著者
佐藤 正晃
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、研究代表者が過去に確立した蛍光カルシウムセンサータンパク質発現トランスジェニックマウスや深部脳イメージングなどの技術を用いて、マウスが二光子レーザー顕微鏡周囲に作り出されたバーチャルリアリティ環境下で空間行動を行うときの海馬CA1野の神経回路活動をイメージングした。得られた各細胞の活動の時系列データについて、活動のタイミングとその時点の動物の仮想的な位置を解析したところ、全細胞のうち一部分の細胞集団が場所特異的な活動を示すことが明らかとなった。またイメージング画像中での各細胞の位置から、このような場所細胞群の海馬神経回路内の解剖学的配置を明らかにした。
著者
黒田 健太
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

昨年度、スピン角度分解光電子分光を用いてトポロジカル絶縁体におけるディラック表面電子状態の磁場に依存した(時間反転対称性の破れた)スピン電子構造を解明するために、高効率スピン偏極検出器を用いた放射光スピン角度分解光電子分光装置の開発を広島大学放射光科学研究センターで行った。そこで本年度では、開発したその装置を用いてトポロジカル絶縁体ビスマスセレナイドにおける時間反転対称性の破れたデラック表面電子状態のスピン電子構造の完全決定を行った。まず、円偏光の励起光を試料に照射する事で時間反転対称性の破れたスピン偏極度に注目した。この場合、円偏光のヘリシティを外部磁場とみなす事ができる。また、放射光の最大の利点であるエネルギー可変性を十二分に活用する事により、光電効果における終状態効果まで詳細に測定を行った。直線偏光を用いた測定では、ディラック電子状態から放出された光電子のスピン偏極度は時間反転対称性を持った始状態のスピン電子構造を大きく反映する事がわかった。それに対して、円偏光を用いた場合、観測されるスピン偏極度は明らかに時間反転対称性を破っており、直線偏光の結果と大きく異なる。この偏光依存性は光電子のスピン偏極度が円偏光のヘリシティにより励起された事に起因している。また、この円偏光依存性は励起光のエネルギーに強く依存する事がわかった。これらの結果から、円偏光照射により表面にスピン偏極した光電流を創出できる事、さらに選択的にその電子スピンを励起できる事を示している。これらの点で本研究は、光により、電流、スピンを同時に制御したオプトスピントロニクスの実現に向けて重要な知見を与える。
著者
庄司 達也 片山 宏行 掛野 剛史
出版者
東京成徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題の成果は、倉敷市が所蔵する「薄田泣菫文庫」の資料群の調査と分析を、倉敷市、薄田泣菫顕彰会、就実大学吉備地方文化研究所等の協力を得て、飛躍的に進めたことにある。その資料群が有する文学研究に於ける価値を明らかにし、倉敷市が計画し進めた『薄田泣菫宛書簡集』の刊行に大きく寄与した。また、研究者グループと地方自治体とで行う研究活動に於いて、協働の意義とその有する可能性について考究し実践する機会となった。
著者
藤浪 良仁
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、微生物のMALDI質量分析法が細菌芽胞・栄養型細菌・真菌およびウイルス(バクテリオファージ)などの微生物の種類にかかわらず、生物学的因子を迅速にスクリーニングするための強力な方法であることを確認した。さらに微生物培養液の不純物や賦形剤を含むことの認識は、生物剤の生産方法の認識に役立つ可能性がある。微生物種を識別して同定する能力は、生物学的因子、食物媒介性病原体の同定、および感染性微生物の臨床分析を含む多くの潜在的な応用の可能性を有する。法科学において、未知物質の取り扱いは最も困難であるが、この方法は迅速な微生物スクリーニングを可能にする。
著者
高須 晃 亀井 淳志 ロザー バリー 赤坂 正秀 大平 寛人 KABIR M.F. OROZBAEV. R. JAVKHALAN O. 松浦 弘明 貝沼 雅亮
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

三波川帯のエクロジャイトの変成作用は,①高温型変成作用イベント,②2回のエクロジャイト相変成作用イベント,そして③藍閃石片岩相-緑れん石角閃岩相変成作用イベントの4回の変成イベントが認められる.これらの変成作用は120-90 Maの比較的短時間に,海洋プレートの沈み込みの開始(大陸側プレートによる接触変成作用),沈み込みの継続(地温勾配の低下による低温エクロジャイト変成作用)海嶺の接近(地温勾配の上昇による高温エクロジャイト変成作用)そして海嶺の沈み込み(狭義の三波川変成作用と変成帯全体の上昇)によって説明できる.
著者
岩城 敏 谷口 和弘 池田 徹志
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

