著者
青木 由直 棚橋 真
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究は遺跡の音響特性を調べることにより、その遺跡が音響的にどのような目的で造られたかを推定する新しい音響考古学の学問分野を開拓する基礎技術として、音場の可視化を行なう技術の開発を目的として行なった。遺跡として残されている岩板が声の反射板であると予想されるので、この反射板からの音の反射を計算し、可視化する方法として、記録した音場データを最大エントロピー(MEM)法により再回折を行なって岩板による音の反射点を計算する方法を開発し、計算機シミュレーションでその妥当性を確かめた。この方法は、音の進行方向に垂直な断面での音場分布を可視化する方法で、これに対して音の伝播の状況の可視化の目的で、音の伝播を音線を用いて追跡し、これを可視化する方法を開発した。この方法では、記録した音場のデータを基に、音場の強度の微分により得られる局所的な空間周波数成分に音線の傾きを対応させて、音線の伝播をCGにおける2次元の光線追跡法と同様にして求め、音の収束していく様子を可視化する方法である。この音線追跡法はMATLABおよびC言語により開発を行ない、3次元空間での音線追跡法にも対応できるようにした。音線の可視化のためのGUI(Graphical User's Interface)の機能を強化してシステムの利用が容易になるよう改良を加えた。開発した音線追跡法によるシミュレーション結果をインターネットで公開する目的で、音線可視化システムをJava言語で記述し、実際にインターネットでの公開実験を行ない、将来的に音響考古学に関するインターネットを利用した仮想実験室の構築に基礎データを得た。計算機シミュレーションを実験と対応させるため、スピーカで造り出される音場の記録データを処理して、これからの音線追跡を行ない、簡単な音源であれば本研究で即発した音線追跡の可視化が行なえることを明らかにした。
著者
松元 清悟 野嶋 慎二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.39.3, pp.751-756, 2004-10-25 (Released:2017-08-02)
参考文献数
7

この研究の目的は、長浜市を対象地区とし、まちづくり視察の実態とそれによるまちづくり手法の波及の実態を明らかにすることである。得られた知見は以下の通りである。1)まちづくり視察団体には多様な組織があり、視察目的には、「自身のまちづくり活動に活かすため」「まちづくりに対する研究・興味等」であった。視察内容は多様で、「商店街組合」はまちづくり手法関連を、「大学・研究機関」はまちづくり団体関を重視している。2)まちづくり手法の波及は、地域間ネットワークを形成することで波及の割合が高まる。また、まちづくり手法の波及と視察回数には関係がある。また、視察団体ごとにまちづくり手法の波及に差異が見られた。
著者
浦 和男
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.149-191, 2010-03-10

笑いに関する研究が国内でも本格的に行われるようになって久しい。大学でも笑い学、ユーモア学の名称で授業を行い、笑い学という領域が確実に構築されている。笑いそのものの考察に限らず、笑いと日本人、日本文化に関する研究も少しずつ行われている。これまで江戸期の滑稽に関する笑いの研究はすぐれた専攻研究が多くあるが、それ以降の時代の笑いに関する研究は十分に行われていない。本稿では、基礎研究の一環として、明治期に出版された笑いに関連する書籍の目録をまとめた。本稿で扱う「笑い」は、滑稽、頓智などに限定せず、言語遊戯、風俗など、笑いを起こす要素を持つものを広く対象としている。目録としてだけではなく、通史的に編纂することで、明治期を通しての笑いの在り方を考察できるように試みた。また、インターネットで利用できるデジタル資料情報、国立国会図書館で所蔵形態についての情報も付け加えた。
著者
KIJIMA Yoko
出版者
GRIPS Policy Research Center
雑誌
GRIPS Discussion Papers
巻号頁・発行日
vol.19-26, 2019-06

