著者
竹木 幸恵 福田 雅臣 丹羽 源男
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.192-203, 1997-04-30
被引用文献数
3

う蝕予防を実践する際の重要な項目として,食事内容の改善があげられる.その場合,ショ糖摂取状況を把握することはう蝕の発生リスクを評価するうえで貴重な情報となる.このための方法としてアンケート調査が用いられてきたが,客観性に乏しい.そこでアンケートにかわるショ糖摂取状況の評価法として,唾液中の細菌の産生するショ糖分解酵素であるシュークラーゼに着目した.本研究では,唾液中シュークラーゼ活性の測定によるショ糖摂取状況の客観的評価を目的とし,男性65名,女性107名を対象に唾液中シュークラーゼ活性の測定条件の確立,およびショ糖摂取状況との関連性について検討し,以下の結果を得た. 1. 唾液中シュークラーゼ活性の測定条件として,全唾液1mlあたりショ糖100mgを添加し,37℃にて90分間のインキュベートが適切であった. 2. 採取直後および4℃にて24時間保存後の唾液中のシュークラーゼ活性を比較したところ,両者のシュークラーゼ活性に有意な差はみられないことから,保存唾液による測定も可能であった. 3. 唾液中シュークラーゼ活性は,各種食品のうちショ糖含有で,日頃習慣的に摂取される食品の摂取頻度と有意な相関が認められた. 4. 唾液中シュークラーゼ活性は,因子分析により細菌性因子および宿主性因子から独立した食餌性因子として抽出された.以上の結果から,唾液中シュークラーゼ活性はショ糖摂取頻度を反映しており,う蝕活動性試験として応用可能であることが示唆された.
著者
山中 明
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.169-172, 2001

