著者
荒井 修亮 光永 靖 坂本 亘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

世界に生息するウミガメ類は亜熱帯域から熱帯域を中心に、摂餌・産卵回遊を行っている。現在、ウミガメ類の全種において、その生息頭数が減少していると言われている。特に東南アジアにおけるアオウミガメ、タイマイ、オサガメ、ヒメウミガメについては絶滅の危機に瀕しているとされているが、その生態については全く未解明であった。このため本研究において、これらのウミガメ類の内、特にアオウミガメについてその回遊経路を解明すべく研究を開始した。具体的にはアオウミガメの回遊経路を人工衛星送信機(アルゴス送信機)を甲羅に装着することによって追跡を行った。平成13年度に12台、平成14年度に12台の合計24台のアルゴス送信機をタイ国のタイ湾側とアンダマン海側、並びにマレーシアのタイ湾側で産卵のために上陸したアオウミガメの雌成体に装着して追跡した。その結果、タイ湾側においては湾奥に位置する産卵場から放流したアオウミガメは大きく次の回遊経路を辿った。1.タイ湾を東へ海岸沿いに回遊し、カンボジアないしはベトナム沿岸へ行く経路。2.タイ湾を東へ沖合を横切り、南シナ海へと辿る経路。3.沿岸を回遊する個体。アンダマン海においては、産卵場であるシミラン諸島フーヨン島からの放流個体の殆どがアンダマン海を横切り、インド領であるアンダマン諸島沿岸へと回遊した。このようにタイ湾およびアンダマン海ではそれぞれ摂餌を行う海域が異なっていることが明らかとなった。これらの海域の個体が遺伝的に隔離されているか、あるいは交流があるのかについて、DNAによる解析を行った。この結果、両者には殆ど差違がないことが分かった。本研究期間中、タイ国を中心にアセアン諸国のウミガメ研究者を招き、SEASTAR2000ワークショップを3回(平成13年度プーケット、平成14年度及び15年度バンコク)開催し、プロシーディングスを出版した。更に本研究の成果を下に平成16年3月、タイ側共同研究者1名に京都大学学位が授与された。
著者
ヤーッコラ伊勢井 敏子 広瀬 啓吉 中 貴俊
出版者
中部大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は,フォルマント数値を用いて空間スペースにおける母音位置の三次元可視化(3軸上にF1~F3,F1~F2+F4を使う)を実現するものである.研究者が言語内および言語間の母音距離を表示できること,さらに,外国語学習者がユーザーフレンドリーなツールとして母音学習に役立てるために開発することを目的とする.全言語の母音表示を可能とするものである.本年度の研究成果として,研究者が未知の母音音素(各言語においてフォルマント母音図で位置が決まらない母音音素)について定量的にフォルマントの計測をし,位置を決め,更にその位置から伝統的な母音図を応用予測して適切な母音を決定できるようにするため,IPA母音すべてを任意に選択できる機能を追加した.また,学習者が英語モデル母音音素を何度でも聞こえるよう,母音をクリックするだけで音声が聞こえるように改善した.また,モデル音素を静的に置き,母音フォルマントを基本に学習者の音声が動的に動くシステム作りのベースを開始した.実験として日本語学習者の英語母音習得(特に短母音)の程度を英語母語話者と比較した.3次元フォルマント母音図とフォルマントの単純グラフを比較表示すると,前者の方が後者より圧倒的に視覚的効果があるだけでなく,母音間の距離感がより明瞭に分かることを実証した.本研究は今後音声認識技術を取り込めば全言語対応の母音学習ツールとしてより効果が見込め,これまでの研究成果発表の経験から,研究者にも学習者にも需要が高まるであろうことが十分予見できる.なお,本研究のベースとなった3次元可視化システムの応用性について,英語の筆記体を取り上げた.筆記体は現状の英語教育では看過されている.実態調査を行ったが,多くの大学生が読めないし書けないけれども,読みたいし書きたいという要望が多かった.更に,習得により将来何らかの利益があると考える学生が多かった.アルファベット筆記体を英語学習者に習得させることには意義がある事を実態調査が示した.即ち,アルファベット筆記体を3次元空間スペースで認知学習させる重要性も高まったと見てよいだろう.
