著者
永木 正和 木立 真直 納口 るり子 茂野 隆一 松下 秀介 川村 保 広政 幸生 長谷部 正 坪井 伸広
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.国内研究本年度は研究最終年度にあたるため、各分担者間の研究分担課題の最終微調整、課題の確認、補足的な調査活動、および研究会での研究成果の報告を内容とする活動を行った。国内調査等は個別補完的に行うものとし、小規模にとどめた。2.海外交流、海外調査(1)韓国の農産物・食品流通は日本と類似の展開が認められている。わが国の韓国からの輸入依存が高まる可能性が高いとの認識から、以前より韓国の研究者集団(韓国生鮮農産物新流通研究会)と交流をもっていたが、相互研究発表の形でソウルにおいて「日韓共同シンポジューム」を開催した。情報システムと物流システム(特にロジスティックス)の構築が主要な議論となった。(2)日韓シンポジュームの後は韓国農村で生鮮野菜の流通システムを調査した。3.秋以降は数次の研究会(主に筑波大学にて)(1)筑波大学で公開研究会を開催し、分担者は順次研究報告した。最後の2月の研究会では、本研究全体の統一コンセプトの再確認、ならびに総体的な結論について討論した。(2)研究成果を要約的に言及すると、方法論的には産業組織論であるが、主として川下に切り口を置くアプローチをとった。ちょう度、食品の安全性問題や風評被害が発生した時期であり、これまで市場経済学やマーケッティング経済学ではあまり重視されてこなかった「製品品質の1つとしての安全性」、「製品に付加する1つのサービスとしての安心」を市場流通させるための不可欠な商品属性であることを見いだし、これを取引理論、情報理論を手がかりにした経済学理論を構築した。また、経済学の範疇を超えて、消費者倫理に関しても、一定の考え方を提示できた。(3)ホーム・スキャン・データ等の新しいデータ利用等から、この時期に発生した食品の品質事故問題、また伝統食品対遺伝子組み換え食品の対比での商品の認証や差別化流通に関するタイムリーな消費者行動の実証分析をなし得た。(4)消費者行動の多様化に対応して国内流通・加工業が顧客をターゲット化しており、それが商品に付随する品質やサービスの多様化、市場を主導している小売り市場の多様化、海外からの原料農産物積極輸入の背景が解明された。国内小売業の競争戦略、品質管理戦略に端を発して流通システムが海外からの輸入急増を導いていた。海外での市場再編動向の最新事情も入手した。4.本研究の成果と公表の仕方今年(平成14年)6月末を目処にして専門著書としての公刊を予定している。各分担者はさらなる研究成果の精緻化と推敲に取り組んでいるところである。
著者
谷口 昌宏 西川 治 山岸 晧彦
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

走査型アトムプローブ(Scanning Atom Probe, SAP)の特性を活かすことで酸化チタンによる有機分子の分解を個々の原子のレベルで解析する事に成功した。また、金属状態のチタンの表面に生成する酸化膜も酸化チタンの純粋な試料と同様に有機分子の光分解活性を示すことを見出した。また、有機分子が解析出来るという利点を生かして、生体分子の分析を試み、いくつかのアミノ酸を構成する原子群を直接検出する事に成功した。
著者
出口 一郎 竹原 幸生 荒木 進歩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

毎年海水浴シーズンになると,100名を越える尊い人命が海水浴中の事故で失われており,その大部分は,いわゆる離岸流によって引き起こされているといわれている.予め離岸流の発生が予測できる場合は,警告などを出すことにより,事故の発生を未然に防ぐことが可能である.しかし,いくつかの離岸流は狭い範囲で発生し,その持続時間も必ずしも長くはない.この様な離岸流は,遊泳者にとって非常に危険なものとなる.一方,離岸流は沖への漂砂輸送流れとなることから,海岸侵食を議論する上でも重要な流れである.本研究では,飛行船に搭載したビデオカメラによるメソスケールリモートセンシング(100*100m〜400*400mの領域の流れ,波浪の計測)及び周辺海域の波浪情報(波向・波高・周期,平均水位,など)を同時に計測するシステムを構築し,このシステムを用いて継続した離岸流の現地実測を行うと同時に,波浪情報計測システムの有効性を検討するために,平面水槽内での実験を行った.離岸流に関する現地実測では,従来指摘されていたすべての地形性離岸流の計測を行うことができ,さらに突発性離岸流の流況の計測も行うことができた.また,K-GPS相対測位法による海底地形計測法も開発し,観測された離岸流発生地点周辺の海底地形の精測を行い,その上での波浪変形,海浜流の数値計算を行うことにより,海底地形と入射波浪条件が与えられれば十分な精度で離岸流の発生が予測できることを示した.さらに,リモートセンシングから得られる画像処理による海底地形の推定法,平面的な広がりを有する海面情報(特に波高分布)の取得方法などの構築を行い,その有効性について確認している.これらの成果は,今後の極浅海域流体運動の解析に非常に有効な手段を提供するものと考えられる.
