著者
鈴木 和夫 福田 健二 梶 幹男 紙谷 智彦
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.80, pp.p1-23, 1988-12
被引用文献数
6

漏脂病はヒノキやヒノキアスナロ(アテ)の生立木樹幹から樹脂が異常に流出する現象であって,大正初期から林業上問題とされてきた。本病の病因については,いままでに雪圧説,害虫説,病原菌説などがあって,充分に納得できる説明が得られていなかった。ヒノキやヒノキアスナロの漏脂病の発生実態について詳細に調査した結果,漏脂病の病徴には,初期病徴として樹脂流出型,初期病徴の癒合・進展した型として漏脂型,さらにこれらの病患部に菌類が関与した溝腐型があり,この3つが漏脂病の典型的な病徴と考えられた。このような病徴を示す病患部は,地上1~2mの高さに最も多くみられた。このような病患部の樹幹上における発生状況は,積雪深と関係が深く,経時的に推移するものと考えられた。漏脂病の発生誘因について検討した結果,漏脂病は雪や寒さといった気象的因子を誘因として,内樹皮に傷害樹脂道を異常形成させて,樹脂流出型の初期病徴が形成されるものと考えられた。ヒノキやヒノキアスナロ生立木が,このような環境ストレスを引き続いて被るか,あるいは初期病徴が癒合・拡大して漏脂型へと進展し,また,凍裂などの物理的損傷部位や漏脂型病徴を呈する部位に菌類が関与すると,溝腐型病徴へ移行するものと考えられた。そして,このようなヒノキやヒノキアスナロ生立木からは,樹脂が異常に流下し続けるものと考えられた。The "Rooshi" pitch canker of Hinoki (Chamaecyparis obtusa) and Ate (Thujopsis dolabrata var. Hondai) is frequently observed in heavy snowfall regions as well as the northern part of Japan. Reforestation with Hinoki has become so widespread that the pitch canker is becoming one of the most serious disease. Empirically, the "Rooshi" pitch canker of Hinoki is supposed to be one of the restriction factors on natural distribution of Hinoki forest in Japan. However, there are few scientific papers on the disease. The cause of the disease has not been explained enough. From our survey, the "Rooshi" pitch canker is considered to be a disease complex rather than a discrete canker disease. The classic symptoms of the disease are classified into three types, that is, a bleeding type, a resinous sink type, and a grooved pitch canker type on the trunk of living tree. In this study, we discussed on the mechanisms of the development of "Rooshi" pitch canker. A bleeding type is supposed to be an incipient stage of "Rooshi" pitch canker and caused by abiotic stress factors such as cold and snowfall. This incipient stage of the disease develops to a resinous sink type on the trunk. And, finally, a grooved pitch canker is formed on the trunk accompanying fungi such as Sarea resinae and Pezicula livida (Cryptosporiopsis abietina).
