著者
林谷 秀樹
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.85-85, 2010

我が国における理想的な獣医学教育像を描くためには,(1) 学生の具体的な到達目標を明示すること,(2) 目標を達成するために必要なカリキュラムの内容(シラバス)を明らかにすること,(3) 教育手法を明示しておくことが不可欠であるとの認識のもと,文部科学省の先導的大学改革推進委託事業に「獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに関する調査研究」が東京大学を代表者となって採択されたことを受けて,平成21年7月から獣医学教育のコア・カリキュラムの策定が開始された。本事業では獣医学の4分野(基礎,病態,応用ならびに臨床)の中から,取り上げるべき授業科目として50科目が選択され,それぞれの科目について学生が習得すべき基本的内容について検討されている。コア・カリキュラムとはそれぞれの分野で必ず学ぶべき必要最小限の共通カリキュラムであり,これまでに医学,薬学,歯学および法科大学院の4つの分野の教育で策定されている。獣医学教育でのコア・カリキュラムで策定される内容は,各科目で学ぶべき内容の2/3であり,残りの1/3については各大学が独自の理念や社会的要求に基づいた判断により実施することになっている。<BR>これまで,獣医学教育の中で,獣医疫学は公衆衛生学,獣医衛生学,獣医伝染病学などの科目の中で教育されていることが多く,近年,獣医疫学を独立した科目として教育する大学が増えつつあるものの,「獣医師国家試験ガイドライン」の中では独立した科目としては扱われていなかった。しかし,今回「獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに関する調査研究」事業では,獣医疫学は応用獣医学の中の独立した一科目として選定され,そのコア・カリキュラムが検討されることとなった。獣医疫学のコア・カリキュラム策定に当たり,3名の委員(加藤行男,筒井俊之および林谷秀樹,いずれも獣医疫学会会員)が選出され,平成22年7月からそのコア・カリキュラムに関して検討を開始し,平成23年2月に案が完成した。獣医疫学に関するカリキュラムとして,獣医疫学会ではすでに2007年に獣医疫学に関するカリキュラムを学会から提言しているが,今回のコア・カリキュラム案もほぼそれに従った形になっている。コア・カリキュラムは,科目を通して全体で到達すべき目標と項目(20項目)ごとに一般目標と到達目標が設定されている。今回,委員で策定した獣医疫学のコア・カリキュラムについてその項目を下記に記した。このコア・カリキュラムは獣医学関係者や一般人からのパブリックコメントを得て修正し,平成23年3月に公表される予定となっている。<BR>いずれにしても,獣医疫学のコア・カリキュラムが策定されるということは,今後獣医系大学で獣医疫学が必須科目として講義されることになるということであり,獣医疫学の発展と普及を目指す本学会としては喜ばしい限りである。現在,獣医疫学会では,このコア・カリキュラムに準拠した形で獣医疫学の教科書の改訂を進めており,来春にはコア・カリキュラムに準拠した新しい獣医疫学の教科書が近代出版から発行される予定である。<BR><B>獣医疫学コア・カリキュラム(案)</B><BR>(1)疫学の概念 (16)スクリーニング<BR>(2)健康疾病事象の発生要因 (17)感染症の疫学<BR>(3)疫学で用いられる指標 (18)特定分野の疫学<BR>(4)疫学に必要な統計手法 (19)リスクアセスメント<BR>(5)標本抽出 (20)疾病の経済評価<BR>(6)疫学研究の信頼性と妥当性<BR>(7)疫学資料<BR>(8)記述疫学<BR>(9)生態学的研究<BR>(10)横断研究<BR>(11)症例対照研究<BR>(12)コホート研究<BR>(13)介入研究<BR>(14)因果関係<BR>(15)サーベイランス
著者
石川 義彦
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.233-239, 2010-08-15 (Released:2016-09-30)