著者
井川 克彦 長谷部 弘 阿部 勇 奥村 栄邦 西川 武臣 小林 延人 高橋 未沙 土金 師子
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

江戸後期において上田小県地方は生糸主産地の一つであり、その生糸は前橋の生糸市に集荷され、桐生などの絹織物の原料となった。横浜開港後にその生糸生産はさらに拡大して明治を迎えたが、この地方では器械製糸業がなかなか勃興しなかった。上田商人や生糸流通構造の実態を明らかにすることに努めた結果、養蚕と結合した農家小商品生産の部厚い存在、買い集める上田生糸商人の資本基盤の小ささを見通すことができた。
著者
坪井 秀人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

戦時期および敗戦期に刊行された少年雑誌、朝日新聞社刊行の『週刊少国民』および日本少国民文化協會が刊行した『少国民文化』、さらに朝日新聞社の関連する雑誌『アサヒグラフ』その他のグラフ雑誌や『科学朝日』など戦時期の関連雑誌を収集し、本研究の主たる対象である『週刊少国民』については戦時期までの大部分は収集を終え、戦後期についても収集や調査を行い、全国的にも完備されていない同誌の資料整備と調査を行った。また同誌が後継した『コドモアサヒ』及びその戦後のその後継誌『こども朝日』についても調査を行った。『週刊少国民』の戦時期の収集分すべての号について内容目次のデータベースを作成し、グラビア記事を中心に(一部は全頁)スキャニング作業によってデータファイル化した。この資料調査とデータベース化によって『週刊少国民』とそれに関連する戦時期の少年雑誌およびグラフ雑誌の性格を位置づけるとともに、グラビア記事の写真表現と文学者らによる文学表現とが緊密に相関し、子どもの読者に対してどのようにプロパガンダとして機能したのか、あるいは戦時期の戦局に対してどのような葛藤を生じていたのかを分析した。これらの作業と平行して、戦時期の少国民文化、特に少年少女の歌謡文化や綴方等に関する分析を行った。以上の研究の成果の一部は単著『戦争の記憶をさかのぼる』(筑摩書房)に組み込まれた(同書は第14回「やまなし文学賞」を受賞した)。また、本年度(2005年8-9月)ウィーン大学で開催されたEuropean Association for Japanese Studies(ヨーロッパ日本学会)の大会でもパネル発表を行い、「Structuring Desire through Poetry and Photographs in Shukan shokokumin」と題してその成果を報告した。
著者
加藤 真
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

日本に産する潜葉虫のファウナとその寄生植物がおおむね明らかになった。潜葉虫は鞘翅目でタマムシ科44種、ハムシ科52種、ゾウムシ科53種、オトシブミ科1種、双翅目でクロバネキノコバエ科約20種、ハモグリバエ科282種、ショウジョウバエ科2種、ミギワバエ科34種、ミバエ科23種、フンバエ科5種、ハナバエ科16種、膜翅目ではハバチ科16種、鱗翅目で田スイコバネ響4種、モグリチビガ科79種、マガリガ科11種、ツヤコガ科13種、ムモンハモグリガ科6種、ハマキガ科20種、チビガ科10種、ハモグリガ科19種、ホソガ科242種、コハモグリガ科20種、アトヒゲコガ科5種、スガ科2種、ササベリガ科1種、メムシガ科5種、アカバナガ科1種、クサモグリガ科15種、ツツミノガ科34種、カザリバガ科14種、キバガ科20種、メイガ科5種、シジミチョウ科2種、ヤガ科1種、合計1013種とみつもられた。潜葉虫の羽化を待ち、分類の仕事が進めば、この種数はさらに増えるものと思われる。潜葉虫の寄主植物は、147科605属に及んだ。今年度新たに寄主植物として記緑されたのは、ヒルギ科とタコノキ科であった。潜葉虫は利用されていない植物の科は68科(29,7%)あり、そのうちわけは以下のとおりであった。A.葉が極めて小さいか全くない科(12科)、B.水草(6科)、C.国内の分布が極めて限られる科(38科)、D.その他(12科)である。最後の12科は、キジノオシダ科、フサシダ科、サンショウモ科、ソテツ科、イヌガヤ科、ドクダミ科、ドクウツギ科、ケマンソウ科、ケシ科、カツラ科、フウチョウソウ科、ジンチョウゲ科であり、これらは強い化学防衛によって潜葉虫から解放されたらしい。採集された潜孔葉の標本は、すべてさく葉標本として保管されている。潜葉虫の潜孔様式と寄主範囲について、現在記載をしつつある。植物と寄生植物の共進化の歴史をふまえつつ、これらのぼう大なデータも群集生態学的に解析中である。
