著者
阪口 雅弘 増田 健一 蔵田 圭吾 辻元 元 五十君 静信
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

犬においてアレルギー疾患が多く報告されている。その中でもスギ花粉症の犬はアレルギー全体の10%程度を占め、ダニアレルギーに次いで重要なアレルギー疾患である。アレルギー治療研究の分野において乳酸菌が注目され、乳酸菌におけるTh1誘導能およびIgE産生抑制効果が示されている。本研究においてスギ花粉症に対する抗原特異的な免疫療法として、安価に製造可能なスギ花粉アレルゲン遺伝子組換え乳酸菌を用いたワクチンを開発することを目的としている。ベクターとして、乳酸菌:Lactobacillus casei(ATCC393)を用いた。L.. caseiにおける発現に成功しているLLOとの融合タンパクとして発現されるようにデザインしたプラスミドベクターを作製し、ム.oε5θグに導入した。本研究では、 N末端から158-329番目のアミノ酸を含むスギ花粉アレルゲンであるCry j 1(Cry j 1_<158-329>;約20 kDa)を用いた。このCry j 1はヒトおよびBALB/cマウスのCD4+T細胞が認識するT細胞エピトープを含んでいる。 LLOは、Listeria monocytonegesの菌体由来タンパクであり、LLO白体にマウスの脾臓細胞からTh1サイトカインを誘導することが明らかとなっている。 LLOは溶血毒性を有するため、本研究では、溶血毒性をもたらすドメインを欠損させた変異LLOを用いた。抗LLO抗体を用いたウェスタンブロット法では、 Cry j 1_<158-329>-LLO導入株で約60kDaのバンドを、LLO導入株では約40kDaのバンドを検出した。この分子量の違いはCry j 1_<158-329>(20kDa)の分子量と一致することから、導入したCry j 1_<158-329>は発現していると予想される。また、LLOからCry j 1_<158-329>にわたるシークエンスを増幅するようにデザインされたプライマーペアを用いたRT-PCRによって、Cry j 1_<158-329>mRNAの発現も確認した。これらの結果は、この組換えL.. caseiにおけるCry j 1_<158-329>の発現を示している。このリコンビナント乳酸菌によるIL-12P70誘導能をBALB/cマウスの脾臓細胞で検討した結果、 LLOの発現によってIL-12の産生が増強されることが明らかになった。
著者
岡田 光弘 小林 直樹 照井 一成 田村 直之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

次の3点を中心に研究を進めた。1.証明論と意味論の統合的見方について研究を進めた。カット消去定理等の証明論の基本定理の成立条件がPhase semanticsによる意味論的分析により明らかになることを示した。又、Simple logic等の線形論理の基礎理論に対して、証明論と意味論の統合を進めた。さらに、直観主義論理Phase semanticsと古典論理Phase semanticsとの密接な関係を明らかにした。Phase semanticsの成果に基づいてカット消去定理の意味論的条件の研究を進めた。2.Reduction Paradigmによる計算モデルとProof-Search Paradigmによる計算モデルを統一的に分析できる論理的枠組の確立に向けた研究を進めた。ゲーム論的意味論等の観点からの分析も加えた。(岡田・Girard等フランスグループとの共同研究)これまでのReduction Paradigm(関数型言語の論理計算モデル)とProof-Search Paradigm(論理型言語や証明構成の計算モデル)の内的な統合を可能にするLudics等の新たな論理体系理論の分析をGirardグループらと共同で行なった。3.線形論理的概念がプログラミング言語理論やソフトウェア形式仕様・検証理論、計算量理論等にどのように応用され得るかのケーススタディーを行なった。例えば昨年に引き続き、ダイナミック実時間システムのシステマティックな設計・検証や認証プロトコル安全性証明等を例にとり、線形論理的観点や手法の応用可能性を示した。この目的でフランス及び米国共同研究グループとの共同研究を行なうとともに、計3回の成果報告会を日仏共同で行った。
著者
堀田 真紀子 玄 武岩 西村 龍一 田邉 鉄 宇佐見 森吉 川嵜 義和 坂巻 正美 富田 俊明 常田 益代 竹中 のぞみ 原田 真見 浜井 祐三子 石橋 道大
