著者
倉島 健 岩田 具治 入江 豪 藤村 考
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. LOIS, ライフインテリジェンスとオフィス情報システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.450, pp.55-60, 2010-02-25
被引用文献数
4

写真共有サイトのジオタグ情報を人々の旅行履歴として利用したトラベルルート推薦手法を提案する.提案法においては,現在地からアクセスしやすい場所と自分の興味に合致した場所に旅行者は移動しやすいと仮定し,写真共有サイトのジオタグ情報からフォトグラファーの行動モデルを生成する.この行動モデルを用いて,現在地,空き時間,個人の興味に合うトラベルルート推薦を実現する.写真共有サイトFlickrの71,718人に関するジオタグ情報に基づく実験により,行動予測における提案法の有効性を示す.
著者
山下 満智子 川島 隆太 岩田 一樹 保手浜 勝 太尾 小千津 高倉 美香
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.125-129, 2006 (Released:2006-11-14)
参考文献数
15
被引用文献数
3

最新脳科学の研究成果に注目して, 脳の健康という視点で「調理の効用」を研究するために, 無侵襲・低拘束性の近赤外線計測装置により調理中の脳活動を計測した。  計測に使用した近赤外線計測装置は, 頭皮から20ミリほどの深さにある大脳皮質の活性状態を近赤外線の照射によって計測する装置である。本実験の脳の測定部位は, 大脳の前頭連合野で, 運動・感覚・認知・言語・思考など高次脳機能に関連する。  実験方法は, 成人女性15名に対して, 夕食の献立を考える, 野菜を切る, ガスコンロを使って炒める, 皿に盛り付けるという作業を課し, 各調理の手順における脳活動の計測を行った。  計測の結果, 夕食の献立を考える, 野菜を切る, ガスコンロを使って炒める, 皿に盛り付けるという調理の各手順で, 左右の大脳半球の前頭連合野の活性化が確認された。  音読や計算による脳の活性化の確認やそれらを組み合わせた学習療法による実践的研究や本実験結果から「調理を行うこと」によって前頭連合野を鍛えることができると考えられ, 前頭連合野の働きである他者とのコミュニケーションや身辺自立, 創造力など社会生活に必要な能力の向上が期待されることが示唆された。
著者
岩田 正美 平野 隆之
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-50, 1986-05-25

The number of the recipients of public assistance living in public housing has recently increased. There is a tendency to construct public housing in outskirts of big cities. Naturally, the recipients of public assistance concentrate in those areas. In this study we tried to investigate the background of this phenomena through analyzing 2014 case records of the recipients of public assistance in one particular city area. We have found out that the recipients of public assistance living in public housing have some characteristics which differ them from the recipients living in non-public housing. Their families are bigger, their housing situation has been secure for a comparatively long period of time, and they are "multi-problem families". If these families had not been provided with public housing, they wouldn't be able to live together ; the family structure would probably break down. Public assistance and public housing help consolidate the family, but don't solve their problems. Such families remain to be "multiproblem families" and conseqeuently they continue to receive public assistance for a very long time, sometimes through the next generation. We belive that concentration of such families in a certain city area creates "new slums".
著者
関谷 洋之 岩田 圭弘
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

キセノン(Xe)は、暗黒物質探索、二重ベータ崩壊探索等の稀事象探索に広く用いられる重要な元素であり、バックグラウンドとなる不純物をを如何に抑えられるかがキーポイントになる。キセノン中に含まれる放射性希ガス不純物の中で、アルゴン(39Ar)及びクリプトン(85Kr)は蒸留により容易に除去できる。しかし、ラドン(222Rn)は検出器の構成物質からキセノン中へ定常的に放出されるため、長時間にわたり連続的にラドンを除去する手法を開発する必要があった。そこで、本研究ではレーザーを用いた共鳴イオン化技術に着目し、ラドンのみを選択的にイオン化して除去する斬新な手法を導入し、原理検証に成功した。
著者
伊藤 実和 才藤 栄一 岡田 誠 岩田 絵美 水野 元実 坂田 三貴 寺西 利生 林 正康
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, 2005-04-20

