著者
高橋 政代 柏井 聡 田辺 晶代
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

毛様体色素上皮細胞の培養と神経分化誘導成体ラット毛様体組織を分離して色素上皮細胞側が下面になるようにして培養皿に接着させた。塩基性線維芽細胞増殖因子を加えた無血清培地を用いた培養により、毛様体組織から増殖して培養皿上に遊走する細胞が得られた。これらの細胞は多くが神経幹細胞のマーカーであるネスチンを発現するようになった。毛様体色素上皮から増殖した細胞を引き続き神経分化誘導条件(血清添加)下で培養すると上皮様形態であった色素上皮細胞は劇的に形態を変化させ、一部には神経様突起をもった細胞も認められた。これらの細胞の一部はニューロンのマーカーであるNeurofilament 200およびグリアのマーカーであるGlial Fibrilary Acidic Proteinを発現していた。ただしこの培養条件下では視細胞のマーカーであるオプシンの発現は得られなかった。アデノウイルスを用いたCrxとGFPの遺伝子導入次に視細胞に特異的に発現するホメオボックス遺伝子であるCrxを導入することにより、毛様体の色素上皮細胞が視細胞に分化しうるかについて検討した。毛様体色素上皮細胞に対し、視細胞特異的ホメオボックス遺伝子であるCrxまたはレポーター遺伝子であるGFP(Green Fluorescein Protein)を組み込んだアデノウイルスを感染させた。引き続き神経分化誘導条件下で培養したのち免疫細胞化学的解析を行った。GFPを導入した毛様体色素上皮細胞からは視細胞のマーカーであるオプシン陽性細胞は得られなかったのに対し、Crxを導入した細胞ではオプシンを発現する細胞が多数認められた。これらの結果から成体ラット毛様体色素上皮から未分化な神経幹細胞あるいは神経前駆細胞が得られ、Crxを遺伝子導入することにより、毛様体色素上皮細胞は視細胞に分化転換する可能性があることが示された。
著者
高橋 政代 高橋 淳
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

ヒト胎児脳および網膜からの神経幹細胞の分離培養11週齢のヒト胎児から大脳と眼球を摘出し、眼球からは網膜のみを剥離する。大脳および網膜を機械的および酵素にて細胞に分散したのち、DMEM/F12に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と上皮細胞増殖因子(EGF)を添加した無血清培地にて培養したところ、徐々に増殖、増大する細胞塊が得られた。この細胞塊を形成する細胞の多くはネスチン陽性の未分化な神経系細胞であり、神経幹細胞を含むと考えられているneural sphereと同様の細胞集団と思われた。さらに、この細胞塊をラミニンコートした培養皿でbFGFとEGFを除去して培養すると細胞は培養皿上に接着し、形態を変化させた。神経突起様の突起を伸ばした細胞の一部は免疫細胞化学的検討にてβチュブリンIII陽性の幼若な神経細胞に分化しており、また、一部はGFAP陽性のグリア細胞に分化していた。これらの結果からヒト胎児脳および網膜から神経幹細胞あるいは神経前駆細胞が得られたと考えられる。ヒト成体虹彩神経色素上皮細胞の培養我々は、成体ラット虹彩色素上皮細胞を上記と同様の培養条件で培養することにより、神経とグリアに分化する能力を有するネスチン陽性の神経前駆細胞が得られることを確認している。同様にして、緑内障手術の際に得られるヒト成体の虹彩色素上皮を培養することにより、増殖する細胞を得ている。現在この細胞の多分化能を検討中である。以上の実験はいずれも京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施したものである。
著者
高橋 政代 高橋 淳
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

