著者
橋本 昌司 松浦 俊也 仁科 一哉 大橋 伸太 金子 真司 小松 雅史
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、森林内の放射性セシウム動態のデータベースを構築すること、またそのデータを用いてマルチモデル(複数モデル)による将来予測を行うことを目的としている。今年度は、昨年度構築したデータベースのプロトタイプを改良しながら、データ入力を行った。Web of ScienceやJ-Stageを活用しながら、英語・日本語の学術誌から論文を収集し、データを抽出してデータ入力を行った。加えて、林野庁の調査と福島県によるモニタリングデータも入手し、データ入力を行った。現時点でレコード数は約10000となった。データベースからスギの葉および表層リターに関してデータを抽出し、初期の総沈着量で正規化した濃度をサンプリング年でプロットし時間変化を調べたところ、葉・リターともに初期の総沈着量によらず時間とともに確実に指数関数的に濃度が低減していた。しかし、事故当時に比べて非常に小さい値に収束している葉の濃度に比べ、リターの濃度は4分の1程度のところで定常しているように見受けられた。データベース構築の進捗状況を、国際原子力機関IAEAのMODAIRAIIプロジェクトの第2回専門家会合(ウィーンのIAEA本部で開催)、およびそのワーキンググループ4: Fukushima data groupの中間会合(筑波大学で開催)で報告し、海外の専門家のアドバイスを受けた。また、データベースに収録されている森林総合研究所のモニタリングデータと福島県のモニタリングデータを比較した。さらに国立環境研究所において開発されたFoRothCsモデルのパラメータを、森林総合研究所が行っているモニタリングデータを用いて決定する方法に関して、観測値を直に用いるのではなく、データに指数関数を適用し指数関数の定数を比較する方法を検討した。
著者
武田 宏
出版者
日本福祉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1990年の老人福祉法等8法改正(以下、「90年改革」)はわが国の市町村高齢者福祉行政に「計画化」と「分権化」という特徴を付与したが次のような三点の問題点が依然として残された。(1)市町村での実施財源が不明確なまま在宅福祉サービスおよび老人施設入所措置事務移譲がおこなわれた、(2)市町村は高齢者福祉サービスを社会福祉法人、社会福祉協議会、「福祉公社」など各種の民間団体に「外部委託」する傾向が強まった、(3)委託された団体では福祉労働者のパートタイム雇用、「有償ボランティア」を活用するなど、地域福祉労働組織の確立が不明確なばあいが多いことである。今年度の研究では以上の問題点に関して次のような調査・検討作業を行った。(1)地方財政統計を用いて1980年代の市町村福祉財政の分析を行うことにより、「90年改革」に先立つ、80年代の後半の社会福祉関係の事務配分・財源配分の変更が、市町村財政に国庫支出金比率の大幅低下という影響をもたらしたことを明らかにした。(2)老人保健福祉計画策定・実施においての市町村の財源が、特に在宅福祉サービス推進において十分でない点を明らかにした。(3)高齢者福祉サービスの民間委託に関しては、社会福祉法人への措置委託と措置費についての調査研究を行った。(4)外国の高齢者福祉の分権化動向に関してはイギリス等の文献研究とともにスウェーデンでの視察を行った。なお、上記(1)(2)に関しては別記のように研究成果の発表を行ったが、(3)(4)についてはその作業中である。