著者
小林 尚俊 吉川 千晶 服部 晋也
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

細胞膜上の受容体や接着分子の分子認識はナノメートルの大きさで規定されており、材料表面への生体分子(タンパク、脂質、糖鎖)の吸脱着や細胞の接着・非接着などを人工的に制御するためには、ナノメートルオーダーの分子設計からミクロ-マクロの高次構造の制御が必須不可欠である。そこで、生体材料の構造制御による機能向上およびその機構解明を試みた。具体的には高分子ファイバー及び濃厚ブラシを対象とし、(1)「ファイバーの二次/三次元配列構造の制御」および(2)「濃厚ポリマーブラシの三次元構造制御」を行い、その生体機能特性を詳しく調べた。得られた知見から、機能化された新規細胞足場材料のコンセプトが開発された。
著者
山崎 福寿 浅田 義久 井出 多加子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

公共投資の効果については,マクロ的な観点から有効需要に対してどのような影響を及ぼすかという点や,ミクロ的な観点から、産業関連の公共事業によって生産関数がいかなる影響を受けるかについての研究がなされている。しかし、生活関連投資が人々の効用にどのような影響を及ぼすかについては、これまで十分に研究されてこなかった。本研究では,生活関連投資による地域経済への影響を分析した。本研究では、第一に、米国における理論的研究をもとに、消費者と企業の行動をもとにした社会資本整備の影響を都道府県別のパネルデータを用いて計測した。その結果、生活関連の社会資本ストックは、人々の居住地選択に大きく影響することが明らかとなった。反面、企業は産業基盤整備の状況にそれほど影響されず、むしろ企業同士の集積のメリットや購買力の高い人口密集地帯に立地することが明らかとなった。生活関連資本の充実した東京周辺地域に消費者や企業が集中してきたのは、このようなメカニズムによるものと考えられる。第二に,道路,鉄道といった公共資本サーヴィスの地域間における最適配分について検討した。具体的には、各公共資本サーヴィスの供給手法を検討し,需要関数を推定し、現状での都心部と地方の公共資本サーヴィス供給のあり方を批判的に検証した。公共資本サーヴィスのひとつである鉄道サーヴィスの混雑料金推計においては、JRの中央線を対象にして分析を行なった。各利用者が感じる混雑による不効用は地価や地代に反映されることを利用して、ヘドニック・アプローチを用いて混雑料金を推計した。これによると、中央線では混雑時においてはおよそ4-5倍の料金を課すことが必要であるとの結論が得られた。さらに、道路の混雑料金モデルを構築し、混雑料金を推定した。その結果,高速道路の通行車両に混雑料金を課金することによって、交通量がどの程度変化し、その結果、環境負荷や都市構造がどのように変化するかを検討した。
著者
山下 博司
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

東南アジア(特にタイとインドネシア)へのインド系宗教の伝播につき文献収集し諸遺跡を実地調査した。特に東ジャワの大規模遺跡と王権・墓廟との関係で新知見を得た。現代東南アジアにおけるインド系宗教と王権との関わりにつき、王制を維持するタイで現存バラモン儀礼を調査し統治との関係を考究した。タイ版ラーマーヤナ劇の伝統維持についても王国を挙げての保護の様子を取材した。司祭養成の現状を調べるため南インドを実地調査し大きな示唆を得た。
著者
鈴木 賢次郎 安達 裕之 加藤 道夫 山口 泰 横山 ゆりか
