著者
藤田 友敬 笹岡 愛美 後藤 元 増田 史子 南 健悟
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、現在進行中の第4次産業革命のもとで生じつつある海事産業のデジタル化が海事法にもたらす革新のうち、①自動運航船を用いた運航により生じる責任と②分散台帳(ブロックチェーン)技術を用いた運送書類の電子化のもたらす法律問題について検討し、立法論・解釈論的な提言を行うことを目的とする。前者は、海上航行のリスクを関係者――船舶の遠隔操作者や自動運航プログラム供給者等を含む――の間でいかに分配することが望ましいか、後者は、準拠法選択ルールを含め有価証券という法技術に依拠して構築されてきた法体系を有価証券のない世界でいかにして実現するかという、高度に学問的な問題の探求という性格を有するものである。
著者
近藤 一博
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

疲労、特に脳の疲労は、うつ病や自殺などの重要な社会問題に直結するため、早急に解決すべき課題である。しかし、これまでの国内外の疲労研究は、がん患者や脳神経疾患患者の疲労を対象に行われており、労働によって生じる生理的疲労のメカニズムは不明な点が多かった。我々は最近の研究で、労働や運動による身体の生理的疲労の発生と回復のメカニズムを見いだした。本研究では、この身体疲労のメカニズム研究をもとに、脳疲労の原因を探るとともに、脳疲労の回復やうつ病の予防法を検討する。本研究により、栄養、生活習慣、環境などの改善による、うつ病リスク低減法の開発が容易になると考えられる。
著者
鹿子木 康弘 高橋 英之 松田 剛
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,視線入力インタフェース技術を用いた独自の参加型認知実験パラダイムを構築し,今まで方法論的な限界により検証不可能であると考えられていた乳児の他者に対する道徳的ふるまいを明らかにすることを目的とする。本研究により,従来研究から漠然と示唆されていた乳児の道徳性の 実証が可能になるとともに,乳児の行動そのものを測るという乳児研究手法のコペルニクス 的転回が実現できると期待している。また,乳児の道徳的行動を直接観測することで,分断 が叫ばれる現代社会に横たわる様々な問題の背後に存在する道徳性や暴力性の発達的要因の解明がより進むことも期待される。
著者
竹内 康雄 田阪 茂樹 梶田 隆章
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、まず脱気された純水中からの極微量ラドン分離方法に関して研究を進めた。脱気水中のラドンを安定して効率よく分離するために、中空糸膜モジュールを採用した。市販されている中空糸膜モジュールを本研究用に特注で加工をし、アクリル製の円筒容器に収めてラドン検出器下部に連結した。他の水中ラドン分離手段として、異なる中空糸モジュールのマウント方法や、空気用ポンプを用いる方法も試みたが、いずれも効果的ではなかった。次に、本研究で試作された700L脱気水用ラドン検出器を用いて各種特性試験を行った。700L脱気水用ラドン検出器の水中ラドンに対する校正定数は、14.6±2.1(count/day)/(mBq/m^3)が得られた。これまでスーパーカミオカンデで使用されていた70Lラドン検出器の脱気水に対する校正定数は0.3(count/day)/(mBq/m^3)程度であったので、約40倍程度感度が向上したことになる。また、バックグラウンドレベルを考慮すると、700L脱気水用ラドン検出器の水中ラドンに対する検出限界は0.7mBq/m^3に相当する。これらの成果は論文にまとめてNIM A誌に投稿し、受理された。(2002年10月現在)一連の成果を論文にまとめた後、700L脱気水用ラドン検出器の性能をさらに向上させるため、ウラン238の含有量を約1/50に削減した新しい低バックグラウンドのPINフォトダイオードを試作した。また、検出容器内の電場を最適化することにより、空気中ラドンに対する検出効率を約2倍向上させた。今後は、電場の最適化をした容器と新低バックグラウンドフォトダイオードを用いたラドン検出器を構築し、特性および検出限界について研究を進めていく予定である。
著者
相馬 直子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、ケアをめぐる負の世代間連鎖に関する実証研究を通じて、ジェンダー・世代・障がいの交差する暴力(虐待)の連鎖に関する構造的把握と、包摂的権利保障システムの構想を行うことを目的とする。日本よりも発展してきた韓国との比較から、ジェンダー・世代・障がいをめぐる権利擁護・保障に関する実態分析と政策課題の明確化を行い、女性・子ども・高齢者の権利がともに擁護・保障される、包摂的権利保障システムを構想していく。また、理論的・実証的検討から、ケアをめぐる制度的不正義にどう対峙するか、ケア民主主義の視点から、ケアをめぐる全世代型の包摂的権利保障システム構想へとつなげていく。
著者
刑部 敬史
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、正確なNHEJがどのような経路によって制御されているのか?、またどのような因子が関わっているのか? などの疑問点を解明し植物ゲノム編集技術に応用することで、正確なモザイク性が低い変異導入システムを構築することを目的とする。さらに、安定な変異系統の固定技術として、一世代で固定する技術の基盤となるセントロメアヒストンの制御機構を利用した簡便で汎用性のある半数体作出法および誘導型ウィルスベクターを用いたゲノムに外来遺伝子を組み込まないゲノム編集法を開発・確立し、3つの技術を組み合わせることにより、従来のゲノム編集技術を用いた育種法の問題を克服した作物分子育種基盤を構築する。
著者
荒木 優希 古川 善博
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