著者
登坂 宣好 〓田 和彦
出版者
日本大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

新しく提案したペトロフ・ガラーキン有限要素法を高レイノルズ数粘性流れの問題に適用し、以下の成果が得られた。1.レイノルズ数(Re)10^4までの正方形キャビティ内流れに対し、本計算結果は他解法の結果と比較して良い一致を示し、本手法は精度及び安定性ともに優れた近似解法であることがわかった。2.Re=10^5の正方形キャビティ内流れでは定常解は得られず、非常に複雑な流れ(乱流)が得られた。この現象は、コンピュータ・アニメーションを通して明確に観察することができた。3.円柱まわりの流れでは、Re=10^4〜10^7の流れを解析し、Re=5×10^5で抗力係数の激減を数値的に捉えることができた。この結果は、定性的には実験値と一致することがわかった。また、流れのアニメーション化を通してその現象のメカニズムを解明した。4.本手法は3次元非圧縮粘性流れの問題へも拡張され、立方体キャビティ内流れの計算を行い、Re=3200でTGL渦という縦渦を数値的に捉えることができた。この現象は、実験においても観察されており、良い一致を示した。また、Re=10^4の流れは非常に複雑な挙動になることがわかった。
著者
南方 かよ子
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

銅の高感度で簡便な定量法を開発し発表した(Clin Chem,2001,Jpn J Forensic Toxicol,2001)。5μlの血漿、1.5mlの水道水で定量が可能である。この方法を用いて餌中にパラコート250ppmを投与して中毒をおこしたラットの組織中の銅を定量した。その他の金属は当補助金で入手した島津AA-6200原子吸光光度計にて定量した。中毒ラットでは、銅は肺、肝、血漿で2倍に、腎では半分に変動していた。鉄は肝、脾で2倍、血漿では半分に変動していた。マグネシウムは腎で2倍となり、肝ではマグネシウムと亜鉛が有意に上昇していた(J Toxicol Environ Health,2002)。マグネシウム半減食中にパラコート125ppmを投与したラットの上記金属レベルはパラコート中毒の場合と同様であった(Jpn J Legal Med,2001)。しかしながら、カルシウムは腎で10倍となっていた(法医学会総会,2002発表予定)。マグネシウム半減食のみでこのような高濃度のカルシウムの蓄積をおこすには通常35日以上を要する。マグネシウム半減食中に125ppmのパラコートを投与したラットではパラコート中毒とマグネシウム欠乏がともに促進されていた。カルシウムとマグネシウムの比を保つために全ミネラルを半減しパラコート125ppm投与ラットではカルシウムは腎で20倍となっていた(ISALM,2002発表予定)。
著者
柏原 稔也
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

唾液は円滑な咀囑,嚥下を行うために必須なものであり,生体防御においても,重要な役割を果たしている.しかし,加齢,投薬の副作用などによる唾液分泌量の減少や唾液性状の変化は,口腔内の自浄性を低下させ,細菌叢だけでなく,摂食・嚥下機能にも大きく影響すると考えられる.さらに,これらのことが誤嚥性肺炎などの呼吸器疾患や,消化器疾患の誘因や増悪要因になることが予想される。そのため,高齢者の唾液の性状を評価することは重要な課題であると考えた.今回,高齢者,要介護高齢者では,若年者と比較して,ムチン,アルブミン濃度が有意に高く,カンジダの検出数も有意に多かった.また,カンジダの検出数が多い群では,検出されない群と比較して,ムチン,アルブミン濃度が高い傾向にあった。これは,唾液中のムチン濃度の増加がカンジダの増殖を導き,誤嚥性肺炎のリスクの高い環境を作り出すというわれわれの仮説を証明する結果であった。一方,唾液中のアルブミン濃度は仮説とは逆に,高齢者,要介護高齢者で高くなった。唾液中のアルブミンは歯周組織や口腔粘膜の血管から漏出することより,栄養状態を反映するのではなく,口腔内の炎症により増加するのではないかと考えられる。そのため,唾液中のアルブミン濃度を測定することは,口腔内の感染や炎症を測るうえで重要であるといえる。以上のことより,カンジダ,ムチン,アルブミンに注目した唾液評価によって,誤嚥性肺炎のリスクファクターや,高齢者の口腔の健康状態を評価できる可能性があり,臨床的に重要な応用性をもつものであるといえる.
