著者
福原 長寿 河野 芳海 渡部 綾 立元 雄治
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

CO2などのC1系小分子の高速で高効率な物質変換を目的に,水素によるメタン化反応のための構造体触媒反応システムを構築した。また,生成するCH4のドライ改質用構造体触媒システムや,CH4を分解してH2と炭素材を製造する構造体触媒システムを構築した。各反応用の構造体触媒は,Wash coat法やゾル-ゲル法と無電解めっきの組み合わせ法で調製したNi系触媒をベースとした。触媒活性と触媒寿命の観点から,各反応に対していずれの構造体触媒とも高い触媒機能性を発揮することがわかった。そして,構築した各触媒反応システムはC1系小分子を有用なエネルギー資源や炭素資源に高度に変換するシステムであることもわかった。
著者
神庭 重信 竹内 潤一 久保田 正春
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

躁うつ病は、一般住民の5〜15%が障害に罹患するといわれる高頻度な疾患である。また、働き盛りを襲う疾患であることから、本人や家族の苦悩は大きなものがある。死亡率が高く、ガン患者など身体疾患患者におけるうつ病の合併も多く、したがって、躁うつ病の原因解明と予防法の確立は急務であるといえる。本研究では躁うつ病の原因の解明をめざして、二つの研究目標を設定した。第一には躁うつ病の発生と強くかかわっていることが考えられる、視床下部機能の障害を明らかにすることである。また、躁鬱病の病態を明らかにするために、遺伝子組換え技術を用いてモデル動物を作成し、この検討を試みた。1)躁鬱病と関係すると考えられる視床下部-下垂体-副腎皮質系の中でも、視床下部のバソプレッシンの制御にかかわる、脳内サイトカインの影響に関して検討をおこない、報告し、また本報告書でまとめた。2)躁うつ病の病態と深くかかわっていると考えられる、視床下部-下垂体-副腎皮質系の異常に関する所見と、上記1の結果をまとめて報告した。3)ムスカリンM5受容体のアンチセンス核酸を投与した動物に関する検討結果を報告し(文献一覧9)、また、遺伝子組換え動物を用いた研究の問題点や、アンチセンス核酸による検討過程と、その問題点を報告し、まとめた。
著者
吉田 早苗 藤田 覚 宮崎 勝美 藤井 恵介 田島 公 詫間 直樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.東京大学史料編纂所に所蔵される江戸時代有数の故実家裏松固禅研究の基本的な史料『裏松家史料』について調査を完了し、全点の題名・内容・書誌情報等を含む詳細な調書を作成した。そのデータからデータベースを完成し、全点目録「裏松家史料目録」(第1版)を作成した。目録は史料編纂所の「所蔵史料目録データベース」上での公開を予定している。2.「裏松家史料」のうち修理中の冊子約80冊を除いた冊子本約300点とそれ以外の史料の全点について、マイクロ撮影・デジタル化を完了した。得られた画像データは、史料編纂所の「所蔵史料目録データベース」に対応する画像公開システムにより公開する予定である。3.「裏松家史料」中の書籍の奥書、固禅が作成した勘文類などに基づき、天明-寛政期の固禅の活動を解明して「裏松固禅活動年譜(稿)」を作成した。4.固禅の主要著作『大内裏図考証』については、引用史料データベースの仕様を確定し、テストデータの入力を行ない、献上に関する重要史料である『大内裏図考証清書目録』を翻刻した。5.以上の「裏松家史料目録」(第1版)「裏松固禅活動年譜(稿)」「『大内裏図考証清書目録』翻刻」および、「裏松家史料」を直接の基礎史料として固禅の執筆活動と公家社会の構造の関連性を解明した、「裏松固禅と裏松家史料について」(吉田早苗)、「裏松固禅の著作活動について」(詫間直樹)、「寛政期有職研究の動向と裏松固禅」(西村慎太郎)、「『皇居年表』の編修過程について」(詫間直樹)の4篇の論文を掲載した研究成果報告書を刊行した。
著者
立川 雅司 三上 直之 櫻井 清一 山口 富子 大山 利男 松尾 真紀子 高橋 祐一郎
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、食品安全におけるゼロ・トレランスを消費者に訴求する傾向がみられ(「不使用」「検出ゼロ」など)、消費者もこうした情報に敏感に反応する傾向がある。ゼロトレ対応は様々な問題を生じさせており、その実態解明と対応方策が求められている。本研究の目的は、こうした対応、言説に着目し、複数の事例を比較分析しつつ、その背景と影響、関係者間での合意基盤を明らかにすることである。本研究では、食品安全に関してゼロトレ対応の諸問題に関して、多角的に分析するとともに、政府による情報発信の課題を明らかにした。またゼロトレ志向の消費者の特徴を明らかにすると共に、模擬的討議を通じて合意基盤の可能性について検討した。
著者
大野 耕一 辻本 元 増田 健一 岩田 晃 長谷川 篤彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では獣医領域における腫瘍や免疫異常疾患に対する遺伝子治療を開発することを最終目的として研究を行ってきた。具体的には1)イヌおよびネコの肝細胞増殖因子(HGF)を用いた遺伝子治療の基礎研究、2)イヌp53遺伝子導入アデノウイルスベクターの構築およびイヌ腫瘍細胞株に対する抗腫瘍効果の検討、3)FIVに対する,およびFIVを用いた遺伝子治療の基礎研究を中心に研究を進めてきた。イヌおよびネコの肝・腎不全に対するHGF遺伝子治療の基礎研究に関しては,HGF cDNAについてネコの完全長およびイヌの部分クローニングを行った。またイヌの肝疾患に対するHGF遺伝子治療の前段階として,各種肝疾患におけるHGFおよびTGFの発現について検討を行った。またクローニングされたイヌおよびネコHGFを発現プラスミドに組み込み、その発現プラスミドの投与法(直接あるいはリボソーム法)について検討を行った。小動物の腫瘍に対する遺伝子治療の基礎研究としては,まずイヌの各種腫瘍細胞におけるp53癌抑制遺伝子の変異と,セントロソーム異常について検討を行うとともに,我々の研究室でクローニングが行われたイヌp53遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウイルスの作成し,その抗腫瘍効果を検討した。また抗腫瘍免疫の増強を目的として,ネコIL-18cDNAのクローニングと,イヌCTLA-4融合蛋白発現プラスミドの作成を行った。ネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染症に対する遺伝子治療の基礎研究としては,FIV特異的治療の評価法の確立を目的として,血漿中ウイルスRNA量の定量法を確立し,その手技を用いて血漿中ウイルス量と病態との関連性について検討を行った。またTNFによるFIV感染細胞のアポトーシスのメカニズムについて検討を行うとともに,ネコのTNFレセプターについてクローニングを行った。さらに新たなFIVの治療標的を探る目的で,ネコの血管内皮増殖因子(VEGF)のクローニングも合わせて行った。
著者
林 晋 橋本 雄太 加納 靖之 久木田 水生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

