著者
澤田 次郎
出版者
拓殖大学政治経済研究所
雑誌
政治・経済・法律研究 = Politics, economics and law (ISSN:13446630)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.19-76, 2020-03

本稿は1880年代における参謀本部の対清情報活動の実態を,福島安正中尉(のち大尉)を主軸に据えて考察するものである。そこでは主に以下の3点を検証した。第一に軍事関連施設の偵察である。まず福島は北京から内モンゴルを,ついで杉山直矢少佐とともに,①上海─南京,②煙台─天津を旅行し,兵要地誌調査を行った。第二に清国社会の観察である。杉山と福島はそうした過程で農民,商人から官吏に至るまで,さまざまな人々に接触し,自国と清国の違いを実感した。第三に北京での清国軍のデータ収集である。公使館付武官となった福島は,清国軍の最新データを収集することに努め,重要文書を入手して大量の資料を日本にもたらした。以上の三つの段階をふまえて,また他の派遣将校たちの情報収集と合わせて,日本陸軍は日清戦争の約10年前から清国軍の全体像をほぼつかむようになっていたのではないかと考えられる。
著者
海保 邦夫 大庭 雅寛
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

多細胞動物の台頭期であるエディアカラ紀から多細胞動物の爆発的進化期であるカンブリア紀初期に渡る海洋溶存酸素環境をバイオマーカーのプリスタン/ファイタン比により、stormwavebaseより浅い水深と深い水深に分けて求めた。海洋溶存酸素は、遺伝子からみた多細胞動物の多様化期、大型のエディアカラ生物群の出現、カンブリア紀の多細胞動物の爆発的進化期で増加した。酸素が生物の進化をコントロールした。
著者
稲葉 俊哉 長町 安希子
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.1020-1026, 2019

<p>魑魅魍魎たるモノソミー7も,最初の報告から半世紀が経ち,ようやく本態が見えてきた。理解の鍵は,ハプロ不全(haploinsufficiency)による,複数の発がん抑制遺伝子の機能喪失である。マイクロアレイCGH法と次世代シーケンサにより,<i>Samd9</i>と<i>Samd9-like</i>(<i>Samd9L</i>),<i>Ezh2</i>,<i>MLL3</i>,<i>CUX1</i>の5責任遺伝子候補が同定され,遺伝子改変マウスなどにより立証された。<i>Samd9</i>と<i>Samd9L</i>は,片アレルの喪失でマウスに老年期MDSを起こす一方,その機能更新型の変異は小児の骨髄機能不全をもたらし,高率に小児MDSが発症する。モノソミー7にとどまらず,難解なMDSを理解する上でも鍵となる遺伝子として注目される。一方,エピゲノム調節因子である<i>Ezh2</i>と<i>MLL3</i>は,p53やRas経路の異常を伴い,腫瘍化が運命付けられた造血細胞の中で,病状の進展に寄与すると考えられる。</p>
著者
塙 義一
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.987, pp.35-37, 1999-04-19

問 今回の提携で、ルノーは株主総会で拒否権を発動できる3分の1以上を出資しましたが、CEO(最高経営責任者)は繧ウんが続ける。一方で、ルノーの次期CEOの呼び声もあるカルロス・ゴーンさんがCOO(最高執行責任者)としてくる。戦略や意思決定が混乱する懸念はないですか。 答 両社の基本認識は日産のアイデンティティー(個性)は従来のまま保たれるというものです。
著者
髙坂 康雅
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.90-93, 2018-07-01 (Released:2018-07-04)
参考文献数
7

This study investigates how many university students who do not desire a steady romantic relationship become involved in a steady relationship or want to have a romantic relationship in 1 year. A total of 96 students who did not desire a steady romantic relationship at Time 1 were asked about the status of their romantic relationship at Time 2. Those who had the highest score for “the influence of past romantic relationships” were identified, and 29 were found to desire a romantic relationship. The reasons for entering into or desiring a romantic relationship were categorized into seven groups.
著者
斎藤 夏来
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

