低下し、楽しむ姿勢が見られた。