著者
黒澤 良輔
出版者
徳島文理大学
雑誌
徳島文理大学研究紀要 (ISSN:02869829)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.113-122, 2017-09-09 (Released:2018-04-18)
参考文献数
15

アメリカ精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引き(DSM-5)」によっていくつかの診断基準が変更され,「広汎性発達障害」は「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」となった。 本研究は,大学生における自閉症スペクトラム(Autism Spectrum:以下ASという),大学生活における支援ニーズ及びエンプロイアビリティ(雇用されうる能力)の関係について分析しようとするものである。 約200名の大学生に対して,AS質問紙,支援ニーズ質問紙,エンプロイアビリティ質問紙を実施し,得られたデータを因子分析及びクラスタ分析によって分析した。 その結果,(1)AS特性の高い者は,大学生活において困難を感じやすい,(2)AS特性の高い者は,エンプロイアビリティが低い,(3)AS尺度得点,及びエンプロイアビリティ尺度得点の組み合わせによって学生を5グループに分けることができ,AS特性が高くエンプロイアビリティが低い者は全体の約8%であることが認められた。
著者
高位 篤史 吉田 安奈 山崎 文香 河田 真之介 西川 彰 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0457, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 呼吸運動は胸腔の拡大運動によって行われており、中でも主要な呼吸筋として横隔膜が挙げられる。横隔膜は左右の横隔神経によってそれぞれ支配され、吸息運動における主動作筋として働く。また、安静時1回換気量の約70%を横隔膜が担うとされている。さらに、片側横隔神経切除により対側横隔膜の筋活動が増加すると言われている。そこで、本研究では横隔膜を支配している横隔神経の片側および両側を切除することで、横隔膜筋活動と呼吸機能との関係についてより詳細に把握することを目的とした。【方法】 10週齢のWistar系雄ラット8匹を使用した。ケタラールおよびセラクタールの混合液を腹腔内投与にて麻酔した後、頚部腹側にパルスオキシメータ(プライムテック社製)を装着し、末梢血酸素飽和度(SpO2)を測定した。また、頚部腹側を切開した後、気道挿管したシリコンチューブおよび気流抵抗管を差圧トランデューサー、コントロールボックス(日本光電社製)に接続し、呼吸流速を測定した。測定した呼吸流速波形から、画像解析ソフトを用いて1回換気量、平均呼吸流速、1回換気時間を算出した。また、左右両側の横隔膜に直径0.03mmのワイヤー電極を装着し、TRIAS筋電計(バイオメトリクス社製)を用いて横隔膜の筋電図を測定した。測定は、安静時、片側横隔神経切除時、両側横隔神経切除時について実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、畿央大学動物実験管理規定に従い実施した(承認番号22-1-I-220421)。【結果】 1回換気量は、安静時に比べ片側神経切除で約15%、両側神経切除で約30%の有意な減少が認められた。平均呼吸流速は、吸気では安静時に比べ片側神経切除後20%低下、両側神経切除後55%低下と有意な差が認められた。呼気では安静時に比べ片側神経切除後15%低下、両側神経切除後40%低下と有意な差が認められたが、吸気流速の方で低化率が大きかった。1回換気時間は、吸気では安静時に比べ片側神経切除で約20%、両側神経切除で約60%の増加が認められた。呼気では安静時に比べ両側神経切除で約30%の増加が認められた。また、呼吸流速波形は両側神経切除によって波形の平低化が観察された。片側横隔神経切除後における非切除側横隔膜の筋活動は、安静時に比べ約40%増大した。末梢血酸素飽和度(SpO2)は、安静時に比べ片側神経切除で約4%低下、両側神経切除で約9%低下と低下傾向がみられたが、有意な差は認められなかった。【考察】 横隔膜は左右の横隔神経によって支配されることから、片側横隔神経を切除した結果、1回換気量や吸気時の呼吸流速は低下し、それに伴い換気時間は増加した。さらに、非切除側の横隔膜においては筋活動量が増加した。以上のことから、片側横隔膜の機能が消失するともう一方の横隔膜で大きく代償することにより、換気量の大幅な低下を抑えることができると考えられる。両側の横隔神経を切除し、横隔膜の機能を完全に停止させた結果、1回換気量は大きく低下し、末梢血酸素飽和度は約9%低下した。このことは、生命を維持させるために肋間筋等の呼吸補助筋が強く活動したことによるものと考えられるが、横隔膜の機能を代償するほどの能力はなく、すべての測定項目において低換気の状態を示した。また、両側横隔神経切除により呼吸流速波形において平低化が観察され、横隔膜が呼吸活動における速度の変化に大きく関与していることが示唆された。このことから、横隔膜の障害によって、特に運動時など、十分な換気が必要となる際に努力性呼吸に対応することができなくなり、種々の身体活動における呼吸適応という側面でも重要な役割を担っているものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が呼吸分野に関わることは少なくなく、呼吸器疾患に限らず開胸・開腹術前後の呼吸理学療法など、理学療法としての重要性は広範囲にわたる。本研究は、呼吸活動に非常に大きく貢献している横隔膜について、その役割を基礎的な側面からより明確にするものである。今後、横隔膜の機能的知見についてさらに理解を深めるとともに、呼吸理学療法における治療法や運動指導について考察する際の一助となると考える。
著者
貝原 俊也 藤井 信忠 小林 広治
出版者
自動制御連合講演会
雑誌
自動制御連合講演会講演論文集 第54回自動制御連合講演会
巻号頁・発行日
pp.295, 2011 (Released:2012-03-09)

