著者
山中 克夫
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

痴呆高齢者の中には暗いすみの壁に方便したり,洗面台に座って大便をしたりしまう者が存在する。これは,中枢性の異常や泌尿器そのものの異常による失禁とは性質が異なり,いわゆる「勘違い」による現象である。現在のところ,この問題のメカニズムや対処法について科学的に検討した報告はみあたらない。そのため,医療・福祉の現場では,経験的な方法や口コミ情報に頼っている。平成12年度では、老人病院外来でアルツハイマー型痴呆と診断された高齢者1名についてフォローアップし、どのような間違いが起こり、家族はどのような点で失敗しているのか分析を行った。さらに、認知心理学的な視点から、対処法を考え、その効果をみた。対象は、70歳の男性であった。6年ほど前から物忘れが起こるようになり、現在、長谷川式簡易評価スケールで0点、Mini-Mental State Examination(MMSE)で3点(復唱のみが正解。物の名称も答えられない状態)であった。特に見当識面で非常に重篤な問題を呈しており、スリッパをテーブルにおいたり、植木を家の中に入れてしまったりと、行動のフレーム自体が崩壊しているような状態であった。トイレについては、特に夜間に、隣の場所である洗面台やお風呂と間違い、用を足そうとしてしまう状況であった。家族の対処法を尋ねると、トイレの明かりをつけ、オリエンテーションをつけようとしていたが、一向に問題が改善しない状況にあった。これはトイレの明かり自体を誰かが「入っている」と知覚したのだと考え、逆に周囲の洗面所、風呂場の明かりをつけ、トイレの明かりを消す方法を提言した。その結果、トイレの場所の誤りは改善した。これらの誤認識についてアフォーダンス理論と関連させ、考察を行った。
著者
辻 俊宏 山中 一司 三原 毅
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

走査プローブ顕微鏡により逆圧電応答を計測する圧電応答顕微鏡(PFM)により、強誘電体メモリ用薄膜の疲労現象やMEMSのアクチュエータ用薄膜の性能向上のメカニズムが明らかにされつつある。しかしデバイスの動作環境、すなわち分極反転過程および逆圧電駆動中の分域をナノスケールの空間分解能で観察する手法は確立されていない。本研究では、表面に作製した電極対(表面電極対)の微小なギャップを利用してデバイスの動作環境の再現を試み、ナノスケールにおける弾性特性評価が可能な超音波原子間力顕微鏡(UAFM)により評価して、強誘電体材料の実用的な環境における材料評価技術の確立を目的とした。強誘電体材料には様々なものがあるが、ここでは特定の結晶方位に分極処理を施すことで従来の材料に比べて著しく高い圧電係数を発現することで近年注目されているマグネシウムニオブ酸鉛(Pb(Mg2/3Nb1/3)O3-PbTiO3:PMN-PT)単結晶について実験を行った。その結果、この材料はキュリー点が130℃と低いために真空蒸着による電極作製時の入熱で脱分極分域組織が発生してしまったものの、表面電極対の電場で分域構造を駆動可能なことが初めて示された。その際に発生した分域境界をUAFMで観察した結果、表面下で斜めになっていることを示唆する結果が得られた。これはPFMのように誘電率の高い材料で電場が表面に集中する状況では不可能な測定であり、UAFMによる表面下欠陥の3次元構造の解析の可能性を実証できた。このように強誘電体材料の分域構造の評価において表面電極対を用いた電界印加およびUAFMによる非破壊評価が有用なことを初めて実証した。以上の研究により微細加工電極により分極・駆動される強誘電体の超音波原子間力顕微鏡による非破壊評価に関する基盤技術が確立でき当初の目的を達成した。
著者
宮本 圭造 伊海 孝充 高橋 悠介 石井 倫子 山中 玲子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

能楽を伝える最も古い家系である金春家伝来の文書は、能楽資料の宝庫である。今回の研究プロジェクトでは、同文書を総合的な観点から研究するために、金春家旧伝文書の中核を占める般若窟文庫の文書目録をデータ化するとともに、約二千点に及ぶ文書資料のデジタル撮影を行った。これらの成果に基づき、般若窟文庫のほぼ全ての文書の検索と、ウェブ上での画像閲覧が可能な「金春家旧伝文書デジタルアーカイブ」を作成した。また、関連文書の調査として、秋田家文書の秋田城介関連能楽伝書、毛利博物館蔵能楽伝書、吉川広家旧蔵笛伝書などの調査を行った。