生活・介護支援ロボットへの応用を念頭に、PC内アイコンと実物体両者へアクセス可能なインタフェースを開発した.頭部動作でパンチルトアクチュエータ上に搭載されたレーザポインタの方向を制御することで実物体ポインティングするシステムを開発した.さらに,TOF(Time Of Flight)型レーザセンサを用いて,実物体を「クリック(3D位置測定)」「ドラッグアンドドロップ」する方式を開発した.最後に,PC画面上レーザスポット位置に人工的なマーカを重畳表示することで,その視認性を改善する方式を開発した.以上3つの方式に対して,複数被験者による性能評価実験を行った結果,提案手法の有効性を確認した.
著者
塩村 耕 阿部 泰郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

日本を代表する古典籍専門図書館である西尾市岩瀬文庫について、全所蔵資料の約95%について調査を終了し、書誌データベースを作成し、公開運用した。このような詳細な書誌データベースは日本でこれまで例がなく、その新たな学術基盤としての有効性を実証した。同時にデータベースより得られた知見を活用して、重要資料を選定し、全文テキストデータを作成して、データベースにリンクさせた。また、名家自筆本を選定し、筆蹟サンプル画像データを作成して、データベースにリンクさせた。このような統合型データベースを実験的に公開運用し、日本の人文学の新たな学術基盤のあり方として世の中に提案した。
著者
佐藤 実
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

金天柱が著した『清真釈疑』の内容を分析した結果、以下のことがわかった。イスラーム教徒である金天柱から見ると、漢民族は儒教の教義にしたがっておらず、仏教や道教の習慣に染まっている。それに比べるとイスラーム教徒は日々の礼拝を実践している。神に祈りを捧げることは、儒教の最高神である上帝に祈りを捧げることと同じであり、イスラーム教徒のほうが漢民族よりよっぽど真摯に儒教の教義に忠実ししたがっている。金天柱はそう述べることで、漢民族からイスラーム教徒にむけられた疑いの目を払拭しようとした。
著者
佐々木 史織
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,Web上に日々公開される国際問題に関するドキュメントデータから意味的なメタデータと時間的・空間的情報を自動的に抽出し,高度な知識発見を可能とする情報分析システムを設計,実現した.利用者は,本システムに各自の関心・視点に基づくキーワードを入力するだけで,専門的な文書内容の時系列的変化や地域別差異,問題領域別・情報源別の分析結果を多角的・定量的に獲得し,視覚的に把握することが可能となった.
著者
大森 斉 國安 弘基 北台 靖彦 藤井 澄 千原 良友 笹平 智則 佐々木 隆光
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

骨髄間葉系幹細胞 (MSC) は、癌組織に動員され癌細胞と相互作用を通じて癌の進展・転移に関与すると考えられ、がん研究の焦点の一つとなっている。報告者らは、MSCが癌細胞が産生分泌するサイトカインHMGB1により腫瘍内に誘導され、腫瘍内では腫瘍が分泌するTGFβを多量に含んだECMであるバイグリカンとHMGB1により幹細胞が維持されることを明らかにした。このような状態は大腸癌では粘液腫状間質として病理組織学的に認識され、糖尿病合併大腸癌肝転移症例に多く認められる。HMGB1の吸着・中和によるMSC動員阻害は腫瘍増大・転移を抑制し、MSC標的化の有効性が示唆された。
著者
森澤 佳三 小峯 光徳 山下 和洋
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

過伸展ストレスが肩関節におよぼす影響を調査することで、肩関節痛が発生する機序について検討した。動物実験では、Lewis ratを用いて牽引負荷が腱板の血流に対してどのような影響をおよぼすかを水素クリアランス法とLaser doppler flowmetry(ADF21D Advance co.)を用いて調査したが、血流に関しては一過性に上昇して低下するものや、一定しないものがあり、血流だけでは明確な変化は捕えられなかった。しかし、4匹のratで交感神経の活動性をpower spector解析による高速フーリエ変換で測定すると、65gないし100gの負荷で交感神経の活動の亢進がみられるもののそれ以上の負荷では亢進はプラトーあるいは減少に転じているという興味深い結果が得られた。神経分布については、神経終末などの分布については、牽引ストレスを加えたことでの変化は認められなかった。実際の症例ではLaser doppler flowmetryを用いて28例の腱板の血流を測定したが、牽引ストレスを加えると一過性に血流の増加が起り、それに引き続きすみやかな血流の低下が認められた。血流はストレス前よりやや低下したが、すぐにほぼ安静時の血流に戻った。牽引をやめても血流の低下が改善しない例が4例あった。実際の症例で組織学的検索を行った6例では、神経終末などの分布の違いはあったが、血流の変化との関連性はなかった。不安定性との関連性も不明であった。腱板の血流が牽引ストレスで著しく変化することは証明されたが、そのことと肩痛発現の関連性は明らかでなかった。今後、腱板が人間により類似した動物を用いて、実験することでその疑問点が明らかになる可能性があるのではと思われた。
著者
米倉 雪子 宮本 和子
出版者
昭和女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

