著者
吉田 大輔 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 伊藤 健吾 加藤 隆司 下方 浩史 鷲見 幸彦 遠藤 英俊 鈴木 隆雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1414-EbPI1414, 2011

【目的】物忘れなどの記憶障害は、アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の特徴的な前駆症状である。海馬や嗅内野皮質を含んだ内側側頭葉はこの記憶の中枢であり、記憶障害と内側側頭葉の脳萎縮とは密接な関係があると考えられている。一方、日常的に知的な活動や身体活動、あるいは社会活動(社会とのつながり)を保持することは、高齢期における認知症(特にAD)の発症遅延や認知機能の維持にとって有効である可能性が示唆されている。これらのことから、活動性の高い日常生活を送ることは、内側側頭葉の脳萎縮を抑制できると推察されるが、高齢期における内側側頭葉の脳容量と日常生活活動との関係については、これまでほとんど報告されていない。そこで本研究では、どのような日常生活活動が内側側頭葉の脳萎縮と関連があるのか明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】主観的な記憶低下の訴えがある、もしくはClinical Dementia Ratingが0.5に該当した65歳以上の地域在住高齢者125名(76.1±7.3歳)を対象とした。すべての対象者は、基本情報に加え一般的な認知機能検査、頭部のmagnetic resonance imaging (MRI)検査を受けた。内側側頭葉における脳萎縮の程度は、MRI検査で得られた画像を基にvoxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease(VSRAD)を用いて定量的に評価した。日常の生活活動状況は、質問紙を用いて過去1ヶ月における各活動の実施状況(二択式;している/していない)を聴取した。各々の活動項目はセルフケアや手段的日常生活動作、社会活動などの25項目から構成されており、高齢者の生活活動全般を幅広く捉えられる項目内容とした。そして、活動項目ごとに「している」と回答した者(活動群)と「していない」と回答した者(不活動群)の2群間で内側側頭葉の脳萎縮度に差がないか、共分散分析を用いて検討した。なお分析の前段階として、2群いずれかのサンプルサイズが20に満たなかった活動項目は、あらかじめ分析項目から外した。また、年齢と脳萎縮との関係をpearsonの相関係数で確認した。<BR><BR>【説明と同意】すべての対象者に対しては、事前に研究内容を説明し、書面による同意を得た。また、本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得て行った。<BR><BR>【結果】内側側頭葉の脳萎縮と年齢との間には、有意な正の相関関係が認められた(r = 0.457, p < 0.01)。そこで、年齢を共変量とした共分散分析を行い、内側側頭葉の脳萎縮と日常生活活動との関係を検討した結果、「頭を使う活動(将棋や学習)」において、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 6.43, p = 0.01)。同様に、「習い事」においても、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 4.40, p = 0.04)。<BR><BR>【考察】記憶とその関連領域である内側側頭葉の脳容量とは、密接な関係があると考えられている。今回、同領域の脳萎縮と知的活動(「頭を使う活動」)の実施状況との間に関連性が認められたことは、先行研究の結果と矛盾しない。地域高齢者にとって、日常的に知的な活動を取り入れることは、認知機能の低下だけでなく内側側頭葉の脳萎縮も抑制できる可能性が示唆された。ただし、それ以外の活動(主に身体活動)の実施状況と内側側頭葉の脳萎縮については、有意な関連性が認められていない。今後は内側側頭葉以外の領域、あるいは活動の実施頻度を考慮したより詳細な検討が必要と考える。また、日常的な知的活動が内側側頭葉の脳萎縮を抑制できるとの仮説を立証するためには、縦断的な研究や介入研究が必要であり、今後も追跡調査を継続する予定である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法の現場において、認知機能障害を有する高齢者を対象とするケースは少なくない。本研究は、このような高齢者に対し運動療法だけでなく日常の生活活動状況にも配慮した理学療法戦略が重要であることを示した、意義ある研究であると考えられる。また、今回の研究結果をさらに発展させることで、脳萎縮や認知機能の低下を予防するような方策が将来明らかになると期待している。
著者
鈴木 隆雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.107-114, 1981 (Released:2008-02-26)
参考文献数
20
被引用文献数
5 6