著者
荻野 慎也 山中 大学 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.407-413, 1995-06-15
被引用文献数
4

J-COARE白鳳九航海のレーウィンゾンデ観測(1992年11月1日〜12月4日)より得られた温度・風速データをもとに、低緯度帯(13.78°S〜24.50゜N)の下部成層圏(14〜22km)における重力波活動度の南北変化を調べた。高度14〜22kmのデータを用いて鉛直波数スペクトル解析を行ない、全期間の平均をとると、卓越鉛直波長は温度・東西風については4km、南北風については2.7kmであった。高度プロファイルおよびホドグラフ解析結果をみると、赤道をはさんで南北約10゜の範囲では、鉛直波長が4km程度の比較的振幅の大きな(5〜10m/s)波動構造が、東西風にはしばしば認められるが南北風にはほとんど認められないことから、4kmの成分には主にケルビン波が、2.7kmの成分には主に重力波が寄与しているものと考えられる。鉛直波長4.0km,2.7m,2.0mの各成分について、パワースペクトル密度を緯度の関数として整理し、中緯度帯と較べると低緯度域の方が重力波活動度は大きいという結果を得た。重力波の振幅は波の周期や背景のブラントバイサラ振動数に関係すると考えられるが、今回得られた南北分布はこれらのパラメタだけでは説明できず、赤道付近で活発な積雲対流が重力波の励起と密接に関わっていることを示唆している。
著者
後藤 正夫 山中 勝司
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.618-626, 1981-12-25

健全なナツミカン葉細胞間汁液(IF)中に見出される21種のアミノ酸について, かいよう病菌X. campestris pv. citriの感染に伴う濃度変化を定量的に調べ, 高濃度の主要アミノ酸について, 病菌増殖との関係を調べた。本病菌は増殖にメチオニンを必須成分として要求した。その最適濃度は0.05〜1.0μmol/mlで, IFはこれに匹敵するメチオニンを含有した。メチオニンの存在下でアスパラギン酸, アスパラギン, グルタミン酸, バリン, ロイシン, プロリン等がIF濃度で有効に増殖に利用された。特にプロリンはIFに多量に含まれ, しかも接種後数日で約10倍量に増加する点で, 重要な栄養源と考えられた。一方セリンおよびヒドロキシリジンはIF内濃度でかいよう病菌の増殖を顕著に抑制した。病原性菌株は非病原性菌株に比較して低濃度で増殖抑制を受けた。この抑制作用はIF内濃度に相当するメチオニンとプロリンの存在下で解除された。プロリンによるこの増殖抑制の解除は, アラニンの共存下で顕著になり, しかも非病原性菌株よりも病原性菌株に対して効果的に現われた。かいよう病抵抗性のキンカン葉磨砕汁は, ナツミカンに比べてプロリン濃度が低く, セリン濃度は高い数値を示したことから, 両アミノ酸の濃度比の相違が, 両カンキッのかいよう病抵抗性の差の一因をなしているものと考えられた。
著者
小谷 通泰 山中 英生 秋田 直也 田中 康仁
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、貨物車に搭載したプローブ機器(GPSとデータ記録用のロガー)から得られたデータをもとに、貨物車の基礎的な運行挙動を把握するとともに、これらの運行挙動を組み込んだ環境制約下における配送計画モデルを定式化する。そして、複数の運行形態の貨物車を対象として最適配送計画を提案し運行コストの削減と都市環境の改善の両面からその効果を評価することを目的としている。得られた主たる成果は以下の通りである。まず、貨物車の運行挙動については、取得したプローブデータにもとづき、貨物車の走行時間や荷さばき時間にみられる不確実性を考慮し、指定時間がある配送地点への出発時刻の決定行動や複数の配送先への巡回経路の選択行動をモデル化した。また同様にプローブデータをもとに、高速道路と一般道との間における大型貨物車(海上コンテナ輸送トラック)による走行経路の選択要因を抽出した上で、経路選択モデル(非集計行動モデル)の構築を行った。