著者
久保 夏樹 村山 顕人 真鍋 陸太郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.976-983, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22

本研究は、米国ポートランド発祥のエコディストリクト認証制度を対象に、既成市街地において持続可能なまちづくりを展開する際に重視される点を明らかにすることを目的とする。地区スケールの持続性評価ツールの中で、エコディストリクト認証制度はパフォーマンス基準と市民参加を組み合わせて進化したプロセスベースツールとして分類された。エコディストリクトの枠組み開発の過程では、開発当初の環境面が重視されたサステナビリティ戦略から、地区の公正性やレジリエンスに視野が広がり、計画プロセスにおいて地区のリーダーシップが重要な要素として取り入れられた。エコディストリクトの枠組みと指標は地域の特性に合わせた目標設定が可能であり、枠組み自体が、地域で議論する際のコミュニケーションツールや教育ツールとして機能している。また、エコディストリクトが適用された15事例の分析より、枠組みは既存地区の再生における活用、コミュニティ再生における活用、開発プロセスにおける活用の3つの活用がみられた。
著者
石井 僚 村山 航 福住 紀明 石川 信一 大谷 和大 榊 美知子 鈴木 高志 田中 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.493-502, 2019
被引用文献数
2

<p>The study described here developed a short surrogate index for the children's socioeconomic status (SES) using house possessions and investigated its validity. In Study 1, 192 pairs of parents and their middle school-aged children participated in a questionnaire survey. Based on the results, three items regarding possessions at home were selected for the short surrogate index out of the 17 items used in the Programme for International Student Assessment. Furthermore, the short surrogate index for the children's SES was related to family income, parents' academic background, and hierarchy consciousness. In addition, it was found to have good test-retest reliability, thereby demonstrating its validity. To confirm that the item selection and validity in Study 1 did not involve sampling error, Study 2 investigated the reproducibility of validity with a different sample. One hundred ninetyfive pairs of parents and their middle school-based children responded to the questionnaire, and the results redemonstrated the index's validity. Studies in different disciplines using the short surrogate index can be conducted because SES can be both the main and confounding variable.</p>
著者
村山 良之 小田 隆史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2021 (Released:2021-03-29)