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、コンピュータによる立体形状の図的表現と図形処理-コンピュータ・グラフィックス(以下、3D-CG)-とその設計製造技術の応用-計算機援用設計(以下、3D-CAD)-が実社会で普及するに連れて、図学教育へのCG/CAD教育導入の必要性が高まっている。そこで、本研究においては、東京大学教養学部前期課程教育(教養教育)における実践を通して、すべての分野に進学する学生を対象とした3D-CG/CADを用いた図的表現法に関する基礎教育-これを、グラフィックス・リテラシー教育と呼ぶ-のためのカリキュラムを開発し、これを普及することを目的とした。平成17年度においては1クラスを対象として、また、平成18年度においては5クラスを対象として試行教育を実施し、これらの試行教育結果の分析を基に、平成19年度から、対象を10クラスに広げて本格教育を開始した。カリキュラム開発に当たっては、学生に提出させたレポート(課題の出来具合/課題を遂行するに学生が要した時間/授業で困難を感じた点を記載)、期末試験、学生による授業評価結果、および、切断面実形視テストを用いた学生の空間認識能力の育成効果について詳細な分析を行い、また、学期末には担当教師による反省会を催し、次年度の教材・教育方法の改善に役立てた。これら授業実施結果の分析によれば。まだまだ、改善すべき点は多いものの、ほぼ目的に沿った授業が実現できたものと考えられる。平成19年3月には、この授業用に執筆した教科書を出版し世に出した。また、カリキュラム開発の経過は、日本図学会、日本設計工学会、グラフィックスとCAD研究会(情報処理学会)、建築学会、図学国際会議、日中図学教育研究国際会議、設計工学国際会議などにおいて、講演・論文の形で公表し、広く当該カリキュラムの普及を図った。
著者
友澤 和夫 岡橋 秀典 石丸 哲史 加茂 浩靖 鍬塚 賢太郎 加藤 幸治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、知識経済化の下で成長しているビジネスを取り上げて、それらの成長ダイナミズムを明らかにするとともに、立地や人的側面の把握を試みた。その結果、「ものづくり」の伝統がある地域では、知識の創造や導入により第2・第3の創業がみられ、それらが成長ビジネスとなっていること、およびそれを支える地域的ネットワークの存在が確認された。一方、地方圏ではこうした地域は少なく、知識経済化のもう1つの特徴であるアウトソーシングを支える企業・業者の成長に負っていることが示された。
著者
劉 建輝 鈴木 貞美 稲賀 繁美 竹村 民郎 上垣外 憲一 劉 岸偉 孫 江
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

中国の東北部、つまり旧「満州」は日本の近代史においてきわめて重要な場所である。なぜならば、日清戦争はさることながら、その後の日露戦争、日中戦争、さらに日米戦争に至るまで、いわば日本の運命を決めた戦争という戦争は、究極のところ、全部この地域の権益をめぐって起こされたものであり、ある意味において、日本の近代はまさに「満州」を中心に展開されたとさえ認識できるからである。しかし、近代日本の進路を大きく左右したこの旧「満州」について、これまではけっして十分に研究したとは言い難い。むろん、旧「満州」、とりわけ「満鉄」に関する歴史学的なアプローチに長い蓄積があり、多くの課題においてかなりの成果を挙げている。だが、よく調べてみれば、そのほとんどがいずれも政治、経済、あるいは軍事史に偏っており、いわゆる当時の人々の精神活動、あるいは行動原理に深く影響を与えた社会や文化などについての考察が意外にも少数しか存在していない。本研究は、いわば従来あまり重視されなかった旧「満州」の社会や文化などの諸問題を取り上げ、関連史実等の追跡を行う一方、とりわけその成立と展開に大きく関わっていた「在満日本人」の活動を中心に、できるかぎりその全体像を整理、解明しようとした。そして三年間の研究を通して、主に以下のような成果を得ることができた。1.これまで重視されなかった旧「満州」の社会や文化などの問題について比較的総合かつ多角的に追及し、多く史実(都市空間、公娼制度、秘密結社、文芸活動など)を解明した。2.海外共同研究者の協力を得て、多くの史料、とりわけいわゆる在満日本人の発行した各分野の現地雑誌を発掘し、その一部(「満州浪曼」、「芸文」)を復刻、またはその関連作業に取り組み始めた。3.従来、難しかった現地研究者との交流を実現させ、三回の国際研究集会を通じて、多くの中国や韓国研究者とさまざまな問題について意見を交換した。以上のように、この三年間は、現地調査などを通して、多くの貴重な史料を入手したばかりでなく、現地研究者との間に比較的親密な協力関係も築いたため、今後もこれらの成果を生かすことにより、一層の研究上の進展が得られるだろうと思われる。