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、文化の持つエンパワメント機能に注目し、地元北海道を中心に、小規模農業従事者、障害者、少数民族といった社会的、経済的弱者を主体にしたり、対象にした文化発信を研究。全員がイニシアティブを担える脱中心的な構造を持つものほど、当該者のエンパワメントにつながること、また地域の立場と、海外の類似事例の担い手との交流や、実践者と研究家の交流が、とくに効果的に働くことを明らかにすることができた。
著者
水口 雅 山内 秀雄 伊藤 雅之 高嶋 幸男 岡 明 齋藤 真木子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

急性壊死性脳症(ANE)と痙攣重積型急性脳症(AESD)の病因を解明するため、遺伝子解析を行った。全国的な共同研究により日本人患者の末梢血検体を集積し、候補遺伝子の変異・多型を調べた。AESD の発症にミトコンドリア酵素 CPT2 多型とアデノシン受容体 ADORA2A 多型、ANE の発症に HLA 型が関与することが明らかになり、病態の鍵となる分子が同定された。日本人の孤発性 ANE は、欧米の家族性 ANE と異なり、RANBP2 遺伝子変異が病因でないことが判った。
著者
堀本 泰介 前田 健 川口 寧 杉井 俊二 土屋 耕太郎 五藤 秀男 田島 朋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ブタ用多価組み換えウイルス生ワクチンを開発するためには、まずベクターウイルスの選択を検討しなければならない。この目的に合うベクターウイルスとしては、(1)ブタに感染するが病原性の弱いもの、あるいは確実に弱毒化されているもの、(2)比較的サイズの大きな複数の外来性の遺伝子の挿入が可能なもの、(3)外来抗原を長期間発現可能な持続感染性のもの、が理想的であると考えられる。本研究では、この条件に合うものとしてブタサイトメガロウイルス(Porcine Cytomegalovirus : PCMV)のベクター化を考えた。その基礎知見の獲得のため、PCMVのゲノム構造および主要蛋白質の性状解析を実施し、以下の研究成果を得た。(1)PCMVゲノムDNAの制限酵素切断プロファイルを明かにし、切断断片のクローニングに成功した。(2)ヘルペスウイルスの主要遺伝子である主要ゲノムの転写複製に必須であるDNAポリメラーゼ遺伝子、粒子形成に必須であるカプシッド蛋白遺伝子、細胞レセプターへの結合に関与する糖蛋白質gB遺伝子、およびこれら周辺の遺伝子クラスターの同定、塩基配列を決定した。(3)これら主要遺伝子の分子系統解析の結果、PCMVはベータヘルペスウイルス亜科、特にヒトヘルペスウイルス6型および7型と非常に近縁なウイルスであることを発見した。(4)いくつかの必須遺伝子の発現実験により蛋白質の分子構造解析、あるいは免疫性状などについて検討した。(5)PCMV感染の有無を判定する高感度で特異性の高いMCP遺伝子配列に基づくPCR法を確立した。さらに、濾紙乾燥血液をこの方法に応用した。これらの成果は、細胞性・液性免疫の誘導や組み換えワクチン作製に関する基礎的な情報を提供するのみならず、今後、獣医畜産学および豚の臓器を利用した異種移植に関する臨床医学の発展に大きく貢献するものと考えられる。
著者
川口 寧 前田 健 堀本 泰介 見上 彪 田中 道子 遠矢 幸信 坂口 正士
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は'bacterial artificial chromosome (BAC) systcm"を用いてヘルペスウイルスの簡便な組み換え法を開発することによって、新しいワクチン開発、遺伝子治療ベクターの開発、基礎研究を著しくスピードアップすることにある。本研究課題によって得られた結果は以下の通りである。ヘルペスウイルスで最も研究が進んでいる単純ヘルペスウイルス(HSV)の組み換え法の確立をBAC systemを用いて試みた。外来遺伝子の挿入によって影響がでない部位であるUL3とUL4のジャンクション部位にLoxP配列で挟まれたBACmidが挿入されたHSV全ゲノムを大腸菌に保持させることに成功した。大腸菌よりHSVゲノムを抽出し培養細胞に導入したところ、感染性ウイルス(YK304)が産生された。また、YK304とCre recombinase発現アデノウイルスを共感染させることによって非常に高率にYK304 genomeよりbacmidが除去されたウイルス(YK311)が得られた。YK304およびYK311は培養細胞において野生株であるHSV-1(F)と同等な増殖能力を示した。