著者
梶 理和子
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は、前年度に収集を行った、上演に関する記録や、芝居や劇作家に対する評価をはじめとする歴史資料を基に、王政復古以降の劇場が置かれた社会的、政治的状況の再構築を試みた。とりわけ、政情に翻弄され、様々な変遷に晒された十七世紀の英国演劇の伝統が、いかに受容されたかを探ることで、英国初の職業的女性劇作家(Aphra Behn)を誕生させた契機、またBehnの死後、女性作家ブームとでもいうべき、芝居や散文によって生計を立てる女性たちが一気に出現することとなった状況などに対して考察を行った。具体的には、歴史資料に照らしながら、Behnによる翻案の際の作家としての戦略を分析した。そこで、翻案劇を創作する際の原作となった劇場封鎖以前や内乱期のThomas Middleton, John Tatham, Thomas Killigrewといった作家たちの作品と比較することで、それまでの男性の手による英国演劇がどのように用いられたのかを検証した。さらに、Behnの活躍を経た後の1695-96年の上演シーズンに、4人の女性が商業演劇界に登場するといった現象に注目し、その後、十八世紀に活躍したSusanna Centlivre, Hannah Cowley, Elizabeth Inchbaldへとつながる「女性作家」の流れを再考し、後続の女性作家たちの中にBehnとそのジェンダー・ポリティクスがどのように受容されていったのかを見出すことで、英国初の職業的女性劇作家と見なされるAphra Behnの存在意義を明らかにした。
著者
八幡 俊男 清水 惠司 中林 博道 梶 豪雄 政平 訓貴
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

癌幹細胞は、悪性腫瘍を根治するために重要な標的として考えられている。本課題では、悪性脳腫瘍の細胞株から分離培養した癌幹細胞が、薬剤を細胞内から排出することで化学療法に耐性となる遺伝子(多剤耐性遺伝子)を高発現し、抗癌剤に対して低い感受性を示すことを明らかにした。また、癌精巣抗原遺伝子は、癌幹細胞においてエピジェネティックな因子の制御を受けて高発現することを見出し、免疫療法の標的分子となる可能性が示唆された。
著者
高木 幹雄 本多 嘉明 柴崎 亮介 内嶋 善兵衛 谷 宏 梶原 康司
出版者
東京理科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1)多数のパソコンをネットワークを介して並列に結合することで,多量のGACデータを効率的に自動処理するシステムを開発し,GACデータの処理を開始した。一年分のデータを約1ヵ月で処理することが可能となった。2)東南アジアを対象にして,ランドサット画像を自動モザイクし,さらにランドサット画像にNOAA画像を組み合わせることで,土地被覆分類をより効率的に,かつ正確に行う手法を開発した。時系列ランドサット画像から土地被覆変化を抽出する作業を行っている。3)土地被覆分類結果や,植生分類結果の現地検証用データとして撮影された地上写真を,ネットワークを介して分散データベースとして構築する為のソフトウェアを開発し,データベース化を行った。これにより,それぞれの撮影者が別個に作成したデータベースを統合的に共有することが出来る様になり,地上写真データを容易に蓄積することが可能となった。4)衛星データから時系列に得られた植生指標を,さらに気温や降水量のデータと組み合わせることにより,植生の季節変化と環境条件(気温,降水量)の空間的,時間的相関関係を明らかにすることが出来た。ユーラシア大陸では,特に寒冷地となる東シベリア地域では,森林が緑となるのが最も遅いものの,落葉するのも最も遅いこと等興味深い発見があった。5)土地の農業生産性推定を基礎とする土地利用変化の推定モデルに関して,そのフレームワークが確立され,タイ国を対象として検証を行った。また,生産性の推定の基礎としてアジア地域で最も重要な穀物である水稲に関する生産性推定モデルを開発した。6)衛星画像から推定される植生指標の信頼性を改善する為に,大気補正手法,地形補正手法などを開発し,実装を行い,NOAAデータから定期的に植生データを作成し,コンポジット画像を作成している。