我々は過去に成体ラット脳由来の神経幹細胞網膜に移植し生着と神経への分化を確認した。しかし、網膜神経の分化に最適な環境である胎児網膜に移植しても脳由来の神経幹細胞から視細胞を分化誘導することはできなかった。そこで、眼球組織から神経幹細胞/神経前駆細胞を海馬由来神経幹細胞と同様の条件で培養した。ラット胎児網膜からは効率よく視細胞に分化する神経前駆細胞がneurosphereの形で得られた。また、成体ラットの毛様体色素上皮や虹彩上皮を同様の条件で培養して分裂増殖する神経前駆細胞を得、さらに視細胞に特異的なホメオボックス遺伝子を導入することによって視細胞のマーカーであるロドプシンやリカバリンを発現させることができた。海馬由来神経幹細胞ではロドプシンの発現はみられなかった。次いで京都大学医の倫理委員会の承認を受けて、ヒト胎児脳および網膜から神経幹細胞/神経前駆細胞を培養した。ヒト胎児脳からは神経幹細胞のクローンが得られ、網膜からはneurosphere法にて神経前駆細胞が得られた。それぞれ神経およびグリアに分化する多分化能を有することが確認された。また、ラット虹彩細胞と同様にヒト虹彩細胞からも視細胞様細胞が分化するか確認するため、通常の緑内障手術で廃棄される虹彩組織を用いて虹彩上皮細胞の培養を行い、ヒトでも虹彩上皮細胞の培養増殖が可能となった。ラットで神経幹細胞が組織特異性を示したのと同様にヒト胎児脳由来の神経幹細胞も前脳、中脳、菱脳それぞれの由来によって分化してくる神経のphenotypeや発現している遺伝子に差がみられ、組織特異性があると考えられた。
著者
高橋 政代 春田 雅俊 田邊 晶代 柏井 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

現在、社会的に問題となっている中途失明者の原因の多くは網膜の視細胞が選択的に障害されることによる。これらの網膜疾患に対して胎児網膜組織を移植することが欧米では試みられているが、胎児組織を利用することの倫理的問題、ドナー不足の問題、拒絶反応など問題も多い。我々は網膜幹細胞を培養して、視細胞移植の細胞源として臨床応用できないかを検討している。今回、胎児網膜、成体虹彩、成体毛様体から網膜幹細胞を分離培養しうるか、またこれらの細胞が視細胞への分化能を有しているかを確認した。ラットの胎児網膜をneurosphere法で培養することにより、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現する網膜前駆細胞を培養することができた。これらの網膜前駆細胞は分化誘導条件下では効率よく視細胞にも分化する。しかし継代を重ねるとともに視細胞に分化する割合も減少し、網膜としての組織特異性が失われてしまうことが分かった。次に毛様体色素上皮や虹彩上皮から網膜幹細胞を培養できないかを試みた。成体ラットの毛様体色素上皮や虹彩上皮からは細胞分裂して増殖し、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現する神経前駆細胞を得ることができた。これらの細胞は分化誘導条件下で引き続き培養するとニューロンまたはグリアのマーカーを発現するが、視細胞に特異的なマーカーは発現しなかった。そこで視細胞の発生に必要不可欠なCrxホメオボックス遺伝子を導入すると、成体の毛様体組織や虹彩組織から視細胞に特異的なマーカーであるロドプシンやリカバリンを発現する細胞を得ることができた。毛様体組織と異なり、虹彩組織は臨床的に確立された周辺虹彩切除術で安全確実に自己組織を採取できる。そのため、今回虹彩組織から得られた視細胞が生体内でも機能することが確認できれば、将来拒絶反応のない視細胞移植として、臨床応用することも期待できる。
著者
木下 秘我 福本 巧 蔵満 薫
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2014年5月と11月の2回にわたり、茨城県つくば市にある放射光科学研究施設(PF)において、走査型蛍光X線顕微鏡を用いて測定を行った。酸化ストレスが原因で線維化が進展すると言われているNASHによる肝硬変と、酸化ストレスが関与しないと言われているB型肝炎による肝硬変について鉄分布のマーキングを行ったところ、NASHの方は偽小葉辺縁に鉄が集積する傾向があり、B型肝炎の方は一定の分布を示さなかった。この結果より、酸化ストレスが関与するNASHでは、繊維化の進行は偽小葉より開始する可能性があることが示唆された。
著者
金井 太一
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

