著者
伊藤 賢一
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.193-210, 2005-03-31

本論文はウルリッヒ・ペックのリスク社会論(1986)の可能性を探るものである。最初に、導入として、2001年に日本で起こった「BSEパニック」について描写し、Beckが15年前に提案したリスク社会のあらゆる特徴をこの「パニック」が示していることを指摘している。次に、リスク社会論の土台となっている近代化論のロジックと射程を検討している。本論文はこのことを通じて彼の理論がもつ可能性を提示するものである。リスク社会においては、欠乏ではなくて不安こそが人々の間に連帯を生むというアイディアが基本になっている。
著者
伊藤 毅志
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、5五将棋と呼ばれる小路盤の将棋を題材に知識を直観的に記述できるシステムKIDS (Knowledge Intuitive Description System)を構築した。現在のところ、システムは完成し、実用に足るレベルに到達した。ユーザの直観的知識記述が可能で、ユーザが記述した知識ファイル通りに、自動的に対局できるシステムが構成され、ユーザの期待通りの指し手が生成されることが確認された。電気通信大学において、5五将棋の大会を数回開催し、5五将棋に関心を持つプレーヤーが増え、KIDSをネット上で公開することにより、KIDSを用いた大会も行われた。
著者
中村 政隆 伊藤 元己 川合 慧 佐久間 雅
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

複数の種(taxon)の遺伝子の塩基列もしくはアミノ酸列をデータとして、そこから系統樹(phylogenetic tree)を構築するアルゴリズムは、距離行列法と、与えられたデータのもとでの各二分木のコストを定義してコスト最小の二分木を求める、という2つのタイプに大別できる。距離行列法(Pairwise Distance Method)としては、UPGMA/WPGMA法(実用にはあまり用いられてない)、及び近隣結合法(Neighbour Joining Method, NJ法)などが知られている。それに対して、初期解から局所探索、つまり受刑探索を繰り返して最適器を求めるときの目的関数の取り方として、最小二乗法、最小進化法、最大節約法(Parsimony)、最尤法(Maximum Likelihood Method)などが知られている。一般に組み合わせ最適化の理論では、これらの樹形探索のような局所探索を繰り返すときには、適当なメタヒューリスティックアルゴリズムを使うとより効率的なアルゴリズムが得られることが知られている。実際には、組み合わせ最適化の分野でメタヒューリスティックアルゴリズムの名の下に以下の3つが知られている(1)遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)(2)タブー探索(Tabu Search)(3)進化的アルゴリズムこれらの戦略を系統樹アルゴリズムの樹形探索の部分に適用し、シミュレーションを繰り返してみた結果、タブー探索がもっとも効果的であるという知見を得た。
著者
藤井 博英 宇佐美 覚 牟田 能子 入江 良平 大和田 猛 清水 健史 伊藤 治幸 藤田 あけみ 大山 博史
出版者
日本赤十字秋田看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

我々は、民間信仰の「イタコ」を利用した自死遺族のグリーフワークを促進する要素を明確にすることを研究目的とした。「イタコ」を利用した対象者群と、利用しなかった対象者群の半構造化面接の結果を質的に分析し、それぞれに6つの因子が導出された。「イタコ」を利用した遺族は全てソーシャルサポートを受けておらず、「イタコ」を利用し、語ることによる心の浄化と、故人との内的な対話を通した相互理解や赦しの獲得がグリーフワークの促進要素として見いだされた。
著者
森岡 克司 延近 愛子 亀井 美希 川越 雄介 伊藤 慶明 久保田 賢 深見 公雄
出版者
社団法人日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.420-423, 2005
被引用文献数
2