著者
江藤 みちる
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

不妊は大きな社会問題であり、ストレスの関与が指摘されている。研究代表者はストレス関連生理活性ペプチド「マンセリン」が卵管内腔上皮の分泌細胞に存在することを見出した。本研究では、卵管マンセリンの性周期、発達およびストレス環境下での局在について検討した。マンセリンは生後7日のラットでは発現せず、生後14日で卵管内腔の一部に発現していた。成獣ラットでは卵管内腔に広く局在し、性周期やストレス負荷に伴う局在の変化は見られなかった。視床下部の弓状核ではドーパミン神経と共存し、マンセリンが視床下部-下垂体-性腺軸の調節に関与することが示唆された。
著者
南 秀雄 趙 哲済 杉本 厚典
出版者
一般財団法人大阪市文化財協会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

淀川・大和川河口の低地に位置する大阪では、洪水対策なくして都市の形成・拡大はありえなかった。本研究では、大阪市内で増えてきた堤防跡などの関連遺構の発掘成果を活かし、急速に進んできた古地形復元とあわせ、考古学・地質学・堆積学・河川工学の協働により、都市大阪における5世紀から17世紀の治水・水防遺構の実態と機能を明らかにする。また、それらが基盤となってどのように街づくりや街の形態が規定され、次代に受け継がれていったのかを通時代的に究明することを目指す。
著者
宮澤 陽夫 藤本 健四郎
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

酸化油脂を経口摂取したときの生体毒性の発現機構を知るため, リノール酸メチルヒドロペルオキシドおよびその二次酸化分解生成物(主にカルボニル化合物)を経口投与したときのマウス免疫系組織への影響を調べた.C67BL/6系雄マウス(体重20〜30g)に精製リノール酸メチルヒドロペルオキシド(過酸化物価=6100meq/kg)を90, 190, 270, 310mgずつ経口投与した. また別にヒドロペルオキシドの分解物(カルボニル化合物)を経口投与した. 投与24時間後に, 臓器重量正測定するとともに, 各種臓器組織をHE, PASおよびズダンIII法で染色し, 組織像(肝臓, 胸腺, 脾臓, パイエル板など)を光学顕微鏡で調べた. また, 血清GOTとGPTの活性を測定した. リノール酸メチルヒドロペルオキシドなどの脂質過酸化物を投与したときの胸腺細胞をフローサイトメトリーによるドットプロット分析に供し, 胸腺細胞の変化を調査した.リノール酸メチルヒドロペルオキシドなどの脂質過酸化物を経口摂取したマウスの免疫系組織(胸腺, 脾臓)の重量は顕著な低下を示した. とくに胸腺上皮組織では, 浸潤しているリンパ球の著しい壊死が観察できた. この時胸腺ホモジネートからの自発的な極微弱化学発光量は顕著な増加を示した. また脂質過酸化物を摂取したマウスの脾臓においてはヘモグロビンの変性を示すヘモジゼリンの蓄積が認められ, 一方, 小腸パイエル板においてはリンパ球の壊死が顕著に認められた. ヒドロペルオキシド投与マウス胸腺のリンパ球をフローサイトメトリーで分析すると, 免疫応答能の欠落した容積の小さいリンパ球群の出現が新たに認められた. これらの結果から, 脂質加酸化物を摂取した場合に生体の免疫系組織に大きな障害のあらわれることが明らかになった.