Although rice has been a prominent cash crop in areas with access to lowland in Uganda, the adoption of rice and area expansion have stagnated despite the Government of Uganda’s 2009 National Rice Development Policy and its commitment to doubling rice production over 10 years. Using panel data collected in 2010 and 2017 as well as risk preference data elicited via lab-in-the-field experiments conducted in rural Uganda, we find that farmers with higher loss aversion are less likely to grow rice and expand their rice cultivation areas. This study affirms that risk preferences play a critical role in agricultural production decisions.
著者
内藤 裕二
出版者
ファンクショナルフード学会
雑誌
Functional Food Research (ISSN:24323357)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.4-10, 2019 (Released:2020-01-01)
参考文献数
13

腸内微生物叢あるいは腸内環境が健康増進や生活習慣病の発症に密接に関与することが次第に明らかになりつつある.次世代シーケンサーや質量分析計などの計測技術の進歩は,食機能評価にも新たな方法論をもたらしつつある.腸内マイクロバイオーム研究の現状や腸内環境を標的にした研究の具体例を紹介した.
著者
山本 ひろ子
出版者
岩波書店
雑誌
文学 (ISSN:03894029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.189-204, 2010-07
著者
岩本 拓也 小倉 加奈代 西本 一志
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. HCI, ヒューマンコンピュータインタラクション研究会報告 (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2012-HCI-150, no.16, pp.1-8, 2012-10-25

恋人間の愛着行動(いわゆる「いちゃいちゃ」)は,幸福感を得るためや相手との関係をより良いものにするために重要な行為である.恋人達の多くは,常に愛着行動をとりたいと願っている.しかしながら公共空間では,目の前にパートナーがいるにもかかわらず愛着行動を行うことができない.従来の恋愛支援技術の研究は,遠距離恋愛者を対象に研究開発が進められてきたが,近距離恋愛者に対しても支援すべき課題が残されていると考える.そこで我々は,公共空間内での対面状況において,周囲に不快感を与えることなく愛着行動を行えるメディアの研究開発を進めている.本稿では,このメディアの実現に向け,どのような種類の行動を伝え合うことが有効かに関する基礎的検証を行う. : "Acting cozy" is important for lovers to feel happiness and to improve their relationships much better. Many lovers desire to always act cozy. However, it is actually difficult to act cozy in a public space although they are together there. Whereas the ordinary research efforts have attempted to mainly support long-distance lovers, there are also several issues to be solved even for short-distance lovers. Accordingly, we have been studying a medium that allows the short-distance lovers who stay together to convey cozy actions even in the public space without disgusting people around them. This paper investigates what kind of cozy actions should be transmitted between the lovers being together in the public space.
著者
中西 大輔 井川 純一 志和 資朗
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.118-127, 2015
被引用文献数
1

This study investigates the relationship between confidence and regret. We predicted that high levels of confidence—where confidence is defined as reduced counterfactual thinking—would limit the experience of regret. A previous study by Gilovich & Medvec (1995) found an action/inaction effect, where regret is higher when one fails to act. However, this effect may no longer exist once we conceptually distinguish the decision to act from one's confidence about that decision. The decision to act is usually accompanied with a high level of confidence, and little counterfactual thinking. We hypothesized that regardless of action/inaction, regret will be significantly lower when a decision is made with high confidence. In Experiment 1, participants read a series of scenarios and made a decision. Before receiving feedback on their decision, participants rated their level of confidence about the decision. In Experiment 2, participants read a hypothetical mistake made by an individual and estimated that individual's level of regret. The results support our hypothesis that level of confidence about decisions affects feelings of regret.
著者
馬場 正之 村上 千恵子 小川 吉司
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.497-501, 2016-12-01 (Released:2017-12-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

