著者
中山 寿子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

小脳登上線維シナプス刈り込みへミクログリアが関与するか、関与するならばどのような機序であるかを明らかにする研究を行った。ミクログリアを枯渇させる薬剤または活性化を抑制する薬剤を小脳皮質に投与したマウスや、脳内のミクログリアが減少した遺伝子改変マウスを用いた実験から、登上線維が正常に1本化するためには生後2週目にミクログリアが存在することが必要であることを明らかにした。作用機序に関して、ミクログリアが不要な登上線維を貪食していないことを示唆する結果を得たほか、一本化に重要であることが既に報告されているシナプスの機能に作用することによって登上線維シナプスの発達を制御することを示唆する結果を得た。
著者
富永 一登 川合 康三 釜谷 武志 浅見 洋二 和田 英信 緑川 英樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

『文選』の伝承から見た文学言語の型の形成と継承を追究するための基礎作業として、まず『文選』詩編(12巻分)の訳注作業を完成した。原稿作成は25年度内に完了したので、近々にこれを出版社から刊行し、広く社会に公表する予定である。また、『文選』所収の主な詩人の経歴や作品についてのコメントをまとめた。これも刊行予定の訳書に付載する。更に近年の『文選』研究の整理や唐代宋代の詩人への『文選』の影響についても、学術雑誌などに掲載し、著書としても刊行した。また、台湾大学の柯慶明・蔡瑜の両教授を招聘して『文選』の文学言語の継承に与えた影響について討論を行い、研究成果の国際的交流を行った。
著者
今村 展隆 小熊 信夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

我々は、ウクライナのすべての州から診断依頼を受けた過去6年間(1995〜2001年)に、5,483名の患者(成人2,199名、子供3,284名)を調査した。中でもチェルノブイリ原子力発電所の事故当時、7.5〜25cGyの放射能を浴びたチェルノブイリ除染作業者のうち、144名に血液学的疾患が認められた。我々はまた、モノクローナル抗体を用いた,形態、細胞化学,免疫細胞化学および免疫型質解析によって、90名の患者に血液学的悪性疾患を認めた。その内訳は、急性リンパ性白血病4名、B細胞型の慢性リンパ性白血病(B-CLL)16名、B細胞性リンパ腫2名、多発性骨髄腫12名、その他の非ホジキン悪性リンパ腫7名、Sezary症候群2名、願粒リンパ球性白血病6名、急性骨髄性白血病15名、慢性骨髄性白血病8名、真性赤血球増加症1名、本態性血小板血症3名、および骨髄異形成症候群9名であった。血液学的悪性腫瘍患者の平均年齢は57.1±1.3歳で、男女別では男性のほうが多かった(84名;93.3%)。悪性でない血液疾患が8名(再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少性紫斑病)に、また、骨髄の転移性癌が5名に認められた。造血機構の持続的障害(リンパ球増加症、好中球増加症、造血細胞の異形成変化)は、26名の患者で検出された。この患者グループについては、根本的な病因の性質を明らかにするため、最新の分子遺伝子解析法を用いてさらに詳しく調査する必要がある。6名の除染作業者については、明白な血液学的障害は認められなかった。血液学的悪性腫瘍の発生率は、血液以外の悪性腫瘍発生率および被爆しなかった患者の悪性腫瘍発生率と比較して高率である。我々の研究室で調査したチェルノブイリ除染作業者の集団では、造血組織およびリンパ系組織の主要な悪性疾患の形態をすべて登録し、その中では、慢性リンパ性白血病(19%)を含む慢性リンパ増殖性疾患が優位に多かった(57.4%)。慢性リンパ性白血病は、最近になるまで放射線に関連する白血病であるとは認識されていなかったため、この事実は特に重要である。こうした見解は原爆被爆者生存者の白血病発生率に関するデータに完全に基づいたものであった。一方、日本では古典的なB-CLLは珍しい形態の白血病であり、全白血病の5%に満たない。米国およびヨーロッパでは、B-CLLは成人で最も優勢な白血病形態のひとつである。除染作業者のうち16名のB-CLL患者に関する我々のデータと、Research Center of Radiation Medicineの血液診断所でB-CLL患者36名を観察したKlimenko教授のデータは、電離放射線への曝露はB-CLLのリスクを増加させないという一般に受け入れられた見解に疑問を投げているように考える。こうした一般的見解が優勢になると、除染作業者やウクライナおよびベラルーシの汚染地域に住む住民の間で、B-CLLの発生率が増加していることに関する疫学的データを無視する決定的要因になりかねないと考える。
著者
城田 愛
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.145-148, 2001