著者
宮地 正人 箱石 大
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.中津川に出張し、間譲嗣家、間和夫家、菅井深恵家、市岡楯子家等に出張し、各家に所蔵されている大量の書翰類を中心に撮影し、焼きつけ写真をもとに、年代、差出人、受取人、内容確定の作業をおこなった。2.中津川国学者のネットワークは、東美濃においては、北部の附知町にまで達しているため、同町の田口慶昭家を訪問し、関係史料を調査・撮影した。3.北三河稲武町の古橋源六郎家は、中津川国学者と深い関係を有し、幕末期の当主は平田国学者でもあったので、同家に赴き、調査・撮影をおこなった。4.飯田市を訪問し、同市の平田国学者関係史料の収集方について調査した。5.国学者の動向を知る上では、滋賀大経済学部に所蔵されている近江平田国学のリーダーであった西川吉輔の風説留は重要な史料なので出張、撮影したフィルムの焼付けをおこなった。6.市岡楯子家に所蔵されている嘉永元年から明治初年にかけての、各地の政治情報を収録した10册におよぶ大部の風説留を、史料編纂所に借用し、写真撮影をおこなった。7.馬籠の藤村記念館所蔵の「大黒屋日記」は、中津川宿の動向を知る上で不可欠の史料であるため、撮影申請をおこなったが、プライヴァシー問題の記載を理由に拒否された。この結果、同館に赴き、必要部分の史料筆写をおこなった。8.風説留は詳細目録がないと使用しにくく、また史料引用の上でも必要なので、一点目録を作成した。9.各家で収集した史料に関しては、全点にわたり年代を確定し、年月日順に編纂をおこなった。10.編年目録・風説留目録・大黒屋日記中中津川関係史料書抜の三目録を纏めて科研報告書を作成した。
著者
菅 豊 北條 勝貴 宮内 泰介 川田 牧人 加藤 幸治 西村 明 中澤 克昭 市川 秀之 俵木 悟
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度、研究メンバーは、まず個々のフィールドで生起しているパブリック・ヒストリーをめぐる歴史実践の展開と深化に不可欠な重要課題を、フィールドワーク・文献調査等により精査するとともに、理論研究を行った。加えて、各メンバーの個別研究を統合し、成果を発表するために研究会を3回開催した。その研究会はパブリック・ヒストリー研究会というかたちで基本的に公開とし、現代民俗学会等の学術団体と共催することにより社会への研究成果の還元に努めた。また、本研究を世界的な研究水準とすり合わせるために、国内学会のみならず海外学術集会等で発表、意見交換を行った。主たる研究実績は下記の通り。○2017.4.6:北京聯合大学北京学研究基地・One Asia Foundation主催『北京学講堂:亜州文化共同体與首都比較』において「東亜文化共同体中的非物質文化遺産相関問題」と題して講演、○5.11~13:台湾文化部文化資産局主催国際シンポジウム『2017 亜太無形文化資産論壇-前瞻教育與当代実践』において「無形文化資産保存維護與公共民俗学:「共学」立場與方法之必要性」と題して講演、○5.20:現代民俗学会2017年度年次大会でシンポジウム「「民俗学」×「はたらく」-職業生活と〈民俗学〉的知」を共催、○7.7~10:第4回研究会「神代在住Oターン郷土誌家をめざして」、○10.15:第69回日本民俗学会年会で第5回研究会「パブリック・ヒストリー―歴史実践の民俗学―」パネル発表、○12.16~17:第6回研究会「『十三浜小指 八重子の日記』について語りあう」※研究会回数は前年度からの通算
著者
太田 修 宮本 正明 板垣 竜太 福岡 正章
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

(1)日韓会談文書検索システムの構築2016年度に引き続き、「日韓会談文書全面公開を求める会」(以下、「求める会」)HP上で公開されている日韓会談文書の書誌情報のデータベース化(文書の表題、作成年月日、キーワードなど)を行った。日韓会談文書1916ファイルのうち文書番号601から文書番号1500までの作業を進めた。また、研究代表者と「求める会」メンバーとの打ち合わせ会議を持ち(2017年11月24日、大阪経済法科大学東京麻布セミナーハウス)、データベース作業済ファイルの点検作業、および分担者の調整、検索システムの立ち上げと公開の方法と時期について協議した。