著者
陶久 利彦 荒木 修 新井 誠 宮川 基 佐々木 くみ
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

性風俗産業の法的問題性を、憲法・行政法・刑法という個別法分野から分析・検討すると同時に、法を支える感情面や倫理面との関連性を法哲学の見地から研究した。ただ、性風俗に含まれる行為や営業は多様であるから、共同研究者の関心にも沿うような形で専ら売買春と所謂風営法に対象を限定した。フェミニズムに加担するのではなく、かといって実態調査に埋もれるのでもなく、性風俗関連の立法史、特に行政的規制の在り方、そして風営法の憲法論的位置づけなどを検討したことは、性風俗産業への法学的アプローチとして大きな成果を上げた。
著者
宮村 達男 吉田 弘 清水 博之 PHAN Van Tu 米山 徹夫 萩原 昭夫 松浦 善治 武田 直和 RADU Crainic DELPEYROUX F CRAINIC Radu
出版者
国立感染症研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ポリオウイルスは代表的なエンテロウイルスであり、経口感染によりヒトからヒトへと伝播する。そしてヒトのみが唯一の感受性自然宿主である。糞口感染が日常的におこらないような衛生状態が恒常的に保たれれば、ポリオの伝播は次第に絶ち切られ、ポリオという疾患は消滅するはずである。一気にポリオを根絶する為には、更に強力な免疫計画とサーベイランスが必要であり、この目的をもって世界レベルの根絶計画がWHOの強力な指導のもとにスタートした。我が国の属する西太平洋地域では野生株ポリオウイルスは激減しているが、本研究は最後までウイルスが残っているベトナムをその対象領域として、野生株ポリオウイルスが弱毒性ワクチン株に置き換えられてゆく最後の過程を検証することにある。1997年、ベトナムでは1例、隣国のカンボジアでは8例の野生株が分離された。これらは現地で急性弛緩性マヒ(Acute Flaccid Paralysis:AFP)を生じた小児の糞便検体が当研究室に送付され、ウイルス分離、同定、型内鑑別が行われたものである。そしてこれらの分離株のVP-1領域の塩基配列を決定し、これまで周囲で分離されていた野生株と比較した。その結果、インドシナ半島で複数存在していた株のうちの一つのみが残っていることがわかった。北ベトナムでAFP例から分離されたウイルスは、ここ2年間、すべてワクチン由来株であったが、この1年はワクチン株の分離も減少している。一方、南ベトナムの国家ラボで得られた成績と日本のラボでの成績には、一部不一致がみられた。その問題点を解決する手段として、野本らにより樹立されたポリオウイルスのレセプターを発現しているマウス細胞株(Lα細胞)を用いた、ポリオウイルス選択的なウイルス分離が提唱され、実行されつつある。かくして、1997年3月19日のカンボジアの1例を最後として、野生株は分離されておらず、これが最後の例となるか、更なる強力な監視が必要である。
著者
斎藤 泉 千葉 丈 松浦 善治 宮村 達男
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

日本の慢性肝炎(120万人)の半数以上、最近の肝細胞癌全体(1万8千人/年)の半数近くがC型肝炎ウイルス(HCV)によるものと考えられている。クロ-ン化したウイルスcDNAを用いてHCV遺伝子産物の発現系・検出系を開発し、肝炎・肝癌組織中で発現するHCV遺伝子産物を検討することにより、このウイルスによる肝炎・肝癌発症機構解明の基礎を確立するのが本研究の目的である。1.HCVの構造領域cDNAを組み込んだバキュロウイルス発現ベクタ-やプラズミドベクタ-をサル由来細胞株に導入することによりHCVの構造蛋白を発現させた結果、HCVのコア蛋白とエンベロ-プ蛋白の発現と同定に成功した。コア蛋白は糖鎖のつかない22kdの蛋白で、p22と命名し、エンベロ-プ蛋白は糖鎖を持つ35kdの蛋白でgp35と命名した。また粗精製したp22蛋白を用いてHCVのコア蛋白に対する抗体(コア抗体)を検出する実用的なELISAを作製した。2.組換えバキュロウイルスにより産生されたコア蛋白などを抗原として、構造蛋白の検出に用いられるモノクロ-ン抗体を作製した。3.非B型肝癌の8例において、癌部と非癌部からRNAを抽出し、PCR法によりHCVRNAを検出した結果、少なくとも一部の非B型肝癌組織からHCVRNAが検出されることが分かった。本研究によりHCV構造蛋白の特異抗体作製への道が開かれ、患者組織におけるウイルス抗原の検出への基礎が開けたといえよう。一部の肝癌組織からHCVRNAが検出されることは、持続感染状態にあるHCVが細胞の癌化に何等かの役割を果たしている可能性を示唆するが、その証明には今後の定量的検討が必要であろう。
著者
宮村 達男 宮村 逹男 (1990) 原田 志津子 竹内 健司 田中 幸江 湯浅 田鶴子 斎藤 泉 KUO George HOUGHTON Mike RUTTER William J.
