著者
川島 哲哉 杉本 俊彦 小川 俊夫
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.835-841, 2000-11-05
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

高温高湿環境下でニトリルゴム(NBR)/エポキシ樹脂系接着剤の加速寿命試験を行い, 接着剤の劣化について検討した. その結果, 接着剤のガラス転移温度(T_g)の低下や透過型電子顕微鏡(TEM)観察下におけるNBRへのオスミウム酸の染色能の低下が認められ, 接着剤の劣化はミクロ相分離構造を形成しているNBRの劣化に起因することが判明した. NBRの劣化としては主に酸化反応による炭素-炭素二重結合部の切断であるが, そのほかにニトリル基やNBR中に変性されたアクリル酸とエポキシ基との反応でできたエステル基の減少も確認された. また, NBR中の酸化防止剤が接着剤の硬化を目的とする加熱処理過程で気化してしまうことにより, この劣化は更に加速されていることが分かった.
著者
小川 禎一郎 中島 慶治 渡辺 秀夫 井上 高教
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

高感度でかつ情報量の多い機器分析装置を開発することは、現代分析化学の最重要課題の一つである。本申請課題は、分子が非対称的に配向している系にレーザーを照射すると、波長が入射光の半分の2倍波が発生する現象をもとに、固体・液体表面や界面の分子やそれらに吸着した分子の構造と配向を決定し、さらにその定量化を行うための高感度な機器を試作することを研究目的とし実施した。補助金により照射するレーザー光の角度や偏光を精密制御するためゴニオメーターと試料の位置を正確に微動するための精密ステージを購入し、新しい光学系を組み立てた。試料表面へのレーザーの入射角を自由にかつ連続的に変えることができ、表面分子からの2倍波の強度のレーザー入射角度依存性を測定できるようになった。これにより分子の表面に対する配向角度をより精密に(近似を行うことなく)決定できるようになった。また、入射角に対する強度依存性から、分析の目的のための最適角度を決定できるようになった。補助金により直流高電圧安定化電源を購入し、レーザー2光子イオン化装置の高感度化を計った。より高い電圧を印可することにより、飛び出した電子の捕集効率が高ま理、より高感度な分析が可能となった。これらの装置を活用して高感度分析を行い、次のような検出下限を得た。レーザー2光子イオン化法……水溶液表面のピレン……0.2fmol金属板表面のBBQ……0.1pmolレーザー2倍波発生法……ガラス表面上のDEOC……0.2pmolこれらの値はいずれも従来法より大きく優れたもので、研究の目的はほぼ達成した。
著者
山下 宏明 小川 正廣 神澤 榮三
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

前年度の成果を踏まえ、研究分担者各自の専攻領域の研究を改めて問いなおすことを課題とした。すなわち、山下は、改めて平家物語を内在的に規定している‘語り'の問題を物語と音曲の両面にわたって検討し、説話文学との差異を明らかにし、語り行為論的観点からする平家物語論に対して評価を加えた。音曲面については東京芸術大学を場とする共同研究グループとの音楽的成果を生かしたり、語り行為論的側面については、これも芸大での共同研究者の一人である兵藤裕己氏による肥後に伝わる座頭琵琶の語りの実情からする成果をめぐって、平家物語を口誦詩的観点のみに限定して論じきれないことを論じた。神澤はローランの歌との比較から口誦詩論的に平家物語を論じ、その成果を國文学者たちが企画した“あなたが読む平家物語"の1冊『芸能としての平曲』に求められて執筆、近く東京都内の出版書肆から刊行の予定である。なお山下の成果も、その企画の1冊『平家物語の受容』におさめ、すでに刊行ずみである。フランスの口誦詩との比較研究については先例もあるが、外国文学研究者が平家物語に即して検証したのは、佐藤輝夫氏以来の成果であろう。小川については専攻のギリシャ古典の関する学位論文の出版に従事し、その作業を進めるうえで本研究の成果を踏まえた。ギリシャの口誦詩は、世界のいわゆる叙事詩の原型をなすもので、平家物語を口誦詩論的に検討するうえでも有効なモデルであることを改めて確認した。
著者
小川 陽一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

