- 著者
-
坂本 徹
- 出版者
- 東京医科歯科大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2004
左室心尖部脱血では自己心拍動に対し「非同期」駆動であっても十分な補助効果を有すると同時に左室容積からの評価では拡張末期容積は比較的大きく駆出後弛緩期の容積は補助率増加につれて減少し,左室ループは「おむすび形」を呈した.この容積変化は大きいが十分な圧負荷軽減が得られ心筋細胞形状も対象値と同様な所見を示し補助効果の大きさを形態学的にも示した.心筋組織内の細胞生化学的分析ではAngiotensin II type 1 receptor心筋組織内mRNA濃度は軽度の上昇を認めたにすぎないが,β1-adrenergic receptor心筋組織内mRNA濃度は「対象値」とほぼ同一値を示した.また「左房脱血群」に比較し平均値比較で約3倍まで上昇し,これら2脱血部位間で有意差を認めた.この現象はG蛋白共役型受容体として先のAngiotensin II type 1 receptorとβ1-adrenergic receptorは同じ仲間であるが受容体共役因子(トランスデューサー)はGs,Gqと異なる.左心補助中にβ1-adrenergic receptor心筋組織内mRNA濃度が上昇することは自己心機能回復後に十分な変力作用(inotropic effect)を有するための反応と考えられ,「Bridge to Recovery」への合理的な反応とも考えられる.一方,左房脱血によるVADでは左心力学的にも圧負荷の軽減は得られず心筋細胞の検討でも細胞内浮腫の出現,ミトコンドリアの大小変化,心筋の錯綜配列などが持続した.また,Angiotensin II type 1 receptor心筋組織内mRNA濃度の比較でも上昇を認め,VAD駆動中も左室に対する圧負荷が存在することを示していた.