【目的】短下肢装具(AFO)は最も使用されている装具である.しかし,機能的には優れていても外観に欠点があったり,逆に外観が良好でも機能的に問題があったり,さらに患者の状態変化に対応しにくいなど,外観性,機能性,調整性を同時に満たすものは現存しない.我々は,この問題を解決すべく調節機能付き後方平板支柱型AFO(Adjustable Posterior Strut AFO:APS)の開発を進めている.APSは理論上,効果的な内外反(ねじれ)防止機能が期待できる.今回,健常人と片麻痺患者を対象に本装具と従来型AFOの歩行時の下腿・足部分の底背屈と内外反(ねじれ)を比較検討した.<BR>【方法】対象は健常人1名,左片麻痺患者2名とした.症例の歩行レベルは,両名ともT字杖を使用しShoehorn Brace(SHB)で修正自立であった.健常人では,評価用APSを用い,4種類のカーボン支柱(No1:硬ーNo4:軟)を使用した.APSの足関節角度条件は,背屈0度固定と背屈域0~35度遊動の2設定とした.比較する従来型AFOは可撓性の異なる3種類のSHBを使用した.片麻痺患者では,APSを個別に採型,作製した.カーボン支柱には症例に最も適した軟タイプ(No4)とした.足関節角度設定はそれぞれ背屈域5~35度遊動,背屈域5~30度遊動とした.比較には症例が従来から使用していたSHBを用いた.運動計測にはゴニオメーターと3次元動作解析装置を使用した.APSとSHBを装着してトレッドミル歩行を20秒間行ない,歩行中の足関節底背屈角度と下腿部のねじれ角度を計測した.<BR>【結果】健常人においては,APSの支柱が軟らかい程,SHBでは最狭部トリミングが小さい程,底背屈角度とねじれが大きくなった.両装具を比較すると,底背屈運動範囲は,大きい順にAPS背屈遊動,APS固定,SHBとなり,逆にねじれの大きさは,SHB,APS固定,APS背屈遊動の順となった.運動の軌跡をみるとAPSではSHBに比べ底背屈がスムーズで,踵接地後の底屈と立脚後期の十分な背屈が得られた.2症例の検討でも,SHBに比してAPSでより底背屈角度が大きく,ねじれが小さい傾向にあった.APSでは立脚後期に十分な背屈が得られ,立脚期に起こるねじれも緩やかであった.2例ともAPS歩行ではSHB歩行より歩行速度上昇,ストライド増加,ケイデンス減少が得られた.<BR>【考察】健常者と片麻痺患者の両者において,APS(固定,背屈遊動)では,SHBに比べ,踵接地後の足関節底屈や立脚後期の背屈など歩行時の底背屈がスムーズで,足関節の底背屈が十分に得られる際にもねじれは少ないという良好な機能性を示した.片麻痺患者では,この機能性が時間因子や距離因子にも影響を与えていたと考えられた.今後は症例数を追加し,APSの機能性を確認したい.
著者
田辺 信介 岩田 久人 高菅 卓三 高橋 真 仲山 慶 滝上 英孝 磯部 友彦 鈴木 剛
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

POPs候補物質(有機臭素系難燃剤など)に注目し、途上地域を中心にその分析法の開発、広域汚染の実態解明、廃棄物投棄場等汚染源の解析、生物蓄積の特徴、バイオアッセイ等による影響評価、過去の汚染の復元と将来予測のサブテーマに取り組み、環境改善やリスク軽減のための科学的根拠を国際社会に提示するとともに、当該研究分野においてアジアの広域にまたがる包括的な情報を蓄積することに成功した。
著者
杉崎 健司 岩田 照史 竹内 雍
出版者
Japan Society on Water Environment
雑誌
水環境学会誌 = Journal of Japan Society on Water Environment (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.285-291, 2000-05-10
被引用文献数
2 4

Eutrophication proceeds in many lakes, marshes and ponds with an unusual growth of algae so that it became a serious problem in especially urban areas. Though many approaches were made to improve the eutrophicati on in the past, e.g., oxidation treatments represented by ultraviolet radiation and ozonation showed rather high effect to reduce algae. Also, an electric disinfection treatment represented by use of electrolysis to produce strongly acidic water is attracting more attention than before, because of strongly acidic and to produce a free chlorine.<br>The authors performed an experimental study focusing on the electrolytic oxidation treatment of algae in lake and marsh water, to examine its effect on the disinfection of algae using a batch- and circulation-type apparatus of laboratory scale.<br>As for the electrolytic oxidation treatment, it showed a great effect on the disinfection of algae. It was found also that there was a correlation between the effect and the quantity of electricity. It was found, further more, that a free chlorine produced by the electrolytic oxidation enhanced the disinfection of algae. On a continuous electrolytic oxidation treatment, the electrolytic cell used for the experiment made more than 24s · A in contact reaction time necessary.
著者
岩田 利枝 吉澤 望 望月 悦子 平手 小太郎 宗方 淳 明石 行生
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では東日本大震災後の首都圏節電下のオフィスの光環境の実態の記録を残すとともに、そこからオフィス照明の基本要件を抽出し、省エネルギー照明手法の開発を行った。節電によって、照明のエネルギー削減はランプや器具の効率の向上の他に、必要照度を下げる、照射面積を小さくする、照射時間を短くすることによる効果が大きいことが示された。これらは「光環境の質を落とす」と考えられ触れられてこなかった方法である。照明の基本的要件の見直しから着手し、照射面積・時間、昼光利用を考え、人の視覚特性を利用した「不均一・変動照明」による照明手法の提案を行い、これらに基づいた新しい照明基準作成の準備を行った。
著者
奥島 啓弐 岩田 一明
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集 (ISSN:00290270)
巻号頁・発行日
vol.28, no.193, pp.1034-1043, 1962-09-25