古文書のWEBを実現するにおいて、最も重要なことは古文書の翻刻、つまり、古文書のテキストを文字列にすることである。それにより、古文書のテキストの検索、リンクづけなど、WEBと呼ぶにふさわしい文書の集合体を作成することができる。その実現法の一つとして、市民のボランティア参加による翻刻方法、クラウド翻刻(Crowd transcription)が知られており、英国などでの成功例が知られている。しかし、日本の古文書に対しては、成功例がなかったが、地震関係の古文書を対象にして、ボランティアが崩し字の読みを学習できるようにした、「みんなで翻刻」システムを開発し、これを初めて成功させた。
著者
横井川 久己男
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

大腸菌O157に対する電子レンジのマイクロ波の影響を調べた。本病原体の電子レンジ処理により、生細胞数と酸耐性は共に低下した。また、電子レンジ処理後に新たに増殖した本菌のベロ毒素生産性も低下した。種々の食品に接種した本病原体に対しても電子レンジのマイクロ波は、同様の作用を示した。電子レンジの二次的な加熱作用を排除して、37℃で本菌にマイクロ波を照射した場合にも,病原性は低下した。マイクロ波の作用は、細胞密度の増加に伴って作動するクオラムセンシング機構(特にSdiAタンパク質)に影響を与え、病原性を低下させることが判明した。大腸菌O157による食中毒の防止にマイクロ波は有用であると思われた。
著者
山崎 文靖 佐藤 隆幸 柿沼 由彦 有川 幹彦
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