骨に対して,著しい形態学的あるいは病理学的な変化を及ぼす腫瘍,なかでも悪性腫瘍は,古人骨においてその発見例は非常に少なく,研究もあまり進んではいない。日本においても,古人骨の古病理学的研究の報告は数例があるが,現在までのところ悪性腫瘍に関する報告はまだ一例もなされていない。今回筆者は,江戸時代人頭蓋の古病理学的検索の中で骨髄に原発する悪性腫瘍の一つである多発性骨髄腫(multiple myeloma)と診断される興味ある一例に遭遇したので報告する。この著明な病理学的所見を示す頭蓋は,1955年東京慈恵会医科大学第一解剖学教室の川越逸行博士により,東京都文京区湯島の無縁坂の工事現場から発見され収集された約300個の頭蓋の一つで,"Muen-40"のラベルのあるものである。頭蓋全体に瀕慢性に拡がる約20個の直径約3-8mmの小孔が認められ,辺縁は鋭く,治癒傾向はない。頭蓋x線像では無数の小円透亮像,いわゆる"打ち抜き像punched out lesion"が認められ,辺縁の硬化像等はない。このような肉眼的,X線学的な特徴は,多発性骨髄腫の像によく一致している。鑑別診断としては,骨梅毒症,二次性悪性腫瘍転移等が考えられるが,なかでも悪性腫瘍転移との鑑別は困難な場合が多い。しかし悪性腫瘍転移の場合は病変がより大きく,また限局した病巣をもつことなどが知られている。従って本例の場合は,古病理学的に,熟年男性の多発性骨髄腫であると診断された。
著者
鈴木 隆泰
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学國際文化學部紀要 (ISSN:13427148)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-31, 2004-03-25

Sho-gyo-mu-jo (諸行無常. sarvasamskara anityah in orignal Sanskrit) is one of the most fundamental ideas of Buddhism. It has been generally regarded as "everything is evanescent" in Japan, but this interpretation represents only a small part of the idea since the word sarvasamskara means not only "everything" but also "mental conformation or creation of the mind (such as that of the external world, regarded by it as real, though actually non-existerit) ," and the word anitya means not only "evanescent" but "coming into existence." The purpose of this paper is to re-examine the idea Sho-gyo-mu-jo by referring to the usage in the context of Indian Buddhism and to show its proper meaning.
著者
鈴木 隆
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.345-351, 2006-05-20

症例1は27歳の1回経産婦。前回,妊娠中毒症および骨盤位で帝王切開術で分娩す。今回は経膣分娩(VBAC:vaginal birth after cesarean)を希望していた。今回の妊娠経過に特に異常は見られず。妊娠37週5日で破水のため入院す。感染予防のため抗生物質投与しつつ,自然陣痛の発来を待機する。破水後44時間経過し陣痛が発来しないため帝王切開術による分娩の終了を考えたが,桂枝茯苓丸エキスを頓服で投与したところ,子宮収縮が始まる。その後陣痛増強し,妊娠38週1日正常分娩す。症例2は33歳の1回経産婦。前回,微弱陣痛のためoxytocin による陣痛促進で経膣分娩す。今回妊娠39週5日で誘発分娩(社会的適応)希望のため入院す。前回経験した陣痛促進がつらかったため(本人の弁),今回のoxytocinの投与に躊躇が見られたので,桂枝茯苓丸エキスを頓服で投与したところ,子宮収縮が始まる。その後陣痛増強し,同日正常分娩す。桂枝茯苓丸は代表的な駆〓血薬として臨床の場で広く応用されている。一方,催生湯として,万病回春には陣痛促進作用をうかがわせる記述があるが,近年,桂枝茯苓丸を陣痛促進の目的で使用した報告は少ない。桂枝茯苓丸がoxytocinやprostaglandinの代用になるとは考えていないが,桂枝茯苓丸の投与で反復帝王切開術を回避し,また,陣痛を増強して正常分娩に導いた症例を経験したので報告した。
著者
安溪 遊地 井竿 富雄 鈴木 隆泰 岩田 真美
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