1 東日本大震災における大川小学校の被災 2004年3月,宮城県第三次地震被害想定報告書が公表された。同報告書内の宮城県沖地震(連動)「津波浸水予測図」(https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/95893.pdf)によれば,石巻市立大川小学校(当時)や付近の集落(釜谷)までは津波浸水が及ばないと予測され,同校は地区の避難所に指定されていた。1933年昭和三陸津波もここには到達せず,1960年チリ地震津波についても不明と,この地図には記されている。しかし,想定地震よりもはるかに大規模な東北地方太平洋沖地震による津波は,大川小校舎2階の屋根に達し,釜谷を壊滅させた。全校児童108名のうち74名(津波襲来時在校の76[MOユ1] 名のうち72名),教職員13名のうち10名(同11名のうち10名)が,死亡または行方不明となった(大川小事故検証報告書,2014による)。東日本大震災では,引き渡し後の児童生徒が多く犠牲になった(115名,毎日新聞2011年8月12日)が,ここは学校管理下で児童生徒が亡くなった(ほぼ唯一の)事例であった。2 大川小学校津波訴訟判決の骨子 2014年,第三者委員会による「大川小学校事故検証報告書」発表の後,一部の児童のご遺族によって国家賠償訴訟が起こされた。2016年の第1審判決では,原告側が勝訴したが,マニュアルの不備等の事前防災の過失は免責された。しかし,第2審判決では事前の備えの不備が厳しく認定され,原告側の全面勝訴となり,2019年最高裁が上告を棄却し,この判決が確定した。 同判決における学校防災上の指摘は,以下の通りである(宮城県学校防災体制在り方検討会議報告書,2020を一部改変)。① 学校が安全確保義務を遺漏なく履行するために必要とされる知識及び経験は,地域住民が有している平均的な知識及び経験よりも,遙かに高いレベルのものでなければならない(校長等は、かかる知見を収集・蓄積できる立場にあった)。② 学校が津波によって被災する可能性があるかどうかを検討するに際しては, 津波浸水域予測を概略の想定結果と捉えた上で, 実際の立地条件に照らしたより詳細な検討をすべき 。③ 学校は,独自の立場から津波ハザードマップ及び地域防災計画の信頼性等について批判的に検討すべき。④ 学校は,危機管理マニュアルに,児童を安全に避難させるのに適した避難場所を定め,かつ避難経路及び避難方法を記載すべき。⑤ 教育委員会は学校に対し, 学校の実情に応じて,危機等発生時に教職員が取るべき措置の具体的内容及び手順を定めた 危機管理マニュアルの作成を指導し,地域の実情や在校児童の実態を踏まえた内容となっているかを確認し,不備がある時にはその是正を指示・指導すべき。 災害のメカニズムの理解と,ハザードマップの想定外を含むリスクを踏まえ,自校化された防災を,学校に求めるものである。3 大川小学校判決と地理学が果たすべき役割 大川小判決確定を受けて,「在り方検討会」は,2020年12月「宮城県学校防災体制在り方検討会議報告書」を発表し,判決の指摘や従前の取組を踏まえて,以下の基本方針を提示した。① 教職員の様々な状況下における災害対応力の強化② 児童生徒等の自らの命を守り他者を助ける力の育成③ 地域の災害特性等を踏まえた実効性のある学校防災体制の整備④ 地域や関係機関等との連携による地域ぐるみの学校防災体制の構築 ここにある③だけでなく,4つの全てにおいて,学校や学区の災害特性について学校教員が適切に把握できることが前提となり,専門家や地域住民との連携が求められる。そのためには,災害に対する土地条件として指標性が高い「地形」の理解が有効かつ不可欠である。このことは,地理学界では常識と言えるが,学校現場(および一般)には浸透していない(小田ほか, 2020)。ハザードマップの想定外をも把握できるよう,たとえば「地形を踏まえたハザードマップ3段階読図法」(村山,2019)等の教育が求められよう。 大川小判決は,教員研修や教員養成課程において,地理学や地理教育が果たすべき役割が大きいことを示している。2019年度からの教職課程で必修化された学校安全に関する授業や免許更新講習等において,また,高校で必修化される「地理総合」において,地理学および地理教育は,最低限必要な地形理解や地図読図力の向上に貢献し,もって学校防災を支える担い手を増やしていく必要があると発表者らは考える。
著者
村山 優子
雑誌
マルチメディア通信と分散処理ワークショップ論文集
巻号頁・発行日
vol.1996, no.1, pp.215-220, 1996-10-23

画像情報におけるセキュリティの分野では,現在,steganographyとよばれる情報隠し技術がさかんに研究されている.これは,画像情報の中にメッセージを気づかれないように挿入するなど情報の存在を隠す技術である.この他,安全でない環境で,他に気づかれずに情報を通信しあうための(Subliminal Channel)などを含めたcovert channelと呼ばれる「隠れ通信路」などの概念において,識閾下効果の問題が,どのような位置を占めるのかを明確にする.
著者
川畑 明紀子 桃井 康行 村山 井上 美穂 岩崎 利郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.1103-1107, 2005-11-25
参考文献数
35

イヌmdr1遺伝子における4塩基の欠失を日本で飼育されている8犬種, 193頭の犬で調べた.変異遺伝子はコリー, オーストラリアン・シェパード, シェットランドシープドッグで見つかり, 変異遺伝子頻度はそれぞれ58.3%, 33.3%, 1.2%だった.遺伝子型がMDR1/MDR1の犬の末梢血単核球ではMDR1蛋白は検出されたが, mdr1-1Δ/mdr1-1Δのコリーの末梢血単核球では検出されなかった.MDR1の基質であるローダミン123の排泄は遺伝子型がMDR1/MDR1のリンパ球では見られ, その排泄はMDR1阻害剤であるベラパミルによって阻害された.一方, 遺伝子型がmdr1-1Δ/mdr1-1Δのリンパ球ではローダミン123の排泄はわずかであった.これらの結果から, 変異mdr1遺伝子はコリー種の犬に高率に存在し, 遺伝子型がmdr1-1Δ/mdr1-1Δの犬は機能的なMDR1を持たないことが示唆された.
著者
村山 弘明 富永 浩之
雑誌
第81回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, no.1, pp.575-576, 2019-02-28