中高年を好発年齢とする進行性の神経変性疾患では、動脈圧受容器を介した交感神経系による血圧調節機能が廃絶するため、重度の起立性低血圧や失神発作をおこし、末期には寝たきり状態となるが、重症例における治療法はない。そこで本研究では、二年間の実験的臨床研究により、非侵襲的な血圧制御システムを開発する。1.動脈圧反射の開ループ伝達関数の推定:自律神経失調患者と健常成人男性より求めた開ループ伝達関数Hnative(f)はlow-pass特性を示し、0.01Hz以上でゲインが徐々に減少した。定常ゲインは5.3であった。2.圧迫帯圧から動脈圧までの伝達関数HSTM-SAP(f)の推定:自律神経失調患者での平均ステップ応答関数では、圧迫帯圧の上昇に伴い動脈圧は10秒以内に定常状態の90%に達した。定常ゲインは0.7±0.3mmHg/mmHgであった。3.ヒトの血管運動中枢の動作原理の記述:同定した平均的なHSTM-SAP(f)を用いて,ステップ状の血圧低下に対する血圧サーボシステムの振る舞いをシミュレーションし,比例補償係数Kp=0.4,積分補償係数Ki=0.2で,サーボシステムがもっとも安定的かつ迅速に血圧低下を代償することをみいだした。この係数を用いた制御部Hl(f)を伝達関数として記述し、人工血管運動中枢を製作した。4.非侵襲的人工的圧反射装置の構築と有用性の検証:開発したデバイスは、人工血管運動中枢を搭載したPC、血圧モニタ、電磁弁装置、圧搾空気ボンベ、腹部圧迫帯からなる。3例でその効果を検討した。起立時に平均20mmHg低下した平均血圧は、装置の作動により11mmHgの低下に抑制することが可能であった。5.下肢圧迫による動脈圧制御の可能性:下肢圧迫の効果を検証するために、両下肢に圧迫帯を装着し応答性を検討した。圧迫帯内圧の上昇に対し動脈圧は20秒以内に最大反応値に達した。
著者
熊澤 慶伯 橋口 康之 山田 知江美 ジョニオ ピエール
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

次世代シーケンサーを用いたハイスループットなミトコンドリアゲノミクスの手法の開発を行った。まずミトゲノム配列既知の個体を用いて、この方法の効率性と正確性を証明し、ヤモリ下目の様々な系統を代表する約40種から新たにミトゲノム全塩基配列を決定した。遺伝子配置の変動の事例を4例発見するとともに、ヤモリ下目の7科間の系統関係等について従来の形態データに基づく仮説とは異なる結果を示した。
著者
勝山 清次 鎌田 元一 藤井 譲治 吉川 真司 早島 大祐 野田 泰三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、日本中世の聖俗両面において大きな役割を果たした南都寺院の構造、生態を解明すべく、その内部集団のうち、堂衆と院家に着目し、彼らの残した古文書・古記録を調査・研究するとともに、あわせてその史料的性格に関する基礎研究を行うことにある。平成15年度以降、東大寺法華堂・中門堂両堂衆の残した史料である東大寺宝珠院文書(800点余)、並びに興福寺を代表する院家である一乗院の坊官二条家が伝えた一乗院文書(2000点余、ともに京都大学総合博物館所蔵)の史料調査を実施した。質量ともに希有の史料群でありながら、これまで本格的な調査の行われていなかった宝珠院文書については、全点の原本調査と調書作成を終え、目録作成と平安・鎌倉時代分の文書翻刻を完了した。一乗院文書についても同じく原本調査を行い、2287点全部の目録作成を完了した。以上の調査完了に伴い、宝珠院文書・一乗院文書の読解を行い、科研報告書において計七編の関連論文を収録した。
著者
品川 森一 金子 健二 古岡 秀文 石黒 直隆
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

伝達性海綿状脳症の病原体プリオンは従来の微生物不活化処理に高い抵抗性を示し、その不活化には132℃1時間、1-2Nの苛性ソーダ或いは数%の次亜塩素酸ソーダへの浸漬などの厳しい処理が要求される。しかし、精密医療機器のほとんどはそのような処理には耐えられえない。医療器機のプリオン汚染は、比較的低濃度或いは,洗浄により低濃度とすることが可能と考えられる。本研究は、このような低濃度の汚染プリオンを除くための、温和な処理によるプリオン不活化法の開発を目的とした。液化酸化エチレン(LEO)は2%程度で完全ではないが目的にあった程度にプリオンを不活化する。その作用機構は、プリオン蛋白のリジンを始め5種のアミノ酸と反応して比較的特異性を持って切断されるため,不活化がおきることが判った。しかし、処理に数十時間と長時間を要することと、沸点が10□と低く爆発性であり、取り扱いが難しい難点があった。LEOに代る化合物のスクリーニングを目的として、3種のエポキシ化合物、6-プロピオラクトン、プロピレンオキサイド及びグリシドール(GLD)のスクレイピープリオンに対する影響を抗体の反応性を指標に調べたところ、GLDが有望であった。GLDはやはりプリオン蛋白と結合して、LEOの場合より速やかに低分子に断片化することが判った。3及び5%GLDによりPBS中で室温処理のマウスを用いたバイオアッセイにより、プリオンの感染性が、千分の一以下に低下することが判ったが十分とは言えなかった。より有効に処理する条件を見いだすために、GLDの効果に及ぼすGLDの濃度、温度、塩、pHの影響を抗体との反応性により調べた。抗原としての反応性は短時間に減少するが、なお僅か残存し、残りは時間と共に徐々に消失した。調べた範囲のGLD5%、50℃、pH7.8まででは高い方がより効果的であった。マウスを用いたバイオアッセイに長時間を要するため、これらを合わせた条件で処理した試料の成績を本研究期間内で終えることはできなかった。
著者
品川 森一 桑山 秀人 石黒 直隆 堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