日本国内に現存する日用類書の調査を行ない、当該研究に役立ちそうな日用類書を中心に、写真版等による収集を行った。それらの収集資料によって、日用類書そのものの内容・性格の調査・分析を行った。その結果、これらの明代日用類書が、明代社会における広範な皆層の人びとの日常生活の具体的な面を、即物的に反映しているものであるが知られた。これらをふまえて、明清小説-『金瓶梅』『酲世姻縁伝』『紅桜夢』などに描かれた日常生活の場面の現解や解釈を深めることができた。その結果、これらの小説が深く広く明清の人々の日常生活に立脚して成立していることが窺われるに至った。このようにとらえると、明清小説が日常生活を反映した今日的小説のイメ-ジを与えるが、実際には、因果応報や輪廻転生の物語構造や占メの充満が見られて、かなり特異である。小説のこのような状況もまた日用類書に具体的かつ濃厚に見られるもので、その点でも両者は共通した性格を示す。このことによって、明代・清初の人々の生活内容、現実の質が推測され、今日とはかなり異質であったことが知られる。明清小説はそのような社会に密着したという意味では「日常的」「現実的」なのだが、今日的小説とはかなり異質であると把握すべきであろう-という見通しをもつに至った。
著者
小川 陽一 山口 謡司 勝山 稔
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国では宋時代以後、とくに明・清時代には、民間で商業出版が流行した。私の調査では、その民間の商業出版で、著者への原稿料はどうであったか、版権はどうであったか、本の価格はどうであったか、書店はどのようにして本を仕入れたか、書店はどのようにして本を売ったか、書店はどのようにして経営されたか、書店の景観(店の様子)はどうであったか、などについて調査した。これらに関するデータは非常に少なくて、調査は困難だった。しかし小説や戯曲のなかには、データを少しは発見することができた。李緑園の小説『岐路燈』には開封の大書店のオープニングに至るまでの準備とオープニング・セレモニーの様子が詳しく叙述されていた。孔尚任の戯曲『桃花扇』には南京の大書店・蔡益所の店内が書かれていた。徐揚のパノラマ『姑蘇繁華図』には蘇州の大書店の外観が描かれていた。李漁の戯曲『意中縁』には、杭州で本と骨董品を取り扱う店の仕入れと販売のことが叙述され、絵も付け加えられていた。李日華の日記『味水軒日記』には、書と画の贋物の多いことが詳しく述べられていた。これらのデータに依って、明代と清代の大都会において、書店では本だけではなく、書や画も売っていたこと、本屋の開設には莫大な資金が必要だったこと、書や画には贋物が多かったこと、本の著作権の意識は希薄だったらしいこと、などを発見した。
著者
小川 佳宏
出版者
日本医師会
雑誌
日本医師会雑誌 (ISSN:00214493)
巻号頁・発行日
vol.136, no.12, pp.2352-2355, 2008-03
被引用文献数
1
著者
塚本 修巳 雨宮 尚之 福井 聡 小川 純
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2002

交流損失を現状より1桁低減できれば高温超伝導の応用分野が大きく広がる.本研究はこのような観点に立ち,超伝導の微細構造における電磁現象の研究に基づき,線材,集合導体,巻線の各構造を互いに関連付けて統合的に交流損失の大幅低減を図る手法を研究し,高温超伝導を交流電気機器に応用するための要素技術を体系化することを目的とした.具体的な研究課題は,1.機器における磁気環境下での交流損失の評価法を確立すること,2.機器における電磁環境下での交流損失の大幅な低減手法を明らかにすること,3.ロバストかつ高い超伝導性能を発揮する巻線構成手法を明らかにすること,である.本研究の主な成果を下記に要約する.1.線材全交流損測定法:交流磁界下で交流通電したとき線材に生じる全損失の電気的測定法を開発した.熱的方法と同時に測定することにより,本方法の妥当性検証を行った.これにより,線材の交流損失測定法の確立をした.2.擬似ツイスト導体による磁化損失低減:斜にYBCO層を分割した2枚のテープ線材を張り合わせ,実質的に撚りの効果を得る方法,擬似ツイスト導体を提案した.これにより,分割数を増やすことにより交流損失を1桁以上減らすことが可能であることが示された.3.集合導体の損失測定法開発:我々の開発した集合導体の損失測定法により,非磁性基板Y系線材の場合,隣接線材の作る磁界により損失が単独通電時の値より1桁程度小さくなっていることがわかった.これにより,線材の並べ方により損失が大幅に減少することが示された.4.巻線の交流損失低減最適構造:高温超伝導テープ線材の損失データより交流損失を近似的に解析する手法を開発し,巻線の断面形状の最適設計方法を示した.5.Y系線材のクエンチ保護:Y系線材を用いたコイルのクエンチ保護のための導体の安定化設計法が明らかにした.以上により,上述の研究の目的はほぼ達成できた.
著者
猪木 慶治 ZWIRNER Fabi ALVAREZーGAUM ルイス VENEZIANO Ga ELLIS John 加藤 晃史 小川 格 川合 光 風間 洋一 江口 徹 NARAIN Kumar SCHELLEKENS バート ALTARELLI Gu MARTIN Andre JACOB Mauric ALVAREZ Gaum 北沢 良久
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