近年,議論や評決のシミュレーションとして,トークゲームが注目を集めている.本研究では,「語彙大富豪」を題材として,チャットアプリ上での運営ツールを開発している.このゲームは,プレイヤが選んだ単語を手札とした,トランプの「大富豪」のようなゲームである.単語の強弱は,手番のプレイヤの理由説明の後,プレイヤ間の協議と多数決で決定する.運営ツールでは,オープンなオンライン上で,トークゲームがプレイできる環境を目指す.そのため,初心者を対象とした打手支援や,悪意のあるプレイヤの排除が必要不可欠である.本論では,オンラインでゲームを運営するのに必要な機能を紹介する.
著者
大熊 仁美 鈴木 修 村山 幸照
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.97, 2007

【目的】当会では約1年毎に各部門のセラピストの異動があり、毎年4~6月に各部門で技術的な新人教育が実施されている。しかし、訪問業務内では技術的な部分以外でも様々な問題を経験する事が少なくない。今回、過去2年間に報告された訪問業務におけるトラブル・事故を分析し、今後の教育内容について検討した。<BR>【方法】平成17年1月~平成18年12月に当院の訪問リハビリテーション(以下リハ)センター松本地区で発生したヒヤリハット・事故・苦情を、報告書をもとに後方視的に調査した。平成18年12月現在、当センター松本地区のセラピストは理学療法士11名、作業療法士6名、言語聴覚士2名で、職種経験年数1~3年13名、4~6年3名、7~9年3名、訪問経験年数1年12名、2年4名、3年3名である。<BR>【結果】2年間の総訪問件数34292件のうち報告のあったケースは48件であった。内訳は、車両関連が21件(交通事故16件、交通違反2件、交通被害3件)、情報共有(連携)に関する苦情が22件(訪問予定の確認ミス16件、連携不足5件、その他1件)、リハ実施時の事故が5件(歩行時の転倒2件、移乗時の転倒1件、床上動作時の転倒1件、その他1件)であった。交通事故は、82%が午後の時間帯、69%が利用者駐車場、56%がバック時に発生していた。訪問予定の確認ミスは、50%が介入1ヶ月以内の新規の利用者で発生しており、転倒事故は全て介入開始4ヶ月以内に発生していた。また、セラピストの部署異動が行われる12月~3月頃にトラブル・事故が多発する傾向にあり、セラピストの訪問経験が4ヶ月以内の期間で49%、1年以内の期間で82%のトラブル・事故が発生していた。さらに、一人当たり平均14 時間以上の超過勤務となった月にトラブル・事故が多発している傾向を認めた。<BR>【考察】調査結果より、訪問業務に関するトラブル・事故は、職種経験よりも訪問経験の浅さが強く影響していることが示唆され、利用者側のフィールドで実施するという訪問業務の特殊性を考慮した教育を、訪問経験の少ない時期にセラピスト行う必要性が確認された。内容としては、1)過去のトラブル・事故の傾向の把握、2)緊急時の対応(リハ中の事故・急変、車両トラブル、苦情等)、3)接遇、4)在宅でのリスク管理と指導、5)介護保険制度、などの実践に即した教育研修を実施し、周知徹底することが課題であると考える。また、少人数によるグループ管理体制の確立とともに、グループ内でのon the job trainingの内容を具体化し業務の効率化を図り、適切な業務量を維持していく必要性が示唆された。
著者
村山 研一
出版者
地域ブランド研究会
雑誌
地域ブランド研究 (ISSN:18812155)
巻号頁・発行日
no.2, pp.29-56, 2006-12

本稿では、北海道の美瑛町と小樽市の二事例を取り上げ、地域の知名度と価値的なイメージがどのようにして形成されるかを取り上げる。美瑛町は、かつては知名度の低い場所であった。また、小樽には「斜陽の街」というマイナスのイメージがっきまとっていた。しかし、1980年代の終わり頃から、美瑛は「丘の街」として、小樽は「運河と硝子細工の街」として知られるようになり、多くの観光客を集めるようになった。この2つの地域において生じた出来事とその意図せざる結果について、プロセスを追いながら地域のブランド化が達成されるために必要な諸条件(特に視覚的シンボルの重要性)と諸課題について論じる。 / In this essay, I take two cases of place branding and consider how positive images of places are created. Biei is a small town in Hokkaido, situated in farm areas, but formerly few people knew Biei. But it is now well-known as the Town of Hills and many tourists visit to Biei. Otaru was known as an example of sunset city, but now is well-known as the City of Canals and Glassblowing and a tourist spot. I analyze the process of changing or creating the images of them, and indicate the importance of visual symbols (icons) witch visualize and typify the positive elements of those places.
著者
村山 祐司
出版者
THE TOHOKU GEOGRAPHICAL ASSOCIATION
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.224-235, 1982
被引用文献数
2 3