さらに明らかになった運行挙動を踏まえて、一般の貨物車(宅配貨物輸送トラック)と大型貨物車(海上コンテナ輸送トラック)の2通りを取り上げて、環境制約下における配送計画を作成した。宅配トラックについては、貨物輸送需要を与件としてデポ、集配拠点の最適配置計画を提案し、貨物車の運行効率の向上と環境改善効果の視点からそれらを評価した。また海上コンテナ輸送トラックについては、構築した貨物車の経路選択行動モデルを用いて、市街地の環境改善を図るため通行料金格差の導入や賦課金徴収を行った場合の、貨物車の市街地から湾岸部の高速道路への迂回誘導効果を評価した。
著者
山中 大学 荻野 慎也 森 修一 はしもと じょーじ 岩山 隆寛
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

インドネシア「海大陸」域における観測的研究から,既知の海陸風など局地的な循環とも全球規模の大気潮汐とも異なる1000kmスケールの大規模な組織的日変化を見出した.類似のものは,チベット・ヒマラヤ域や北米大陸上にもほぼ同時に見つかっている.また,地球型惑星(金星・地球・火星)における日変化の出現の様相は様々である.このような大気中の日周期変動の形成メカニズムを大気力学・雲物理学の一般理論に基いて検討・解明するとともに,季節内・季節(年周期)・経年変動に及ぼす影響や,一般に地球型惑星大気の振舞を決めるにおいて自転や公転などが果たす役割を考えるため,観測データ解析と理論・モデリングの双方から研究を進めた.海大陸域においては,これまでの海陸風理論で取り扱われた晴天日あるいは乾季におけるものよりもむしろ顕著な,雨季における日変化について新たな仮説が得られた.日変化により午後〜夜間に発生する活発な対流性降水雲と降水により,翌朝までに大気はリセットされ(熱的不安定成層は解消して大気透明度も上がり),翌日正午前に最大限の(太陽定数に近い)日射陸面加熱が直後の午後に再び活発な対流雲を発生させる.日変化の生じ方の季節内・季節・経年変動に伴う差異,数1000kmにわたる組織的な日周期強制や領域により異なる日周期の強制があるときの全球大気のレスポンス,海大陸域とその東西の大洋(太平洋・印度洋)上とでの日変化の違いによる季節内変動の励起や変質・減衰,さらに他の地球型惑星(金星・火星)まで含めた日射不均一が起こす大気運動(水平対流)の一般論とその物質輸送や気候維持・変動への意義,太陽系内には存在しないが他の惑星系でなら存在する可能性があるようなケース,などについても考察を行なった.
著者
野中 俊宏 久保田 博之 山中 博志 澤地 孝男 瀬戸 裕直
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.66, no.545, pp.17-22, 2001
被引用文献数
1

This research aims at clarifying the relationship between air leakage through the building envelope and indoor thermal environment in winter. Laboratory experiments were carried out by using a full-scale research house, which is built in a climatic chamber, and in which an exhaust-only ventilation system was emulated. The influence of the amount of cracks on the indoor thermal environment was quantified. On the first floor, the temperature gradient becomes larger, especially within the space lower than 1,300 mm above the floor. On the second floor, the effect of the air leakage is not so clear as on the first floor.