幕末の長州藩士や奇兵隊等の緒隊の活躍に比べて明治維新につながる動きの精神的な支柱や政治的な影響、さらには具体的な軍事行動において仏教僧の果たした役割についての解明は研究の蓄積が少なかった。この研究では、真宗僧の活躍に注目して、その史料や口承を集めることに集中した。その結果、長州4傑と呼ばれながらほとんど史料がなかった香川葆晃について、その辞令や新潟での現地調査を踏まえて、四境戦争の前夜に長州藩の密偵として活躍したことを明らかにした。精力的な社会改革運動をおこなった島地黙雷の日記のデジタル化に着手し、吉田松陰の倒幕思想に大きな影響を与えた呉の僧宇都宮黙霖の残した膨大な手稿のデジタル化を完了した。
著者
牧迫 飛雄馬 古名 丈人 島田 裕之 赤沼 智美 吉田 裕人 井平 光 横山 香理 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 = The Journal of Japanese Physical Therapy Association (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.27-33, 2011-02-20
被引用文献数
4

【目的】75歳以上の高齢者における新規要介護認定の発生に対する歩行能力の影響を明らかにすることを目的とした。【方法】要介護認定を受けていない75歳以上の地域在住高齢者190名を対象とした。ベースライン調査として5m歩行時間(通常速度)を測定し,以降39ヵ月間の要介護認定発生状況との関連を調べた。【結果】39ヵ月間で34名(17.9%)が新規に要介護認定を受けた。5m歩行時間を男女別に4分位で速い群から遅い群のI〜IV群に分類し,要介護発生率曲線の差をLog-rank検定にて検討した結果,5m歩行時間が遅いIV群(男性5.2秒以上,女性5.8秒以上)では,それ以上に速い歩行速度を有する群(I〜III群)と比べて有意に高い要介護認定発生率を認めた(p<0.01)。Cox回帰分析の結果,新規要介護の発生と有意な関連を認めた変数は,BMIと5m歩行時間(秒)であり,5m歩行時間のハザード比は1.65(p<0.01)であった。【考察と結論】地域在住後期高齢者の歩行速度は,将来の要介護認定発生に影響を与える要因のひとつであることが確認された。
著者
下条 誠 牧野 了太 小川 博教 鈴木 隆文 並木 明夫 斎藤 敬 石川 正俊 満渕 邦彦
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.2002, 2002
被引用文献数
3

神経系を介して生体系と機械系を一体化しようとする試みは, 医用生体工学の中でも最も注目を浴びている領域の一つである。しかしながら, いまだ世界において実際に遠隔地にある外部機器と生体の感覚神経を接続し, 人工感覚を生成するシステムを作成した報告は全く見あたらない。本研究では, 遠隔地にあるロボットハンドを被験者がネットワーク経由で操作を行い, ハンドと対象物との接触情報を, 再度ネットワーク経由で被験者の触感覚神経を刺激することで, ハンドに加えられた感覚刺激を自分の手に感覚が加えられたものとして感じる事を可能とするシステムを開発し, 実験に成功した。本報告ではこの実験システムに関して報告する
著者
鈴木 隆泰
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1154-1162, 2006-03-25

「吉祥天女品」は『金光明経』の中で,呪句の使用や世間的利益を求める儀礼の執行が最初に表明された章である.そこに見られる儀礼は,「仏教儀礼を応用したもの」と「ヒンドゥー儀礼を導入・受容したもの」の二種に大別され,どちらの場合も,『金光明経』の編纂者や護持者たちが従来実践していた諸儀礼を,攘災招福を目的として応用,あるいは導入・受容したものとなっている.防護呪パリッタを発達させた南伝仏教との比較や「吉祥天女品」に見られる在家者への意識,そして「この『金光明経』には世・出世間,仏教・非仏教を問わず,様々な教義や儀礼があり,しかもこの『金光明経』が一番勝れている」という『金光明経』「四天王品」の記述等も考慮に入れた結果,これまで便宜的に「〔大乗〕仏教の自立の模索の表れ」と仮定しておいた『金光明経』の持つ諸特徴を,「〔大乗〕仏教の生き残り策」と想定することが本研究を通して可能となった.『金光明経』の編纂者たちは,仏教に比べてヒンドゥーの勢力がますます強くなるグプタ期以降のインドの社会状況の中で,インド宗教界に生き残ってブッダに由来する法を伝えながら自らの修行を続けていくために,仏教,特に大乗仏教の価値や有用性や完備性を,在家者を含む支持者たちに強調しようとしたのである.覚りの伝承を旨とする出家者であっても,支持者たちの支援,特に在家者の経済的支援がなければ,修行を継続したり,伝法の使命を果たすことはできない.このように,『金光明経』をはじめとする種々の儀礼を説く経典は,律文献と同様,インド仏教の実像に迫るための有用な資料ともなりうるのである.
著者
浜島 良吉 勝山 邦久 橋本 学 金折 祐司 長尾 年恭 早川 正士 勝山 国久 呉 智深 鈴木 隆次 古宇田 亮一 竹村 友之 西村 進
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

