著者
檀原 宏文 岡田 信彦 羽田 健
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Salmonellaの上皮細胞侵入性は、本菌が感染を成立させるための重要なビルレンス形質の一つである。本研究では、トランスロケーターとしてのSipCの疎水性アミノ酸領域の機能発現に対する重要性を明らかにするとともに、変異型SipCを利用したワクチン開発の可能性について検討し、以下の結果を得た。1)S.Typhimurium sipC変異株に野生型SipCを発現するプラスミドまたはSipC疎水性アミノ酸領域を欠失した変異SipCを発現するプラスミドを形質転換すると、野生型SipCではビルレンス形質を回復したが、変異SipCではビルレンス形質を回復することができなかった。2)疎水性アミノ酸領域での溶血活性に関与する機能的なアミノ酸を、PCRを用いたランダム変異導入法によって分離同定し、得られた点変異型SipC-S165Pを用いて、ビルレンス形質への影響を明らかにしたところ、Sipc-Sl65Pは、sipC変異株のビルレンス形質を回復できなかった。3)精製したSipC-Sl65P-FLAGを、HeLa細胞の培養液中に加え、共焦点顕微鏡で観察したところ、SipC-S165P-FLAGの細胞膜への挿入まみられなかった。次に、pFLAG-sipCおよびpFALG-sipC-S165Pを発現するSalmonella野生株を、Hela細胞に感染させ、宿主細胞内に挿入されたsipCの局在を調べた結果、sipc-FLAGは、細胞膜画分に局在するのに対して、sipC-s165P-FLAGの膜画分への局在はみられなかった。4)ストレプトマイシン処理マウス(C57BL/6,♀,8週齢)を用いて、各変異のSipC機能への影響をin vivoで検討した結果、野生型SipCを相補したsipC変異株のみ、野生株と同様に盲腸粘膜での炎症反応が惹起された。以上のことから、SipCの疎水性アミノ酸領域はSipCの機能発現に重要であり、また、165番目のセリンは、SipCが宿主細胞膜へ挿入するために必要なアミノ酸であることを明らかにした。現在、ストレプトマイシン処理マウスを用いた感染モデルを用いて、Sipc-S165Pがワクチン成分として感染防御機能を持つかどうか検討中である。
著者
ディーター トゥールース
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

有害化学物質による環境汚染は、人間の健康に大きな影響を及ぼしうる。微生物を用いて有害物質を無害なものに変換する技術はバイオレメディエーションとして知られており、こうした環境汚染に立ち向かう方法として有用である。より効率的なバイオレメディエーション法の開発に役立てるため、環境中で対象物質の分解を行う微生物を特定する新規な手法の開発を行った。開発された手法は高い感度と特異性を持つことが示され、さまざまな環境における分解者を特定することが可能であることがわかった。
著者
赤木 泰文 小笠原 悟司 竹本 真紹 藤田 英明 佐藤 之彦 市川 修 深尾 正 数乗 有
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

現在,高エネルギー加速器研究機構が中心になって計画を進めている大型ハドロン計画(JHL : Japan Hadron Facility)の50GeV陽子加速器には55MWの高性能・大容量の電磁石電源が必要となる。この電磁石電源は,電磁石電流が0〜5kA,有効電力が+55MW〜-55MW,周期約4秒で激しく変動する。しかも陽子加速器はひとたび実験に入ると,昼夜を問わず2,3週間の連続運転が行われる。このような連続した激しい電力変動は,周囲の配電系統だけでなく上位の電力系統に種々の障害を引き起こす恐れがあるため,電力変動の抑制を目的とした電力補償装置の設置が必要不可欠となる。本研究では,加速器電磁石電源の電力変動を抑制する交流励磁フライホイール発電機システムの開発を目的としている。具体的には理論解析とコンピュータシミュレーションをベースに,7.5kW実験システムを設計・製作し,交流励磁フライホイール発電機システムの有効性を実証しようとするものである。本研究の成果は,以下のように要約することができる。1.立型フライホイール発電機を設計した。次に,交流励磁用PWMコンバータ・インバータを設計・製作し,7.5kW実験システムの基礎特性を評価した。2.交流励磁フライホイール発電システムの新しい制御法として,交流電動機ベクトル制御と非干渉制御を融合した制御法を開発し,その有効性を実験によって確認した。3.交流励磁フライホイール発電機の直流偏磁現象を実験的に検討し,直流偏磁を抑制する新しい制御法を開発した。さらに,その有効性を実験によって確認した。
著者
設楽 宗孝 水挽 貴至 松本 有央
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