著者
竹本 幹夫 山中 玲子 小林 健二 落合 博志 大谷 節子 石井 倫子 表 きよし 三宅 晶子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては、現代の能楽研究における資料調査の実績を踏まえ、全国に散在する文庫・図書館・個人所蔵の謡本を博捜し、曲目索引を作成して『国書総目録』【能の本】以後に発見された謡曲作品・伝本を網羅的に補足することから出発し、上記500曲の各作品ごとに、伝存するテキストの系統関係を調査した上で、主要な系統の伝本を、一曲につき数本ずつ翻刻することを目指した。室町期成立の能のテキストを網羅的に翻刻・集成するような事業は今まで全く存在せず、本研究が能楽のみならず、近世・近代前期の文芸研究、および国語学に与える影響は、きわめて大きい。最終的な成果は、『謡曲大成』(仮称)の刊行を企図しているが、一曲ごとに数十本存在する伝本を書写・校合する作業が予想以上に難航し、このたびようやくア行74曲の系統付けが完了した。C-18として付属させた冊子がその成果内容である。これらの作業過程で、古写本・古版本の新出資料を複数調査することが出来た。その中には江戸時代版行番外謡本の系統研究に重要な位置を占める、伊藤正義氏蔵「寛永頃刊行観世流異書体小本」のような稀覯本も含んでいる。早稲田大学演劇博物館蔵「春藤流升形十番綴謡本」三百番のような、従来存在は知られていたが位置付けが不明であった本についても発見があった。この本は、観世流系ワキ方であった福王流の江戸後期の大規模な謡本集成に先駆けて行われた、金春流系ワキ方系の謡本集成としては比較的早い例に属することなどが明らかとなった。また謡本研究とは直接関連しないが、本研究費による謡本の所在調査の過程で、研究分担者や研究協力者による、曲ごとの作品研究が活性化した。さらには、本研究費による謡本調査の過程で、研究代表者の竹本による世阿弥能楽論書『三道』の最善本の発見なども行われた。いずれも本研究の特筆すべき副次的成果といえよう。
著者
黒崎 順二 園田 立信 小野 茂 松山 宏 山中 将弘
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.324-329, 1982-10-28
被引用文献数
4

牛を高温環境で放牧する場合の管理法を究明する一環として,高温時における放牧行動の実態並びに高温時の放牧と呼吸数との関係を調査した。調査には宮崎大学住吉牧場のホルスタイン種の搾乳牛を用い,草地はバヒアグラスの優占草地で,10時30分から16時30分まで放牧し,調査を行なった。主要な調査結果は以下のとおりであった。1.6月下旬,7月および8月には,気温がそれぞれ27.0〜30.5℃,31.5〜35.0℃および29.5〜31.0℃の高温となり,このため牛は牧草地における採食と庇蔭林内における休息とを頻繁に繰り返し,放牧時間内における採食時間の割合が非常に少なくなった。これに対し,6月上旬,9月および10月の気温は,それぞれ24.5〜27.0℃,24.5〜27.0℃および21.0〜26.0℃で,採食と休息との繰り返しはほとんどみられず,また放牧時間の大部分が採食時間で占められるなど,高温時とは著しく異なった行動を示した。2.休息時の呼吸数は高温時期の6月下旬,7月および8月が6月上旬および9月よりも多くなり,10月はそれらよりも少なかった。その高温時には休息時間の経過に伴って呼吸数が著しく少なくなった。また,採食から休息に変るときは呼吸数が増加し,休息から採食に変るときは減少していたが,それらの呼吸数の変異は大きく,一定していなかった。このことは呼吸数自体が採食を阻害していないことを示す例証と考えられた。採食中の呼吸数は,季節的および個体的差異がみられるが,同一季節で同一個体の呼吸数はほぼ一定で大きくは変動しなかった。
著者
井上 隆史 山中 剛史 TAILLANDIER Denis 井関 麻帆 田中 真夕美
出版者
白百合女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