検索システムについては、2016年3月に「求める会」HP上に「テスト用検索システム」を構築した状態となっている。データベース化作業が完了した後に検索システムを公開する予定である。(2)戦後日韓関係史研究の深化2017年度は、第5・6回研究会(2017年9月12日、民族問題研究所、ソウル)および第7・8回研究会(2018年3月13日、民族問題研究所、ソウル)をもち、本研究の趣旨・内容、研究範囲、研究方法・研究体制、研究計画などについて再確認し、各分担研究者および研究協力者が研究報告を行った。第5・6回研究会では、宋炳巻(研究協力者)が「崔虎鎮の国経済史研究と東洋社会論」、沈載謙が「国交正常化以前の韓日経済協力論の3つの脈絡と合意」というテーマで報告した。また、第7・8回研究会では、板垣竜太(研究分担者)が「映画「朝鮮の子」(1955年)の製作過程をめぐって」、金丞銀(研究協力者)が「植民地歴史博物館の基本概念と展示の構成」というテーマで報告した。その後、各自の研究の進捗状況を確認し、文献調査の結果について情報を共有し、次回研究会の予定を立てた。
著者
月村 太郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は21世紀初頭の国際政治において喫緊の課題となっている民族紛争について、政治学、比較政治学、国際政治学の分析ツールを利用して、特に発生、激化・拡大、予防、解決について論じることであった。得られた知見を纏めると以下のようになる。1.民族紛争の特徴について-民族紛争は一般的に泥沼化する傾向が強い。その第一の原因はリーダーシップの弱さであり、逆説的だがそれ故に立場の急進化が見られる。そこには代行者の存在、中央と出先の温度差が存在する。第二の原因は民族紛争ではゲリラ戦術が採用され、小火器が主に利用されることである。第三には争点がアイデンティティであることが指摘できる。2.民族紛争の発生について-民族紛争発生の原因には基底的原因と直接的原因がある。そして基底的原因の問題性が悪化して直接的原因となるパターンと、基底的原因に何らかの変化が生じてそれが直接的原因となるパターンがある。また民族紛争の発生と貧困化と民主化は密接な関係にある。3.民族紛争の激化と拡大-まず紛争の垂直的次元の成長である激化と水平的次元の成長であると拡大は区別しなくてはならない。激化過程では当事者間のコミュニケーションの減少、欠如が見られ、それが激化に大きく作用し、また激化によって争点が変化することもある。そこでは安全保障ジレンマが影響することもある。民族紛争の拡大には伝播と介入がある。4.民族紛争の予防-予防策のうち、現在の国際社会において許されるのは多民族性を維持しながら国境の変化させない方策である。代表的なものは、連邦制、多極共存、文化的自治があるが、いずれも統治の効率性が低下する。5.民族紛争の解決-解決の主体は外部者である。平和維持は現在盛んに利用されているが、平和維持は紛争を「瞬間冷凍」したに過ぎない。紛争を根本的に:解決するのは平和構築が必要である。軍事介入の場合には、介入者の有権者(=納税者)への説明責任が前提である。研究成果報告書では、以上の特に1.〜3.の観点から、旧ユーゴ内戦を事例研究として取り上げた。
著者
宮川 卓 徳永 勝士 豊田 裕美
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ナルコレプシーを対象としたゲノムワイドメチル化解析を実施した。さらにそのデータとナルコレプシーのゲノムワイド関連解析を統合した解析を行い、ナルコレプシーの新規感受性遺伝子としてCCR3遺伝子を同定した。平成29年度から特発性過眠症の研究も開始した。特発性過眠症は長時間にわたる睡眠エピソードが出現し、日中に強い眠気を感じ、総睡眠時間が11時間以上となる特に重症な中枢性過眠症である。その病態及び原因が解明されていないため、治療法が確立しておらず、対症療法に用いられる薬剤は副作用が多いことが問題となっている。そこで、特発性過眠症の遺伝要因を探索するために、ゲノムワイド関連解析を実施した。ゲノムワイド有意な一塩基多型(SNP)は同定されなかったが、疾患関連候補SNPを抽出した。平成28年度までの研究で、ナルコレプシーと真性過眠症を含む中枢性過眠症のゲノムワイド関連解析によりCRAT遺伝子の近傍のSNP(rs10988217)が真性過眠症とゲノムワイドレベルで有意な関連を示すことを見出している。発現解析及びメタボローム解析の結果を統合的に解析した結果、rs10988217遺伝子型は血中スクシニルカルニチン濃度ともゲノムワイドレベルで有意な関連を示すことがわかった。上記のようなSNPだけでなく、頻度の低い変異も睡眠障害に関わる可能性が高いと考えている。平成28年度までに、PER2遺伝子上に頻度が低く、アミノ酸置換を伴う疾患関連の候補変異(p.Val1205Met)を見出している。そこで、実際に睡眠障害と関連するか検討した結果、当該変異が睡眠相後退症候群及び特発性過眠症と有意な関連を示すことを見出した。