著者
藤田 保幸 砂川 有里子 田野村 忠温 松木 正恵 中畠 孝幸 山崎 誠 三井 正孝(三ツ井 正孝) 江口 正
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、研究代表者らがこれまでに『現代語複合辞用例集』などの形で積み上げてきた複合辞についての記述研究をふまえ、そうしたそれまでの成果を理論的にもまた個別形式の記述においても深めていくことを意図して企画したものであり、補助金の交付期間中にも、(1)複合辞についての従来の研究を見直して、問題点を明らかにするとともに、(2)複合辞各形式についての各論的記述を深める、という点を中心に研究が進められた。まず、第一点の従来の研究の見直しと問題点の明確化という点については、研究代表者藤田により、本研究の初年度に「複合辞の記述研究の展望と現在」と題する研究発表が行われ、現段階の問題点が総括されたほか、研究分担者松木により複合辞研究史についての一連の論文が発表され、学説史の総括が試みられた。第二点の各論的記述の深化については、研究期間内にかなりの成果を上げることができた。具体的に取り上げられた形式は、格助詞的複合辞(もしくは副助詞的複合辞)としては、「について」「において」「をめぐって」「に限って」「によって」(「によっては」との比較を中心に)、接続助詞的複合辞では「として」「からには」「ばかりか」「くせに」「につれて」「にしたがって」「うえで」「こともあって」「ことだし」、助動詞的複合辞としては、「どころではない」などで、それぞれについて各論的研究論文が公にされ、個々の形式の意味・用法に関する詳細な知見が得られた。そのほか、複合辞に関連して、複合辞と助詞「は」の関わりやコピュラ・形式名詞、韓国語・中国語との複合辞的形式の対照などについても研究が進められ、それぞれその成果は論文として公にされた(上記には、研究協力者による研究成果をも含む)。これまでの複合辞研究を記述的に一段深化させるという点で、本研究は相応の成果を上げることができたものと考える。
著者
今井 晃樹 内田 和伸 今井 晃樹
出版者
独立行政法人国立文化財機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平城宮第一次大極殿院の〓積擁壁の設計方法を検討した結果、同心3円と偏心円を用いて設計施工していることがわかった。これはキトラ古墳の石室天文図の内規・赤道・外規・黄道と同様の構造である。古代中国では宮殿は宇宙を象って造営していることが歴史史料にあり、日本でもその設計思想を学んだことが明らかとなった。また、同心円の中心に置かれるのが高御座であることなどから、高御座は地軸を意識した記紀神話の「天の御柱」を象るものと考えることができた。
著者
武田 光夫 宮本 洋子 宮本 洋子
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

3次元物体をランダムな光波動場の空間コヒーレンス関数として再生するコヒーレンスホログラフィーの新原理を提案し,実験によりその有効性を実証した.コヒーレンスホログラムを計算機合成することにより,3次元空間コヒーレンス関数を自由に制御・シンセシスする技術を実現した.この新機能を用いた新しい工学的応用として波長分散のない3次元形状計測の可能性を実証した.また,基礎科学面ではコヒーレンス関数に位相特異点をもつコヒーレンス渦場を生成し,コヒーレンス場の運動量や角運動量などコヒーレンス場の力学的性質を解明した.