視覚認識視覚認識において確率共鳴現象がどのような条件で起こるかどうかを調べるために、サルに逐次型遅延見本合わせ課題をトレーニングするための実験制御装置を作成した。ここで、ノンマッチ刺激およびマッチ刺激、背景にはランダムドットノイズを加える。ノイズ量と視覚認識の反応の早さとの関係を調べるために、サルのこの課題のトレーニングを行っているところであるが、ヒトで予備的検証を行ったところ、5%ノイズ程度のところで反応時間が最も短くなり、ヒトでも同様のプロセスがあることが考えられた。
著者
藤井 恵介 川本 重雄 平山 育男 溝口 正人 後藤 治 上野 勝久 大野 敏 藤川 昌樹 光井 渉 大橋 竜太 加藤 耕一 角田 真弓
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

日本建築史の分野において、従来の建築様式史を批判的に検討し、それがもはや現在においては必ずしも有効ではないことを確認した。そして、新たな研究領域が拡大しつつあることを確認して、日本・東アジアの木造建築を対象とする、新しい建築様式史を提案する必要があることを認識した。この5年間で、新しい建築様式史を構築するための基礎的検討を行ったが、具体的な作業は、建築史の全分野、建築史以外の報告者を得て開いたシンポジウムにおける討論を通じて実施した。その記録集10冊を印刷して広く配布した。
著者
人見 勝人 中島 勝
出版者
龍谷大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

“生産(モノ造り)"は、人間生活の基盤、国富の形成、そして世界平和のために欠かせない社会的基本活動と考察し、現今のモノ造り状況が、製品飽和、設備過剰、工業空洞化、工場現場忌諱、資源枯渇、環境破壊などの難点・ジレンマを抱えていることを指摘した。それを克服し、これからのモノ造りの秀麗性を高揚する概念・21世紀へ向けた普遍的生産原理として、“[社会的]マニュファクチャリング・エクセレンス([Social]Manufacturing Excellence)"(生産美学)を定義し、提唱した。マニュファクチャリング・エクセレンスを具象的に遂行する基本的方策として、自動化生産(FA/CIM)、人間尊重生産、高付加価値生産、環境調和(グリーン)生産を論じた。現在の資本主義体制下の企業の過当競争でひきおこされている過剰生産、使い捨て浪費(アメリカ的文化)、そしてまだ使用可能な物品の大量廃棄による天然資源の枯渇、自然環境の汚染、ひいては地球破滅と人類滅亡を防ぐためには、仏教・道教で教える「知足」(吾唯足ルヲ知ル)の精神・原理に基づく、各企業の“社会的適正生産(Socially Appropriate Manufacturing)"の考え方を提起する。つまり、これまでの“大量(過剰)生産・大量消(浪)費・大量廃棄"型から“知足生産・知足消費・極少廃棄"型への企業・個々人、そして国家・世界の変容をうながす。この「社会的適正生産」のあるべき姿としては、最底限の性能を持つ独創性に富む完璧な製品の開発、最長寿命を保証した部品・製品の使用、資源と部品の再利用・リサイクルの考慮と極少廃棄、最底限利益の企画を論議した。
著者
RATCLIFFE Robert 益子 幸江
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,アラビア語モロッコ方言において見られるGeminate(重子音)について,言語学的・音声学的調査を行うことを目的としている.音声学的な重子音は日本語にも存在し,促音と撥音の一部がそれであるが,これと同様のものがアラビア語モロッコ方言にも存在する.しかも,日本語では語中の位置でしか現れないが,モロッコ方言では語頭,語末の位置でも現れる.18年度にモロッコ国内での調査を行い,男性2人,女性2人の計4人から言語資料,音声資料および映像資料を収集した.その音声資料を,音韻論的に分析し,さらに,音声表記を行った.また,サウンドスペクトログラフを用いてGeminate(重子音)の持続時間を計測した.結果は以下のとおりである.1) ほとんどすべての子音がGeminate(重子音)を持つ.2) 音韻論的には,Geminate(重子音)は語頭,語中,語末のいずれの位置にも現れる.3) 語頭では,摩擦音や鼻音などのような続けられる子音の場合はGeminate(重子音)の方が長い.4) 語頭では,続けられない子音である破裂音や破擦音の場合はGeminate(重子音)であっても持続時間は変わらない.5) したがって,音韻論的なGeminate(重子音)はかならずしも音声学的なGeminate(重子音)ではない.現在,語中と語末の位置のGeminate(重子音)についての分析を進めている.その結果では,語中の位置でのGeminate(重子音)は続けられない子音である破裂音や破擦音でも,その閉鎖区間を長くすることができるので対立を保っているように見え,語頭の位置の場合のように中和してはいないと考えられる.この分析を進めて行くと同時に,語頭の位置での現象については更なる検討が必要であり,そのためには聴取実験のような新たな研究手法を使う必要が出てきそうである.
著者
遠藤 ゆり子
出版者
弘前学院大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