著者
田浦 太志
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

オオケビラゴケ(Radula perrottetii)は大麻のカンナビノイドに類似した構造のビベンジルカンナビノイドであるperrottetineneを生産することが報告されている。本研究では網羅的遺伝子発現解析(EST)に基づき、perrottetinene生合成に関与するポリケタイド合成酵素、プレニル転移酵素及び酸化閉環酵素を同定することを目的とした。先ず、ポリケタイド合成酵素に関しては昨年度ESTデータより推定した6種の配列(PKS1~PKS6)をRT-PCRにより増幅し、大腸菌発現ベクターpQE80Lに組み込み、組み換え酵素を調製した。得られた各PKSについて、phenylpropionyl-CoAを開始基質とするアッセイを検討した結果、perrottetinene前駆体として予想されるdihydropinosylvinの合成は確認されなかった一方、PKS5を除く各酵素の反応液に、分子量258の生成物が確認されたことから、dihydropinosylvinのカルボン酸化体が合成されたものと推察した。オオケビラゴケの近縁種であるRadula marginataはperrottetineneのカルボン酸化体であるperrottetinenic acidを含有することが知られており、オオケビラゴケにおいても同様の代謝経路が存在する可能性が考えられる。次いで、プレニル転移酵素および酸化閉環酵素に関しては昨年度EST解析によりピックアップした候補配列のうち、特にカンナビノイド生合成経路の酵素と高いホモロジーを示す各三種の配列をRT-PCRにより増幅し、メチロトロフ酵母の発現ベクターpPICZaに組み込み、X33株に形質転換して発現株を作製した。以上のように本研究ではオオケビラゴケに特徴的な二次代謝産物生合成に関与すると考えられる各遺伝子を保存し、発現系を確立するに至った。
著者
岩井 宜子 内山 絢子 後藤 弘子 長谷川 眞理子 松本 良枝 宮園 久枝 安部 哲夫
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては、平成になってからの日本における殺人・傷害致死の第1審の判決例を収集し、その加害者・被害者関係をジェンダーの視点で分析し、おもに、家庭内暴力(DV)が原因として働くものがどの程度存在し、どのような形で殺害というような結果をもたらしたかを詳察することにより、今後の対策を考察することを意図した。昭和年間の殺人の発生状況との比較において、まず、注目されるのは、えい児殺の減少であるが、昭和年間にかなりの数のえい児殺が存在したのは、女性の意思によらない妊娠が非常に多かったことに基づくと考えられ、平成になり、少子化の背景事情とともに、女性の意思によらない妊娠も減少したことが推察される。しかし、年長の実子を殺害するケースは、増加しており、その背景には、被害者の精神障害、家庭内暴力、非行などが、多く存在している。夫・愛人殺の増加の背景にも、長期間にわたる家庭内暴力の存在が観察される。「保護命令」制度などが、うまく機能し、家庭内暴力から脱出し、平穏に暮らせる社会への早期の移行が待たれる。女性が殺人の被害者となり、また加害者となるケースは、多くは家庭内で発生しており、その背景には、種々の形の暴力が存在している。児童虐待の事案も顕在化が進んでいるものと考えられるが、徴表に対し、より迅速に対応し、救済するシステムがいまだ確立していないことが伺える。家庭内の悲劇を社会に救済を求めうる実効的なシステムの構築が必要である。
著者
佐々木 真理
出版者