不連続体場での弾性、弾塑性、粘弾性の進行性破棄に応用できる解析法が浜島により開発された。本解析手法は熱・流体・応力の連成解析にも適用された。本解析手法は結晶構造のような多角形要素にも適用可能である。変位関数として3角形要素の定ひずみ要素を用いているため、そのままでは結晶構造モデルに対しては変形を十分表現することができない。ハイブリット仮想仕事の原理は、弱形式のつり合い式と弱形式の変形の連続条件となるが、本研究では、変形の連続条件に関して、要素内と要素間の剛性にそれぞれα、βをかけ、これらの値がつり合い式を満足し、かつ変形の誤差が最小となるように定められた。ただし、α、βの間にはα=β/(β-1)の関係がある。1995年1月17日に兵庫県南部地震が発生し、多くの人名が失われた。地殻変動解析の重要性が再認識されたが、本研究では、日本列島をブロック構造に分割し、本研究で開発された不連続体解析手法を用いて解析が行われた。その結果、本解析手法により、日本列島内陸の断層の動きを比較的良く表現できることを明らかにした。本解析ではせん断破壊と引張り破壊を同時に考慮しているが、引張り破壊時には断層面上の応力を全て解放している。引張り破壊領域は危険断層とされている部分に良く対応していることが明らかとなった。本研究では、種々の方法により地殻変動解析がなされたが、目的によりそれらを使い分けて利用することが必要である。今後はこれらの解析手法をうまく融合して、地球規模の地殻変動解析まで適用可能とするようにしたい。
著者
大河内 信夫 藤澤 英昭 鈴木 隆司 大河内 信夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は伝統技能を教育学的な検証を経て学校教育の現場で活用できる題材として開発し、実践によって評価しようとしたものである。具体的には3つの代表的な取り組みを行った。第1に、伝統の刃物づくりの調査とそれを題材としたDVDの製作、第2に銅鏡の製造過程の調査と製作マニュアルとしてのCD製作、第3に伝統的な養蚕の実践とできた繭から絹糸を取り出し小型のランプシェードをつくる題材の開発と実践をおこなった。DVDとCDは千葉県下の市教育委員会へ配布し、その教育的評価を調査した。実践的な検証の取り組みでは、附属小学校において、銅鏡づくりは鋳型づくりと研磨を主に体験して製作し、ものをつくるにはいろいろな道具と時間がかかることを体得した感想が多かった。教員養成学部の授業実践として銅鏡づくりと行灯づくりに取り組み、教員資質にとってものづくりが重要であることを実証した。技能に裏付けられたものを作る能力を定着させる方法論が次の課題である。
著者
鈴木 隆泰
出版者
山口県立大学社会福祉学部
雑誌
山口県立大学社会福祉学部紀要 (ISSN:13448587)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-36, 2006-03

While moral education intends to bring us to maturity in a particular society, religious education teaches us our everlasting immaturity and thus admonishes us to forgive other's faults. The confusion of these two different types of education seems to have brought about the deficiency for both morals and religion to carry out their indispensable functions to all of us. This paper attempts to elucidate the difference between morals and religion, and to help those two types of education to recover their proper functions.
著者
鈴木 隆介 西田 治文 小口 千明 田中 幸哉
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