近年の村落成立論を踏まえ、戦国時代から江戸時代にかけて、東北地方に展開していた村落の関係史料を収集した。その上で、従来、東北地方は小百姓層の経営が未発達な後進的地域であるため、村落が成立していないとされてきた研究に再検討を加えた。また、大名の滅亡・改易といった戦争状態における村の動向を考察することで、大名の滅亡・改易の実態を明らかにするとともに、その際に様々な問題が生じていた意義を追究した。
著者
渡部 一郎 長門 五城 三浦 雅史
出版者
青森県立保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

リハ治療では、疾患や障害に合わせ、運動強度や物理療法の種類や強さを設定する。近年開発された毛細血管顕微鏡観察装置では非侵襲的に毛細血管血流速度が定量化できる。この臨床的意義を検討した。健常人の手指冷水負荷後毛細血管血流速度は皮膚温の改善とともに上昇した。姿勢保持や介入困難な脳性麻痺症例では障害側手指の毛細血管血流速度低下を認めた。糖尿病では毛細血管の狭小、変形などの形態学的異常と、有意の毛細血管血流速度低下が示された。糖尿病の有酸素運動では、毛細血管血流速度が改善し微小血管循環の治療への有用性が示された。
著者
中田 和一 横山 尚志
出版者
青森大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

積雪空港のローカライザアンテナへの着雪の影響についてスケールモデルを用いた実験とFDTD法による解析を行い、着雪時のLPDAアンテナ特性をシミュレーションによって評価できることを確認した。また、降雪状況や地形を考慮することでコース特性を解析するシミュレータの開発を行い、青森空港での積雪時のコース変動事例を評価できることが確認された。
著者
鷲見 哲也
出版者
大同大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

主に現地調査を通して、河道の砂州を横断して河川水から河川水へ復帰するような水交換現象では、その水温形成、特にその水温安定化作用を評価ときには伏流水面上部の土被り厚さが重要な要素であることが明らかになった。また交互砂州を持つ河道での水交換現象は、砂州を通じての水平方向水交換と、河床の鉛直水交換が組み合わさった形での交換が全体像を形成し、河床間隙やわんど・たまりの一次水域の生息環境形成において本現象の重要性が示唆された。
著者
IZUMO Takeshi (2009) SWADHIN K.Behera (2008) IZUMO Takeshi
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究では、観測データ(現場観測データ、衛星観測データ、再解析データ)や様々な階層の数値モデル(浅水モデルから高解像度大気海洋結合モデルまで)の結果の解析により、インド洋・太平洋熱帯域の気候変動の理解を進め、地域的な気候変動の予報精度(特に降水の季節内変動から十年スケール変動の予報精度)の向上を目指した。このような予報は、インド、アジア、アフリカ・モンスーンの影響を受ける発展途上国の人々にとって、重要である。当該年度の研究では、特に、エルニーニョ/南方振動とダイポールモード現象の関係について画期的な研究成果が得られた。エルニーニョ/南方振動には、太平洋熱帯域が暖かいエルニーニョの状態と冷たいラニーニャの状態が、不規則に存在し、世界各地の社会経済活動や環境に大きな影響を与える。しかしながら、エルニーニョ/南方振動を予報することは、いまだに困難である。一方、インド洋にも経年変動するダイポールモード現象が存在し、西インド洋熱帯域が暖かくなり、東インド洋熱帯域が冷たくなる現象を正のダイポールモード現象と呼ぶ。本研究では、負(正)のダイポールモード現象は、エルニーニョ(ラニーニャ)の14ヶ月前の良い予報になることを初めて示した。そして、ダイポールモード現象は、秋季のウォーカー循環を強化するが、11月から12月にかけて急速に減衰することにより、太平洋の東西風偏差を急に衰弱させるため、エルニーニョ/ラニーニャを発達させることが明らかとなった。
著者
大沢 真理
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