著者
野原 稔弘 池田 剛 桜田 忍 金城 順英
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

Incarvillateine (INCA)に関するこれまでの構造活性相関試験より、鎮痛活性発現に必要な基本骨格が明らかとなった。本結果を礎に、芳香環部あるいはアルカロイド部を多彩に変換することに依り、さらに強力な活性物質に導くことができるものと予想される。特にアルカロイド部分単独で強力な活性を有する化合物を本構造に導入することで、さらに活性を増強させることも可能であると考えられる。鎮痛作用発現のために重要な因子の中で、INCAの前駆体と考えられるモノマーのIncarvine Cが殆ど活性を示さなかったことより、特に二量体構造が、その強力な鎮痛活性発現に対して重要な役割を担っていることが示唆された。そこで、INCAと同様の立体構造を有するα型ジフェニルシクロブタンジカルボン酸:α-truxillic acid (TA)、および4,4'-dihydroxy-α-truxillic acid (DHTA)の二種を合成して鎮痛活性を検討した結果、腹腔内投与において、これら両者がホルマリンテストの第二相目の炎症性の疼痛行動を強力に抑制することが明らかとなった。特にDHTAはINCA以上の鎮痛活性を示し、NSAIDsの一般的な投与方法である経口投与においても、市販薬として繁用査されるロキソニンとほぼ同等の鎮痛抗炎症活性を示した。さらに、尿酸結晶を用いたラットの痛風モデルにおける痛みに対しても強力な鎮痛効果を示した。また、DHTAの大量経口投与時における潰瘍の発生は全く認められなかった。さらに多種のTAおよびその誘導体を合成し、鎮痛効果の比較および検討を行なった結果、同二相目における疼痛行動の抑制効果は、シクロブタン環の存在、α型の立体構造、シクロブタン環の遊離カルボン酸の存在、ならびに芳香環上の置換基の種類が重要な因子であることが判明した。
著者
緒方 一夫 多田内 修 粕谷 英一 矢田 脩
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、アリ類を生物多様性のバイオインディケーターとして用いることを上位の目的に、(1)調査方法の比較検討、(2)分類学的基盤、(3)分析評価方法などの諸問題を研究課題とした。(1)については様々な調査方法について比較し、採集種数、サンプリング特性、地域アリ群集特性の検出力等について検討した。その結果、単位時間調査法が限られた時間の中で比較的多くの種を収集できることが明らかとなった。ただし採集者の経験の違いによる調査結果の質に問題があり、その弱点は適切なインストラクションである程度補完できることが実証された。(2)については、日本産アリ類276種について、分布調査の取りまとめ等に活用できるようにエクセル形式でのダウンロード版チェックリストを公開した。このリストおよび世界のアリの学名についてとりまとめたものを携帯版の印刷物として準備した。この他、いくつかの分類群について整理しその成果を公表している。(3)については森林生態系や農業生態系のアリ群集を対象に、種数、種類組成、頻度、類似度などについて検討し、多変量解析による多様性の研究を実施した。その結果、連続林では森林の成長にかかわらずアリ群集の組成は変化が小さいこと、孤立林ではその成因や攪乱の程度によりアリ群集の組成は大きく異なることが示されてた。農業生態系では土壌の理化学的性質と種数について調査したが、有為な関係は示され得なかった。サトウキビ畑のような永年性作物圃場では、緯度傾斜と植え付け後徐々に種数が増加するパターンが見られた。また、アリ類の多様性と他の生物群との多様性の関連について、とくに知見が蓄積されているチョウ類との関連を検討した。その結果、局所的にアリの種数とチョウの種数が一致するような地域もあるけれども、この現象は必ずしも普遍的ではないことが示唆された。これらより、アリ群集のバイオインディケーターとしての価値は生態系指標にあること、すなわち攪乱や孤立性の程度を表す生物群としての利用可能性が示唆された。
著者
藤本 浩志 土井 幸輝 植松 美幸
