著者
渡辺 浩司 伊達 立晶 田之頭 一知 森谷 宇一 戸高 和弘 菊池 あずさ 石黒 義昭 萩原 康一郎 吉田 俊一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

キケロ、クインティリアヌスといった古代ローマの弁論家は、弁論術の学的な根拠を追求するわけではなく、学的な根拠は古代ギリシアのアリストテレスによって作られた弁論術を継承している。18世紀になると弁論術の学的な根拠はバウムガルテンによって書きかえられた。現代におけるレトリック復興は、古代の弁論術を継承するものではなく、古代の弁論術への誤解と「認識がレトリカルだ」とする現代の考え方とによる。
著者
岩田 貴樹 吉田 圭佑 深畑 幸俊
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.128, no.5, pp.797-811, 2019-10-25 (Released:2019-11-15)
参考文献数
49
被引用文献数
10

In order to understand crustal dynamics, including the occurrence of earthquakes and the development of mountain ranges, it is important to estimate the stress state in the Earth's crust from observed data. This paper reviews stress tensor inversion techniques using seismological data. The techniques were originally applied to a dataset of slip orientations taken from focal mechanisms. Subsequently, other techniques, which use P wave first-motion polarities or centroid moment tensor (CMT) solutions, were developed. This paper clarifies the principles and basic hypotheses, on which each technique is built. In the techniques using focal mechanisms and P wave first-motion data, the Wallace–Bott hypothesis that a fault slips in the direction of maximum resolved shear stress plays the principal role; basically, we search for a stress state that satisfies observed data on the basis of the Wallace–Bott hypothesis. On the other hand, the stress inversion technique using CMT data is not based on the Wallace–Bott hypothesis; instead, it is assumed that stress released by earthquakes is proportional to the stress tensor in the region surrounding the hypocenter. The characteristics and advantages of these techniques are also compared from physical and pragmatic viewpoints. It would be valuable to further improve these techniques, as well as to compare their performance using synthetic and actual data to clarify the differences and advantages of their characteristics in more detail.
著者
吉田 安規良 上地 飛夢 吉田 はるか
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.53-58, 2019

<p>透視天球儀にどのようなウェアラブルカメラを組み込むと,天球儀を外から観察しながら,想像に頼ることなく天球儀の内側からの様子も観察できる教具として利用可能なのかを判別するために,Wi-Fi接続により遠隔操作可能なウェアラブルカメラによる透視天球儀内部からの映像の差を確認した.総じてカタログスペック上の画角が大きいものほど実際に確認できる映像の視野が広く,対角画角が185°以上となっているような,できる限り広角で撮影できるウェアラブルカメラが望ましいことが分かった.ただしカタログスペックが同じであっても,得られる画像の視野の広さが同じとは限らないため,実際に得られる画像や透視天球儀への取り付け方法を確認する必要がある.画角が狭い安価なウェアラブルカメラに安価な広角レンズを取り付けるというような簡単に思いつく工夫では視野の狭さは改善しなかった.実際に使用する際には白飛びを防ぐため,照明をつけなくても天球儀上の文字が読める程度の明るさの部屋で使用し,窓の外の明るさが画像に影響しないようにする必要がある.</p>
著者
吉田 裕久 Hirohisa Yoshida
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大學紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.47, pp.181-191, 2019

『まことさんはなこさん』・『いなかのいちにち』・『いさむさんのうち』(1949年、写真1)は、戦後初期における入門期国語教科書として編纂された。GHQ/CIE係官として着任したヤイディ(Jeidy)及びストリックランド(Strickland)は、その中身(内容・表現)について厳しく検閲した。内容としては連続性のある読み物(ストーリーメソッド)に、また表現については語彙の提出を少数にすることを求めた。文部省は、これらの指示に基づいて、入門期国語教科書を大改訂した。こうしてできあがった3冊の入門期国語教科書の編纂方法は、これに続く検定国語教科書の編纂方法に大きな影響を与えた。これら入門期国語教科書の編纂は、母語学習の国語教科書編纂に外国の検閲(指導)を受けたという点で、国語教科書史上まさに画期的なできごとであった。
著者
中村 哲也 慶野 征[ジ] 吉田 昌之 Tetsuya Nakamura Keino Seiji Yoshida Masayuki
巻号頁・発行日
vol.3, pp.47-67, 2005-03-31