実践女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した女性作家イーディス・ウォートンの作品を中心にその思想と手法の変遷を検証することで、女性の知識人の社会的地位がどのように構築され、そして表象されてきたかについて明らかとした。具体的には、ウォートンに与えた同時代の女性知識人の影響について考察することで知性の表象にはジェンダーの問題が深く関わっていたことがわかった。次に、当時の反知性主義と教育について分析し、世紀転換期における社会の変容が女性の知性のあり方と自己表象に大きく変化をもたらし、その変容に対するウォートンの視点が、当時の女性作家にあって独自の視点であるという結論が得られた。
著者
梅本 充子 野崎 玲子 神保 太樹
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

平成23年度、地域在住高齢者に対して、アロマを部屋に充満させた回想法を行った。実施前後の比較では、自律神経の活性化がえられた。他は、いずれも有意な差はなかった。次に道具を使った一般的回想法を実施した。実施前後の比較では、いずれも有意な差は、なかった。平成24年度は、懐かしい匂いを用いて行った。記憶力が、実施前後有意な差が得られ改善した。平成25年度は、懐かしい音を使った回想法を実施した。実施前後、実施後2ヵ月までQOLの改善と記憶の有意な傾向がえられた。一般的な回想法で使用する懐かしい道具に音や匂いを加えることで、視覚、触覚、聴覚、嗅覚の多彩な感覚刺激が脳への刺激を高めたことが示唆された。
著者
梅村 浩
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

微分ガロア理論は,1次元加法代数群のなすHopf代数のmodule代数の理論とみなすことができる.この立場から,Hopf代数の専門家は余可換Hopf代数を作用域とする可換環上の線形方程式のガロア理論を一般的に扱うのに成功した.これを非可換化すること,つまり量子化することは困難な問題であった.我々は非戦形微分方程式のガロア理論の研究から生じたガロア鞘の概念を用いて,定数係数の線形方程式の一般の量子ガロア理論を確立した.
著者
松沢 哲郎 山本 真也 林 美里 平田 聡 足立 幾磨 森村 成樹
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2016-04-26

人間を特徴づける認知機能の特性を知るうえで、それらが「どのように進化してきたか」という理解が必要不可欠である。本研究は、言語と利他性こそが人間の子育てや教育や社会といった本性の理解に不可欠だという視点から、①人間にとって最も近縁なチンパンジー属2種(チンパンジーとボノボ)とその外群としてのオランウータン、さらにその外群としてのウマやイヌを研究対象に、②野外研究と実験研究を組み合わせ、③知識や技術や価値とその社会的伝播や生涯発達に焦点をあてることで、人間の本性の進化的起源を明らかにすることを目的とした。チンパンジーの野外研究はギニアのボッソウの1群7個体、実験研究は霊長類研究所の1群13個体と京大熊本サンクチュアリの58個体が主な対象だ。ボノボの野外研究はコンゴの1群27個体、実験研究は熊本サンクチュアリに導入した1群6個体が対象だ。これに、母子だけで暮らす社会を営むオランウータンを外群とし、ボルネオのダナムバレイの野生群、マレー半島のオランウータン島で研究をおこなった。ポルトガルの野生ウマの研究が軌道に乗った。新しい研究手法の開発として、ドローンを利用した空撮で野生チンパンジーや野生ウマの研究を始めた。実験研究のトピックスは、研究代表者らが世界に先駆けて発見したチンパンジー特有の超短期記憶の研究、アイトラッカーによる視線検出、色の命名課題にみるシンボルの形成、チンパンジーには困難といわれる循環的関係の理解、感覚間一致、共感性の基礎にある同期行動などである。個体レベルでの認知機能の研究を基盤に、比較認知科学大型ケージを活用した集団場面での行動の解析を手がけた。野外研究では、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、キンシコウ、野生ウマを対象として、毛づくろいや近接関係など社会交渉の解析を通じて社会的知性の研究を推進した。
著者
大河原 恭祐