第1章序論 生物は,地球上の環境に適応するため様々な多様性を進化の過程で獲得してきた。特に,動物界で種・個体数ともに圧倒的な数を占める昆虫の繁栄は,そのずば抜けた適応能力の多様性に他ならない。昆虫は変態や休眠という機構を持つ一方で,個々の形態や色彩をその環境や季節に適合させる機構を持つことにより,種多様性を保っていると考えられる。後者の発現調節機構も神経内分泌系が関与していると考えられているが,実体の明らかになったものは非常に少なく,分子機構などについてはまだ不明な点が多い。本研究では,最初にナミアゲハの環境適応機構(蛹および幼虫体色に関わる内分泌調節機構)および季節適応機構(成虫の季節型に関わる内分泌調節機構)について,続いて,カイコガ(大造)の季節適応機構についての解析を行った。第2章ナミアゲハの蛹表皮褐色化ホルモンの抽出とその部分的な特徴づけ ナミアゲハ非休眠蛹には,緑色および褐色の蛹体色が存在する。このような蛹体色の発現には,環境条件として,匂い,光,湿度のほか,蛹化する場所の性質(粗滑)が関係している。一方,神経内分泌学的研究により,褐色の蛹となるためには,脳で生産され前蛹期の後期に前胸神経節から分泌される褐色化ホルモンが関与していることが示唆されている。今回,ナミアゲハ前蛹個体の結紮腹部を用い,蛹表皮褐色化ホルモン(Pupal-cuticle-melanizing-hormone; PCMH)活性を定量化する生物検定方法の確立,ナミアゲハ緑色蛹の脳-食道下神経節一前胸神経節(Br-SG-PG)連合体からのPCMH抽出方法の検討を行い,更に,PCMHの諸性質を検討した。また,カイコガ成虫のBr-SG連合体からのPCMH活性物質の抽出も試みた。その結果,前蛹個体の結紮腹部を用いる生物検定方法により,PCMH活性を定量化することができた。この生物検定方法を用い,Br-SG(-PG)連合体を破砕し,5種類の粗抽出液画分を調製したところ,PCMHおよびPCMH活性物質は2%NaCl粗抽出液画分に抽出された。更に,諸性質を検討した結果,ゲル濾過クロマトグラフィーによりPCMH活性物質の分子量はおよそ3,000-4,OOODaであり,陽イオン交換体に吸着すること,C18逆相カラム樹脂に吸着し,26-34%アセトニトリル画分に溶出されることが分かった。第3章ナミアゲハの蛹体色に及ぼすホルモン因子の影響 前章より抽出が可能となったナミアゲハPCMHあるいはカイコガPCMH活性物質以外に,ナミアゲハ蛹体色の褐色化に作用する物質が存在するかどうかを調べるため,他の既知の昆虫生理活性物質が関与しているかどうかの検討を行った。実験に使用した昆虫生理活性物質は,幼若ホルモン,エクダイソン,フェロモン生合成活性化ペプチド(PBAN),カイコガ夏型ホルモン活性物質および幼若ホルモン様物質(メソプレン)であった。前章の生物検定方法を用い,蛹表皮褐色化の促進効果の影響を調べた。使用した昆虫生理活性物質は,ナミアゲハ前蛹の結紮腹部を褐色にする作用は認められず,カイコガPCMH活性物質のみが,蛹表皮の褐色化の促進をした。また,褐色蛹条件下のナミアゲハ前蛹腹部(無結紮個体)にこれらの昆虫生理活性物質を投与し,蛹表皮褐色化の阻害効果の影響を調べたところ,これらの昆虫生理活性物質は,蛹表皮褐色化を阻害する効果も認められなかった。以上より,ナミアゲハにおいて蛹表皮の褐色化の引き金となる物質は,PCMHであることが示唆された。第4章ナミアゲハ幼虫体液からのビリベルジン結合蛋白質の精製とその特徴づけ ナミアゲハ非休眠蛹体色には,緑色と褐色があり,また,幼虫期の体色は4齢までは黒色で5齢では緑色となる。これらの体色変化は,生育環境条件への適応であると考えられている。両生育段階における緑色の体色発現には,青色色素(ビリベルジン)が重要な役割を果たしていると考えられる。そこで,この色素を体内にとどめる働きをするビリベルジン結合蛋白質が,蛹期および幼虫期の体色発現においてどのような挙動をしているのかを捉える目的のため,ビリベルジン結合蛋白質(BP)の精製を試みた。5齢幼虫体液から,BPを,飽和硫安分画,ゲルろ過クロマトグラフィー,陽陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製した。精製されたBPの分子量は,SDS-PAGEで21kDa,ゲルろ過で24kDaと算出され,単量体であった。本精製蛋白質は,吸収スペクトルからビリベルジンIXを結合していることが示唆された。本蛋白質のN末端から19個のアミノ酸配列を決定したところ,オオモンシロチョウ(Pieris brassicae)のビリン結合蛋白質のN末端アミノ酸配列と42%の相同性を示した。これらの結果から,本精製BPは,insecticyanin型蛋白質であることが示唆された。第5章ナミアゲハの夏型ホルモン存在の証拠 ナミアゲハは,幼虫期の光周温度条件により2つの季節型(夏型と春型)が生ずる。夏型は,脳から分泌される体液性因子によって決定されると考えられている。
著者
石原 研治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.125, no.9, pp.717-723, 2005-09-01 (Released:2005-09-01)
参考文献数
36
被引用文献数
2 2

Eosinophils are one of the cells that play a critical role in the pathogenesis of allergic diseases. The increase in the number of eosinophils in such diseases is regulated by interleukin-5 (IL-5). The author have prepared recombinant rat IL-5 using a baculovirus expression system and examined its biological activities in rat eosinophils. It was demonstrated that recombinant rat IL-5 prolongs the survival of mature eosinophils and differentiates immature eosinophils into mature eosinophils, suggesting that rat IL-5 is a factor for eosinophilia in rats. Recombinant rat eosinophil-associated ribonuclease (Ear)-1 and Ear-2 were also prepared. Eosinophil granule proteins are thought to cause tissue damage due to their cytotoxic activity, but using recombinant rat Ear-1 and Ear-2, it was found that rat Ear-1 and Ear-2 have strong RNase A activity and bactericidal activity, suggesting that these proteins play critical roles in host defense. Finally, the important role of acetylation of histones was clarified in the differentiation of HL-60 clone 15 cells into eosinophils using the histone deacetylase inhibitors sodium n-butyrate, apicidin, and trichostatin A. These findings would be useful for further investigations of the role of eosinophils in allergic inflammation.
著者
手島 邦夫
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, 2001-09-29