著者
梶川 浩太郎 大内 幸雄
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近接場領域での非線形分光を実現することは、短時間で高感度な検出が可能な光学系が求められる。そのため、前回我々が報告したように近接場領域における非線形光学の観察には繰り返し周波数の高い超短パルスレーザーが用いられてきたが、数10ヘルツ程度の繰り返し周波数で10ナノ秒程度のパルス幅を持つレーザー光を用いた近接場領域における非線形光学の観察例はほとんどない。本研究では10ナノ秒程度のパルス幅を持つTiSaレーザーを用いた近接場光学顕微鏡を構築した。超短パルスレーザーでは問題となる光ファイバ中におけるパルス光のひろがりなどの問題が気にならないこと、イルミネーションモードを用いることが可能であること、レーザーの単色性がよく広い波長領域(λ=690-1000nm)でレーザー発振が安定であるため分光測定に適していること、レーザーの構成が単純であり光学系に特殊な技術を必要としない、などの利点がある。実験に用いた光源はNd:YAGレーザー励起のTiSa:レーザーを用いた。パルス幅は約10-15nsであり繰り返し周波数は10Hzと非常に低いため、SHGによる近接場光学顕微鏡像は難しい。そのため、試料形状はHeNeレーザー光などを用いて通常の線形光学像として観察をおこない、注目した領域をSHG観察する構成である。ナノ秒程度のパルス幅を持つレーザー光を用いることには以下の利点がある。この顕微鏡の構築が終了し、その性能を確かめるために有機色素分子の集合体の観察を行っている。
著者
綿谷 安男 幸崎 秀樹 濱地 敏弘 松井 卓 梶原 毅 中路 貴彦
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,多項式や有理関数の反復合成のつくる複素力学系からヒルベルト空間上の作用素のつくる特別なC^*環を構築し、異なる二つの分野の関係を考察することであった。Julia集合J_Rの連続関数環A=C(J_R)上のヒルベルト双加群X_RからToeplitz-Pimsner環T_X_Rとその商環であるCuntz-Pimsner O_R=O_R(J_R)を構成した。同様にしてC^*環O_R(C^^^)やO_R(F_R)も構成できた。Rが2次式R(z)=z^2+cの時でも、cがMandelbrot集合に属さない場合は、C^*環O_RはCuntz環O_2と同型になる。cがMandelbrot集合に属する場合は、c=0やテント写像を与えるc=-2のような特殊な時はその構造がわかった。今回の研究での最も大きな成果は、Rが2次以上の有理関数の時、C^*環O_Rはいつでも純無限の単純C^*環になることを証明できたことである。また、分岐点の構造がヒルベルト双加群X_R上のコンパクト作用素全体K(X_R)と、A=C(J_R)の作用の共通部分に対応するAのイデアルI_Xできっちり記述できることを示した。それにより、Fatou集合F_RとJulia集合J_Rによるリーマン球面の分解の対応物としてC^*環O_R(J_R)を大きい環C^*環O_R(C^^^)のFatou集合に対応するあるイデアルによる商環として実現した。さらに、有理関数Rのジュリア集合が縮小写像族の自己相似集合として実現できる場合を手がかりとして、コンパクト集合上の縮小写像族によるフラクタル図形での類似を研究した。特に重要な成果として、その開集合条件が対応するC^*環の純無限単純性を導くことを示した。またそのK群を計算し縮小写像族の言葉だけで書いた。テント写像やシェルピンスキーのギャスケットやコッホ曲線などの具体例についてもK群を計算したりそのtorsion要素を調べて、異なる縮小写像系が同じフラクタル図形を与えても、同型でないC^*環がでてくることもわかった。
著者
江藤 剛治 竹原 幸生 中口 譲 梶井 宏修 高野 保英