さらに、マウス動物モデルを用いた解析によりYK304およびYK311がHSV-1(F)と同等の病原性を示すことが明らかになった。以上より、YEbac102は、(i)完全長のHSV-1 genomeを保持し、(ii)bacmidの除去が可能であり、(iii)野生株と同等な増殖能および病原性を保持する感染遺伝子クローンを有していることが明らかになった。大腸菌の中で、実際に任意の変異をウイルスゲノムに導入する系を確立した。RecAを発現する大腸菌RR1にHSV全ゲノムを保持させた(YEbac103)。YEbac103内で、RecA法に従って、ICP0遺伝子に3つのアミノ酸置換を導入することに成功した。また、RecAを発現するトランスファープラスミドを構築し、RR1を用いずに、RecA negativeの大腸菌YEbac102内で、ICP34.5部位に変異を導入することに成功した。YEbac102、YEbac103と確立した組み換え系は、HSVの基礎研究、ワクチン開発、ベクター開発に多目的に有用であると考えられる。またこれらの系は他のヘルペスウイルスにも応用可能である。
著者
廣田 良夫 田中 隆 徳永 章二 清原 千香子 山下 昭美 伊達 ちぐさ
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高齢者を対象にインフルエンザワクチンの有効性等を研究した。1997〜1998年のシーズンは流行規模が小さかったため、antibody efficacyの算出を行なった。ワクチン接種後ワクチン株A/武漢(H3N2)に対するHI価≧1:256では、≦1:128に比べてインフルエンザ様疾患(ILI)の発病リスクが0.14に低下した(antibody efficacy:86%)。接種前HI価≦1:128の者が接種後≧1:256に上昇する割合は71%であり(achievement rate)、これらの積(0.86×0.71)からvaccine efficacyは61%と算出された。1998〜1999年のシーズンは流行規模がある程度大きかったので、直接vaccine efficacyを算出することができた。発熱38℃以上のILIについてはウクチン接種の相対危険(RR)は0.74〜0.79、発熱39℃以上のILIについてはRRが0.50〜0.54、ILI発病者(38℃以上)における死亡についてはRRが0.43であった。1999〜2000年のシーズンは、流行を認めなかったので、老人保健施設の入所者を対象に、2回接種による追加免疫の効果を検討した。その結果、追加免疫による良好な抗体獲得は認めなかった。また、同施設の職員を対象に抗体応答を調べたところ、健常成人では追加免疫を行なわずとも、1回接種で抗体獲得は比較的良好である、との結果を得た。また日常生活動作(ADL)が低い者では発病リスクが6倍を超えた。接種後48時間以内に現れた有害事象は、38.0℃以上の発熱を呈した者が0.8〜2%、注射部位の腫れを呈した者が3.2〜4%であった。
著者
深沢 克己 高山 博 羽田 正 松嶌 明男 勝田 俊輔 千葉 敏之 宮崎 和夫 樺山 紘一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、近世・近代のヨーロッパにおける宗教的寛容と不寛容の生成・展開について考察することを主たる目的としながらも、イスラム世界・ヨーロッパ中世の専門家を交えることで、この問題を比較史的にも検討することを課題とした。この研究テーマについて各研究分担者がそれぞれにおこなった調査研究の成果を年二回の研究会において全体で討議し、その結果として、次のような共通理解に到達することができた。宗教改革を契機として成立した近世ヨーロッパの宗教的寛容は、国家の役割に従って分類するならば、宗派別の住み分け、法令による異宗派の共存、法律の制定を伴わない実質的な寛容の三つに類型化できる。しかし寛容の堅固な基礎は日常的次元での共存と相互理解にあり、それを可能にする社会の意識改革あるいは文化変革にある。宗教的寛容の歴史的研究においては、この問題への国家による対応のみならず、社会的次元での寛容の実践のあり方、またそれを支える人々の内面的根拠にも分析のメスを入れることも重要であり、両者を総体として論じることが要請される。このように考えるならば、歴史としての宗教的寛容という問題は、近世近代のヨーロッパのみならず、イスラム世界やアジアをも含めた世界史の問題として、あるいは古代・中世という近代的寛容の精神をいまだ知ることのない歴史世界についての考察にも応用可能であるばかりか、まさに宗教的不寛容が蔓延する現代社会において、その解決法を歴史的に探るという意味でもまた有益である。