本稿は、果実の地域需要が如何に変化し、如何なる要因によって地域間格差が存在したのかを、地方及び都道府県の側面から、需要関数を推定することによって明らかにした。分析の結果を要約すると以下の通りである。(1)3大地域別データに基づく需要分析では、1973年のオイルショック後、1988年の貿易自由化・バブル崩壊後、国内需要に変化が見られたが、前者の変化の方が大きかった。(2)都道府県別データに基づく需要分析では、果実需要の減退を表す変数を導入し推定したが、国内外産を問わず、主要5 果実の需要は大きく減退した。各果実の価格弾力性は、みかんでは産地において非弾力的であるが、りんご、なし、すいかでは産地でも弾力的であった。また、みかん、バナナは全国的に平準化した需要形態をとるが、りんご、なし、すいかなどは、地域特化した需要形態をとり、現在でも地域間格差が大きい。
著者
安本 教傳 岩見 公和 吉田 宗弘 満田 久輝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.29, no.9, pp.511-515, 1977-04-10 (Released:2009-11-16)
参考文献数
18
被引用文献数
7 13

種々の食品のセレン含量を, 比色法また螢光法で測定した。魚, その他の海産物, およびニンニク中に著量のセレンが検出された。しかし, 問題となるほど過剰にセレンを含んだものはなかった。さらに, 将来の食糧源としての微生物菌体, 藻類中のセレン含量を測定したが, 全般に低い値であった。今回の分析結果, ならびに分析値および食糧需給調査資料をもとにして, 日本人が1人あたり1日に摂取するセレン量を求めたところ207.7μgであった。この摂取量はカナダ人, アメリカ人とほぼ等しく, 各国とも同等のセレン栄養の状態にあると推察された。
著者
吉田 美穂
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.47-67, 2005-11-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

The purpose of this study is to clarify the internal structure and dynamism of teachers' culture and its interactions with the outside world, by analyzing a survey of teachers' attitudes towards teaching evaluations by students, carried out for all public high school teachers in Kochi Prefecture in 2004.Previous studies in the field of educational sociology have pointed out the following properties of teachers as a group, which demonstrate an introverted and pro-status quo nature: exclusiveness, conservatism, nonintervention, and the prioritization of harmony with colleagues. On the other hand, some recent studies in the field of educational administration argue that collaboration between teachers can contribute to the improvement of schools. However these various properties are only described independently, and there has not been sufficient clarification of the relations among them within the reality of teachers as a group. For example, what is the relationship between collaboration and placing priority on harmony? Recent policies for educational reform have aimed at changing the conservative culture of teachers. Unless we have an adequate understanding of the internal structure and dynamism of teachers' culture, however, we cannot decide which strategy is better. There is a need to clarify its internal structure and dynamism.To elucidate the problem mentioned above, firstly, this paper presents the results of an attitude survey conducted by questionnaire targeting all teachers in public high schools in Kochi prefecture. The reason I chose Kochi is that it is one of Japan's most advanced prefectures in the area of teaching evaluations by students, which have been introduced during the past several years in Japan. Secondly, from these surveys, I extract six factors of school organizational culture by factors analysis, and search for causal relationships between these factors and teachers' attitudes towards teaching evaluation by multivariate analysis. Thirdly, based on these findings, I discuss the internal structure of teachers' culture.The paper reaches the following conclusions:(1) The organizational culture of a school has a greater effect on each teacher's awareness or attitudes toward educational reforms than their individual attributes.(2) Collaboration by teachers' groups needs to be divided into two properties: democratic collaboration and collaboration for improvement.(3)Democratic collaboration is the basis for collaboration for improvement, which make it possible for teachers to transform themselves; on the other hand, there is some possibility of it leading to exclusiveness, conservatism and nonintervention.(4) In order to foster collaboration for improvement on the basis of democratic collaboration, there is a need to escape from nonintervention through the building of friendly relationships and promotion of the redundancy of information, and to avoid conservatism and exclusiveness by the achievement of open management with adequate communications between administrators and ordinary teachers.(5)The properties of teachers as a group that have been mentioned in the past, such as exclusiveness, conservatism and nonintervention, should be understood within a variety of dimensions, based on the factors of organizational culture mentioned above, and on this basis, different appropriate strategies should be devised for solutions.
著者
山内 和也 山藤 正敏 吉田 豊 城倉 正祥 櫛原 功一 久米 正吾 中村 俊夫 増渕 麻里耶
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、シルクロードの交易拠点都市の成立と展開の実態を明らかにすることである。そのために、中央アジアのキルギス共和国北部に位置するアク・ベシム(スイヤブ)遺跡において発掘調査を実施し、考古学的な研究を行った。発掘調査によって都市のプランや構造を明らかにするとともに、周辺地域の調査によって、都市の成立と繁栄に不可欠な水利システムの存在を解明することができた。こうした成果によって、シルクロード沿いの拠点となる交易都市の成立と展開、そして同都市が位置する地域の発展過程について考察することができた。
著者
岩下 篤司 小西 有人 吉田 正樹
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.183-187, 2013 (Released:2013-06-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2