非線形計画問題のマルチエージェント形最適化手法の一つに市場指向プログラミングがある.しかし現実問題への適用を考えた際,決定変数に整数値を含む問題が多数存在し,従来の市場指向プログラミングの適用は困難であった.そこで本研究では,市場指向プログラミングにて整数値が扱えるように拡張することで混合整数計画問題へ適用を可能とする手法を提案し,その有効性を検証する.
著者
馬渕 浩司
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

琵琶湖の20m以深の深層には、比較的純粋に近い日本在来系統のコイの集団が生息することを、核ゲノムの解析により明らかにした。解析にあたっては、日本在来の系統とユーラシア大陸からの導入系統を区別できるような一塩基変異7つを核ゲノム中から見出し、交雑の解析に用いた。この7つのDNAマーカーはさらに、湖岸のある地点に産着されていた卵の解析にも使用し、その結果、この場所の産着卵の大部分は在来・導入両系統の中間的な交雑状態のものであることが判明した
著者
楠本 泰士 藤井 香菜子 林 寛人 高木 健志 網本 さつき 松田 雅弘 新田 收
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.181-188, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
21

【目的】痙直型脳性麻痺患者における日本語版Trunk Impairment Scale(以下,TIS)の信頼性と構成概念妥当性を検証することを目的とした。【方法】完成した日本語版TIS を用いて検者内,検者間信頼性は20 名で検討した。構成概念妥当性は69 名に対して,TIS と粗大運動能力分類システム(以下,GMFCS)との相関関係を調査した。【結果】検者内,検者間ともに級内相関係数は0.90 ~0.99 だった。検者内の最小可検変化量(以下,MDC)は,静的,動的座位バランス,協調動作,合計点の順に0.44,1.35,0.44,0.96だった。検者間のMDC は1.54,1.97,1.15,2.37 だった。GMFCS との相関係数は–0.63,–0.76,–0.30,–0.74 だった。【結論】痙直型脳性麻痺患者における体幹機能検査として,日本語版TIS は良好な信頼性があり,構成概念妥当性が支持された。
著者
髙村 清吾 高野 研一
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18834930)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.75-81, 2017