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では高齢者・障害者配慮設計技術の開発の際に必要な触知覚特性(五感の1つ)のデータを収集することを目的として,図記号の識別容易性,指先の触覚の基本特性に着目して,それらと加齢の関係を調べた.その結果,図記号の識別容易性について図記号のサイズが小さい場合に加齢効果が見られることがわかった.指先の基本機能(空間分解能・触圧感度)に関しては,加齢効果が見られた.また,視覚障害者は日常的に触覚を活用していることが関係しているためか顕著な加齢効果は見られなかった.これらのデータは,今後触覚を活用した関連規格の作成の際に有用な知見となるであろう.
著者
須田 力 河口 明人 森田 勲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

豪雪地住民は、冬季に雪道歩行や除雪のようなきつい作業があるにもかかわらず冬季間不活動になり勝ちとなる。本研究は、(1)身体活動の運動強度の測定、(2)中・高年の人たちの生活機能を高める在宅トレーニングの介入研究、(3)筋力トレーニングと有酸素運動のための簡易で安価な在宅トレーニング用具の開発、を行った。主な知見は以下の通りである。1.雪上路面の歩行や除雪のような冬季の身体活動の酸素需要量は、無雪期よりも多くなる。2.運動介入は、栗沢町、三笠市、士別市の中・高年者110名に対して、積雪期入りの第一回の測定時における運動ガイダンス、参加者へのダイレクト・メールによる運動の奨励、カレンダーによる運動と健康づくりの情報提供によるものであった。冬季明けの第2回目の測定に参加した男性25名において、握力、上体起こし、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行およびADL得点に、女性20名において6分間歩行に有意な向上を示した。しかしながら、安静時血圧は収縮期、拡張期とも冬季間で上昇する傾向が見られた。3.ステップエクササイズ用にステップ数がカウントされる装置を、スイッチング・センサーと安価な電卓を利用して試作した。ゴムチューブ、座椅子、ディジタル体重計を使用して簡易な脚筋力用具を試作した。これらの用具は、運動実施者が歩行距離、ステップ昇降高さ、発揮した筋力をモニターできるため、冬季の在宅トレーニングに有用と考える。
著者
岩田 修二 松山 洋 篠田 雅人 中山 大地 上田 豊 青木 賢人
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.空中写真・衛星画像・地図などを利用して衛星画像の判読,マッピングなどの作業を行った.モンゴルアルタイ・インドヒマラヤ・カラコラム.天山山脈などで情報収集を行った.2.それらを総合して氷河変動・氷河湖変動・気候変動を解明した.3.モンスーンアジア地域:ブータンでは,最近50年間の氷河縮小・氷河湖拡大などの変化をまとめ,災害の危険を警告した.インドヒマラヤ地域については,Lahul Himalayaで現地調査をおこない,近年は継続的に氷河末端が後退傾向にあることを確認した.4.乾燥アジア地域:パキスタン北部では,小規模氷河の最近の縮小と,対照的に大きな氷河が拡大傾向にあることが明らかになった.モンゴルモンゴル西部地域(モンゴル・アルタイ)では,1950年前後撮影の航空写真を基にした地形図と2000年前後取得された衛星画像(Landsat7ETM+)の画像を用いて氷河面積変化を明らかにした。氷河面積は1940年代から2000年までに10〜30%減少し,この縮小は遅くとも1980年代後半までに起こり,それ以降2000年まで氷河形状に目立った変化は認められないことが明らかになった.5.気候変化:最近1960〜2001年のモンゴルにおける気温・降水量・積雪変動を解析した結果,1960,70年代は寒冷多雪であるのに対して,90年代は温暖化に伴って温暖多雪が出現したことが明らかになった.天山山脈周辺の中央アジアでは,既存の地点降水量データ(Global Historical Climatology Network, GHCN Ver.2)に関する基本的な情報をまとめた.GHCNVer.2には,生データと不均質性を補正したデータの2種類あり,中央アジア(特に旧ソ連の国々)の場合,これら2種類のデータが利用可能なため,まず,両者を比較してデータの品質管理を行なう必要があることが分かった.6.まとめ:以上の結果,モンスーンアジアと乾燥アジアでの氷河変動の様相が異なっており,それと対応する気候変化が存在することが明らかになった.