著者
丹羽 仁史
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

我々は、マウスES細胞において、インテグリンを介した細胞外マトリクスとの接着と、カドヘリンを介した細胞間の接着が、液性因子と協調して未分化状態維持シグナルを入力しているとの仮定の下に、これらの接着分子の機能解析を試みた。まず、インテグリンの細胞内シグナル伝達経路を遮断する目的で、integrin-linked kinase(ILK)の競合阻害変異体を強制発現させたところ、ES細胞は分化抑制因子LIFの存在下でも分化傾向を示した。一方、ES細胞の凝集塊を浮遊培養すると、その表層は原始内胚葉に分化する。このとき、可溶型E-cadherin細胞外ドメインを添加すると、この分化が阻止されたことから、この凝集塊表層における原始内胚葉分化は、ここに位置した細胞における細胞接着総量の減少が関与していることが示唆された。これらの細胞外シグナルは、最終的には転写因子の発現調節を介して、分化運命の決定を制御する。我々は、マウスES細胞で転写因子Gata6を強制発現させることによって誘導される原始内胚葉細胞が、初期胚から樹立されるXEN細胞と同等の細胞生物学的特性を示すことを証明した。また、転写因子による分化運命決定モデルとして、栄養外胚葉分化に関わる転写因子Cdx2と、多能性維持転写因子Oct3/4の相互抑制機構を明らかにするとともに、もう一つの多能性維持転写因子Sox2の機能を解明することにも成功した。これらの結果は、今後Gata6による原始内胚葉分化誘導調節機構の解析に大きく資するものであると考えている。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

我々は、無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成を支持する活性を、ES細胞自身が産生していることを見出し、これをKSRSと名付けて、当初発現ライブラリースクリーニングによるクローニングを試みたが、活性を示すクローンの同定には至らなかった。また、種々の既知サイトカイン・成長因子の効果も検討したが、明確にKSRS様活性を示すものは存在しなかった。しかし、このKSRS活性は血清中にも存在することに着目し、次に血清から無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成支持能を指標に分画を進め、最終的に逆相クロマトグラフィーで単一画分に活性を認めるに至った。現在、スケールアップの上、活性を担う蛋白の同定を進めている。一方で、血清からの分画過程で得られた粗画分を用いて129系統由来EB3 ES細胞を無血清無フィーダー状態で約1週間培養し、その後ブラストシストインジェクションを行った。この結果キメラマウスが得られることは確認され、現在germline transmission能を検討している。また、同様の条件でC57BL6系統由来胚盤胞をフィーダー細胞存在下に無血清状態で培養し、ES細胞の樹立を試みたところ、約20%の胚盤胞からES細胞株を得ることに成功した。現在、これらの細胞の分化能を検討するとともに、培養皿をコートする基質を最適化して無フィーダー化することを試みている。これらの解析と平行してES細胞の増殖を制御するシグナル伝達機構の解析も行った。特に、TGF-βファミリーの因子がES細胞の増殖に及ぼす影響を検討するために、抑制Smad蛋白をコードするSmad6とSmad7を発現ベクターに組み込んで、ES細胞に導入して過剰発現させた。この結果、Smad7の発現はES細胞の増殖を顕著に抑制した。この効果は、細胞のpluripotencyには影響を与えず、またSmad2の共発現によって解除されることから、ES細胞における生理的な役割を反映したものと考えられ、現在さらに詳細な検討を進めている。以上の結果は、今後ヒトES細胞を再生医学に応用する上で、異種動物成分を排除した培養系を確立するための基礎研究として、今後さらに発展が期待できるものと考えている。
著者
森 信介 飯山 将晃 橋本 敦史 舩冨 卓哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

前年度までに構築したレシピフローグラフコーパスと収録した調理映像を用いて調理映像からのレシピ生成の手法を提案し、実験結果とともに国際学会にて発表した。手法は十分一般的であり、調理映像とレシピに限定されない。これにより、本研究課題「作業実施映像からの手順書の生成」が国際学会採択論文とともに完了したといえる。課題終了後も、写真付きの手順書などのような、マルチメディア教材の自動生成などの発展的研究に取り組んでいる。