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.河川や海岸におけるPTVの適用技術の開発(1)効果的なトレーサーの自動認識技術を開発した。カラー画像を用いた判別分析、および粒子候補の継続時間(2秒以上継続するものが粒子候補)による判別の組み合わせにより、水面のさざ波により反射する多数の光点と、トレーサー粒子を、誤認率1%程度で識別することができるようになった。[江藤・竹原・高野ら:土木学会論文集](2)淀川、鳥取海岸等で、実際にヘリコプターや繋留気球を用いてPTV計測を行った。淀川ではグランドツルースとして、同時にADCPによる流れの空間3次元計測を行った。PTVによる計測結果とADCPによる計測結果は比較的良く一致した。[江藤他:水工学論文集、河川技術論文集等](3)風波発生時の波と流れのPTVによる同時計測技術を開発中した。[竹原(海岸工学論文集等)]。(4)同時に水質のグランドツルースとして淀川における窒素やリンについても実測を継続し、季節変動特性を明らかにした。[中口]2.繋留飛行船等による大気サンプリング技術の開発(1)繋留飛行船(微風時)や大型カイト(やや強風時まで)の係留索に、高度別に吊り下げることが可能な大気サンプラーを開発した。[中口・高野](2)実際にサンプリング実験を行った。NOx濃度やSPM濃度の計測値において、高度50m程度で濃度が最大になり、100m程度では再び濃度が下がる、ダストドームが生じていることが確認された。ダストドームは繋留飛行船に搭載したカメラで撮影した画像からも確認できた[中口・高野]。3.関連して得られた研究成果今回の科学研究費で購入した赤外線ビデオカメラを用いて、水域のローカルリモートセンシング以外にも以下のような貴重な研究成果が得られた。(1)交差点の管理における赤外線ビデオカメラの利用技術の開発[江藤]人体レベルにおける熱環境計測[梶井]
著者
梶田 将司 小林 大祐 武田 一哉 板倉 文忠
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.337-345, 1997-05-01
被引用文献数
31

人間が音声として知覚する音がその他の音とどのように異なるのかを探求するため, 本研究では, ヒューマンスピーチライク(HSL)雑音を導入し, HSL雑音に含まれる音声的特徴を分析する。HSL雑音は, 複数の音声を加算的に重畳して作られるバブル雑音の一種で, その重畳回数に応じて音声的な信号から音声の長時間スペクトルを反映した定常雑音へと聴感は変化する。まず, この聴感上の変化を主観評価実験により定量化する。そして, HSL雑音に含まれる音声的特徴を振幅分布のガウス性, スペクトル微細構造の時間的変動性, スペクトル包絡の時間的変動性の三つの観点で分析した。その結果, HSL雑音の差分信号のガウス性及び, HSL雑音のスペクトル包絡の時間的変動が音声的特徴に大きく寄与していることが分かった。
著者
梶原 苗美 瀬口 春道 松本 衣代 デル サス エバ ガルシア 松本 衣代 谷口 洋
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

伝統的食生活で知られるニューギニア高地民族の健康栄養調査を実施した。インドネシア、パプア州高地地区の農山村部に住むパプア州住民の多くは未だサツマイモを主食とする新石器時代の食生活の名残を強く残した食生活を営んでいた。しかし、都市化の進展、或は都市部移住者では食生活の変遷、欧米化傾向が著しく、住民生活の都市化比率に比例してメタボリックシンドロームのリスクが急上昇しつつあることが明らかになった。
著者
梶原 忠彦 川合 哲夫 赤壁 善彦 松井 健二 藤村 太一郎
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

最近"磯の香り"(マリンノート)はアメニティー機能を有する海洋系複合香として注目されている。例えば、そのタラソテラピー(海洋療法)における機能性芳香剤としての利用、あるいは水産食品への香味香付与によってみずみずしさを増強し、商品価値を高めるなど種々の用途開発がなされようとしている。ここでは高品質のマリンノートを安定供給できる最新の遺伝子組み換え技術と伝統的養殖技術を両輪とし化学合成を組み込んだ、未利用植物材料(沿岸汚染藻類、野菜クズなど)を利用する生産システムの技術開発を目指した研究に於て、次のような研究成果を得た。(1)紅藻ノリより、不飽和脂肪酸に酸素を添加しオキシリピン類(ヒドロペルオキシド)を生成する機能を有する新規のヘムタンパク質をはじめて単離することができ、このものはグリンノート生産に極めて有用であることが分かった。