"Urban system" is defined as an aggregate of interrelated sets of cities which are interdependent in such a way that any significant change in economic activity, occupational structure, total income or population of one member city will directly bring about some modification of the other set members (Pred, 1977). The study of urban systems has moved from the static analysis in the 1960's to the dynamic one in the 1970's and it has linked with the study of spatial diffusion which puts stress on the spatial process.<br>This paper attempts to clarify the diffusion patterns of innovation in the three levels of urban systems—international, national and regional, employing the Lions Club as the index. Japan is selected as the case study of the national level, and Yamanashi Prefecture as the case study of the regional level.<br>Several primary findings might be summarized as follows: (1) The peaks of diffusion in the international, national and regional levels were in the 1950's, in around 1960 and in around 1965, respectively, and the distinct time lag of diffusion was recognized from the higher level to the lower level. On the other hand, the regional level has the highest gradient and the international level the lowest in terms of the regression lines between the years of diffusion and the population size (Fig. 3, 7 and 12), indicating that spread of diffusion has been accelerated with time from the international level to the regional level. (2) In the national and regional levels most of the links of the diffusion channels were in accord with those of the nodal structures. Thus in those two levels innovation has been diffused through the socio-economic linkages with the strong interdependency, while in the international level the diffusion channels have been greatly influenced rather by the political structures and the historical circumstances.
著者
天田 重庚 玉木 恕乎 村山 雄二郎
出版者
公益社団法人 日本マリンエンジニアリング学会
雑誌
日本舶用機関学会誌 (ISSN:03883051)
巻号頁・発行日
vol.19, no.8, pp.627-633, 1984-08-01 (Released:2010-05-31)
参考文献数
24

With the increased emphasis on energy conservation and fuel economy, the development of energy-storage devices has gained considerable momentum. Flywheelss have potential applications in various fixed-base applications, such as wind- and solar-energy generations and utility load leveling. The application of a flywheel energy storage system to marine engines is tentatively evaluated based on the current technology level, in particular, the size of rotors made of homogeneous metal alloys and of composite materials is determined for the gross tonnage of ships and their voyage distance. The flywheel on the ship, which is subjected to ocean waves and maneuvering, gives rise to the gyrodynamic effect. The influences of the reactions caused by this effect on the motion of the ship are analyzed.
著者
中村 謙介 村山 和子 太田 東吾 貝田 豊郷 佐橋 佳郎 富田 寛 村山 暉之 盛 克巳
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.221-225, 1989-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

咽喉痛, 疲労倦怠感を主訴とした夏風邪の患者に麻黄附子細辛湯加甘草を与えたところ, 風邪症状と共に疲労倦怠感が消失した。以後患者は風邪とは無関係に疲労倦怠感の治療のために本方を服用するようになった。この症例にヒントを得て, 疲労倦怠感を主訴とする虚弱体質, 自律神経失調症, 術後疲労に本方を投与し効果を得ている。いまだ少数であるが印象に残った数例を報告し, 本方の有効な疲労倦怠感を明確にする目的で, 患者の自他覚症状の病態分類を試みた。この結果麻黄附子細辛湯証は陰証寒候, 虚証, 表証, 肺 (呼吸器) 症状, 水毒の五つの病態の混在したものであり, このうちの虚証が顕著となった易疲労倦怠に本方が有効であると結論した。
著者
八尾 眞太郎 村山 恭平
雑誌
地盤事故・災害における法地盤工学問題ワークショップ
巻号頁・発行日
2012

地盤事故・災害における法地盤工学問題ワークショップ, 京都大学防災研究所 防災研究所セミナー室III (E-517D), 2012/01/13-14
著者
村山 顕人 小泉 秀樹 大方 潤一郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.829-834, 2003-10-25
参考文献数
16
被引用文献数
2