蛇紋岩で構成される山地(以下,蛇紋岩山地と略称)は,一般にそれに隣接する非蛇紋岩山地に比べて,(1)相対高度が高く,(2)谷密度が著しく低く,(3)尾根が丸く,山地斜面が緩傾斜であり,(4)浅い滑り面をもつ地すべりが多い,といった特異な削剥地形を示す.蛇紋岩山地の,そのような特異な削剥地形の成因を解明するために,以下の研究をした.北海道敏音知周辺,北上山地宮守地域,京都府大江山を中心に,自然露頭および大規模な砕石場において,現地岩石物性試験(弾性波速度,貫入硬度,シュミットロックハンマー反発度,浸透能,節理密度),室内での新鮮岩および風化物質の岩石物性試験(圧縮・圧裂引張・剪断強度,密度,間隙率,間隙径分布,P波・S波速度,定水位透水係数)ならびに鉱物分析を行った.蛇紋岩の節理密度は,深部では節理の多い部分と少ない部分が複雑に混在しているが,地表に近いほど節理密度が大きくなる.また,日本の主要な蛇紋岩山地についての地形計測によると,蛇紋岩山地の平均高度は蛇紋岩体の面積が約10km^2より大きい場合には周囲の非蛇紋岩山地より高いが,それより小さい場合には逆に低い,ことが判明した.このような蛇紋岩山地の削剥地形の特徴は,蛇紋岩の特異な岩石物性を反映した,次のような削剥過程に起因すると考えた.蛇紋岩の強大な残留応力が削剥に伴う除荷作用によって解放されるために,蛇紋岩が膨張して,引っ張り割れ目が増加して節理密度が増加し,蛇紋岩は葉片状さらに塊状に破砕する.そのため,葉片状,塊状,礫状の蛇紋岩は高透水性を示すので,地表水が浸透しやすくなり,谷は浅く,谷密度が低くなる.一方,風化すると,蛇紋岩は吸水膨張するので,表層部に浅い地すべりを発生しやすくなるので,斜面は緩傾斜になる.その削剥過程における雪達磨効果のために,大規模な蛇紋岩体ほど高い山地を形成している.
著者
牧迫 飛雄馬 古名 丈人 島田 裕之 赤沼 智美 吉田 裕人 井平 光 横山 香理 鈴木 隆雄
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.27-33, 2011-02-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
29
被引用文献数
2

【目的】75歳以上の高齢者における新規要介護認定の発生に対する歩行能力の影響を明らかにすることを目的とした。【方法】要介護認定を受けていない75歳以上の地域在住高齢者190名を対象とした。ベースライン調査として5m歩行時間(通常速度)を測定し,以降39ヵ月間の要介護認定発生状況との関連を調べた。【結果】39ヵ月間で34名(17.9%)が新規に要介護認定を受けた。5m歩行時間を男女別に4分位で速い群から遅い群のⅠ〜Ⅳ群に分類し,要介護発生率曲線の差をLog-rank検定にて検討した結果,5m歩行時間が遅いⅣ群(男性5.2秒以上,女性5.8秒以上)では,それ以上に速い歩行速度を有する群(Ⅰ〜Ⅲ群)と比べて有意に高い要介護認定発生率を認めた(p < 0.01)。Cox回帰分析の結果,新規要介護の発生と有意な関連を認めた変数は,BMIと5m歩行時間(秒)であり,5m歩行時間のハザード比は1.65(p < 0.01)であった。【考察と結論】地域在住後期高齢者の歩行速度は,将来の要介護認定発生に影響を与える要因のひとつであることが確認された。
著者
増原 直樹 岩見 麻子 熊澤 輝一 鈴木 隆志 松井 孝典 川久保 俊
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.37(2023年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.46-51, 2023-12-08 (Released:2023-12-08)
参考文献数
10