Cutting mechanism of materials accompanying strain-hardening was analysed on the basis of the flow region concept. The effect of microstructure of materials on machinability of carbon steels (S15C, S40C, and SK4) was investigated from the viewpoint of chip formation. The effect of microstructure of materials on the cutting force, the location and the size of the flow region, the mean friction angle on the tool face, the conventional shear angle were discussed. The effects of feed and side rake angle on cutting process were also discussed. It was found out that inclination of the starting boundary line of the flow region was almost constant, and inclination of the end boundary line and the size of the flow region showed a maximum value at the lamellar portion of pearlite of 20 to 30%. Shear stress in the flow region and the conventional shear stress showed a tendency to decrease with an increase in the lamellar portion of pearlite.
著者
磯貝 明 木村 聡 岩田 忠久 和田 昌久 五十嵐 圭日子 齋藤 継之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

結晶性ミクロフィブリルを有する構造多糖のセルロースおよびキチン、貯蔵多糖のカードランについて従来型および新規TEMPO触媒酸化を適用し、反応条件と酸化多糖の化学構造、ナノ構造、分子量変化を明らかにするとともに、新たな酸化機構を見出した。得られたバイオ系ナノフィブリル表面を位置選択的に高効率で改質する方法を検討し、生分解性のスイッチ機能付与、親水性から疎水性へのスイッチ機能付与方法を構築した。得られたバイオ系ナノフィブリルから各種複合材料を調製して構造および特性を検討し、軽量高強度化、ガスバリア性・選択分離性、重金属捕捉機能、透明導電性など、新規バイオ系ナノ材料として優れた特性を見出した。
著者
岩田 和之
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

日本で実施されている政策評価の多くは定性的なものが主であり、定量的に行われているものは数少ない。そこで、本研究では、昨年度に引き続き、日本で実施されている自動車排気ガス規制を取り上げ、定量的な政策評価の重要性を示した。昨年度は規制が始まる前の情報を用いた事前評価を行ったが、今年度は規制後の情報を用いた事後評価も試みた。現在、日本では3種類の自動車排ガス規制が用いられている。それらは、古くからある単体規制と近年になり施行された車種規制、運行規制である。単体規制は新車を対象とした汚染物質の原単位規制であり、車種規制と運行規制は旧車を対象とした直接規制である。ただし、運行規制は自治体条例の下で実施されている規制であり前者と比べると規制順守の度合いは弱いものとなっている。しかし、実際にこれらの規制がどの程度の大気環境改善に寄与したのかどうかは明らかとなっていない。そこで、日本の長期大気環境測定情報を用いて、この点について検証を試みた。分析の結果、単体規制と車種規制は大気環境を改善していることが示された。一方で、運行規制の効果は限定的であった。したがって、条例のような大きな強制力を持たない規制については、遵守を担保するような制度設計を行う必要がある。また、大気環境改善効果を見ると、単体規制のそれは他の2規制に比べて大きなものであることが明らかとなった。つまり、まず、新車の環境能力を改善させ、その後に旧車から新車への代替を促進させるような制度の在り方が望ましいことを示していよう。
著者
岩田 年浩 須賀 竜哉 田村 亜由美 吉岡 展祥
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-11, 2006-07-12
被引用文献数
2

個人での資産運用のこれからの形ともいえる株式投資において,株価の動きを予測することの重要性はますます高まっていくだろう.そこで本研究では,安定性という観点から新たな分析方法を打ち出した.すなわち,より規則性の高いものはより予測しやすく,利益の確保においてより確実性が高いということから,直後の株価予測ではなくむしろ利ざやを得るためのよりリスクの少ない,または確実な銘柄選びということを考えたのである.そしてその分析を誰しもが手軽に行えるよう独自のソフトを開発し,その有益性を実証した.
著者
繁野 麻衣子 山本 芳嗣 吉瀬 章子 八森 正泰 岩田 覚 後藤 順哉
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ネットワーク理論において横の広がりとなる基礎理論の構築と縦の広がりを作る実社会に適応したモデルの伸張を行い,基礎問題と拡張問題の両方に対して,アルゴリズム開発を行った.具体的には,修正可能性を考慮したネットワーク上の配置問題に対するアルゴリズム提案,通信ネットワークにおける耐故障性の指標開発,社会ネットワークにおけるコミュニティ抽出のハイパーグラフ上への拡張,グラフの向き付けに関する基本的性質やアルゴリズム開発などを行った.
著者
岩田 知之
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