日本経済の停滞,貧困と社会的排除の広がりが,「男性稼ぎ主」型の生活保障システムの行き詰まりによるものであることを,国際比較分析により明らかにし、経済・社会の閉塞状況から脱却するうえでの方策を示唆した.さらに,日本やアメリカの生活保障システムの機能不全ないし逆機能が,世界的な経済危機を招いたことを探り当てた.これは,最近注目されているグローバル社会政策論にたいしても,新たな視角を提示するものである.
著者
狩野 智洋
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

中世ヨーロッパに存在したベギンと呼ばれる半僧半俗の女性達の一人であるメヒティルト・フォン・マクデブルクの『神性の流れる光』の思想的、社会的背景を探ることを目的とした。ベギンは11世紀に始まった教会改革に端を発した中世の宗教運動の流れの中で生まれ、病人の看護や死者のための取りなしの祈りを神に捧げることを重要な仕事としていた。メヒティルトの『神性の流れる光』は個人の魂を「キリストの花嫁」と見る考え方に立ち、自らの神秘体験や聖俗両界の人々に対する警告や励まし等が述べられているが、そこには彼女独特の内容と並び、他者からの少なからぬ影響も見られる。
著者
久住 一郎 伊藤 侯輝 豊巻 敦人 橋本 直樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

北海道内の精神科医療機関初診患者において初診患者(16-30歳)157名を対象に精神病発症高リスク状態(ARMS)患者の有病率を検討したところ、25名(15.9%)であった。統合失調症の病態に関係する生物学的マーカー(中間表現型)として、社会認知の基盤となるbiological motion(BM)知覚、自発的な意思に関わる遂行機能(スイッチング課題)、作業記憶過程(Sternberg課題)における事象関連同期が有用であることを見出した。
著者
杉山 孝一郎
出版者
山口大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度には、大質量星(太陽の8倍以上の質量)の形成メカニズムを解明するため、大質量星形成領域W75 North (W75N)に付随する6.7GHzメタノールメーザのVLBIデータ解析に着手した。W75NのVLBI観測は、大学連携VLBI観測網(JVN)を用いて2008年10月、および2010年8月に行われ、その2観測間での固有運動(視線方向に垂直な方向への運動)検出に成功した。W75Nのメタノールメーザは空間的には南北方向に伸びた楕円状の湾曲構造を示しており、その楕円上に直線的な視線速度の勾配が見られた。これは単純な回転円盤モデルに良くフィットし、その中心質量は約8太陽質量と算出された。今回検出出来た固有運動は、反時計回りの回転運動を示しており、視線速度情報を加えた3次元速度情報に対して膨張/降着運動を伴う回転円盤モデルを用いた3次元モデルフィットを行った。その結果、誤差の範囲内で膨張/降着を伴わない単純な回転運動をしていることが明らかになった。これは視線速度のみに対するフィッティング結果に矛盾していない。この結果は、形成中の大質量原始星の周囲に回転円盤が存在し得ることを強く示唆しており、形成現場の回転運動を固有運動として直接的に検出出来た希な観測例となる。さらに、他の大質量星形成領域からJVNを用いて検出された固有運動(Cepheus A:降着+回転運動、Onsala 1:膨張運動)との違いの要因についても議論した。原始星周囲のダストや電離ガスなどから検出される電波連続波放射と空間的に重ね合わせることで、運動の違いは大質量原始星の進化段階の違いで良く説明できることがわかった。これにより、多数のメタノールメーザ天体で同様な固有運動計測を行うことにより、大質量原始星の進化をメーザの運動として捉えられることを示すことが出来た。これらの研究の一部は、査読論文"Sugiyama et al. (2011), PASJ, 63, 53"としてまとめ発表した。
著者
座古 保
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

