- 著者
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高橋 美保子
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.8, pp.554-562, 2006 (Released:2014-07-08)
- 参考文献数
- 27
- 被引用文献数
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目的 わが国におけるインフルエンザ流行による超過死亡を明らかにするための一法として,超過死亡の範囲を推定し,記述すること。方法 1987~2003年の人口動態統計から不慮の事故(ICD-9:E800-E949,ICD-10:V01-X59)を除く総死亡の月別死亡数を得て,年間死亡率と季節指数を用いたモデルを適用し,インフルエンザの流行がない場合の死亡数の期待値と95%範囲(基準範囲)を求めた。実際の死亡数(観察値)と期待値との差から超過死亡の点推定値を求め,観察値と基準範囲限界値(上限値,下限値)との差から超過死亡の範囲を求めた。なお,インフルエンザ流行月は,感染症発生動向調査の結果を考慮しつつ,「インフルエンザ死亡率0.9(人/10万人年)以上の月」とした。結果 超過死亡の点推定値が最も大きかったのは1999年,次いで95年,そして,93年,97年,2000年,および2003年の流行期であった。1999年の超過死亡は約 4 万 9 千人と点推定されたが,その年の超過死亡は約 3 万 7 千人~約 6 万人の範囲とも推定された。同様に,95年の超過死亡は約 3 万 8 千人と点推定されたが,約 2 万 7 千人~約 4 万 8 千人の範囲とも推定された。また,93年,97年,2000年,および2003年の超過死亡の点推定値は,それぞれ約 2 万 1 千人~約 2 万 5 千人のほぼ一定の範囲内にあったが,超過死亡の範囲(最小値,最大値)はそれぞれ,約 1 万 5 千人~約 3 万 6 千人,約 1 万 8 千人~約 3 万 1 千人,約 1 万 4 千人~約 2 万 8 千人,そして約 1 万 1 千人~約 3 万 4 千人と年によって異なることが示された。超過死亡の範囲を比較し,95年の超過死亡が観察期間中で最大であった可能性もあることが分かった。結論 インフルエンザの流行がない場合の死亡数のばらつきの範囲を考慮した上で,その年のインフルエンザの流行によって増加したと考えられる死亡数の範囲(最小値,最大値)を把握することができた。超過死亡の範囲の推定は,インフルエンザによる健康影響を把握する上で,有用な方法の 1 つであると考える。