(2)ヤハズ属褐藻の特徴的な香気を有するディクチオプロレン、ディクチオプロレノール及びそのネオ一体の両エナンチオマーを酵素機能と合成技術を併用して、光学的に純粋に得ることに成功し、絶対立体位置と香気特性との関連を明らかにした。また、ネオ-ディクチオプロレノールから生物類似反応により、オーシャンスメルを有する光学活性ディクチオプテレンBに変換することに成功した。(3)緑藻アオサ類には、(2R)-ヒドロペルオキシ-脂肪酸を光学特異的に生成する機能を有することを実証した。また、このものはマイルドな条件下で海藻を想起する香気を有する長鎖アルデヒドに変換できることが分かった。(4)アオサ類に含まれる不飽和アルデヒド類を立体選択的に合成し、熟練したフレーバーリストにより香気評価を行った結果、これらは海洋系香料としての用途が広いことが分かった。
著者
陳 光輝 加藤 弘之 中兼 和津次 丸川 知雄 唐 成 加藤 弘之 梶谷 懐 大島 一二 陳 光輝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

個票データの利用や収集が容易ではない中国,かつその内陸部農村地域の調査を,四川省社会科学院農業経済研究所の協力を得て行い,同省江油市農村地域206戸×3年,同小金県農村158戸×3年のパネルデータ(3年間継続調査できたのは前者が142戸,後者は127戸)を構築した.中国内陸農村地域の成長・発展は沿海や都市部に比べて伸び悩み,利子補填融資,財政支援,雇用創出等の貧困支援策のほか,現在は「新農村建設」政策が打ち出されている.そうした環境下の住民行動を「開発のミクロ経済学」を理論ベースとして分析し,以下の知見が得られた.1.山間部にある小金県は貧困世帯が多いが,政府からの移転所得は必ずしも貧困家庭のほうが多くを受けとっておらず,貧困支援策がうまく機能していない可能性を示唆している.2.所得水準の低い小金県のほうが道路,電気,水道・水利,医療施設といったインフラの現状に対する満足度は低く,整備を望む度合いが高かった.3.小金県の農業は,より恵まれた江油市のそれに比べて土地生産性が低く,得られる所得も低いが,それ以上に小金県は出稼ぎを含む非農業所得がめだって小さい.4.小金県の出稼ぎが少ない理由として,土地利用権の保障や農家間で土地を貸し借りする制度が十分でなく,出稼ぎのリスクが大きくなっていることが考えられた.5.天候不順などの収入低下ショックに直面した場合,江油市農家は貯蓄の取り崩し,小金県農民は親戚・友人からの借り入れに頼る度合いが大きかった.6.教育の収益率は有意であった.
著者
丸山 哲夫 梶谷 宇 長島 隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

昨年度に引き続き本年度は、哺乳類胚発生のメカニズムならびに胚の個体発生能を含めた質的ポテンシャルを、非侵襲的に解明し評価することを目的とした。そのために、マウス胚発生過程において培養液中に分泌されるタンパク質のプロファイル(secretome)を明らかにし、そのデータベース構築を目指すとともに、agingや機械的受精操作などがsecretomeにどのような影響を及ぼすかについて検討するための実験システムの整備を行った。まず、secretomeと胚発生・発育の関連を検討する際に、十分な胚盤胞到達率が得られなければならない。一方、プロテインチップ解析に供するためには、出来るだけ少量の培養液で行う必要があり、これは胚発生・発育にとって厳しい環境となる。このように、両者は相反するため、至適条件の確立が極めて重要である。そこで、培養液の変更など種々の検討を行った結果、60μ1の培養液量で約90%の胚盤胞到達率を再現性良く得られる培養システムを確立し、引き続いてその実験システムにより得られた各時期の培養液をプロテインチップ解析に供した。その結果、コントロール培養液に比較して、胚存在下の培養液では、複数の特異的蛋白ピークが検出され、また時期に応じてそのプロファイルは変化した。これらの一連のsecretomeのプロファイリングと胚盤胞到達率との関連を検討するとともに、今回検出された複数の特異的蛋白の同定を目指し、MALDI/TOF-MS質量分析計への解析に供するに必要な実験システムの更なる構築を行った。昨年度より引き続いて本年度得られた上記の成果は、マウスのみならずヒト胚のqualityの非侵襲的評価システムを確立するうえで、重要な基盤データになると考えられる。