都市空間計画の策定は、都市の現在そして未来の状況を見据えながら、市民、企業、政府、その他団体等の多様な主体の都市空間に対する要求を将来像として整合的・統括的にまとめ、その実現手段を確保する取り組みである。そして、その中心的作業は、様々な要求を両立させる空間的解決策を導出することであると言える。よって、魅力的な都市空間を創出するためには、計画策定において創造的な空間的解決策を導出する技法の開発が必要であるが、これまで、計画策定への多様な主体の関与を前提としてそうした技法に着目した研究はない。本研究では、米国オレゴン州ポートランド・セントラル・シティ計画(Portland Central City Plan:以下「CCP」と記す)策定の事例を取り上げ、そこで適用された空間的解決策の導出技法を特定・考察することを目的とする。 本研究では、CCPの計画策定関連資料を収集し、次の手順でそれらの分析を行う。まず、CCP策定過程の各段階において検討・提示された空間的解決策の内容を再整理する。次に、空間的解決策の進化及び関連報告書等の分析に基づき、空間的解決策を導出した過程・作業を整理する。そして、最後に、そこで適用された空間的解決策の導出技法を特定・考察する。 本研究で特定された空間的解決策の導出技法は次の通りである。 (1) 共通要素と非共通要素を俊別した計画案作成技法 文章で説明された提案の分析・空間化の過程では、提案の共通要素と非共通要素(複数の方向性があり得る要素)の俊別作業が行われた上で、共通要素が空間構造モデルとして図化され、それを前提に非共通要素が5つの代替計画案として整理された。なお、共通要素とされた内容は、継続・発展させる既存の施策、既決定の事業、主要開発・整備可能エリアの位置など、既に一定の合意が形成されていたと考えられるものであった。 (2) 代替計画案検討・提示技法 土地利用計画素案の作成に向けて市民運営委員会に提示された5つの代替計画案は、いずれも現実的な土地利用代替案で、提案の非共通要素の整合的な組み合わせ(取引と選択)を分かりやすく表現するものであった。その導出過程では、共通要素(空間構造モデル)への適合、非共通要素同士の並立可能性の確認、現況調査結果から抽出された土地利用現況、開発・再開発可能性、市場将来予測等の前提条件の充足の作業が行われていた。なお、代替計画案の最終的な構成・表現に関わる技法の特定は、公開資料の限界により断念せざるを得ず、今後の研究課題として残される。 (3) 選択肢絞り込み技法 選択肢絞り込みには、5つの代替計画案の選択肢絞り込みと土地利用計画素案の選択肢絞り込みという2つの段階が存在していた。前者では、I-5フリーウェイ移設提案の例のように、事務局が選択肢の評価を行い、市民運営委員会がその結果に基づく選択肢絞り込みの判断を行ったことが推察される。そして、後者では、事務局による評価が困難であった選択肢が幅広い市民に土地利用計画素案として提示され、それに対する意見に基づき、市民運営委員会が選択肢絞り込みの判断を行おうとしていたのであった。 (4) 過程設計技法 CCP策定が始まる前に市民運営委員会が市議会の指導の下で予め決定していた過程は概略的なものに過ぎず、本研究の分析対象に相当する「代替計画案の作成」部分の詳細な過程は予め決定されていなかった。空間構造モデル、5つの代替計画案、土地利用計画素案という段階的な空間的解決策の検討・提示を特徴とする詳細な過程とそこにおける市民運営委員会、事務局、幅広い市民の役割は、市民運営委員会において、ビジョン・目標・方針提案第1次案の完成後、決定されていた。提案の内容を踏まえて適切に詳細な過程を設計する技法は、市民運営委員会及び幅広い市民の合意形成を伴う段階的な空間的解決策の導出に大いに貢献したものと考えられる。
著者
村山 絵美
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究課題は、ユタの「口寄せ」に注目し、「死者の声」を聞くと観念される行為が、依頼者のグリーフワークに与える影響について検討することを目的とするものである。平成26年度は、最終年度であるため、過去2年間の研究成果を踏まえた上での追加調査に重点が置かれた。具体的には、①平成26年6月に実施したフィールド調査、②追加資料の文献調査が挙げられる。まず、フィールド調査では、これまでに聞き取り調査を実施した関係者に、追加での聞き取りを行い、不明箇所を確認することができた。また、沖縄戦の慰霊の日である6月23日に、これまでの調査対象者に関連する慰霊祭に参加し、参与観察を行った。文献調査では、継続的に調査を行ってきた沖縄県立図書館郷土資料室を中心に追加調査を実施した。これにより分類作業のなかで明らかとなった不明箇所を確認することができた。今年度はフィールド調査、文献調査共に予定していた追加調査を実施することができたが、調査結果をまとめる予定であった後半の期間に療養を要する事態となり、これまでの成果を十分にまとめることができなかった。回復を待って、今後、随時成果をまとめ、公表していきたい。本研究課題の調査を通して、沖縄の戦後におけるユタの「口寄せ」に関する社会的な需要の状況を確認することができた。体系的な資料の整理などは、沖縄のシャーマニズムと近代化との関係を考える上でも、重要な成果といえる。ユタと依頼者とのやり取りのなかで「口寄せ」などのグリーフワークの役割を検討した研究は少ないため、研究の端緒を開くことができた意義は大きい。
著者
中島 光一 水道 裕久 江口 徹 中村 正一 杉原 邦夫 村山 洋二
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.463-471, 1987-06-28 (Released:2010-08-25)
参考文献数
45
被引用文献数
8 5