第1章高齢者のライフスタイルと睡眠問題に関する現状 現在,世界の高齢化は急速に進んでいる。1995年に全世界の総人口に占める65歳以上の人口の割合は6.6%に過ぎなかったが,2025年には10%を超えることが予想されている(国立社会保障・人口問題研究所, 1997)。さらに2010年以降わが国の高齢化率は,世界の中でも最も高くなるといわれている(厚生省, 2000)。このような世界の高齢化に伴って世界保健機構(WHO)は,1999年に"活力ある高齢化(アクティブ・エイジング)"の概念を提唱し,高齢者が社会でその役割を果たし続けることの重要性を提唱した(World Health Organization, 1999)。一口に高齢者といっても,その実態は様々である。ライフスタイルは,喫煙や肥満などの生活習慣病を予防する目的で注目されはじめたが,現在では個人の生き方,生活様式に加えて,生活態度や個人の価値意識を含む包括的な概念と定義されている。活力ある高齢化を達成する上で,高齢者のライフスタイルを考慮することは重要である。一方,高齢者は心身に多くの問題を抱えており,睡眠に関する愁訴も加齢に伴って増加している(Dement et al., 1982)。高齢者に多く認められる睡眠の特徴として,中途覚醒や早朝覚醒の増加,夜中に目が覚めた後なかなか寝つくことができない再入眠困難,睡眠段階3と4を含む深睡眠の減少,日中の仮眠や居眠りの増加があげられる(林他, 1981)。また睡眠-覚醒リズム(サーカディアンリズム;circadian rhythm)の位相が加齢に伴って前進する(Carskadon et al., 1982)。これらの睡眠の変化は,多くの高齢者を悩ましており,心身の不調を引き起こし,日中の活動を低下させ,生活の質(Quality of life; QOL)を低下させる深刻な問題ととらえられている。このような理由から,活力ある高齢化を考える上で,睡眠問題への対処は不可欠である。本研究では,高齢者の睡眠問題にライフスタイルの個人差という観点からアプローチをおこなった。ライフスタイルはその概念枠組みが大きいため,ライフスタイルを直接測定して得点化することは難しい。高齢者の心理的な状態(well-being)を測定する方法として,社会的自信度(谷口他, 1982)とPGCモラール・スケール(Philadelphia Geriatric Center morale scale; Lawton, 1975)がある。社会的自信度が高いということは「前向きで高い達成意欲を持っている」ことを示している(谷口他, 1982)。一方,PGCモラール・スケールの得点が高いことは「自分自身についての基本的な満足感をもっていること(人生の受容)」,「環境のなかに自分の居場所があるという感じをもっていること(心理的満足度)」,「動かしえないような事実についてはそれを受容できていること(精神的不安)」という3つの意味が含まれている(古谷野, 1996)。したがって,社会的自信度とPGCモラール・スケールの得点が高いということは,前向きな姿勢で達成意欲が高く,周囲の環境に適応していると推測できる。本研究では,これらの質問紙得点が高い高齢者を「高意欲者」と定義した。高意欲者は環境への適応性が高く,日中覚醒しているときの生活内容が充実していると考えられる。そのような高意欲高齢者と低意欲高齢者を比較することで,ライフスタイル(意欲レベル)が睡眠問題に及ぼす影響について検討した。第2章身体活動量からみた活動-休止リズムの検討 本章では65歳以上の高齢者を対象として,意欲レベルと活動リズムの関連性を検討した。ライフスタイル質問紙の得点で抽出した高意欲群14名と低意欲群14名を対象にアクティグラフを用いて,連続10日間の身体活動量を測定した。睡眠健康調査の結果,高意欲高齢者は,低意欲群よりも起床時の眠気や疲労,入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒の報告が少なかつた。さらに仮眠も含めた睡眠中の活動量が低意欲群よりも高意欲群で少なかった。また,夜間睡眠については低意欲群の入眠潜時が長いことから,低意欲群の高齢者は,眠たいという感覚があっても活動性が下がりきるまで寝付くことができないことが考えられた。連続測定した活動量について周期分析を行つた結果,ほぼ全員にτ=24hrとτ=12hrの成分が検出された。同定された成分の振幅に群間差は認められなかったが,両成分とも低意欲群の位相が高意欲群よりも前進していることが明らかになった。そこで自己報告による夜間睡眠と日中の仮眠の時間帯を活動リズムにあてはめて検討したところ,夜間睡眠については,低意欲群の睡眠時間帯は活動リズムと同じく高意欲群より前進していた。しかし,日中の仮眠については,仮眠をとる時間帯に群間差はなかった。この結果は,高意欲群では活動性が下降する時期に仮眠を開始していたのに対し,低意欲群では活動性が上昇に向かう時期でも仮眠を長くとっていることを示している。
著者
倉林 敦 大島 一彦 松田 洋一 森 哲 細 将貴 佐藤 宏 長谷川 英男 太田 英利
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は、ヘビからカエルに水平伝播した奇妙なLINE転移因子(以降TE-X)を発見した。本研究ではこの水平伝播現象について、(1)水平伝播発生地域の解明、(2)水平伝播の系統学的起源、(3)ベクター生物の特定、を目的とした。世界各地からカエル類29科161種194サンプル、ヘビ類17科125種139サンプル、寄生虫類166サンプルを収集し、各サンプルのTE-XをPCRと次世代シークエンサーを用いて解析した。その結果、TE-Xの水平伝播は、世界各地で複数回生じており、特にマダガスカルでは様々な寄生虫に仲介されて、現在進行形で脊椎動物間TE-X水平伝播が生じている可能性が高いことを明らかにした。
著者
深田博己
出版者
広島大学
雑誌
広島大学教育学部紀要. 第一部, 心理学 (ISSN:09198652)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.35-44, 1997-03-14