感染性プリオンを試験管内で複製することを最終目標として、試験管内で微量のプリオンと多量の正常プリオン蛋白の接触により正常プリオン蛋白の構造を変えることを目論んだ。以前、動物脳から正常プリオン蛋白を多量に精製することに失敗しているため、今回は組換プリオン蛋白を用いることを計画した。さらにプリオン蛋白の精製の困難さから、組換プリオン蛋白のN端にヒスチジンタグを結合し、キレ-トカラムでアフニティ-精製を導入した。今回われわれの用いた系で、プリオンに見られるように,微量のプリオンを添加することにより組換プリオン蛋白のαヘリックス含量が減少し、βシ-ト含量が増加すること、蛋白分解酵素抵抗性に変化すること、プリオン蛋白の一部に相当する合成ペプチドの添加により阻害されること、さらにこのように変化したプリオン蛋白を次の新たなプリオン蛋白に添加することにより、プリオン添加と同様の構造変化を引き起こすことを見出した。唯、この系では,蛋白分解酵素抵抗性に変わったプリオン蛋白の状態がプリオンと同様の構造を反映しているとはいえない可能性が示唆された。この結果、真のプリオン複製に至らなかったが、プリオン複製のために、プリオン蛋白以外の要因が必要か否かを解析するために適した系として使用できる可能性が示唆された。一方、本研究をサポ-トする周辺領域の研究として,プリオン蛋白検出法の改良,牛プリオン遺伝子の完全1次構造解析、発現調節,羊プリオン遺伝子多様の解析,さらに人アルツハイマ-病の危険因子であるApoE蛋白遺伝子が、プリオン病の危険因子ともなる可能性について、羊スクレイピ-での検討等も行った。
著者
日野林 俊彦 南 徹弘 安田 純 志澤 康弘 赤井 誠生 新居 佳子 南 徹弘 安田 純 志澤 康弘 赤井 誠生 新居 佳子 山田 一憲 加藤 真由子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2008年2月に日本全国より41,798人の女子児童・生徒の初潮に関わる資料を収集した。プロビット法による日本女性の平均初潮年齢は12歳2.3ヵ月(12.189歳)で、現在12歳2.0ヵ月前後で、第二次世界大戦後二度目の停滞傾向が持続していると考えられる。初潮年齢は、睡眠や朝食習慣のような健康習慣と連動していると見られる。平均初潮年齢の地域差は、初潮年齢が各個人の発達指標であるとともに、国内における社会・経済的格差や健康格差を反映している可能性がある。
著者
山内 博 網中 雅仁 荒井 二三夫 吉田 勝美 中井 泉 斉藤 秀
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、急性や慢性砒素中毒患者の妊婦が高濃度な無機砒素を摂取した場合、胎児の脳中枢神経障害は発生するか否かについて、動物実験モデルを用いて解明を試みた。妊娠ラット(妊娠17日目)に投与した三酸化二砒素量はLD_<50>の1/4(三酸化二砒素として、8.5mg/kg)である。三酸化二砒素投与後、12、24、48時間目にラットを屠殺し、脳中の砒素を化学形態別に測定、そして、組織診断(タネル法でのアポトーシス細胞診断)を行った。他方、自然出産させた群(生後5週齢)を用いて、自発行動量(Animex)と7項目(潜伏時間、歩行量、立ち上がり回数、毛繕い回数、洗顔回数、脱糞回数、排尿回数)のOpen-field testを実施した。脳血液関門が未成熟な段階において、胎仔の脳へ三酸化二砒素もしくはその最終代謝産物であるジメチル化砒素(DMA)が増加し、脳細胞は損傷を受けた現象が観察された(アポトーシス細胞;12時間目が最も発生し、時間の経過と共に減少傾向)。この作用は母獣では認められず胎仔のみであった。脳細胞への損傷は三酸化二砒素によるものか、それとも代謝物であるDMAによる作用であるか、新たな研究の必要性が提起された。行動学(Open-field test)の7項目の結果は、三酸化二砒素投与群と対照群の二群間を比較すると、歩行量と潜伏時間に二群間で有意差が認められた。立ち上がり回数、毛繕い回数、洗顔回数、脱糞回数、排尿回数に関しては、二群間で差が見られなかった。しかし、三酸化二砒素投与群の雌では立ち上がり回数の減少、毛繕い回数の増加がそれぞれ統計学的に有意差が認められた。自発行動量の結果は、三酸化二砒素投与群と対照群の休眠期の活動に差は認められなかった。しかし、活動期では三酸化二砒素投与群は午前4:00〜午前8:00の時間帯での活動量の減少を認めた(t-testとANOVA)。今日、飲料水の無機砒素汚染からの高濃度な無機砒素暴露者は世界的な規模では約1300万人存在し、妊婦、胎児や乳児への暴露が存在している。また、急性砒素中毒患者の妊婦から生まれて来た赤ん坊も存在している。本研究において、胎児期の砒素暴露による脳障害の発生は、組織診断と行動学的な検査結果において示唆され、今後、この分野の研究は十分に発展させる必要性があると考えた。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