土質工学・地盤工学に関するJIS試験は,現実には詳細なテクニックが必要であり,記述手順では分かりにくい作業も多い。一方,実験や作業等はeラーニングに向かないといわれているが,試験手引きの書籍の写真と違い,実際に実験室で使用する装置を使用した動画の作成により,試験手順や学習内容がより明確になると考えた。これまで培ってきた実験実習の知識や技術をeラーニングとして構築し,内容を充実させた。実施概要は主に学生実験指導を中心に,名称や操作方法・計測方法等の試験手順を解説するためのシナリオを作成し,(1)土質試験,(2)公開講座「地震ってな一に」等,(3)体験学習「地盤の液状化」等について動画と静止画,解説を実験室に設置したサーバーに収録し,Webページで利用した。動画はダウンロード時にパソコンに負担がかからないように一つの説明を1分程度に分割した。(1)は,実験器具・装置,指導上必要なJISの4試験(密度試験,粒度,液性・塑性試験),JIS試験以外の2試験(pH試験,フォールコーン試験),(2)は,講座の解説用プレゼン資料や解説用動画を同様に作成した。(3)も,(2)と同様に作成した。また,掲示板を用いて質疑応答を行い双方向で利用できるとともに,類似の質疑応答をまとめたQ&A欄も設置した。(1)は,実際に使用する試験器具を用いたので事前学習には極めて有効であった。しかし,一部試験では,Webページから直接実験データを書き込める画面を設置したが,一連のデータ入力までに手数がかかったため紙によるデータシートやエクセル画面から直接記入が有効であった。(2),(3)は,解説用には有効に機能し,参加者の進行程度に合わせて講習等を進めることができた。これらのことから学生実験やイベント参加者にとっても,その意義や解説,応用例について繰り返し確認でき,不明な点も質疑応答できたので効果的な学習と好評であったが,そのレスポンスは課題となった。
著者
井口 克郎
出版者
三重大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

東日本大震災をはじめ、近年、過疎・高齢化地域における甚大な災害が頻発する中、継続的に被災者の医療・福祉(ケア)などの生活保障を行い、住み続けられる地域を創ることが課題である。本研究は、災害被災地の人々の生活問題の現状を把握し、とくに東日本大震災被災地では津波による高台移転や、原発事故により、地域コミュニティが脆弱化し、「自助」「共助」の限界が至る所に表れていることを明らかにした。その上で、被災者の生活の復興のため、国家による社会保障制度の役割の重要性や、拡充の必要性について考察した。
著者
岩瀬 昭雄 土井 希祐 佐久間 哲哉 吉久 光一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、積雪面上の音響特性を実測調査することを研究の基盤と考え、新潟県南蒲原群下田村において1998年1月と1999年1月の2回に渡り、約50cmと1mの積雪を対象として音響伝搬特性、積雪面の吸音率さらに、積雪中における音響伝搬特性など積雪の音響特性を規定する諸特性の計測実験を行った。積雪面上の2つの音響実験では、自然積雪とカンジキで踏んだ圧雪条件、音源高さとして低い0.3mや1.5mの場合に加え、約4mや6mの場合の伝搬実験も行った。その結果として、積雪面上で肉声で会話することを想定すると、音声帯域(250Hz〜500Hz)は非常に音波が伝わり難いことがわかった。スピーカによる拡声を想定して音源の高さを高く配置した場合の音響伝搬特性は、音声の帯域での幅広い減衰は無くなり全般的に改善されるが、激しい凹凸の含まれる音響伝搬特性であることも判明した。また、積雪条件が整わない春季から秋季の期間には積雪の音響的なアナロジーに着目し、多孔質材料を雪に見立てた1/50縮尺模型実験を実施した。すなわち、1998年度に作製した高電圧発生回路を利用し、放電超音波パルス音源を用い、この音源からの放射音を音源高さと受音点までの距離の組み合わせを様々変えて音響伝搬周波数特性をFFT分析器により観測した。前年度に得られている積雪面上での音響伝搬特性の実測結果の再現を試み、積雪面に対応する構造として目の粗いジュート麻と目の細かいタオル地を重ねて対応可能なことがわかった。また、畳込みによる可聴化による聴取試験でも上記の周波数依存性が確認された。また、積雪の基本的な音響物性値である衰減定数と位相定数も観測でき、単位厚さ当たりのdB減衰値の周波数依存性や低周波で音速が遅く、周波数が高くなるに従って音速が増し、空気中の音速に近づくなどの多孔質材料としての特性が確認された。
著者
蝦名 敦子
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、特別活動などの教科以外の機会も視野に入れて、発展的な図画工作科における授業の可能性とその意義について考察した。小学校の特性として、①校外学習や学校行事が多い、②一人の教師が複数の授業を担当、③6学年にわたる集団生活、の3点に注目し、図工科を校外学習、異学年交流、環境、地域性に関連づけて、モデル例を実践的に検証した。人数的にも内容的にも小学校独自の多彩な造形活動が可能である。造形表現が児童を柔軟に結びつける意義は大きく、小学校には図工科を核とした造形活動の充実が不可欠である。
著者
伊藤 壽一 中川 隆之 田浦 晶子 山本 典生 坂本 達則 北尻 真一郎 平海 晴一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