NBC 災害という言葉が使われて10 年近く経つ.東京消防庁ではそれ以前より危険物や毒物・劇物,RI 等を取り扱う施設や輸送中の火災,漏洩等に対応しており,1990 年には化学機動中隊を設立して消防活動体制の一層の強化を図った.しかし地下鉄サリン事件では原因物質不明のまま初動の活動を行い,結果として職員の受傷等数々の課題を残した.このため化学テロも踏まえた装備や資器材,教育訓練,活動体制等の強化を図るとともに,その後も茨城県での臨界事故や米国での同時多発テロ等を踏まえて様々な対策を講じてきた.NBC 災害を取り巻く環境は変化しており,最近では家庭用洗剤等の混触による硫化水素発生事故が多発するなど今後も新たな形態の災害の発生が懸念される.このような状況を踏まえ,東京消防庁が取り組んでいるNBC 災害対策の現状について紹介する.
著者
力丸 祥子
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.43-68, 2014-10

二〇一三年五月一七日、フランスは「すべての者のための婚姻に関する法律」を制定し、世界で一四番目に同性婚を認める国となった。 本稿では、同法制定以前に創設されたパックスの制度との対比をしつつ、その違いからフランスで同性婚を認める必要性があるとされたことを明らかにする(一)。同法は世論を二分する中で可決され、これにより同性婚及び同性婚カップルが子を持つ権利が認められることとなった。 しかし、同法はまた新たな問題をも生み出した(二)。具体的には①同性婚の司式の拒否、②同性婚カップルが子を持つことができる権利を有することと関連して、彼らが人工生殖や代理母により子を設けることの可否である。中でも人工生殖に関しては、人工生殖に関する生命倫理法が、人口生殖をなしうるのは、異性間カップルに限っていることから、法のねじれ現象が生じ、問題となっているという状況を紹介する。 最後に結びにかえて、我が国で同性婚を認めることの可否に関する動きにつき、同性婚合法化の動きのあるアジア圏の国々の状況も考慮に入れつつ、簡単に触れる。
著者
OZEKI M.
雑誌
Journal of Geophysical Research (ISSN:01480227)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, 2010
被引用文献数
2 61

A dense array of Global Positioning System (GPS) receivers is a useful tool to study ionospheric disturbances. Here we report observations by a Japanese GPS array of ionospheric holes, i.e. localized electron depletion. They were made by neutral molecules in exhaust plumes (e.g. water) of ballistic missiles from North Korea, Taepodong-1 and -2, launched on August 31, 1998, and April 5, 2009, respectively. Negative anomaly of electron density emerged ~6 minutes after the launches in the middle of the Japan Sea, and extended eastward along the missile tracks. By comparing the numerical simulation of electron depletion and the observed change in ionospheric total electron content, we suggest that the exhaust plumes from the Taepodong-2 second stage effused up to ~1.5 x 1026 water molecules per second. The ionospheric hole signature was used to constrain the Taepodong-2 trajectory together with other information, e.g. coordinates of the launch pad, time and coordinates of the first stage splashdown, and height and time of the second stage passage over Japan. The Taepodong-2 is considered to have reached the ionospheric F region in ~6 minutes, flown above northeastern Japan ~7 minutes after the launch, and crashed to the Pacific Ocean without attaining the first astronautical velocity. Ionospheric hole in the 1998 Taepodong-1 launch was much less in size, but it is difficult to compare directly the thrusts of the two missiles due to uncertainty of the Taepodong-1 trajectory.
著者
中村 遼 岡田 昌彰
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
環境システム研究論文集 (ISSN:13459597)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.375-380, 2008

本研究では, 参加者のWEB上の記述という形でデータ取得が可能な野外音楽イベント「FUJI ROCK FESTIVAL」を研究対象とし, 参加者による周辺環境の解釈形態, 風景発見の実体を分析・把握し, 環境の外的特徴の発見促進媒体あるいはその意味探求への誘発装置としての野外イベントの実用性を提示した. その結果, 主目的がライブ鑑賞である野外イベントであっても, 人が自然環境と交わることにより, 風景が副次的に発見されること, 時間帯や天候により変化する風景が体感されやすいこと, ならびにライブ鑑賞時においては周辺の自然環境や会場の設えをもライブと関連させ, 演出の一要素として読み替えを行っていることがわかった.
著者
カムルジャマン エムディ 小倉 暢之
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.73, no.627, pp.947-954, 2008-05-30
被引用文献数
2 7