RNAは、遺伝情報の蓄積と生体反応の触媒の両方を担う分子として、生命の起源に最も重要な生体高分子と考えられている。初期地球におけるRNA(前生物的RNA)の形成は、粘土鉱物や金属イオンを触媒として起こったと考えられているが、その形成過程や環境について統一的な見解が得られていない。本研究では、高分解能の原子間力顕微鏡(FM-AFM)を用いてRNA形成(ヌクレオチドの重合)過程における水の挙動を分子スケールで観察する。ヌクレオチド表面が金属イオンによって局所的に脱水すること、水の存在によって粘土表面にヌクレオチドが秩序的に吸着することを明らかにし、生命起源における水の重要なはたらきを明らかにする。
著者
藤原 宏志 宇田津 徹朗 大平 明夫 柳沢 一男
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

土器胎土に含まれるプラント・オパールを検出する方法は、当該土器が製作される以前、土器製作地に検出プラント・オパールの給源植物が存在したことを立証する有効な方法である。本研究では、土壌および土器胎土に含まれるプラント・オパールを検出し、イネ(0ryza satival L)をはじめ、イネ科作物の栽培起源の追究を試みた。以下に、その大要を述べる。*縄文時代早期--鹿児島:上野原遺跡におけるテフラ(BP9000)直下の土壌試料からイヌビエ(Echinocloa属)のプラント・オパールを検出した。イヌビエと栽培ビエは極めて近縁であり、両者とも食用になる。当該遺跡では集落跡が確認されており、ヒエの粗放栽培が始まっていた可能性も充分考えられる。*縄文時代前期--青森:三内丸山遺跡出土の土器胎土分析の桔果、イヌビエのプラント・オパールが大量に検出された。遺跡が大規模集落であることを考えると、ヒエ栽培の可能性も視野に入れる必要があろう。*縄文時代後期--岡山:岡山大学構内遺跡出土の土器および岡山:南溝手遺跡出土の土器胎土分析の結果、イヌビエのプラント・オパールが検出された。これらの土器は約3500年前に製作されたものであり、同時代すでに西日本で稲作が行われていたことを証すものであろう。また、長崎:稗日原遺跡では、縄文時代後期に堆積したと考えられる火山灰(六ツ木火砕流:約3600年前)の直下からイネのプラント・オパールが検出された。これらのイネは、その随伴植物および遺跡の立地から畑作で栽培されたものとみるのが妥当と思われる。
著者
安藤 寿康 岡田 光弘 長谷川 寿一 大野 裕 平石 界 岡田 光弘 長谷川 寿一 大野 裕 平石 界
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

800組の青年・成人期の双生児を対象とした行動遺伝学的研究から、認知能力、パーソナリティなどの遺伝・環境構造の解明を行った。一般知能の遺伝的実在性、社会的適応に及ぼす内的環境適応の過程、パーソナリティの普遍的遺伝構造モデルの提案、自尊心感情の縦断的変化などが成果としてなされた。また双生児データのデータベース化、webによる双生児調査フレームワークの確立もなされた。
著者
伊藤 泰信 谷口 晋一 孫 大輔 大谷 かがり
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、医学教育者/医師らと“共働”する医学教育実践の中で、サービスデザインの視点を取り込んだ文化人類学を構想するものである。ここでいうサービスデザインの視点とは、患者がなし遂げたいコト(サービス)起点で医療提供を考える視点である。具体的には、生活者としての患者の視点を重視する人類学的素養を導入した総合研修専門医の教育(研修)プログラムを医学教育者と共にデザインする。他方で、そうした教育実践を通じて、「サービスデザイン人類学」という新たな領域を切り拓こうとする試みである。
著者
塚田 全彦 岡本 美津子 田中 眞奈子 貴田 啓子 小椋 聡子
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