三島由紀夫の手稿類(創作ノート、下書き原稿、ゲラへの書き込み、書簡など)を調査すると同時に、二葉亭四迷、宮沢賢治など三島以外の作家の手稿研究の従来の成果や問題点について検証した。そして、フランスの生成論について検討、哲学(解釈学)や美術史の議論も取り込んで、より望ましい手稿研究の方法論を探った。これを踏まえ、三島の代表作「金閣寺」や遺作四部作「豊饒の海」の創作ノートを研究し、後者に関しては、創作ノートで検討されていたが、その後大きく変更された第四巻の当初の構想を発展させ、「幻の第四巻」を仮構した。
著者
菊地 勝一 近藤 寿郎 生田 真一 飯田 洋也 相原 司 安井 智明 柳 秀憲 光信 正夫 覚野 綾子 中正 恵二 山中 若樹
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.626-633, 2009 (Released:2009-12-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を背景肝とした肝細胞癌(HCC)の発癌病態を検討するため,当施設で治療を行ったHCC症例中,非B非C型で,背景肝がNASHと診断された10例についてその臨床病理像や背景因子を検討した.【対象.方法】当施設で肝切除(173例)又はablation(216例)を行ったHCC 389症例中,HBs抗原・HCV抗体ともに陰性であったのは29例(7.5%)であった.そのうち臨床病理学的にNASHと診断された症例10例(2.6%)を対象とし,宿主因子,背景肝病理組織,血液検査所見,背景肝機能,腫瘍因子について検討した.【成績】(1)性・年齢は,男性7例,女性3例,平均年齢70.9±8.1歳であった.(2)Body Mass Index(BMI)が25 Kg/m2以上の肥満者は6例(60%)であったが,生活習慣病の合併率は,糖尿病6例(60%),高脂血症2例(20%),高血圧7例(70%)であった.(3)背景肝病理組織は10例中4例(40%)が肝硬変,6例(60%)が脂肪肝炎であった.また脂肪肝炎のstageはBruntの分類でS1:2:3=1:2:3と,線維化の程度が軽度から中等度の例が半数を占めた.(4)肝予備能を反映する血清アルブミン(Alb)値とプロトロンビン(PT)活性は肝硬変群においても,それぞれ4.1±0.5 g/dl,79.0±8.2%と正常であった.さらに肝硬変群をChild-Pughで分類するとAが3例,Bが1例であった.一方ICG R15は肝硬変群が31.8±25.0%であったが,慢性肝炎群においても20.5±16.5%と高値であった.(5)腫瘍因子に関しては2個以上の多結節病変を有する症例が9例(90%)で,このうちいずれかの結節が高分化型HCCであった多中心性発生は6例(67%)であった.【まとめ】NASH由来と診断されたHCCは,高齢で生活習慣病の合併率が高頻度であった.背景肝組織は肝硬変を合併しない脂肪肝炎からの発癌が多く,多中心性発生が高頻度であった.【結語】NASHに合併したHCCの背景肝は60%が脂肪肝炎であり,67%が多中心性発癌であった.また,脂肪肝炎例においては線維化が軽度の症例も認められ,HCCの合併を考慮した厳重なフォローが必要と考えられた.
著者
山中 大学 前川 泰之 深尾 昌一郎 橋口 浩之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は,中小規模(水平スケール10^1〜10^3km程度,時間スケール10^1〜10^3分程度)の大気擾乱のうち,最も大きな階層である中間規模温帯低気圧(梅雨・秋霖季の亜熱帯前線帯に卓越)や熱帯低気圧の力学的構造について,過去に蓄積されたMU・境界層・気象レーダー観測結果を総合的に解析するとともに,観測を継続的に実施することによって解明することであった.2年間における成果の概要は以下の通りである:1.梅雨・秋霖季中間規模温帯低気圧の研究1986年以来の梅雨季(6〜7月)・秋霖季(9〜10月)の対流圏〜下部成層圏領域におけるMUレーダー(VHF帯)による標準観測データ(風速3成分,成層度,乱流風速分散)を,雨滴エコーなどを入念に除去してデータベースとして整備した.