The purpose of this paper was to describe psychological reactance theory in detail and to discuss and refine the theory. The paper consists of following five parts.1. Introduction: An overall explanation of J. W. Brehm's psychological reactance theory with an in-depth discussion.2. The world of psychological reactance: (1) Psychological reactance in daily life situations. (2) Definition of psychological reactance.3. The concepts of freedom in psychological reactance theory: (1) How we know and feel what freedom is. (2) Freedom of behavior. (3) The nature of freedom.4. Types of obstruction of freedom: (1) Threats to and elimination of freedom. (2) Personal and impersonal obstruction of freedom. (3) The meaning of classifying obstruction of freedom. (4) Obstruction of freedom and social power. (5)Threats to freedom. (6) Internal and external threats to freedom. (7) External threats to freedom.5. Justification and legitimacy in freedom: (1) Effects of justification and legitimacy of the obstruction of freedom on reactance strength. (2) Effects of justification and legitimacy of the obstruction of freedom on people's beliefs about freedom.
著者
福士 雅也 川上 秀史 外丸 祐介 坂口 剛正
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ALSは、運動ニューロン(運動の指令を大脳から筋肉まで伝える神経)が選択的に変性・脱落し、その結果、筋肉が動かなくなり、2~5年で呼吸筋麻痺により死亡する。現在、日本では約1万人の患者がいるものの、有効な治療法は確立されていない。我々は、これまでにオプチニューリンがALSの原因遺伝子であることを突き止めた(Nature, 2010)。家族性ALS患者ではオプチニューリンが機能欠失していることから、本研究では、オプチニューリン・ノックアウトマウスや、そのマウス細胞にウイルス感染を行った。その結果、オプチニューリン欠損では、野生型コントロールよりもIFNb産生量が増加することが判った。
著者
小林 麻美 岩永 誠 生和 秀敏
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.21-28, 2002

Previous researches suggest that musical mood and preferences affects on emotional response, and that context of music also affects on musical-dependent memory. We often feel 'nostalgia' when listening to old familiar tunes. Nostalgia is related to eliciting positive emotions, recall of autobiographical memory and positive evaluations for recall contents. The present study aimed to examine effects of musical mood, preference and nostalgia on emotional responses, the amounts of recall of autobiographical memory, and evaluations to contents of them. Participants were 50 undergraduates. They were presented with 4 music pieces that have listened when they were about ten-years-old. All participants listened to all pieces. As the results, the influences of nostalgia elicited greater positive emotion and amounts of recall of autobiographical memory than musical mood and musical preference. Regardless of musical mood and preference, the more feeling nostalgia, the more elicits positive emotion and autobiographical memory recall.
著者
今村 展隆 GLUZMAN Daniel F. KLIMENKO Ivanovich Victor GULUZMAN Daniel Fishelevich GLUZMAN Dani KLIMENKO Iva 木村 昭郎
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