日本全国のSDGs 未来都市について,154 の未来都市計画の内容分析と15 の自治体担当者を対象とした聞取り調査結果を基に,SDGs 政策の重点ゴールの変化,総合計画におけるSDGs 対応の手法,庁内外への普及啓発の現状とSDGs 推進上の課題を明らかにした。SDGs 担当課だけでなく行政各課もSDGs マッピングの作成過程に参加することで普及啓発のねらいがあると考察されたほか,先行研究と比較したところ未来都市における課題と一般的な自治体における課題には異なるところがあり,先進的に取り組んでいるが故に生じる課題がいくつかの未来都市で明らかになった。
著者
菱田 雅晴 天児 慧 高原 明生 厳 善平 唐 亮 Wank David 朱 建栄 大島 一二 諏訪 一幸 趙 宏偉 加茂 具樹 小嶋 華津子 福田 円 油本 真理 南 裕子 中岡 まり 岡田 実 鈴木 隆 呉 茂松 毛里 和子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、パラドキシカルな中国の腐敗現象を対象として、1)刺激・行為間の誘引/制約に関するインセンティブ・システムおよび市場体制・行政機構の未発現情況に焦点をあてた制度論に依る実態論分析と2)腐敗学構築のための一般分析ツール開発とその検証・適用の両者から構成される。本年度にあっては、既往年度と同様に、研究分担者、連携研究者および研究協力者等から構成される研究組織(=廉政研究会)を法政大学中国基層政治研究所内に設置し、研究計画の全体調整および班別研究組織体制の再確認を行った上で、各種腐敗現象のビジネス領域との関わりに焦点をあてることを本年度課題の核として設定し、各国・地域における経済腐敗、不正ビジネスの構造の検討を行なうこととした。併せて、中国的腐敗の具体的個別事案の事例蒐集を進めると同時に政治社会学的手法に基づく腐敗関知度/寛容度に関する広範なアンケート調査を実施すべく調査票の設計等準備作業を本格化させた。また、中国の腐敗現象に関わる事案、データを中国内外から広く蒐集し、事例研究を進めると共に党・国家による反腐敗のさまざまな法律、制度規定類を併せ蒐集分類することで、公権力の行使に関わる公務員、党幹部らの内部昇任、賞罰制度、登用制度、各級党組織間の関係、更には、“党政関係”(党と行政機関との関係)、“党企関係”(党政機関と市場諸組織・アクター間の関係)等々のあらゆる組織内規定、規則、ルールを検討した。これらの作業を通じ、腐敗現象そのものをどのように把捉すべきか、腐敗研究の原点を再確認することができた。
著者
鈴木 隆史
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.226-235, 2019-03-10 (Released:2019-07-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

臨床検査には大きく、検体検査、生理機能検査や画像検査、さらに特殊検査として内視鏡検査がある。医師は、問診や診察に加え、必要と思われるこれら検査を組み合わせることにより疾患・病態の診断、治療とその後の経過観察を行っていく。そのため臨床検査は重要な役割を担っている。健診においてはその多くが症状のない受診者が対象であり、検査の占める割合は大きなものとなっている。したがって、これら検査がきちんとなされていることが、患者あるいは受診者の信頼を得るうえで重要であることは言うまでもない。そのためには検査の高い精度や正確性が求められる。これらを担保するのが精度管理であり、施設あるいは検査室内で行われる日々の管理としての内部精度管理と施設を横断して自らの施設のデータが他施設と比較してどのくらいの位置にあるのか、それを確認し足元を見直すために行われるのが外部精度管理である。内部精度管理あっての外部精度管理ともいえる。本稿では内部ならびに外部精度管理について概説する。一般的に広く行われている血液、尿、便などの検体検査で普及してきた精度管理であるが、生理機能検査や画像検査にもその必要性が求められてきている。さらにベッドサイドで用いられるPOCTにおいてもしかりであり、現状についても触れる。検体検査においては機器や試薬の進歩によりデータの集束状況は非常に良好な状態になってきているが、検査室における日常業務の中にあって機器任せにすることなく絶えずデータを気にしておく姿勢が内部精度管理には欠かせない。外部精度管理では本学会の精度管理事業の位置づけを示しつつ、その重要性について紹介する。昨今、ISO15189 ならびに医療法における「精度の確保」など、検査室の品質保証が叫ばれている。本稿がそれらの理解につながれば幸いである。
著者
鈴川 芽久美 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 渡辺 修一郎 鈴木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.334-340, 2009 (Released:2009-08-28)
参考文献数
28
被引用文献数
20 17