特に1991年6月17日〜7月8日に行った梅雨季3週間連続観測については,同時に行ったラジオゾンデ・気象レーダー(X,C,Ku帯)・気象衛星・気象庁客観解析結果などとともに整理し,中間規模低気圧構造,地上低気圧中心に相対的な鉛直流変動(対流雲群)の水平分布(階層構造),個々の対流雲の構造と時間変化などのほか,下部対流圏の低気圧通過に伴う対流圏界面ジェット気流や下部成層圏慣性重力波,乱流の分布特性と強度(鉛直渦拡散係数)などの時間変化も得た.また1992年6〜7月に行なった境界層レーダー(UHF帯)・MUレーダー同時観測からは,中間規模低気圧の鉛直位相構造が対流圏下部(大気境界層)で逆転する例,中〜上部対流圏‘generating cell'の構造と降水粒子降下などを検出した.1995年6月上旬に実施した新たな観測では,約10年前に観測されたようなcold vortexの通過に遭遇し,今回は中心よりかなり南側の詳細な構造を得ることに成功した.3.台風およびその温帯低気圧化の研究秋霖季の観測結果のうち,強い台風の中心付近を観測した1991年9月19〜20日(台風9019号),1994年9月29〜30日(台風9426号)の2つのケースについて,MUレーダー水平風速を気象庁資料と組み合わせることにより,台風中心からの水平距離の関数としての接線・動径風速に換算し,全体的には典型的な熱帯低気圧の軸対称構造を確認したが,非対称構造や時間変化など温帯低気圧化も示唆された.特に台風9428号については,様々な中心通過経路および時刻について計算を繰り返して,15分程度の間隔で前後2回ある地上気圧低極の間の時刻に中心がレーダーのほぼ真上を通過したとの結論を得た.また角運動量,渦度,ヘリシティ(速度と渦度の内積)など準保存量の解析も行なった.さらに地上・気象レーダー・レ-ウィンゾンデ・衛星,関西電力堺火力発電所境界層レーダーなどの観測データも解析し,MUデータとの比較から,最盛期の熱帯低気圧の特徴であるwarm core構造を持つことを確認するとともに,中心部が竜巻に見られるような螺旋構造を持ち,そのため局所的に高気圧性回転しているように観測されることがわかった.1995〜96年には顕著な台風がMU観測所に接近することはなかったが,1996年7月17〜18日には台風9606号の中心付近を部分的に観測した通信総合研究所山川観測所(鹿児島県)境界線レーダーのデータを解析した.また過去にいくつか観測された台風崩れの梅雨・秋霖季中間規模低気圧についても,新たに解析を試みた.以上の研究を通じて,台風の中心付近や,梅雨前線帯の雲の階層構造に伴う3次元風速変動が初めて実測されたと言える.さらにVHF/UHF帯レーダーの中間規模低気圧・台風研究への有用性と具体的観測方法が確立され,メソ気象学の分野に新しい側面を切り開いたことも特筆すべきである.
著者
山中 弘 木村 勝彦 木村 武史 笹尾 典代 寺石 悦章 松井 圭介 平良 直
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、特定の場所をめぐる宗教的集合記憶と観光的文化資源との多様な関係の在り方を検討するために、長崎県の平戸市根獅子町、新上五島町、山形県出羽三山、沖縄、中米グアテマラを対象とした調査を実施した。伝承された宗教的集合記憶は、ツーリズムを梃子にした集落の再生の試みの進展に伴って再編成されつつあり、その動きに大きな影響を持っているのがメディアと世界遺産指定である。また、聖地の持続的な管理とツーリストの倫理的行動を要請している。
著者
大和 修 遠藤 大二 国枝 哲夫 竹花 一成 山中 正二 落合 謙爾 内田 和幸 長谷川 大輔 松木 直章 中市 統三 板本 和仁
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

多数の新規および既知の動物遺伝病(特に、ライソゾーム蓄積病)について、診断・スクリーニング法を開発した。また、その一部の犬疾患(GM1ガングリオシドーシスおよび神経セロイドリポフスチン症)については、予防法を確立・実践し、発症個体が出現しない程度にまで国内キャリア頻度を低下させることに成功した。さらに、猫のGM2ガングリオシドーシスに対しては、抗炎症療法を試行し、本治療が延命効果を有する可能性を示唆した。一方、次の研究に継続発展する新規の動物遺伝病を数件同定した。