我々は非汚染地区であるビテブスク州(人口1,423,000名ベラルーシ共和国)においてリクイデーター(除染処理作業者)に高率の白血病発症を認めた。多数のリクイデーターが居住しているウクライナ共和国においても同様であった。更にドネエプロペトロフスク、ドネツク及びチャーコフ州に居住しているリクイデーター(各々 21,906, 26,503, 28,314名)と、それらの州における非被爆者男性に発症した白血病及び悪性リンパ腫の発症率を比較した。これらの州における白血病発症率は1986年のリクイデーター群において相対リスク3.02と非被爆者群と比較して高率であり、一方1987年のリクイデーター群では相対リスク1.05と低値であった。この差は1986年のリクイデーターに大線量被曝を受けた人々が多数存在している結果であり、白血病発症が線量依存性に発症している可能性を強く示唆している。悪性リンパ腫発症においても同様であり、1986年のリクイデーター群において相対リスク1.35とやや高率で、1987年のリクイデーター群は0.75と低率で白血病発症と同様に線量依存性である可能性を示唆するものと考えた。更に重要な事実は、原爆被爆者に発症した骨髄異形成症候群患者が白血病に進展する際にp53癌抑制遺伝子の突然変異を持っていた事実と同様に、検討し得た2例の急性骨髄性白血病にp53癌抑制遺伝子異常を認めた。放射線被曝によりDNAの突然変異が招来されたものと考えた。
著者
吉村 弘
出版者
広島大学
雑誌
廣島大學經濟論叢 (ISSN:03862704)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.7-31, 2009-11-30

本研究の背後にある基本的な考え方は、地域間人口移動は、地域の観点からは、市場メカニズムが十分に補償し得ない経済力「移転」の面をもつと考えることが出来るのではないか、ということである。もしそうだとすれば、地域間人口移動は地域間財政調整の根拠となり得る。このような考えに基づいて、本稿の目的は、平成7~12年の都道府県データにもとづいて、地域間人口移動に伴う地域間経済力の移転額を推計することである。その結果、地域間人口移動と公的移転(公共収入超過)の間にはほぼ正の比例的関係がみられ、人口純転入が大きければ公共収入超過も大きい傾向がみられ、逆は逆である。したがって、地域間人口移動の都道府県に与える影響を、地域の観点からみると、人口純転入(とりわけ20歳前後の若者の純転入)の大きい大都市圏に財政上有利な効果を与え、逆に地方圏に不利な効果を与える傾向がある。しかもその財政上の効果は、プラスの都道府県にとってもマイナスの都道府県にとっても無視できない大きな額である。The basic idea of this paper is that the inter-regional migration means not only "movement" but also "transfer" of economic power among regions from point of region. Here "transfer"means the movement or transaction that the market cannot deal with or compensate properly. Therefore the inter-regional migration is able to be a reason of redistribution of income or fiscal adjustment among regions.With this idea, the aim of this paper is to estimate the sum of "public transfer surplus"among prefectures arising from inter-prefectural migration based on 1995-2000 data in Japan. The public transfer surplus means the net receive (revenue for public service-cost of public service) from point of public sector. This public transfer surplus is equal to the net cost (payment to public sector-benefit from public service) from point of individuals.According to the estimation, we have the following results. (1)The amount of inter-prefectural migration is very different among pretectures, among ages and between men and women. (2)Per capita net cost from point of individuals has the grate difference among prefectures, among ages and between men and women. (3)The sum of "public transfer surplus"arising from inter-prefectural migration is plus at prefectures in urban area, on the other hand the sum is minus at prefectures in rural area. And the size of the sum is too large to ignore from point of prefectures.
著者
村澤 昌崇 椿 美智子 松繁 寿和 清水 裕士 筒井 淳也 林 岳彦 宮田 弘一 中尾 走 樊 怡舟
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究は,因果推論の勃興を契機とし,社会科学の半ば慣習的な統計分析が再考を迫られると認識した.そこで,従来は因果分析とされたが,厳密には因果推論ではない分析を仮に“説明”とし,その再定義,モデル評価,係数の解釈に関する新たな理論を構築する.この取組について、社会科学の方法論について深遠な議論を展開している専門家、心理学、経済学、統計科学、データサイエンスを代表する専門家と共同し議論を深めていく。併せて、新たな実験的調査を実施し、得られた情報に関して、新たな"解釈"の可能性を検討する。
著者
宮口 英樹 石附 智奈美 宮口 幸治 西田 征治 安永 正則
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

DSM‐5による発達性協調運動症(DCD)は、生活年齢における日常生活の諸活動を著しく妨害していると表記されるが、日常生活では多岐にわたる認知機能が要求されるため、身体運動を中心とした介入プログラムでは、日常生活活動の遂行能力を実際に改善するかどうか検証はされていない。そこで本研究では、認知機能トレーニングを包含した介入プログラムを独自に開発し、医療少年院入院少年のうちDCDを有する対象者に3ヶ月間10回実施した。効果検証は、日常生活活動の運動とプロセス技能を定量的に観察評価するAMPSを用い、介入前後で有意なスコアの改善が認められた。
著者
片山 春菜
出版者
広島大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2022-08-31