〔目的〕ペダリングとトレッドミル歩行,スクワット時の下肢筋活動量を比較検討することとした.〔対象〕健常成人9名とした.〔方法〕筋電図を用い,仕事率60 Wと120 Wでのペダリング,4 km/hと6 km/hでのトレッドミル歩行,60回/分でのスクワットの動作における筋活動量を計測した.〔結果〕歩行時と比較した筋活動量を見ると,大腿四頭筋ではスクワットとペダリング(120 W)で,腓腹筋は歩行(6 km/h)で,ハムストリングスは歩行(6 km/h)とペダリング(120 W)で,前脛骨筋は歩行(6 km/h)やスクワット動作でそれぞれ高値を示した.〔結語〕大腿筋群の強化にはペダリングとスクワットがよく,またペダリングとスクワットでは腓腹筋が,ペダリングでは前脛骨筋が歩行よりも筋活動が少なく訓練効果が少ない.
著者
稲垣 大輔 長谷川 慎一 吉田 達也 大佛 智彦 米山 克也 笠原 彰夫 山本 裕司
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.141-147, 2010-02-01 (Released:2011-12-27)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

はじめに:高齢者大腸癌症例の術後合併症のリスク因子を検討して,手術リスク評価法であるEstimation of Physiologic Ability and Surgical Stress(以下,E-PASS)の高齢者大腸癌に対する有用性の評価を行う.方法:2002年から2007年まで,当院において原発巣を切除した大腸癌の75歳以上82症例の臨床病理組織学的因子と術後合併症を検討した.E-PASSの術前リスクスコア(PRS),手術侵襲スコア(SSS),総合リスクスコア(CRS)を算出し,術後合併症とE-PASSとの関連を検討した.結果:術後合併症は36症例(43.9%)に発生した.合併症非発生群(A群)と発生群(B群)に分類した.PRS, SSS, CRSはすべてB群において有意に高値で,またB群にはCRS 0.5以上の症例が有意に多かった.腸管穿孔,低栄養,PS 2または3, ASA分類3または4の症例はB群に有意に多く認めた.多変量解析の結果,CRS 0.5以上が術後合併症発生に関する独立したリスク因子として選択された.考察:E-PASSは高齢者大腸癌症例に対するリスク評価法として有用であると考えられた.
著者
吉田 文武
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.31, no.350, pp.1053-1060, 1982-11-15 (Released:2009-06-03)
参考文献数
14
著者
平井 達也 吉田 大輔 島田 裕之
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.177-181, 2017 (Released:2017-05-02)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

〔目的〕本研究の目的は,高齢入院患者におけるサルコペニアの実態調査,サルコペニアと栄養,ADL能力および認知機能との関連を検討することである.〔対象と方法〕高齢入院患者60名(82.8 ± 7.5歳)を対象とし,SMI値からサルコペニア有症群と非有症群を分類した.調査項目は疾患名,入院病棟,入院期間,入院時血液生化学的検査,入院時ならびに調査時(2013年12月)FIM,MMSEとした.〔結果〕サルコペニア有症率の男女差はなく,病棟型別,疾患別の比較では有意差があった.ロジスティック回帰分析では入院時FIMが有意な変数であった.〔結語〕歩行が自立していない高齢入院患者のサルコペニアは入院時のADL能力と関連することが示唆される.
著者
小川 基彦 萩原 敏且 岸本 寿男 志賀 定祠 吉田 芳哉 古屋 由美子 海保 郁夫 伊藤 忠彦 根本 治育 山本 徳栄 益川 邦彦
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.353-358, 2001-05-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