本研究は,過去の倒産企業に共通した組織風土を導き出すことを目的としている。このため,公開されたデータベースから,対象とする倒産企業76社を抽出し,企業倒産に至った根本原因(本源的な倒産原因)を突き止める「根本原因分析」を行うとともに,倒産原因の本源的な問題である経営者問題(倒産要因におけるハザード)を中心に,「数量化III類」を適用し,本質的な問題である経営者問題に関係する企業の組織風土について考察を行った。考察の結果,「傲岸不遜,士気低下,私利私欲」の経営者問題に係る「腐敗堕落」型の組織風土が倒産企業に共通する根本原因との結論に至った。
著者
山口 優一
出版者
農業・生物系特定産業技術研究機構野菜茶業研究所
巻号頁・発行日
no.3, pp.129-134, 2006 (Released:2011-03-05)

日本茶は伝統飲料であり,その生産・流通形態に他の加工食品と異なる特徴を有することから,比較的古くから官能検査法やそこで用いる審査用語が整備されている.茶の審査は,外観,香気,水色,渋味の4項目についておこなわれ,それぞれに審査用語が定められている.審査用語の多くは欠点項目を示すものであり,審査では欠点項目に基づき減点法で付点される.茶の客観的な品質評価方法としては,近赤外によるアミノ酸含量,タンニン含量の測定などが実用化されている.ただし,茶の滋味・香気と化学成分組成との関係についてはまだ不明な点が多いのが現状である.
著者
遠藤 由美 吉川 左紀子 三宮 真智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.85-91, 1991-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7
被引用文献数
4 1

When parents scold their children, they give various types of reproaching utterances to them.The purposes of this study were to find out the types of scolding utterances and to see whether same types of information were contained in them. At least1670scolding utterances of parents were collected from306fifth and sixth graders and 302 undergraduates, and were classified into 14 categories. Direct utterances such as ‘do this’ or ‘do not do that’ made about one third of the total data while the others were made of many types of indirect utterances (Study1).The analysis of the verbal reactions of the recipients showed that reactions depended on types of scolding utterances (Study2).It was suggested that vaious types of scolding utterances contained different types of information.
著者
松田 紀子 白木原 美紀 白木原 国雄
出版者
日本水産學會
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.8-14, 2011 (Released:2012-12-06)

天草下島周辺海域に周年定住するミナミハンドウイルカTursiops aduncusを対象としてイルカウォッチング船が群れの行動に及ぼす影響を調べた。陸上定点から群れの行動観察を行い,群れの位置をセオドライトで計測した。個体が間隔を詰めて同調的な潜水浮上を繰り返す時,ウォッチング船が1隻でも存在すると,不在時に比べて潜水時間が長くなり,浮上中の速度が増加した。4,5隻以上存在した時,潜水地点から浮上地点までの距離が増加し,浮上時間が減少した。群れに接近可能な隻数制限の導入が必要である。
著者
三浦 和 勝平 純司 黒澤 和生
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.683-687, 2014 (Released:2014-10-30)
参考文献数
16

〔目的〕ヒラメ筋の痙縮抑制に効果的な圧迫強度と時間を明らかにすることである.〔対象〕地域在住の慢性期の脳血管障害片麻痺者18名.〔方法〕H波,M波の閾値と最大値の測定をヒラメ筋に対し軟性サポーターを用いた5つの強度(0,20,30,40,50 mmHg)と3つの時間(1,3,5分間)の組み合わせで施行した.臨床で行われているヒラメ筋の6つの痙縮評価も実施した.〔結果〕麻痺側の脊髄運動神経興奮性は,非麻痺側と比較し有意な亢進を示し,これとクローヌス数の間に有意な相関が認められた.40 mmHgで5分と30 mmHgで3分での圧迫により麻痺側の脊髄運動神経興奮性は他の組み合わせと比較して有意に低値をみせた.〔結語〕これらの強度と時間の組み合わせでの圧迫は,ヒラメ筋の痙縮抑制の効果を持つ.
著者
江藤 正顕
出版者
九州大学大学院比較社会文化学府比較文化研究会
雑誌
Comparatio (ISSN:13474286)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.35-51, 2009