ブラックホールは,極めて重力が強いため光でさえ抜け出すことができない天体である.そのブラックホールに吸い込まれた物体の情報が消去されるのか保持されるのかは,ブラックホールの情報パラドックスとして知られ,相対論と量子論の理論体系の統一に向けた課題である.本研究では,超伝導量子回路上で創生された擬似的ブラックホールを用いて,量子情報科学的アプローチによってブラックホールの情報パラドックスの解明を試みる.
著者
鈴木 俊哉
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

第二年度に予定した作業内容はほぼ完了した。大徐本(岩崎本、平津館本、藤花シャ本原本、藤花シャ本中國書店影印本、陳昌治本、陳昌治本中華書局影印本、汲古閣通行本、汲古閣四次様本)・小徐本(述古堂本、汪啓淑本、祁シュン藻本)・段注本の対照表を作成し、これを漢字部品検索システムと連携させることで、前年度に作成した篆韻譜10巻本・5巻本対照表に岩崎本・述古堂本・祁シュン藻本を対応づける作業を効率化した。対照表の初版を完成させることができた。この対照表から、以下の知見が得られた。a) 旧説では10巻本には新修字はあっても新附字はないとされていたが、新附字が3字見つかった。b) 小徐本に有るが10巻本に無い字は118字、小徐本に無いが10巻本にある字は30字。したがって、脱落の規模は説文全体の1%程度である。篆韻譜10巻本の脱落がランダムに生じたとすると、400字近い新附字が殆ど無いことの説明は困難。c) 述古堂本・祁シュン藻本で違いがある場合、多くは10巻本と述古堂本が符合する。d) 現行の5巻本は二徐で違いがあるものを全て大徐に寄せているとは限らない。10巻本=小徐本のままで、大徐本と異なる場合もある。また、副次的な成果としてはデータベースの大徐本対照資料としての活用がある。ISO/IEC 10646では、台湾・中国から説文小篆を現代漢字とは別の用字系として追加する動きがあるが、どの版本が適切か、版本ごとに字形が違う場合の統合判断をどうするのか、また、選択した版本の避諱や誤字はどの程度クリーニングするのか、といった議論が不十分であった。これについては従来より指摘が続いたが、実際の対応表が無いため、議論が深まらなかった。本課題の検討材料として作成した大徐本対照資料を提出し、標準化の議論を深めることができた。
著者
田村 和之 来間 泰男 小田 清 高原 一隆 秋葉 節夫 岡本 篤尚 仲地 博
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、以下のようなことを明らかにすることができた。1.地方自治体に対して国が交付する在日米軍基地・自衛隊関連交付金等(基地交付金)は、補助率が高く、これを受ける地方自治体は基地交付金に依存する傾向が見られる。また、その算定にあたり国の裁量が働く余地があり、この仕組みは依存を昂じさせる。2.基地交付金は、これまで自治体の公共事業の実施に大きな影響を与えてきた。過疎地域の地方自治体がこの傾向から脱却することは容易でない。しかし、産業の発展している都市周辺部の自治体の基地交付金依存度はさほど大きくない。3.一部地域では、新しい基地公害(野生種絶滅の危険)などに基地交付金を対応させる必要が見られる。4.軍事施設・基地は、当該地域の産業や住民の生活に密着する限りにおいて地域経済の活性化効果をもつが、その施設の後始末、発生する公害等の処理を考慮すると、短期的な効果だけでみるのは問題である。5.基地と地域経済とは微妙なバランスをたもたせながらも、将来的には暮らし密着型の産業構造へシフトすることが求められる地域は少なくない。6.沖縄県では、復帰により経済の基地依存度は大きく落ちたが、近年、やや高めている。そのような中で、軍用地料が「相当に高い」という問題がある。このことが沖縄経済だけでなく自治体行財政にもゆがみをもたらしている。
著者
羽田 貴史 戸村 理 廣内 大輔 井上 美香子 田中 智子 蝶 慎一 福石 賢一 小宮山 道夫 荒井 克弘 渡邊 かよ子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

60-70年代における社会運動としての大学紛争研究と、大衆化段階における大学改革の研究を統合し、政府・学術団体・経済団体・大学・教授団・教職員組合・学生集団の織りなす複雑な政治過程として大学紛争を捉え、紛争を経た大学改革像を解明する。さらに、このことを通じて、大学の自主改革案の全体像と大学政策への反映を明らかにし、70 年代の大学改革を、単純な政府主導ではない新たな歴史像を提起する。また、経済社会の変容と大学の大衆化、青年の叛乱という同じ課題を抱えたアメリカ・イギリス・ドイツとの国際比較を行い、日本の紛争=改革の特殊性を明らかにする。