1.現在、素粒子物理学の中で最も重要な課題の一つに電弱相互作用の自発的対称性の破れの起源という問題がある。標準模型においてはSU(2)×U(1)ゲ-ジ対称性の破れは、素のヒッグス場によって起こるとされているが、本当に正しいかどうかの実験的な確証は得られていない。ゲ-ジ対称性の破れを調べるための鍵として、W_LW_L散乱(W_Lは縦波のW)の研究が重要と考えられる。それは高エネルギ-(E≫m_W)においては、W_Lが等価定理によって南部ーコ-ルドスト-ン(NG)ボソンのようにふるまうからである。標準模型においてはヒッグスの自己結合定数はヒッグス質量の2乗に比例するのでヒッグス粒子が1TeV以下に存在しなければ摂動論は適用できない。猪木は日笠(KEK)と協力して、W_LW_L散乱の分部波振巾を、ヒッグス粒子ドミナンスと破れたカイラル対称性に基づく低エネルギ-定理という一般的要請をつかって、ユニタリティ-を満たすように決定した。すなわち、W_LW_L散乱においてtー、uーチャネルにヒッグス粒子を交換することによってsーチャネルに同じ量子数をもったヒッグス粒子があらわれるという要請をおき、低エネルギ-定理をつかって、I=J=0振巾をヒッグス粒子の自己結合定数λのみであらわすことができた。そしてλ→小のときは標準模型に一致し、λ→大になると標準模型からのずれが大きくなることが分かった。このような理論的予測をLHC/SSC、更にはJLC等の加速器で調べることにより、標準模型をこえた理論をさぐるための突破口としたい。2.LEPの実験結果は、超対称性を持った理論が統一理論の候補として有望であることを示唆しているが、これまでの超対称理論の予言は、摂動の最低次の計算に基づいていた。Zwirner等は近似を進めて中性Higgs粒子の質量および混合角を1ーloopでのふく射補正まで計算し、LEP IおよびLEP IIでのHiggs粒子生成の可能性を分析した。3.Wittenは昨年度、2次元のブラックホ-ルのモデルが可解な共形場の理論の一種で記述される事を示した。こうして得られる2次元のブラックホ-ルは、中心にある特異点においても理論は整合的で破綻せず、特異点と事象の地平線を入れかえるduality変換をもつ、という特有の性質をもっている。2次元ブラックホ-ルを記述するゲ-ジ化されたWessーZuminoーWitten模型は、特異点付近で平坦なU(1)ゲ-ジ場を記述する位相的場の理論に近づく。江口はこの事情をより詳しくみるためにWessーZuminoーWitten模型を超対称化し、これを更にtwistして位相的場の理論を作りその性質を調べた。位相的場の理論はBRS不変性をもつために、経路積分がBRS変換の固定点からの寄与で支配される。ブラックホ-ルのモデルでBRS変換の固定点は中心の特異点に一致する。従って時空の特異点が位相的場の理論で書き表される事がわかった。4.Wittenによって始められた位相的な場の理論は、多様体の位相的構造を調べるための新しい強力な手段であるにとどまらず、2次元量子重力理論が共形不変性を持った位相的な場の理論とみなしうるという発見にともない、物理理論としても非常に重要な性格をおびてきている。通常位相的共形不変理論は、風間・鈴木モデルを代表とするN=2超共形不変理論から江口・梁のtwistingによってえられる。風間は最近、位相的共形代数の一般的構造を調べることにより、今まで知られていなかった新しい位相共形代数を見いだし、位相共形代数の枠を広げた。さらにこの代数が隠れたN=1超共形対称性をもった理論のtwistingにより得られることも示した。5.川合は福間(東大)、中山(KEK)と協力して2次元の重力理論を連続極限として持つようなランダム面の理論を考え、その母関数が満たすべきSchwingerーDyson方程式を調べた。その結果、2次元量子重力や紐の理論の背後にはW_∞という大きな対称性が隠されており、その帰結として、SchwingerーDyson方程式がVirasoro代数やW代数の形式的真空条件として統一的に記述されることがわかった。
著者
小川 泰右 山崎 友義 池田 満 鈴木 斎王 荒木 賢二 橋田 浩一
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.461-472, 2011 (Released:2011-04-07)
参考文献数
30
被引用文献数
1