目的:要介護認定を受けた高齢者を対象として転倒と骨折の発生状況を調査し性·年齢·要介護認定状況(以下,介護度)による影響を検討する.方法:対象は通所介護施設を利用する65歳以上の高齢者8,335名(平均年齢82.2±7.4歳)であった.施設の担当職員が,介護度,過去1年間における転倒の有無,転倒による骨折の有無,骨折部位などの項目について聞き取り調査を実施した.なお認知機能障害により,回答の信頼性が低いと調査者が判断した場合には,家族から転倒や骨折状況を聴取した.また施設利用中の転倒については,その状況を自由記載にて担当職員が回答した.分析は転倒と骨折の発生頻度を性,年齢(前期/後期),介護度(軽度要介護群;要支援1∼要介護2/重度要介護群;要介護3∼5)別に算出し,χ2乗検定にて群間比較した.施設利用中の転倒については,場所,状況,動作,直接原因を集計し軽度と重度要介護群の群間差をχ2乗検定にて比較した.結果:過去1年間の転倒率は,女性(24.6%)よりも男性(26.8%)が有意に高かった.軽·重度要介護群における転倒率の比較では,女性においてのみ重度(26.4%)と比べて軽度(23.4%)要介護群の転倒率が有意に低かった.一方で転倒者のうち骨折した者の割合は,男性(4.5%)よりも女性(12.2%)の方が有意に高かった.骨折の有無を従属変数とし,性,年齢,介護度を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析では,男性に比べると女性の方が2.5倍骨折する危険性が高かった.また施設利用中の転倒については重度要介護群ではトイレ時,軽度要介護群では体操·レクリェーション時,立位時の転倒が有意に多かった.結論:転倒率は女性の方が低く,それは軽度要介護群の転倒率の低さが影響していることが示唆された.一方骨折においては年齢や介護度の影響よりも,性別(女性)の影響が大きいことが示唆された.
著者
鈴木 隆雄 岩佐 一 吉田 英世 金 憲経 新名 正弥 胡 秀英 新開 省二 熊谷 修 藤原 佳典 吉田 祐子 古名 丈人 杉浦 美穂 西澤 哲 渡辺 修一郎 湯川 晴美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-48, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
4

目的 70歳以上の地域在宅高齢者を対象として,容易に要介護状態をもたらすとされる老年症候群,特に転倒(骨折),失禁,低栄養,生活機能低下,ウツ状態,認知機能低下(痴呆)を予防し,要介護予防のための包括的健診(「お達者健診」)を実施した。本研究では,その受診者と非受診者の特性(特に健康度自己評価,生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感,転倒経験,慢性疾患有病率および身体機能としての握力における差異)を明らかにすることを目的とした。方法 調査対象者は東京都板橋区内在宅の70歳以上の高齢者863人である。「お達者健診」には,このうち438人(50.8%)が受診した。健診内容は老年症候群のさまざまな項目についてハイリスク者のスクリーニングが主体となっている。本研究では前年に実施された事前調査データを基に,「お達者健診」の受診者と非受診者の性および年齢分布の他,健康度自己評価,老研式活動能力指標による生活機能,GHQ ウツ尺度,PGC モーラルスケールによる主観的幸福感,転倒の既往,慢性疾患有病率,および身体能力としての握力などについて比較した。成績 1) 健診受診者における性別の受診者割合は男性49.0%,女性51.0%で有意差はなかった。受診者と非受診者の平均年齢は各々75.3歳と76.4歳であり有意差が認められ,年齢分布からみても非受診者に高齢化が認められた。 2) 健康度自己評価について受診群と非受診群に有意な差が認められ,非受診群で自己健康度の悪化している者の割合が高かった。 3) 身体機能(握力)についてみると非受診者と受診者で有意差はなかった。 4) 生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感についての各々の得点で両群の比較を行ったが,いずれの項目についても非受診者では有意に生活機能の低下,ウツ傾向の増加そして主観的幸福感の低下が認められた。 5) 過去 1 年間での転倒経験者の割合には有意差は認められなかった。 6) 有病率の比較的高い 2 種類の慢性疾患(高血圧症および糖尿病)についてはいずれも受診者と非受診者の間に有病率の差は認められなかった。結論 今後進行する高齢社会において,地域で自立した生活を営む高齢者に対する要介護予防のための包括的健診はきわめて重要と考えられるが,その受診者の健康度は比較的高い。一方非受診者はより高齢であり,すでに要介護状態へのハイリスクグループである可能性が高く,いわば self-selection bias が存在すると推定された。しかし,非受診の大きな要因は実際の身体機能の老化や,老年症候群(転倒)の経験,あるいは慢性疾患の存在などではなく,むしろ健康度自己評価や主観的幸福感などの主観的なそして精神的な虚弱化の影響が大きいと推測された。受診者については今後も包括的な健診を中心とした要介護予防の対策が当然必要であるが,非受診者に対しては訪問看護などによる精神的な支援も含め要介護予防に対するよりきめ細かい対応が必要と考えられた。