幕末から明治初期にかけ新造語を多く生産した西周の訳語が,現在も多く用いられていることはよく知られている。本発表は,同時代の思想家や知識人の中で,なぜとくに彼の訳語が現在も多く通用しているのか,という点について考察したものである。発表では,西の主要な著作や翻訳書等から採った訳語の語種別の内訳,現在も通用の語の割合,訳語の出自についての分類,推定される新造語の数,さらに『致知啓蒙』での造語方法等について述べた上で,訳語の定着要因について考察した結果を述べた。定着の要因を,言語的要因と言語外要因(社会的要因)に分けた。まず言語的要因として,(1)訳語の的確さと近代性,(2)原語を示すルビつきの語の多さ,(3)訳語の意味や造語理由に関する自注の多さ,が挙げられた。(1)については,『明六雑誌』における同一原語の訳語の比較により,他の中村正直等の訳語より的確さや近代性において優っていることが確認された。(2)(3)については,そうしたルビや自注が読者の理解を助け,西周の訳語が広まっていくことに貢献したものと考えられた。言語外要因としては,(1)『哲学字彙(初版)』によって西の訳語が(とくに『心理学』から)多く採用されたこと,(2)西の訳語はその『哲学字彙』を経て『英和字彙(2版)』に採用されたことによって広められたこと,(3)アカデミズムにおける西周自身の権威が訳語の流通に影響を与えたこと,などを指摘した。(1)(2)については具体的な数量や訳語で示し,(3)については,東京大学における「哲学科」の設置とともに,西周が当時いかに尊敬され,そのことが訳語の流通に影響を与えたかということを文献により示した。これらの要因のうち,私見では言語的要因の(1)「訳語の的確さと近代性」が中心的な要因と考えられたが,発表後の質疑では,言語外要因(上では(3))の方が大きいのでないかというご意見を頂いた。また西周の造語方法や,「近代性」という語の概念についてもご質問があり,今後それらの問題点についてさらに考察していくこととしたい。
著者
山田 孝行 成瀬 央
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.1063-1070, 2001-06-01
被引用文献数
2

光ファイバ中に発生する後方散乱光の一つであるブリルアン散乱光の中心周波数と入射光周波数との差が, 光ファイバのびずみに依存することに着目した光ファイバひずみ計測器が開発されている.このブリルアン散乱光の中心周波数の計測には, ブリルアン散乱光のパワースペクトル分布の推定が必要であり, 分布推定精度の向上により中心周波数計測並びにひずみ計測精度の向上を期待することができる.本論文は, このブリルアン散乱光のパワースペクトル分布推定問題に着目し, 推定のための重み付き最小2乗法の繰返しアルゴリズムを提案した.また, 提案した繰返しアルゴリズムの安定性について検討するとともに, シミュレーションにより提案手法の有効性を明らかにした.
著者
太田 昌孝
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.44, pp.171-174, 2004-05-14
被引用文献数
1