原因不明の突然死を来した糖尿病患者3例の神経伝導検査所見と突然死に至るまでの臨床経過を報告し, 糖尿病性神経障害が突然死の基盤となった可能性を論じる。いずれの患者も2007年~2009年に神経伝導検査によって重度~廃絶性神経障害と診断された41名中に属し, その後の足病変イベント発生の前向き調査中に突然死を来したもので, 死亡直前の血糖コントロールは安定し, 低血糖や致死的な心・脳血管障害を思わせる症状・徴候はなかった。同時期に神経障害なしあるいは軽度・中等度障害としてフォロー中の糖尿病患者189名に突然死は5年間全く出ていない。神経伝導検査による神経障害重症度の客観的評価法の有用性と, 神経伝導検査専門検査技師養成の意義についても述べた。
著者
亀井 浅道
出版者
一般社団法人 日本高圧力技術協会
雑誌
圧力技術 (ISSN:03870154)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.20-28, 1991-01-25 (Released:2010-08-05)
参考文献数
2

In order to prevent leakage accidents in a oil storage tank, it is important to be acquainted with the state of deterioration. Unless the tank is maintained properly, estimation of the life may be indispensable to avoid accidents. In this paper, the life is defined as time necessary for a deepest corrosion pit on a steel plate to penetrate through the thickness.Method to predict the life are shown on the bases of statistics. Some data on corrosion rate of bottom plates are reviewed and a new interpretation about scattered values appeared in such data is introduced, which will be useful to estimate the reliability of predicted life. Extremal statistics is also reviewed to estimate the maximum corrosion depth on the outer surface of bottm plate and an usage of double exponential distribution is shown in an example for life prediction.
著者
住吉 和子 中尾 美幸
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.36-40, 2017 (Released:2017-08-28)
参考文献数
14

女子大生18名 (甘酒群11名, 対照群7名) を対象に, 甘酒の摂取が便秘に及ぼす影響を明らかにするために, 2週間150mLの甘酒を摂取してもらった. 実験は倫理委員会承認後に本人の了解を得たうえで開始した. 効果の評価は, 日本語版便秘評価尺度 (以下MT-CAS), 排便頻度, 便秘の辛さを用いて, 便秘尺度の得点, 排便頻度, 排便の辛さの得点をWilcoxsonの符号付き順位検定を用いて, 甘酒群と対照群をそれぞれ比較した. 排便の頻度は, 甘酒摂取群が有意に改善し (P=0.046), MT-CASの合計得点 (P=0.009), 「便の回数」 (P=0.025) で有意に改善していたが, 排便の辛さは両群に有意な差はみられなかった. 以上の結果から, 1日1回の甘酒の摂取により, 便秘が改善される可能性があることが示唆された.
著者
大谷 明希
出版者
医学書院
雑誌
助産雑誌 (ISSN:13478168)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1034-1035, 2014-11-25

縁あって,カナダ東部ケベック州の移民権を得て17年になる。そのうちの丸3年は日本に戻り,実家である大阪府寝屋川市の大谷助産院で再修行もしたが,5年前に再びケベックに戻って来てからは,こちらで助産師として働く準備をしている。はじめはケベック助産師会に日本の助産師免許と経験をもって資格を認めてもらえるように働きかけたが,助産師会の査定によると,私の日本の教育課程(専門学校卒)ではここで働くには十分な教育を受けてないということで,今ケベック大学の4年間の助産師プログラムに在籍している。大学レベルの助産師教育を終了し働いた経験のある移民の助産師には,3,4か月のコースも用意されているのだが,このコースを修了するのも安易ではない。というのも彼女たちの実習を担当できる助産師が足りないため,実習待ちで何年も働けずにいる助産師たちがいるのだ。 ケベック大学の4年プログラムに入るのはかなり躊躇した。4年は長いと思った。また子どもも3人おり,大学は自宅から車で2時間以上も離れている。しかし,私は助産師の仕事が心から好きで,自分のためにも子どもたちのためにも,いきいき生きていくためには,やはり助産師を目指すしかないと思った。大学ではお産や助産師に関する最新の情報を得たり,今までの助産師の経験のなかでの疑問点をもっと深く調べてみたりできるだろうと期待して進学を決めた。幸い皆健康に恵まれ,子どもたちの父親も協力的だったので何とか現在も学業を続けられている。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.1-25, 2019 (Released:2019-03-07)
参考文献数
19