カンポット県とプレイヴェン県、各2村で農家有志自身が生計記録と乳幼児体重測定記録を2年継続、3年目は各県2村増やし生計記録のみ開始。成果は1)独自の生計記録シート作成、2)農家自身が生計記録[農産物収穫/自家消費/販売量,農業/非農業収入,支出(農業投資,食費,教育費,治療費他),病気人/日数,資産,貯金,借金]、3)農家の意識化と行動変容(節約。食料自給生産と採取増加)、4)課題は生計記入/計算間違い、記録中止、5)体重測定で生後半年弱は約7-8割が平均体重線以上だが2.5-3才は約9割が平均線以下、6)農業生産と健康改善の同時支援による生計改善策を考察するため生計記録を対象8村で継続。
著者
根立 研介 中村 俊春 平川 佳世 武笠 朗 深谷 訓子 皿井 舞 武笠 朗 田島 達也 深谷 訓子 劔持 あずさ 皿井 舞 宮崎 もも 中尾 優衣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

平成22年度は、研究代表者の根立は、8月下旬から9月初旬にロンドン・大英博物館、ウィーン・応用美術館、ケルン・東洋美術館を、また12月下旬中国・寧波・寧波市博物館及び蘇州・蘇州市博物館等を訪れ、日本の鎌倉・江戸時代の彫刻及び日本の古代・中世彫刻の規範である中国の南北朝・唐・宋彫刻の調査を実施し、資料収集を行った。また、国内では、霊験仏として名高く、模刻も盛んに行われた奈良・長谷寺十一面観音像の室町時代の模刻像の調査(於鳥取県倉吉市・長谷寺)等を実施した。分担者の中村は、昨年度に引き続き、西洋バロック美術の模倣と創造の問題に関して資料収集を行った。また、21年度から分担者となった平川は、9月にルーブル美術館(パリ)、サバウラ美術館(トリノ)、ドーリア・アンフィーリ美術館(ローマ)を訪れ、ルネサンス以降イタリアの宮殿装飾として定着した古代ローマの表象において北方ヨーロッパにおける伝播を確認する調査を実施した。連携研究者は、個々人のテーマを進展させたが、特に武笠朗は昨年度に引き続き、善光寺式三尊像の模刻を巡る研究を進展させた。なお、研究代表者根立は、本研究のテーマとも密接に関わる霊験仏の問題を『美術フォーラム21』22号(2010年11月発行)で特集として編集するとともに、根立、武笠が論考を発表した。なお、最終年度に入った本研究の成果を検討する研究会を、10月3日に実施し(第二回目は、東日本大震災の影響もあり中止となった)、活発な意見交換を行った。また、3月下旬には、研究代表者・同分担者・連携研究者8人の研究成果の論文を掲載し、この科研を総括する報告書を刊行した。
著者
志村 喬
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,欧米の地理教育学研究で台頭しているケイパビリティ・アプローチ論を,社会系教育に適用するための理論的解明を目指した。その結果,教育哲学論としてのA.Senのケイパビリティ理論を基盤にし,教科内容論としてのM.Youngの社会実在主義知識論と,教科指導方法論としてのD.Lambertのカリキュラム・メイキング論が統合された理論であることを解明した。さらに,臨床的国際共同研究が進展する中,日本の参画必要性が示された。
著者
金沢 創 山口 真美 北岡 明佳
出版者
淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、乳児の知覚を検討するプロジェクトの一環として、「錯視図形」をキーワードに、乳児の視知覚の発達を実験的に明らかにしたものである。平成18年度においては、(1)拡大運動と縮小運動の感度の非対称性、(2)正方形と円を重ねたとき、背後の円の輪郭を補完するアモーダル補完、(3)2つの重なった領域の明るさの順序により、2つの透明な領域が重なっていると解釈される透明視、のそれぞれについて、その知覚が発生する時期を実験的に検討した。それぞれの成果はInfant Behaviour and Development誌、Perception誌、などの国際的な学術雑誌に発表された。また、平成19年度は、(1)右方向と左方向に運動しているランダム・ドットを重ねると、2つの透明な面が見える運動透明視、(2)共同研究者である北岡が作成した、緑と赤の小さな領域が囲まれた色影響により彩度が低下する色誘導刺激、についてそれぞれ知覚発達を検討し、これらの成果をPerception誌やInfant and Child Development誌に発表した。さらに最終年度の3月までに、(1)静止しているランダムドットの一部の領域の色を、時間的に次々に変化させていくと、運動する輪郭が知覚されるいわゆるcolor from motion刺激や、(2)局所においてはバラバラに動いて見えるバーが、それを隠す領域を配置すると四角形が補完されるパターン、(3)輪郭と白黒の配置から、絵画的な奥行き手がかりが知覚されるパターンなどの知覚発達も検討し、(1)についてはInfant Behaviour and Development誌に発表され、後者2つについては、Journal of Experimental Psychology、およびVision Research誌にそれぞれ掲載されることが2008年4月現在、決定している。