近年アルツハイマー病に代表される、ミスフォールディングタンパク質が凝集することが原因で引き起こされる疾病が社会的問題となっている.本研究では生体内でタンパク質凝集を抑制する働きをしている分子シャペロンタンパク質の1つであるプレフォルディンがアミロイドβタンパク質やポリグルタミンタンパク質などの疾病タンパク質凝集にどのような働きをしているかを調べたところ、凝集が抑制されることを見出した.
著者
八田 勘司 堀川 悦夫 藤田 君支 佐藤 和子
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、長期療養施設における高齢者に非薬物療法としてのユーモアセラピーを用いて、心身の活性化を図り、ユーモアセラピーの効果を明らかにすることである。さらに、プログラムや実施上の留意点などを検討しモデルを開発することである。本年度は、総合保健施設の通所サービスを利用している高齢者で、調査に同意の得られた「ちんどんセラピー」介入群(18名)、非介入群(対照群)12名を分析対象とした。平日の午前中に、ちんどん屋を専業としている協力者による「ユーモアセラピー」(演奏、口上、大道芸、踊りなど30分間)を行った。介入前後に採血を行い、神経系、内分泌系、免疫系の変化を分析した。気分評価には5段階尺度を用いた。また、ちんどん屋によるユーモアセラピー中の表情・行動の変化を分析するため、同意の得られた患者6名にビデオ撮影を行った。対照群は別の日の午前中に2回採血を行い、介入群と比較検討した。その結果、介入群では、βエンドルフィン値、アドレナリン値、ノルアドレナリン値が介入前と介入後の間で有意に高値を示し、コルチゾール値は有意に低下したが、NK細胞活性は有意な差は認められなかった。対照群では、2回のそれぞれの値に有意な差はみられなかった。気分評価は実施前と実施後で快の方向に有意に変化した。プログラムの面白度では、「玉すだれ」が最も高く、踊りの場面で笑顔が多くみられた。ちんどん屋による「ユーモアセラピー」は、ちんどん太鼓やゴロス、トランペットなどの楽器で生演奏を行い、場内を練り歩くプログラムで構成されている。賑やかでリズミカルな音楽、大道芸、盆踊り等を行うことは、交感神経系を刺激して適度な緊張状態に導き、心身の活性化につながると考えられる。ちんどん屋による「ユーモアセラピー」での楽しい笑いは、高齢者の気分を高め、神経・内分泌系に影響を与えて、高齢者の健康増進に役立つ可能性が示唆された。プログラムは音楽と大道芸と踊りの三要素で構成し、楽しい雰囲気を作ることが重要である。
著者
大崎 人士
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

正則ACツリーオートマトン(regular AC-tree automata)の葉言語(leaf-languages)を表現する正則可換文法(commutative regular grammar)は、線形算術制約および正数ベクトル加算系(non-negative vector-addition systems)と等価な表現力を持つ(Parikh1966他)。本研究では、正数ベクトル加算系の定義を、整数(正値、零、負値)から成る座標系上に拡張した場合、それに対応する可換文法が満たすべき代数的性質を解明する。本研究の主な成果は、可換クリーニ代数の公理系に新たな演算子i と6つの公理を導入し(i-可換クリーニ代数と呼ぶ)、i-可換正規文法は、整数ベクトル加算系と等価な表現力を持つこと、正則可換文法、線形算術制約、正数ベクトル加算系の同形関係は、整数制約上へ自然に拡張可能であることが示せたことである。
著者
森山 廣思
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

フラーレンC60は高い電子親和性を持ち、容易に電子を受け取ることによってフラーライドと呼ばれるアニオンとなる。本研究ではフラーライド系結晶を有機固体薄膜の界面制御に応用し、その新規分子素子としての機能解明を目的に、フラーライド分子結晶を構成要素とする自己組織化超薄膜を作製し、構造物性相関を調べた。さらにフラーレン誘導体をn型半導体とする有機薄膜太陽電池への応用を図り光電変換効率などの物性を評価した。