Packet Division Multiple Access(PDMA)は、インターネットによるセルラー環境の構築に適した新たな通信パラダイムである。情報通信インフラがインターネットに集約されると、個別のデータはIPヘッダにより弁別できるため二重化、多重化はパケットIP単位のみで行えばよい。しかも、現状のベストエフォートインターネットでは通信量の変動が激しく上り下りの通信量も対象ではないため、従来のCDD/FDD/TDD/CDM/FDM/TDMのような(半)固定的な帯域割り当てでは多くの帯域が無駄になる。PDMAは、全セルで同じ伝送チャネルを共有し、通信時間をCSMA/CAによりパケット単位で完全に動的に割り当てようというパラダイムである。CSMA/CAにより、セルごとのチャネル割り当て設計は不要となり、複数の事業者が同じ伝送チャネルを共有した場合の調整も自動的に行われる。単純な解析では、CSMA/CAのオーバーヘッドを除けば、通信料が定常的な場合でもPDMAは(半)固定的な帯域割り当てと同程度の性能が期待できる。また、優先度制御などによりQoS保証を実現することも可能である。Packet Division Multiple Access (PDMA) is a new paradigm for cellular internetworking. As the Internet is becoming the only information infrastructure, data units can be identified by IP header only that duplex and multiplex can be performed packet-wise only. Moreover, with the current best-effort Internet, traffic varies very much and often and the traffic is asymmetric that (half-) fixed bandwidth allocation with conventional CDD/FDD/TDD/CDM/FDM/TDM wastes a lot of bandwidth. PDMA is a paradigm to share the same communication channel by all the cells and allocate communication time slot fully dynamically packet by packet using CSMA/CA. With CSMA/CA, channel assignment design for each cell is unnecessary and multiple providers can share the same communication channel with automated negotiation. With preliminary analysis, PDMA is expected to be as efficient as (half-) fixed bandwidth allocation paradigm, save CSMA/CA overhead, even if traffic is persistent and stable. It is possible to introduce QoS assurance with, for example, prioritization.
著者
坂本 健太郎 遠藤 小太郎 行本 正雄 武田 邦彦
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 = Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers. B (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.72, no.722, pp.2338-2345, 2006-10-25
参考文献数
24

The amount of woody biomass resources in Aichi Prefecture and Toyone Village was estimated on the basis of theoretical and actual production efficiencies. Five factors should be considered at the steady production of reduced carbon from carbon dioxide by sunlight in woods. The ratio of leaf to forest area, the reflection of sunlight on leaf surface, the conversion efficiency from the light energy, efficiency of optical system, and of dark reaction are 0.70, 0.82, 0.24, 0.31, and 0.92 respectively. On the other hand, four factors are in the timber production stage. The energy consumption loss for the daily life of woods, the waste at the forest, the thinner woods to main cutting production, and the thinning are 0.50, 0.47, 0.435, 0.44, respectively. The total efficiency was calculated and the result was 0.0023. Furthermore, near fiscal year 2000, primary energy consumption in Aichi Prefecture is 1.48×10^9 GJ/year, so it is 2200 times than the present production amount and 300 times the best theoretical production amount.
著者
〆谷 直人
出版者
北里大学
雑誌
北里医学 (ISSN:03855449)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.350-358, 1995-08-31
被引用文献数
1

血中CRP微量定量の臨床的意義を明らかにするために,non-radioisotopic immunoassayの一種である高感度測定装置を用い,我々が設定した成人年齢別の正常値に基づいて,各種病態における血中CRP低濃度域の変動について調べ,また他の急性相反応蛋白およびIL-6と比較検討した。成人においてCRP低濃度域ならびに異常低値を示す疾患としては,ホルモン産生腫瘍,乳癌・卵巣癌の一部などの女性の腫瘍があり,良性のものではSLEなどの膠原病に認められた。また,治療によりCRPは低下するが,ステロイド治療,ならびにホルモン剤投与症例では著明な低下が認められた。ステロイド1日投与量10mg以下ではCRPはほとんど変わらず,20mg以上で明らかに低下し,40mg以上では著明に低下した。ステロイド投与患者でCRP値が異常低値ないし低濃度域となる場合に,CRP値を1週間から10日間に2回程度経日的に測定し,CRP値の連続3回以上上昇した場合に,その上昇傾向から感染症合併の有無を判断する指標として有用であると考えられた。CRPは他の急性相反応蛋白およびIL-6の変動と比較し,ステロイド治療後CRPは顕著に低下するが,他の急性相反応蛋白は漸減する傾向が認められた。CRPの著減する機序についてはステロイドによる抗炎症効果とそれ以外の機序が考えられた。