日本国内ではこれまでに多数のセル・アニメーションが制作され、その過程で制作されたセル画は膨大な数に上る。近年アニメーションの文化的価値が認知され、セル画を含む中間制作物の保存の重要性が認識されている。しかし、合成樹脂を含む複合材料で制作されたセル画の保存に必要な各構成材料の劣化の機序、各材料が劣化した際の他の材料への相互影響については十分に検証されているとは言い難い。本研究ではセル画の保存に関する現況を調査するとともに、各材料に対して周辺環境がおよぼす影響と材料間の相互影響を評価し、セル画の長期保存に最適な環境の条件の解明を目指す。これを基にセル画を保存する際の環境の指針の提案を試みる。
著者
神保 秀一 林 実樹広 中路 貴彦 儀我 美一 森田 喜久 三上 敏夫 本多 尚文
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

平成9-11年度の期間,非線型偏微分方程式に現れる解の力学系の観点からの研究を行った.本研究組織の得た主たる研究成果は次の通りである.(i)ギンツブルグランダウ方程式の安定解の存在と領域依存性を様々な場合について研究した.また,ボルテックスをもつ安定解の存在についてトポロジカルに多様なものを得る方法を考案した.非一様状況の状況におけるパターンフォーメーションも研究した.(ii)非定常複素ギンツブルグランダウ方程式の周期解の安定性や領域依存性について研究した.(iii)非定常ギンツブルグランダウ方程式の特異極限問題において力学系が有限次元に還元され常微分方程式の有限システムによって表され,さらにその表現公式を得た.(iv)反応拡散方程式に現れるホモクリニック軌道のパラメータによる構造変化(力学系の分岐現象)を研究した.(v)平均曲率流,表面拡散方程式などの曲面発展方程式に現れる力学系を研究し,漸近挙動や幾何学的な特徴を解析した.(vi)システムの非線型波動方程式について成分ごとに伝播速度が異なる場合について大域解の存在を研究した.(vii)急拡散方程式の解の消滅現象を研究した.(viii)ランダム結晶のなす曲率流方程式の定性的な研究.(ix)領域が部分的に退化する特異摂動において,半線型楕円型方程式の解の挙動の特徴付けをおよびラプラシアンの固有値の摂動公式を研究し(ノイマン境界条件),従来から知られている結果を退化次元が一般の場合へと拡張した.
著者
吉田 栄人 水上 浩明 伊従 光洋 山本 祐太朗 小川 良平 水野 哲志
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

ワクシニアウイルスワクチン株LC16m8deltaとアデノ随伴ウイルスAAVよりなる独自のワクチンプラットフォーム(LC16m8delta/AAV)を技術基盤とし、三日熱ワクチンを開発する。三日熱マラリア原虫の感染防御・伝播阻止標的抗原遺伝子を導入したLC16m8delta/AAVワクチンを作製。動物免疫-感染チャレンジ実験(マウスモデル)および感染者血液を用いた人工膜蚊吸血実験を実施し,3年間のマイルストーンとして感染防御効果>90%、伝播阻止効果>90%の数値目標を設定するアウトブレイクが危惧される新興・再興感染症に対しても,汎用的な純国産ワクチンプラットフォームを提案する。
著者
小椋 康光 八幡 紋子 鈴木 紀行 ENCINAR Jorge ruiz
出版者
昭和薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

セレンは植物にとって非必須であるが、動物にとって必須元素であり、陸域の生物圏では、棲息する生物に毒性を発揮することなく、循環が起こっていると考えられる。そこで動物の排泄形であるセレノ糖が植物に対してどのような影響を与えるのか明らかにすることを目的とし、検討を行った。さらにセレンの代謝過程を明瞭にするため、同属のテルルの代謝との比較を行い以下の成果を得た。
著者
石澤 啓介 八木 健太 合田 光寛 石澤 有紀 新村 貴博 相澤 風花 座間味 義人 濱野 裕章
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

大動脈解離や大動脈瘤は、致死率が高く緊急性を要することから、その発症予防が重要である。近年抗菌薬の副作用として発症することが示唆されている一方、感染症そのものが大動脈疾患発症を惹起する可能性も報告されている。しかしながらその関連性は未だ明らかになっておらず、治療・予防に繋がる病態解明も進んでいない。そこで本研究では、人工知能 (AI) システム・医療ビッグデータ・基礎生命科学データベースを統合的に解析し、疾患モデル動物を用いた基礎薬理学的な検証を行うことで、感染症と大動脈疾患の包括的な連関解明、さらには予防戦略の確立を目的とする。
著者
前田 清司 秋本 崇之 下條 信威
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、①睡眠質が競技パフォーマンスに及ぼす影響、②睡眠質が低下する機序、③睡眠質の低下がもたらす競技パフォーマンスの低下を改善する方法を検討した。睡眠質は比較的強度の高い運動中の認知機能に影響を与えることが示された。また、メタボロミクスによる網羅解析にて、睡眠質の低下にはカルノシンやオルニチンなどの代謝産物の低下が関与する可能性が示された。さらに、カルノシン含有のイミダゾールジペプチドの摂取により睡眠改善と競技パフォーマンス向上の可能性が示された。
著者
伊藤 譲 所 哲也 石川 達也
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