It is ideal to provide medical services as patient-oriented. The medical staff members share the final goals to recover patients. Toward the goals, each staff has practical knowledge to achieve patient-oriented medical services. But each medical staff has his/her own sense of value that comes from his/her expertness. Therefore the practical knowledge sometimes conflicts. The aim of this research is to develop an intelligent system to support externalizing practical knowledge, and sharing it among medical staff members. In this paper, the author propose a method to model the sense of value of each medical staff as his/her understanding about medical service workflow, and to obtain the practical knowledge using the models. The method was experimented by an implementation of knowledge-sharing system base on the method and by its trial use in Miyazaki University Hospital.
著者
二宮 敏行 深道 和明 竹内 伸 増本 健 新宮 秀夫 小川 泰
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

クエイサイクリスタル(準結晶)は,從来の結晶学では存在しないとされていた対称性を持ち,1984年の発見以来,急速に発展しつつある新しい個体研究の分野である. 昭和63年度から重点領域研究「準結晶の構造と物性」が発足することを考慮し,本研究班の研究会は,広く準結晶に興味を持ち研究を進めている人人を含めて,62年11月に開催された.本年度の主な成果は次の通りである.1.準結晶構造の幾何学準結晶構造については,これまで主として,5回対称,20面体対称についての議論が多かったが,8回対称,24面体対称についての具体的モデルなどが提出された. これは,最近中国で実験的に見出された構造(NiーCr系)と対応するもので,準結晶の物理の具体的な広がりをもたらすものである.2.電子状態一次元系について,電子波束の伝播の様子の特異性などが調べられた. これは,重点領域研究で予定されている一次元準周期超格子中の電子の振舞についての実験に示唆を与えるものである. 一次元系の電子状態の理論的扱いに,新しくLie代数の方法などが提出された. また,二次元系についても,あるタイプの厳密解や,電気伝導などが調べられた.3.試料作成,物性準結晶に予想される特異な物性を実験的に観測するためには,良い試料を得ることが必須である. 普通の冷却法で作られ,融点直下での焼鈍に安定な準結晶Al_<65> Cu_<20> Fe_<15>が見出された. この試料は単相で0.2mmの大きさに達しており,成長機構の解明や物性の測定に重要な役割を果すと期待される. また, ひずみの小さな準結晶の作成のため,4元合金(磁性,非磁性のもの)の開発が行われた.
著者
益田 実 齋藤 嘉臣 橋口 豊 青野 利彦 三宅 康之 妹尾 哲志 小川 浩之 三須 拓也 山本 健
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