バングラデシュの首都ダッカは、1970年代以降類例を殆ど見ない急激な人口増加に伴い、住宅供給が著しく不足している。そこで、本研究では、首都人口の約半分を占める下級及び中級の中所得層のための住宅問題に焦点をあて、統計資料と現地調査を基に、住宅の取得可能性とその選択肢について考察した。その結果、住宅コスト構成要素の中でも地価の占める割合が著しく、これが彼らの住宅取得を困難にしている現状が明らかになった。そして、こうした状況の中で、住宅規模、積層形態、設備及び仕上げの多様な標準の組み合わせにより、中所得層に適したコストダウンの可能性についての分析も行い、地価の高低に対応した6種の住宅モードにおいて同所得層に適した住宅タイプの選択肢を導いた。すなわち、地価が中間価格帯以下にある立地では、住宅床面積の上限を凡そ37m^2から44m^2として、設備の共有又は占有、仕上げレベルの選択等の組み合わせにより、多くの対象層に健全で多様な都市住居取得の可能性がある事を明らかにした。
著者
渋井 二三男 高橋 三雄 柿岡 明 石井 宏
出版者
日本教育情報学会
雑誌
教育情報研究 (ISSN:09126732)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.49-56, 1995-07-31 (Released:2017-05-31)
参考文献数
5

企業における情報処理教育(本調査では,「OA・情報関連教育」の語を使用)の現状を把握し,企業における情報処理教育の在り方を調査研究することにより,今後の施策形成の一助とすることを目的に実施した.分析の結果,(1)OA・情報関連教育は,73.4%の企業で実施されているが,その目的・内容は,伝統的な「OA教育」の範疇に従うものであり,情報の高度利用を念頭に置いたものとはいえない.(2)取締役・部長クラスに対する教育を実施している企業は少数であるが,今後は,かなりの企業が重視する意向を示している.(3)OA・情報関連教育を実施中の企業では,教育の効果に疑問を呈する意見が強く,非実施企業では実施すべき教育内容が不明確であることを問題視する意見が強い.(4)14項目の知識・能力分野によって(注)「情報リテラシー教育」観を質問した結果,(I)理系-文系軸(II)SE-プログラマー軸,(III)実務家-理論家軸の3つの因子で58.8%まで説明できることが分かった.
著者
櫻井 秀彦 古田 精一
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-12, 2016

Improving patient satisfaction is a goal of many pharmacies in Japan. However, it has been shown that in the case of chronic diseases, the outcomes of medical treatment are not always clearly perceivable, and may not necessarily lead to patient satisfaction. Issues such as reduced medication adherence and unused drugs have been indicated. In this study, we simultaneously measured the degree of patient satisfaction and medication adherence, issues which have been handled separately in previous studies. We then investigated influential factors.A questionnaire survey was conducted on out-patients in pharmacy. Patient satisfaction and medication adherence as well as factors considered to affect these parameters were measured with quantitative scales. Path analysis was performed to examine differences in degrees of influence on satisfaction and medication adherence with multiple group analysis of each patient attribute and disease group.The patient satisfaction level was affected by understanding of effect and medical staff. The adherence scale was most affected by burden followed by understanding of effect. Ultimately, in most cases, no correlation was found between patient satisfaction and adherence, and the contributing causes were found to vary, so improving these various vectors would seem to require respectively differing strategies.
著者
大澤 剛士 細矢 剛 伊藤 元己 神保 宇嗣 山野 博哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.215-220, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1

要旨: 2013 年、生物多様性情報学の世界的な現状と課題をまとめた地球規模生物多様性情報概況(Global Biodiversity Informatics Outlook: GBIO)が公開された。これは地球規模生物多様性概況(Global Biodiversity Outlook: GBO)の生物多様性情報分野版に相当するもので、生物多様性情報学という分野の趨勢を確認し、今後を見据える重要文書である。筆者らGBIF 日本ノードJBIF では、本文書を意訳し、オープンデータライセンス(CC-BY)で公開した。さらに文書の公開に併せて公開ワークショップを実施し、国際的な状況と日本の現況について議論を行った。その結果、生物多様性情報の分野において、国際的な課題と日本の課題の間にはギャップがあることが見えてきた。本稿は、GBIO 翻訳版の公開に併せ、2014 年12 月15 日に開催された第9 回GBIF ワークショップ「21 世紀の生物多様性研究ワークショップ(2014年)「日本と世界の生物多様性情報学の現状と展望」」における議論をもとに、日本における生物多様性情報の現状と課題について論じる。