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

非A非B型肝炎の起因因子はそれまでの種々の状況証拠からウイルスであることが想定されていたが、通常のウイルス分離方法や、抗原抗体検出系に基づく方法でその因子を同定することができなかった。共同研究が開始された1982年から、感染したチンパンジ-の肝組織または、血漿からRNAを抽出し、そのcDNAをライブラリ-化して、非A非B型肝炎ウイルス遺伝子の断片を得ることを試みた。1988年に、カイロンのグル-プが、λ gtllを用いたイムノスクリ-ニングによりその発現産物が非A非B型肝炎患者の血清と特異的に反応するcDNA断片を得ることに成功した(Choo et al.Science 244,359ー362;文献1)。日本で全く独立にそれまでに収集、解析されていた輸血後非A非B肝炎の患者の血清中に病型に対応してこの抗体の産生が認められた。更にこの患者に実際に輸血された血液の供血者にもこの抗体が検出された(文献2及び4)。この抗体は日本の非B型の肝がん患者の実に60〜70%にも検出される(文献3)。カイロングル-プはgene walkingによりこのcDNAが長さ約9.5キロベ-スの一本鎖RNAをそのゲノムとしてもつ全く新しいRNAウイルスであることをつきとめ、これをC型肝炎ウイルス(HCV)と名付けた(Choo et al.1989,Science 244,359ー362;Choo et al.1991,Proc.Natl.Acad.Sci.in press)。一方予研側は、このカイロンとの共同研究から塩基配列の情報を得て、日本人の供血者からHCVのcDNA断片を直接PCR法によって増幅、クロ-ン化した(文献6、7、9、12)。つまり日本とアメリカとで、各々ヒトと実験的に感染させたチンパンジ-の血液からHCVcDNAを得ることができた。この2つのHCVのcDNAの塩基配列とアミノ酸の配列を比較、更に類似していることが以前から提唱されているフラビウイルスのそれと比較した。フラビウイルスとの類似性もさることながら、ウシ下痢症ウイルスなどペスティウイルスとの一部の相同性もみつかり、これら3種のウイルスが互いに類似しながら全く別のウイルスであることが明らかとなった。この間、カイロングル-プは、HCVの非構造遺伝子NS4の領域を酵母で発現させ、その発現産物を利用した特異抗体検出ELISAを作出した。この検査法の有用性を世界で最初に示したのがこの協同研究による日本での患者及び、供血者での血液検査であった。その結果1989年の11月、日本が世界に先駆けて、このHCV抗体アッセイを輸血のスクリ-ニングに用いることとなった。このHCV抗体アッセイ系はその後世界中で輸血用血液のスクリ-ニングに用いられるようになっているが、C型肝炎の診断には必ずしも適さない点があった。我々の初期の検討により抗体が陽転するまでに数カ月を要することが示されていたからである。日本でのクロ-ン化されたHCVの遺伝子構造を詳細に調べた。まず、ウイルスの構造蛋白をコ-ドする構造遺伝子をサルCOS細胞でSRαプロモ-タ-の統御下で組換え、更にバキュロウイルスを用いて昆虫細胞でヌクレオキャプシド(コア)蛋白を発現させることに成功した(文献14、15、16)。これらの蛋白に対する抗体が患者血清中に特異的に検出されることにより同定することができた。これにより遺伝子の機能を同定されたのみならず、この蛋白を用いたELISAが、C型肝炎の早期診断やより感度の高い輸血血液のスクリ-ニングにも応用可能であることが示された。現在世界各国の協同研究者とその有用性を検討している。このコア蛋白にひきつづきエンベロ-プ蛋白の発現実験にも成功した(論文準備中、Matsuura et al)。分子量約35キロダルトンの糖蛋白である。この蛋白及びその下流にあるNS1の領域の発現産物を用いて今後、ワクチンやγーグロブリン製剤の実用化を検討してゆきたい。
著者
立脇 洋介
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

従来の異性交際に関する心理学的研究では、親密化過程と崩壊過程に関するモデルが別々に提出されてきた。そのため、いずれのモデルも関係の変化のダイナミズムを十分に説明できていない。そこで、本研究は異性交際中の感情に注目し、親密化過程と崩壊過程とを包含するモデルの構築を試みた。本年度の研究の成果は以下の四点にまとめられる。第一に、異性交際中の感情を測定する尺度を開発し、論文「異性交際中の感情と相手との関係性」として発表した。第二に、時系列調査によって、関係の変化と意識の変化との関連を分析した。調査期間中に関係が変化した人では、情熱感情と尊敬・信頼感情とが大きく変化していたのに対し、親和不満感情はほとんど変化していなかった。したがって、関係の親密化や崩壊には否定的感情より情熱感情や尊敬・信頼感情などの肯定的感情の方が関連している可能性が示唆された。第三に、異性交際中の感情と個人特性要因との関連について検討した。不安傾向の強い人は親和不満感情と攻撃・拒否感情だけでなく、情熱感情も感じやすいこと、回避傾向が強い人は情熱感情や尊敬・信頼感情を感じにくく、攻撃・拒否感情を感じやすいことが明らかにされた。したがって、不安傾向の高い人は異性の友人関係より恋愛関係を構築し、回避傾向の高い人は親密な関係を構築しにくいと考えられる。第四に、異性交際をテーマとした流行歌を視聴する前後での気分の変化を、実験によって検討した。流行歌視聴前に比べ、気分がポジティブに変化することが明らかになった。