日本中世史研究にかかわる文献史学の立場から、画像賛を含む五山文学の研究を行う。五山文学には、創作に属する「作品」としての側面と、歴史的な諸事実を反映する「史料」としての側面とがあり、今後の研究の視野を格段に広げ深める可能性がある。特に、人物画像に書き込まれた賛文には、古文書や古記録には決して現れないような、当事者の主観に属するいわば機密的な内容が含まれている感触を得ており、その具体的な実証をめざす。
著者
吉田 卓矢
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

低たんぱく食は慢性腎臓病(CKD)患者における食事療法であるが、CKD患者の筋萎縮に関与していることが考えられる。そこで、本研究では、筋蛋白の合成を促進することが知られている分岐鎖アミノ酸の摂取や運動がCKDの腎機能や筋蛋白合成に与える影響をCKDモデルラットを用いて基礎的に検討した。その結果、CKDでは運動による筋蛋白合成の活性化が低下していることが明らかとなった。また、運動とともに分岐鎖アミノ酸を少量摂取することで、CKDモデルラットにおいて腎機能を低下させずに運動による筋蛋白合成を促進することが明らかとなった。
著者
山口 晋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

本研究では,日本最大規模といわれるフリー野外音楽フェスティバルである「上田ジョイント」の盛衰について検討する。上田ジョイントには巨大な音楽資本が参入せず,地域住民や企業が上田ジョイントを強くサポートするため,地域コミュニティとの動態が把握できる。より詳しくは,上田ジョイントの盛衰について,主催者と地域コミュニティとの関係から明らかにする。特に,主催者の意図が上田ジョイントを取り巻く,地域コミュニティのアクターとどのように一致するのか,一致しないのかについて提示する。最後に,上田ジョイントの制度化と主催者の音楽活動からの卒業の観点から,地方都市における音楽文化の困難と可能性について知見を示したい。
著者
渡辺 慶一 高橋 文次郎 白戸 一士
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.835-840, 1990 (Released:2007-07-05)
参考文献数
19
被引用文献数
9 26

キウイフルーツ (A. deliciosa) の雄性品種‘マチュア’, 雌性品種‘アボット’, ‘ブルーノ’及びマタタビ(A. polygama), サルナシ(A. arguta) を用いて体細胞染色体, 減数分裂について観察調査を行った. キウイフルーツの3品種の体細胞染色体数は2n=174であり, マタタビの2種では2n=58, サルナシの4種では2n=58, 2n=116, 2n=ca. 174と算定された.これらの染色体数から, Actinidia においてはx=29が基本数であることが認められた.サルナシにおいては, 2仁を有する2n=58, 4仁を有する2n=116と仁数は不明確であったが2n=ca. 174の2x, 4x, 6xの倍数関係が示された. 本報のマタタビは2n=58の2倍性であったが, これまでに報告された2n=116の存在を考えると両者の間には, 2xと4xの同質倍数性関係があるのかもしれない. 本研究の2n=174のキウイフルーツの3品種‘マチュア’, ‘アボット’, 及び‘ブルーノ’は体細胞核に6仁または小胞子核で3仁を有し, いずれも基本数x=29の6倍性を示している.
著者
田村 文男
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.373-381, 2017 (Released:2017-12-31)
参考文献数
73
被引用文献数
4

ニホンナシに生じる果肉障害としてユズ肌症,みつ症およびコルク状障害をとりあげ,それらの発生事例と研究例について検討を行った.3種類の障害とも園地や栽培年によって大きく発生が変動するが,樹齢や技術によっても影響を受けることが明らかであった.これらの障害は,リグニン化を含む細胞壁の肥厚,細胞壁多糖類の分解,細胞壁のコルク化とそれぞれ異なった組織学的特性を有していたが,いずれも引き金として果実と葉との養水分の競合があるものと思われた.以上の点を元にして,今後のニホンナシの果肉障害研究の方向性について論議した.