著者
王 道洪 渡邉 貞司 高木 伸之 王 道洪
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

石川県内灘町の大型風車を対象に平成17年度から19年度にかけて雷総合観測実験を行った。観測したデータ総合的に解析し、以下の研究成果を得ることができた。1.風車・鉄塔への落雷はトリガー形態別に二つの種類に分け、タイプ別の特徴をいくつか発見した。タイプ別の発生割合はタイプ1が4割、タイプ2は6割となった。鉄塔と比較した場合、風車がタイプ1の雷を発生しやい。この結果から、風車の防雷対策の一つとして、雷雲が風車上空に来たときに風車を停止したほうが良いと分かった。ビデオカメラの映像から落雷の持続時間にはタイプ別で大きな違いが確認でき、タイプ1は平均約452ミリ秒と長いのに対し、タイプ2は299ミリ秒と短かった。また、落雷の進展角度を調べた結果、風車の避雷鉄塔側には防雷効果が確認できた。しかし、3割の雷は風車に落ちているのでまだその効果は十分とは言えない。それぞれのタイプの落雷について別々の対策を取るべきであることも分かった。2.発電施設への落雷直前の地上電界は全て±4.5[kV/m]あったことから、発電施設への雷撃開始条件を地上電界値のしきい値によって設定した結果、±5.0kV/m以下に設定した場合には、発電施設への落雷時、落雷前に必ずしきい値を超えていることが分かった。一方、しきい値を超えた場合において、発電施設へ落雷する確率は、設定値を下げれば減少していくが、±5.0kV/mで90%程度である。雷撃開始条件を地上電界値で設定し、何らかの防雷対策を行う場合、雷撃をなるべく避けつつも、成功率もある程度高くなければならない。よって、雷撃開始条件のしきい値は、±5.0kV/mが一番望ましいと思われる。3.風車に対する落雷電流に、落雷時前数秒前から、数十Aレベルの電流上昇を確認した。このような報告例は現在まで一例もない。一方、20m離れて隣接する避雷鉄塔に対する落雷電流には、このような現象がないことを確認した。
著者
横串 算敏 成田 寛志 山越 憲一 内山 英一
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,車輪内臓型モータと水素イオン電池を使った軽量・コンパクトで車載可能かつ高機能な6輪構造電動車椅子(6W-NProto)を設計・製作した.この試作モデルのベースとなったYamahaJW3との比較走行試験を行った結果,6W-NProtoは良好な雪路走破性をしめした.[新型電動車いす(6W-NProto)の仕様]重量:48.5[kg].駆動方式:前輪フリーキャスター,センター駆動輪に内蔵モータ[90W×2],後輪に内蔵補助モータ[70W×2]を採用.タイヤサイズ:[直径]は前輪150,センター輪350,後輸200[mm].座席:障害者の安定した座位環境を可能にする調節可能なシート構造.フレーム:路面の変化に対応するフレキシブルなフレーム構造.通常走行はセンター輸駆動による2輪走行であり,後輪の補助モータは段差を乗り越えるとか雪道などの悪路でセンター駆動輪のパワーをアシストをするいわゆるパートタイム4輸駆動である[比較走行試験結果]平坦路(乾燥)では両機種とも良好な走行性能を示した.