従来の冷戦史研究では、冷戦期国際関係上の事象の「どこまでが冷戦でありどこからが冷戦ではないのか」という点につき厳密な検証が不十分であった。それに対し本研究では、「冷戦」と「非冷戦」の境界を明確にし、「冷戦が20世紀後半の国際関係の中でどこまで支配的事象であったのか」を検討し、より厳密な冷戦史・冷戦観を確立することを目的に、冷戦体制が確立した50年代半ばから公文書類の利用が可能な70年代後半までを対象とし、冷戦との関連性に応じて8つの事象を三分類し、関係諸国公文書類を一次史料として「冷戦」と「非冷戦」の境界を実証的に分析した。
著者
山田 健司 水村 容子 小川 信子 一番ヶ瀬 康子
出版者
群馬松嶺福祉短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)日本の現行公選法規定は、法規上心身能力低下をもつ選挙人の選挙権行使を実質上抑制阻害している。当該規程は、1951年地方選挙で発生した大規模不正投票の再発防止を理論的根拠としている。しかしながら、当該規程は、不正投票発生原因に対応したものではなく、在宅投票制度全体を不可能とする投票権侵害=選挙権侵害=違憲状態を生ずる原因となっている。1974年に一部復活した郵便投票制度以降を勘案した場合も、同様な違憲状態にあり、この状態は70数年間に及んでいる。(2)介護保険の要介護認定者は、本調査結果の範囲において半数以上が、非投票である。非投票原因は、主として体調の不調と移動困難性である。これは、能力低下レベルとは相関していない。また、移動困難性は通常の移動手段(歩行運動機能レベル)とは関連がなく、自宅と投票所間の投票当日における移動手段の確保を意味している。身体上の能力低下は、投票行動において障害とは言えず、非投票を惹起する原因は、環境因子によって生じている。したがって現行公選法規程が、重度歩行運動機能低下を在宅投票の事由とすることは、実態的論理的に誤謬である。(3)オランダでは、本調査結果の範囲において心身能力低下と公選における非投票とは関係がない。非投票は、自由意志による積極的投票拒否である。またスウェーデンは、在宅投票を不在者投票の一環として制度化し、投票環境の改善によって投票率の向上を恒常的に国策として進めている。(4)以上の結果から、現行公選法規定は、投票権の制限よって心身能力低下をもつ選挙人の選挙権剥奪を行っているといえる。また、すでに心身能力低下をもった高齢者が選挙人人口中に一定の比率を占めており、高齢化によってその人口は激増していくことが予想される。これは、わが国において行政政策への非関与、社会保障施策当事者性の奪取という現象を生じせしめ、人権保障の実体外人口を実質的に増加させるものである。(5)現行公選法が改正され、心身能力低下=投票バリアが解消する場合においては、公権行使への関与階層が未経験域に変化する。また改正が無い場合には、修正資本主義の自己矛盾つまり社会保障機能不全による社会制度倒壊へシフトする。いずれのケースでも、わが国は近い将来において、今と異なる社会形成を経験する可能性が高く、このことは日本自らが、社会と人間のとりわけ本質的な在り方を、本格的に問うべき時の訪れを意味している。
著者
小川 眞里子 片倉 望 山岡 悦郎 伊東 祐之 久間 泰賢 遠山 敦 秋元 ひろと 斎藤 明
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は平成11年度から13年度の3年間のプログラムによって、「物語としての思想-東西の思想を物語の観点から読み直す-」をテーマに総勢10名を超えるメンバーの参加をもって始められた。参加者の専門は西洋、日本、インド、中国の思想分野にわたり、比較思想的探求を行う際の共通の切り口として「物語」という切り口は面白いのではないかと考えた。たしかに、物語は文字をもつ以前から口承の形で受け継がれてきており、人間存在と切り離しがたく普遍的に存在する。それにもかかわらず従来の哲学からは「物語」への取り組みの糸口が見出しにくく分担者は苦闘を強いられた。そうした中で、東北大学の野家啓一氏を招き講演会を開き、その成果を文字に起こして研究分担者がきちんと共有できたことは、各自の研究を進める上で大きな助けとなった。とくに今回の講演で示された科学的実在と物語の関係は大変示唆的であった。また東洋思想の観点からお話をしていただいた田辺和子氏の「原始仏教聖典の中の物語」は、先に述べたごとく「物語」がいかに本質的に人間存在と結び合ってきたものであるかを納得させるものであった。こうした経緯をへて各自が報告の作成に取り掛かり、桑原は野家氏の中心的テーマであった歴史の反実在論から説き起こしそれとキリスト教徒の問題に切り込み、武村は物語と哲学との比較という非常に興味深いテーマに行き着ついた。その他各自がこのユニークな研究の端緒をいかに完結させるかが今後の課題である。
著者
小川 朝生
出版者
国立がんセンター(研究所及び東病院臨床開発センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

化学療法の発展に伴い長期的な予後が期待できるようになった一方、化学療法後に慢性的に中枢神経系有害事象(認知機能障害)が生じる可能性が指摘されるようになった。この認知機能障害はchemo-brainと総称される。しかし、認知機能障害と化学療法との関連性、その機序に関する検討は未だ途上である。そこでわれわれは、化学療法前後を通して、脳構造画像の変化を追跡し、その病態メカニズムを検討する研究計画を立案し、脳画像の測定技術を確立した。