うどんの物性に及ぼす海洋深層水の影響 (DSW) を検討した.<br>(1) DSW及びDSWの代わりに2.5%食塩水を小麦粉 (麺用中力粉) 1kgに対し, 390ml添加して2種類のうどんを調製し, 物性測定とN-SEM観察を行ったところ, 物性では, DSW添加うどんの方が, 食塩水添加うどんに比べ強度, 伸び共に高い値を示した. N-SEM観察では, 食塩水添加うどんに比べ, DSW添加うどんの組織構が密であった.<br>(2) 2.5%食塩水にDSWに含まれる主要陽イオン (Mg<sup>2+</sup>, Ca<sup>2+</sup>, K<sup>+</sup>) を加えてうどんを調製したところ, Ca<sup>2+</sup>とK<sup>+</sup>をともに加えたうどんで, 強度及び伸びともにDSW添加うどんに匹敵した.<br>以上の結果より, DSWはうどんの微細構造を密にすることにより, 物性の向上に寄与し, その効果は, 海水中に含まれる主要な元素, 特にCa<sup>2+</sup>とK<sup>+</sup>に由来するもの推察した.
著者
伊藤 康一郎
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.74-85, 2006-10-18

リスク社会化と厳罰化という,本来,矛盾する二つの動向が同時に進行する事態が,現在,状況的に先行する英米のみならず,日本においてもまた,出現している.この矛盾する動向の交差は,いかなる理由により生じているのか,また,その交差は,現代社会の犯罪統制を,いかなる方向に変化させようとしているのか.本稿においては,この解明のために,まず,(1)リスク社会化と厳罰化の交差における矛盾を摘示し,(2)両者の交差において,特に厳罰化の理由としてあげられる「ポピュリズム」の出現と,対抗する「プロフェッショナリズム」の関係を位置付け,(3)その交差の根底にある,法的な統制,規律的な統制,保険数理的な統制という犯罪統制の三種の型の,現時点における競合と接合の複層的な展開を解析し,(4)結果として,そこに生みだされる可能性としての,排除社会の到来に対して,いかなる手立てを取りうるのかを検討する.その解明においては,以上の論点をめぐる,英米の犯罪学の先行的な論議を整理し,実践への方向を見いだしてゆくことが中心となるが,その作業を通し,今後,日本においても可能性として生じうる,排除社会の到来に抵抗する,論議の素材を提供したい.
著者
伊藤 伸泰 尾関 之康 野々村 禎彦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.336-347, 1999-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
47

非平衡状態から熱平衡状態への緩和の様子から系の熱力学的性質を解析する方法が提唱され, さまざまな問題へと応用が広がっている. 簡便かつ効率的で信頼性も高い「非平衡緩和法」と呼ばれるこの方法の特徴と実例とを計算物理の視点から紹介する.
著者
丹羽 政美 安藤 秀人 平松 達 深澤 基 伊藤 栄里子 安藤 俊郎 渡邉 常夫 藤本 正夫 小出 卓也 岡野 学