2 0 0 0 OA 越中史料

出版者
富山県
巻号頁・発行日
vol.巻2, 1909
著者
星野 由雅
出版者
長崎大学
雑誌
教育実践総合センター紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.189-199, 2008-03-20
被引用文献数
1

離島の小学校での理科授業実践として,壱岐市立志原小学校で5年生と6年生を対象としたAB方式の複式授業,「ものが水に溶ける現象」の授業を行った。ものが水に溶ける現象を理解するための粒子概念を形成でき,さらにものが水に溶ける際にはエネルギーの出入りを伴っていることを認識できる計4つの実験を行った。実験1は,市販のアメを水に浸してシュリーレン現象を観測し,"ものが水に溶ける現象"の可視化をねらったもの,実験2は,デンプン水溶液と食塩水にレーザー光を照射して,チンダル現象の観測の有無から溶液中に粒子の存在を認識させるもの,実験3は,ポリビニルアルコール製のビーズを用いて立方体の結晶モデルを作製し,それをエタノール中でばらばらにすることにより,溶液中では粒子がばらばらに存在していることを認識させるもの,実験4は,塩化カルシウムと硝酸カリウムを水に溶かすと熱としてエネルギーの出入りがあることを体感させるものである。これらの実験を行うための準備や用いた資料,授業手順などを述べた。
著者
伊藤 桂 福田 達哉 荒川 良
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-24, 2017-05-25 (Released:2017-06-25)
参考文献数
11

サガミナミハダニはクワクサを主な寄主植物とし,夏から秋にかけて高密度となる.サガミナミハダニがクワクサに適応しているという予測を検証するため,本種における寄主植物の適合性,および野外密度について調査を行い,それらの傾向を普通種のカンザワハダニ(カラムシ寄生)と比較した.葉の質について,サガミナミハダニの食性幅はカンザワハダニより狭く,クワクサでもっとも産卵数と生存率が高かったことから,クワクサに適応している可能性が示唆された.しかし,クワクサ上での産卵数や発育速度はカンザワハダニとは有意差がなかった.一方,野外ではサガミナミハダニとカンザワハダニはそれぞれクワクサとカラムシにしか見られず,サガミナミハダニの葉面積当たり密度はカンザワハダニよりも高かった.この傾向は,クワクサ上では捕食者のケナガカブリダニの密度が低いことと関係している可能性がある.
著者
日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.255-303, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
参考文献数
295
被引用文献数
39

近年,集中治療領域での早期リハビリテーションが注目されているが,わが国の集中治療領域で行われている早期リハビリテーションは経験的に行われていることが多く,その内容や体制は施設により大きな違いがある。早期リハビリテーションへの期待が高まり,今後より高度急性期の病床機能の明確化が進む中で,集中治療領域での早期リハビリテーションの確立や標準化は喫緊の課題である。この度,日本集中治療医学会の早期リハビリテーション検討委員会では,「集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~」を作成した。このエキスパートコンセンサスでは,早期リハビリテーションの定義や早期リハビリテーションの効果,さらには早期リハビリテーションの禁忌や開始基準・中止基準,早期リハビリテーションの体制について解説する。
著者
西田 一彦 西形 達明 玉野 富雄 森本 浩行
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.750, pp.89-98, 2003-12-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

城郭石垣の多くは構築から400年前後経過しており, 崩壊の危機にさらされている箇所が数多く存在している. 城郭石垣の保存のために, 現在の形状を計測し把握するとともに, 城郭石垣構築当時における状態を推定するために石垣構築技術についての記述がある「後藤家文書」,「石垣秘伝之書」および「石墻書」の三つの構築手法を明らかにすることで反り曲線勾配部分について数式化することを試みた. この両者の比較により, 構築当時からの変形状況が把握でき, 現在多くの城郭石垣で問題となっている孕み出しの大きさを算出することが可能となった. さらに, 崩壊の危険性の判断や修復の必要性および修復形状などへの活用が可能となる.