著者
丸山 定巳 花田 昌宣 宮北 隆志 中地 重晴 下地 明友 原田 正純 足立 明 井上 ゆかり 田尻 雅美 藤本 延啓
出版者
熊本学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究の目的は、近年の水俣病被害者救済策や地域振興策が水俣病患者にもたらすものを50年の歴史に照して検証することであった。そこで根本的に問われることは、改めて水俣病被害とは何であるのかを解明することであった。この基礎の上に立って、今日の意義と課題を明確にして行くことである。そのために、過去の資料、研究成果、種々のデータを洗い直し、現地のさまざまなアクターに密着して、被害者ばかりではなく水俣病に関わるステークホルダーとともに調査を実施した。それによって、水俣病という負の経験を将来に活かすことができ、また、環境被害に関する国際フォーラムを通してその成果を国内外に発信することができた。
著者
大塚 康夫 王 野 庄司 一夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、二酸化炭素を酸化剤として用いて、天然ガスの主成分であるメタンを、エタンならびにその二次的分解生成物であるエチレンに、低温で選択的に直接転換する方法の開発を目指した。さまざまなランタナイド酸化物を触媒とし、固定床石英製反応器中でCH_4とCO_2の反応を行ったところ、プラセオジムやテルビウムの酸化物上では、CH_4からC_2H_6への選択的変換が450〜650℃の低温で極めて速やかに進行することを見いだした。W/Fの増加にともない、C_2H_6収率は増大し最大で8C-mol%に達したが、触媒活性はいずれも反応時間の経過とともに緩やかに低下した。これらの酸化物は上記の反応温度域では容易に酸素を放出するので、その過程で生成した格子欠陥が反応に関与しているものと推論される。次ぎに、耐久性のある高性能複合触媒の開発を目的として、酸化還元能を持つCe、Cr、またはMnの酸化物粉末を、塩基性のCaOを与えるCa硝酸塩水溶液に含浸して焼成したところ、いずれの二元系酸化物触媒も、C_2生成に対して相乗効果を示すことを見いだした。C_2炭化水素の選択率と収率はともにCO_2分圧の上昇に従い増加し、前者は70kPaの分圧で65〜75%に達した。これらの3種の触媒は、ガス流通時間が8〜10hにおいても、安定な性能を示した。TPD、XRD、XPSを用いる触媒解析の結果より、CO_2はまずCa^<2+>サイトに吸着し、吸着CO_2は隣接するCe^<3+>、Cr^<3+>またはMn^<2+>のサイトで活性化されて表面酸素種を与え、この化学種がC_2炭化水素の選択的生成の酸化剤として機能することが明らかとなった。本研究で得られた成果は、多量のCO_2を含む低品位天然ガスの直接転換利用プロセスの発展に貢献するものと期待される。
著者
岡田 温司 篠原 資明 鈴木 雅之 小倉 孝誠 並木 誠士 喜多村 明里 水野 千依 柳澤 田実 松原 知生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

肖像には二重のベクトルがある。ひとつはモデルへと引き戻されるもの(モデルに似ていると思わせるベクトル)、もうひとつはモデルから観者へと表出してくるもの(モデルの性格や内面性が表われていると思わせるベクトル)である。この反対方向の運動は、「肖像」を意味するイタリア語「リトラット」とフランス語「ポルトレ」に象徴的に表われている。前者は、「後方へと引き戻す」という意味のラテン語「レ-トラホー」に、後者は「前方へと引き出す」という意味の同じくラテン語「プロ-トラホー」に由来するのである。かくのごとく「肖像」は、模倣と表出、後退と前進、現前と不在、顕在と潜在、保管と開示、隠匿と暴露、ピュシス(自然)とアレーテイア(真理)、これら両極の引き合いや循環性のうちに成立するものなのである。
著者
芳賀 満 岡田 文男 内田 俊秀 エドヴァルド ルトヴェラゼ ジャンガル イリヤソフ
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

地中海文明、イラン文明、インド文明と中国文明が出会う中央アジアにおいて、特にアレクサンドロス大王遠征の実証的研究を目的として、バクトリア地方のアム河河畔のギリシア・クシャン系の都市カンピール・テパを発掘し、その遺構や遺物から前4世紀から後2世紀までの同都市の変遷を解明した。ギリシアの神々ディオニュソスとアリアドネが表されたテラコッタ製遺物からは、この地までディオニュソス教が伝播しその信者が存在したこと、図像からはギリシア文明とインド文明が融合していることを明らかにした。
