- 著者
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小野寺 理
- 出版者
- 医学書院
- 雑誌
- 臨床整形外科 (ISSN:05570433)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.4, pp.381-386, 2019-04-25
はじめに
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は成人発症の致死的な進行性の神経変性疾患である1).永年,その解決の糸口が見つからなかった本症であるが,近年,病態解明が進み,数多くの病態修飾薬の開発がなされている2).しかし,その効果は乏しい.一般に,進行性の疾病の場合,治療効果を上げるためには,早期介入が必要なことは言うまでもない.ALSでも,その進行メカニズムが判明し,早期介入の必要性を示唆する病態が明らかとなってきている.しかし,本症ではいまだに,診断に直結する生化学的マーカーは得られておらず,それゆえ,診断において理学所見の意義は大きい.
ALSは四肢から始まるものと,球麻痺から始まるものとに大別されるが,本症の半数以上は,四肢の筋力低下で気付かれる1).よって,最初に整形外科を受診することが多い.日本では,実に四肢発症者の48%,球麻痺型でも13%が整形外科を初診している3).結果として34%が整形外科を受診する.本症の予後を考えると,できるだけ早く正しい診断することは重要である.このことから,本症の診断面で整形外科医の果たす役割は大きい.
本稿では整形外科診療に紛れる本疾患について最新の知見と,それに基づく診療のヒントについて紹介したい.しかし,後述するように,多くの患者さんでは,髄節レベルと臨床症状の乖離を認める.このような乖離は頚椎症による二次運動神経細胞の圧迫性の病態では認められることが少ない.しかし,近年の一次運動野の知見により,一次運動神経領域からALSの病態が始まると考えれば,この髄節との不一致も説明できる可能性がある.