著者
赤松 友成
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

超音波聴覚を有する魚類が近年発見され,水産資源探査用の超音波が,魚群を威嚇し,資源量の過小推定を引き起こす可能性が指摘されていた。そこで,我が国沿岸に生息する水産有用魚種の超音波聴覚を音刺激に対する魚類頭頂部への誘発電位(聴性脳幹反応)を利用して計測し,音響資源計測における魚類行動への潜在的な影響を調べた。超音波領域における聴覚の確認実験を行うため,低周波音の再生に適した現有の聴性脳幹反応計測システムに,超音波対応の小型のトランスデューサーを加え,水中で超音波の再生ができるよう改造した。また,大型魚での実験を容易にするため,電極を魚類頭部に接着し絶縁して,水中においても聴性脳幹反応の記録ができる技術を開発した。さらに,超音波領域まで良好な増幅特性を有するパワーアンプと,超音波再生用のトランスデューサーを組み合わせて,超音波暴露実験が可能なシステムを構築した。このシステムを用いて,マイワシ,カタクチイワシ,イカナゴ,マコガレイで超音波聴覚を計測した。いずれの種類も,低周波音に感度があったが,超音波は感受しなかった。このため,超音波聴覚はニシン科魚類のなかでも限定的な種に存在する可能性が示唆された。なお,マコガレイを除く上記の魚種においては,これまで聴覚感度そのものが未計測であったため,新しい知見を得た。すなわち,マイワシは海産魚のなかでは比較的高い1kHzで感度が良く,音波を鰾で感受していた。イカナゴは,数百Hzの低周波領域を聴くことができるが,聴覚感度は低いことが明らかになった。この研究の副産物として,水中における聴性脳幹反応の計測手法が確立された。この手法を応用すれば,稚魚から大型魚までの様々な魚の聴覚感度を,船上の水槽や生け簀などの現場環境で計測できると期待される。
著者
畠山 昌則 東 秀明
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

ヘリコバクター・ピロリ菌由来cagA遺伝子を胃上皮細胞に一過性導入・発現させる系を樹立した。発現されたCagAタンパク質は細胞内で細胞膜近傍に局在し、Srcファミリーキナーゼによりチロシンリン酸化を受けた。CagAはチロシンリン酸化依存的にSHP-2チロシンホスファターゼのSH2ドメインと特異的に結合し、この結合を介してSHP-2のホスファターゼ活性を増強した。また、CagA-SHP-2相互作用の結果、胃上皮細胞には細胞質の著しい進展で特徴付けられる形態的変化(hummingbird表現型)が誘導された。CagAのチロシンリン酸化に関わるEPIYAモチーフは単離される菌株ごとにその数ならびに周辺アミノ酸組成が変動する。欧米諸国で単離されるピロリ菌由来CagAのSHP-2結合活性ならびにhummingbird表現型誘導活性はEPIYAモチーフの数に比例した。一方、胃癌の多発する日本、韓国など東アジア諸国で単離されるピロリ菌CagAは、欧米型CagAと周辺アミノ酸を異にするEPIYAモチーフを有し、この東アジア特異的EPIYAモチーフは欧米型EPIYAモチーフに比べはるかに強いSHP-2結合能ならびにhummingbird表現型誘導活性を示した。CagAとチロシンリン酸化特異的に結合する第二の細胞性蛋白としてCskを同定した。CskはCagAとの結合により活性化され、Srcを抑制することによりCagAのリン酸化レベルを低下させた。CagAによるSHP-2の構成的活性化は胃上皮細胞のapoptosisを誘導することから、CagA-Csk相互作用はCagAの細胞毒性を現弱させるフィードバック制御に関与するものと推察された。
著者
安元 健 KASPAR H.F. 佐竹 真幸 大島 康克
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究ではニュージーランドで発生した(1)神経性貝毒(2)カキの新奇毒成分(3)麻痺性貝毒の3種の貝毒を対象として情報の交換、試料の収集、原因毒の解明についての共同研究を実施した。研究実績の概要は下記の通りである。1。神経性貝毒1992年12月から1993年の1月にかけて発生した食中毒について、疫学調査、発生プランクトンの種類、及び毒の薬理作用についての予備試験結果から神経性貝毒であろうと推定し、原因毒の単離・構造決定を実施した。共同研究者の協力により約270kgのイガイ中腸腺を入手した。原因プランクトンとしてはGymnodinium breveまたはその近似種が示唆されていた。本種はブレベトキシン類を生産することが知られているが、イガイからは既知のブレベトキシン類は検出されなかった。代わってブレベトキシンの新奇類縁体3成分が単離された。成分1はC_<53>H_<79>NO_<17>S(MW:1033)の分子式を有し、ジアステレオマ-4成分の混合物と推定された。成分2では42位炭素がカルボキシル基に酸化され、さらにD環が開環しており、新たに生じた10位の水酸基に脂肪酸がエステル結合していると推定された。成分3はブレベトキシンBの基本骨格を保持し、側鎖に修飾を受けた新奇物質と推定された。