人畜共通新興再興感染症は人類の脅威である。特に、H5N1 高病原性鳥インフルエンザの世界的な蔓延とヒトへの感染は、インフルエンザの新たな世界的大流行(パンデミック) を危惧させている。本研究では、こういった世界情勢を鑑み、H5N1 ワクチン開発のための基礎研究を実施した。その結果、不活化ワクチン製造のためのシードウイルスの発育鶏卵ならびにMDCK 細胞における増殖基盤を明らかにし、その知見をもとに高増殖性シードウイルスの作出に成功した。本成果は、今後のインフルエンザワクチン開発におおいに貢献することが期待される。
著者
久我 隆弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

従来のものに比べてはるかに簡便かつ安価な単一光子発生装置を開発した。化学的に多量に合成できる半導体ナノ粒子(直径数nm程度)をポリマー薄膜中に固定し、その中の1個に着目してレーザー光を照射する。1個のナノ粒子からは、量子閉じ込め効果により一度に1個の光子しか放出されないため、この系はそのまま単一光子源となる。1秒あたり1万個を超える光子を光ファイバーに導き、単一光子の証であるアンチバンチングを確認した。
著者
宮本 みち子 長須 正明 樋口 明彦 平塚 眞樹 津富 宏 西村 貴之 新谷 周平
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

現代における若者のリスクは、教育から労働市場への移行の困難として表現されてきたが、それは特定の階層に集中している。これらの若者は家庭・学校・職場のいずれにおいても不利な立場で連鎖的に社会から排除されている。日本・オランダ・オーストラリア・イギリス・フィンランドの国際比較から日本の特徴をみると、若者の自立を担保する社会保障制度は極めて弱体である。社会的に孤立し就労困難な若者の増加に歯止めをかけるためには、所得保障と就労支援サービスのセット、教育・福祉・労働・保健医療制度の連携が必要である。ターゲットを絞った支援サービスだけでなく、若者の社会参加とエンパワメントを若者政策に位置づけるべきである。
著者
小野寺 節 松本 芳嗣 佐伯 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

プリオン病は異常プリオン蛋白(PrPsc)が因子となり、経口的に感染するが、その取込みおよび動態は多くが不明である。腸での微量な取込みの検出が困難で、感染性研究の為にウシを用いた大型施設を要する研究は進んでいない。したがって、マウスモデルにおいて、蛋白分解酵素に抵抗性のβアミロイド蛋白と蛍光蛋白との融合蛋白(Aβ-EGFP)を作製して、体内動態を解析した。同時に、別のマウスに筑波1株をマウスに経口投与して、PrPscの動態を免疫組織化学的に検索した。Aβ-EGFPはβシート構造が45.89%と非常に豊富であった。Aβ-EGFPは乳飲み期に吸収円柱上皮細胞と一部M細胞から取り込まれた。しかし、離乳するにつれて、絨毛からの取込みは、徐々に減少した。また乳清存在下でより取込まれ、母乳内の移行抗体等に紛れて取込まれた可能性が考えられた。PrPscの経口投与後の免疫組織学的においても、PrPscは乳飲み期に吸収円柱上皮細胞より取込まれるのが観察された。したがって、プリオン病の伝達は、パイエル板が未発達な離乳時期では、腸陰窩部での蓄積後に末梢神経に伝達する可能性が示唆された。これらの研究に併せて、Aβ-EGFPを投与したウシの腸管における動態、スクレイピー感染マウス脳におけるアポトーシス、活性酸素産生関連蛋白の動態についても研究を行った。
著者
小野寺 節 松本 芳嗣 佐伯 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