著者
松枝 美智子 安酸 史子 中野 榮子 安永 薫梨 梶原 由紀子 坂田 志保路 北川 明 安田 妙子
出版者
福岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

独自に作成した精神障害者社会復帰促進研修プログラム(案)を、後述の1)-4))は看護師3-5名、5)は看護師3-4名、臨床心理士0-1名、精神保健福祉士1名(2回目は代理者)、作業療法士1名で、各2回計10回のフォーカスグループインタビューで検討した。研究協力者のグループから出された、(1)言葉の定義を明確に、(2)簡潔明瞭な表現に、(3)研修対象者を明確に、(4)コース間に順序性がある可能性、(5)フォローアップ研修の期間や頻度を明確に、(6)タイトルを短く興味をひく表現に、(7)受講生がエンパワーメントされるようなグループワークに、(8)受講生の募集方法が課題、(9)受講生同士のネットワーク作りも同時にできると良い、などの意見をもとにプログラムを修正した。各コースの名称は、1)看護観と援助への動機づけ育成コース、2)システムを構築し改良する能力の育成コース、3)直接ケア能力育成コース、4)患者イメージ変容コース、5)ケアチームのチームワーク促進コース、である。本プログラムの特徴は、(1)受講希望者のレディネスや興味に従って受講できる5つのモジュールで構成されている、(2)グループワークを重視した参加型の研修である、(3)On-JTとOff-JTを組み合わせて実践に直接役立つ、(4)フォローアップ研修と大学の教員のコンサルテーションや受講生同士のピアコンサルテーションにより受講生やケアチームの継続的な成長を支援する、(5)現在精神保健医療福祉の分野で急務の課題であるケアチームのチームワークを促進する、(6)精神障害をもつ人の社会復帰の経験に学ぶ内容が含まれている、(7)一つの研修を受けることで他の研修で目的としている各種の能力育成に波及効果が期待できる、の7点である。本研修プログラムは、院内研修、職能団体での研修、教育機関によるリカレント教育など、様々な場や状況に応じて修正して活用できる可能性があり、実施により精神科に10年以上入院している人々の社会復帰促進につながることが期待できる。
著者
兵藤 友博 梶 雅範 岡本 正志 中村 邦光 松原 洋子 永田 英治 東 徹 杉山 滋郎 高橋 哲郎
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は基本的に、2003年度から始まる、高等学校の理科教育への科学史の本格的導入にあたって、これまでの科学史の成果をどのようにしたら生かせるかにあるが、その研究成果報告書の概要は以下の通りである。第一に、科学史研究関連の文献・資料の調査・調達をおこなうと共に、科学史教育の意味について論じた先行研究の分析を行ない、それらの中から高等学校の理科教育に適用しうるタイトルをピックアップし整理した。第二に、高等学校の理科教育における科学史の導入、その教材化の望ましいあり方について検討すると共に、個別教材の位置づけを検討し、それらの構成のあり方、理科教育における科学史教育の目標などについて検討した、より具体的にいえば、科学的発見の歴史的道筋、科学的認識の継承・発展のあり方・科学法則・概念の形成の実際、科学実験・観測手段のあり様とその時代的制約、あるいは理論的考察や実験、観察に見られる手法、またそれらの理科学習への導入のあり方について、個別的かつ包括的な検討をおこなった。また、個別科学史教材に関わって、科学の方法の果たした役割、科学思想との関連などについて検討した。第三に、その上で、新科目「理科基礎」を含む高等学校の理科教育を射程に入れた科学史の教材化の開発研究をおこなった。具体的には、物理学史系、化学史系、生物学史系、天文学史。地学史系の個別科学史分野別にトピック項目を設定し、ケース・スタディ的にその具体化をおこなった。本研究プロジェクトが掲げた当初の目標を達成した。これらの成果について、最終的に冊子として印刷し、広くその成果を普及することにしている。