平坦路(雪)ではYamahaJW3は走行可能,6W-NProtoは良好なそう高性能を示した.4.1°の軽スロープでは6W-NProtoは良好な走行性能を示し,YamahaJW3も走行可能であった.6.6°のスロープでは6W-NPrtoは良好な走行性能を示し,YamahaJW3は左右に振られ不安定であったがなんとか走行可能であった.120mmの段差(乾燥)は6W-NProtoはクリアーしたが,YamahaJW3は走行不能であった.120mmの段差(雪)は6W-Nprotoは不安定であったがクリアーした.YamahaJW3はクリアーできなかった.雪の状態はアイスバーンに30mmのシャーべット状雪路である.電動車いすにとって、最も条件の悪いシャーベット状雪路{平坦路,スロープ,段差}で、制御しやすかったのは荷重が駆動輪に集中するパートタイム4輪駆動6輪構造の6W-NProtoであった.パワーウェイトレシオ,駆動輪への荷重割合で不利なYamahaJW3は平坦路,軽スロープ以外では走行困難または不能であった.
著者
長尾 誠也 山本 正伸 藤嶽 暢英 入野 智久 児玉 宏樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は。重要ではあるがデータの蓄積に乏しく、季節や地域によりその変動幅が大きく、沿岸域での炭素の吸収と放出量の見積もりを行う上で不確定要素の1つと考えられている河川から海洋への有機体炭素の移行量と移行動態を検討するものである。そのために、寒冷、温帯、および熱帯域の河川を対象に、河川流域の特性、植生、気候による土壌での有機物の分解と生成機構・時間スケールと河川により供給される有機物の特性、移行量との関係を難分解性有機物である腐植物質に着目して調べた。泥炭地を有する十勝川、湿原を流れる別寒辺牛川、褐色森林土の久慈川、スコットランド、ウクライナ、インドネシアの河川水中の溶存腐植物質を非イオン性の多孔質樹脂XAD-8を用いた分離法により分離生成し、いくつかの特性について分析を行った。また、河川水中の有機物の起源と移行動態推定のために、放射性炭素(Δ^<14>C)および炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定し、両者を組み合わせた新しいトレーサー手法を検討した。その結果、放射性炭素(Δ^<14>C)は-214〜+180‰の範囲で変動し、土壌での溶存腐植物質の滞留時間が流域環境により大きく異なることが考えられる。上記の検討と平行して、連続高速遠心機により河川水20〜100Lから懸濁粒子を分離し、放射性炭素および炭素安定同位体比を測定した。その結果、久慈川では年間を通してΔ^<14>Cは-19〜-94‰、炭素同位体比(δ^<13>C)は-24.0〜-31.1‰の範囲で変動し、石狩川ではΔ^<14>Cは-103〜-364‰、δ^<13>Cは-25.9〜-34.2‰、十勝川ではΔ^<14>Cは-111〜-286‰、δ^<13>Cは-25.0〜-31.6‰であった。これらの結果は、流域の環境条件および雪解けや降雨による河川流量の変動等がこれら炭素同位体比の変動を支配している可能性が考えられる。以上の結果から、放射性炭素および炭素安定同位対比を組み合わせる新しいトレーサー手法は、河川の流域環境の違いを反映し、移行動態および起源推定のために活用できることが示唆された。また、現時点では、大部分の地域では核実験以前に陸域に蓄積された有機物が河川を通じて移行していることが明らかとなった。