ツツガムシ病の全国の発生状況について, 1998年に実施した調査票をもとに解析を行った. 1998年の患者は416人で, 24の都道府県で発生し, 過去3年間とほぼ同数であった. 患者には性差は認められず, 51歳以上の割合が723%と高かった. また, 患者の32.0%および1a5%が農作業および森林作業に従事しており, 高い割合を占めた. 患者の発生は, 九州地方で全体の56.2%を占め, 続いて関東地方の20.7%, 東北・北陸地方の19.0%となり, これらの地方だけで全国の959%の発生があった.また, 月別にみると, 東北, 北陸地方では4~6月と10~12月の両方に発生がみられ, 九州, 関東などそれ以外の地域では10~12月に発生が多くみられ, 地方ごとの流行時期が示された. さらに, 九州地方における流行株を患者血清の抗体価から推測した結果, 新しい血清型のKawasaki, Kuroki株がこの順に多く大部分を占め, 地域差は認められなかった. また, この地方では標準株 (Kato, Karp, Gilliam株) ではなく, 新しい血清型を使用しないと診断できない患者が24人認められた. この結果から, 他の地域でも流行株の調査および診断に使用する株を検討する必要が示唆された. 今回初めてツツガムシ病のわが国における全体像が明らかになり, 今後の発生予測, 適切な診断と治療および予防を行うにあたり極めて重要な情報が得られた.
著者
中舘 和彦 本島 健人 鎌田 純人 吉田 哲朗 疋田 真彬 若松 永憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.134, no.7, pp.829-838, 2014-07-01 (Released:2014-07-01)
参考文献数
24
被引用文献数
3 7

Type 2 diabetes caused by chronic obesity is a major lifestyle-related disease. The present study aimed to determine the pathological changes in hepatocytes in chronic obesity. To develop our type 2 diabetes mouse model, we induced chronic obesity to mice by monosodium glutamate. By overeating, the mice significantly increased their body weight compared with age-matched healthy animals. To analyze the pathological changes in hepatocytes of chronic obesity before preclinical stage of type 2 diabetes, the mice were analyzed by hematoxylin-eosin staining of tissue sections at 15 w of age. In these mice, we observed eosin-negative accumulations of hepatocytes around central veins in the hepatic lobule. By Oil-Red O staining, the eosin-negative granules were identified in the lipid droplets. We then ascertained whether these lipid droplets of hepatocytes in the obese mice could be modified by diet. After 24 h of diet restriction, the lipid droplets of hepatocytes in the obese mice were swollen. Furthermore, after 48 h of the diet restriction, the lipid droplets continued swelling and the autophagy-like structures that were found in the healthy mice under the same condition in the obese mice were not observed. These results suggest that the obese mice might have delayed energy metabolism, which might have influenced the mechanisms of hepatocytes. These findings provide new insight into the functional changes in chronic obesity-induced type 2 diabetes and it is possible that the pathological feature make a contribution to promise the target of pharmacological therapy.
著者
渡辺 宏久 陸 雄一 中村 友彦 原 一洋 伊藤 瑞規 平山 正昭 吉田 眞理 勝野 雅央 祖父江 元
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.457-464, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
69
被引用文献数
4 8

多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)は進行性の神経変性疾患で,パーキンソニズム,小脳失調,自律神経不全,錐体路徴候を経過中に種々の程度で認める.孤発性が圧倒的に多いが,主として常染色体劣性を示す家系も報告されている.パーキンソニズムが優位な臨床病型はMSA-P(multiple system atrophy, parkinsonian variant),小脳失調が優位な臨床病型はMSA-C(multiple system atrophy, cerebellar variant)と呼ばれ,欧米ではMSA-Pが多く,日本ではMSA-Cが多い.平均発症年令は55~60歳,予後は6年から10年で,15年以上生存する症例もある.早期から高度に出現する自律神経不全は重要な予後不良因子の一つである.発症時には,運動症状もしくは自律神経不全のいずれか一方のみを有する症例が多く,いずれの症状も出現するまでの期間の中央値は自験例では2年である.現在広く用いられている診断基準は,運動症状と自律神経不全をともに認めることが必須であるため,運動症状もしくは自律神経不全のみを呈している段階では診断が出来ない.しかし,自律神経不全のみを呈する段階で突然死する症例もあることを念頭に置く必要がある.MSAに伴う自律神経不全の特徴の理解と病態に基づいた責任病巣の特定は,早期診断に有用な情報をもたらすと考えられる.従来は稀とされてきた認知症もMSAにおける重要な問題である.前頭葉機能低下はMSAでしばしば認め,MRIやCTにて進行とともに前頭側頭葉を中心とする大脳萎縮も明らかとなる.最近では,前頭側頭型認知症の病型を示す症例も報告されている.MSAの病態と症候の広がりを踏まえた,早期診断方法開発は,病態抑止治療展開の上でも極めて重要である.