福島原発の凍土遮水壁は、原子炉建屋への地下水の流入を防ぎ、汚染水の増加を防いでいる。研究者らは凍土遮水壁が長期間維持される場合を想定し、アイスレンズ前面の凍土部分から未凍土方向に乾燥収縮等による水平クラックが成長し、凍土壁正面の未凍土部分に透水係数の極端に大きい領域が発生すると考えた。それで、研究者らは凍土遮水壁を模し、水平方向に凍結融解を行い、その途中で鉛直方向に透水実験を行うことのできる装置を用いて実験を行ってきた。その結果、細粒土においては凍上性の強弱に関係なく、凍結面が一定位置にとどまっていても、間隙比の変化が続き、長期的には遮水性が損なわれる可能性が高まっていることが明らかとなった。
著者
中川 誠司 添田 喜治 西村 忠己 細井 裕司 大塚 明香 今田 俊明 クール パトリシア N. メロツォフ アンドリュー N.
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

骨導(骨伝導)で呈示された超音波であれば,聴覚健常者はもとより,最重度難聴者にも知覚される.この骨導超音波知覚の末梢処理過程には,通常の聴覚とは異なる特異なメカニズムの存在が示唆されるが,その詳細は明らかにされていない.本提案課題では,骨導超音波知覚を利用した重度難聴者のための新型補聴器(骨導超音波補聴器)の開発に有用な知見の獲得を目指して,骨導超音波知覚メカニズムの全体像の解明に取り組んだ.聴覚末梢機能を反映する各種の生理反応の計測および骨導超音波の頭部内伝搬特性結果に基づき,骨導超音波知覚の末梢~中枢処理モデルを提案した.得られた知見は骨導超音波補聴器の最適化や適用基準の策定に有用である.
著者
高橋 純一 安永 大地 杉村 伸一郎 行場 次朗 坂本 修一 堀川 友慈 齋藤 五大 大村 一史
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究が対象とする「アファンタジア(aphantasia)」は,実際の知覚は機能しているにもかかわらず心的イメージが機能しない特質のことであり,新たな事例として提唱された。心的イメージとは刺激対象が実際に目の前に存在していなくとも,それを疑似体験できる機能である。私たちは想像(創造)や思考など日常生活で意識せずにイメージを多用しているが,アファンタジア当事者はイメージを思い浮かべることが少ないことから,結果的にイメージ以外の情報処理機構を用いていると推測できる。本研究は,アファンタジアという新たな事例の認知・神経科学的理解を通して,社会におけるアファンタジア理解を促進しようとするものである。
著者
中川 裕 大野 仁美 高田 明
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主要な目的は、(i)コエ語族における知覚動詞とそれに関連する意味領域語彙や文法化、語彙化、多義構造の事例を組織的に観察・分析すること、(ii)当該語彙の多義性と意味拡張に関する従来の普遍性仮説を批判的に検証すること、(iii)この意味領域における従来の普遍性仮説との関連を踏まえて、コエ語族の事例が示す特徴について探求すること、であった。4年の研究助成期間で、上記(i)と(ii)に該当するデータ収集と分析、それに主要な討議をすべて終えた。そして、最終年度の翌年度に下記の国際学会での発表および海外研究機関からの招待講演で、上記(iii)に該当する研究課題に直接かかわる問題に対しての解答を示すことができた。まず、コエ語族のグイ語、ガナ語およびカバ語の知覚動詞体系には、そこに観察される非視覚的4知覚を包括する多義的動詞の存在と、その内部構造を特徴づける特異な意味拡張パタンを発見した。そして、それが世界の言語のなかでも極めて特殊であることを確かめ、従来の研究(Viberg 1984)で提案されほぼ定説とされてきた、基本知覚動詞が表現する5知覚モダリティーの階層性に対して、実証的根拠を示すことによってその改訂を提案した。さらに、コエ語族に観察される知覚動詞体系の類型論的特徴と、これらの言語が持っているユニークなふたつの語彙化領域(特殊味覚語彙と食品テクスチャー語彙)との関連について解釈を提案した。このほかに、本研究の構想には、上記の検証・探求に先立って行う言語調査の過程で、記述の乏しいコエ語の言語構造や言語社会構造の重要な側面を記述することが含まれており、この点では、詳細なグイ語音韻論・音声学の記述(博士論文)やグイ語話者の社会言語学(学術論文)を発表した。またガナ語群の統語論を概観する論文が刊行予定である。