伝達性海綿状脳症(Transmissible spongiform Encephalopathy, TSE)は、病原体が明らかになる前は様々な名前で呼ばれていた。現在それらの病気は様々な動物およびヒトに観察される。しかし共通の発病機構(プリオンの増殖)によって起こると考えられている為にTSE、あるいはプリオン病と共通の概念で呼ばれている。この病気は、羊では1759年に報告され、スクレイピーと呼ばれていた。この病気はヒトには伝達性が無いと考えられる。自然における病原体感染は、羊・山羊(スクレイピー)、鹿、大鹿(慢性消耗性疾患、chronic wasting disease, CWD)と考えられている。羊はスクレイピー病原体を、胎盤感染、あるいは病原体で汚染されたワクチンにより、他の羊・山羊に感染させたと考えられている。また、内臓を飼料として用いることにより、ミンクや牛に伝達したのが最大の可能性として、伝達性ミンク脳症状(TME)、ウシ海綿状脳症(BSE)が発生したと考えられている白オリックスのプリオン遺伝子を、プリオン遺伝子欠損マウスに導入する事により、オリックス型プリオン遺伝子マウスを作製した。このマウスは、プリオン遺伝子を、脳、心筋、骨格筋に発現しているのが、ウエスタン・ブロッティングにより明らかにされた。スクレイピー病原体は、トランスジェニックマウス脳内で増殖する事が確認されたが、心筋、骨格筋での増殖は確認されなかった。一方、このオリックス型プリオン遺伝子マウスは、老齢において、拡張性心筋症および、骨格筋の硝子様変性を示した。したがって、これらのマウスは、病原体を感染させなくとも、心疾患のモデル動物と考えられた。現在、プリオン遺伝子欠損細胞株に、ウシ、ハムスタープリオン遺伝子を導入して、病原体高感度検出系を確立しようとしている。
著者
辻本 元 阪口 雅弘 増田 健一 大野 耕一 平原 一樹 佐々木 伸雄 白石 明郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究においては、DNAワクチンによるアレルギー性疾患の根治的治療法を確立するため、アレルギー性疾患の自然発症犬および実験的感作犬を用いて、in vitroにおけるアレルギー反応の基礎的解析、さらにそれを応用してin vivoにおける臨床有効性の検討を行なった。最初に、スギ花粉抗原に感作されたアトピー性皮膚炎のイヌを対象としてスギ花粉抗原に対するアレルギー反応を解析した。すなわち、スギ花粉主要抗原のひとつであるCry j 1に感作された症例が多いことを明らかとし、それら症例においてはCry j 1に対するIgE産生がスギ花粉飛散時期と一致していることを解明した。さらに、これら症例においてCry j 1のオーバーラッピングペプチドを用いてT細胞エピトーブ部分を同定した。また、Cry j 1DNAワクチンの治療試験を4頭の症例を用いて実施し、治療群においてはいずれの症例もアトピー性皮層炎症状の改善とともに、スギ花粉粗抗原を用いた皮内反応の陰性化およびスギ花粉に対する末梢血リンパ球の芽球化反応の低下を認めた。一方、スギ花粉を実験的に感作した犬において、スギ花粉抗原気道内曝露によってスギ花粉特異的な気道過敏性を誘導することが可能であった。これを用いてCry j 1DNAワクチンによる治療試験を行なったところ、治療群においては、IgE値やリンパ球の芽球化反応においては顕著な変化は認められなかったが、スギ花粉抗原に対するin vivo反応性においては皮内反応の陽性閾値の上昇、気道過敏性反応の閾値の上昇が認められた。さらに、肺の組織においても、対照群と比較して肥満細胞の数が有意に低下していた。以上のことから、DNAワクチンはアレルギー性疾患の臨床症状をコントロールすることができる根治的治療法であることがわかった。