現在立体配置を含めた構造の確認を進めている。成分1と3ではマウス致死毒性およびNaチャンネル活性化作用が確認された。2。カキの新奇毒成分1993年に南島南端のFoveaux海峡周辺でカキが毒化した。原因プランクトンはGymnodinium cf.mikimotoiと推定された。毒化したカキの試料約60kgを入手し、その30kgをアセトンで抽出して原因毒の単離・精製を行った。その結果、原因毒は分子式C_<32>H_<45>NO_4(MW:507)を有する新奇イミンであることを確認したのでジムノジミン(gymnodimin)と命名した。ジムノジミンは分子内に16員の大きな炭素環、6員環イミン、ブテノリド環を含む特異な構造を有する。既に平面構造を確定し、現在は絶対構造の確認を目指して誘導体の調製を行っている。ジムノジミンのマウス腹腔内投与による最少致死量は450μg/kgを示した。小型淡水魚のアカヒレを用いた魚毒性試験で求めた最少致死濃度は0.10ppm(20nM)であり、魚類に対して強力な毒性を示すことが明らかになった。細胞毒性や溶血性は認められず、培養細胞を用いたNaチャンネル活性試験でも顕著な活性は検出されなかった。共同研究者から提供を受けたG.cf.mikimotoiを培養し、その抽出物をLC/MSで分析したところジムノジミンが検出され、本種が毒の起源であることが確認された。3。麻痺性貝毒麻痺性貝毒を生産する渦鞭毛藻としてはAlexandrium属、Gymnodinium属、及びPyrodinium属が知られているが、ニュージーランドではA.minutum及びA.ostenferdiiの出現が確認されている。同国内で採集されたA.minutumの1株及び異なる地域で採集されたA.ostenferdiiの5株について、培養を行い毒生産能の確認及び毒組成の分析を行った。その結果、A.ostenferdiiの1株は無毒であり、この無毒株も含めて5タイプに区別され、多様な毒組成を示した。同国内のA.minutumはほぼ同じ組成を示したが、著量のサキシトキシンとネオサキシトキシンを生産する点に特徴が見られた。
著者
笹月 健彦 松下 祥 菊池 郁夫
出版者
九州大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1984

これまでに、スギ花粉症に対する抵抗性はHLAと連鎖した遺伝子により、CPAg特異的サプレッサーT細胞を介して発現される単純優性遺伝形質であり、HLA-DRはT-マクロファージ間相互作用の拘束分子として、すなわち免疫応答遺伝子産物として機能し、またHLA-DQは免疫抑制遺伝子産物として機能していることを明らかにしてきた。今年度は免疫抑制のメカニズムをより詳細に解析し、以下のことを明らかにした。1.すでにHLA遺伝子型が決定された98家系525人の血清中特異的IgE抗体価を測定し、スギ花粉抗原(CPAg)に対する低応答性はHLAと連鎖した単純優性遺伝形質であることが確認された。すなわち症状のみならず免疫応答性からも免疫抑制遺伝子の存在が裏付けられた。2.第3回国際白血球分化抗原ワークショップで得られた約50種の活性化T細胞に関わる単クローン抗体が免疫抑制におよぼす影響について検討した。その結果、免疫応答を直接刺激することなく、免疫抑制を阻止することで、非応答者のIgE免疫応答を回復させる単クローン抗体4B4を見い出した。この4B4分子はヘルパーT細胞上に表現されていたが、サプレッサーT細胞上には表現されていなかった。また、培養開始時に細胞を抗4B4で処理しても免疫抑制は阻止されないことから、培養期間中のある特定の時期にこの抗体が存在することが、免疫抑制の阻止に必須であるものと考えられた。さらに4B4による免疫沈降の結果から、4B4分子はヘテロダイマーであり、活性化ヘルパーT細胞上の4B4分子は、静止期T細胞のそれに比べて、新たに3種のポリペプチドを表現していた。すなわち活性化T細胞上の4B4分子が、サプレッサーT細胞やサプレッサー因子の標的分子として機能していることが推測された。
著者
堀本 泰介 前田 健 川口 寧 杉井 俊二 土屋 耕太郎 五藤 秀男 田島 朋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ブタ用多価組み換えウイルス生ワクチンを開発するためには、まずベクターウイルスの選択を検討しなければならない。この目的に合うベクターウイルスとしては、(1)ブタに感染するが病原性の弱いもの、あるいは確実に弱毒化されているもの、(2)比較的サイズの大きな複数の外来性の遺伝子の挿入が可能なもの、(3)外来抗原を長期間発現可能な持続感染性のもの、が理想的であると考えられる。本研究では、この条件に合うものとしてブタサイトメガロウイルス(Porcine Cytomegalovirus : PCMV)のベクター化を考えた。その基礎知見の獲得のため、PCMVのゲノム構造および主要蛋白質の性状解析を実施し、以下の研究成果を得た。(1)PCMVゲノムDNAの制限酵素切断プロファイルを明かにし、切断断片のクローニングに成功した。(2)ヘルペスウイルスの主要遺伝子である主要ゲノムの転写複製に必須であるDNAポリメラーゼ遺伝子、粒子形成に必須であるカプシッド蛋白遺伝子、細胞レセプターへの結合に関与する糖蛋白質gB遺伝子、およびこれら周辺の遺伝子クラスターの同定、塩基配列を決定した。(3)これら主要遺伝子の分子系統解析の結果、PCMVはベータヘルペスウイルス亜科、特にヒトヘルペスウイルス6型および7型と非常に近縁なウイルスであることを発見した。(4)いくつかの必須遺伝子の発現実験により蛋白質の分子構造解析、あるいは免疫性状などについて検討した。(5)PCMV感染の有無を判定する高感度で特異性の高いMCP遺伝子配列に基づくPCR法を確立した。さらに、濾紙乾燥血液をこの方法に応用した。これらの成果は、細胞性・液性免疫の誘導や組み換えワクチン作製に関する基礎的な情報を提供するのみならず、今後、獣医畜産学および豚の臓器を利用した異種移植に関する臨床医学の発展に大きく貢献するものと考えられる。