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1)エライオソーム比の個体群間変異とアリ群集との関連本年度は個体群間でエライオソーム比が異なる要因を調べるため、カタクリ種子を運搬するアリについて野外観察を行い、特に代表的な4調査地点(定山渓、生振、浦臼、音威子府)間で比較を行った。約100個のカタクリ種子を20個ずつ分割して林床に配置し、誘引されたアリの種類、個体数とその運搬行動を観察した。エライオソーム比の高い定山渓、音威子府個体群ではシワクシケアリとトビロケアリが主要散布アリで、運ばれた種子の全てはこの2種によるものであった。またエライオソーム比が低かった生振、浦臼個体群ではその2種に加え、アメイロアリ、アズマオオズアリが種子に集まった。しかしアメイロアリはエライオソームを食害するのみで種子を運搬しなかった。さらにこれら4種のコロニーを実験室内で飼育し、カタクリ種子を与えて、その処理行動を観察したところアズマオオズアリは種子を運んだ後、巣内でその60%近くを胚珠まで食害していた。これらの観察からカタクリのエライオソーム比は散布者となるアリの種類とその種子に対する行動によって大きく影響を受けていることが示唆された。(2)カタクリの種子散布成功率と動物群集構造の効果昨年度からの継続調査として既にアリや土壌節足動物相調査、種子運搬率などが調査してある金沢市近郊の犀川上流部の河内谷カタクリ個体群において、開花個体35個体について実生の定着成功率を調査した。その結果、1個体当たりの定着成功率は70-90%で、同様の調査を行った北海道定山渓個体群よりも高かった。これは昆虫類などの散布妨害者が少なかったことと土壌動物密度が希薄でアリにとってエライオソームの食料としての価値が高く、運搬頻度が上がったためであると考えられる。
著者
尾崎 明人
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,日本語学習支援の活動に対する日本語ボランティアの意識を明らかにすること,ボランティア教室における教育方法の改善策を探ることを目的として,(1)ボランティアが運営する地域の日本語教室におけるコミュニケーションは,外国人の日本語学習,日本語習得にどのような効果をもたらしているか,(2)そのコミュニケーションは,日本人ボランティアにとってどのような学びの場になっているか,という二つの研究課題を設定した。この研究課題に沿って,1年目には愛知県下の日本語ボランティアおよそ1000名にアンケート調査票を配付し,475名分の有効回答を得た。2年目に調査票の量的分析を行い,3年目は自由記述欄の分析を行った。その結果,50代の主婦が全体の23%(107名)とボランティアの主力であること,ボランティアの約1割は420時間の日本語教師養成講座修了生など教師の卵であること,クラス形式の活動に従事するボランティアがもっとも多く,ボランティアの26%は日本語がほとんど分からない入門レベルの指導に当たっていることなどが明らかになった。ボランティア活動の意義として,外国人から感謝されることにやりがいを感じる(182名),外国人の日本語が伸びるのを見ると嬉しい(157名),外国人との交流で自分の世界が広がった(123名)など,日本語ボランティア活動の意義を示す自由記述が見られた。一方,外国人の多様性に対応するのが難しいという回答が多かった。1年目と2年目は日本語教室を合計36回見学し,2年目に16回分の授業を録音,録画し,7回分を文字化した。3年目は,談話資料をもとに授業展開の記述および日本人ボランティアの教授行動の分析を行い,さらに教室でのコミュニケーションを通して外国人学習者が定型表現を獲得していく過程の一端を明らかにした。
著者
安藤 昌也 伊藤 泰信
出版者
千葉工業大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究は、人や社会を要件として捉え、システム設計を専門とする人間中心設計(以下、HCD)と、集合的な社会・文化に焦点を当てて人間社会を理解することを専門とする文化人類学(以下、人類学)の知見を融合させつつ、人工知能(AI)を適用したシステムの設計において人と社会の調和を考慮したシステム設計思想および設計方法のあり方を検討するものである。本研究では、HCDと人類学の融合する「多元的HCD」という一見矛盾する設計思想を仮説としつつ、2つの学問領域の対話と連携により、実際にAIが導入されている現場(医療支援システムや転職支援サービスなど)のフィールドワークをすることを通し、双方の差異・共通点から課題を整理する。