根本的治療方法のない感音難聴に対して、その主要な責任部位である内耳蝸牛の発生メカニズムを解明し、内耳再生医療の確立を目指す本研究では以下の事を達成することができた。1.再生のための操作対象となる蝸牛内幹細胞群の同定、2.内耳発生に重要な役割を果たす新規遺伝子候補の同定、3.NotchシグナルやIGF1の内耳再生医療への応用、4.ヒトiPS細胞の有毛細胞への誘導プロトコールの改良。本研究で得られたこれらの成果を適切に組み合わせることにより、内耳再生医療のヒトへの応用に近づくことができると考えられる。
著者
早坂 七緒 STRUTZ Josef CSAKY Eva-marie EHRLICH Ulrike MARECEK Zdenek SVITAK Zdenek IMHOOF Stefan
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

旧ハプスブルク帝国の諸地域にまたがるローベルト・ムージル(1880年~1942 年)の足跡をたどり、作品との関連および作品解釈の新しい可能性を発見した。成果は学術図書"Robert Musil und der genius loci" (Wilhelm Fink 社)として発表し、多大の反響を得た。その後も論文「補遺1」「補遺2」として成果を公表している。
著者
冨田 太一郎
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

環境変化の情報が実際に生きた動物体内でどのような形で伝達されて、さらにどのような情報処理が行われるのかはほとんど理解が進んでいない。生体内で生じる微弱な反応を単に眺めるだけでは、生きた動物体内で生じている情報処理のメカニズムを理解することは難しい。そこで線虫の塩応答の感覚神経ASERをモデルに、システム工学の手法とin vivoイメージングの手法とを組み合わせたアプローチによって、代表的な環境応答シグナル分子のMAPキナーゼ(MAPK)の制御機構の解明を目指した。具体的には、動物個体にパルス状の塩濃度変化を一定の周波数で与えながら、ASER神経のMAPキナーゼ活性をFRET法でリアルタイムにモニターし、環境変化からMAPKに至る過程でどのような情報処理が行われるのかを解析した。その結果、効率よくMAPK活性化を生じさせるためには、環境からの刺激が多すぎても少なすぎてもだめで、環境変化が一定の頻度で、かつ一定の持続時間で繰り返し生じる場合に限られることが明らかになった。さらに、イメージング実験と変異体解析の結果から、細胞内カルシウムがMAPK活性化に至る情報のフィルターとして機能するメカニズムを見いだした。そこで数理モデルを用いて、細胞内でどのような情報処理をうけると実際に観察されたMAPKの挙動に至るかを計算機上でシミュレーション解析を行った。その結果、比較的単純な積分器によってカルシウムシグナルの刺激応答特性が複雑なMAPKの刺激応答特性に変換されていることを見いだした。がんや異常免疫などの病態解明や記憶学習の鍵としてMAPK制御の理解は重要であるが、従来の遺伝学や生化学に加えて、新規の光学的なアプローチから生きた動物の単一細胞の中で生じている複雑な情報処理システムを解き明かすことに成功した点に意義がある。今後例えば疾患モデル動物にも適用ができれば非常に有効と思われる。
著者
松本 和也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1、主要研究対象である「女の決闘」・「走れメロス」・『新ハムレット』の3作品については、それぞれテクスト分析及び西欧文芸・思潮との交錯の検討を進めた。「女の決闘」については、テクスト分析と併せて、オイレンベルグ作/森鴎外訳「女の決闘」がどのように読み替え・書き換えられたのかを、語りのパフォーマンスという観点から捉え直し、近代文学史を背景とした「描写(論)」の分析を進めた。「走れメロス」に関しては、昭和15年前後のシラー受容やドイツ文学の位置づけを、当時のドイツ文学の研究・批評言説からすくい上げ、日本での受容を分析し、典拠の歴史的な含意を明らかにした。『ハムレット』を典拠とする『新ハムレット』については、昭和10年代のシェイクスピア・『ハムレット』受容の動向を、当時刊行された研究書・翻訳に加え、英文学会誌や文芸誌(外国文学研究への論及)まで調査し、分析を進めた。2、昭和10年代の文学ジャンル編成に関する研究としては、文壇で前景化された火野葦平『麦と兵隊』を中心とした報告文学の隆盛と、富沢有為男『東洋』を中心とした「素材派・芸術派論争」を対象に、同時代資料を手掛かりに分析した。3、太宰治(総体)に関しては、戦後のトピックを2つ検討した。1つは、戦後、どのような要因・過程から、太宰治が他作家と〈無頼派〉として括られていったのかを分析し、研究会で報告した。もう1つは、『人間失格』をとりあげ、その書き出し部の精読から、新たな作品読解の観点を提出した。
著者
土田 義郎 松井 利仁 永幡 幸司 塩川 博義 川井 敬二 森原 崇 船場 ひさお
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