アパタイト型ケイ酸ランタンLa_<9.33-2x>(SiO_4)_6O_<2-3x>は,酸化物イオン伝導体として実用化されている安定化ジルコニアと比較して700℃以下の低温でより高いイオン伝導度を示す材料であり,SOFCへの応用が期待されている.ケイ酸ランタンが高いイオン伝導度を示す本質的な理由が議論され,現時点では「格子間酸素イオンの寄与が最も重要である」と考えられているが,その化学組成を厳密に定量分析した研究例はほぼ皆無であり,不純物が混在した試料を解析している場合が多々認められる.ケイ酸ランタン(x=0)の高分解能X線粉末回折パターンから結晶構造を精密化して,酸化物イオンが比較的動きにくい室温と,比較的動きやすい800℃の結晶構造を比較している.詳細な結晶構造解析は,最大エントロピー法で電子密度分布を三次元可視化することで行なっている.さらにLaとO原子に欠陥を持つアパタイト型ケイ酸ランタン(x>0)の存在を初めて明らかにした.xの増加とともに,席占有率g(La1)とg(La2),g(O4)は減少した.一次元トンネル中の酸化物イオンO4の異方性原子変位パラメターの値は,xの増加(g(O4)の減少)にともない減少した.ごく最近の研究では,Bechade博士と共同で,分子動力学法とbond valence sum法を用い,格子間隙の酸化物イオンサイトと伝導メカニズムを解明している.以上の知見を踏まえて,ケイ酸ランタンの温度と化学組成による結晶構造の変化を基に,イオン伝導度と結晶構造との関連を解明した.
著者
櫻井 啓志 宮本 貴朗 青木 茂樹 岩田 基 汐崎 陽
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IT, 情報理論 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.442, pp.213-220, 2011-02-24

近年,通常のキーボード操作による非定型文を対象としたキーストロークの特徴を利用したユーザ認証に関する研究が行われている.本稿では,複数のキーストロークの特徴から得られる指標を組み合わせてユーザを認証する手法を提案する.まず,予め登録しておいた複数のユーザのテンプレートを用いて,各指標のパラメータをユーザごとに適切な値に設定する.次に,設定したパラメータを用いて,ニューラルネットワークの結合重み係数をユーザごとに学習させる.そして,ログイン後に文字を入力することに,テンプレートとの類似度を各指標からそれぞれ算出し,これらの値をニューラルネットワークに入力し,ユーザを認証する.提案手法を用いて実験を行った結果,他人受入率が0.17%,本人拒否率が2.38%となり,従来手法と比較して高い認証精度が得られた.
著者
岩田 直也
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度(2010年度)の主な研究成果は、8月に東京で開催された「国際プラトン学会」にて口頭発表を行った、プラトン『国家』第五巻末の議論での「対象」の意味の再検討である。プラトンは、ここでの議論において、「知識」と「思わく」を「能力」と定義し、そのそれぞれに「あるもの」と「ありかつあらぬもの」という異なる「対象」を振り分け、両者の心的状態を明確に区別した。しかしながら、多くの解釈者たちは、この「あるもの」と「ありかつあらぬもの」をそれぞれ「真実在」(イデア)と「感覚物」と伝統的にみなしてきた。その考えに従うならば、プラトンによるこの区別は「私たちが知りうるのはイデアのみで、自分たちの身の回りの世界については何も知りえない」といういわゆる「二世界説」に帰着する他はない。しかしながら、この「二世界説」は、われわれ現代の認識論的立場から到底受け入れられないばかりでなく、プラトン自身の他の対話篇、さらには『国家』における彼の哲人王のプログラム自体とも重大な齪齬をきたすため、それがプラトンの真意であったかどうかは慎重に判断する必要がある。私は今回の発表で、この「二世界説」問題に取り組む多くの論者の中でも、とりわけ影響力のあるファインとゴンザレスの解釈を詳細に分析し、両者の見解もまた伝統的解釈と同様に「対象」を「外延的」に捉えているために、問題解決に向けて不十分であることを指摘した。対して、私自身は「能力」の「対象」をその「仕事」と決して切り離すことができない「内包的対象」と捉えることで「二世界説」問題を根本的に解決することを試みた。この見解は、学会のProceedingsの形式で紙媒体としてすでに発表されている。なお、口頭発表での議論を踏まえた正式な論文は、本学会のSelected Papersに投稿し、現在はその査読結果を待っているところである。