『復興期の精神』(注1)は、論文というより作品と呼ぶに相応しい、花田清輝の青年期から壮年期にかけての産物である。書かれたのは彼が三十代の頃であるが、若き花田の傲岸不遜とも見える自信の背後に、華麗にして繊細な相貌が潜んでいる。この作品は、方々にその毒を撒き散らしている。埴谷雄高、吉本隆明、三島由紀夫、澁澤龍彦というように、それが発するスペクトルは意外な方向へと散乱している。しかも、このととは、その細部に及び、陀田の文体、言い回しの癖のようなものまで、そこには見出せる。澁澤の初期の『神聖受胎』(現代思想社、一九六二年、サド裁判係争中)などは、花田の文章かと見間違うほどである。花田の表現内容そのものが、他者へ伝播するように伝わっている。もはや引用の意図もないところで、花田の語句が流布しているのである。この花田の文章のもつ感染力は異様である。これは案外、稀有なことなのかもしれない。おそらく、他の作家たちも、どこかで読んだことのある花田の文章を意識しないで書いているに違いない。むろん、盗作しているわけではない。花田には、このような同時代性、文体の協働性のようなものがあった。以下に、この花田の〈協働現象〉について論じてみよう。なぜか、同時代にある対象が降って湧いたように共通の話題になるということがある。なぜ、それがその時期なのか、ということがなかなか説明しにくい現象である。ブームと言ってしまえば簡単だが、まったく因果関係がないわけでもない。たとえば、小林秀雄「当麻」(初出は『文,学界』一九四二年四月)(注2)、花田清輝「楕円幻想」(初出は『文化組織』一九四三年一〇月)、太宰治「ヴィヨンの妻」(初出は『展望』一九四七年三月)、この三人は、戦中戦後にかけて、いずれもフランソワ・ヴィヨンと何らかの関係のある文章を残している。ここには、時代の潮流や傾向というものが映し出されているように思える。なぜこの時期に文学者たちが一斉にヴィヨンに言い及んだのか、ということである。戦中戦後のヴィヨン現象には何か理由があるのか。それとも互いを意識しての連鎖反応だったのか。「復興期」と呼ばれているルネッサンス時代、宗教改革時代といったものも、また日本ではこの頃、一種のブームのようにさかんに論じられた。多くの、けっして専門家ではない人までもが「文芸復興期」について語っている。野面宏がブリューゲルに材を採った「暗い絵」(初出は『黄蜂』一九四六年四月?一〇月)を描き、埴谷雄高が『フランドル画家論抄』(宇田川嘉彦の筆名、洗剤堂書房、一九四四年五月)を出版するなど、あるいは、もう少し時代が下って、美術史家の土方定一がドイツ・フランドル画家論集でレンブラントや、ヒ戯曲ニムス・ボスを取り上げ、前川誠郎がデューラー研究に進むなど、時代を挙げて、北方ルネッサンスの一大ブームであった。また、渡辺一夫都『ラブレー研究覚書』(白水社、一九四九年)、八代幸雄が『随筆レオナルド・ダ・ヴィンチ』(朝日新闘社、一九四八年)を出版するのも、広いパースペクテイヴで捉えれば、この時代、すなわち、第二次世界大戦前後のことである。(注3>花田の『復興期の精神』もそのような時代趨勢と無関係ではないだろう。花田が使った〈雀形期〉という言葉は、こうした意味でも、よく時代の柑を捉えているように思える。花田の描いたパースペクティヴは、これらの文入たちをも巻き込むように、昭和の戦前・戦後の時代を映し出している。
著者
奥田 和広
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.2-11, 2016-01-10 (Released:2021-01-29)

高校の教育現場で働きつつ古代文学の研究も行っている者の立場から、教材としての古典文学の可能性について考察した。一つは、古典知のコードを意識して読むことで構造と人間の問題を読み、考えうること。もう一つは、よりよい公共を問い続ける知を育成するために、物語の内容だけでなく表現や行為も読む能力を養い、教室という公共的空間を立ち上げ議論すること。これらによって学習指導要領の目標に掲げられた思考力や想像力を育成することが可能である。研究者は、それらに言及することで教育に参与することが求められているのではないか。
著者
曽我 昌史
出版者
日本精神衛生会
雑誌
心と社会 (ISSN:00232807)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.56-61, 2021