著者
長瀬 美樹
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、Rac1によるMR活性化と臓器障害の機序につき検討した。足細胞特異的Rac1活性化、同Rac1 KOマウスは足細胞障害、アルブミン尿、糸球体硬化を自然発症し、Rac1活性とMR活性、MR阻害薬の保護効果が平行していた。マクロファージや心筋特異的Rac1/MR KOマウスでは心腎障害が軽微であった。肥満糖尿病性腎症、TAC心障害モデル、Ang II/食塩腎障害モデル、皮膚老化モデルにおいてRac1やMRの活性化、慢性炎症が関与し、Rac阻害薬やMR拮抗薬により病変が改善した。以上、Rac1-MR系の標的細胞とシグナルカスケードを同定し、この系が関与する新たな病態を明らかにした。
著者
留岡 和重 関根 利守
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高温に熱せられた始原的隕石に特有の衝撃溶融脈の電子顕微鏡,放射光X線回折による観察・解析により,溶融脈の鉱物学的詳細そしてその生成プロセスが明らかになってきた。また衝撃実験によって,隕石の高温下における衝撃加熱の影響は常温下における影響とは大きく異なることがわかってきた。さらに本研究遂行過程で,衝突による角礫岩化によって形成された組織に関する新たな発見があり,その研究にもとづいて隕石の母天体における組織形成に関する新たなモデルを提出した。
著者
三根 和浪 橋本 泰幸 若元 澄男 奥村 高明 三澤 一実 神山 貴弥
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

国内外の優れた図画工作・美術科教員が持つ学習指導に関わる知を取材すると共にそれを共有するシステムをインターネット上に構築し検討を行った。その結果,我が国の図画工作・美術科熟達教員は,常に個に向かう授業を行い,状況に柔軟に対応する教育技術を持っていた。具体的には,制作の過程を重視し,共感的な言葉遣いや常に児童・生徒の個と集団の様子をモニタリングすることによって個を引き出す授業を進めているなどがわかった。
著者
小野 光弘 塙 政利 平田 拓 下山 雄平
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

生体のin vivo(生きたままでの)電子常磁性共鳴(EPR)計測、とりわけラットのホールボディ計測の実現を目標として、350MHzパルスEPR装置の開発を行った。本研究で得られた成果をまとめると次の様になる。(1) 数値解析により、最適なパルス幅と共振器の共振尖鋭度Qは、緩和時定数T_2=10〜100nsの生体ラジカルに対して夫々10〜68ns、10〜60、T_2=100〜800nsの固体のラジカルに対して夫々68〜158ns、60〜280であることが分かった。(2) 試作した350MHzパルスEPR装置を用いて、γ線照射クオーツ粉末37.5gの電子スピンエコー(ESE)信号の受信に成功した。受信信号電圧はパルス間隔が1400〜1600nsにおいて3〜5mVであった。(3) 本研究で得たESE信号から、γ線照射クオーツの緩和時定数はT_2=778nsと推定される。これは我々の研究室で既に開発した1.3GHzパルスEPR装置による測定結果T_2=759nsに極めて近い値である。(4) 生体計測を行うために、今後共振器のQを更に下げる必要がある。
著者
松浦 さと子 北郷 裕美 金山 智子 小川 明子 林 怡蓉 寺田 征也 志柿 浩一郎 川島 隆 松浦 哲郎 畑仲 哲雄 畑仲 哲雄 日比野 純一 橋爪 明日香 稲垣 暁
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1992年に制度化されたコミュニティ放送局は、2016年代に入り300局を超えた。それらは、地域の地理的環境や文化的・社会的・政治的・経済的背景に適応すべく多様な運営スタイルで放送が担われている。しかし共通しているのは災害対応への期待が高いことである。特に2011年以後は「基幹放送」としてその責任が重くのしかかる。国際的なコミュニティラジオが「コミュニティの所有、運営、非営利非商業」と定義されていることに対し、日本のコミュニティ放送は、資源動員、法人形態、ジャーナリズムや番組審議会等、独自の成立条件を形成してきた。本研究では長期のフィールドワークと日本初の悉皆調査によってそれらを明らかにした。