著者
川口 寧 前田 健 堀本 泰介 見上 彪 田中 道子 遠矢 幸信 坂口 正士
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は'bacterial artificial chromosome (BAC) systcm"を用いてヘルペスウイルスの簡便な組み換え法を開発することによって、新しいワクチン開発、遺伝子治療ベクターの開発、基礎研究を著しくスピードアップすることにある。本研究課題によって得られた結果は以下の通りである。ヘルペスウイルスで最も研究が進んでいる単純ヘルペスウイルス(HSV)の組み換え法の確立をBAC systemを用いて試みた。外来遺伝子の挿入によって影響がでない部位であるUL3とUL4のジャンクション部位にLoxP配列で挟まれたBACmidが挿入されたHSV全ゲノムを大腸菌に保持させることに成功した。大腸菌よりHSVゲノムを抽出し培養細胞に導入したところ、感染性ウイルス(YK304)が産生された。また、YK304とCre recombinase発現アデノウイルスを共感染させることによって非常に高率にYK304 genomeよりbacmidが除去されたウイルス(YK311)が得られた。YK304およびYK311は培養細胞において野生株であるHSV-1(F)と同等な増殖能力を示した。さらに、マウス動物モデルを用いた解析によりYK304およびYK311がHSV-1(F)と同等の病原性を示すことが明らかになった。以上より、YEbac102は、(i)完全長のHSV-1 genomeを保持し、(ii)bacmidの除去が可能であり、(iii)野生株と同等な増殖能および病原性を保持する感染遺伝子クローンを有していることが明らかになった。大腸菌の中で、実際に任意の変異をウイルスゲノムに導入する系を確立した。RecAを発現する大腸菌RR1にHSV全ゲノムを保持させた(YEbac103)。YEbac103内で、RecA法に従って、ICP0遺伝子に3つのアミノ酸置換を導入することに成功した。また、RecAを発現するトランスファープラスミドを構築し、RR1を用いずに、RecA negativeの大腸菌YEbac102内で、ICP34.5部位に変異を導入することに成功した。YEbac102、YEbac103と確立した組み換え系は、HSVの基礎研究、ワクチン開発、ベクター開発に多目的に有用であると考えられる。またこれらの系は他のヘルペスウイルスにも応用可能である。
著者
山崎 守一
出版者
仙台電波工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、ジャイナ教白衣派の聖典語であるアルダ・マガダ語で書かれたUttaradhyayana-sutra(N.V.Vaidyaの刊本:Uttaradhyayana-sutram,Poona,1959)の文法解析を、同僚の逢坂雄美教授(理学博士)の協力を得ながら、パーソナルコンピユ-タによって解明することを目的として遂行された。まず、Uttaradhyayana-sutraに現れる全語葉の正順と逆引索引を作成した。アルダ・マガダ語には日本語における所謂|て・に・を・は|がなく、名詞の変化は総て語尾変化で表されるため、これらの索引が必要不可欠である。また、動詞の分類では、単語の語尾に着目して整理された逆引索引が重要な役割を果たすことになる。動詞の分析を実行するに当たって動詞の語尾変化と動詞語幹のデータベースを作成した。語尾情報はR.Pischelの文法書から収集した。語棄分析に動詞情報のみ使うと、常にデータベースの全情報との比較検索を必要とするため、多大な演算時間を消費してしまうので、このことを避ける目的で不変化詞(接続詞、副詞、間投詞)に関するデータも蓄積した。データベースに収録された種々の語尾と単語とのパターンマッチングを行い、活用形を決定し、それらの語尾変化を新たなデータベースに収録した。名詞の格変化についても類似の手法によって解析できるようにした。ただ、現段階では本プログラムでは、品詞・態・格等は異なるが、同じ語尾変化をする単語(語尾変化のパターンが適合するもの)については総て出力されるので、今後マッチングデータの非決定数を限りなく少なくしていき、最終的に一つに絞り込めるよう、判定条件を整理していかなければならない。同様にして、他の4つのテキスト(Ayaramga-Sutta,Suyagadamga,Dasavcyaliya,Isibhasiyaim)も文法解析して十分な量の規則を収集・包括し、近い将来、アルダ・マガダ語の文法規則を集大成したいと考える。