著者
澤村 明 渡辺 登 松井 克浩 杉原 名穂子 北村 順生 加井 雪子 鷲見 英司 中東 雅樹 寺尾 仁 岩佐 明彦 伊藤 亮司 西出 優子
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、新潟県の中山間地域を中心に、条件不利地域での居住の継続に必要な要素のうちソーシャル・キャピタルに焦点を当ててフィールドワークを行なった。対象は十日町地域、村上市三面地域であり、他に前回の基盤研究費Cから継続して観察を続けている村上市高根地区、上越市桑取地区についても蓄積を行なった。十日町地域では2000年来3年ごとに開催されいている「越後妻有大地の芸術祭」のソーシャル・キャピタルへの影響を質問紙調査によって捉えた。その結果は2014年6月に刊行予定の『アートは地域を変えたか』で公表する(慶應義塾大学出版会)。
著者
中山 和則
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年PAMELA衛星、Fermi衛星によって宇宙線陽電子、電子フラックスの超過成分が観測され、これが暗黒物質対消滅の痕跡である可能性が指摘されている。これを受けて、暗黒物質対消滅とビッグバン元素合成との関係、銀河外拡散ガンマ線への暗黒物質の寄与、銀河中心方向からの高エネルギーニュートリノによる検証可能性などを調べた。将来観測によって暗黒物質対消滅の証拠を検証、あるいは排除出来ることが明らかになった。また、最近CDMS実験が暗黒物質起源と解釈され得るシグナルイベントを報告した。これに関して、超対称標準模型のパラメータへの示唆、および将来実験での観測可能性を調べた。一方、宇宙の構造形成の種となる密度揺らぎに関する研究を進めた。特に、密度揺らぎの非ガウス成分と、その素粒子物理への示唆を中心に研究を行なった。暗黒物質の有力候補の一つであるアクシオンにより、等曲率揺らぎの中に非ガウス性が現れる可能性があり、その特徴を詳しく調べた。また、超対称性模型において、超対称性を破る場によって同様の大きな非ガウス性が生成される可能性があることを明らかにした。また、非ガウス性と重力波の観測を組み合わせることで、カーバトンシナリオを検証可能であることを示した。
著者
間野 義之
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、日本におけるエリートアスリートの環境の整備、および国際競技力向上を図るため、国際研究者コンソーシアム「SPLISS」に参画し、エリートスポーツ政策とトップアスリートの環境に関する定量的な国際比較研究を行い、日本のエリートスポーツ政策の主要成功要因や課題を明らかにすることを目的とした。日本のエリートスポーツシステムは他国に比べ「トレーニング施設」「国内・国際競技大会」「医科学研究」が優れている一方で、「スポーツ参加」「タレント発掘・養成」には一定の課題があることが明らかとなった。
著者
佐野 理
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.粒状体中に空洞のような不均一な領域があると,そこに流れが集中して力学的な平衡状態が壊れ,流動化する可能性がある.本年度は,これまでの2次元の空洞相互作用の実験を再現する数値シミュレーションを行い,空洞崩壊の進行速度や崩壊領域の成長について実験との定性的な一致を得た.現在,これをさらに3次元空洞に拡張している.これらの素過程の土砂崩れ発生機構の解明や地下水による汚染物質の異常拡散の予測,あるいは肝臓等における腫瘍近傍に発生する血管新生の問題への応用について国内外の学会で発表した.2.粒状体界面の粒子が流れによって運ばれ,巨視的な界面が変形する過程の長時間観測を行った.とくに,流れ場と界面形状の時間変化を定量的に明らかにし,乾燥地域の拡大や海浜浸食などに伴う環境予測への応用も含め,関連学会の原著論文2編および研究所報1編で公表した.3.渦輪は運動量やエネルギーを携えながら粒子のように個性を保ったまま移動する流体運動であるが,これが粒状体の表面に衝突すると,渦輪の崩壊や界面の変形を起こす.本年度は,渦輪の強さと界面切削パターンの関係を定量的に観測した.渦輪を崩壊させる技術として,あるいはまた海底堆積物の撹拌による生物活駐化技術などへの応用が期待される.4.粒状体薄層を鉛直に加振すると,条件によっては層全体に弾性体の撓み波や流体的なさざ波が観測される.これはエネルギー散逸の大きな系でありながら粒子の配置変化と排除体積効果によって長距離秩序の現れる特異な挙動であり,ミクロな粒子間相互作用とマクロな流動を結びつけるメソスコピック物理構築の鍵となる現象である.本年度はとくに波長や加振条件,粒子の材質などを含む普遍的な関係式を模索し関連学会で発表した.