音環境の評価には、量だけでなく意味が関与する。良好な音環境の実現には、文化的視点も必要であり、マネジメント思考も求められている。本研究で得た成果は次の3点である。(1)主観の影響や、居住地・世代による音源の聞き取り頻度の差といった点から、音環境全体の評価に関する成果を得た。(2)ガムラン音楽や商店街の音環境の他、海外(アジア地域)における鉄道騒音や道路騒音のように幅広い音環境に対して、質的な情報と量的な情報の相互作用についてテキスト・マイニングやPAC分析を用いて成果を得た。(3)個人の認識を可視化し、深層面接を行うツールを用い、認知構造の同定手法に関する成果を得た。
著者
高橋 義人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ルネサンス以降、人間の感性と理性が分離するとともに、二つの知的系譜(文系と理系)に世界は分裂していった。この分裂はF・ベーコンによって決定的になった。他方、感性と理性の統合を目指す動きもまた存在した。その第一はレオナルドであり、第二は魔術的・錬金術的運動である。レオナルドが、自然は完全には探究しがたいと信じていたのに対して、錬金術師たちは、太陽の生命力(プリマ・マテリア)を抽出しようと無駄な努力を重ねた。ニュートンもじつは錬金術的な伝統の継承者である。本研究は、若い頃、錬金術の研究に傾倒していたゲーテが、やがてレオナルド的な立場に立ち、ニュートン的・ベーコン的な近代科学の批判こそ自らの使命だと考えるようになった経緯を明らかにしている。
著者
森 貴史
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

イギリス海軍ジェームズ・クックの第2次世界航海に同行したゲオルク・フォルスターは、その知見を『世界周航記』(1778-80)として出版した。この航海記は、現代の視点で通常の航海記文学として読めば、クックの航海を年代記的に記しているにもかかわらず、非常に難解なカオス的な構造をもった航海記であるとの仮説に立脚し、この著作を「文学テクスト」および「自然科学と文化史のデータベース」としての両面から分析した論考を、ドイツで上梓した。
著者
池松 裕子
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

University Hospitals of ClevelandのInstitutional Review Boardから8月11日に正式なデータ収集の許可が降りた。データ収集者をCase Western Reserve University, Frances Payne Bolton School of Nursingで募集したところ、即日応募者があり、面接の上、決定した。データ収集場所となる同病院Surgical Intensive Care UnitとCardiac Intensive Care Unitにおいて、看護スタッフの協力を得るため、研究の概要とデータ収集について説明した。同病院でのデータ収集を行うにあたり、経費を名古屋大学から送金する必要があり、病院CEOと名古屋大学医学部長との間で覚書が交わされる必要性が生じた。覚書は10月31日に両者のサインがされ、11月1日からデータ収集開始となった。データ収集者は週3回、両ICUを訪ねて潜在的対象患者がいないかどうかを調べ、対象者がいる場合は、主治医と主任看護師にインタビューできるくたいに状態が安定しているかを尋ね、許可が降りたら患者にインタビューを依頼する。2007年2月11日の時点で9人の患者に打診し、6人の患者にインタビューすることができている。6人の内訳は男性4人女性2人で48〜85歳。心タンポナーデの原因は、癌が2人、感染2人、出血傾向1人、その他1人である。心嚢穿刺前の血圧は116〜175/49〜91mmHgと低下はしていなかったが心拍数は84〜118/minとやや頻脈傾向であった。血圧・心拍数は穿刺後も著明な変化は見られていない。6人中、ふたりはまったく自覚症状がなかったが、それ以外の患者は息苦しさや胸痛とともに、死にそうな感じや、恐怖・不安を感じたを答えた。現在、引き続きインタビューを行うとともに、既存の6人のデータを整理中である。
著者
中西 重忠 西田 栄介 西川 伸一 本庶 佑
出版者
京都大学
雑誌
COE形成基礎研究費
巻号頁・発行日
1995