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.143, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに>前立腺癌は日本人の高齢化と食生活の欧米化に伴い、日本でも増加傾向にある疾患である。前立腺疾患の診断においてはprostate specific antigen(PSA)、直腸診、経直腸的超音波断層法、MRI、針生検などが中心になっているが、生検が簡便に施行できるため画像診断よりも生検が優先される傾向にあった。しかし、従来の生検のsensitivityは50%前後という報告や最近のMRI診断法の進歩によって前立腺の内部構造が明瞭に描出されるようになり生検で前立腺癌と確定した症例の臨床病期診断のみならず、生検前の癌病変の検出においても非常に有用であることがわかってきた。生検前にMRI検査を行って癌部が検出もしくは疑いができれば系統的生検と標的生検を同時に実施することができ、診断能の向上が期待できる。以前勤務した西美濃厚生病院や当院でも前立腺癌を疑った場合、生検前にMRI検査を行うことをルーチン化し、生検の診断能の向上を目指して担当技師が画像についてコメントを記載している。 今回、東濃厚生病院と西美濃厚生病院で昨年度一年間に生検前にMRI検査を施行した症例について生検結果と比較検討した。また拡散強調画像が可能であった症例についてADC(apparent diffusion coefficient)値を測定したので報告する。<方法>東濃厚生病院と西美濃厚生病院で昨年度一年間に生検前にMRI検査を施行し標的生検が可能であった91例について生検診断をゴールドスタンダードとして年齢、PSA値、MRI診断について検討した。撮影装置は1.5T(PhilipsおよびGE社製)装置でphased array coilを用いて撮像した。撮像法はT1強調画像、T2強調画像、Gdダイナミック画像で検討した。(可能であった24症例についてはADC値も検討した。)<結果>生検前にMRIが施行された91症例中37症例に生検によって前立腺癌が認められた。癌の平均年齢は72.5歳でPSA値の平均値は46.5ng/mlであった。PSA値を年代群別に癌とBPHを比較検討すると年代群が高くなるにつれて高値になる傾向がみられたが年代群別では有意差はみられなかった。しかし、癌とBPHでは各群で有意差を認めた。生検結果を基準にみたMRIの正診率は84%、感度96%、特異度76%、陽性的中率73%、陰性的中率95%と高い診断能が得られた。また拡散強調画像が可能であった前立腺癌部のADC値は平均0.97×10-3mm2/sec、正常部のADC値は1.57×10-3mm2/secであった。<考察>前立腺は生検後の出血によって前立腺の信号強度は修飾され、しかもその影響が長く続くことが知られている。これらの信号変化は読影の妨げになるだけでなく、偽病変の原因となり病変の検出能をも低下させる。そのためMRIは生検前に撮像することが推奨されるが、今回の検討でかなり精度の高い診断が可能であることが認められた。また、Gdダイナミック撮像やADC値を測定することにより、より精度が増すと考えられる。さらにMRIは検出能だけでなく皮膜外浸潤や隣接臓器浸潤などの検出も可能で治療法を選択するためにも必要不可欠な検査であると考えられた。ただし、MRIで強く前立腺癌が疑われたにもかかわらず生検でBPHと診断された症例があることやMRIで癌と良性病変との鑑別が困難な場合もあったことより十分に経過観察し今後の検討課題としたい。
著者
酒井 えりか 伊藤 彰教 伊藤 貴之
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 映像表現&コンピュータグラフィックス (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.189-192, 2021 (Released:2021-07-07)
参考文献数
7