歯周病の化学療法をめざし, 歯周病原性細菌に有効な抗生物質を選択する目的で, 6菌種の歯周病原性細菌に対する10種の抗菌物質の最小生育阻止濃度, および歯肉縁下プラーク細菌に対する感受性を検討した。その結果, 被験抗菌物質の中でミノサイクリン (MINO), テトラサイクリン (TC), ペニシリンG (PCG), セフメタゾール, クリンダマイシン (CLDM), メトロニダゾール (MD), が黒色色素産生性Bacteroidesに強い抗菌性を示した。さらにMINOはほかの被験菌種に対しても強い抗菌作用を示した。また, 縁下プラーク細菌に対しては, MINO, PCGが強い抑制効果を示し, 1μg/mlの濃度で95%以上の細菌を抑制した。CLDM, TCは5μg/mlで同様の抑制効果を示したが, MD, クロルヘキシジンの抑制効果は低かった。以上の結果より, 歯周病原性細菌に対して強く幅広い抗菌活性を有するMINOは歯周病治療に用いる抗生物質として優先される薬剤であると考えられた。
著者
新井 祐未 石田 裕美 中西 明美 野末 みほ 阿部 彩 山本 妙子 村山 伸子
出版者
日本栄養・食糧学会
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.139-146, 2017 (Released:2017-11-16)

世帯収入別の児童の栄養素等摂取量に対する学校給食の寄与の違いを明らかにすることを目的とし,小学5年生の児童とその保護者を対象に調査を実施した。世帯収入は保護者への質問紙調査,児童の栄養素等摂取量は平日2日と休日2日の計4日間の食事調査(秤量・目安量記録法)により把握した。低収入群と低収入以外群に分け,摂取量および摂取量に占める学校給食の割合について共分散分析により比較した。低収入群は平日より休日に摂取量が有意に少ない栄養素が多く,特に昼食で有意な差が認められる栄養素が多かった。また平日,休日ともにたんぱく質摂取量が有意に少なかった。平日1日あたりの摂取量に占める学校給食の割合には有意な差が認められなかった。休日を含めた4日間の総摂取量に占める学校給食の割合は,たんぱく質,ビタミンA,食塩相当量で有意な差が認められ,いずれも低収入群の割合が低収入以外群の割合より高かった。4日間の摂取量に対する学校給食の寄与は,低収入以外群より低収入群の方が高いことが明らかとなった。
著者
村山 航
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.130-140, 2003-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
20 13

これまでの研究において, 学習方略使用と有効性の認知との関係に関し, 一貫した結果が得られていない。本研究では, その非一貫性を解消するため, 従来単一のものとして扱われていた学習方略の有効性の認知を, 短期的な有効性の認知 (目前のテストなどに対する有効性の認知) と, 長期的な有効性の認知 (長期的な学習に対する有効性の認知) の2つに分け, 学習者の方略使用に与える影響を比較検討した。また, その結果の学校間変動や達成目標という個人差変数の調整効果も併せて検討した。中学生・高校生12校1138人に, 予備調査によって作成した歴史の学習方略質問紙に対して回答してもらい, 階層線形モデルなどによる分析を行った。結果, 短期的な有効性の認知は方略使用に対し直接の効果を持つが, 長期的な有効性の認知は, 短期的な有効性の認知を媒介した間接的な効果しか持たないことが明らかになり, 学習方略の有効性の認知を分けて概念化することの有用性が示された。有意な学校間変動は見られなかった。また, 達成目標による調整効果はみられなかった。