今年V-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報Democracy Report 2018: Democracy for All?によると、ここ約10年の世界の民主政の様態は、概して「独裁化(autocratization)」傾向を示しているという。もちろん、普通選挙の実施に限れば、常態化している国もみられるため、この場合の「独裁化」は、普通選挙以外の側面、つまり、表現および結社の自由や法の下の平等に関してのものである。現代社会で最も正当とみなしうる政治体制は自由民主主義体制であり、それは慣例的に「自由」を省略して単に「民主主義体制」と呼ばれるが、皮肉にも現在、世界の多様な民主制が概してダメージを被っているのは、まさにこの省略されがちな「自由」の部分なのである。同時期のラテンアメリカ諸国での民主政をみてみると、ここでも選挙民主主義の点では安定した様相をみせているが、自由民主主義指標の変化でみると、ブラジル、ドミニカ共和国、エクアドル、ニカラグア、ベネズエラの国々でその数値の低下がみられた。しかし,世界的な傾向とは若干異なり,これらの国では「自由」の中でも,執政権に対する司法や立法権からの制約の低下が著しかった。本稿では、上記の世界的傾向や近年のラテンアメリカ地域での傾向をV-Demデータを使ってみたところ低下がみられた、ベネズエラを除いた上記4カ国の最近の政治状況について端的に報告する。
著者
鄧 麗霞
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国際日本文学研究集会会議録 = PROCEEDINGS OF INTERNATIONAL CONFERENCE ON JAPANESE LITERATURE (ISSN:03877280)
巻号頁・発行日
no.38, pp.77-92, 2015-03-31

The Jikkinshō (Stories Selected to Illustrate the Ten Maxims), a collection of parables from the mid-Kamakura period, is a Confucian enlightenment text that presents ten virtues with instructional parables under each virtue, written in both Japanese and Chinese. Within these are eleven parables that concern works written by or vignettes about Confucius, the founder of Chinese Confucianism. The introduction to the Jikkinshō states that the text was compiled in order to show young men the life paths of the wise and foolish, the good and evil. To use the twentyninth story in the sixth chapter, which collects stories about Chinese wise men, as an example (wherein Confucius’s refusal to drink stolen spring water is praised), the Confucius portrayed in the Jikkinshō is a model figure, representative of wisdom and goodness. However, in the Konjaku Monogatari( Tales of Now and Then) and Uji Shūi Monogatari( Tales from Uji), which precede the Jikkinshō, parables about Confucius are all tales about his failures or comical episodes, focusing on a disgraced Confucius figure.Why did the editors of the Jikkinshō construct a Confucius image with a different character than that of the Confucius tales in the Konjaku and Uji Shūi collections? How were Confucius’s speeches or thought received in medieval Japanese literary works, and what role did they play? In order to answer these questions, it is necessary to perform an in-depth analysis on each parable that concerns Confucius in the Jikkinshō.Until now, there has been little research on Confucius-related tales in the Jikkinshō, and in particular, there has been almost no research that examines the content of the stories in a concrete way, or tries to comprehensively understand the Confucius figure depicted in these tales. This presentation will consider the formative background of the Jikkinshō while examining each story that concerns Confucius by relating it to its source. The presenter will then discuss how Confucius’s discourse and episodes about his life were received within the Jikkinshō, how they were indigenized, and what sort of lessons the editors of the Jikkinshō wanted to present through parables related to Confucius. In addition, the paper will elucidate the characteristics of the Confucius image in the Jikkinshō and consider why it was necessary for the Jikkinshō to select the discourses it did, as well as examine the actual circumstances surrounding the reception of Confucius in medieval Japanese literature.