毎年たくさんのアニメやゲームが制作され,数多くのキャラクタが生み出される.その声を担当する声優のキャスティングは,キャラクタの印象を決定づける重要な要因となる.本報告では,キャラクタと声質の関 係について分析する諸手法を提案する.セリフから得られた音響特徴量と印象値の関係を学習させる.この学習結 果を活用することで,新しいキャラクタに関する任意の印象値を与えることで適切な音響特徴量を推定できる.こ の音響特徴量の推定結果をカバーできると思われる声優を選出し,声優候補リストとして生成する.一方で,ゲー ム作品に関するウェブ上の文書から自然言語処理を用いてキャラクタ間の距離を算出し,可視化する.これらを用 いることで本研究では,声優候補リストとキャラクタ間距離から声優をキャスティングするシステムの開発を目指 す.このシステムは例えば,声優をゲームキャラクタに割り当てる際の議論に有用であると考えられる.
著者
伊藤 白
出版者
日本独文学会
雑誌
ドイツ文学 (ISSN:24331511)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.60-76, 2018 (Released:2020-03-15)

Lange diskutierten Kritiker von Bernhard Schlinks Weltbestseller Der Vorleser (1995), inwieweit der Autor in diesem Roman eine revisionistische Vision verfolge: Als Höhepunkt des Romans stellt die Protagonistin Hanna Schmitz, in die sich der Protagonist Michael Berg als Schüler verliebte und die er später im Gerichtssaal als Analphabetin und frühere SS-Aufseherin eines Konzentrationslagers bei Krakau wiedersieht, an den Richter die Frage: „Was hätten Sie denn gemacht?“ Manche Kritiker deuteten den Roman als revisionistisch, da er betone, dass Hanna keine andere Wahl hatte, als in die SS einzutreten, und dass sie nicht Täterin, sondern eher Opfer sei. Auch glaubte man, die Behauptung des Autors aufgedeckt zu haben, dass die Hauptfigur Michael Berg auch Opfer sei, der durch seine Liebe zu Hanna in die Vergangenheitsschuld verstrickt wurde. Dagegen wurde vor der einfachen Identifizierung der Meinung des Autors mit der des Protagonisten gewarnt. Jedenfalls sind viele Fragen im Roman offen geblieben. Zur weiteren Verdeutlichung der Einstellung des Autors, der auch Jurist und Professor für Öffentliches Recht ist, geht es darum, nicht nur seine belletristischen Werke, sondern auch seine juristischen Aufsätze und Essays zu lesen. In seinem Buch Vergangenheitsschuld und gegenwärtiges Recht (2002) kritisiert Schlink wiederholt die Radbruchsche Formel, nach der das Recht im Dritten Reich, das die Gerechtigkeit nicht einmal erstrebt und die Gleichheit, den Kern der Gerechtigkeit, verleugnet habe, überhaupt der Rechtsnatur entbehre, weil sie den Gerichten der Bundesrepublik Deutschland ermöglicht habe, die Taten im Dritten Reich rückwirkend zu verurteilen. Auch erhebt er einen Einwand gegen die nach einer heftigen Diskussion 1979 beschlossene Aufhebung der Verjährungsfrist bei Mord in der Bundesrepublik Deutschland. „Nulla poena, nullum crimen sine lege“ sei das rechtsstaatliche Proprium des Strafrechts, wenn auch bei NS-Verbrechen 6,000,000 Menschen umgebracht worden sind. Damit wird seine juristische Überzeugung deutlich, dass keine Taten im Dritten Reich nachträglich verurteilt werden sollten, ganz zu schweigen von den Taten Hannas, die nur Befehlen gefolgt habe. In diesem Buch geht er sogar so weit, zu behaupten, dass die Opfer, die Juden, für die NS-Verbrechen selbst verantwortlich wären, da sie, nach Schlink, Widerstand und Widerspruch nicht geleistet hätten. Das ist aber falsch, da es in der NS-Zeit tatsächlich viele Fälle jüdischen Widerstandes gab, und Schlinks Äußerung übersieht, dass sich die Juden damals in einer völlig hilflosen Situation befanden. Zwar sind Beispiele der jüdischen Beihilfe zu Verbrechen bekannt, aber Schlink verallgemeinert dies. Dagegen sind für Schlink die Deutschen seiner Generation Opfer, da sie wegen der Beziehung zur Elterngeneration unter Identitätsproblem gelitten hätten. Wer sind dafür die Schuldigen? Für Schlink sind es Kritiker der NS-Verbrechen einschließlich Juden, die, wie in der Erzählung „Die Beschneidung“ (2000), die Vergangenheitsschuld der Deutschen erwähnen und die Deutschen attackieren. Thematisierung der Vergangenheitsschuld ist für Schlink schon eine Belästigung. (View PDF for the rest of the abstract.)
著者
石井 容子 伊藤 奈央 松村 優子 横山 孝子 青山 真帆 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.283-291, 2023 (Released:2023-12-27)
参考文献数
16

【目的】緩和ケアの包括的な評価尺度であるIntegrated Palliative care Outcome Scale(IPOS)の非がん患者への適用を検討する.【方法】非がん患者と患者をケアする医療者, 各20名にIPOSの調査票へ回答してもらい,その調査票に対するコグニティブインタビューを行った.インタビュー内容は,質的分析手法である内容分析を用いて分析した.【結果】患者・医療者ともに約半数から9割がIPOSの全17項目に対して答えづらさやわかりにくさを感じなかったと回答し,表面的妥当性が確認された.また,分析結果を専門家で検討し,IPOSの内容的妥当性が確認され,非がん患者に特徴的なIPOSの項目も明らかになった.【結論】非がん患者に対するIPOSの表面的・内容的妥当性が確認され,IPOSは非がん患者の緩和ケアの包括的な評価ツールとして活用できることが明らかになった.
著者
平山 健太郎 伊藤 克亘
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2012-MUS-94, no.16, pp.1-6, 2012-01-27