中西のグループは、生体工学的手法(ノックアウト、トランスジェニック)を駆使し、1)基底核神経回路の中でコリン作動性神経細胞を特異的に除去する方法を開発し、基底核のドーパミンとアセチルコリンが拮抗的かつ協調的に運動のバランスを制御していることを明らかにした。2)ヒト傍腫瘍性小脳失調症がヒトmGluR1の自己抗体によって発症すること、又本抗体はマウスに強い小脳失調症を引き起こすことを明らかにした。3)mGluR2が扁桃体を介した恐怖反応と逃避行動に必須であることを示した。本庶のグループは、1)in vitroで抗体遺伝子クラススイッチを高頻度に起こす細胞へ人工ミニ染色体を導入する方法を用い、クラススイッチ組換えの分子機構として、S領域の転写の方向性によって組換えの様式が欠失か逆位かが決定されるということを明らかにした。2)クラススイッチ誘導に際して新たに発現されるRNA editing enzyme AIDを単離し、その発現様式がクラススイッチを起こすgerminal centerに限局していることを明らかにした。3)Bリンパ球のB1細胞とB2細胞の分化増殖決定機構について、B1細胞が細胞表面からのシグナルの強さによって増殖、細胞死、B2への分化を決定していることを明らかにした。4)免疫抑制に関わる分子として単離したPD-1遺伝子の欠失マウスを作成し、このマウスでは腎炎、関節炎などの典型的なSLE様症状を示すことを明らかにした。西川のグループは、1)パイエル板のinducerの形質を明らかにし、本細胞が間質系の細胞であること、又血液幹細胞から本細胞がコミットしてくる各段階を明らかにした。又この細胞によって誘導されるorganizer細胞の同定に成功し、末梢リンパ組織の形成原理が炎症をプロトタイプするという仮説を提唱した。2)GATA1プロモーター/GFP遺伝子を導入したES細胞を用いて胎児型赤血球、血管内皮それぞれに分化決定した細胞と、両方に分化能を有する細胞を分離することに成功し、血液分化のプロセスの新しいモデルを提示した。3)色素系幹細胞が、毛根のバルジ領域に存在し、G0段階で維持されていること、又一旦G1から増殖へと活性化されたstem cellがmicroenvironmentによりG0へと再導入されることを明らかにし、幹細胞を支持するニッチの存在を初めて示した。西田のグループは、1)MAPキナーゼカスケード反応における特異性と効率を規定するドッキング相互作用(触媒部位以外での酵素分子と基質の結合)を解析し、ERK(古典的MAPキナーゼ)、P38およびJNK/SAPKの全てのMAPキナーゼファミリーメンバーが保存されたドッキング部位をC端領域に持つことを明らかにした。2)ERK MAPキナーゼの核内移行が、ERKのチロシンリン酸化によるMEK(MAPKK)からの解離とその後の能動輸送と受動拡散の2経路で行われていることを明らかにした。3)ERK MAPキナーゼの活性化が哺乳動物体内時計のリセット機構に関与することを明らかにした。4)体細胞分裂周期における中心体複製の機構において、中心体複製もDNA複製の開始に不可欠なCdk2により規定されることを明らかにした。
著者
高橋 和志
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、インドネシアで収集したデータを用い、近年、世界各地で広まりつつあるSystem of Rice Intensification(SRI)と呼ばれる新しい稲作技術の採用規定要因と家計へのインパクトを実証的に分析した。その結果、SRIは圃場単位辺りの稲収量を有意に増やすが、家計所得そのものへの貢献はほとんどないこと、また、SRIは家族労働力が少ない場合や、リスク回避的・不確実性回避的である家計の間で採用されにくいことが明らかになった。
著者
猪俣 賢司
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

『ゴジラ』(1954年)に始まる「ゴジラ映画史50年」という“もう一つの文化史”には,成瀬巳喜男,小津安二郎などの戦後日本映画とも連動し,戦前の「帝国」日本と戦後の「敗戦国」日本の連続した昭和史が表象されている。ゴジラは,「東京」と「南洋」を往復する存在であり,(a)ゴジラ映画が描き続けてきた首都東京の歴史的・地理的特質,及び,(b)『モスラ』(1961年)にも痕跡が残されている戦前・戦後の日本と深く係わった「南洋憧憬」(南洋史観)という二つの観点を交差させ,その「帝国の残映」を浮き彫りにすることによって,「郷愁と鎮魂の空間」としてゴジラ映画の描いてきた日本の戦後比較文化史を明らかにした。