2 0 0 0 OA 測量法の改正

著者
田中 宏明
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.11-23, 2003-03-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
2
著者
大西 広
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.439-452, 2014-01

経済学会シンポジウム : 経済学のフロンティア近代経済学には「希少資源の最適配分の理論」という定義がある一方で, 「マルクス経済学(科学的社会主義)」にはエンゲルスが『空想から科学へ』で示した「社会主義は史的唯物論と剰余価値学説の発見によって科学となった」との「定義」がある。この両定義は互いに矛盾するものでないから, その重複領域は成立しうる。「近代経済学でもマルクス経済学でもある領域」となる。ここではその試みとして筆者を中心とする研究グループが開拓した「マルクス派最適成長論」を紹介する。Although modern economics holds definitions such as a "theory of optimal allocation of scarce resources," Marxian economics (scientific socialism) holds a definition described as "socialism has become a science through the discovery of historical materialism and the theory of surplus value," highlighted by Engels in his book "The Development of Socialism from Utopia to Science." Since both definitions do not contradict each other, there should be an overlapping area. This area is both modern economics and Marxian economics. This study introduces, as an attempt to define the mentioned area, the "Marxian Optimal Growth Model," developed by a research group led by the author of this study.
著者
藤野 正寛
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

マインドフルネスとは、今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づくことである。この能力を高めるための実践法は、特定の対象に意図的に注意を集中する集中瞑想と、経験に対して抑制することなくありのままに気づいている洞察瞑想の2種類の瞑想技法から構成されている。近年、この実践法が人々のウェルビーイングの改善・向上に貢献することが多くの研究で示されている一方で、対象者によってはネガティブな経験を抑制してしまうことで有害事象が生じる事例も示されている。そこで、安全かつ効果的な実践法の適用・開発のために、マインドフルネスの中核的な機能を育む洞察瞑想の心理・神経基盤を解明することが求められている。本年度は、瞑想未経験者72名を対象として、昨年度に開発した介入用教示を用いて、集中瞑想と洞察瞑想の30分の短期介入が、妨害刺激の対処方法に与える影響の違いを検討した。実験では、妨害刺激としての表情顔の中央に呈示された文字の向きを解答する弁別課題を用いた。その後、弁別課題時に呈示した顔と呈示しなかった顔を用いて選好度判断課題を実施した。その結果、対照群では表情顔に対する単純接触効果が見られなかった。しかし集中瞑想群と洞察瞑想群では単純接触効果が見られた。さらに集中瞑想群でのみ介入後のリラックス状態と単純接触効果の間に有意な正の相関が見られた。これらの結果は、統制群では弁別課題で呈示された顔を抑制したために、呈示顔の魅力度が低下したことを示している。また集中瞑想や洞察瞑想の短期介入が、注意制御機能や情動調整機能に影響を与えることを示すとともに、洞察瞑想が集中瞑想による選択的注意を強めることとは異なる心理メカニズムに影響を与えていることを示している。これによって、従来確認されていなかった、瞑想未経験者でも洞察瞑想による情動調整を実施できるということの傍証をえることができた。
著者
千田 稔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.257-275, 1977-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

都市的集落の発生は農業生産力の拡大に伴う社会的余剰の産出が契機になるといわれるが,イングランド南部においては,花粉分析の成果によれば鉄器時代に森林の開拓が見られ農業が進展したことが知られ,その時期に形成された高城 (Hillfort) という防御集落には都市的様相を認めることができる.この高城のうち15エーカー以上のものについては, 13km間隔の正六角形網の領域パターンを構成する中心集落として立地すると解釈でき,さらにこれらの高城群が直径60~80kmの円に包摂されるような領域を形成していたことが指摘される.この領域的規模は部族領域かあるいはそれを分割したものとしてあらわれるが,鉄器時代末期のoppidum (マチ)を中心集落とする領域形成にも継承され,さらにローマ支配時のキヴィタス (Civitas) の空間的広がりにおいても踏襲されるものである.こうした規則性を支える原理については,今後の検討の余地がある.