近年の日本のポピュラー音楽では,一つの声区のみで歌えないような高い音域を含む楽曲が数多く存在する.実際に一つの声区のみで歌おうとすると声が枯れてしまうという結果が多い.このような状況はしばしばカラオケで見受けられる.従来より,歌唱力の自動評価は様々な手法で行われてきたが,高音域の発声における発声状態の評価を行っているものは少ない.本研究では,基本周波数成分やフォルマント,倍音構造,残差スペクトルなどの特徴量から声区と発声状態のトレーニングデータを35次元で作成し,自動でユーザの音声データから高音域の発声評価を行うシステムを構築した.歌唱音声に対する音符単位の識別率は 93.18% であった.
著者
伊藤 元己
出版者
Japanese Society for Plant Systematics
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1-3, pp.82-96, 1986-09-30 (Released:2017-09-25)

ハス属はアジア産のハスと北アメリカ産のキバナバスの2種から成っている。本属は、広義のスイレン科に含めて分類されてきたが、近年では以下にあげる形質が他のスイレン科の植物と異なるために単系のハス科として独立させる研究者が多くなっている。1)種子に胚珠および周乳を持たない。2)実生の第一葉が針状葉にならず明らかな葉身を持つ。3)三孔乳の花粉を持つ。本研究ではハス属とスイレン科の他の属との系統関係を明らかにし、これらの植物群のより自然な分類体系を確立することを目的としてハスの花の内部形態の観察を行なった。ハスの維管束は茎、葉柄、花柄などでは1つの同心円状に配列しておらず、しばしば不斉中心柱と記載される。しかしながら、花柄において詳しく観察を行ってみるとこれらの維管束はある一定の配列をしていることがわかる。(Fig. 1参照)。これらの維管束の中で、中心部に位置する6〜10この維管束は同心円上に配列しており花床においては典型的な真性中心柱を形成することになる。また、他の維管束は花床の下部において配列、形態が変化し皮層走条となる。花柄では個々の維管束は木部に1〜3個の直径の大きな仮道管を持つ。しかしながら、これらの仮道管は花床にはいるに従って、より直径の小さな仮導管に置きかわる。(Fig. 2)。花の維管束走向は2つの系からなる。1つは中心部に同心円上に配列する中心維管束系(central vascular system)であり、他方は皮層維管束系(cortical vascular system)である。これらの2つの維管束系は互いに独立している。各々のがく片、花弁には中心維管束系から一本、皮層維管束系から数本の維管束が供給される。雄ずい、子房へは中心維管束系のみから供給される(Fig. 6)。ハスとスイレン科の各属の花の内部形態を比較すると以下の点で異なっている。1)花柄の維管束はスイレン科の植物が持つ原生木部間隙を持たず、かわりに直径の大きな仮道管がある。2)スイレン科でみられる花床の維管束複合体(receptacular plexus)がない。3)皮膚走条がある。これらの点と始めにあげた差異を考慮すると、ハス属はスイレン科から独立させ、ハス科とするのが適当と考えられる。また、皮膚走条がある点、雄ずいへの維管束の入り方などの点ではモクレン科と共通したところがみられるので、ハス科の系統関係についてはこれからの植物群を含めて更に研究を進めていく必要がある。
著者
松薗 美帆 伊藤 泰信
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会第70回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.240, 2023 (Released:2023-12-13)

ここ最近、人類学者とデザイナーがともに協働する形が模索され、デザイン人類学という分野が確立されつつある。今後人類学がデザインにさらに歩み寄り、協働を深めるためには、フィールドで得た洞察をこぼれ落とすことなく、多種多様なステークホルダーにいかに伝えるかは大きなチャレンジとなるだろう。 本稿では株式会社メルペイのクレジットカード「メルカード」の新規立ち上げプロジェクトを事例に、デザインコンセプト創出のためのワークショップにおいて人類学的な視点である「異質馴化」(making the strange familiar)と「馴質異化」(making the familiar strange)を取り入れた実践について述べる。本事例ではプロジェクトメンバー自身の語りを引き出し「馴質異化」の視点を取り入れたのが新しい試みであり、これによってプロジェクトメンバー自身と顧客の対照的な立ち位置に改めて気づき、デザインコンセプトを軸として表現することにつながった。